第 66 回レピゼミの報告 2015 年 4 月 4 日 と き:2015 年 3 月 14 日(土)午後 1 時 30 分~ 場 所:京都大学人間・環境学研究科研究棟 333 号室 参加者:23 名 1.ボルネオ島低地熱帯林に生息する Pharambara sp. (Thyrididae)の寄主植物利用様式 清水加耶(京都大学) オオバギ Macaranga(トウダイグサ科)は自身の体内にアリを住まわせるアリ防 衛植物で,一般的には食植生昆虫にとって利用しにくいと考えられる.しかし,マ ドガ科 Pharambara 属の一種の幼虫が Macaranga の葉を食害する状況は頻繁に観察 されるという.Pharanbara はどうやってアリ防衛を回避しているのかを調べてみる と,幼木や新葉を避けることや(アリは成木よりも幼木を,古い葉よりも新葉を熱 心に防衛する),何らかの事情でアリ防衛が弱まった木を利用することによって, Pharanbara は Macaranga の摂食を達成しているとのことである. 2.アトモンミズメイガ属(ツトガ科)の種の地理的分布-屋久島で得られたアマミア トモンミズメイガ- 吉安 裕 アマミアトモンミズメイガ Nymphicula yoshiyasui Agassiz,2002 は台湾と奄美大島 から記録されている.最近,形態や習性からアマミアトモンミズメイガとしか思え ない蛾が屋久島で採集されたという.八重山や沖縄島から記録がないのに,渡瀬線 (東洋区と旧北区を分ける境界線とされる)を越えるのは,生物地理学的に素直な 分布ではなく,興味深い話である.今後,近縁種も含めた分子系統仮説を得て,こ の変わった分布の説明を試みるとのことであった. 3.ノメイガはじめました~フェロモン・系統・生活史 中 秀司(鳥取大学)ら 害虫蛾類の防除方法として有名なフェロモントラップ(♀がいるふりをして♂を だまして引きつけて一網打尽にする方法)であるが,なぜかノメイガ類を相手にす ると不発に終わることが知られていた.その理由を究明するために,多くの種のノ メイガのフェロモン成分を調べたところ,従来の学説に反する事実が次々と得られ たという.例えば,既知の代謝系では生産が難しい成分が含まれていたり,一部の 派生的な系統を特徴づけるとされていた成分が含まれていたりといった具合だそ うである. 「はじめました」という控えめな演題の割に,「思ってたのと違う」という生物 学研究の醍醐味を感じさせつつ,けっこう先の段階まで見通しがついていると感じ させる,不思議な講演だった.演題が芸人 AMEMIYA の「冷やし中華はじめました」 のパロディだと気付けた人は何人いたのだろうか. 4.ボルネオ島低地フタバガキ混交林における果実食性昆虫に関する研究-果実を餌資 源として利用する小蛾類- 浅野 郁(京都大学) 東南アジアの熱帯林には,系統を異にする複数種の植物が同調して開花結実を起 こす,一斉結実という独特の事象が見られる.この現象の生物学的意義は,結実を 不規則にすることで種子食者の個体数を低くとどめ,種子食者の個体数が低い状態 で大量の種子を生産することによって,食害されない種子数を増やして,繁殖成功 の見込みを上げることにあるとされている.この説明は「捕食者飽食仮説」と呼ば れる.ボルネオ島では,2013 年と 2014 年に,偶然に連続して一斉結実が起きた. そこで, 「捕食者飽食仮説が正しければ,種子食者の密度は 2013 年<2014 年になる はず」という見込みのもとで調査を行ったところ,種子食者(ゾウムシ,キクイム シ,小蛾類)の密度は 2013 年<2014 年であることが多く,おおよそ期待どおりの 結果が得られた.すなわち,捕食者飽食仮説の妥当性が支持されたとのことである. 5.琉球列島から発見されたサラノキヒメシンクイ Andrioplecta shoreae について 駒井古実(大阪芸術大学)・富永 智 沖縄島からヒメハマキガ亜科のサラノキヒメシンクイらしき蛾が得られ,幼虫の 生活ぶりも観察できたという(沖縄島以外に,石垣島と与那国島で確認されている). この種はヒメハマキガ亜科でも幼虫が捕食性を示す種を含む系統に属し,沖縄島の 個体もガジュマルキジラミ Macrohomotoma galadiata の食害による枯死葉のほか, キジラミ幼虫を捕食している疑いがあるそうである.また,従来,この種は東南ア ジアに分布するとされており,沖縄島の個体には,東南アジアの個体とは若干の形 態的差異が認められるそうである.さらに,琉球での発見場所が市街地に限られる ことから,移入種の疑いもあるという. 6.日本産ヤママユガ科蛹の cremaster と繭の関係 町島佳幸(放送大学) 日本産ヤママユガ科の 11 種すべてについて,蛹の cremaster の刺毛(突起)と繭 の関係を調べたところ,網目状の繭をつくる種では cremaster の刺毛が棘状で左右 に分離しており,他の繭構造の種では cremaster の刺毛が鉤状か棘状,または cremaster の刺毛を欠くという傾向が見られたそうである.この傾向は,照葉樹林帯 の種と落緑樹林帯の種という区別と一致するという.また,cremaster の刺毛の起源 に関して,従来の説の妥当性に疑いが生じているそうである. 7.Wanted: Phyllocnistis citrella on citrus fruits? [ミカンコハモグリは本当に果実に潜る のだろうか?~食痕を探して!] 大島一正(京都府立大学) 文献情報では,ミカンコハモグリは果実の表層に潜行することもあるとされてい る.しかし,この種の蛹化習性を考えたとき,この情報を信じきるわけにはいかな い.最近,ミカンコハモグリの被害果実とされるものを実見した発表者は,「これ はミカンコハモグリではなく,北米で果実表層の潜行者として知られる Marmara が,こっそり日本にもいるのではないか」という疑いを持ち始めたとのことで,捜 査協力を求めていた. (以上 杉島一広) 紹介 1. 日本初記録のメスハリオガ科について 那須義次 日本から初記録となるメスハリオガ科 Urodidae の新種がスミソニアン博物館 にある一色コレクションの日本産標本をホロタイプとして,2014 年に記載され た. Wockia magna Sohn, 2014 のホロタイプ(長野県扉温泉) 2. 越野コレクションの整理に参加して 那須義次 2013 年に急逝された越野誠一郎氏の蝶と蛾のコレクションが大阪府立大学の 昆虫学研究室に寄贈された.このコレクションの整理を 2014 年 12 月に行った. 7263 個体と少ないが,非常にきれいな標本が多く,小蛾類も充実しており,す ばらしいコレクションでした. 以上簡単ですが報告します. 報告の大部分は杉島一広さんに書いてもらいました.会場の手配設営および懇親会で は,京都大学の市岡孝朗さんと浅野 郁さんにお世話になりました.ありがとうござ いました. お知らせ 第 67 回レピゼミの事前案内 採集会を兼ねて開催します.みなさまふるってご参加ください. と き:2015 年 6 月 27 日(土)~28 日(日) 場 所:奈良県曽爾村 詳しくは後日案内します. (那須義次)
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