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背景・目的
植物にみられる固有の形態原理「多重螺旋を生む点の配列パターン」
近年、建築デザインにおいて、3 次元 CAD や BIM を用いたコンピュテーショ
候風土・地理的位置・生態系などの様々な事柄が、偶然的に連続し結びつく事で地域特有
「バイオミミクリ空間の試行」の 2010 年度に研究テーマである松毬のカタチ
繋ぐと 1 重螺旋、中心の点から奇数番目、偶数番目で、繋ぐと 2 重螺旋が作図できる。
nの
ナル・デザインと、レーザーカッターや 3D プリンターなどの CNC ファブリ
の地形が生まれる。同様に、植物のカタチも環境への適応・成長の過程・リスクヘッジな
に関する研究・多重螺旋を生む点の配列パターンを用いた 2 次元デザインに
倍数番目を順に繋いでいくと、n 重螺旋を描く事が出来る。この点の配列パターンをもと
ケーション技術が注目されている。この 2 つの技術の発展・普及により建築
どの要因からカタチを変化させ進化してきた。こうした現象的な要因から生み出されるカ
ついて記述する。
松毬の形態考察を行うにあたり、さまざまな樹種の松毬を収
に、二つの 2 次元デザイン「ドロネー図」
「ボロノイ図」
に落とし込むと、多重螺旋・黄金比
デザインの可能性が広がり、以前よりも高度で自由なデザインが可能になり
タチを、デジタル技術を用いて空間デザインに取り組む。自然のカタチをもとにアンジュ
集することから始めた。
松毬の鱗片 1 枚 1 枚剥がし鱗片の採寸を行ったり、鱗
といった植物がもつ形態原理を認識・示唆することができる。
ドロネー図とは、点の集合
つつある。
本制作は、コンピュテーショナル・デザインを用いて、自然界の造
レーションやボロノイ多角形を生成して、人の手作業では得られない植物に内存する形態
片の配列の観察を行うなどの形態考察の中で、松毬がいくつかの螺旋によっ
の中で、個々の点を結んだ時のそれぞれの最短の距離を示す図形である。作図方法は、点同
形を手がかりにした空間デザインの提案を目的にしている。自然が生み出す
原理・合理性を一つのランドスケープに落とし込んだ。自然の形態原理を示唆させる空間
て構成されていることを見つけた。
( 図 :3) アカマツには5重と8重の螺旋、カ
士の最短の距離で点を繋いでいくと三角形の集合が作図できる。この三角形を「ドロネー
現象的な造形と植物固有の造形原理、巨視的な要素と微視的な要素の 2 つの
デザインの実験的な提案である。
ラマツには 3 重の螺旋、ダイオウショウには 13 重の螺旋と、樹種によって確
三角形」という。
ボロノイ図とは、点の集合のそれぞれの領域を示す図形である。
作図方法
認できる螺旋が異なっていた。この松毬がいくつかの螺旋によって構成され
は、ドロネー図の直線をそれぞれの中心で、90°回転させ、各点の周囲を回転させた線で
ている特徴に注目し、鱗片の配列を平面に置き換え描画を試みた。試行錯誤の
囲うように多角形を描く。
この多角形は、
「ボロノイ領域」
といい、この多角形がそれぞれの
末、平面に等間隔の同心円を描き、内側から外側に向かって、137.507764... 度
点の領域を示す。
( 図 :4) 上記した同心円に点をプロットする作図方法だけではなく、中心
要素をもとして、
独立した部材が互いに支え合う空間デザインを計画した。
気
「バイオミミクリ空間の試行」
回転させながら、順に点をプロットする方法にたどり着く。この時の角度は、 をずらした円や、外側にいくにつれて円の間隔が短くなる同心円、黄金角で回転させた多
360 度を黄金比 (1:1.618033...) で内分した角度である。点を中心から順に
角形など、
様々なヴァリエーションで 2 次元デザインに取り組んできた。
私は、2009 年度から、武蔵野大学伊藤研究室の「バイオミミクリ空間の試行」 を通じて身体で感じ取るのである。
』( 伊藤泰彦 )
の活動に参加している。
一昨年度、日本建築学会大会デザイン発表会「多重螺
この活動では、生物の生み出すカタチの観察から、新たな空間デザインの制作に取り組ん
旋配列を用いた構造体―空間デザインのバイオ・ミミクリ的試行 : その 4 ―」 できた。
( 図 :1)「バイオミミクリ空間の試行」
は、Biomimicry、Pliability、Selfbuild の 3 つの
(2013.8) で、伊藤泰彦氏は、
活動について以下のように記している。
キーワードを掲げている。
Biomimicry:生物のカタチの観察を通して、生物固有の合理性
『本活動は、
「自然と科学技術の縁」を探ることともいえる。
生物のカタチには、 に目を向ける。Pliability:生物のカタチに潜む、細かな要素が寄り添いあるいは連続して
生物にとっての合理がある。
しかしそれらは、人間にとっての合理(生産性や
いる成長の原理を支える柔軟性を読み解き、構造と空間性の一体化を図る。Selfbuild:形
構造解析上の合理性)とは必ずしも合致しない。
生物の形態原理
(カ)
に、
「環境
態的特性をデザインだけにとどめず、生物の成長課程を制作のプロセスの中に取り入れ応
との呼応」
「成長の時間軸」
「リスクヘッジ」を読み解いてきた。
その形態原理を
用する。
同時に、組立・解体・再生が可能な空間を実践する。
こうしたテーマを持った活動
浮き彫りにするため、Pliability, Self-build というキーワードを掲げている。細
の中で、
「多重螺旋を生む点の配列パターン」
は幾つかの植物にみられる形態原理を読み解
かな要素が寄り添いあるいは連続し、成長の原理を支える柔軟性を獲得しよ
いたものである。
この形態原理は、松毬、たんぽぽの花弁・綿毛、ひまわりの花弁・綿毛、木
うと考えている。
また、
時に煩わしさを伴うカタチの特徴を、
自主制作の過程
の葉等の植物にみられる。
( 図 :2)
図3:松かさにみられる多重螺旋
Porous Structure
図1:植物の固有の形態原理を用いた空間デザイン
コンピュテーショナル・デザインによる
植生・植物的構造を有する空間デザインの提案
図2:モチーフとなる植物
図4:多重螺旋を生む点の配列パターンを用いた2次元デザイン
Pattern01 同心円
Pattern03 円の間隔が狭まっていく同心円
Pattern02 中心をずらした同心円
Pattern04 正七角形
「多重螺旋を生む点の配列パターン」を用いた 2 次元デザイン
Undulation from Air photograph
天気・気温・降水量・風といった気候風土、地理的位置、動物や植物などの生態系等の、様々な要因からそ
の地域特有の地形が生み出される。
( 図 :5) この地形は、人工では決して生み出せない造形である。自然が作
り出す現象的な造形、特徴のある植生が作り出す地形の航空写真をもとにしたアンジュレーションの制作
を試みた。
3D モデリングソフト「Rhinoceros」の専用プラグイン「Grasshopper」の様々な機能のコンポー
ネントを用いて、特徴的な地形の航空写真を取り込むとアンジュレーションが生成されるプログラムを作
成した。
( 図 :6)
航空写真の画像サイズに合わせたグリッドに等間隔に点を配置していき、それぞれの点の色相情報 (HSV
色空間における、H) を抽出する。
抽出した色相情報を Z 方向の情報に置き換え、もととなる地形の特徴を
アンジュレーションに変換した。
図6:アンジュレーション作成における、Grasshopperのコンポーネント
地形の特徴をアンジュレーションに変換して、自然が生み出す現象的な造形をもとにした一つのランドス
ケープを生成する試みである。
0.5km
2013/3/7
America State of Florida Everglades National Park アメリカ フロリダ州 エバーグレーズ国立公園 世界遺産/自然遺産 Latitude / Longitude W 80°54′36″∼ W 80°53′18″/ N 25°16′58″∼ N 25°17′37″
Eurasia continent
① Italy Provinc ia di Be llu no Easte rn Alps Dolomiti
② Japan Hokkaido Kushiro Marsh
③ Japan Fukushima, Tochigi, Gunma, Niigata Oze National Park
④ Norway Sogn og Fjordan e Sogne Fjord
⑤ Saudi Arabia Ha'il Center pivot irrigation
⑥ Spain Aragón Pyrénées - Mont Perdu
④
⑫
⑪
⑥
⑩
②
①
③
African continent
⑤
⑦ Ethiopia Amh ara Re gion Simien National Park
World Map
⑦
Australian continent
⑧ Australia Tasmania Southwest National Park Bathurst Harbour
⑨ Australia Western Australia Purnululu National Park
North American continent
⑨
⑬
⑩ America State of Florida Everglades National Park
⑪ America State of Montana Waterton Glacier International Peace Park
⑫ Cnada Province of Alberta Canadian Roc ky Mou ntain Parks
⑧
South America continent
⑬ Brazil Estado do Paranã Iguaçu National Park
図5:様々な地域特有の地形
Latitude / Longitude
Latitude / Longitude
1,2. Italy Provincia di Bellu no Easte rn Alps Dolomiti
1. E 10°18′00″∼ E 13°06′00″/ N 43°12′00″∼ N 47°12′00″
2. E 11°27′00″∼ E 12°09′00″/ N 46°18′00″∼ N 46°34′00″
イタリア ベッルーノ 東アルプス山脈 ドロミーティ
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23
3,4. Japan Hokkaido Kushiro Marsh
3. E 144°21′36″∼ E 144°28′48″/ N 43°05′06″∼ N 43°08′42″
4. E 144°23′06″∼ E 144°24′50″/ N 43°06′10″∼ N 43°06′49″
日本 北海道 釧路湿原
5,6. Japan Fukushima, Tochigi, Gunma, Niigata Oze National Park
5. E 139°06′36″∼ E 139°21′00″/ N 36°53′24″∼ N 36°59′24″
6. E 139°12′30″∼ E 139°15′31″/ N 36°55′30″∼ N 36°56′48″
日本 福島・栃木・群馬・新潟県 尾瀬国立公園
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
7,8. Norway Sogn og Fjordan e Sogne Fjord
ノルウェー ソグン・ オ・ フィヨーラネ ソグネ・ フィヨルド 世界遺産/自然遺産
9,10. Saudi Arabia Ha'il Center pivot irrigation
サウジアラビア ハーイル州 センターピボット
11,12. Spain Aragón Pyrénées - Mont Perdu
スペイン アラゴン州 ピレネー山脈 モン・ ペルデュ 世界遺産/複合遺産
7. E 4°15′00″∼ E 7°45′00″/ N 60°42′00″∼ N 61°42′00″
8. E 6°09′00″∼ E 7°09′00″/ N 61°04′00″∼ N 61°20′00″
13,14. Ethiopia Amhara Region Simien National Park
13. E 37°57′00″∼ E 39°09′00″/ N 13°09′00″∼ N 13°51′00″
14. E 38°18′00″∼ E 38°46′00″/ N 13°14′00″∼ N 13°30′00″
エチオピア アムハラ州 シミエン国立公園 世界遺産/自然遺産
15,16. Australia Tasmania Southwest National Park Bathurst Harbour
15. E 146°03′00″∼ E 146°17′24″/ S 43°23′24″∼ S 43°16′12″
16. E 146°08′31″∼ E 146°11′58″/ S 43°18′15″∼ S 43°16′58″
オーストラリア タスマニア州 サウスウエスト国立公園 バサースト湾
17,18. Australia Western Australia Purnululu National Park
オーストラリア 西オーストラリア州 パーヌルル国立公園 世界遺産/複合遺産
17. E 127°57′00″∼ E 128°45′00″/ S 17°30′00″∼ S 17°06′00″
18. E 128°17′24″∼ E 128°28′12″/ S 17°31′48″∼ S 17°25′48″
19,20. America State of Montana Waterton Glacier International Peace Park
19. W 114°39′00″∼ W 113°27′00″/ N 48°45′00″∼ N 49°12′00″
アメリカ モンタナ州 ウォータートン・グレイシャー国際平和自然公園 世界遺産/自然遺産 20. W 114°02′00″∼ W 113°46′00″/ N 48°59′18″∼ N 49°05′24″
9. E 41°30′00″∼ E 43°30′00″/ N 27°12′00″∼ N 28°18′00″
10. E 41°46′00″∼ E 42°18′00″/ N 27°46′00″∼ N 28°02′00″
21,22. Cnada Province of Alberta Canadian Rocky Mountain Parks
11. W 1°18′00″∼ E 1°18′00″/ N 42°12′00″∼ N 43°18′00″
12. W 00°12′00″∼ E 00°21′00″/ N 42°36′00″∼ N 42°50′00″
23,24. Brazil Estado do Paranã Iguaçu National Park
カナダ アルバータ州 カナディアン・ロッキー山脈自然公園群 世界遺産/自然遺産
21. W 117°30′00″∼ W 114°42′00″/ N 52°54′00″∼ N 52°00′00″
22. W 116°03′00″∼ W 115°15′00″/ N 51°18′00″∼ N 51°34′00″
23. W 54°42′00″∼ W 53°18′00″/ S 25°54′00″∼ S 25°06′00″
24. W 53°51′00″∼ W 53°39′00″/ S 25°36′36″∼ S 25°29′24″
ブラジル パラナ州 イグアス国立公園 世界遺産/自然遺産
航空写真:Google Earth
50km
2013/4/10
2.5km
2014/10/8
5km
2011/9/16
50km
2013/4/10
12.5km
2012/8/23
0.5km
2014/10/8
1km
2011/9/16
12.5km 2012/6/28
50km
2013/4/10
50km
12.5km
2014/7/20
12.5km
2013/4/10
2014/9/2
30km
2013/4/10
5km
2014/1/10
20km
2013/9/21
20km
2014/9/21
50km
2013/4/10
35km
2013/4/10
12.5km
2014/1/24
1km
2014/1/10
5km
2013/9/21
5km
2014/7/27
12.5km
2013/4/10
5km
2014/5/29
Porous Structure
本制作は、植生が作り出す現象的な地形と植物固有の造形原理、
巨視的な要素と微
視的な要素の二つを取り入れた、独立した部材が互いに支え合う空間デザインの
実験的な提案である。
航空写真のアンジュレーションへの変換、部材のデザインを
「Rhinoceros」
「Grasshopper」
、
部材の出力 ( 生成 ) を「3D プリンター」
で行う。植生・
植物のカタチに内存する合理性を、
デジタル技術を用いて、人の手作業では得られ
ない合理性を空間デザインに取り入れた試みである。
「バイオミミクリ空間の試行」の松毬・花弁・葉・種子の観察から見出した「多重
螺旋を生む点の配列パターン」を応用し、プロセスに取り入れてデザインを行っ
た。航空写真から生成されたアンジュレーションを空間と立ち上げる手がかりに
して、高さに応じて
「多重螺旋を生む点の配列パターン」
がプロットしていき、1 つ
の空間に複数の多重螺旋が浮き上がる。
全ての部材は、
「多重螺旋を生む点の配列パターン」
をもとにした、均等な大きさの
ボ ロ ノ イ 図 か ら 作 成 し て い る。12 つ の 柱 は、地 上 か ら 成 長 す る よ う に
137.507764... 度 ( 黄金角 ) で回転しながら伸び、792 つの部材から成る屋根のユ
ニットを支えている。屋根のユニットは、ボロノイ多角形の隣り合う各上端の辺
と、部材の下端をドロネー図に沿ったワイヤーで固定して、
互いに支え合う。
孔の開いた 792 つの部材が木漏れ日のような影を地面に落とす。
植物に内存する形態原理・合理性を、自然のカタチをもとにした一つのランドス
ケープに落とし込んだ。
Porous Structure
本制作の前段階として、柱のない
「屋根のユニット」
を計画した。
この計画では、航空写真をもとに生成したアンジュレーション
を切り取ったことを想定している。アンジュレーションの中心
に「多重螺旋を生む点の配列パターン」を配置し、空間デザイン
アンジュレーション
に取り組んだ。それぞれのボロノイ図から垂直方向に部材が伸
びて、
互いの部材をドロネー図に沿ったテンションで支え合う。
本制作のモックアップは、
この計画をもとに制作している。
プロットされた
ボロノイ多角形
ボロノイユニット
ドロネーテンション
Section S=1/20
Roof Plan S=1/50
Isometrics
アンジュレーション
部材のもとになる
ボロノイ図
地上から成長した柱が、
一つのアンジュレーションを持ち上げて、
アンジュレーションから屋根のユニットが芽を出し成長していく。
137.507764... 度回転して成長していく部材
Roof Plan S=1/50
屋根のユニット
ドロネー図の
ワイヤーテンション
地上から伸びる柱
Section S=1/20
Isometrics