厚生労働省看護研究センター 平成21年度 幹部看護教員養成課程 経営管理論 第5回 第6回 12月

第5章 管理(マネジメント)の諸機能とマネジメント・サイクル
管理=「(部下と一緒に)部下を通して仕事の成果を上げること」
=「組織体の目的を実現するための集団活動の統率・調整」
→ 管理者が管理のために行う一連の活動を一定の時間的・手続き的前後
関係に基づく活動群として整理・分類
= 計画・組織・指導・統制
組織体における管理は,まず計画を立て,その計画の実現を可能にする組織を編成し,組
織の中で実施作業の担当者を指導し,その指導の下に実施された作業に対して統制を行う
という,一定の前後関係に従って展開される一連の活動,すなわちプロセスである。
→「マネジメント・プロセス」論
さらに管理は,1回限りをもって完結する過程ではなく,過去の経験から学習するなかで
管理活動に質的向上をも実現しうる反復・継続して展開される活動を意味するサイクル(循
環)である。
→Plan-Do-See(Check→Action)の「マネジメント・サイクル」
(P-D-SサイクルないしP-D-C-Aサイクル)論
(目標と時間)という二つのフラクタル構造
の重要性
a)計画(計画作成)
① 業務の遂行に先立って,求められる到達点ないし期待される結果を予め明示すること
→ 目標設定(何をすべきなのか) ←組織目標全体との整合性
目標設定の意義と時間軸の重要性(長期と短期のバランス)
② ①で明示された目的を実現するために必要とされる行動の内容を具体的に提示すること
(目標の効果的達成のために方法や手段を検討し,最善の行動の選択)
→ 業務構想(いかにして実現すべきか)
b)組織(組織編成)=仕事(職務)と人間(人員)とを結合すること
① 職務編成 →個別職務の設定→各職務の遂行に必要な知識・技能の質と量の決定
→個別職務相互間の関係の編成→各職務の遂行に必要な責任と権限の確定
② 人員配置(構成員各個人が保有する資質・能力の正しい評価と特定職務の遂行に必要
な知識・技能要件との適合=「適材適所」の原則に基づく担当職務の決定)
→フレキシブルな組織編成の実現
チームワーク→リレー作業(助け合い・協力の精神)
[管理者の指導の下での作業・実施担当者による職務の遂行]
c)指導=
① 組織体の各構成員への直接的働きかけを通して,彼が自己の職務を遂行しようとす
る積極的な意欲を喚起すること→「動機付け」(motivation)
② その意欲に導かれて行われる彼の能力の発揮が職務の完全な達成に結実するよう
に必要なあらゆる援助を提供すること→ 助言・助力
リーダーシップ=指導(動機付けと助言・助力)を行うにあたって,指導者(リーダー)として
の管理者がとるべき行動の基本的方法
d)統制=
① 実績評価…実績測定・実績と計画との比較,両者の差異原因の分析と確定
② 是正措置…実績評価により確認された差異原因を除去することによって実績と計画の
一致を達成すること
=管理の第一段階において作成された計画の完全な実現を保証すること
上司の命令(ないし指示)が部下に受容される条件
主部
観下
的の
評側
価の
命令(指示)の内容が正しく理解可能であること(命令の「了解性」)
①命令(指示)の内容が組織の目的と矛盾していないこと(命令の「合目的性」)
②命令(指示)の内容が命令の受け手である部下の利害と両立すること(命令の「充足性」)
③命令(指示)の内容が部下にとって実行可能であると思われること(命令の「実行可能性」)
したがって,①部下がその命令(指示)を理解できない,実行能力がないとき,②命令(指示
)が本人の任務に関係がないとき,③その命令(指示)を遂行することで本人や周囲の人々
が不利益となるとき,④初めから達成不可能と思われるとき,⑤部下の立場を無視し,いつも
命令(指示)が高圧的・強制的であるときには,部下に命令(指示)を発しても,部下が上司の
意に沿う行動をしないことになる。
(6)部下の指導・育成……職場内で上司である管理・監督者が日頃の職務
遂行を通して指導・教育すること ←OJT(On the Job Training:職場内訓練)中
心
上司が部下を指導・育成して,部下の資質・能力を高め,ひいては部下の人
材としての質を高めていくこと
組織体の目標実現に貢献する部下の職務遂行能力の啓発
職務遂行能力 =体力×適性×知識×経験×性格×意欲
上司は部下を「自覚的・意図的に」指導・育成
→ 指導必要点(育成必要点)
=部下に役割分担された仕事の資格要件(期待・必要要件)
- 部下の能力要件(現有能力)
OJTの推進-上司の部下への直接指導体制
Off・JT-社内外の集合研修への参加,教育部門のスタッフの援助体制
自己啓発による研鑚―自己形成・自己啓発への動機付け・援助方法
OJTの期待効果
☆日常の職場における部下への仕事の与え方,仕事のやりとり,結果の正しい評価,部下
との接触の仕方そのものがOJTである。→実際の仕事のやり方などを,具体的・実践的に
理解,習得させることができる。
☆一人一人の知識水準・技能に応じた個別指導が可能である。
☆指導する者自身も,教えることにより能力向上ができる。
☆日常の自然の機会と場でできないことや不足していることを,マン・ツー・マンによる個人
面接指導の実施などの意図的な機会と場を設けて行う。
メンタリング(mentoring):「知識や経験の豊富な人」(メンター)が現時点では知識や経験
の未熟な人(メンティ)に対して仕事の側面と心理・社会的側面の二面から行う一定期間
における支援活動
メンターが対象者に対して行う具体的な支援行動や配慮の全体をメンタリングと言う。
Ⅰ.仕事面(課題達成とキャリア支援)
①相手に自分(メンター)が味方(支援者),共同解決者であることを理解させる
②メンタリングの目標を共同で設定する。
③メンターが自分のノウハウを伝授し,コーチングを行う。
人材育成と
④成果に報酬を与え,更なる挑戦に導く。
キャリア形
Ⅱ.心理的・社会的支援活動
成
①相手に組織人としての役割・立場を理解させるために組織人としての役割モデルを提
示する。
②相手との信頼関係を構築し,知識学習を指導する。
③これらの遂行課程において対象者の悩みやトラブルにカウンセリングで応える。
部下育成の上手な管理者
職場の計画と仕事
の割当(仕事の与え
方)
計画への参画仕事
の割当
仕事の面において計画に参画させ,仕事に意欲をもた
せてくれた
計画時点から参画させ,責任と権限を与えてくれた
仕事を大幅に任せてくれた作業がなく困っている時に,
仕事を与えてくれた
仕事の進行中の援
助
仕事の教え方
仕事の教え方が上手であった
細かいところまで教えてくれた
部下の仕事に関心をもち,適切な助言・援助をした
自己の成功・失敗を生かし,解決方法のヒントを与えて
くれた
改善点や原因究明を一緒に考えてくれた
頭にきている時や仕事が行き詰まっている時など,一
杯誘って言い分を聞いてくれた
仕事の助言・援助
部下を理解する
自己啓発への刺激と
援助
私生活のことでも面倒がらずに相談にのってくれた
現在何が不足で,将来何が必要かをつかんで長期的
な育成を考えてくれた自己啓発の刺激となる機会(社
内・社外)を積極的に作ってくれた
実績の評価と
反省
上司の基本的
な姿勢と人間
観
成果の評価
成果を横取りするようなことがなく,正しい評価をしPRしてく
れる
努力に対して報いる
成果に対するねぎらい,改善点を一緒に教えてくれた
結果だけではなく,条件やプロセスも評価してくれた
評価し重要な仕事を与えてくれた
昇進・配転をしてくれた/提案や意見具申を握りつぶさない
仕事の精通
仕事に自信をもち,ことにあたるーいざという時頼りになる
仕事に精通していてチャレンジングである
題意識をもち,前向
きに仕事を進める
題を積極的に解決する行動力がある
これでよいのかという問題意識をもつ
上司の生き方
共に働き,共に遊び,共に飲む,部下の言い分に耳を傾け
てくれる
部下のえこひいきがない
「聞いていない」「知らない」を口実に責任を転嫁しない
部下育成への関心
言行一致,約束を守る
他人の悪口を陰で言わない
業績指向だけではなく,部下の育成を長期的に考えている
勉強しろと言うだけではなく,本人も勉強している
3)管理者の管理能力用件
山本五十六(連合艦隊司令長官)の優れたリーダーの要件
「やってみせ,言って聞かせて,させてみて,褒めてやらねば人は動かじ!」
リーダーは「ヒト(部下)」を動かさねばならない
イ)やってみせるだけの豊富なキャリア・専門知識(部下が教えてくれ,やって見せてく
れ,と言った時に「こうやるんだよ」と教えることができなければならない)
ロ)言って聞かせる説得術(リーダーが言ったことに対して部下がやりたがらない,反発
するという時に,何故やらなければならないのかを説得する,粘り強く部下を導く)
ハ)部下を信頼して任せてみる部下への信頼-部下に仕事を任せ,「学ばせる」
ニ)褒めてやるという「仁」(相手への思いやり・愛情)←公正な評価行為
-褒めるだけの値打ちのあるときには必ず褒める
-気まぐれに褒めてはならない
-口先だけの賞賛はかえって反発を招く。褒めるというのは心の底から真心のこもっ
たものでなければならない。
-逆に好ましくないと思う行動には注意しなければならない。その場合,人のいない
ところで,静かに注意を与えるだけの配慮も必要である。
-褒めるにしろ,注意するにしろ,タイミングが必要である。
(2) アメリカの管理者教育での管理者能力論
管理職能の遂行にあたり,管理者は少なくとも以下の3つの分野の能力が必要
①専門的能力(テクニカル・スキル)
→特定業務の遂行に必要な知識・方法・技術を使用する能力
=キャリア(実務・職務経験)+知識(専門・業務知識)
②対人的能力(ヒューマン・スキル)
→他人とともに,他人を通して働く能力と判断力
=動機付けの心理の理解とリーダーシップの効果的な応用能力
③概念化能力(コンセプチュアル・スキル)
→組織体全体の複雑な構造を理解し,自己の職務活動が全体活動のどこに,いかに組み
込まれているのかを理解する能力
→抽象的な考えや物事の大枠を理解し,具体化していける能力(例えば,複雑な環境や状
況の中から問題の本質を見抜き,原因を追究して問題点を発見・把握する能力である)
第6章 動機付けとリーダーシップ
行動科学(behavioral science)
→組織体における人間行動を,動機付けやリーダーシップといった概念で説明しようと試みるー連の研究
メンバーは組織体に何を求めるのか(メンバー→組織体)
1)生理的欲求
→収入,快適な職場,苦痛の少ない職場
2)安全・安定の欲求 →雇用保証,仕事の上での物理的危険からの安全,病気に対する保証
3)愛情・所属欲求 →職場社会の人間関係のなかで人々と親しみ,心豊かな人間関係
を持ちたい,そういうグル-プに所属したい(人は仲間を欲しがる)
4)尊厳(自我)欲求
外発的=職場社会での社会的認知や尊敬,名誉,評価への欲求
内発的=成果のあがる仕事,自信を持ちうる仕事,自由にできる仕事,情報をたく
さん知りうる仕事=「意義ある仕事」
5)自己実現欲求 →仕事の面白さ
織体はメンバーにどんなインセンティブを与えられるのか(組織体→メンバー)
1)物質的インセンティブ(金銭的報酬)
→生理的欲求・安全欲求
2)評価的インセンティブ(上司による公正な評価) →尊厳欲求・自己実現欲求
3)人的インセンティブ(リーダーの統率力・仲間) →愛情・所属欲求
4)理念的インセンティブ(経営理念)
→尊厳欲求・自己実現欲求
5)自己実現的インセンティブ
→自己実現欲求
(「仕事そのものが面白い,役割に満足を覚える」といった状況づくりを組織がする)
経営理念(management philosophy):
全社的な目標や方向性およびそれを実現するための方法や考え方のことで,トッ
プ・マネジメントの考える企業のあるべき姿,理想像を示している。創業者の精神
などに典型的に示されるが,「社是」,「社訓」などの形をとって社内外に定着・浸透
されるものであり,経営者が交代しても維持されることが多い。したがって,経
営理念はかなり抽象的・規範的であるとともに,固定的・持続的なものである。例
えば,本田宗一郎の「ヒト真似するな,モノ真似するな!」(本田技研),松下
幸之助の「水道哲学」(松下電器),神谷正太郎に「1にユーザー,2にディー
ラー,3にメーカー」(トヨタ自販)などが知られている。こうした経営理念は,
「これからこういう企業にしていきたい」,「この企業は社会の中でこうした大
きな意義ある活動をしていくのだ」,「この企業では最も重要なことは何か」と
いうトップの想いを表したものであり,組織の価値観を示すものであり,日常的
な経営姿勢を示すと同時に,組織メンバーが判断に迷ったときの羅針盤の役目を
果たしている。組織メンバーはこうした経営理念(価値理念)に共鳴する時に,
仕事をする中での仕事の意味や価値を実現することができ,「働き甲斐」「生き
甲斐」を確認することができるようにも思われる。
第3節 ハーツバーグ(F. Herzberg)の「動機付け-衛生」理論
←米国・ペンシルバニア州のピッツバーグでの200人の会計士と技術者を対象とした職務
満足および不満足と労働意欲の関係の調査
☆人間に不満を起させる要因(職務不満足要因)
=「衛生要因」=仕事の不満を予防する要因
個人の職務環境に関連する要因=組織の政策と管理・監督者・同僚・部下との関係
給与・労働条件・財務的安定性
☆ 人間の積極的態度を引き出す要因(職務満足要因)
=「動機付け要因」=個人の仕事内容に関連する要因
=仕事の達成・業績が認められること・重い責任・成長と発展・やりがいのある仕事
やりがいのある仕事を通して達成感を味わえること(達成)
達成した結果を上司や同僚に認められること(賞賛・承認)
仕事のなかに自己の知識や能力を生かせること(仕事そのもの)
責任をもって仕事を任されること(責任)
仕事を通して能力を向上させ,人間的に成長できること(成長)
ハーツバーク理論→仕事を再構造化しようとする企業側の試みを理論的に支持
新入社員の会社の選択理由(複数回答)
出所:厚生労働省編『平成20年版
労働経済白書』111頁。
企業の取組みと仕事に対する意欲の向上との関係
男性で仕事に対する意欲の向上に寄与している項目
:賃金を引き上げること;仕事上,上司からフォロ-が得られること
;仕事の成果をより重視して処遇すること
;作業環境を改善すること;計画的な能力開発を実施すること:
女性で仕事に対する意欲の向上に寄与している項目
:仕事上,上司からフォロ-が得られること;仕事上の裁量をより高めること
;仕事と家庭生活の調和を図る施策を充実すること
;作業環境を充実させること;仕事の成果をより重視して処遇すること
男女とも仕事に対する意欲の向上に寄与している項目
;上司からフォロ-が得られること;仕事の成果をより重視して処遇すること
;作業環境を充実させること
;仕事上の裁量をより高めること
出所:厚生労働省編『平成20年版 労働経済白書』146頁。
第4節 職場リーダーのリーダーシップ
1)リーダーシップと職場リーダーの影響力
リーダーシップ(leadership)(指導力)
=「集団の目標達成のためになされる影響力行使の過程」
=「部下に効果的に働きかけることによって,課題達成の方向に部下を先導し,
それ
によって当初の自分の考え・方針・計画を受け入れさせること」
影響力行使の源泉
部下・メンバーに対して強制力を行使し,発揮する側面
→職務(地位・権限)から生ずる影響力
→権限(組織影響力を行使するための制度化された権力ないし権利)
=ポジション・パワー(リーダーの強制力の行使)
部下・メンバーの心を動かす影響力を与える側面
→個人の魅力から生ずる全人格的な影響力
→権威(個人の人格・識見に源泉を持つ個人的権力)
=パーソナル・パワー(部下の自発的服従)
リーダーシップの発揮で重要なことは,部下を信頼し,また部下に信頼されること
→部下と上司の信頼関係→上司の影響力の拡大
a)部下との信頼関係の構築
①部下以上に深くて広い専門的知識・技能を持つこと
②部下を守ってあげること
③部下を公平に扱うこと
④いつでも部下に耳を傾け,真剣に対応すること
人間の気持ち
心
理
的
抵
抗
地
帯
信頼関係
不信の関係
上司
上司
心
理
的
無
抵
抗
地
帯
部下
部下
信頼できるリーダー
信頼できないリーダー
1
1
2
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
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14
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16
17
18
19
20
部下の正しい意見は,外部に向かっても主張
する。
方針に一貫性がある。
部下の仕事上の問題をよく研究している。
指示が的確である。
率先して職場の空気を和らげる。
部下の面倒を良く見る。
部下の能力を伸ばすことに熱心である。
判断が正確である。
臨機の処置が適切である。
部下同士の人間関係を良く知っている。
部下のなかに溶け込む。
会社の方針や自分の所信を部下に伝える。
公私の別がはっきりしている。
部下の仕事を的確に評価する。
部下の能力を正しく評価している。
部下を公平に評価する。
話題が豊富である。
仕事を部下に任せる。
自分の間違いは躊躇せず,訂正する。
計画や仕事の手順の組み方が的確である。
3
4
5
6
7
8
9
10
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12
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17
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19
20
21
当面のことしか考えず,視野が狭い。
自分の仕事に追われ,部下の管理をおろそ
かにする。
失敗を部下のせいにする。
特定の人の意見に動かされる。
部下の提案に対して消極的である。
助言・注意が率直ではない。
部下を信頼しない。
意欲がない。
誠意がない。
相手によって態度が変わる。
仕事の上での知識が欠けている。
不勉強である。
部下の心の動きに鈍感である。
感情をすぐに顔に出す。
私利私欲が露骨である。
部下の意見は聞き入れない。
命令系統を無視した命令を下す。
人の前で部下を叱る。
近寄り難い。
職場規律を乱す行動に,知らん顔をしている
約束を破る。
出所:松田憲二著『新版 管理者の基礎テキスト』日本能率協会マネジメントセンター,2001年,184頁。
第5節 D・マグレガー(D. McGregor)の「X理論とY理論」
マグレガーは,管理理論を,それが前提としている人間行動観に基づいて2つに大別し,こ
れをそれぞれをX理論とY理論と名付けた。
X理論(伝統的管理論)の人間観←マスローの低次欲求をもつ人間の行動モデル
=大多数の人間は命令されることを好み,責任を負うことを好まず,何より安定と安全を求めていると仮定
→信頼するに足らず,責任感も乏しく,自律性に欠ける人間を扱うには仕事を厳格に設定
し,統制を厳しく行い,細かく指示し,監督する必要がある
→「命令・統制による人間管理」・「アメとムチ」による管理
働く人々が一応の生活水準に達し,生理的欲求,安全に対する欲求より高次の欲求の
充足を求めるようになると,このX理論では人間を動機付けることはできなくなる。そこでより
高次の欲求の充足を意図し,より「人間的側面」を重視し,人間性の回復をはかることを基
本とする考え方が求められるようになってくる。この「人間的側面」を重視した考え方は,Y
理論と名付けられた。
Y理論(新しい管理論)の人間観 ← マスローの高次欲求をもつ人間の行動モデル
人間は生まれながらに怠惰で信頼できないものではなく,適切な動機付けさえ与えられるならば,基
本的に自分から進んで仕事をし,また創造的でもある。正しく動機付けられることにより,だれでも努力
を組織目標の達成に向けながら,目標を自律的に達成することができる
→管理者が従業員のもつ能力を十分に引き出す条件を作り出すことが重要
→「分権と権限委譲」「職務拡大」(職務における能力発揮の機会をふやす)
「参加的リーダーシップ」(職務内容の決定に担当者の参加)
「目標管理」
(上からの目標の押し付けではなく,上司との協議を通して個人目標と組織目標の達成を統合すること)
第6節 ハーシー(Heresy, P.)=ブランチャード(Blanchard, K.H.)の
SL(Situational Leadership)理論
☆ 状況=部下の課題関連成熟度(自立性の程度)
仕事に対する成熟度 ― 課業を遂行する能力や技術的知識(適性能力の程度)
←教育や経験のレベル
心理的成熟度
― 仕事に取り組む意欲(ヤル気)の程度
←高い目標に挑戦し,やりとげようとする意欲
責任を負おうとする意思と能力
☆ 管理者のリーダー行動
指示的行動 - リーダーが何を,どのように,いつ,どこで,を指図して,部下
の行動
・役割を規制することの程度
支援的行動 - リーダーが意思疎通を図り,聞き,支援し,連帯感を示すなど,
双方
向の意思疎通行動をとることの程度,すなわち,支持・支援,意
思疎
通,傾聴,フィードバックなど関係促進的行動をとる程度
状況(部下の成熟度)に対応した有効なリーダーシップ・スタイルは,
状況(1)
部下の成熟度が低い(能力・意欲とも低い,他力本願や依存心の強い部下,部下の能
力が劣り,十分に育っていない)場合
→リーダーは「指示的行動」が高く,「支援的行動」の低い行動をとる
→「命令的リーダーシップ・スタイル」
→「何を,どこで,どのようになすべきか」を教示
→具体的に指示し,事細かに監督する
→リーダーが決め,一方的に指示する
しかし,この命令的リーダーシップは,集団の置かれた状況が非常事態のとき,緊急事
態のとき,集団が危機に遭遇し,重大な事故発生の時には,部下の成熟度に関係なく,
リーダーの的確な命令・指揮で,迅速に手を打つことが求められ,そのため「命令的リー
ダーシップ」が有効・適切である。
状況(2)
部下が成熟度を高めてくる(能力は低くとも,努力をしている部下)場合,
→必要な「指示的行動」と「支援的行動」志向の行動双方のウェイトを同時に高める
→「説得的リーダーシップ・スタイル」
→仕事の遂行については正確な指示を与えながら(一歩ずつ教え,助けてやる),話し
合ったり,説明したり,部下の疑問に答えたりする(双方向の対話)
状況(3)
さらに成熟度を高めてくる(高能力だが,意欲が弱く,不安を示す部下:能力があって
も,能力を得てから日も浅く,一人でやってみる機会に恵まれなかったため十分な自信
を持っていない)場合,
→「指示的」行動はなるべく抑え,「支援的」行動重視に移行する
→「参画的リーダーシップ・スタイル」
→部下の側には仕事の遂行に必要な知識と技能は十分備わっているので,厳格な指
示・命令することは少なくして,相互の情報の交換・対話,リーダーの促進奨励的な行
動(例えば,部下の提案・意見を積極的に取り入れる,励ます)を高める
状況(4)
部下が完全に成熟度を高めてくる(十分な経験も積み,高い能力を有し,意欲も自信
もある部下)場合,
→「指示的行動」も「支援的行動」も最小限にとどめる
→「委譲的リーダーシップ・スタイル」
→部下の責任権限を大きく委譲し,問題が発生した場合にのみ指示を与えるにとどめ,
部下に思い通りにやらせてみる
→部下の自主性を尊重して,自主計画による自己管理で意欲的に仕事をさせる
管理上の含意
★「成熟度」は,同一の部下であっても割り当てられている仕事に応じて異なるため,
仕事ごとの成熟度を顧慮したリーダーシップ行動が必要であること
★部下の成熟度如何にかかわらず,部下や組織に何らかの緊急事態が生じた場合
には,管理者は高指示的・低支援的行動(命令的リーダーシップ・スタイル)をとら
ねばならない。
4)職場リーダーとリーダーシップ
職場リーダーのリーダーシップ
職場の状況特性(業務特性・部下の特性)に応じた望ましいリーダーシップの
在り方
①担当業務への理解度・習熟度
②リ-ダ-と部下との信頼関係③
上司からの信頼
④部下の職務遂行能力と意欲
⑤P-D-Sサイクルの意識的展開
リーダー行動の管理・監督上の有効性を規定する要因
集団成果・業績