ダイバーシティ・マネジメントは 流行か、それとも経営の

リポート2
リポート 2
ダイバーシティ・マネジメントは流行か、それとも経営のニーズか
5000
社員に意義を理解させるには「当社
千人︶
ヘイ・コンサルティング・グループ シニア・コンサルタント 大高美樹
現地法人の従業員数
なのか、それによりビジネス上何を実
にはどのようなダイバーシティが必要
200
4000
150
3000
なストーリーが必要である。
「ダイバー
2000
るのでは」という漠然とした期待だけ
100
50
現地法人の売上高
本稿では日本企業のダイバーシティ・マネジメントへの取り組みの実態と課題について明らかにする。
250
兆円︶
ここ1、2年の間にダイバーシティ・マネジメントを導入した企業が急増している。
これは一過性の流行か、あるいは日本企業がグローバル化していくために避けて通れない経営課題であるのか。
︵単位
ダイバーシティ・マネジメントは
流行か、それとも経営のニーズか
図1 海外現地法人の売上高と従業員数の推移
︵単位
日本企業の取り組みとその実態
現したいのか」という自社独自の明快
シティを推進すれば何かいいことがあ
で立ち上げると、ダイバーシティ推進
1000
に取り組むこと自体が目的化してしま
い、かえって効率を悪化させる可能性
0
97年度
98年度
99年度
00年度
01年度
02年度
03年度
04年度
05年度
06年度
0
経済産業省「第37回海外事業活動基本調査結果概要確報」
を基に作成
がある。
以降は、より具体的に日本企業のダ
イバーシティ・マネジメントの取り組
エか、総論か各論かにより主張が異な
雇用形態の違いがある。高齢者雇用安
業員数の推移を示している。10年間
社内で真剣な議論がなされていない。
ることもある。組織一丸となって自社
定法の改正や、派遣や契約など雇用形
おおむね伸び続けているが、特に従業
質問を投げかけても「少子高齢化に伴
のダイバーシティ・マネジメントを経
態の多様化などに伴って、企業の関心
員数は過去5年間、売上高は過去3年
い労働力人口が……」といった一般論
ダイバーシティ促進は日本企業にと
営課題として捉えているように見受け
は高まっている。
の伸びが顕著であり、海外市場への展
であるか、
「世の中でこれだけ盛んに
っては避けて通れない課題か、あるい
られる企業は少ないのが実態であろう。
以上、日本では「ダイバーシティ」
開が加速していることが分かる。まさ
なっているので当社もやらないわけに
先にも少し述べたが、海外でビジネ
は一過性の流行であるのか。ヘイ・コ
ここで、ダイバーシティの定義を確
という言葉は、グローバル基準と比較
にここ数年間で、
「ヒト・モノ・カネ」の
は……」という受動的な理由である場
ス展開している日本企業にとって、こ
ンサルティング・グループが主催した
認しておきたい。本来、ダイバーシティ
して極めて狭義で解釈されていると言
グローバル化が加速していることがデ
合が多く、説得力がない。
こ数年「グローバル人事」という言葉
マネジメント・セミナー来場者(主に
とは、個人の持つあらゆる属性の違い
えよう。しかしこれは解釈の誤りでは
ータからもうかがえる。
形だけダイバーシティ・マネジメン
がキーワードになっており、海外現地
経営企画・人事関連管理職/担当者)
を指す。ところが日本では、この言葉
ない。多くの日本企業が「正社員の日
このような流れのなかで、ここ1、2
トを導入しても、数年後には「外国人
法人に勤める非日本人社員のマネジメ
に対してこの質問を投げかけたところ、
から最初にイメージされる属性はジェ
本人男性」という極めて同質な人材を
年間にダイバーシティ・マネジメント
社員を幹部に登用したがワークしなか
ントが関心事項となっている。
ほぼ9割の方がダイバーシティ・マネ
ンダーの違いである。
「うちもダイバー
中心に組織運営し成功した過去の経緯
の取り組みを始めている企業が多い。
った」
「女性活用を推進したが、離職
図2を参照いただきたい。日本企業
ジメントは日本企業にとって避けて通
シティ・マネジメントを始めました」
を踏まえれば、スターティングポイン
まだ情報収集段階の企業も多いが、ダ
者が多く効率が悪いので男性中心に戻
の人材マネジメントのグローバル化を
れない課題であると回答した。理由と
という企業にその取り組み内容を聞く
トとして、
「まずは女性、ノンジャパ
イバーシティに関するセミナーを開催
した」という結末にならないかと危惧
3段階で表している。
しては、
「グローバルで競争力を維持
と、筆者の経験では7割以上が女性の
ニーズ、非正社員、高齢者などの活用
すると予想以上に参加希望が多く入場
される面もある。
現状、大多数の日本企業では、図2の
するためには、属性にとらわれず優秀
活用促進に関するものである。
から」と考えることは現実的な判断な
制限が必要なほどである。
な人材を確保することが必須である」
ジェンダーの次に取り組みとして多
のであろう。
こういった現在の日本企業のダイバー
日本企業の9割が
「避けて通れない課題」
30
「少子高齢化の影響により、これまで
いのが、国籍・民族の違いであろう。
の日本人・新卒・正社員・男性を前提
ノンジャパニーズの従業員を国内外で
とした人材マネジメントスキームでは
いかに活用するかというテーマは、グロ
組織運営が困難になるだろう」といっ
ーバルにビジネスを展開している企業
た意見が多かった。
にとっては、極めて重要な経営課題と
一方で「
(自社だけがダイバーシティ・
ダイバーシティ
・マネジメントの
導入目的とその背景
シティへの関心については、ポジティ
ダイバーシティの
メリットとデメリット
みの実態と課題について紹介しよう。
海外の現地法人における
ダイバーシティ
・マネジメント
左側の図のように、海外拠点の外国人
社員の人的管理は各国任せになってい
る。本社が管理するのは日本人駐在員
ブな側面がフォーカスされる場合が多
当然のことながら、組織の構成員が
のみであり、本社が拠点の幹部ポスト
い。だがその一方で、その加熱ぶりは
多様性に富むということにはメリット
の人事を決定するため、海外拠点では
さて、
各企業はなぜダイバーシティ・
一時期流行った成果主義導入時のブー
もあればデメリットもある。効率のみ
日本人駐在員がマネジメント、外国人
マネジメントを導入するのか。その目
ムと同じ危うさをはらんでいるように
を考えれば、日本企業のように日本人
社員はそのサポートという構図が生じ
なっている。ただし、先に述べた通り
的として、①組織構成員の多様性を高
も思われる。
男性が大半を占め、
「あうんの呼吸」
ている。
マネジメントに取り組まないことによ
日本では「ダイバーシティ=女性」の
めることで企業カルチャー・組織風土
ブームに乗っているだけの企業の特
で粛々と仕事が前に進む組織がベスト
このような組織では、外国人社員は
る)リスクを取りたくないから、一応
イメージが強いせいか、あるいはより
を変革する②属性によらず優秀な人材
徴は、
「ダイバーシティに取り組むこ
かもしれない。現に、戦後の日本企業
一定レベルの役職以上になると「ガラ
のポーズはとっている」
「よほど深刻
的確な言葉が別途存在するからか、ノ
を採用・維持する③異なる価値観や視
とが決まったが、まず何から手をつけ
は「追いつけ、追い越せ」の掛け声の下、
スの天井」に突き当たるため、向上心
な要員問題がない限りは経営課題とは
ンジャパニーズの活用促進は「グロー
点によりイノベーションを促進する④
たらいいのか分からない」
「先行して
効率性を追及して目覚しく成長した。
のある優秀な人材はキャリアアップの機
ならない」という意見もあった。
バル人事」と呼ばれる場合が多い。
多様化した市場ニーズに迅速に対応す
いる企業がどうやっているか教えて欲
そんな過去の成功体験を持つ日本企
会を求めて欧米企業や現地企業に転職
ダイバーシティというテーマをめぐ
本稿では、このグローバル人事施策
る──などがよく聞かれる。
しい」というWhatとHowに関する関
業においては、同質であることの効率
してしまうという問題が生じている。
って、こういった議論が各企業内で起
もダイバーシティ・マネジメントの取
特に大きな要因となっているのは、
心のみが高いことである。なぜ自社に
性や一体感を上回るようなメリットが
War For Talentという言葉が最近よく
こっている。組織内の立場により、ま
り組みの一つと位置づけている。
日本企業のグローバル化であろう。 おいてダイバーシティ促進が必要なの
なければ、ダイバーシティに真剣に取
使われているが、世界中で優秀な人材
た同一人物であってもホンネかタテマ
その他としては、年齢、障害の有無、
図1は、海外現地法人の売上高と従
かという、Whyが固まっておらず、
り組む意味がない。
の獲得合戦が繰り広げられている昨今、
31
リポート2
ダイバーシティ・マネジメントは流行か、それとも経営のニーズか
図2 日本企業における人事のグローバル化
グローバルスタッフ
グローバルスタッフ
国別
管理
本社
国別
管理
海外
現地法人
国別
管理
国別
管理
海外
現地法人
本社
●日本人駐在員中心の経営
会が限定される
イルが有能な人材の流出を招く
スタッフを採用できているが、なかな
原因になっている可能性がある。
でGEバリューやクレドなど企業のDN
か現地の嗜好に合ったヒット商品がで
日本CHO協会が多国籍企業に実施
Aを全社員に植えつけるために膨大な
ない。このような原因の1つとして、
したアンケート調査
によると、海
時間とコストを費やしている。日本企
国別
管理
国別
管理
国別
管理
スタッフは現地化されても意思決定者
外子会社のトップに本国人を派遣する
業では、トヨタ自動車などが海外にお
は日本人駐在員である場合が多く、最
理由として「会社に対する忠誠心が強
いてもウエイの浸透に積極的に取り組
海外
現地法人
海外
現地法人
本社
海外
現地法人
海外
現地法人
後のところでローカルスタッフに任せ
い」点を挙げた企業は圧倒的に日系が
んでいる事例であろう。
きれていないことが考えられる。なら
多く、欧米系はわずかであった。これ
しかしながら、多くの日本企業にと
ば、現地化すればよいと思うが、ここ
は日本企業の外国人社員に対するいわ
って強みであるはずのバリューやウエ
で本社が障害になる。本社が各国の製
れの無い先入観と取ることもできる
イの浸透が、海外子会社経営に活かさ
品開発に関与するため、その調整には
が、実際に日本企業は海外現地法人に
れていない、そのため外国人社員の会
日本語が堪能であり本社人脈や意思決
対して自社のバリューを浸透させるた
社への忠誠心が醸成されていないケー
定プロセスなどを熟知していることが
めの教育をほとんど行っていない場合
スが多い。
●グローバル共通の人事プラッ
トフォー
ムを日本にも導入
●国籍に関わらず、
本社でのキャリア
アップの機会が開かれる
(※1)
日本企業は海外の人材マーケットにお
企業が散見されることだ。ちなみに日
グローバル統一の物差しによる格付け
必要になってくる。こうなると、いく
が多い。その結果、海外現地法人の外
いて上記構図が弊害となり非常に弱い
本以外のグローバル企業は、右側のモ
(グレーディング)を行い、そのグレー
ら優秀な現地社員がいてもなかなか責
国人社員の会社に対する忠誠心が低く
立場に立たされている。
デル図のようにそもそも国籍に関係な
ドごとに採用、人材育成、登用、報酬
任者への登用は困難である。結果とし
なる可能性もある。
そこで、海外拠点経営の要となるマ
くある一定レベル以上の人材をグロー
などのグローバル統一ポリシーを設定
て、ビジネス戦略的には現地化が必須
日本企業は国内において、先輩から
次にジェンダーに関するダイバーシ
ネジメント層に関して、国籍などを問
バルリーダーとして一元管理している
することにより、マネジメントしてい
であるにもかかわらず、日本人駐在員
後輩へ、均一的な集団の中で脈々と暗
ティ・マネジメントの取り組み実態と
わず適材適所を実現するための人材マ
ところが大多数である。この日本型モ
こうとしている。
が中心となって意思決定を行い、消費
黙知としてバリューが受け継がれてき
その課題について、一例を紹介する。
ネジメントシステムの導入が急がれて
デルは外国人従業員からの「なぜ日本
このように「国籍に関係なく能力の
者ニーズとかけ離れた製品が出来上が
ており、それが企業への強い忠誠心に
日本ではダイバーシティ≒女性とい
いる。これは、まさに経営幹部となり
人だけ別枠なのか」という問いに対して
ある人材を重要ポストに就ける。ダイ
ってしまっている。
もつながっていた。ところがこの暗黙
う認識が強いと前述した。数多くの企
うる人材のダイバーシティ促進につな
論理的な説明が困難であり、本来の目
バーシティを促進し、適材適所の人材
海外拠点のダイバーシティ・マネジ
知は、駐在員を通じて海外子会社に伝
業が現在ダイバーシティの取り組みを
がる仕組みと言えよう。
的である優秀な人材確保の効果も限定
マネジメントを実現する」を大命題に
メントを考える場合、国内組織も変わ
達されるケースは少ないようである。
開始しているが、
具体的な施策として、
ここで、ある種の日本らしさがでて
的であることから、あくまでも過渡的
日本企業の取り組みが活発化している
らなければならない。前述の例であれ
実は、ダイバーシティを促進すれば
女性のライフイベント(結婚・出産・
いるケースを紹介しよう。図2の中央
な措置と位置づけられよう。
一方で、途中で頓挫してしまう企業も
ば英語対応力を高め、海外スタッフに
する程、組織においてソフト面での統
育児・介護)に合わせた各種制度の整
のモデル図をご覧いただきたい。グロ
もちろん、上記の過渡的スキームを
出はじめた。
も分かるよう意思決定プロセスを明確
合、例えばコーポレートバリューやウエ
備などワーク・ライフバランスに関す
ーバルと言いながらも、外国人幹部/
飛び越して、グローバルリーダーの一
化する必要性がある。
イの浸透が組織マネジメントに必要不可
るもの、採用、管理職登用など機会均
幹部候補についてのみグローバル(正
元管理に着手している企業も多い。そ
しかし、
実際には上記の認識があり、
欠になってくる。
等に関するもの、女性社員対象のキャ
確には海外)スタッフと位置づけ、あ
のような企業では、図3のように、ま
くまでも日本人とは区別しようとする
ず各海外子会社の重要ポストに関して
失敗原因①
戦略とのリンクがない
ジェンダーに関する取り組み
女性管理職登用の実態
さらに相応の覚悟ができている日本企
GEやJohnson & Johnsonなど、M&
リア開発などに関する研修、女性社員
失敗例の共通項として、①ビジネス
業はまだ少数派であるようだ。
「海外
Aなどを通じて多様性に富んだ事業と
を部下に持つ管理職研修などワーク・
戦略とのリンクが弱いこと②制度や仕
人材の活用は海外統括/グローバル人
図3 グローバル人材マネジメントスキーム
組みなどのハード面にのみ注力し、バ
グローバルジョブグレード
事担当部署に任せている」と言う経営
リューなどソフト面の対応が弱い──
トップが多いが、一部の推進部門だけ
ことが挙げられる。
が理解していても、うまくはいかない
①は、自社の事業戦略を実現するた
のが現実である。
President
Executives
President
B
Senior Management
President
Executives
C
Middle Management
Executives
Senior Management
各国管理
海外子会社
x
y
z
グローバル管理ポストとして
1.
採用
2.
人材育成・研修
3.
登用・サクセッションプラン
4.
報酬制度
などについて共通のポリシー
を適用
めに海外の組織体制はどうあるべき
で、重要ポストを担う人材はどのよう
なスペックを備えるべきか、というこ
失敗原因②
企業理念・バリュー教育の不足
とが明確化あるいは全社的に共有化さ
2つ目は、職務グレーディングや報
れていないということである。
酬制度など目に見えやすいハード面に
例えばある消費財メーカーは、各国
のみ注力し、企業理念やコーポレート
消費者の嗜好にマッチした製品開発や
バリューなどソフト面において外国人
マーケティングを行うため、マーケテ
社員に働きかける努力をしていない点
ィングスタッフのローカライズが重要
である。このことが、現地の人に海外
図4 女性社員数とハイポテンシャル人材の割合マトリックス
女性社員に占めるハイポテンシャル人材割合
︵質︶
A
32
社員を有し成功している企業は、一方
国別
管理
はグローバル共通の人事プラット
フォームを導入
● 小さな国においても、
キャリアアップ
の機会が開かれる
●日本型の不明瞭なマネジメントスタ
拠点の責任あるポストを任せられない
国別
管理
●日本と海外を区分し、
海外において
●外国人社員にはキャリアアップの機
課題となっている。実際に優秀な現地
孤高のロールモデル
高
ダイバーシティ先進企業
● 学歴・専門性・業績などが突出した
●外資系に多い
女性が存在
● 女性の役員、
部門長などが当たり
●他の女性社員からは
「あの人は特別。
前のように存在する
自分とは違う」
と敬遠される場合も
中
典型的オトコ社会
低
頭打ち/ぶら下がり社員の天国
●女性は短期間で回転
●仕事で楽をすることに長けた負のロ
ールモデルがいる
●ステークホルダーが男性中心なの
で変革のニーズ自体がない場合も
低
● 向上心の強いハイポテンシャル人
材は逃げ出す
中
高
女性社員数
(量)
33
リポート2
ダイバーシティ・マネジメントは流行か、それとも経営のニーズか
ぶら下がり社員の増加は、組織全体の
ダーのロールモデルが少ないこと、昨
たものに大別される。ここでは誌面の
生産性を落としコスト増大につながり
今のダイバーシティブームに乗って女
都合上、企業の関心が高い女性管理職
かねないため、深刻な問題である。
性管理職数を増やすため「数合わせ」
比率の向上の取り組みにフォーカスし
また、
「孤高のロールモデル」とまで
の女性管理職登用を行っている実態が
て論じることにする。
はいかなくとも、日本企業ではまだま
あること、などがある。図6は、今述
女性の管理職人数向上を目標に掲げ
だ女性リーダー数が少なく、ロールモデ
べた背景も含めた日本企業の女性管理
る企業が最近増えてきているが、
「女性
ルが限られたなかでの女性のリーダー
職を取り巻く環境と陥りやすいパター
管理者人数=女性社員数×ポテンシャ
シップ開発に苦労している企業は多い。
ン(仮説)を示している。
ルのある人材の比率+外部からの採
海外のデータであるが、ヘイ・グルー
このような状況を既に察知して、女
用」であることを考えると、外部から
プがフォーチュン500企業を中心に行っ
性若手社員にも男性と同様に幅広い職
の中途採用は別として、量の確保(女
たエグゼクティブのリーダーシップ調
務経験を積ませ、早期のリーダーシッ
性社員の絶対数を増加させること)
と、
査によれば、優秀な女性エグゼクティ
プ/キャリア開発に取り組む企業もで
質の向上(ポテンシャルのある人材の
ブのほうが優秀な男性エグゼクティブ
てきている。また、女性だけの問題と
比率向上)が必要となる。この質と量
よりも部下の意見をよく聞き、権限を
とらえず、周囲の男性社員も巻き込ん
をバランスよく高めることが意外と困
委譲して、周囲とより円滑な人間関係
だ活動を展開している企業もある。い
難である。
を築くリーダーシップスタイル(
「柔
ずれにせよ女性のリーダーシップ開発
(ソフト)スタイル」
)においてより優れて
に関しては、単に女性リーダー個人の
図4のマトリックスをご覧いただきた
い。ダイバーシティ・マネジメント(特に
いることが分かった(図5)
。
資質の問題にするのではなく、人材開
女性活用促進)に取り組んでいるとい
一方、日本企業では女性リーダーのサ
発、登用、評価制度など含めたトータ
う企業の実態を分類すると以下のよう
ンプル数がまだまだ少ないためリサーチ
ルな人材マネジメントの仕組みを変え
になる。横軸は女性管理職候補の母数
の途上であるが、ある消費財メーカー
ていくことが成功の秘訣である。
となる女性社員の総数で、縦軸はその
の管理職を対象に行った調査の結果で
一方で、手っ取り早く「数合わせ」
女性社員全体に占めるハイポテンシャ
は、優秀な男女のスコアがフォーチュ
で女性を管理職にしたり、専門性が高
ル人材の割合である。
ン500企業の例と逆転しており、どち
く個人コントリビューターとして優秀
先に、
バランスが重要と述べたのは、
らかというとその会社の優秀な女性管
であってもリーダーには不向きな人材
ダイバーシティ関連施策は一歩間違う
理職はフォーチュン500企業の平均的
を登用したりするケースも多く見受け
と、縦・横に偏りが生じてしまい、意図
女性のスコアに近かった(※2)。
る。そして登用後は2日程度の研修で
せず「孤高のロールモデル」を生んだ
その背景には、そもそも日本企業は
お茶を濁して「ダイバーシティを促進
り、
「ぶら下がり社員の天国」と化した
女性社員を管理職候補とはみなさず育
した」と満足する。このようなやり方
りするからである。特に企業にとって
成してこなかったこと、優秀な女性リー
では、本来の目的を達成することは困
剛(ハード)
スタイル:ビジョンを示し、指示命令し、率先するリーダーシップスタイル
柔(ソフト)
スタイル:部下の意見を聞き意思決定に取り入れ、職場の和を重んじるスタイル
100
100
優秀男性エグゼクティブ
90
90
80
80
80
70
70
70
60
60
60
50
50
50
30
77%
68%
40
20
10
10
剛
(ハード)
スタイル
柔
(ソフト)
スタイル
89%
30
20
0
0
40
42%
平均女性エグゼクティブ
91%
30
20
27%
10
剛
(ハード)
スタイル
柔
(ソフト)
スタイル
出典:The Women Executives Study
(2003)
,McClelland Center for Innovation and Research, Hay Group
34
100
90
40
企業の競争力を高めるため
女性の活用促進は経営課題
0
剛
(ハード)
スタイル
柔
(ソフト)
スタイル
女性管理職を増やそう!
!
優秀女性のマインドセット
プレッシャーによりますます達成指向が強化
特に優秀者は…
●少子高齢化による労働力不足
●グローバル展開によるダイバーシティの必要性
プレイヤーとしての優秀者を登用
(達成価値観が強い女性/専門性が高い女性)
注:数合わせ登用も行うので必ずしも
全員が上記に該当するわけではない
●株主、
取引先、学生からの評価向上
経営層
マネジメント能力のある女性候補者が少ない
女性を管理職として育てて
こなかった過去の歴史
従来の価値観
男性はパワーと達成
女性は職場の花
(親和)
→「失敗は許されない」
→「部下に負けられない」
→「自分でやった方が早い」
プレッシャー
ロールモデル不在
行動・マネジメントのスタイル
部下に任せず自らプレイヤーとして動く
仕事を抱え込んでしまい、余裕がない
↓
●周囲との仕事以外の会話量が少ない
●指示をする場合は、
短時間ですませるため一方通行の
コミュニケーション(対人理解力やチームワークが低くなる)
女性リーダーに慣れていない周囲
●女性を非公式ネッ
トワークに入れにくい
●女性の上司にどう接してよいか分からない
このままでは、大きな組織・専門外組織の
マネジメントはできず、
キャリアが停滞する!
図7 ビジネス戦略とダイバーシティ・マネジメント
戦略
今後の戦略フォーカスと
鍵を握るプロセスの確認
オペレーション
組織・人材
求められる組織体制と風土、人材像
ダイバーシティ・マネジメント
戦略実現を支える組織・
人材マネジメントの目指す姿の具体化
難であろう。
ダイバーシティ
・マネジメントを
経営の成功につなげるポイント
図5 リーダーシップスタイルの活用度合い(%)
優秀女性エグゼクティブ
図6 女性管理職をとりまく環境と陥りやすいパターン
周囲からの期待・不安・懸念
ライフバランスと機会均等両方を狙っ
市場・顧客
事業環境を踏まえた上で、顧客ニーズをどのようにと
らえ、
どの市場・顧客にフォーカスしていくのか
商品・サービス
顧客ニーズに応えるために、商品・サービスにおいて
どのように差別化させていくのか
コアプロセス
かかる商品・サービスを実現させていくのに、鍵を握る
コアプロセスは何か
組織体制と風土
コアプロセス実現に向けて、組織体制
(職務の期待
役割)
と醸成したい風土は何か
求められる人材像
かかる期待役割を果たす人材要件は何か、
かかる風
土を作り出すにはどの程度ダイバーシティが必要か
人材マネジメントポリシー
求められる人材をどのように獲得、育成、処遇してい
くのか
施策フレームワーク
かかる人材マネジメントポリシーを具体化する施策の
枠組みはどうあるべきか
ある。また、醸成すべき風土を創り出
だ。まずダイバーシティ促進ありきで
すという観点から、どのようなダイバ
スタートするのではなく、なぜ自社に
ーシティがどの程度必要かということ
ダイバーシティが必要なのか、どのよ
も明確化されなければならない。同時
うなダイバーシティが求められている
最後にダイバーシティ・マネジメン
にダイバーシティに富む組織になれば
のか、今一度振り返ってみる時期に来
トを経営の成功につなげるためのポイ
なるほど各自のベクトルを合わせる必
ているのではないだろうか。
ントを図7にまとめた。
要がでてくるため、ビジョンや企業理
事業戦略を実現するために、必要な
念・バリューなどの徹底が必要になる。
オペレーションモデルはどのようなも
以上のことはグローバル人事の事例で
のか。それを実現する組織体制はどの
既に一部述べたことであるが、他の属
ようなものか。組織体制を支える人材
性に関するダイバーシティ・マネジメ
参考文献
※1:日本CHO協会「グローバル人的資源管理に関する
アンケート調査」報告書
(2008年1月)
CHOはチーフ・ヒューマン・オフィサー(最高人事
責任者)
※2:大高美樹「女性管理職のリーダーシップ発揮の現状
と課題について」
( 2008年)
( http://www.haygroup.
co.jp/paper/vol3.pdf)
の要件は何か。それらを明確化し、属
ントでも共通である。
性にとらわれず最適な人材を採用・育
事業戦略が各社各様であるのと同
成・配置・処遇していくことがダイバ
様、ダイバーシティ・マネジメントの
ーシティを促進する最も確実な方法で
あり方も多様性に富んでしかるべき
大高 美樹(おおたか みき)
ヘイ・コンサルティング・グループ シニア・コンサルタント
専門はグローバル人材マネジメントとリーダーシップ開発。
津田塾大学国際関係学科卒業、青山学院大学国際政
治経済学研究科国際ビジネス専攻修了
(MBA)
(
。株)
富
士ゼロックス、
米系マネジメント・コンサルティング・ファーム
を経て2001年より現職。
35