第 67 回レピゼミの報告 2015 年 7 月 11 日 第 67 回レピゼミの報告を送ります.今回は,採集会を兼ねたので,採集会等の報告は宮 野昭彦さんに,ゼミの概要は坂上洸多さんにお願いしました.また,小林茂樹さんには宿 や夕食等の手配およびご両親からは地ビールの差し入れがありました.厚く感謝申し上げ ます. 実施日:2015 年 6 月 27・28 日 場 所:奈良県宇陀郡曽爾村 曽爾高原(宿泊:サンビレッジ曽爾) 参加者:12 名(順不同)船越進太郎,吉安 裕,阪上洸多,佐藤宏明,小林茂樹, 那須義次,広渡俊哉,屋宜禎央,富沢 章,武藤 愛,吉田芽生,宮野昭彦 1. 採集会等の報告 奈良県で採集する機会が滅多にない私にとって,今回の採集会はとくに待ち遠しかった. あいにく鉛色の梅雨空が続き,前日には落石により県道 81 号(名張曽爾線)が不通となっ て気をもむ出だしとなる.電車組は急遽近鉄榛 原駅に変更して集合し,東名阪道で上野から向 かう岐阜組は御杖村経由の迂回路を予定した. 幸い当日になって交通止め解除の連絡を小林 さんからいただき,無事宿舎に到着した.寒い くらいだったが幸い雨は降っていなかったの で,簡単な自己紹介のあと地元の小林さんを先 頭に 9 名で屏風岩方面に出かけ採集会を行った (写真 1).チビガ科やモグリチビガ科,ホソガ 科など超ミクロ種のマインの採集方法などを 実地に教えていただく.マインでさえがよく見 えないほどの極めて小さなもの(写真 2)で, 近寄りがたい分野ではなかろうか.帰りがけに 武藤さんがムラサキシャチホコの幼虫が見た いというので,少しホッとする.青蓮寺川沿い のオニグルミの木は伐採されていて幼虫は見 つからなかったが,ここで記念撮影した(写真 3). ログハウスに戻りビール片手に風呂へ.ちょ うど表でキャンパーが牛スペアリブを焼いて いたので肴に一切れいただき,かじりながら熱 1 い風呂に浸かって缶ビールを飲む.遅れ て入って来られた飲んべえ氏はしきり に「体に一番ワルーい.」とおっしゃる が,きっと羨ましかったに違いない.心 の中で「ヤーイ,ヤーイ」をつぶやく. 夕食には小林さんのご両親から地ビー ル(写真 4)が差し入れられ,盛大に乾 杯! その後は老若男女入り乱れて夜 更けまで蛾談義に花が咲いた.ベランダ にセットしたライトトラップにはギンモンスズメモドキやヒョウモンエダシャク,フタス ジヒトリなどが来ていたが,私はウスグロツトガを 1 頭採集しただけ.その後,男性 10 名 は雑魚寝で就寝. 翌日は昼前まで研究発表会を行った.私には理解困難な内容も含め 5 題の発表があり, 熱心な質問が出ていた.その後,清々しい晴天となった香落渓谷(写真 5)で採集会を行っ た.そそり立つ柱状節理の下を捕虫網やナイロン袋を持って歩いたが,こんな環境は初め てでどんな蛾類相なのかが大いに気になった.右岸を往復して散会.参加された学生さん たちは,どなたも知識が豊富で驚きました.これからのご活躍を楽しみにしています. 今回のレピゼミでは採集会の案内や宿舎・食事の手配などをしていただいた小林さんは じめ,世話役の佐藤さん,那須さん,研究発表をしていただいた方々,参加された皆様に 厚くお礼申し上げます. (宮野昭彦) 2. 6 月 28 日のゼミの概要 ①曽爾村の自然と小蛾類 小林茂樹(大阪府立大学) 今回の採集会が行われた曽爾村は演者の小林さんの生まれ故郷であるとともにフィ ールドでもあり,独特な自然環境に囲まれている.草原である曽爾高原,火山活動でで きた柱状節理と呼ばれる切り立った岩肌が特徴的な曽爾三山(兜岳,鎧岳,屏風岩), 2 曽爾〜名張にある切り立った渓谷の香落渓谷などがある.また,曽爾村がタイプ産地の ネコヤナギコハモグリ,クヌギチビガ,ハンノキチビガ,フタリシズカコハモグリ,ウ コギオビギンホソガを始めとしてムジヒカリバコガやマエモンコバネなど魅力的な小 蛾類も多く記録されている.そんな曽爾村だが,近年シカ,サル害が深刻であり,スギ の植林地を雑木林に整備する動きがあるようである. ② 日本産メスハリオガ科 Urodidae について 那須義次・宮野昭彦 メスハリオガ科 Urodidae は,6 属 70 種以上からなり,ヨーロッパ,北米,中南米,東 南アジア,韓国から記録されているが日本では未記録の科であったが,Sohn 氏が 2014 年に,スミソニアンの一色コレクションの日本産標本および韓国産をもとに新種 (Wockia magna)を記載した.そこで演者の那須さんが蛾屋さん界隈に呼びかけたところ, 宮野さんが採集されていたネマルハキバガ科の Blastbasis に似た未知の蛾が本種である のが見つかった.本種の幼虫はヤナギ類の外部摂食者である.また,似ている成虫の Blastbasis との区別点は口吻が鱗粉に被われないことであり,今後も要注目である. ③ 英彦山におけるライトトラップボックス法を用いたガ類調査 屋宜禎央(九大院・農・昆虫) 昆虫類は環境指標として有用であるが,特にガ類は種数が多く,寄主範囲が狭い上に, 多様な食性を持ち,ライトトラップによって容易にたくさん得られるという点において 環境指標として有用であると考えられた.そこで,多様な植生環境を持つ英彦山を調査 地として,植生ごとのガ類群集の違いを解明するとともに,現在の英彦山のガ類の生息 状況を調べるという目的で調査を行った.調査はライトトラップボックス法で大ガ類を 対象とし,類似度 Qs,重複度 Cπ を算出し,幼虫の食性で分けて分析した.その結果, 地点ごとに異なる群集となることが示され,山頂付近は木本食(シャチホコなど)が多 いか草本食(モンヤガなど)が多い地点だったのに対して,山麓では地衣類食(コケガ など)が多いことがわかった.また,希少種としてハネブサシャチホコやヒメキイロヨ トウ,エチゴハガタヨトウなども得られ,ガ類にとって良好な環境が残っていることが 示された. 3 ④ カササギの巣の昆虫 広渡俊哉(九大院・農・昆虫) 鳥類の巣にはさまざまな昆虫が生息しており,それらは巣内の残物の分解者,清掃者 として重要である.そしてその巣内共生系の解明のためにスズメ,ツバメ,フクロウ, コウノトリなど様々な鳥の巣において昆虫相調査が実施され,鱗翅目ではヒロズコガ 科,メイガ科,マルハキバガ科の 3 科 14 種が記録されている.また,鞘翅目,膜翅目, 双翅目でも多数の種が記録されている.このたび,2013 年に 2013 年に回収されたカサ サギの巣から 13 種 286 個体の昆虫の発生が確認された.ハネカクシ科,ハナカメムシ 科,アシブトコバチ科の,鳥類の巣から初めて記録される種も含まれている.昆虫の種 構成は一部がフクロウ類,カワウなどと同じだったが,共通種は少なかった.今後とも データの蓄積が期待される. ⑤ 昆虫-寄主植物関係決定因子特定へ向けたデータベースからのアプローチ 武藤愛(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科) 植食性昆虫は,植物の発する特定の化学物質を受容して産卵し,また,幼虫は消化酵 素によって寄主植物の化合物を消化して生育する.このような特定の化合物質に対する 識別能,代謝能は遺伝情報によって決定されている.本研究では,昆虫の種とその寄主 の対応のデータベースと植物由来化合物に対する酵素反応のデータベース,昆虫の遺伝 子配列のデータベースを用いることで,昆虫の化学物質の識別能と代謝能を決定してい る遺伝子がどの配列なのか有力な候補を示せるというものである.昆虫化合物と植物化 合物より植物由来化合物を代謝する新規反応を予測し,新規反応と類似の反応を触媒す る既知酵素を既知酵素配列データベースより導き,酵素より遺伝子の候補を導くという 手法が考えられている. (坂上洸多) ●次回第 68 回レピゼミは,2015 年 12 月 19 日か 26 日の土曜日昼から,大島一正さんのお 世話で京都府立大学にて忘年会を兼ねて開催予定です.発表,ご参加をお願いします.詳 細は決まり次第,ご連絡します. ●第 69 回レピゼミは,2016 年 3 月に開催される,昆虫学会と応用動物昆虫学会の小集会と して,幅広い参加の下に開催する予定です. (文責:那須義次) 4
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