来年に生誕100年を迎える井上有一。美術関係者以 外からも国際的な再評価が進んでいる。いま、井上 に、井上に詳しい各界の著名人に手紙形式で寄稿 有一という芸術家を再認識して足跡を振り返るため してもらう。 15 71 69 35 浅葉克己 60 76 57 50 撮影:操上和美 あさば・かつみ 1940年神奈川県生まれ。西武百貨店「おいしい生活」 、サントリー「夢街道」 、 武田薬品「肉体疲労にAじゃないか」 、キリンビバレッジ「日本玄米茶」パッ ケージデザインなど。日宣美特選、東京TDC賞、毎日デザイン賞、日本宣 伝賞・山名賞、日本アカデミー賞最優秀美術賞、紫綬褒章、東京ADCグラ ンプリ、旭日小綬章など受賞歴多数。桑沢デザイン研究所10代目所長、東 京造形大学・京都精華大学客員教授。卓球6段。 58 アートディレクター なる展覧会には、出来る限り参加した。 で漢字の求道者として出演した。ディレクターの 井上有一さま。 森信潤子さんからオープニングシーンはどこにし 1995年NHKの新春バラエティ、ミラクル 漢字ワールド「不思議的漢字之宇宙」という番組 る井上有一の会」に名をつらねて 年は経つと思 ますかと問われ、香港の看板街を歩く浅葉克己の 生誕100年ですね。随分遠くへ行かれてしま いましたね。海上雅臣さんが主催する「生きてい います。 白川静博士宅を訪問して、甲骨文字、台湾で買 ったという骨に刻まれた文字を読んでいただいた。 シーンから……その通りになった。 渋 谷 店 の イ ベン ト、 「 未 来 の ア ダ ム 」 展 で し た。 やはり書家としては井上有一さんに登場してもら 有一さんに最初にお目にかかれたのは高橋睦 郎さんが中心になって開かれた、西武百貨店の 1985年4月 日〜5月7日まで各界の目立つ 訪ね、信州小諸の立派な倉庫に眠る井上有一作品 いたかった。海上さんに相談して、軽井沢の家を と対峙した。巨大な作品が一点一点ていねいに整 人が選ばれている。金子國義、熊谷トキオ、龍林仁、 モン、そして井上有一、A館7階の美術画廊。有 理されていた。 田原桂一、坂茂、日比野克彦、吉田カツ、四谷シ の凄さを示してくれた。僕はカタログ制作とパー 一さんは「上」の一文字、緊張感があり、書道界 ティの司会をしていた。井上さん「上」の一文字 ションをしてみたりした。 「鳥」の一字をお借りし 僕は「月」の一字の前に立ち有一さんだったら こんな風に筆を走らせたに違いないと思い、アク はすばらしいと声をかけた。井上さんは肝臓が痛 今年は、デザイン生活 年、卓球生活 年、書 道生活 年になる。 ーんといって見とれている後姿。 て、外に出て大きな木につるしてみた。浅葉はう 会場は若者でいっぱいだった。 いと言って、壁に座り込んでしまった。心配だった。 出品者にひと言ずつ、挨拶をしていただいた。 座り込んでいた有一さんが立ち上がり、 「私は癌で すから、これからガンガン行きます」と大声を発 一匹狼の井上有一さんの涙を感じ、展示されてい 偲ぶ、 「狼涙忌」には南池袋の法明寺に足を運ぶ。 かったが、毎年、命日近くの土曜日に有一さんを それから、6月 日に息を引き取ったと海上雅 臣さんから電話いただいた。葬儀には出席できな 上がった。 フィックの表現は筆を持つところから入らねばな は退会したが、筆を毎日持ち続けて、 年。グラ 卿の臨書から入り、全臨も何点も書いた。九楊塾 入門して、楷書、王羲之、褚遂良、欧陽詢、顔真 ィを極めるには書の力が必要だと感じ、九楊塾に 代における文字表現のシンポジウムに参加。浅葉 1994年に品川のO美術館で「踊る文字、弾 む活字─現代における文字世界」展に出品し、現 る「上」の一字を見ると、その凄さが全身に伝わ らぬと強く思っている。そして対極には、いつも 克己、石川九楊、松岡正剛と語る。タイポグラフ って来る。海上さんから「生きている井上有一」 生きている井上有一が居る。 した。 「上」の一字とこの言葉、会場は一気に盛り 40 20 52 72 73 60 10 1916年下谷二丁町に生まれる。 年青山師範学校卒、横 川尋常小学校訓導。 年3月 日東京大空襲で仮死。 年 書家としてスタート。 年書壇と絶縁し墨人会結成。 年 サンパウロ・ビエンナーレ展出品。 年ブリュッセル万博記 念展「近代美術の 年」日本代表。 年代にかけ海外展出 品多数。 年神奈川県寒川町立旭小学校校長、 年定年退職。 年6月 日肝硬変で急逝、 歳。没後京都国立近代美術 館を始め全国公立美術館巡回回顧展。ドイツをはじめスイス、 アメリカ、近年では文字発祥の地、中国各地で大規模な展覧 会が開かれる。文献「井上有一全書業」全三巻(海上雅臣編 /ウナックトウキョウ) 、 「井上有一臨顔氏家廟碑」 (上海学林 出版社) 、評伝井上有一(海上雅臣著/ミネルヴァ書房)等。 85 20 のポスターや『日々の絶筆』の装幀。膨大な数に 「上(jô)」1984年 ボンド墨、和紙 143×182cm 京都国立近代美術館蔵 20 45 50 25 15 拝啓 井上有一 第一回
© Copyright 2024 ExpyDoc