電力システム改革の動向

電力システム改革の動向
特集2……●
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電力システム改革の動向
図2 電力広域的運営推進機関
(広域機関)
の役割
ある供給エリアで電力不足が発生した場合の例
電気新聞 編集局報道室
電力・エネルギーチーム 電力を供給
小林 健次
電力を供給
送電分離です。すでに第 2 段階まで法改正は終わり、
. はじめに
第 3 段階の法案が 15 年の通常国会に提出されてい
いま、電力供給体制が大きく変わろうとしています。
これまでも政府は、1995 年から 4 度にわたって段階
的に自由化の範囲を拡大する改革を行いましたが、
連絡
ます。
電力融通を指示
. 広域機関の設立と役割
電力融通を指示
電力が不足
指示
指示
東日本大震災を契機とする今回の電力システム改革
電力システム改革は今年 4 月1日の広域機関の発足
は、約 60 年ぶりの大改革と言えます。
によって幕を開けました。広域機関は、電力会社や
目的は大きく3 つあります。安定供給の確保と電
新電力など 600 社を超えるすべての電気事業者が加
気料金の最大限の抑制、電力選択の自由と事業機
入する経済産業省の認可法人で、需給調整の「司令
会の拡大です。
塔」の役目を果たします。現在は電力10 社の各供給
政府は 3 段階で電気事業法を改正し、2015 年 4 月
エリア内で需要と供給をバランスさせていますが、広
から20 年 4 月までの 5 年がかりで改革を進める予定
域機関は供給エリアをまたぐ地域間連系線をコント
です。
ロールして電気を行き来しやすくします。天候によっ
広域機関は政府から強い権限を与えられています。
とはいえ電力会社に課せられている料金規制と供
第 1 段階(2015 年 4 月)は電力広域的運営推進機
て太陽光や風力の出力が大きく変動した場合、隣の
需給状況がひっ迫すれば、発電所のたき増しや供給
給義務は当面残ります。全面自由化してすぐには電
関(広域 機関)の 発足、第 2 段階(16 年 4 月予定)は
エリアに余剰電力を流したり、逆に不足分をもらった
エリアを超えた電力融通を指示します。将来の供給
力会社を選べなかったり、実質的に選択の余地がな
小売りの全面自由化、第 3 段階(20 年 4 月めど)は発
りすることもできる見込みです。
力不足が懸念されれば、入札によって発電所を建設
い需要家に対し、従来通り電気の供給を受けられる
する事業者を募ります。発電所を広域的に活用する
ようにするためです。競争が進展すれば、2020 年 4
ために重要となる送電網の建設も進めます。
月の発送電分離と同時に撤廃される予定です。
図1 電力システム改革の流れ
(2015年4月1日実施)
電力広域的運営推進機関
(広域機関)を設置
地域を越えて送配電ネットワークを運
用。より広域的に電気をやり取りでき
るようにする
電気事業法
の改正
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電気と保安
(2015年4月1日設立)
需給ひっ迫時、
エリアを越えて
需給を調整
このほか、
●電源の広域的な活用に必要な送配電ネットワークを整備
●非常時、緊急時の需給調整機能を強化 など
. 小売りの全面自由化
第1段階
電力
システム
改革の流れ
電力広域的運営推進機関(広域機関)
2013年11月に成立
第2段階
(2016年4月実施予定)
電力小売り全面自由化
すべての消費者が電気の購入先を
選べるようになる
2014年6月に成立
第3段階
(2020年めどに実施)
電力会社の送配電部門の
法的分離(発送電分離)
電力会社の送配電部門を分社化。送
配電ネットワークをより公平に利用で
きるようにする
2015年通常国会に
改正法案提出
(4月10日時点)
2 015 年 5・6月号
その一方で電力会社は自由に料金プランを決める
ことができます。季節別・時間帯別にきめ細かく料
2016 年 4 月には小売り市場が全面自由化されます。
金設定を変え、節電・省エネを促すプランなどが想
現在、電力会社や料金プランを選べるのは工場・事
定されます。通信やガスなど他のサービスとの「セッ
務所ビルなどに限られていますが、家庭を含むすべ
ト販売」もあるでしょう。
ての需要家が選べるようになります。これによって地
全面自由化を1年後に控えた今、商機を逃すまい
域 独占と総 括原価方 式に守られた「一 般 電気事 業
と新電力が猛烈な勢いで増えています。新電力の登
者」
(電力10 社)という概念がなくなります。このこと
録は 2013 年 9月の100 社到達まで約13 年間かかりま
が約 60 年ぶりの大改革と言われるゆえんです。電力
したが、その後1年半で 651 社(3月31日現在)に到
会社や新電力などの電気事業者は、小売り電気事業
達しました。新電力になるのは、それほど簡単だと
者、送 配電事 業者、発 電事 業者に再 編されます。
いうことです。事業開始予定日と発電機の出力・設
電力会社の場合は 3 事業を兼業するということになり
置場所(卸電力取引所でも良い)を書いた書類を経済
ます。
産業省に届け出て、不備がなければ受理されます。
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電気と保安
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電力システム改革の動向
特集2
一般家庭なども
自由化の対象に
図3 電力小売り自由化の範囲
図4 発送電分離後のすがた
全面自由化で電力供給はこう変わる
全面自由化前
持ち株会社
全面自由化後(2016年4月実施予定)
発電会社
送配電会社
法的分離
小売り会社
電力会社から発電部門、送電部門、
小売り部門が切り離され別会社化さ
れるが、持ち株会社をつくるなどして
資本関係を持つこと
(子会社化)
は
可能。
競争
地域の電力会社
(一般電気事業者)
電気
新規参入の事業者
電気
電気
地域の電力会社
(一般電気事業者)
電気
競争により
電気料金が
下がる?
電気
新規参入の事業者
電気
消費者
電気
料金メニューの比較検討ができ、電気の購入先を選択できる
競争
家庭用は
国の認可に
よる規制料金
一般家庭など
家庭用は
国の認可
による規制
料金が残る
大・中工場オフィスビルなど
競争
すべての消費者
一般家庭など
大・中工場オフィスビルなど
新規参入の事業者
電力会社を選ぶことは
できない
競争
送配電会社が送電・配電設
備を所有し、運用する。新規
の送配電設備の計画・建設
なども行う。
新規参入の事業者
すべての消費者が電気の購
入先を選ぶことができる
経済産業省資料をもとに作成
ただし実際に小売り販売を行っている新電力は 60
止し、送配電の別会社化を求める改革のことを言い
もともと電力会社が設立を提案したもので、需要家
力損害賠償制度の見直しを含めた具体化への道筋を
社(1月現在)と、1割にも届きません。事業開始予
ます。発電・小売り部門の役員が送配電部門の役職
の選択肢を増やす小売り全面自由化にも積極的に取
早期に付けることが急務となっています。
定日を過ぎても販売を開始していない新電力は 200
を兼ねるといったことも禁止されます。送配電事業
り組む姿勢を見せています。最大の問題は、原子力
社に達しており、小売り販売を始めるハードルの高さ
の中立性を高めることで、公平な競争環境を作るこ
の再稼働がいまだ不透明なことです。
がうかがわれます。
とが目的とされています。すでに法案は閣議決定さ
競争の進展は供給力を減らす方向に作用しますの
また、いま新電力になったとしても、全面自由化
れており、政府は今国会での可決・成立を目指して
で、供給力が手薄なまま全面自由化すると安定供給
に伴って「新電力」という概念はなくなります。小売
います。
を脅かす可能性があります。広域機関が発電所を建
り電気事業者として、経済産業省にあらためて登録
発送電分離は電力会社の発電・小売り部門の経
設する事業者を募っても稼働するのは 10 年先で、安
し直す必要があります。従来の届出制とは違い、需
営の自由度を上げ、再編や協業などの経営判断をし
定供給を脅かさない仕組み作りが求められています。
要を満たせるだけの供給力を確保できるか、需要家
やすくするというメリットがあると言われますが、そ
また、全面自由化は巨額で長期にわたる原子力の投
800 社にまで増加しました。
と契約を結ぶ前に説明責任を果たせるかといったこ
れを実行するためにはいくつかの課題や懸念が残っ
資回収を困難にします。政府は原子力を「重要なベー
1930 年代に入って戦時色が濃くなると政府が統制を画策
とを審査されますので、必ずしも現在の新電力が小
ています。具体的には、安定供給を維持できる仕組
スロード電源」として活用する方針を示しており、自
し、39 年と42 年の 2 段階で国家管理体制を確立しました。
売り電気事業者になれるわけではありません。
みやルールの構築、需給状況の安定化、競争環境下
由化と原子力をどう両立するのかが問われることにな
における原子力事業環境の整備という3 点です。
ります。
. 発送電分離について
2020 年 4 月の発送電分離とは、全面自由化後に発
. さいごに
いまの電気事業体制ができるまで
日本最初の電力会社である東京電燈(東京電力の前身)は
1883 年に設立され、87 年に東京・日本橋の火力発電所か
ら送電を開始しました。その後、次々と電力会社が立ち上がり、
過当競争の時代を迎えます。1920 年代には史上最多の約
国策の発電送電会社である「日本発送電」の下、全国 9 つの
地域に配電会社を設立するというものでした。
戦後、国家管理体制は GHQ(連合国軍総司令部)の意向
競争時代にも民間が原子力事業を担えるようにす
で解体に向かいます。1951年、民間の発送電一貫の会 社
るための環境整備は、総合資源エネルギー調査会
が全国 9 つの地域に分かれ、独占的に電力を供給するという
電・送配電・小売りの 3 事業を兼業する電力会社な
電力業界は一連の改革に後ろ向きととらえられがち
(経済産業相の諮問機関)で検討が進められています。
電力 9 社体制に再編成されました。後に沖縄を加えた10 社
どに対して、発電・小売りと送配電の兼業を原則禁
ですが、必ずしもそうではありません。広域機関は
核燃料サイクル事業に対する国の関与の強化や原子
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電気と保安
2 015 年 5・6月号
体制は約 60 年間にわたって維持されてきました。
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