土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度) Ⅵ-209 橋梁マネジメントシステム(NEXCO−BMS)を活用した維持管理計画検討 ㈱高速道路総合技術研究所 正会員 ○後藤 昭彦 ㈱ネクスコ東日本エンジニアリング 誠司 大澤 1.はじめに NEXCO-BMS(Bridge Management System,以下 BMS)は,道路アセットマネジメントを実現するため,NEXCO で 導入されている橋梁マネジメントシステムである.道路アセットマネジメントとは,道路を資産ととらえ,道路 構造物の状態を客観的に把握・評価し,中長期的な資 産の状態を予測し,道路構造物を計画的にかつ効率的 劣化 の進行 健全な 状態 に維持管理するものである.BMS では橋梁を構成する 各部材の健全度を定量的かつ客観的に評価し,劣化機 構毎の長期的な劣化予測を行い,LCC(ライフサイクル コスト)を最小とする最適な補修工法と補修時期を算 定することが可能である.橋梁の劣化状態を表す指標 としては,変状グレード(Ⅰ∼Ⅴ)を用い,経年による 劣化し ている 状態 機能低下を劣化曲線として表し,図-1 に BMS の変状 構造物の性能 対策の 変状 方向性 グレード 劣化の進行が見ら 経過観察 れない Ⅰ 劣化は進行してい るが、耐荷性能は 予防保全 低下していない Ⅱ 劣化がかなり進行 しており、耐荷性能 主に補修 の低下に対する注 (補強) 意が必要である Ⅲ 耐荷性能が低下し ており、管理限界 に達する恐れがあ る Ⅳ 補強 耐荷性能の低下が 大規模 深刻であり、安全 対策 性に問題がある グレード区分と劣化要因毎の劣化曲線の例を示す. 劣化予測に基づく構造物の状態を示す劣化曲線 凍結防止剤に よる塩害 中性化 飛来塩分によ る塩害 【BMSで対象とする劣化機構】 1.中性化、2.飛来塩分による塩害、3.RC 床版の疲労、4.凍害、5.化学的侵食、6ア ルカリ骨材反応、7.鋼橋の疲労、8凍結 防止剤による塩害、9.端部、10.不明 Ⅴ RC床版の疲労 経過年数 供用開始年 本報文は実際の供用道路において,BMS を活用した 維持管理計画の策定手法について検討事例を報告する 図-1 BMS の変状グレードと劣化曲線 ものである. 2.BMS による LCC 比較と劣化推移 NEXCO で管理する供用道路のうち,地方部の一般的な環境を有する一定区間(供用後約 20 年経過)を事例に, BMS による劣化予測及び LCC 比較シミュレーションを行った.シミュレーションはより実態に則したものとする ため,点検による現状の健全度評価を行うとともに,現在までの劣化進行分析による劣化曲線を作成し,45 年間 を想定し実施した.比較ケースは劣化が進行してから補修を行う(グレードⅣ以内を維持)事後保全と,劣化が 進行する前に補修を行う(グレードⅡ以内を維持)予防保全のそれぞれについて行った. 図-2 に LCC 比較結果,図-3 に事後保全の劣化グレード推移を示す.初期においては事後保全が予防保全を下 回っているが,事後保全は将来的には大規模な補修が多く必要となり,一般的に言われているように予防保全が 経済的となる結果となった. 100% 1,600,000 90% 事後保全 1,400,000 70% 1,000,000 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 60% 予防保全② % 事後保全② 800,000 600,000 50% Ⅱ 40% 30% 400,000 Ⅲ 20% 予防保全 200,000 Ⅳ 10% (変状グレードⅡ以内を維持) 0% 図-2 2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030 2032 2034 2036 2038 2040 2042 2044 2046 2048 2050 2052 2054 2054 2052 2050 2048 2046 2044 2042 2040 2038 2036 2034 2032 2030 2028 2026 2024 2022 2020 2018 2016 2014 2012 0 2010 補修費(千円) Ⅰ 80% (変状グレードⅣ以内を維持) 1,200,000 年 シミュレーションによる LCC 比較 図-3 年 劣化推移予測(事後保全) キーワード 橋梁マネジメント,BMS,維持管理計画,LCC,劣化予測 連絡先 〒194-8508 東京都町田市忠生 1-4-1 ㈱高速道路総合技術研究所 TEL042-791-1943 -417- 土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度) Ⅵ-209 3.BMS による劣化傾向分析 上記シミュレーション結果をもとに,現状の劣化状況,劣化機構及び将来の劣化状況,劣化機構の分析を行っ た.これにより橋梁が置かれている環境条件により卓越する劣化機構を把握することが出来,今後重点的に対策 すべき劣化機構・原因を特定することが可能となる. 変状グレード内訳グラフ(2010年) 変状グレード内訳グラフ(2055年) 中性化 5 4 3 2 1 0 中性化 5 4 3 2 1 0 図-4 に評価開始価年(2010 年)と評価期間末(2055 年)の IC 区間別の変状グレードと劣化傾向を示してい 端部 る.現況では変状が現れていない部材においても,凍 結防止剤散布などの環境要因の影響により,コンクリ 鋼橋の疲労 ート橋桁端部劣化及びコンクリート床版の塩害劣化が 端部 飛来塩分による塩害 飛来塩分による塩害 鋼橋の疲労 RC床版の疲労 RC床版の疲労 凍結防止剤による塩害 凍結防止剤による塩害 顕著に進行すると予想される.このため,定期点検に おいては桁端部及び床版上面損傷などに着目して行う 部材数(上部工):32連 部材数(下部工): 91基 A IC B IC 必要があること,予防保全として,伸縮装置からの漏 供用開始年:1987年 大型車交通量: 1,045台/日 凍結防止剤散布量:21t/㎞ 水防止などの桁端対策,床版防水工などによる床版対 策が有効であることなどが明確となり,効率的,効果 的な維持管理計画の策定することが可能となる. 図-4 劣化傾向分析結果 4.BMS データの維持管理計画への活用 BMS では最適な維持管理計画を策定することが可能であるが,補修補強工法及び対策時期が劣化予測に基づき機 械的に算出されるため,対策時期が集中する場合がある.効率的な補修計画を策定するに当たっては,実際の補 修工事をイメージした費用及び事業量の平準化を検討する必要がある. このため,BMS より策定された最適な補修計画について,目標とする維持管理方針(目標とする変状グレード 維持)の方針を変えず,前後に補修 補修費:810百万円 1,000,000 補修費:925百万円 1,000,000 900,000 時期の振り分けを行い,補修費用の 800,000 800,000 補 修 費 (千 円 ) 600,000 平準化 を実施 400,000 600,000 500,000 400,000 300,000 示すが,今回の事例では平準化によ 200,000 り,BMS での最適 LCC に比べ約 15% 0 200,000 100,000 2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030 2032 2034 2036 2038 2040 2042 2044 2046 2048 2050 2052 2054 の費用増の結果となった. 0 2010 2012 2014 2016 2018 2020 2022 2024 2026 2028 2030 2032 2034 2036 2038 2040 2042 2044 2046 2048 2050 2052 2054 図-5 に平準化前後の LCC 比較を 補 修 費 (千 円 ) 700,000 平準化を図った. 年 年 図-5 また,実際の補修工事においては,BMS より算出され A管理事務所 橋梁修繕中期計画実施リスト(A自動車道 A IC∼B IC) た補修工法が採用できない場合もあり,施工条件を考慮し た補修工法及び工事計画を検討,策定する必要がある. 劣化傾向分析結果 A高架橋 A IC 年度 管理目標 RC RC PC PC RC RC ME ME B橋 C橋 RC アーチ アーチ D橋 RC RC ME ME E橋 RC RC RC RC F橋 B IC PC箱 PC箱 具体的には対策橋梁の場所,対策工法及び工事の発注規 模を考慮し,発注計画を立てる必要がある. 平成23年度 Ⅲ: 8%未満 A高架橋桁端補修工事 図-6 に BMS シミュレーション結果及び事業計画平準化 平成24年度 平成25年度 に基づく橋梁補修計画の策定事例を示す.また,実際には 劣化予測によらない部分的な小補修及び点検費用などが必 要となるが,BMS で策定した基本計画にその他の費用を組 み合わせることにより,より具体的な維持管理計画を策定 平成26年度 Ⅲ: 4%未満 Ⅲ: 1%未満 B橋他1橋桁端補修工事 Ⅲ: 1%未満 平成30年度 Ⅲ: 1%未満 平成31年度 Ⅲ: 1%未満 平成32年度 Ⅲ: 1%未満 平成33年度 Ⅲ: 1%未満 E橋 桁端補修工事 A高架橋桁端補修工事 A高架橋 床版防水工事 A高架橋 桁端補修工事 A高架橋他1橋桁端補修工事 D橋桁端補修工事 平成34年度 することが可能である. 図-6 補修計画立案事例 5.おわりに BMS を活用することで,道路アセットマネジメントを実現するための効率的,効果的な保全計画の検討・策定 を支援する強力なツールになり得るものと考える.今後は健全度評価や劣化予測,補修補強の効果と費用等の精 度向上を図ることにより,より高度な利活用が可能になると考える. 以 -418- 上
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