EDIシステムの将来構想 - 一般社団法人 日本航空宇宙工業会

平成27年5月 第737号
EDIシステムの将来構想
1.全体概要
の設計」に引き続き、平成11、12年度に「防
本会誌平成27年1月号に記載の通り、ATA
衛庁CALS共通基盤システム」に対応した民
e-Business ForumにおいてSpec2000ベースの
側のシステムである「防衛調達CALS」の開
EDI(EDI:Electronic Data Interchange)につ
発を(財)情報処理開発協会から受注し、平
いてルフトハンザテック社が報告している
成12年11月に納入を完了した。開発された資
が、航空機製造業界のEDIである、日本の航
産は、(一社)日本航空宇宙工業会と独立行
空機業界EDIシステムにおいても各種の課題
政法人情報処理振興事業協会(現独立行政法
が同様に存在する。これらの課題について現
人情報処理推進機構)とが共同所有し、工業
状および将来の姿の調査を行うため米国エグ
会はこの成果を必要とする企業に広く提供し
ゾスター社等を訪問したので、これについて
普及させる活動を進めている。
報告する。
「防衛調達CALS」の開発成果のうち、航空
機産業の企業間における受発注などに係る
2.航空機業界EDIシステムの現状
(一社)日本航空宇宙工業会では、平成8、
EDIシステムについては、平成13年5月より一
部企業の資材部門や取引会社で、実運用ある
9年度の「航空機CALSプロジェクト」及び平
いは試行運用が実施されている。(一社)日
成10年度の「防衛庁CALS共通基盤システム
本航空宇宙工業会では航空機業界共通の運用
今回訪問したエグゾスター社とサーティパス社
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工業会活動
の増加を目指して活動を進めている。
のための規約、プログラム及びマニュアル等
の公開及び管理を実施する組織として、平成
また、「防衛調達CALS」の防衛省CALSと連
13年4月に「航空機業界EDIセンター」を設置
携運用する部分については、防衛省の実用化
し活動しており、平成26年11月現在で288社
推進に対応して整備していく必要がある。防
(内工業会会員企業59社)が参加している。
衛庁では、平成15年度末に「防衛庁CALS共
これら取り組みは、我が国では先進的なもの
通基盤システム」のパイロットモデルシステ
として評価されている。「航空機業界EDIシス
ムを踏まえたCALS/EC(Electronic Commerce)
テム」の概要及び「航空機業界EDIセンター」
システムの構築を完了させ、引き続き平成16
の位置付けを図1に示す。
年度から運用を開始した。なお、「航空機業
なお、EDIセンターのシステムは運用開始
界EDIセンター」はSJACホームページhttp://
以来10年以上を経過し、次世代システムの実
edicenter.sjac.or.jp/ に掲載されている。
現に向けて検討を継続している。EDIについ
現状において、海外で行われたカンファレ
ては、国際化、他業界横断というスローガン
ンスでルフトハンザテック等の報告に基づく
が叫ばれて久しいが、必ずしも現実的な解が
国際的な動向、技術動向等を日本に置き換え、
あるわけではない。航空機業界では国際化を
対策を考えると、本年1月号に記載の通り以
見据え、関連規格の調査を進めるとともに、
下のとおりとなる。
セキュアネットワーク上にEDIを設置する等
①セキュアなネットワークと加入者認証
の諸外国での取り組みの動向を注視し、より
②EDIに連携できる様々なITシステムの構
安全なシステムを構築するとともに、利用者
築あるいは組込み
●狙い
国際規格に基づく受発注業務の標準化と電子化により、
中小企業も含めた商取引業務の効率化を図る。
●システムの特徴
・航空機業界標準EDI規約の設定
・安価な導入コスト/運用コスト
(インターネットを採用)
・変換データ形式にXMLを採用
・既存システムとの連携及び国際規格への対応
(トランスレータの提供)
●取り扱い情報
EDIセンター
・受発注情報
規約類
の管理
・図面、
仕様書情報
・部品加工外注進捗情報
受注会社(大規模メーカ)
データ一括送受信
トランスレータ
XML
発注会社
一括送受信方式
データ公開
XML
トランスレータ
既存システム
インターネット
既存システム
受注会社(中小規模メーカ)
XML
データ照会・印刷
EDIサーバ
回答作成・送信
Web-EDI方式
図1 航空機業界標準EDIシステム
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平成27年5月 第737号
③Webベース等のユーザインタフェースで
逆に、そういった環境が無い場合には必要
使用者環境によらない継続的な利用が可
な情報の入手が困難となり、企業活動に制約
能なシステムの構築
が出ることが想定される。
これらの対策のうち主に①項、②項につい
て、以下に今回の調査結果を報告する。
4.エグゾスター社の概要
Exostar 社 は 2000 年 6 月 に、BAE Systems、
3.セキュアネットワークの必要性
Boeing、Lockheed Martin及びRaytheonによっ
企業活動は、情報によって企画され管理さ
て設立され翌年5月にはRolls-Royceも参加し
れる。顧客情報、市場情報、仕入れ先情報、
たe-businessソリューションプロバイダで主に
生産管理情報など、情報を的確に扱うことに
航空宇宙産業、防衛産業のために、セキュリ
よって、正しい企業活動が実現される。情報
ティやEC、e-コラボレーション向けの各種ソ
は、企業活動の根幹をなす重要な経営資源と
リューションを提供している。設立当時は以
いうことができる。情報を上手に入手し、共
下の企業戦略に基づいて業務展開してきた。
有し、活用することで企業活動の活力が増し、
・企業規模、顧客ビジネスに対応したソ
競争力の源泉となる。
一方で、情報そのものは中立的であり、そ
の扱いを間違えると、企業活動に対する重い
負担ともなり得る。情報セキュリティに関す
る事故や法令違反を起こせば企業にとって重
大な経営的影響(ネットワークの停止、営業
活動の停滞、対策費用、損害賠償の発生、行
政処分、社会的信用の失墜、取引先からの取
引停止処分等)は避けられない。企業は大き
リューション開発
・e-businessのセキュリティ分野でリーディ
ングカンパニーを目指す
・使用者の接続性を高めるための簡易化対
策を講じる
・アジア、欧州をターゲットにグローバル
展開を進める
・e-business関連規格の標準化作業をサポー
トする
な社会的責任を負っていることになるが、現
現在同社の顧客には、民生、軍事、あるい
実的には、大企業、中小企業で、その対応に
は医療等の分野で活動する様々な企業がお
は大きな差が出ているのが現状である。
り、米国防省、英国防省、オランダ国防省等
今後、外国企業との協業等が増えるととも
も同社のネットワークに参加している。同社
に、取り扱いに注意を要する情報の授受の必
のソリューションを活用して開発が行われた
要性が高まることが予想される。防衛関係に
案件としてはBoeing社の787Dreamlinerなどが
ついてみれば、F-35、オスプレイの導入。民
挙げられる。現在、同社のサプライチェーン
間関係ではMRJ事業の本格的展開など、ソフ
の統合化作業を支援しており、本年2月以降
ト、ハードを含めよりセキュアな情報伝達環
に運用が開始される状況である。
境が要求されることが予想され、諸外国の企
また、各国の国防機関もネットワークに参
業、政府からも安心して事業を推進できるイ
加していることから各々異なるセキュリティ
ンフラとしてのセキュアネットワークの確立
レベルのネットワークの相互接続も実現して
が求められ、今後そういった環境を企業規模
いることが分かる。
に係らず容易に提供できる仕組みへのニーズ
が高まることが考えられる。
現在同社は、クラウド技術を利用した、サ
プライチェーン向けの複数のコンテンツを用
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工業会活動
図2 エグゾスター社のサービス
意しており、各社独自のEDIシステムにこれ
ネットワークに参加するためのキーに関し
らコンテンツ等とのインタフェースを提供し
ては、各種の物があるが、アクセスする情報
ている。利用者はこれらのコンテンツを各社
のレベル、各社の要求レベルに応じた、各種
の目的に応じて選択して利用している。認証
キーが用意されるべきで、必要に応じて選択
のための仕組みについても複数のものを用意
可能であることが必要である。 しており、利用各社のニーズに対応している。
6.エグゾスター社が提供する付帯サービス
5.認証局の重要性
エグゾスター社が提供しているアプリケー
セキュアネットワークの基本的な技術要素
ションは主にSharePoint、WebEx、FileTransfer
としての認証局の選択がある。これは将来の
の3種類あり、それぞれ米国虚空宇宙及び防
発展性を含んで非常に重要な要素である。特
衛産業のセキュリティ要求に応じてカスタマ
に将来の業務への必要性(必要なセキュリ
イズされている。
ティレベルへの対応等)から認証局を選ぶこ
とが重要である。最終的には日本国内に航空
機業界として1つの認証局を立てて相手側の
認証局と相互に認証することが必要である。
6.1 SharePoint
オンライン上でドキュメント管理やグルー
プウェア機能を実現するプラットフォームで
それにより国内各社は安心してネットワーク
あり、ユーザのデスクトップ上のMicrosoft
の利用が可能となるとともに、諸外国とも対
Office及びOutlookと統合された環境を提供す
等の立場のインフラとすることができる。
る。エグゾスター社では、情報を4つのセキュ
国内に独自のインフラを確立することで、
リティ階層に分けて、各セキュリティ階層へ
我が国独自のセキュリティレベルの設定等も
のアクセスコントロールを実施できるように
可能となりインフラとしての利用用途も広が
カスタマイズしている。
ることが期待できる。
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6.2 WebEx
オンライン上での会議を実現するシステム
・在庫管理(VMI)、受託VMI、請求書
・開発中:見積/レスポンス依頼
であり、デスクトップ共有機能や、会議内容
の録音、録画等の機能を提供する。エグゾス
ター社では、会議への参加者の資格を確認し、
8.SJAC EDIへの適用
日本のEDIへの適用について、セキュアネッ
許可されたユーザのみが参加できるようにカ
トワークへの対応と、付帯サービスの段階的
スタマイズしている。
適用を検討する。
業界を取りまく社会情勢から、米国等と同
6.3 FileTransfer
程度あるいはそれ以上のセキュアさを持った
電子ファイルをセキュアに送受信するアプ
ネットワークの必要性が高まるものと考え
リケーションであり、データのセキュリティ
る。現在、エグゾスター社のような、セキュ
及び完全性チェックが実装されている。主要
アネットワークと付帯サービスを同時に提供
ブラウザに対応しており、簡単なドラッグア
するサービス形態は日本にはない。今後、こ
ンドドロップ操作でファイルのセキュアな送
ういったネットワークが確立されたとの前提
受信を可能にしている。
ではあるが、
①現状の形でのセキュアネットワーク上へ
7.欧州における状況
欧州においても、米国のエグゾスター社に
の展開。アクセス回数による費用低減の
実現
類する動きがある。これは、BoostAero(Airbus、
②クラウドサービスへの対応
Dassault-Aviation、EADS、Safran、Thalesが参画)
③付帯サービスの活用
と呼ばれる規格に基づく動きであり、この規
といったステップを経て、セキュアネット
格に対して、エグゾスター社も設立当初から
ワーク上でのサプライチェーン構築の一環と
参加し、相互に互換性を維持して、活動を行っ
して、なるべく早い時期にシステム展開がな
ている。2009年には、エグゾスター社(ボー
されることが必要であると考える。現状で
イング社、ロッキード・マーチン社、レイセ
サービスの種類が多いクラウドサービスへの
オン社、BAEシステムズ社、ロールス・ロイ
対応は、各社の経営的な判断によることとな
ス社)もこの規格を採用し加盟各社のデータ
る。例えば、ネットワークの提供するサービ
交換を保証している。具体的に、エグゾスター
スの利用や、独自のクラウドシステムの活用
を利用する各社の仕組みが本当にこの規格も
が考えられるが、これはEDI利用者の意向に
満足するものであるかは、今回の調査では不
よるものとなる。データフォーマットの異な
明である。現状でサービス領域については以
る各種規格への対応は、現在EDIシステムに
下をカバーしている。
装備されている規格間の変換器であるトラン
・供給契約
スレータの充実により実現される必要がある
・注文
が、どの規格に対応するか等は今後の検討に
・需要予測
ゆだねる必要がある。今後の将来の形の実現
・供給指示
にはSJAC EDI会員会社の協力と積極的な参
・出荷通知
加が求められる。
・領収書
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工業会活動
9.おわりに
キュアなネットワーク上で実現することが望
現在、航空機業界は、国際的な協力関係を
まれる。
構築するとともに、MRJのような民間機製造
ネットワークを構築するにあたっても、既
を行い産業としてさらなる発展が予想されて
に欧米諸国で見られるようなセキュアなネッ
いる状況である。このような状況では、情報
トワーク上にEDI並びに関連する各種業務を
のやり取りが極めて重要な位置を占め、EDI
実現できる共通基盤の仕組みの構築が急務で
を含めて、電子的な情報の遣り取りがよりセ
ある。
〔(一社)日本航空宇宙工業会 EDIセンター事務局 部長 土橋 俊夫〕
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