フリー2 ワーク電子機器産業レポート

れつつあります。電子機器産業でいえば、アップル社やサムスン社が中国
の下請け工場での児童労働をめぐって批判を浴びたり、コンゴ民主共和国
で産出される「紛争鉱物」をアメリカの証券取引委員会が禁止したりとい
ったニュースが伝えられ、どの企業も無関心ではいられない状況です。
Introduction to Free2Work Electronics Industry Trends Japanese Version
トゥー
『フリー2ワーク電子機器産業レポート――バーコードの裏の真実』
の発表にあたって
【フリー2ワークプロジェクトとは】
「労働者や働く子どもの苦しみによって作られたモノを使いたくない」と
いう消費者の願いに応えると同時に、一般の人々に問題を知らせ意識を高
めるため、そして企業に対してはその行動を見直し、より良い倫理基準で
ブランド力を上げる努力を促すために、アメリカの人権団体《Not For
Sale》*は 、《国際労働権利フ ォーラム( International Labor Rights
Forum)》と共に、6年前に《Free2Work》というプロジェクトを立ち上
げました。
【製造業と奴隷労働=問題の背景】
スマホやパソコン、テレビやカメラといった電子機器は、今や私たちの生
活に欠かせないものですが、誰がそれを作っているのかと問われれば、意
外と知らないことに気づきます。ブランド名はわかっても、実際に作って
いるのはその社員ではありません。製品が最終的な形になって出荷される
工場すら国名以外はよくわからず、ましてやひとつひとつの部品を誰がど
こで作っているのか、それらの原料になる金属を誰がどこで採掘し加工し
ているのかという情報に至っては、メーカーのウェブサイトを見ても開示
している企業はほとんどありません。
【フリー2ワークの評価方法】
ブランドごとに CSR レポートなどを精査して、その企業が自社およびサ
プライチェーンにおいて労働者の人権にどれほど配慮した製品作りを行
っているかを4分野 61 のチェック項目で審査し、A から F までの「成績」
をつけて発表するというプロジェクトです。
(61 のチェック項目の内容に
ついては、末尾に翻訳を掲載しています。)
実を言うとメーカー企業自身も、直接取引のある納入業者以外のことは、
よくわかっていないことが多いのです。いや知ろうとさえしていません。
その必要が無いからです。
【奴隷労働を放置することのリスク】
一方、世界中で「児童労働」「強制労働」が問題になっています。地球上
のあらゆる場所の子どもや大人が、無報酬・低報酬、長時間労働、監禁、
虐待、暴力、セクハラ、不当な借金などに苦しみながら、他の選択肢も無
いままに、人間らしい生活を否定されて働いています。彼らが働いて生み
出す製品の多くが、最終的には大手国際メーカーの製品の一部に組み込ま
れ、先進国を含む世界中の消費者の手に渡ります。つまり、私たちが今手
にしているスマホなどの製品は、世界のどこかで誰かが、奴隷労働または
それに近い状態で作った可能性があるのです。
米国務省の助成を受け国際労働権利フォーラムと共同で Not For Sale が
始めたこのプロジェクトですが、電子機器産業レポート作成のための調査
は、ほとんどオーストラリアの《Baptist World Aid Australia》*が行いま
した。そして 2012 年の終わりに初めて業界ごとの動向を報告した『アパ
レル産業レポート』が発表されたあと、2014 年初めの『コーヒー産業レ
ポート』に続き、5月にこの『電子機器産業レポート』が発表されました。
【レポート公表の目的】
ご承知のとおり世界的な電子機器ブランドにはいくつもの日本のメーカ
ーが名を連ねています。今回のレポートでも、評価対象 39 社のうち9社
が日本企業です。そこで私たち《ノット・フォー・セール・ジャパン》*
近年、国際労働機関(ILO)などの国連機関主導のもと、労働搾取や児童
労働という人権問題が、企業が配慮すべき倫理基準の一分野として注目さ
1
では、日本の消費者に奴隷労働と製造業との関わりを知らせ、また関連す
る企業には、世界中の同業他社がどのような取り組みを行っているかを参
照し今後の行動に役立ててもらうために、このレポートを日本語に翻訳し
発表することにしました。
《本レポートの目次》
はじめに 電子機器産業における搾取と奴隷労働
1 方法論
2 課題:児童労働と強制労働
3 企業の取り組み:概要
4 企業の取り組み:方針
5 企業の取り組み:トレーサビリティと透明性
6 企業の取り組み:モニタリングと指導
7 企業の取り組み:労働者の権利
【レポート作成による企業の変化】
評価の対象になった各日本企業の CSR 担当部門には、上記の Baptist
World Aid Australia が何度も連絡を取り、
無回答だった一部の企業を除き、
了解を得た上で評価を公表しています。2013 年夏に第一稿が上がった時
点では、日本企業のみならずほとんどの企業が、最終評価より1~2段階
低い評価でした。Baptist World Aid Australia とのやり取りによって新た
な内部資料が公開された結果、全体として大幅に評価が上方修正され、ま
た企業の方針や態度も明らかにされました。このことからも、本レポート
の作成自体が、企業を刺激することに役立っていることがわかります。
《本レポートの報告内容より》
・ 電子機器産業は、製造過程と原料採掘過程に児童労働・強制労働が入
り込んでいる。
・ 電子機器業界が他業界に比べて“比較的”進んでいるのは、方針(行
動規範)とトレーサビリティの分野である。
・ 業界全体で紛争鉱物を排除するための対策を取っている。ただしまだ
発展途上であり、原料がどこから来ているのかを(一部でも)知って
いる企業は 18%にとどまる。
・ 労働者の賃金への配慮は低い。「生活賃金」の保障を行っているのは
39 社中1社のみであり、それもサプライチェーンの一部にとどまって
いる。
・ 労働者の権利向上に不可欠な団体交渉権については、34%の企業がそ
れを認める「行動規範」を制定しているが、実際に団体交渉の協約を
結んでいる証拠を提示できたのは1社のみ。
トゥー
ぜひ、
『フリー2ワーク電子機器産業レポート――バーコードの裏の真実』
をご覧いただき、電子機器産業が世界の児童労働・奴隷労働とどのような
かかわりがあるのかを知ってください。そして、どの企業によって、どの
ような取り組みがなされているのかを知ってください。皆さんに、消費者
として、あるいは企業の一員として、世界の労働者の人権を守る取り組み
に参加していただければと願っています。
2015 年 4 月
ノット・フォー・セール・ジャパン
代表 山岡万里子
問い合わせ先:[email protected]
フェイスブック:https://www.facebook.com/notforsalejapan
《Not For Sale とは》
人身取引/現代の奴隷制問題の解決を目指す国際 NGO として、2007 年に
米カリフォルニア州で発足。問題の「上流」での解決を目指し、現在タイ、
オランダ、ルーマニア、そして足元のサンフランシスコで、現地 NGO や
事業家と共に、社会起業的アプローチに基づいて人身取引被害者支援およ
び被害防止に取り組んでいる。Free2Work は一般の人々が買い物という行
2
為によって問題解決に参加できるために NFS が開発したもの。その他、
大リーガーをはじめとするスポーツ選手に、
「プレッジ(寄付の約束)」を
通した寄付を募る《Team Not For Sale》というユニークな資金調達の試
みも成功している。
・NFS ウェブサイト:http://www.notforsalecampaign.org/
・Free2Work のサイト:http://www.free2work.org/
《フリー2ワーク チェック項目》
以下は、フリー2ワークの成績を出すにあたり、個々の企業(ブランド)
について精査する際にプロジェクトチームが使用している、具体的なチェ
ック項目(61 項目)です。
【1 方針】
〔行動規約〕
(1) 当ブランド(企業)には、サプライヤーの労働基準に関する行動規範
(以下「規範」
)があるか。
(2) 規範には児童労働の廃止が含まれているか。
(3) 規範には強制労働の廃止が含まれているか。
(4) 規範には結社の自由が含まれているか。
(5) 規範には団体交渉権が含まれているか。
(6) 規範は個人をその特性、居住地、所属組織によって差別することを禁
じているか。
(7) 規範は日常的な超過勤務を禁止しているか。
(8) サプライヤーは従業員の行動の自由、就職・離職の自由を保障するよ
う義務づけられているか。
(例:サプライヤーが従業員の身分証明書や
パスポートを差し押さえることを禁止しているか)
(9) サプライヤーは仲介手数料の使用を禁じられているか。
(10) 規範は原材料レベルを含めたサプライチェーンの各段階に適用され
ているか。
(11) 規範はサプライヤーとの契約に盛り込まれているか。
《Baptist World Aid Australia とは》
1959 年発足の国際開発援助団体で、アジア、アフリカ、太平洋地域の 17
カ国で、児童を中心とした共同体開発や災害支援などの活動を展開してい
る。過去7年にわたり労働搾取問題について産業界に働きかけを行ってお
り、2010 年からオーストラリアのアパレル産業と電子機器産業の調査を
行っている。
・ウェブサイト:https://www.baptistworldaid.org.au/
《ノット・フォー・セール・ジャパン(NFSJ)とは》
米国 Not For Sale の日本支部として 2011 年 7 月に発足。主に人身取引問
題の啓発のための講演、映画上映、イベント出展、情報発信等を行ってお
り、また《人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)
》運営委員として、政府
との対話にも参加している。米国 NFS の共同創設者/会長であるバット
ストーンの著書『Not For Sale』
(邦訳:
『告発・現代の人身売買』)の翻訳
者である山岡万里子が代表を務めている。
・ 問い合わせ先:[email protected]
・ フェイスブックページ:https://www.facebook.com/notforsalejapan
〔方針〕
(12) 労働組合や労働者の組織化に干渉しないという方針があるか。
(13) マルチステークホルダー(多様な利害関係者)連絡協議に参加してい
るか。
(14) “責任ある調達〟の実践に努力しているか。(改善のための監査は含ま
ない。各工場が良好な職場環境を作れるような、サンプリング管理、
納期と価格の管理を指す。
)
(15) サプライチェーンにおける下請け契約(内職を含む)に関する方針が
3
(24) サプライヤーが臨時雇いや契約労働者を使っているかどうかを企業
は追跡しているか。
あるか。
(下請けをさせない、あるいは下請け契約においても「規範」
の基準を遵守させる、という方針)
〔*以下、問 16 から問 61 までは、
「最終製造段階」
「部品・材料製造段階」
「原材料」の3段階について、すべての質問に答える。〕
【2
【3 モニタリングと指導】
〔モニタリング〕
(25) 1年間に内部監査によりチェックしているサプライヤーの割合。
(26) 労働基準認定評価によって第三者機関が監査しているサプライヤー
の割合。
(27) 1年間に抜き打ち調査または従業員の職場外聞き取り調査で監視し
ているサプライヤーの割合。
(28) 監査報告や行動改善計画を公開しているサプライヤーの割合。
(29) 1年間に監査しているサプライヤー全体の割合。
(30) 監査基準は外部の団体によって入念に吟味されているか。
(31) サプライヤーによる労働者斡旋業者の利用についても監視されてい
るか。
(32) 監査結果は広く公開されているか。
(33) リスクの高い国を把握し、そこでさらに徹底した監査を行っているか。
(34) これらすべてのサプライヤーを、抜き打ち調査や従業員の職場外聞き
取り調査で年に1回以上個別に監査しているか。
トレーサビリティと透明性】
(16) サプライチェーンにおける以下の段階で、当企業が追跡できる、ある
いは追跡し始めた主要生産工程をひとつ選ぶ。
(「追跡できる」とは、
企業がサプライヤーや生産国を直接把握しているという意味)
・最終製造段階
・部品・材料製造段階【*電子機器産業の場合は「製錬/部品製造段階」】
・原材料生産段階【*「鉱物採掘段階」
】
(17) 下請け業者や追跡できない生産者(わかる範囲で)を含め、当企業の
製品にかかわっているサプライヤーはどれくらいあるか。
(18) 当企業が追跡したサプライヤーはどれくらいあるか。
(「追跡した」と
は、企業がサプライヤーの名前と所在地を直接知っているという意味)
〔*注意:ここから先の「サプライヤー」とは、企業が追跡したサプライ
ヤーを指す。
〕
〔指導〕
(35) 監査者と工場管理者の双方が、人身取引、児童労働、強制労働を発見
するための指導を受けているか。
(36) 指導・研修やその他の資金的援助を通じて、サプライヤーのコンプラ
イアンス遵守を支援しているか。
(19) 当企業は、これまで把握していなかった生産者の所在地を特定しよう
としているか。
(20) サプライヤーが所在する国のリストを公開しているか。
(21) 生産が行われている国の上位5カ国はどこか。この情報が社外秘であ
れば、DOL(労働省)リストとUNODC(国際薬物犯罪事務所)
の「世界人身取引報告書」をもとに、児童労働と強制労働のリスクが
高い5ヵ国を挙げること。
(22) サプライヤーのリスト(名前と所在地を含む)を公開しているか。
(23) 直接取引のあるサプライヤーから下請け契約と下請け業者の情報を
得て、保管しているか。
【4 労働者の権利】
〔賃金と原料調達〕
(37) 従業員は生活できる賃金をもらっているか。
(38) 物価の変動にかかわらず、サプライヤーには安定した価格を保証して
いるか。
(39) サプライヤーの労働条件を、調達先選定の判断基準とするシステムを
4
取り入れているか。
(例:a)より好ましいサプライヤーのプログラム
の基準を持っている。b)サプライヤーの労働条件が全体として改善し
ていることを立証できる。
)
(40) 設立 10 年以上の企業への設問。5年以上原料を調達しているサプラ
イヤーはいくつあるか。
(41) サプライヤーとの取引をやめても、従業員が働いた分だけ賃金を支払
われることを保証するプログラムがあるか。
〔児童労働・強制労働の改善〕
(53) リスクの高い地域で児童労働や強制労働が見つかったとき、被害者を
立ち直らせる協力関係が現地にあるか。
(54) 児童労働あるいは強制労働が職場から排除されたあと、後日そのこと
を抜き打ち監査や職場外での従業員聞き取り検査によって検証してい
るか。
(55) 児童労働が見つかった場合に、その子どもに教育の機会を与え、家族
に収入の埋め合わせを提供する手立てを講じているか。
(56) 強制労働が見つかった場合、強制されていた労働者が労働市場に復帰
し、質の良い仕事に就けるよう手助けをしているか。
(57) 人身取引、強制労働、児童労働の被害者を守るために、必要に応じて
現地の当局、政府、警察、被害者支援団体と協力する用意があるか。
〔協同組合〕
(42) サプライチェーンのこの段階には、民主的に運営されている協同組合
または従業員所有の会社があるか。
(回答が「ノー」の場合は、このセ
クションは飛ばしてよい。
)
(43) 従業員か従業員に指名された者が、協同組合または上記の会社の取締
役会で役員を務めているか。あるいは経営陣の給与など、事業成績に
関する財務情報を入手することができるか。
(44) 従業員は協同組合の 50%以上、あるいは企業の 25%以上を所有して
いるか。
〔補足のリスク情報〕
(58) 米国労働省の《児童労働または強制労働によって製造された製品リス
ト》以外の第三者機関が、児童労働や強制労働のリスクを報告してい
るか。
〔労働組合〕
(45) サプライチェーンのこの段階において、サプライヤーは従業員(契約
従業員と常勤従業員を含む)を雇っているか。
(46) 独立し民主的に選ばれた労働組合を持っているサプライヤーはいく
つあるか。
(47) 団体交渉協約を実施しているサプライヤーはいくつあるか。
〔報告された課題〕
(59) サプライチェーン内で対処されていない児童労働の報告はあるか。
(60) サプライチェーン内で対処されていない強制労働の報告はあるか。
(61) サプライチェーン内で団体を組織しようとした従業員が報復を受け
たという報告があったか。
〔救済申し立て〕
(48) 救済申し立ての仕組みが機能しているか。(不満を聞くだけでなく、
苦情の原因を調査して対処しなければならない)
(49) 実効的な紛争解決制度があるか。
(50) 従業員は匿名で不満を訴えることができるか。
(51) 団体が従業員に代わって不満を訴えることができるか。
(52) その結果を開示しているか。
以上
5