高血糖を伴わないジカルボニルストレスは糖尿病で観察されるものと同様

The Journal of Biological Chemistry, 2014, March
Targeting of Receptor for Advanced Glycation End
Products Suppresses Cyst Growth in Polycystic
Kidney Disease
RAGEを標的とすることは多発性嚢胞腎における嚢胞の増殖を抑制
する
2015/06/01
M2 瀧井靖歩
多発性嚢胞腎とは
 両側の腎臓に多数の嚢胞が形成される遺伝性の病気。
 常染色体優性遺伝によって発症する。
 腎機能が低下するだけでなく、高血圧などの合併症の原因にもなる。
正常な腎臓
多発性嚢胞腎
一般財団法人 全国社会保険共済会HPより
多発性嚢胞腎の発症メカニズム
 尿細管径の調節に関わる
PC(Polycystin)-1,2 を コ ー ド
す る 遺 伝 子 、 PKD1 、 PKD2
の異常により正常な尿細管
が形成されず嚢胞を生じる。
PC1
PC2
尿細管上皮細胞
Ca2+
CaM
CaM : Calumodulin
ADC : Adenylate Cyclase
PDE
ADC
PDE : Phosphodiesterase
ATP
cAMP
PKA
ERK
細胞増殖
ADPKD.JPより
AMP
RAGEについて
RAGE
 AGEs の受容体として発見された、膜貫通型レセプター。
 AGEs以外にも内因性のタンパク質もリガンドとして認識する、パターン認識受容体。
 リガンド結合により、炎症やアポトーシスなど様々な反応を誘導する。
RAGE ligand
 AGEs (Advanced Glycation End Products)
還元糖とタンパク質などのアミノ基の反応により生成する。
ex. CML (CML (Nε-carboxy(methyl)lysine)
CML
O
C
HN
還元糖
+
タンパク質
AGEs
OH
Lys
 non-AGEs ligand
内因性のタンパク質や核酸などで、RAGEのリガンドとして作用するもの。
ex. HMGB-1 (High Mobility Group Box 1) 、S100ファミリータンパク質
CH2
背景と目的
 多発性嚢胞腎モデルマウスの腎臓において、RAGEとRAGEリガンドであるs100ファミリー
タンパク質発現が増加する。
(Am J Nephrol, 2010)
 多発性嚢胞腎モデルマウス由来の線維芽細胞において、s100ファミリータンパク質刺激に
よるp-ERKの増加が、RAGEノックダウンで抑制される。
(Am J Nephrol, 2010)
 3次元培養したMDCK細胞による嚢胞形成が、RAGEノックダウンにより抑制される。
(Am J Nephrol, 2010)
 pkd2(-/-)マウスにヒトPKD2遺伝子を導入することで、胎生致死性が改善する。
(Journal of Biological Chemistry, 2009)
新たに作成した多発性嚢胞腎モデルマウスにおいて、RAGEノックダウンにより
多発性嚢胞腎が改善されるかを検証した。
shRNA導入によるRAGE遺伝子発現の阻害
RAGEに対するshRNAをアデノウイルスベクターを用いてWT9-12細胞に導入し、RAGE発現
量を評価した。
※WT9-12細胞 : 多発性嚢胞腎患者の腎臓上皮細胞由来の細胞株
shRNA導入によるRAGEノックダウンが確認された。
RAGEノックダウンが細胞増殖に与える影響
shRNA導入72時間後、
(C) XTT assay により、細胞生存率を評価。
(D) トリパンブルー染色により、総細胞数を測定。
RAGEノックダウンにより、細胞増殖が抑制された。
多発性嚢胞腎モデルマウスの作成
マウスpkd2遺伝子(+/-)のマウスと
ヒトPKD2遺伝子トランスジェニックマウスを交配し、
pkd2(-/-)かつPKD2(+)のPC2Rマウスを作成
PC2Rマウスにおいて多発性嚢胞腎の発症が確認された。
PC2RマウスにおけるRAGEノックダウン
PC2Rマウスを用いて、6、8、10日齢で尾
静脈からanti-RAGE アデノウイルスを
導入。
その後、12、15、17日齢で腎臓における
RAGEタンパク発現を評価。
PC2Rマウスにおいて、anti-RAGEアデノウイルス導入によるRAGEノックダウンが確認された。
PC2RマウスにおけるRAGEノックダウン
anti-RAGEアデノウイルス導入後、15日齢PC2Rマウスの腎臓における(C) RAGE mRNAお
よび(D) タンパク質発現を評価した。
anti-RAGE アデノウイルス導入による、腎臓でのRAGEノックダウンが確認された。
RAGEノックダウンによる嚢胞形成の抑制
PC2Rマウスにおいて、
(A) 腎臓組織切片の観察
(B) 体重・腎臓重量の測定
(C) 腎機能マーカーの定量
を行った。
BUN : Blood Urea Nitrogen
RAGEノックダウンにより、嚢胞形成の抑制および腎機能の回復が確認された。
RAGEノックダウンによる部位別嚢胞形成の抑制
PC2Rマウスの腎臓組織を、
集合管マーカータンパク(DBA)
近位尿細管マーカータンパク(LTA) に対する抗体を用いて免疫染色した。
遠位尿細管マーカータンパク(THP)
RAGEノックダウンにより、全ての部位で嚢胞形成が抑制された。
RAGEノックダウンによる細胞増殖の抑制
PC2Rマウスの腎臓組織を、PCNA (Proliferating cell nuclear antigen)抗体を用いて免疫染
色した。
RAGEノックダウンにより、嚢胞における細胞増殖が抑制された。
RAGEノックダウンによる細胞増殖の抑制
PC2Rマウスの腎臓組織を、
(C) p-ERK抗体で免疫染色した。
(D) RAGEのシグナル伝達経路に 関連するタンパク質の
発現およびリン酸化を評価した。
RAGEノックダウンにより、炎症・増殖に関するシグナル伝達が抑制された。
まとめ
 多発性嚢胞腎モデル細胞株において、RAGEノックダウンによって細胞増殖が抑制された。
 多発性嚢胞腎モデルマウスPC2Rマウスにおいて、RAGEノックダウンによって
• 嚢胞形成の抑制
• 腎機能低下の抑制
が認められた。
• 嚢胞における細胞増殖・炎症関連の遺伝子発現抑制
RAGEは多発性嚢胞腎治療の新たなターゲットとなり得る。
今後は、soluble RAGEの投与や、endogenous soluble RAGE発現を上昇させ
ることが多発性嚢胞腎に与える影響を評価する。
RAGEリガンドについて
AGEs
CML
還元糖とタンパク質などのアミノ基の反応により生成する。
生体内に最も多いのはCML (Nε-carboxy(methyl)lysine)
還元糖
+
タンパク質
AGEs
O
OH
C
HN
CH2
Lys
non-AGEs ligand
HMGB-1 (High Mobility Group Box 1)
p53やNF-κBなどの転写因子の機能発現に関わるDNA結合タンパク質。
マクロファージや壊死細胞から放出され、RAGEやTLRのリガンドとして作用する。
S100ファミリータンパク質
脊椎動物に特有のタンパク質。カルシウム結合ドメインを持ち、細胞内カルシウ
ムイオン濃度を一定に保つバッファーとして働く。
Amyloid-β
アルツハイマー病の原因となるタンパク質。