心 心肺蘇生法習得を機に広がりはじめたキャリア 肺蘇 習得 生法 の 東京医科大学茨城医療センター 救急看護認定看護師 スス メ 石川景子 我が国での心肺蘇生法の教育は、救急医学会、日本 ACLS 協 会、その他学会開催、消防署の救命講習会、自施設での講習会 ∼ AHA BLS コースの実際 (左がインストラクター、中央、 右が受講者)∼ などさまざまな場面でコースが開催されています。私はその中 の日本 ACLS 協会のインストラクターとして活動し、心肺蘇生 とにしました。そこで分かったことは、AHA の教育は特に質を 法の教育に携わって 10 年目になります。 重視しており、さまざまな研究をもとに改良を重ねた教育方法を 日本 ACLS 協会とは、アメリカ心臓協会(以下 AHA:American 確立し、統一した指導を行っていることでした。その背景に魅力 Heart Association とする)と正式に提携した国際トレーニング組 を感じた私は何度かアシスタントで参加し、TS 長から推薦を受 織(ITC:International Training Center )で、全国に 67 の地域 け、インストラクターコースに進みました。インストラクターコー トレーニングサイト、2 つの学会トレーニングサイト(以下 TS) 、 スではインストラクターとしての基本を学び、その後、数回のア 東京、大阪、福岡、金沢のトレーニングラボ(2013 年 11 月 1 日 シスタント参加を経た後実際に受講生に指導を行ない、評価を 現在)があります。各 TS・トレーニングラボで一次救命処置の 受け合格し、晴れてインストラクターになることができました。 BLS(Basic Life Support) 、二次救命処置の ACLS(Advanced インストラクターになってから、初めて会う医師、看護師、救 Cardiovascular Life Support) 、 小 児 二 次 救 命 処 置 の PALS 急救命士、一般の方など様々な方に指導するには緊張があり、 (Pediatric Advanced Life Support)また一般向けのハートセイ 困難もありました。しかし、AHA の教育体制は教材だけでなく、 バー・ファーストエイド・CPR AED のコースを開催、BLS・ その体制によってプログラムや教育の質が維持されています。 ACLS・PALS インストラクター、トレーナー養成を行なってい 私の所属する日本 ACLS 協会は、プロバイダーコースを運営す ます。インストラクターはそれぞれ TS に所属しており、私は茨 るリードインストラクターや、コースを企画運営するコースディ 城にある TS で活動しています。以下、私の心肺蘇生法習得か レクター等の役職があり、コースの円滑な運営とインストラク ら現在までの活動についてお話させていただきます。 ターの指導をします。そしてコースに参加したインストラクター 心肺蘇生法は看護学生時代に学んでいましたが、救急の ABC やリードインストラクターが受講者の反応やアンケートを基に振 を授業で学ぶ程度でした。看護師 4 年目を過ぎた頃、 キャリアアッ り返り、お互いが指摘し合える体制になっていることで、私も常 プのひとつとして実践につながる技術を実際に学びたいと思いイ に自分のインストラクションを振り返りながら修正し、次のイン ンターネットで検索した結果、アメリカ心臓協会の AHA BLS ストラクションに繋げることができているのだと思います。また、 コースが技術中心に講習会を行っていること、また日本でもその この活動を通して他施設の医師や看護師、救急救命士たちと同 講習会が開催されているということを知りました。それが現在の じ意識を持ち、情報交換できるため、自分のキャリアアップのよ 日本 ACLS 協会のトレーニングコースでした。講習会では指導 い機会にもなっています。 者 1 人に対し受講生が 3 人、人形が 1 体と技術練習を十分に行 5 年前、私は救急看護認定看護師の資格を取得しました。そ うことができました。そのためか、受講後は実際の現場でも落ち の資格もまた、インストラクターとしての活動がなかったら取得 着いて行動、実践できるようになり、看護師としての患者さんを できなかったと思います。実際に現在インストラクターとしての 見る視点が変わってきた気がします。それと同時に、他の看護師 活動は認定看護師の活動にも密接に繋がっています。 が正しい心肺蘇生法を理解、 実践できていない現状を多く見たり、 心肺蘇生法の指針はその研究によって、5 年毎に、より蘇生 自分の経験からも、実践の現場で習得することは難しいと感じて 率が上がる方法に更新されています。私も常に BLS と ACLS いたので、その指導法を習得したいと思うようになりました。 のインストラクターとして仲間と情報交換しながら、受講者が インストラクターになるためには、まず自分が活動したい TS 実際の場面で実践できるよう指導を行っています。学ぶべきこ の講習会にアシスタントとして参加することから始まります。幸 とはまだまだたくさんあります。蘇生教育が医療者だけでなく一 運にも自分の地域に日本 ACLS 協会の TS が設立され AHA BLS 般市民にもより広く普及することを目標に、これからも活動して コースが開催されることを知り、アシスタントとして参加するこ いきたいと思います。 心 肺蘇 習得 生法 の アメリカ心臓協会 (AHA)コースを活かした 医療安全推進 スス メ 社会医療法人 石州会 六日市病院 医療安全推進室 室長 山根弘美 私がアメリカ心臓協会(AHA)の BL S を受講したのは、2004 ンストラクターが 5 名、A CL S インストラクターが 5 名いますの 年 9 月で船橋市立医療センターでした。その後、この活動を普 で、院内研修にて看護師、コメディカル、事務員の CPRAED、 及させたい気持ちで BL S インストラクターになりました。私の BL S、A CL S の受講を勧めています。毎月 1 回は BL S コース 所属しているのは「島根 ECC トレーニングサイト」です。 を開催し 2 カ月に 1 回は A CL S の開催を計画しています。当院 での BL S 受講率は 44%です。職種別の受講率を(表 2)に示し 医療安全推進室の立場から考えた取り組み てみました。 私は看護師の資格を持っていますので当然、看護師として現 場で患者と向き合って仕事をしていましたが、2010 年 4 月より 急変迅速対応チーム(RRT)作り AHA の推奨する治療システムとして、心肺停止前に異常事態 現在の配属である医療安全推進室の室長としての業務を行って を発見し、適切な処置を行うチーム(迅速対応チーム:Rapid います。 立場上、急変時対応コールがあれば現場に駆けつけることが Response Team)を組織すると良いと言われております。当 多くなりました。到着すると、現場は混乱して物品が揃っていな 院では、この RRT メンバーになるための条件として、AHA の各 い、質の高い CPR ができてない、記録がとれていないのが実情 種コース(ACLS、PALS、ACLS-EP)を修了し、BLS インス でした。そこで、2010 年 12 月から院内蘇生報告書を作成し、 トラクターであることとしています。 今後も、引き続き草の根活動で世 院内での心肺停止の原因は何かをまとめることにしました。 2010 年 12 月から 2013 年 11 月までの 3 年間の院内蘇生報告 界標準の救急蘇生法を地域に広げ 書をまとめてみると、CPA 患者で CPR を実施した 48 件中、 ていくこと、RRT のメンバー共に 院内蘇生率の向上をめざすために院 24 時間生存数は 6 件で社会復帰は 1 件でした(表 1)。 1 件の社会復帰例は、心筋梗塞が原因による心室細動で看護 内蘇生教育を行っていくこと、そし てひとりでも多くの大切な命を救え 師が発見し AED を使用し、心拍再開した症例です。 当院は高齢者が多いためか、心肺停止例の 60%は呼吸が原因 るよう努めていきたいと思います。 図 1 ●ポケットマスク設置 でした。発見して BVM が到着するまでに時間がかかることから、 まずはひとりでも人工呼吸を含めた CPR ができるようにと、各 病室にポケットマスクを設置しました。 (図 1) 心肺停止になる 8 時間前には何らかの症状があると言われて います。それなら心肺停止になる前の患者を見つけて対応でき る看護師やコメディカルの教育が必要です。当院では、BL S イ 表 1 ●院内心肺停止患者の転帰 年 患者数 自己心拍再開 ROSC(%) 24 時間生存(%) 1か月生存(%) 社会復帰(%) 2013 年 11 月 30 日現在 2011 23 17.3 4.3 8.6 4.3 表 2 ● BLS、ACLS、ハートセイバー AED の受講率(2008 年 4 月〜 2013 年 8 月まで) 部署 スタッフ数 BLS 受講者数 ACLS 受講者数 2012 18 16.6 11.1 5.5 0 2013 7 0 0 0 0 2013 年 8 月現在 ハートセイバー AED 受講者数 BLS 受講率 ACLS 受講率 ハートセイバー AED 受講率 看護部 181 89 32 61 49.1% 17.6% 34% 薬剤部・放射線・ 栄養科・検査室・ 歯科衛生士 18 6 0 1 33.3% 0% 5.6% リハビリ 15 11 1 0 73.3% 7% 0.0% 地域連携室 中央病歴室 医療安全室 18 8 1 5 44.4% 5.6% 30.8% 事務部 37 5 0 8 13.5% 0% 21.6% 心 AHA 看護師限定コース開催の必要性 富山県立中央病院集中治療室 肺蘇 習得 生法 の スス メ 石田恵 私が看護師になった昭和 60 年代は、まだ AHA(アメリカ心 このコースは、看護師の勤務体制を考慮し、毎月第 4 週の平 臓協会)のようにきちんとしたガイドラインやマニュアルに基づ 日に開催しています。平日開催としているのは、交代勤務によっ いた心肺蘇生コースはありませんでした。急変時、まだ新人の て数少ない週末の休みは家族や友人と過ごす時間を少しでも 私は先輩看護師に『とにかく心臓の上を押しなさい』と指導され、 とっていただくことが大切だと考えるからです。また、看護師は それが正しい方法なのかどうかも分からないまま先輩看護師の 仕事と家庭の両立から仕事以外のコースに参加しにくい現状が 行動の見よう見まねで対応をしていました。また、携わる医師 ありますので、子供を学校に送り出してから、あるいは保育所 ごとに蘇生の手順や薬品が異なるため、毎回のように戸惑い、 に預けてから参加できる時間帯を考慮し、10:00 開始、16:30 多大な精神的ストレスを受けながら日々の業務をこなしていまし 終了としています。受講者の家族の中には通常の日勤勤務だと た。そして何度となく急変を経験していく中で、 「本当にこれで 思っている方もいるようです。 いいのか?」と自問自答し始めていました。今にして思えば何と 私自身がそうであったように、経験があればあるほど受講に 馬鹿げた蘇生処置を行っていたのか、質の高い CPR とはほど遠 は勇気が必要になってくると思います。一定以上の年齢で自分 いものでした。 を評価されることは抵抗のあることです。しかし、受講前の多 AHA の BLS(1 次救命処置)、ACLS(2 次救命処置) に出会っ 少の緊張感はやむをえませんが、一旦この壁を越えてしまえば、 た時には、まさに「これだ!」と思いました。すでにベテランの 言葉には表せないくらい多くのことが得られると確信します。 域にあった私は同僚から指導されることもなくなり、医師から指 コースが進んでいく中、他施設の同じ職種の方と同じ目標に向 導を受けても「本当にこれって正しいの?」と疑問を感じ、新し かって話したりすることで自分を見つめ直したり、仕事のモチ いことを学ぶ機会を失っていました。多少なりとも自分の経験と ベーションが上がったり、本当に参加してよかったという気持ち プライドが傷つくことを恐れた部分があったかもしれません。い になっていくようです。アンケートなどからも、この環境は看護 つの間にか、新たな事を学ぶのに多少の勇気が必要な年齢になっ 師だけのコースだからこそ作り得るものと思います。そしてまた、 ていました。 この看護師限定コースの限定バッジが配布されることも、受講 私はまず、BL S コースを受講しました。同じチームの受講者 生の受けのよさにつながっているようです。 は医師ばかりで、 「こんなことが分からないのは看護師の私だけ 成人の救命の連鎖は 5 つの輪で成り立ちます。看護師はどの だ」と恥ずかしくて質問ができませんでした。さらに、その時の 医療職よりも心停止に遭遇する機会が非常に多いと感じていま インストラクターは自分よりひと回り以上年下の看護師でした。 す。スキルと知識があれば救える命は確実に多くなり、自信に しかし彼女はとても自信に満ちていて、私の小さなプライドや経 もつながるはずです。蘇生に携わる医師や看護師が誰であろう 験を十分に理解・尊重しながら丁寧に指導してくれました。いつ ともそのアルゴリズムは変わらず、チームが同じ手順で同じ目 しか自分の中にあったプライドは雪が解けるがごとく自然と消 的のために行動できるのです。 え、 「彼女のような活動ができたらいいな」と思うようになり、私 もインストラクターになることを決意しました。 5 つの輪をつなぐのは『あなた』です。私たちと輪をつないで みませんか。 現在、私は日本 A CL S 協会の北陸 A CL S トレーニングサイ トでインストラクターとして富山県・石川県を中心に活動してい ます。 日本 ACLS 協会で看護師限定コースへの取り組みが始まっ た頃、前述のような経験から当地域でも看護師限定のコースが あればよいのではないかとサイト長に相談し、開催する運びと なりました。そして北陸 A CL S トレーニングサイトでは BL S ヘ ルスケアプロバイダー看護師限定コースを継続開催し、平成 25 年 12 月までで全国一位の開催数を誇っています。 看護師限定コースバッジ 北陸トレーニングサイト・ 看護師限定コースのイン ストラクター 筆者:前列右端 大切な人を救いたい ~被災地の中学生から拡げる CPR 講習会~ 公立大学法人福島県立医大附属病院 救命救急センター 救急看護認定看護師 心 肺蘇 習得 生法 の スス メ 武藤博子 皆さんは、愛する人、家族、友人に万が一のことがあったとき、 命を救うことができる自信はありますか? NPO 法人福島 A CL S 協会では東日本大震災の被災地の復 興支援活動の一環として、2011 年から福島県内の中学生を対象 にした AED(自動対外式除細動器) 練習キットを用いた CPR(心 肺蘇生法)講習会(以下、CPR 講習会)を開始しました。この講 習会は、福島県や福島県教育委員会、各種学会などから支援を 受けています。 CPR 講習会の目的は、福島県内の中学生などに CPR 講習会 ▲ CPR 講習会の様子 を実施することで、正しい救命処置の普及とともに、主に虚血 性心疾患の死亡率を低下させることです。 指導には、アメリカ心臓協会の BL S、A CL S インストラクター を中心に、福島県内外を問わず、この活動に賛同する災害拠点 ◀ミニアン(CPR・AED 学習 キット)Leardal 社製 病院の医師や看護師、福島県内の消防本部の救急救命士などが あたっています。私も BL S インストラクターとして、また被災 地福島の一看護師として、この活動に強く興味をもち参加させ 考え行動する機会になっているのではないかと考えます。1 時間 ていただいています。 の授業という短い時間でもあり、講習を受けている中学生とたく 2011 ∼ 2012 年は、特に東日本大震災と福島第一原子力発電 さん会話しながら行うことはできませんが、私は一人でも多くの 所の事故で甚大な被害を受けた福島県浜通り地方にある 7 つの 中学生に、できるだけ正しい技術を身につけてもらえるよう、か 中学校と、被災地の企業にもコースを開催し、589 名の方々に ける言葉は最小限でも、最大限体を使って指導するようにして 研修を行いました。また、2013 年には同様に東日本大震災と原 います。 発事故の影響の大きい福島県北地域の中学校も対象とし、この また、中学 2 年生がこの CPR 講習会を体験し、正しい心肺 地域の中学 2 年生を中心に 7 校 822 名の方々にも研修を行いま 蘇生の技術を身につけ家族に体験を通じて伝えることで、一人 した。1 回の講習会は 1 時間程度で、心肺停止を認識したらまず への指導が両親や兄弟、祖父母などへも伝わり、講習会の効果 通報すること、正しい胸骨圧迫を行うこと、そして AED の操作 が何倍にもなることが期待されます。さらに、福島県の復興支 方法について指導しています。 援寄付や各種団体の寄付を受け、AED 講習会を受けた中学生 東日本大震災で家族、友人など大切な人々を亡くした経験を 全員に対し、練習キットを用いて両親を含めた家族全員に教え もつこの地域の中学生は、人の命の大切さ、命の尊さについて ることを条件に練習キットを無償で供与しています。このことに 何度も考えさせられたのではないかと思います。また、福島県 より、両親はわが子の成長を直に感じ、子供にとっては両親に では、今なお、原発事故の影響で家族が離散しなければならな 教えるという自信が芽生え、家族の絆もさらに深くなると信じて い状況があり、家族や友人が重要な存在であること、それを日々 います。 感じ生活していることは、想像に難くありません。中学生は、成 私自身も、東日本大震災後は特に、家族の大切さを日々感じ 人への移行期であり、身体的にも精神的にも大きな成長をする ながら看護師をしています。また、救急看護認定看護師として、 と同時に、多くのことを吸収する多感な時期でもあります。そこ 救急医療の現場に携わっています。今後も、命の大切さを伝え、 で、この CPR 講習会が、身近な家族が虚血性心疾患など突然 後世に続く人々を育て続けるためにも、また復興支援のために 命を失うかもしれないような万が一のことがあったときに、中学 も、院内外を問わず、このような活動に携わっていきたいと考え 生である自分は何をすればいいのか、どう行動すればいいのか、 ています。 心 一次二次救命処置講習会 AHA(アメリカ心臓協会)BLS / ACLS ~地域で講習会を行ってきて思うこと~ 肺蘇 習得 生法 の スス メ 医療法人光善会 長崎百合野病院 麻酔科 部長 田俊也 私は日本 A CL S 協会・ながさき A CL S トレーニングサイト長 として、 長年、 地方で BL S / A CL S 講習会を開催してきました。 活動に携わり、十数年が経ちました。医師の立場から、私見を 述べたいと思います。 BLS / ACLS 講習会の必要性 誰しも、突然の心停止やそれに近い状態に出くわせば慌てま ある日の ACLS トレーニング風景 す。一般の方はもちろん、医療従事者でも、対処法を知らなけ れば、頭が真っ白になるでしょう。さらに急変時には時間があり た。日本 A CL S 協会の歴代理事長、他地域の多くの先生方、長 ません。あらかじめ知識をもって、即座に対応することが必要 崎県医師会にも多大な協力を頂きました。2003 年末には、日本 です。 でも AHA コースが行えるようになり、2004 年春には長崎でも 現在、各地で救急講習会が盛んに行われています。すでに多 サイトが立ち上がり、今に至っています。 くの方が受講されていると思います。人間は、いつどこで急変 するかわかりません。分野を問わずプロの医療従事者であれば、 地方サイト及びインストラクターの現状 救急救命は避けては通れないスキルです。アメリカでは救急現 長崎県の人口は約 140 万人です。大都市圏と比べれば、講習 場に出るために受講が必須となっていますが、日本ではスタッ 会のニーズは数的にはさほど多くはありません。しかし、長崎は フ個人の意志に任せているところが多いようです。AHA コース 地理的に多くの離島、高速道路のない島原半島・北松浦郡を抱え に限らずとも、何らかの講習会受講は必須にすべきではと感じ ています。長崎の中心地に出にくい受講生のために、毎週のよ ます。 うに県内各地で講習会が行われています。1 回の受講生は少な いものの、地理的問題からまとめて行えないのが現状なのです。 いつ頃からこのような講習会があったのか 今では当たり前の存在となっている「BL S / A CL S 講習会」 ですが、わずか 10 数年前まではそうではありませんでした。 現在、サイトで活動しているインストラクターは 66 名。かつ て活動していて現在は資格を失効している方が 33 名いて、ちょ うど 3 分の 2 の方が残っていることになります。資格を失効し 私は 27 年目の麻酔科医です。麻酔科というと始終急変に対 た理由を調査すると、多い順から「モチベーションが続かずに自 応しているイメージがあるかもしれません。実際、私も救急部 然消滅」 「転勤や職務内容が変わって続けられない」 「妊娠して のドクターほどではないにしろ、急変時に対応することが多くあ 続けられない」 「子育てが忙しくなり続けられない」 「病気になっ ります。私の若い頃は急変対応のトレーニングがなく、ガイドラ た」というものでした。若い方は、どうしても出産や子育てが壁 インへの意識づけも薄いものでした。指導医が違えば対応も違 になります。 うのが当たり前。下っ端としては、いつも混乱していました。 私は長年このサイトのマネジメントを担当しており、本来の 私が A CL S トレーニングを知ったのは 1998 年頃のことです。 仕事に加えてインストラクターを継続する負荷の高さを改めて 近県の大学麻酔科で、若い先生たちが急変対応のトレーニン 実感しました。しかし同時に、静かに、かつ堅実に活動を続け グをやっている、と聞いて見学に行きました。そこで見た「ガイ ている大勢のインストラクターの方に支えられていることも実感 ドラインに則った、統一された手技の流れ」は衝撃的でした。当 します。 時の私は大学で教える立場でしたが、自分も周りもそうした「統 一された普遍的処置」からかけ離れていることに愕然としまし た。当時は大学でさえ、そんな状態だったのです。 すぐに長崎県の有志が集まり、A CL S 講習会を立ち上げまし 今後も、①長崎県の救命率向上への寄与を統計的に評価する、 ②一般市民向けコース増強する、という2つのことに取り組みな がら、仲間とこつこつと活動を続けていこうと思っています。 心 肺蘇 習得 生法 の BLS での学びを臨床へ スス メ 東海大学医学部付属病院 救急看護認定看護師 五十嵐佑也 私は救命救急センターで勤務をする 10 年目の看護師です。か と感じたそれは、 「ポジティブフィードバック」という手法である つて遭遇したある出来事をきっかけに「心肺蘇生法をもっと詳し こともこの年に知りました。できている事は「できている」と口に く知りたい、できるようになりたい」と思い、AHA(アメリカ心 出して評価し、より良くするためにはどうしたらいいのかを共に 臓協会)の BL S プロバイダーコースを受講しました。現在は神 考える、この考え方は BL S 教育だけではなく普段の看護業務の 奈川県西部を拠点とする「丹沢・ 大山トレーニングサイト」でイ 「楽 中でも非常に重要だと思います。私が BLS コースを受講して ンストラクターとして活動しています。 しい」と感じた気持ちを、臨床でスタッフに感じてもらうにはど うすればいいのか、日々考えています。 看護師 2 年目に遭遇した出来事 看護師になって 2 年目のこと、夜勤中に自分の受け持ち患者 エビデンスのある看護と適切なフィードバック が急変して心肺停止状態となってしまいました。医師と私と先 まだ結論は出ていませんが、重要なことは「エビデンスのある 輩看護師で対応しましたが、何をすればいいのか全くわからず 看護」と「フィードバックのタイミング」ではないかと思います。 右往左往していると、 「○○持ってきて」 「薬準備して」 「B VM 看護師が行う業務には「エビデンスは確立されているものの、実 で補助呼吸して」と医師や先輩看護師が指示してくれました。し 施者がそれを知らずに漫然と行っているもの」が少なくありませ かし、物品の場所がわからず、薬も何を使用するかもわからず、 ん。例えば、寝たきり患者を椅子に座らせる場合。 「座る」とい B VM で人工呼吸しようにも空気が漏れて換気ができませんでし う姿勢が身体に与える良い影響は多くありますが、そのことを た。他スタッフの手助けがあり、患者は自己心拍再開し、なん 知らず、ただ「先輩に言われたから」とか「業務だから」と思って 「急変時何もでき とか次の勤務に申し送ることができましたが、 いては、そこに「楽しさ」や「やりがい」を見出すことは難しいで なかった」 という気持ちで朝を迎えたことを鮮明に覚えています。 しょう。 「単に座らせること」が目的なのではなく、 「座ることで AHA・BL S コースの存在を知ったのはその年の事です。こん 得られる良い影響」こそが目的である、そのことを説明できる看 な何もできない私が受講しても良いのだろうか、合格できるの 護師でありたいと思います。そしてフィードバックのタイミング だろうかと非常に不安でしたが、 「また同じ過ちはしたくない」と としては、良いことをした場合はなるべく早く、できれば「即」 思い、受講に踏み切りました。コースを受講する直前までは不 褒めるべきです。そして、それが改善すべき行為だった場合、 安と緊張でいっぱいでしたが、受講後の率直な感想は「楽しかっ 共に改善策を考え、次回それが実行できたらなら「改善できたこ た」というものでした。心肺蘇生を「楽しい」と表現するのは語弊 と」を褒めることも重要です。 があるかもしれませんが、根拠のある手技を徹底して何度も繰 些細なことかもしれません。でも私はこれからも相手を「適切 り返す学習方法、2 ∼ 3 人の受講生に対して 1 体の人形・1 人の な内容とタイミングで褒める」ことを忘れず、日々活動していこ インストラクターという手厚い学習環境、胸骨圧迫をすればイ うと思います。そうすることによって看護を「楽しい」と思ってく ンストラクターが「非常にうまい」と褒めてくれて、苦手な B VM れる人が増えてくれれば幸いです。 にもアドバイスをくれ、上手にできるようになるとまた褒めてく れる温かな教え方も、 「楽しい」と感じた要因だったと思います。 人は褒められると調子に乗るもので、コース受講後には BL S に ついてもっと知りたい、できるならインストラクターのように BL S を極めたい、と思いました。 BLS での学びを臨床へ 看護師 3 年目で BL S インストラクターになることができまし た。BL S プロバイダーコースを受講した際に「褒めてもらった」 院内 BLS 講習会の一場面 心 着々と広まる「救命救急広島」 肺蘇 習得 生法 の 広島市立広島市民病院 救命救急センター スス メ 笠井有希 共に学び合う「成人学習」との出会い 私が「心肺蘇生講習会」に出会ったのは、看護師になって 10 年目の頃でした。5 年目で救命救急センターに配属となり、必要 に迫られて参加したのが始まりだったと記憶しています。 講習会は今ほど開催されておらず、県外に出かけていくこと が多かった頃でした。私はそこで本当に多くの人に出会い、感 銘を受け、たくさんの刺激を受けました。自分のために学んだ 心肺蘇生法でしたが、その知識や技術を周囲に広めていくこと が必要だと感じ、心肺蘇生法を教えるインストラクターになるこ とを目指しました。現在では、AHA(アメリカ心臓協会)トレー ニングサイト、施設内、看護協会などで活動しています。 ある時はプロ野球観戦の休憩中に。 さまざまなイベント会場で講習会を開催 この講習会との出会いで私が得たもの、それは「教えることの 楽しさ」です。この活動がなければあまり関心を持たなかったか インストラクター・受講生との出会いが、今の私を支えてくれて もしれません。 「成人学習」という言葉を耳にしたのも、インスト いると感じています。 ラクターを目指してからだったと思います。そして、人に教える 私たちには常に質の高いインストラクションが求められていま ことの楽しさ、達成感を知り、もちろん難しさも学びました。学 す。楽しく話していると、楽しい気持ちが相手に伝わります。そ 習者本人が主役であると考える「成人教育」では、 「学びのシナリ して、楽しい講習会はまた来たい、もっと学びたいという意欲や オを書くのは学習者本人であり、誰かから強制・強要されるもの モチベーションにつながるとされています。より多くの方に講習 ではなく、学びたいと思った本人が思うがままに学ぶこと」であ 会に参加してもらい、心肺蘇生法を学んでいただくために、私 ると言われています。 もそのようなインストラクターを目指し、日々自己研鑽に励んで インストラクターと受講者は「共に学び合う」という気持ちで 講習会に臨みます。私を成長させてくれているのも、この講習 います。講習会ではインストラクターの情熱も感じてもらえると 思います。 会ではないかと思っています。今では、看護師を対象とした卒 また、 「学習効果のピラミッド」として紹介されることがありま 後教育、あるいは患者教育においても、 「成人学習」理論が用い すが、さまざまな学習方法の中でも、学んだことをさらに人に教 られている事例を数多く目にします。看護師として経験を重ね えることが最も学習内容の定着率を高めるといわれています。 るごとに、後輩の育成や人材育成などの役割も増えましたが、 心肺蘇生のスキルを習得・維持するためにも、人に教えることが 心肺蘇生講習のインストラクターを通して学んだことが、今の 一番良い方法ではないでしょうか。ご興味のある方は、インス 私を支えています。 トラクターを目指してみませんか? 教えることで高まる学習定着率 一人でも多くの命を救うために 今では AHA のコースも日本に広まり、全国各地に設立された 広島のトレーニングサイトでは、NPO 法人「あなたが救う・ トレーニングサイトで各種の講習会が開かれるようになりまし 救命救急広島」の活動として、救急蘇生法に関わる講習会の開 た。心肺蘇生講習会を受けたいと思った時、身近な場所ですぐ 催支援、相談、情報提供を行っています。さらに、多くのイベ に受講できる環境が理想です。私の住んでいる広島県にも 2006 ント会場で市民の方に向けた心肺蘇生講習を実施しています。 年、多くの方々の尽力のもとでトレーニングサイトが設立され、 医療従事者のみならず、第一発見者となる可能性の高い市民の 今年で 8 年目を迎えました。当初は少なかったインストラクター 皆さまにも心肺蘇生法に関心を持ってもらい、一人でも多くの の数も徐々に増え、講習会の開催数も増えてきました。多くの 救える命を救うための力になりたいと思っています。 心 肺蘇 習得 生法 の BLS との出会い スス メ 湘南藤沢徳洲会 救急センター 看護主任 佐藤哲也 看護師としてのスタート 私は看護助手として勤務をしながら看護学校へ通い、看護師 資格を取得しました。その学生時代、手術室助手をしている時 に緊急手術の準備をする先輩看護師たちの動きを見て、 「自分も 将来あのように動けるようになるのだろうか」と、自分の無力さ に悩みました。しかし看護師になってからも、病棟の患者が急 変した際、心肺蘇生法など学んでいなかったために何も動けず BLS 講習の風景 戸惑うばかりで、蘇生の輪に入れなかったことを覚えています。 さらに数年たち ER での勤務中、混雑している ER に緊急性のあ 最初は AHABL S コースでインストラクターをしている仲間に る患者が一度に大勢来院するという状況が起こり、目が眩んだ 声をかけて BL S コースを開催し、その後、院内のインストラク のを覚えています。 「足手まといになりたくない」 、 「早く一人前 ターコースへと広げていきました。徐々に仲間を増やし、コース にならなければ」と焦りました。そして勤務終了後も珍しい症例 を定期的に開催するシステムを確立しました。業務管理上でも、 があれば残って見学させてもらったり、分からないことはすぐ調 インストラクターは「業務として指導できる」ことを認めていた べたりしました。 だくといった、病院の応援もありました。また、当院の救急セン ター部長で日本 A CL S 協会湘南トレーニングサイト長でもある BLS との出会い そうした中、外部の講習会で、当時 AHA の公認資格となっ 北原浩先生に資料を作成していただき、直々に講義していただ くこともありました。このような活動を一年間続けたところ、病 た BL S コースを受けました。そして BL S は継続することが大 院内急変時には医師だけでなく看護師も当然のように集まり、 事であるとの教えを受け、その後もアシスタント参加で活動を AED を持ってきて装着できるようになりました。 継続しました。トレーニングサイトの上司に認められ、インスト ラクターコースを受講し、インストラクターとして活動すること もできるようになりました。 まずは BLS、そして継続すること ER での業務で感じることは、バイスタンダー CPR をされて いない CPA の患者は助からないということ、そして高齢の 病院内外での活動 CPA の患者の CPR はむなしいということです。A CL S の教育 そのころから、AHA の活動とは別に、勤務する病院内で新人 は大切です。しかし、BL S の普及はそれよりももっと大切であ 教育・病棟看護師向けの BL S 講習の依頼を受け、院内講習を開 ろうと感じます。蘇生後のケアの重要性を教えている 2010 ガイ 催するようになりました。当時はまだ、看護師が AED を使用す ドラインですが、蘇生後・ICU 管理の中の低体温療法も適応に ることに抵抗があった時代でした。さらに地域の住民向けに医 なる症例が少なく感じます。それはバイスタンダー CPR の文化 療講演を行うなど、茅ヶ崎、藤沢周辺の心肺蘇生法の啓発活動 がないからです。これからは医師だけでなく、患者の最も近い をすることもできました。AHABL S コースを受講しインストラ 存在の看護師、院外であれば一般市民向けの BL S 講習をして クターになったことで、自分の活動の場が大きく広がっていくの いくことが大切であると思います。それが不幸にして心肺停止 を感じました。そして、可能性が見えてくるのを感じました。 された傷病者の社会復帰率を上げることになり、悲しい思いか ら、奇跡的に幸せを感じる思いへ変われるきっかけになると思 院内講習会のシステムの確立 わが湘南藤沢徳洲会病院では、来院された患者はもちろん、 います。 私は看護助手であった時の悔しい思いを今も忘れないように 患者家族、業者の方など、全ての人たちの急変時対応ができる しています。少しの訓練と少しの勉強が、自信のなさと恐怖に 組織作りを目指し、全職員向けの BL S 講習会を行っています。 打ち勝ってくれると信じ、これからも精進していこうと思います。 心 肺蘇 習得 生法 の 「ACLS 雑感」 スス メ 日本 ACLS 協会 兵庫トレーニングサイト 公立八鹿病院(総合診療科) 黒田達実 私は内科医で、日本 A CL S 協会の兵庫トレーニングサイトで A CL S インストラクターとして活動しています。 反面、あえて多職種で集まって学習することの意味を、私は いつも考えています。 私が看護師の皆さんに心肺蘇生を習得していただきたいと感 看護師の皆さんは、医師の行動をよく理解できないという経 じるのは、勤務する病院の当直勤務の際に入院中の患者さんが 験を少なからずお持ちではないかと思います。 「医師はなぜその 急変した時です。急変の連絡があって急いで病棟に駆けつける 薬剤を投与するのか・しないのか」 、 「医師はなぜその処置をする と、すでに看護師さん数人が CPR をしています。そこに医師で のか・しないのか」などです。私は処置が終わった後で、できる ある私が加わって A CL S が始まるという感じです。 だけ行った投薬や処置について看護師さんと話をするようにし その場の看護師さんとは面識が有ったり無かったりですが、 目の前の患者さんを救命しようという目的を共有した時から、職 ています。医師としてどのように考えて投薬や処置の決定をし たのかを聞いてもらうようにしています。 種の異なるこの数人の集団は「チーム」になります。医師である 現在の A CL S コースにおいてはシナリオを使ったシミュレー 私にはリーダーとしての役割が求められますが、ほとんどが初 ションの後で「デブリーフィング」 (いわゆる振り返り)を行いま 対面の患者さんであり、だいたいが普段仕事をしていない病棟 す。シミュレーションで行った処置について振り返り、さらなる です。その場の看護師さんとの良好なコミュニケーションなしに 向上のために受講生が話し合うというものです。これにより知 はうまく役割を果たせません。 識・理解を深めるのですが、私はそれ以外にも、自分と違う職種 A CL S コースではチーム蘇生を学ぶところがあります。受講 のプロバイダーが、現場でどのように考えるのかを知っていた 生の方と一緒にビデオを見たりディスカッションをしたりしてい だける機会でもあると考えています。多職種で相互の思考プロ ると、毎回その重要性を感じます。 また、心停止やその前後の救命処置には「アルゴリズム」とい セスを理解しあうことは、現場でのより良い協働に必ず役立つ はずです。 うものがあります。 「アルゴリズム」とは、ある状況(例:徐脈、 ただ、自分がどのように考えて行動したのかを自身で振り返 心停止、心停止後など)において最も推奨される行動を分かりや り、言葉に出して人に話すことはなかなか難しいと思います。 すく示したものだと私は理解しています。当然ですが、個々の 考えをまとめるのに時間がかかるでしょうし、それを発言するの 患者さんに対して救命処置を行う際には、その患者さんに固有 に少なからず勇気が必要でしょう。コースでそれをお手伝いす の部分を考慮しながら処置を行いますが、その「アルゴリズム」 るのが、私たちインストラクターであると思います。 をチームのメンバーが熟知していて、すぐに行動に移すことが 最近は本、D VD、インターネットなど学習の方法はいろいろ できるかどうかは非常に重要です。次に投与するべき薬剤を私 あります。教室で展開される A CL S コースでは、対面でないと が指示しようとしたら準備されていたり、私が勘違いしているこ 学べないことを学んでいただけるように私たちインストラクター とをタイミングよく指摘していただいたりして、処置がスムーズ は努力しています。 に進むことを度々経験します。 標準的な知識とスキルを共有したチームが、チームとしてう まく機能すると患者さんの予後が良くなることは言うまでもあり ません。 話は少し変わりますが、A CL S コースでは多職種 4 ∼ 6 人の グループで講習を行います。日本 A CL S 協会では看護師さんだ けのコースも開催していて、少しでも看護師さんが受講しやす いコースを目指しています。1 人でも多くの看護師さんに心肺蘇 生法を習得していただくことは、最終的に患者さんの利益にな ると思います。 シミュレーションを行う医師・看護師の受講生グループと 看護師のインストラクター いろいろな研修会に参加して 救急蘇生技術に自信を持てる看護師になろう! 心 東北大学病院 高度救命救急センター 副看護師長 救急看護認定看護師 肺蘇 習得 生法 の スス メ 設楽恵子 私が病院に勤務してから 20 年がたちました。 最初に配属されたのは内科病棟。消化器系のがん患者が多く、 「心電図モニターは看取りのためにあるもの」といったような認識 でした。ある晩、肝細胞がんのターミナルで重症個室に入院し ていた患者さんの意識レベルが低下し、呼吸・心停止となりまし た。 「ご家族が到着するまでは……」と胸骨圧迫を続けていた当 直医ですが、ご家族の到着後にその手を止めようとすると、ご 家族は「先生、止めないでください!」と泣きました。そうしたや りとりが繰り返され、医師はご家族が納得するまで、一人で 1 時間も胸骨圧迫を続けました。当時、このような光景は珍しくあ りませんでした。もちろん、心肺蘇生法をきちんと学んだ看護 スキルスラボでシミュレータを 用いたシナリオトレーニングと 気道管理トレーニング(気管挿 管介助)の様子 師は少ない時代でした。 2 年半が過ぎ、初の配置替えの異動先は集中治療部・救急部。 当時の師長のアドバイスもあり、希望しての異動でした。当時の 救急部は入院病床がなく、外来処置室のみ、看護師 1 人が 16 時 間勤務をする体制でした。患者さんのほとんどは救急車やウオー その後、宮城県でも心肺蘇生コースが開催されるようになり、 クインによる再来院。一人勤務なので、自分が技術を持ってい 私もインストラクターとして参加するようになりました。さらに、 ないと話になりません。危機感を覚えた私は心肺蘇生法につい 院内で研修会も企画しました。ここでは、救急看護認定看護師 て調べ、勤務先の宮城県から当時 A CL S コースを開催していた と集中ケア認定看護師、小児救急看護認定看護師の計 5 人で「ク 山梨県まで行き受講してきました。講習は目からうろこが落ちる リティカルケアチーム」を結成し、フィジカルアセスメントと急 ような内容ばかりで、 「これはぜひ皆にも受けてほしい」と、多く 変対応の研修を行っています。心肺停止時に的確に BL S が実施 の同僚に受講を勧めました。 できることはもちろん、 「心肺停止の前段階の急変を察知する」 A CL S コースは人の縁も運んでくれます。このコースで知り 合った他院の看護師とは救急看護認定看護師の受験時期も重な 「見逃さない観察とアセスメントを実施する」ことが本研修の狙 いです。 り、半年間、旧交を温めつつ、共に研修先の病院でレポートや 折しも一般の方も AED を使用する時代になり、スポーツ施設 実習に励む日々を過ごしました。全国から集まった同期 24 人の や公園、学校といった公共施設はもちろん、街の商業施設にも 絆は強く、10 年が過ぎた今も切磋琢磨する交流が続いています。 AEDが設置されるようになりました。当院内にも 40 台が設置 救急・集中治療の部署に在籍し、A CL S 講習を受けたことで、 され、BL S 習得が必須となりました。 私にとって心肺蘇生法は身近なものとなりました。院内で患者 当院にはシミュレーション教育の環境が整った「スキルスラ に急変が生じると、応援に行く機会があります。急変の場では ボ」があり、総合地域医療研修センターの医師による救急をテー 医師も看護師も大声でやりとりし、経験年数の少ないスタッフ マにしたトレーニングも開催されます。 「緊急気道管理トレーニ は萎縮したり、うまくいかないケースで後悔の念に駆られたりす ング」 「急性心不全症候群シミュレーション」 「PCPS シミュレー るようです。私自身、心肺蘇生法を学んだ後も、数少ない急変 ション」 「セプシス マネージメント シミュレーション」など、自 の場で的確な蘇生処置を期待されることは大きなプレッシャー 分が強化したいテーマを選んで受講でき、院外からの受講も可 でした。ですが、経験を重ねるうち、私がその場のスタッフを 能なので、県外から受講しに来る方もいます。こうした研修・ト 少しリードすることで、スタッフに成功体験をつくれれば、と考 レーニングを通じて、救急を得意とする看護師が増えることを えるようになりました。 願っています。 心 肺蘇 習得 生法 の 新たなステージを迎えた 日本ACLS協会の新コース展開 スス メ 北陸 ACLSトレーニングサイト 堀川慎二郎 小倉憲一 ■ 日本初「G2010PEARS プロバイダーコース」 ■ これまでのコース展開と今後 日本 A CL S 協会は 2002 年からアメリカ心臓協会(AHA)の 「P E A R Sプロバイダーコース」は、病院内外での乳児・小児の 国際トレーニングセンター(IT C)として、蘇生教育コースの全 緊急事態に対する救命処置、特に呼吸・循環に関わる病態の評 国展開を開始し、現在、全国の 70 以上のサイトで構成され、 価を中心とした医療従事者対象の 1 日コースです。乳児・小児を BL S、A CL S など 14 種類に及ぶコース活動を行っています。 重度な病態に陥らせないための体系的アプローチ法に従い、患 本年度、当協会は過去 1 年間の実績に対し、AHA から南アフリ 児急変時の初期評価、最初の 5 分間の対応を学びます。医師は カ蘇生協議会と共に Pla tinum Aw ard を受賞しました。 もちろんのこと、乳児・小児に最初に接する可能性の高い看護師・ 当協会は、2013 年 9 月 21 日、Marc D. Berg, MD(AHA 救急隊員・養護教諭など、全ての医療従事者、治療を起動する PAL S Subcommit t ee)を米国から招へいし、日本初となる ファーストレスポンダーのためのコースといえます。言い換えれ 」を開催しました。 「G 2010 PE ARS プロバイダーコース(限定) ば、その初期対応を「PAL S プロバイダー」へとつなげるための その後、今年 5 月 4 日には東京トレーニングラボにて第 1 回 コースにもなっており、その内容は成人や外傷小児にも応用で 、 5 月 5 日には公募の 「PEARS 「PEARS インストラクターコース」 きます。 プロバイダーコース(G 2010) 」が開催され、順調にコースの全 「PA L Sプロバイダーコース」のほうは、治療法にも踏み込んだ 国展開が始まりました。現在、各地域ではプロバイダーコース 2 日間のコースで、主に小児科医や乳児・小児を治療する医師、 が開催され、そのコース展開を支えるため積極的にインストラク 治療内容を知っておくべき看護師を対象にしています。 「PEARS ター養成も行い始めています。 プロバイダーコース」はその「PAL S プロバイダーコース」に盛り 込まれた初期評価を重点的に学べるよう設計され、 「PAL S」に 「A CL S」に対する「BL S」と同様に位置 対する「PE ARS」は、 づけることができます。よって、 「PE ARS」は全ての医療従事 者に向けたコースであり、 「PAL S プロバイダーコース」受講希 日本初「G2010PEARS プロ バイダーコース」の終了後 望者向けのプレコースともなります。 ■ PEARSプロバイダーコースの概要 乳児・小児を題材に人の生命危機状態に対処するための知識とスキルを学ぶ DVD 映像(実際の患児)で体系的なアプローチによる観察・評価のトレーニングとチーム蘇生 シナリオ:上気道閉塞、下気道閉塞、肺組織病変、呼吸調整障害 循環血液量減少性ショック、血液分布異常性ショック 心静止/無脈性電気活動、VF /無脈性 VT 受講条件 医師、看護師、救急救命士、養護教諭、その他メディカルスタッフなど、医療に何らかの形で 関与した仕事に従事していればよく、BLS の受講の必要はありません。 ※現在テキストは英語版です。日本 ACLS 協会では日本語補足資料(日本 ACLS 協会作成)を付けて販売しています。 PEARS Provider Manual G2010(英語版)
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