JP 2006-255319 A 2006.9.28 (57)【 要 約 】 【課題】 医科および歯科分野で使用される生体活性にすぐれたインプラントの製造方法 の提供。 【解決手段】 チタンまたはチタン合金を酸により表面に凹凸を形成したのち、アルカリ 処理し、さらにアパタイトを被覆することを特徴とするアパタイト被覆生体活性インプラ ントの製造方法および該方法により製造された、チタンまたはチタン合金を含むアパタイ ト被覆生体活性インプラント。 【選択図】 なし (2) JP 2006-255319 A 2006.9.28 【特許請求の範囲】 【請求項1】 チタンまたはチタン合金を酸により表面に凹凸を形成したのち、アルカリ処理し、さら にアパタイトを被覆することを特徴とするアパタイト被覆生体活性インプラントの製造方 法。 【請求項2】 酸として高濃度の塩酸、硫酸、リン酸、フッ酸、硝酸またはこれらの混合酸を使用する ことを特徴とする請求項1記載のアパタイト被覆生体活性インプラントの製造方法。 【請求項3】 アパタイトの被覆がカルシウムイオンを含有する水溶液およびリン酸イオンを含有する 10 水溶液に交互に浸漬することにより行われる請求項1または2に記載のアパタイト被覆生 体活性インプラントの製造方法。 【請求項4】 請求項1から3のいずれか1項に記載の方法により製造された、チタンまたはチタン合 金を含むアパタイト被覆生体活性インプラント。 【請求項5】 チ タ ン ま た は チ タ ン 合 金 の 表 面 に 酸 処 理 に よ り 、 孔 径 0.1∼ 10μ mの 凹 凸 を 形 成 さ せ 、 さ らにアルカリ処理を施しアパタイトが析出し易くなるように加工したチタンまたはチタン 合金をカルシウムイオンを含有する水溶液およびリン酸イオンを含有する水溶液に交互に 浸漬することによりアパタイト被覆を形成させた、チタンまたはチタン合金を含むアパタ 20 イト被覆生体活性インプラント。 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、チタン表面を酸およびアルカリにより処理し、表面にアパタイト被膜を形成 させた生体活性インプラント材料に関する。 【背景技術】 【0002】 チタンは硬組織代替用材料として整形外科、口腔外科、歯周外科領域に広く応用されて おり、チタンの臨床応用は年々増加傾向にある。これは生体内での耐食性がきわめて良好 30 であることが理由の一つとしてあげられる。さらに、その表面の生体活性を高めるための 各種コーティング法が開発されている。一方、チタンは濃塩酸や濃硫酸のような還元性の 酸には侵されやすいことが知られている。 【0003】 チタンヘのアパタイトコーティングはプラズマコーティングが最も一般的であり、市販 品の多くはこの方式を取り入れている。しかし、プラズマコーティングに用いる装置は大 型で騒音も大きく、高価で、歯科医療のような患者毎のオーダーメード医療をするために 、個人的に購入し処理することは困難であった。 【0004】 また、アパタイトのチタン表面全体への回り込みが悪く、複雑な形態の基板に対する均 40 一 な コ ー テ ィ ン グ は 困 難 で あ っ た 。 ま た 、 2000℃ 以 上 の 高 温 か ら ア パ タ イ ト が 冷 却 さ れ る ため熱応力の残留による亀裂の発生が危倶され、実際に臨床における多くの剥離の例が報 告されている。また、化学的なコーティング方法も種々報告されており、代表的なものに 、 チ タ ン ヘ の ア ル カ リ 処 理 を 利 用 し た も の (特 許 文 献 1 お よ び 2 等 を 参 照 )、 陽 極 酸 化 処 理 (特 許 文 献 3 等 を 参 照 )が あ る 。 し か し 、 臨 床 で 広 く 応 用 さ れ て い る わ け で は な い 。 一 方 、 高分子へのアパタイトコーティングについても多数報告されており、リン酸イオンを含む 溶液とカルシウムを含む溶液に交互に浸漬してコーティングする交互浸漬法が良く用いら れ て い る (特 許 文 献 4 か ら 7 等 を 参 照 )。 し か し 、 基 材 が 高 分 子 で あ る た め 応 力 が 大 き く 負 荷される部位には適用困難であり、硬組織基材は金属を用いる必要があった。しかし、チ タンに交互浸漬法によりアパタイトコーティングした例はなかった。 50 (3) JP 2006-255319 A 2006.9.28 【0005】 【 特 許 文 献 1 】 特 開 2000-60958号 公 報 【 特 許 文 献 2 】 特 開 2002-102330号 公 報 【 特 許 文 献 3 】 特 開 平 7-31627号 公 報 【 特 許 文 献 4 】 特 開 2004-26653号 公 報 【 特 許 文 献 5 】 特 開 2004-8634号 公 報 【 特 許 文 献 6 】 特 開 2003-696号 公 報 【 特 許 文 献 7 】 特 開 2000-327314号 公 報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 10 【0006】 本発明は、医科および歯科分野で使用される生体活性にすぐれたインプラントの製造方 法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者は、表面にアパタイト被膜を形成させたチタンを含む、生体組織との結合性に 優れたインプラント材料の製造法について鋭意検討を行った。本発明者は、チタンの高濃 度酸処理を検討し、条件によっては、チタン表面がきわめて特異的に腐食されて表面に規 則正しい凹凸が生じ、表層が活性皮膜で覆われることを見出した。この凹凸は細胞適合性 に 良 い と さ れ る 孔 径 O.1∼ 10μ mに 制 御 可 能 で あ っ た 。 さ ら に 、 ア ル カ リ 処 理 を 施 す こ と に 20 より疑似体液中でのアパタイトの析出効率が増大することを見出した。本発明では、高濃 度酸処理によって生じた多孔質とその後のアルカリ処理を含む多段階の化学処理により生 成したアパタイト皮膜を応用し、チタン製医用材料表面に機能的に活性化された改質層を 付与する方法を提供するものである。この改質法により、生体活性能に優れたインプラン ト体の製造が可能となる。 【0008】 すなわち、本発明の態様は以下の通りである。 [1 ] チ タ ン ま た は チ タ ン 合 金 を 酸 に よ り 表 面 に 凹 凸 を 形 成 し た の ち 、 ア ル カ リ 処 理 し 、 さらにアパタイトを被覆することを特徴とするアパタイト被覆生体活性インプラントの製 造方法。 30 [2 ] 酸 と し て 高 濃 度 の 塩 酸 、 硫 酸 、 リ ン 酸 、 フ ッ 酸 、 硝 酸 ま た は こ れ ら の 混 合 酸 を 使 用 す る こ と を 特 徴 と す る [1 ]の ア パ タ イ ト 被 覆 生 体 活 性 イ ン プ ラ ン ト の 製 造 方 法 。 【0009】 [3 ] ア パ タ イ ト の 被 覆 が カ ル シ ウ ム イ オ ン を 含 有 す る 水 溶 液 お よ び リ ン 酸 イ オ ン を 含 有 す る 水 溶 液 に 交 互 に 浸 漬 す る こ と に よ り 行 わ れ る [1 ]ま た は [2 ]の ア パ タ イ ト 被 覆 生 体 活 性インプラントの製造方法。 [4 ] [1 ]か ら [3 ]の い ず れ か の 方 法 に よ り 製 造 さ れ た 、 チ タ ン ま た は チ タ ン 合 金 を 含 む アパタイト被覆生体活性インプラント。 【0010】 [5 ] チ タ ン ま た は チ タ ン 合 金 の 表 面 に 酸 処 理 に よ り 、 孔 径 0.1∼ 10μ mの 凹 凸 を 形 成 さ せ 40 、さらにアルカリ処理を施しアパタイトが析出し易くなるように加工したチタンまたはチ タン合金をカルシウムイオンを含有する水溶液およびリン酸イオンを含有する水溶液に交 互に浸漬することによりアパタイト被覆を形成させた、チタンまたはチタン合金を含むア パタイト被覆生体活性インプラント。 【発明の効果】 【0011】 本発明の方法により、表面の凹凸と生体活性なアパタイトの作用により、生体組織との 結合に優れた生体活性インプラント体を得ることができる。得られたインプラント材料に より、インプラント周囲組織の早期治癒およびインプラントと生体との早期結合が実現で きる。 50 (4) JP 2006-255319 A 2006.9.28 【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 本発明において、チタンまたはチタン合金表面にアパタイトを形成するために、チタン 表面に凹凸を形成させる。 【0013】 用 い る チ タ ン と し て 、 JIS1 種 、 JIS2 種 な ど の 純 チ タ ン が 例 示 で き 、 チ タ ン 合 金 と し て 、 JIS60( 6-4合 金 ) 、 JIS61種 ( 3-2-5合 金 ) 、 15-3-3-3合 金 、 JIS11種 、 JIS12種 等 が 例 示 できる。 【0014】 チタン表面の凹凸はエッチング条件により制御可能であり、細胞接触に適する条件、レ 10 ジン接着に適する条件など目的の機能により調整できる。また、化学的処理法であるため 下地の形状を選ばず、複雑な形態を有する歯科修復物、例えばメッシュ、多孔体への適用 が 容 易 で あ る 。 図 1に 本 発 明 の 生 体 活 性 イ ン プ ラ ン ト 体 構 成 概 念 図 を 示 す が 、 酸 処 理 、 ア ルカリ処理、アパタイトコーティングの順に処理し多層膜をチタンおよびチタン合金上に 形成する。 【0015】 酸処理により、チタンまたはチタン合金の表面がエッチングされる。酸処理に用いる酸 として、塩酸、硫酸、リン酸、フッ酸、硝酸またはこれらの混合酸が挙げられる。この中 でも、硫酸が好ましい。酸処理は、上記酸の溶液にチタンまたはチタン合金を浸漬すれば よ い 。 硫 酸 溶 液 の 濃 度 は 、 10∼ 60% 、 好 ま し く は 、 20∼ 60% 、 さ ら に 好 ま し く は 30∼ 55% 20 、 特 に 好 ま し く は 40∼ 50% で あ る 。 酸 溶 液 の 濃 度 は 、 用 い る 酸 の 種 類 に よ り 適 宜 決 定 す る こ と が で き る 。 浸 漬 温 度 は 、 室 温 ∼ 90℃ 、 好 ま し く は 30∼ 80℃ 、 さ ら に 好 ま し く は 40∼ 70 ℃ で あ る 。 ま た 、 浸 漬 時 間 は 、 温 度 に よ り 異 な る が 、 15分 以 上 行 え ば よ い 。 例 え ば 40℃ の 場合、1時間以上、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上である。また、 60℃ の 場 合 、 30分 以 上 、 好 ま し く は 60分 以 上 、 さ ら に 好 ま し く は 3 時 間 以 上 で あ る 。 さ ら に 、 90℃ の 場 合 は 、 15分 以 上 、 好 ま し く は 30分 以 上 、 さ ら に 好 ま し く は 1 時 間 以 上 で あ る 。 【0016】 酸処理により、チタンまたはチタン合金の表面がエッチングを受け、凹凸が生じ、表面 粗 さ が 増 大 す る 。 凹 凸 は 、 チ タ ン ま た は チ タ ン 合 金 に 孔 径 0.1∼ 10μ mの 孔 が 形 成 さ れ て い 30 るような凹凸が望ましい。凹凸の状態は、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定す ることができる。また、表面粗さは、表面粗さ計で測定することができる。表面粗さは、 Ra( 算 術 平 均 値 ) お よ び Rz( 最 大 深 さ ) で 表 す こ と が で き る が 、 酸 処 理 を 行 っ た チ タ ン ま た は チ タ ン 合 金 の Raは 、 0.1μ m∼ 10μ m、 好 ま し く は 0.1μ m∼ 1 μ mで あ り 、 Rzは 1 μ m∼ 1 5μ m、 好 ま し く は 3 μ m∼ 10μ mで あ る 。 ま た 、 酸 処 理 に よ り 水 素 化 チ タ ン が 生 成 し 、 活 性 化している。 【0017】 酸処理により表面に凹凸が生じたチタンまたはチタン合金をさらにアルカリ処理するこ とにより、凹凸がさらに微細化され、アパタイト形成がされやすくなる。アルカリ処理に 用いるアルカリは限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることが 40 でき、好適には水酸化ナトリウムが用いられる。チタンまたはチタン合金のアルカリ処理 は、チタンまたはチタン合金をアルカリ溶液に浸漬すればよい。アルカリ溶液の濃度は、 1 ∼ 10M、 好 ま し く は 2 ∼ 8 M、 さ ら に 好 ま し く は 4 ∼ 6 Mで あ る 。 浸 漬 す る 際 の 温 度 お よ び 浸 漬 時 間 は 、 温 度 が 40℃ ∼ 80℃ 、 好 ま し く は 50℃ ∼ 70℃ 、 時 間 は 1 時 間 以 上 、 好 ま し く は 5 時 間 以 上 、 さ ら に 好 ま し く は 10時 間 以 上 で あ る 。 【0018】 アルカリ処理を行ったチタンまたはチタン合金へのアパタイトによるコーティングは、 カルシウムイオンとリン酸イオンをそれぞれ含有する水溶液に交互に浸漬すればよい。カ ルシウムイオンを含有する水溶液は、カルシウムイオンを含むがリン酸イオンを実質的に 含まない、好ましくはリン酸イオンをまったく含まない水溶液である。カルシウム溶液と 50 (5) JP 2006-255319 A 2006.9.28 しては、例えば、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム 、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸カルシウム、乳酸カ ルシウム、およびこれらの混合溶液等が挙げられ、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢 酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムの使用が望ましい。 カ ル シ ウ ム 溶 液 に お い て 、 カ ル シ ウ ム イ オ ン 濃 度 は 、 好 ま し く は 0.01∼ 10M、 特 に 好 ま し く は 0.1∼ 1 Mで あ る 。 カ ル シ ウ ム イ オ ン を 含 む 水 溶 液 の pHは 特 に 限 定 さ れ な い が 、 ト リ ス 緩 衝 溶 液 を 用 い る 場 合 に は 、 好 ま し く は pH6 ∼ 10、 特 に 好 ま し く は pH7.4で あ る 。 カ ル シ ウム水溶液は、トリスバッファー等を用いて調製すればよいし、水酸化ナトリウムや塩酸 等 に よ り pHを 調 整 し て も よ い 。 【0019】 10 リン酸イオンを含む水溶液は、リン酸イオンを含むがカルシウムイオンを実質的に含ま ない、好ましくはカルシウムイオンをまったく含まない水溶液である。リン酸溶液として は、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム 、リン酸二水素カリウム、およびこれらの混合溶液等が挙げられるが、リン酸水素二ナト リウムまたはリン酸二水素ナトリウムが最も望ましい。リン酸溶液において、リン酸イオ ン 濃 度 は 、 好 ま し く は 0.01∼ 10M、 特 に 好 ま し く は 0.1∼ 1 Mで あ る 。 リ ン 酸 イ オ ン を 含 む 水 溶 液 の pHは 特 に 限 定 さ れ な い が 、 ト リ ス 緩 衝 溶 液 を 用 い る 場 合 に は 、 好 ま し く は pH6 ∼ 10、 特 に 好 ま し く は pH7.4で あ る 。 カ ル シ ウ ム 水 溶 液 は 、 ト リ ス バ ッ フ ァ ー 等 を 用 い て 調 製 す れ ば よ い し 、 水 酸 化 ナ ト リ ウ ム や 塩 酸 等 に よ り pHを 調 整 し て も よ い 。 【0020】 20 カルシウムイオンを含む水溶液及びリン酸イオンを含む水溶液の組合せは特に限定され ず、例えば、塩化カルシウム水溶液とリン酸水素ナトリウム水溶液の組合せ、酢酸カルシ ウム水溶液とリン酸二水素ナトリウムアンモニウム水溶液との組合せ等が挙げられる。カ ルシウムイオンを含む水溶液及びリン酸イオンを含む水溶液には、他のイオンが存在して いてもよい。 【0021】 交互浸漬は、カルシウムイオンを含有する水溶液への浸漬およびリン酸イオンを含有す る水溶液への浸漬を行うことを1サイクルとした場合、2∼数百サイクル、好ましくは2 ∼ 100サ イ ク ル 、 さ ら に 好 ま し く は 2 ∼ 50サ イ ク ル 、 特 に 好 ま し く は 5 ∼ 30サ イ ク ル 行 え ばよい。なお、カルシウムイオンを含有する水溶液への浸漬およびリン酸イオンを含有す 30 る水溶液への浸漬の順序はどちらが先でもよく、最後の浸漬において、1サイクルを終了 させる必要は必ずしもない。カルシウムイオンを含有する水溶液への浸漬から始まり、カ ルシウムイオンを含有する水溶液への浸漬で終了してもよいし、リン酸イオンを含有する 水溶液への浸漬から始まり、リン酸イオンを含有する水溶液への浸漬で終了してもよい。 また、カルシウムイオンを含有する水溶液またはリン酸イオンを含有する水溶液への浸漬 の前には、チタンまたはチタン合金を精製水等で洗浄し、前の浸漬液を除去するのが好ま しい。 【0022】 カルシウムイオンを含有する水溶液またはリン酸イオンを含有する水溶液への浸漬時間 は、1回当たり、1分∼7日間、好ましくは5分∼3日間、さらに好ましくは5分∼1日 40 間、特に好ましくは5分∼数時間、例えば、5時間、3時間もしくは1時間である。トー タルの浸漬時間は上記時間を考慮して適宜選択すればよい。 浸 漬 時 の 温 度 は 、 0∼ 80℃ 、 好 ま し く は 20∼ 60℃ で あ る 。 【0023】 上 記 ア パ タ イ ト コ ー テ ィ ン グ に よ り 、 0.0001∼ 1 mmの 厚 さ の ア パ タ イ ト 層 が 形 成 さ れ る 。 【0024】 本発明のアパタイト被膜が形成されたチタンまたはチタン合金からできたインプラント 材料は、生体活性インプラント材料として、人工骨、人工歯根、骨欠損充填剤、人工関節 、血液濾過材、カテーテル、ステント等のチタン性医用材料として用いることができる。 50 (6) JP 2006-255319 A 2006.9.28 ここで、生体活性とは生体との親和性が高く、また生体との密着性が高いことをいう。 【実施例】 【0025】 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって 限定されるものではない。 【0026】 以下の検討により、高濃度酸処理を検討し、条件によっては、チタン表面がきわめて特 異的に腐食されて表面に規則正しい凹凸が生じ、表層が活性皮膜で覆われることを見出し た。 【0027】 10 1.濃硫酸によるチタンの表面改質(酸濃度と種類の影響) 表 1 に 示 す 5 種 の 高 濃 度 の 無 機 酸 お よ び 1 種 の 希 硫 酸 に 、 純 チ タ ン 板 (Kobelco、 KS-40 、 JIS-I、 20x15x1mm)を 各 条 件 の 温 度 と 時 間 で 浸 漬 し た 。 水 洗 ・ 乾 燥 後 、 表 面 粗 さ 計 (東 京 精 密 、 Surfcom130A)を 用 い て 、 Ra(算 術 平 均 値 )お よ び Rz(最 大 深 さ )を 測 定 し た 。 ま た 、 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (JEOL、 JSM-5510LV)に よ り 表 面 の 二 次 電 子 像 (SEM)を 観 察 し た 。 さ ら に 、 X 線 回 折 装 置 (リ ガ ク 、 RINT2500)に よ り 表 面 の 結 晶 相 を 定 性 分 析 し た 。 比 較 の た め 、 サ ン ド ブ ラ ス ト 装 置 (松 風 、 Hi-blasterII)で 75μ mの ア ル ミ ナ を 用 い て チ タ ン 板 表 面 を サ ン ド ブ ラ ス ト 仕 上 げ し た 。 ま た 、 反 応 過 程 を 検 討 す る た め 、 溶 液 中 の 沈 澱 物 質 を 500℃ で 2 時 間 焼 成 し た 粉 末 を X線 回 折 お よ び フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 分 析 (JASCO、 FT/IR-460p1us)に よ り 定 性 分 析 し た 。 図 2 に 示 す よ う に 、 60℃ に 加 温 し た 濃 硫 酸 で エ ッ チ ン グ す る と 、 サ ン ド ブ 20 ラスト処理した場合よりも、表面粗さは大きくなった。フッ酸を用いた場合、室温で浸漬 し て も 激 し く 発 泡 し た た め 、 1分 で 実 験 を 終 了 し た が 、 濃 硫 酸 ほ ど の 表 面 粗 さ は 得 ら れ な かった。濃リン酸、濃塩酸、濃硝酸の場合は、表面粗さの増大は小さかった。図3に純チ タ ン 板 を 濃 硫 酸 (48% 、 60℃ 、 1 時 間 )で 処 理 し た 後 の 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 ( SEM) 写 真 を 示 す が 、 濃 硫 酸 で 処 理 し た 場 合 、 粒 界 が 大 き く エ ッ チ ン グ さ れ 、 粒 内 は 約 1 ∼ 2 μ mの 直 径 の孔が生じて、多孔質の表面状態を呈した。すなわち、エッチング時間の増加に伴いエッ チングされる深さが増大しているのがわかる。断面観察の結果からも、最大深さは表面粗 さ の 測 定 結 果 と 同 様 に 約 10μ mで あ っ た 。 他 の 酸 で は 、 こ の よ う な 多 孔 質 表 面 は 観 察 さ れ な か っ た 。 X線 回 折 の 結 果 か ら 、 濃 硫 酸 、 濃 塩 酸 、 濃 リ ン 酸 で 処 理 し た 表 面 に は TiH2 が 生 成 し て い た 。 濃 硝 酸 、 希 硫 酸 で は 、 TiH2 の 生 成 は 認 め ら れ な か っ た 。 フ ッ 酸 で は 、 TiH2 だ けではなく、他の未知物質が生成していた。またチタンを浸漬した後の濃硫酸は紫色を呈 し 、 そ の 沈 澱 物 の 500℃ 焼 成 体 は TiOS04 と 同 定 さ れ た 。 以 上 の こ と か ら 加 温 し た 濃 硫 酸 に チ タ ン を 浸 漬 す る と 、 表 面 の 不 動 態 被 膜 が 還 元 さ れ 、 Tiは TiH2 を 生 成 し な が ら 、 Ti-SO4 と なって溶解するものと考えられた。この溶解により純チタン表面を多孔質にすることが可 能であり、また、その多孔質の制御も容易であると判断された。 【0028】 30 (7) JP 2006-255319 A 2006.9.28 【表1】 10 【0029】 2.濃硫酸によるチタンの表面改質(濃硫酸による温度と時間の影響) 純 チ タ ン 板 を ア セ ト ン 中 で 超 音 波 洗 浄 し 、 室 温 に て 乾 燥 後 、 重 量 測 定 を 行 っ た 。 次 に 48 % 硫 酸 に 、 純 チ タ ン 板 (Kobelco、 KS-40、 JIS-1、 20x15x1mm)を 表 2 に 示 す 各 条 件 の 温 度 と 20 時間で浸漬後、蒸留水で水洗乾燥後、重量測定を行い、浸漬前後の重量差から重量減少量 を 求 め た 。 さ ら に X線 回 折 (XRD、 リ ガ ク R1NT-2500)、 ま た 表 面 粗 さ 計 (東 京 精 密 、 Surfcom1 30A)を 用 い て 、 Ra(算 術 平 均 値 )お よ び Rz(最 大 深 さ )を 測 定 し た 。 さ ら に フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 光 度 計 (JASCO、 Ft/IR-460 plus)に よ り 定 性 分 析 を 行 い 、 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (JEOL、 JS M-5510LV)に よ り 表 面 の 二 次 電 子 像 (SEM)を 観 察 し た 。 【0030】 図 4 は 表 2 で 示 す 各 条 件 の 温 度 と 時 間 に お け る 重 量 減 少 量 を 示 す 。 RT(室 温 )で は 8 hrま で ほ と ん ど 変 化 が み ら れ ず 、 長 い 誘 導 期 間 が み ら れ る 。 40℃ で は 1hrま で ほ と ん ど 変 化 が み ら れ ず 、 そ の 後 3hrま で 大 き な 重 量 減 少 を 示 し 、 そ の 後 の 変 化 量 は 緩 や か と な っ た 。 60 ℃ の 場 合 に は 、 0.5hrか ら 変 化 が み ら れ 、 1 hrま で さ ら に 大 き な 変 化 を 示 し 、 そ の 後 の 変 30 化 量 は 緩 や か と な っ た 。 90℃ の 場 合 は 60℃ の 場 合 よ り も さ ら に 急 激 な 重 量 減 少 を 示 し た 。 したがって、浸漬温度の上昇に伴い誘導期間は短くなり、重量減少速度は速くなり、溶解 量 も 増 加 す る 傾 向 を 示 し た 。 図 5 は 濃 硫 酸 ( 48% ) の 温 度 を 変 え た 場 合 の 表 面 粗 さ (Ra:算 術 平 均 粗 さ 、 RZ: 最 大 深 さ )の 変 化 を 示 す 。 図 4 に 示 す 重 量 減 少 量 と 同 じ 傾 向 を 示 し た 。 すなわち、重量変化量と表面粗さはそれぞれ相関を示し、温度上昇、時間経過に伴って、 両値ともに変加速度及び変化量が増加した。また、温度が高い方が、短時間で表面粗さが 大 き く な る こ と が わ か る 。 ま た 、 XRDの 結 果 よ り 、 こ の 誘 導 期 間 は チ タ ン 表 面 の 不 動 態 被 膜 で あ る TiO2 の 溶 解 に 要 す る 時 間 で あ り 、 そ れ 以 降 Tiが TiH2 を 生 成 し な が ら 溶 解 し て い く も の と 考 え ら れ た 。 さ ら に 、 SEM観 察 に よ り 、 各 温 度 で の 誘 導 期 間 が 経 過 し た 後 、 腐 食 が 急 激 に 進 行 し て い る こ と が 確 認 さ れ た 。 以 上 の 結 果 よ り 、 純 チ タ ン の 表 面 は 48% 硫 酸 に よ り著しく腐食され、その表面は多孔質となるが、浸漬温度と浸漬時間により表面状態は大 きく変化した。 【0031】 以 上 の 結 果 よ り 、 エ ッ チ ン グ 条 件 に よ り 、 表 面 の 凹 凸 は 細 胞 適 合 性 に 良 い と さ れ る O.1 ∼ 1Oμ mに 容 易 に 制 御 可 能 で あ る 。 【0032】 40 (8) JP 2006-255319 A 2006.9.28 【表2】 10 【0033】 3.高濃度酸エッチングによるチタンの表面改質(アルカリ処理に与える影響) 純 チ タ ン 板 (Kobelco、 KS-40、 JIS-I、 20x15x1mm)を ア セ ト ン 中 で 10分 聞 超 音 波 洗 浄 し 、 室 温 に て 乾 燥 し た 。 次 に 、 ( 1 ) 5M-NaOH水 溶 液 に 50℃ 、 24時 間 浸 漬 (以 下 AA)、 ( 2 ) 5 M -NaOH水 溶 液 に 60℃ 、 24時 間 浸 漬 後 、 600℃ 、 1O分 間 真 空 焼 成 (以 下 AV)( 3 ) 48% 硫 酸 水 溶 液 に 6O℃ 、 1 時 間 浸 漬 後 、 (1 )の 操 作 を 行 っ た ( 以 下 AAA) ( 4 ) 48% 硫 酸 水 溶 液 に 60℃ 20 、 1時 間 浸 漬 後 、 ( 2 ) の 操 作 を 行 っ た (以 下 AAV)。 そ の 後 、 そ れ ら の 試 料 を 1 週 間 ま た は 3 週 間 37℃ の 擬 似 体 液 (SBF)中 に 浸 漬 し た 。 そ れ ぞ れ の 試 料 は 室 温 に て 水 洗 乾 燥 後 、 X線 回 折 (XRD、 リ ガ ク RINT-2500)、 顕 微 フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 光 度 計 (JASCO、 Ft/IR-460 plus) 、 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 (JEOL、 JSM-5510LV)に よ り 状 態 分 析 を 行 っ た 。 【0034】 図 6 に AA、 AAAお よ び AAVの SBF浸 漬 前 の XRD図 形 を 示 す 。 AAお よ び AAAで は チ タ ン 酸 ナ ト リ ウ ム に よ る 回 折 線 が 明 確 に 認 め ら れ 、 AAAは AAよ り も そ の 生 成 量 が 多 い こ と と 推 測 さ れ る 。 ま た 、 AAAで は AAで 測 定 さ れ な か っ た 水 素 化 チ タ ン の 存 在 が 確 認 さ れ た 。 AAVで は 水 素 化チタンは確認できなかったことから、水素化チタンは真空焼成を行うと消失すると考え ら れ る 。 ま た 、 SBF浸 漬 後 の XRD図 形 で は 全 て の 試 料 に お い て ア パ タ イ ト の 存 在 は 確 認 で き 30 な か っ た 。 図 7 に AAAの SBF3 週 間 浸 漬 後 の 顕 微 FTIRス ペ ク ト ル を 示 す 。 FTIRで は XRD測 定 で き な か っ た ア パ タ イ ト の 存 在 が 1030cm - 1 付近の吸収ピークが確認された。これは生成さ れ た ア パ タ イ ト が 結 晶 性 の 低 い ア モ ル フ ァ ス の 状 態 で あ る た め と 考 え ら れ る 。 ま た 、 1400 ∼ 1500cm - 1 付近に炭酸に起因する吸収ピークが認められ、析出物は生体適合性の高い炭酸 含 有 ア パ タ イ ト で あ る と 考 え ら れ る 。 AAAに お い て は AAよ り 、 AAVに お い て は AVよ り 多 く の 析 出 物 が 観 察 さ れ た 。 こ の 析 出 物 は ア パ タ イ ト で あ る と 思 わ れ る が 、 ま た 、 AAAと AAVを 比 較 す る と AAAの 方 が よ り 多 く の 析 出 物 が 観 察 さ れ た 。 以 上 の 結 果 よ り 、 48% 硫 酸 水 溶 液 に よ り チ タ ン の 表 面 改 質 を 行 う と 、 水 素 化 チ タ ン が 生 成 す る こ と 、 こ の 表 面 に 5M水 酸 化 ナ ト リウム水溶液で処理を施した場合、チタン酸ナトリウムの生成量が増大することが確認さ れた。したがって、チタンをアルカリ処理する前に硫酸エッチングを行うことにより、ア 40 パタイト形成能に優れた生体活性表面層の形成を促進することが判明した。 【0035】 さ ら に 、 こ の 酸 処 理 し た チ タ ン 表 面 に ア ル カ リ 処 理 (5M NaOH、 60℃ 、 1時 間 )し た チ タ ン メ ッ シ ュ (#120)表 面 お よ び そ の 表 面 に 1O回 交 互 浸 漬 に よ り ア パ タ イ ト を 析 出 さ せ た 表 面 の 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 写 真 を 図 8 に 示 す 。 酸 処 理 に よ っ て 作 製 さ れ た 凹 凸 (図 8 左 )が ア ル カ リ 処 理 に よ り さ ら に 微 細 化 さ れ た 網 目 構 造 が 形 成 さ れ て い る (図 8 左 )。 こ の 処 理 面 を 室 温 の リ ン 酸 水 素 ナ ト リ ウ ム 水 溶 液 (200mM)と 塩 化 カ ル シ ウ ム 溶 液 (500mM)に 1O分 間 づ つ 1O回 交 互 浸 漬 し た 場 合 、 ア パ タ イ ト が 効 率 的 に 均 一 に 生 成 さ れ た (図 8 右 )。 ア パ タ イ ト の 存 在 は フ ーリエ変換顕微赤外分光光度計により確認した。浸漬回数が多い方がアパタイト生成量は 多くなった。 50 (9) JP 2006-255319 A 2006.9.28 【図面の簡単な説明】 【0036】 【図1】本発明の生体活性インプラント体構成を示す図である。 【図2】濃硫酸によるエッチングまたはサンドブラスト処理したチタン表面の表面粗さを 示す図である。 【 図 3 】 純 チ タ ン 板 を 濃 硫 酸 (48% 、 60℃ 、 1 時 間 )で 処 理 し た 後 の 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 ( SE M) 写 真 で あ る 。 【図4】濃硫酸処理温度および時間がチタン重量減少に及ぼす影響を示す図である。 【 図 5 】 濃 硫 酸 ( 48% ) の 温 度 を 変 え た 場 合 の 表 面 粗 さ (Ra:算 術 平 均 粗 さ 、 RZ: 最 大 深 さ )の 変 化 を 示 す 図 で あ る 。 10 【 図 6 】 AA、 AAAお よ び AAVの SBF浸 漬 前 の XRD図 形 を 示 す 図 で あ る 。 【 図 7 】 AAAの SBF3 週 間 浸 漬 後 の 顕 微 FTIRス ペ ク ト ル を 示 す 図 で あ る 。 【 図 8 】 1O回 交 互 浸 漬 に よ り ア パ タ イ ト を 析 出 さ せ た チ タ ン 表 面 の 走 査 型 電 子 顕 微 鏡 写 真 である。 【図1】 【図3】 【図2】 【図4】 (10) 【図5】 【図7】 【図6】 【図8】 JP 2006-255319 A 2006.9.28 (11) JP 2006-255319 A 2006.9.28 フロントページの続き (51)Int.Cl. A61F FI 2/84 (2006.01) テーマコード(参考) A61F 2/28 A61F 2/30 A61L 29/00 Z A61M 29/02 Fターム(参考) 4C081 AB02 AB04 AB05 AB06 AC08 AC16 BC01 CF03 CG02 CG03 DA01 DB07 DC03 DC14 EA02 EA06 4C097 AA01 AA03 BB01 CC02 DD07 DD10 MM03 4C167 AA50 BB06 GG23 GG26
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