ワークショップ報告書 日時:2015 年 1 月 31 日 場所:上智大学 図書館

ワークショップ報告書
日時:2015 年 1 月 31 日
場所:上智大学 図書館 L911
題目:グローバル化時代における市民社会―多角的視点にもとづく現代社会動態研究
◯発表者の名前・所属、各発表のタイトル
1.森啓輔 一橋大学大学院 社会学研究科
:1990 年以降の日独における米軍再編と反基地運動の系譜
−−ラインラント・プファルツと沖縄を事例に
2.小杉亮子 東北大学大学院文学研究科 社会学研究室
:トランスナショナルな若者の叛乱
——1960 年代日米の学生運動の比較研究——
3.龍野洋介 上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科 国際関係論専攻
:ローカル社会運動のトランスナショナル化プロセスに関する考察
−−沖縄県での開発反対運動を事例として—
4.陳威志 一橋大学大学院 社会学研究科
:3.11 以降台湾における原発反対運動の再燃
―団体の活性化を中心に―
5.佐藤圭一 一橋大学大学院 社会学研究科
:気候変動政策のナショナルな分岐とグローバルな収斂の並行過程
◯コメンテーターの名前・所属
・三隅一人 九州大学大学院比較社会文化学府研究院 教授
・土佐弘之 神戸大学大学院国際協力研究科 教授
◯ワークショップ全体の概要
① ークショップの目的
グローバル化以降,社会問題のグローバル化現象が進展している.こうした現象と並行
し、複数国にて,同一の社会問題を「問題」としてみなし,活動するグローバルな市民社
会も活性化している.例えば,グローバルに展開されている基地編成に対して,日本,韓
国,そしてドイツの人々が連鎖的に抗議の声を挙げている.あるいは,3.11 以降,東アジ
アや欧米諸国にて,脱原発を掲げた社会運動が同時多発的に発生している.このように,
グローバル化は資本の流動化や人の移動,そして情報の拡散などの物理的な変化のみなら
ず,それまでローカル/ナショナルレベルに限定されてきた社会問題をグローバルレベル
において解釈・理解する仕組みを生み出していると考えられる.
本ワークショップでは,複数国の「基地問題」
,
「環境問題」,
「原発問題」
,そして「反戦
問題」とこれらに対応した社会運動を事例として,多様なアクター間での問題の定義をめ
ぐる解釈の在り方を紐解くことを目的に開催した.
②各発表の概要
1:森報告
本報告では,1990 年以降の日本(沖縄)とドイツ(ラインラント・プファルツ)における2つ
の反基地運動の運動過程を分析し,米海外基地駐留政策の構造的メカニズムと構造下にお
ける社会運動の位置を考察した.その結果,第二次大戦後の根本的変化が,現代の日独に
おける米軍基地政策に未だ決定的な影響を与えており,基地数そのものは減少しつつも,
周辺に基地負担と二次被害を集中させる構造が両国内で継続していることが明らかになっ
た.
2:小杉報告
1960 年代後半の日本で全国的に高揚した若者叛乱は,同時期にほかの先進諸国で発生し
ていた若者叛乱とのあいだに,どのような関係を持っていたのか.日米の学園闘争の代表
的事例を対象に,聞き取りなどによって収集したデータをもとに分析を行なった結果,脱
工業社会の到来によって学生たちのあいだで大学内在的課題への関心が高まっていた点は
日米で共通する一方,日本ではそうした新しい志向性を持つ学生たちと,より古いエリー
ト主義的社会主義運動を志向する学生たちとの対立が見られたことが明らかになった.
3:龍野報告
本報告では,ローカル社会運動がトランスナショナル社会運動へと展開するプロセスに
着目しつつ,社会運動のトランスナショナル化を推進する要因とは何か,を問いとして議
論を進めた.検討の結果として,以下の 2 点を明らかにした.第 1 に運動と抗議対象の関
係に着目する必要があることを示した.運動組織は目的の達成可能性,あるいは抗議対象
との関係を勘案して,トランスナショナルに展開をするか否かを決定する.第 2 にトラン
スナショナル化に必要な文化的な資源,すなわち,参加者の「経験」や「知識」を運動が
有しているか(活用できるか)否かに着目することの重要性を示した.
4:陳報告
本報告は,3.11 以降台湾における原発反対運動の再起に注目し,団体の活性化を中心に
運動過程を考察した.その結果,二重のモデルとしての日本で起きた事故への衝撃が根底
にあり,運動の周縁にいた「素人」のさまざまな SNS を活用した意思表明を促進した.そ
のうえで,当局への不満の受け皿としての市民団体の間の緩やかな連帯と,長期にわたる
運動の蓄積が 3.11 以降の再起につながったことが明らかになった.
5:佐藤報告
気候変動問題の情報はグローバルに展開し共有される一方,問題への認識やその対策の
あり方は各国によって大きく異なる.本稿では日本の気候変動政策に関わる 72 団体を対象
にした調査票調査をもとに,日本の国内団体が海外団体とどのように情報共有を行ってい
るのかを分析した.その結果,国内団体と海外団体との間にどのようなネットワークが築
かれるのかが,日本の気候変動政策形成における対策アイデアの流通に大きな影響を及ぼ
すことが明らかになった.
③ワークショップの成果など
成果は以下の二つである.第一に,グローバル化以降の社会問題を検討する上で重要な
ことは,その問題と密接にかかわるローカル地域をつぶさに観察する必要があることを示
した点である.例えば,森報告では,第二次大戦以降の基地政策が今なお,現代の日独に
おける米軍基地政策に未だ決定的な影響を与えていることを明らかにしている.龍野報告
では,ローカルでの運動をとりまく環境が,運動のトランスナショナル化に影響している
ことを示した.さらに陳報告では,台湾での 3.11 反原発運動が,それ以前から展開されて
きた運動が基盤として存在していたことを明らかにしている.
第二に,一見,グローバルな社会問題として複数国で共通の課題とされる現象ではあっ
ても,その内実は異なることを明らかにした点である.
小杉報告では,グローバル化が大きく躍動した 90 年代以前からすでに,国家を越えた問題
意識の共有と特定国家特有の問題意識があることを浮き彫りにした.また,佐藤報告では,
気候変動問題の情報はグローバルに展開し共有される一方,問題への認識やその対策のあ
り方は各国によって大きく異なることを示しつつ,国家横断的なネットワークの形成が,
日本の気候変動政策形成にいかなる影響を及ぼすのかを示した.
本ワークショップで得られた成果をもとに検討することで,グローバル社会における社
会問題を解き明かしていきたい.