日消外会 議 8(4):356∼ 362,1975年 胃分泌抑制機構 と胃 ・ 十 二指腸潰場 の外科療法 ― と くに セク レチ ン とガ ス トリンの 相互関係に関す る臨床 的検 討― 横浜市立 大学第二 外科教室 杉 山 貢 * 山 中 研 * 滝 沢 利 男* 丹 羽 正 幸* 佐 藤 一 美 * 杉 田 秀 雄 * 福 島 恒 男* 藤 沢 祥 夫 * 竹 村 浩 * * 大久保高 明料 土 屋 周 二 * * * MEC― IsM OF GASTRIC SECRETORY INHIBrrloN IN THE PAェ WH PEPlHC ULCER:GASTRIN AND SECREi口 Mitsugi SUGIYAMA,Ke■ Kaz― iSATOU,H比 H士 oshi TAKE― lYAMANAKA,TosI占 ■LNTS N o TAKIZAWA,Masayuki NnttA, に。suCrrA,Tsuneo FUKUSHIMA,Sachio FUJISAWA, A,Takaa臨 00KUBO,Shutti TSUGHIYA Second Departlnent or Surgery Y。 と。hama City University SchOo1 0f取 redicine 要 旨 生 体 の調節機構 とい う面 か ら胃酸 分泌抑制機構 に注 目し,消 化性潰瘍症 例 に十二 指腸粘膜 よ り抽 出 した セ ク レチ ン (E‐ 286‐ 001)を 使用 し ,手 術前後 の 胃酸 とガ ス トリン分泌 の変化 を検討 した 。 対 象は手術 前 169 例 ,手 術後 78例で あつ た 。手術前 では セ ク レチ ンは ,各 種 の 胃疾患 に よ り胃酸 お よび ガス トリン分泌 に対 す る 抑制 効果 に差 が 生 じた .手 術後例 で は幽門洞 (ガス トリン最密区域)を 切除 して あるか否 かに よ り差 が 生 じ, 迷走神経切断 に よる影 響 は乏 しかつ た 。しか し迷切兼 ドレナ ー ジ合併術 式後 では ,セ ク レチ ンは 明 らかな る抗 ガス トリン作用 を示 した 。す なわ ち セ ク レチ ンは ,分 泌元進 状態 の ガス トリン 産生細胞 と壁細 胞 には抑制的 に 働 い てい る こ とが判 つ た 。消化性潰瘍症 に対 す る手術 術式 の選択 に 関 して ,従 来 の 胃酸分泌態度 に加 えて ,血 清 ガス トリン値 を指標 とした試み を紹介 した 。 緒 言 胃 ・十二指腸潰瘍 の外科療法 には多 くの 術式が'りめ。 ゆ° るが,そ の 目的 とす るとこ あ ろは主 として , 胃 液酸 度 の分泌をおさえ,い わゆる攻 撃因子を制圧 しよ うとい 行われ ていない。防禦因子 の主なものの 1つ に粘液産生 などの直接的な 粘膜防禦機構 であ り, も う1つ は 胃分 泌 の抑制機構 である。後者については ,小 腸か ら分泌 さ れ る体液性因子 としてのエ ンテ ■ガス トロンと総称 され う点に主眼がおかれている.こ れ らに関す る理論的根拠 は,胃 分泌 の病態生理 ,と くに迷走神経 の支配や ガス ト リンの意義が明らか となるにつれて ,ま す ます 洗練 され て きた 。しか し,こ れに比べて 胃 ・十 二指腸潰瘍症発生 る ものが古 くか ら想定 されてお り,ま たに 指腸 内腔 の 酸度 の上昇 は 胃分泌を抑制す ることが知 られ ,こ れには 消化管 ホルモンの 1つ であるセ クレチ ンが関与 している に関す る,い わ ゆる防禦困子の面か らの検討 はまだ余 り 分泌をながめてみ ると,一 方ではガス トリン,迷 走神経 な どに よる分泌促進機構 と,他 方 においてはエ ンテ ロガ ス トロン, セ クレチ ンなどに よる 抑制機構 が 作用 し, ネ 横浜市立大学第 二 外科教室 **同 講 師 球キ 同 教 授 といわれている。生体 の調節機構 とい う面か ら 胃酸 の homeOstasisを維持 し, ま た 粘膜面 に対す る著 しい障害 作用を防 いでい ると考え られ,消 化性潰瘍症の発生は こ 39(357) 1975年7月 れ らの調節機構 の失調 が大 きな役割 を もつてい ると考え られ る。 手術後 (6カ 月以上) われわれは ,セ クレチンに よる 分泌抑制機構 が, 胃 ・十二指腸潰易症 の胃酸 やガス トリン分泌 はどの ように 幽 門洞 切 十 広 範 囲 切 幽 門 洞 切 十 迷 切 合 変動す るかをみ ,ま た これ まで多 くの手術術式 (広範 胃 切 ,幽 門洞切除 ,各 種 の迷走神経切断術)が ,こ れに対 しどの ような 影響 を もつてい るかを 検討 した 。 そ の結 十 二 指腸潰瘍 果 ,十 二指腸潰瘍症には抑制機構 の低下などがみ られ る ものが あ るなど,臨 床的 にも術式検討 に応用 で きるよう 除 除 除 併 な興味あ る知見 が得 られた ので報告 したい。 薬剤 ・対象および方法 1)使 用薬斉J 286豚 の 十 二指腸粘膜 よ り抽出 した セ クレチ ン (E‐ 001)は , 1ア ンプル (2 ml)中 に50単位 (Crick,Har_ セクレチ ンを 合有 して ヽヽ る. Peer and Raper Unit)の 本剤 の化学構造は27個のア ミノ酸か ら成 り,11個 の異 な つたア ミノ酸を有 している helix構造を形成 した強塩基 性 ポ リペ クタイ ドであ る (表 1). 表 l Secretinの 構造 His・Ser・AsP・Gly・ThroSer・Glu・Lcu。 一Ser,Arg・ Leu・Arg・AsP・Ser・Ala・Arg・Leu・ Cin・ 一Arg・Leu・ Leu・ValNH2 Leu・Cln・Glγ・ 表 3 Gastrin RadioimmunoasSayの 0 Otal attv化 幾 │)8uffer θ9何″ 印ど帥b併on 2)Sanど 3)SattP e 4)1!SI-6astrin 01m〃 5,Anttserum 7n X→ 6)II,cllbat o,, 7)Serumる「説andard 8)Mix ')C'3rco】 susttnsb■ 選 び ,手 術前 の もの 対象 としては目に対す る手術pllを 169例,((胃 ・十二指腸潰瘍症例 (16歳よ り73歳まで) 133症例 (男92・女41),胃癌症例 (24歳よ り81歳まで) 36症例 (男21・女 15))で,手 術後 の ものは78症例 であつ た 。術式別にみると,幽 門洞切除及び広範囲切除術31症 例 ,幽 門洞切除兼迷切合併術33症例 ,幽 門成形兼迷切合 併術 14症例であつた 。なお ,術 後例 はいずれ も 6カ 月以 上経過例 であつた く 表 2). 3)検 査方法 Siallあ 「 ど curve 09mど Sarnple θ8御′ θl御タ 〃 01初ι θl初 θlm″ 01御′ 01御 ど 2∼4° C 72 hrs → chill θl抑ゼ vortex lllixer 05御 〃 θ5ηフ 05例 ″ 05材 θl御ι vθrttx仰 薇er→ wa汁 5min a+4そ ■2′ 09112と │め Cotttftta市 on 2)対 象 操作法 05mど 抑胎 ter tian fer the supermatants 3)Decant ter 〉―couコ 結 果の算出法 ( 0 ) (一C ) = 1 0 0 や 辮 ・ 襴 X脚 = 鋭 帥あ問 い X仰 =師 n m ∝ 泣就 前 h 勲 押 e ・ ″ ケ '与 智薄x100=30∼ お 60% れ ,あ れ も duplicateにて施行 した。 結 果 セ 1)手 術前 の外困性 クレチ ン刺激 に よる胃酸分泌態 早朝空腹時 に 胃 ブンデを 挿入 し,テ トラガス トリン kg im,ヒ スチ ミン 2mgrkg im,レ ギ ュラーインシ 4γ′ Vな どに よる従来 よ り行われ ている目液 ュリン0。 4u/kg i・ 度 と血清ガス トリン値 の変化 ① 胃 潰瘍症例 :血 清 ガス トリン値 は刺激前 78∼150 検査を行 い ,そ の終了後 にセ クレチ ンlu/kg静 注 した , そして ,静 注前 ,後 15,30,45,60分 にほぼ同時 に 胃 pg/ml(140,3± 8.9pg/ml)で あ り,そ の値 は潰場 の存在 部位が噴門側に寄 る程高値 を塁 した 。遊離塩酸 は低酸か 液 と肘静脈血 2∼ 3 mlを 採取 した ,胃 液酸度測定 には T6pfer‐ Michaelis法を用 いて測定 した 。また ,血 清 ガス トリン値測定 には C.I,S製 の Radioi― uncassay kitを 用 いた 。なお ,測 定 の操作法 は表 3ゆ に示 したが,い ず ら正酸の範囲内にあり,とヽ 々?や亭学埠場pつ 得停停 であつた 。すなわち,ガ ス トリン,イ ンシェリンによる 胃酸分泌態度 は,遊 離塩酸分泌量10mEq/h,最高遊離塩 U ・,基 礎分泌量は 4 mEq/h以下であつた。こ 酸度6001・ 胃分泌抑制 機構 と胃 ・十 二 指腸潰瘍 の外科療 法 図 1 川 ・ 側 セ クレチン刺激による胃分泌 ・血清ガス トリ ン値 の変化 (各疾患別) Secretin lu/kg i.v. 術前 胃崩 i 王: N = 5 8 胃 構 五 N = 3 6 日 4号 図 2 セ クレチ ン刺激 に よる胃分泌 ・血清 ガス トリ ン値 の変化 ( 各疾患別) Secretin l叫kg i.v. 術前 十二指陽潰瘍 と_ = N = 4 7 言・ 十二指腸漬瘍 王 N=23 ―一 血清ガス トリフ値 ――一遊離塩酸畳 十一 血活 ガストリン値 ――一遊難塩酸畳 酸例似 の平均) i 消外会誌 8巻 侑酸例の放の平均) 侑 mE%5rn n 初与イ 5加 h 0と一 む れ らの 症例 にセ クレチ ンを 静注 す ると,15分 ∼30分の 間に血清 ガス トリン値 は78。1±6.2Pg/mlと低下 し,45分 後 には再 び上昇 していた。刺激後15分の血清 ガス トリン 値低下率は,48.8± 62.1%で あつた。この採血間隔を さ らに 5分 にて精査す ると,20分 ∼25分で最低 となつた 。 また,セ クレチン2u/kg静 注刺激す ると,そ の抑制時間 は延長傾向を示 した (図 1).遊 離塩酸度はセ クレチ ンに よ り低下 し,遊 離塩酸分泌量はむ しろ上昇す る如 くであ るが ,い ずれ もわずかで有意の差 はなかつた . ② 胃 癌症例 :進 行 胃癌症例 の遊離塩酸は低酸例が多 く, 中 には 無酸例 もあ り, 胃体部に病変 が大 きい 程著 しかつた。 血清 ガス トリン値 は 刺激前では 142.0±7.8 Pg/mlで あつた (図 1).こ れ らの症例 にセ クレチ ン lu/ kg静注す ると,血 清 ガス トリン値 は15分∼30分 にか 後 け て低値 を示 し そのまま持続 して, 抑制効果 は 刺激前 の 52.4±9。1%で あつた .遊 離塩酸 も抑制 され るがその率 は極めて低かつた 。 ③ に 指腸潰瘍お よび 胃 。に 指腸共存潰瘍症例 : 大部分 は 術前, ガ ス トリン, イ ンシ ュリン刺激 に よる 胃酸分泌態度は, 遊 離塩酸量10mEq′h,最 高遊離塩酸度 60Cl.U.,基 礎分泌量 4 mEq′ h以 上であつた。刺激前 の 血清ガス トリン値 は51.6±6。lPg/mlであ り,共 存潰場 の 方がわずかに高かつたが有意 の差 はなかつた。これ らの 症例 にセクレチ ンを静注 した結果 ,血 清 ガス トリン値 は 1%と な り,抑 制効果は軽度 であ 刺激前 の平均88.0±10。 図 3 セ クレチン刺激 による胃分泌 ・血清ガス ト ン値 の変化 (各術式別) Secretin lu/kg i.v. 術 後 胃 ttt N=31 ― 皿清ガストリフ値 ――― 遊離塩 酸畳 ( 有酸性のみの平均) mEけ/倫 in つた 。しか し,遊 離塩酸分泌に対す る抑制効果は極めて 頭著で ,15分 ∼30分で38∼45%と な り,45分 で15∼20% にな り,こ れはさらに60分まで持続 していた (図2). 2)手 術後 の外因性 セ クレチ ン刺激 に よる胃酸分泌 態 度 と血清 ガス トリン値 の変化 41(359) 1975年7月 術後 6カ 月以上を経過 した ものを対象 とした ,胃 潰瘍 症例に対す る潰瘍を合 めた幽門洞切除 お よび 胃癌症例 に セ クレチ ン刺激 に よる胃分泌 ・血清 ガス トリ ン値 の変化 (各術式 別) Secretin lulkg i.V・ 図 4 対す る胃亜全摘 出術後 の群 では ,セ クレチ ン刺激 に よ り 血清 ガス トリン値 の変化 はほ とん どみ られなかつた。ま TV十幽洞切 ==N=8 sv十 幽)同切 圧 二 N=25 N=14 s PV+幽向威形貫 ︲︲︲︲︲︲︲︲ t r 船 5 加0 た,胃 液酸度 (図 3で は有酸例 のみをあげている)も そ の変化 は極 く軽度 であつた.十 二指腸潰瘍症例 に対す る 幽門洞切除兼迷切合併例では ,全 迷切 ,選 択的 胃逃切 の いずれ の場合 も,セ クンチンに よる血清 ガス トリン値 の 変化 は著明でな く,遊 離塩酸量 (有酸例 のみの平均)も 変化 に乏 しかつた 。十二指腸潰場 に対す る近位選迷切兼 幽門成形術後例 では ,手 術前 に比 し空腹時血清ガス トリ ― 血清ガストリン値 ―十 一遊維塩醸営 備酸例のみの平均) 初[ ? / 1 5 m n │ ン値 は2.0∼2.5倍に上昇 していた 。これにセ クレチ ンを 投与す ると,投 与前 の平均66%に さが り明らか な抑制効 果 がみ られた 。また ,セ クレチ ンの遊離塩酸 に対す る分 泌抑制率 は約50%を 示 した (図 4). 胃 ・十二指腸演瘍 に対する手術術式の選択へ の応用 消化性潰瘍 に対す る手術術式 の選択 には , 1)潰 場 の存在部位 (胃潰瘍 ,十 二指腸潰瘍 ,共 存潰 瘍 か) 2)選 択的手術か救急手術かを念頭 におかねばならな . ヽヽ i)術 前 ,③ ガス トリン,イ ンシュリン刺激 に よる胃 U., 酸分泌 が 遊離塩酸量 10mEqlh,最 高遊離塩酸度60Cl・ で る. 4 mEqlh以 上 あ 基礎分泌量 ① イ ンシェリン刺激 に対す る血清 ガス トリン反応 が 3)ち ぎに 従来検討 され て いる胃液分泌態度 に 加え て ,血 清 ガス トリン動態 に よる選択基準を参考に して行 う (図 5). 術術式 の選 択 Frec acid sccretion / 扇 一 l n s u l i n→ ― S e c r e t i n I n s u i n Secretin → 下 以 0 1 ∠ 雨 0 6 4 仙嘲廟 \ Gastri冷 Insuiin BA0 上 以 Gastrin lnsttlin BA0 側嘲醐 / 十二指揚済瘍 Serurn 3astrin resPonse 幽門洞 \ 胃 潰 邸 」明 撒汁 刃 刃鵬 図5 手 I s神 u l i n Secretin 幽円渦切疎 麻選迷切 剪 幽門威形 抹近位選迷切 ↓ t 42(360) 胃分泌抑制機構 と胃 ・十 二 指腸潰瘍 の外科療 法 gastrin Pattern)が 少ない とい う条件を備えた症例では , 幽門洞切除に迷切を合併 し,迷 走神経 ,幽 門洞 ,消 化管 ホルモンなどに対す るあ らゆる面での対策をたてる.一 方 ,胃 潰瘍を共存す る十二指腸潰瘍 で も同 じ術式を施行 す るが , 胃潰瘍単独 で も上記 の 条件をそなえるものに は ,十 分な減酸をはかる見地 か ら胃潰場 で も幽門洞切除 に迷切を合併す る. li)術 前③ ガス トリン,イ ンシ ュリン刺激 の 胃酸分泌 態度 が ,遊 離塩酸量 10mEq/h,最 高遊離塩酸度60Cl.U., 基礎分泌量 4 mEq/h以 下である. ① イ ンシュリン刺激 に対す る血清 ガス トリン反応 が 軽度 の場合 . ⑥ セ クレチン刺激 に よる抗 ガス トリン作用 が中等度 であ る十二指腸潰瘍には,迷 切 に幽門成形術を行 う。こ の際 の迷切 には原則 として近位選迷切 (S・ P.V・ )を 採用 す る。 iil)術前⑥ガス トリン,イ ンシュ リン刺激 の 胃酸分泌 態度 が ,遊 離塩酸量 10mEq/h,最 高遊離塩酸度60CI.U., 基礎分泌量 4 mEq/h以 下である. ① イ ンシ ュリン刺激 に対す る血清 ガス トリン反応が 不変,も しくは軽度 の場合 . ⑥ セ クレチ ン刺激 に よる抗 ガス トリン作用 が著明な 場合の 胃潰瘍症例 には ,幽 門洞切除 のみを採用す る。 表4 セ ①② ③④ ③⑥ 明 らかで ,そ の peak値 が空腹時 (刺激前 の basal serum Castrin値)の 2倍 以上 . ◎ セ クレチン 刺激 に よる 抗 ガ ス トリン 作用 (anti 日消外会議 8巻 4号 クレチ ンの 胃液分泌抑制機序 の諸説 血 中 でガス トリンを破壊す る。 血 中 でガス トリンを 中和 す る。 ガス トリン との競合的作用 に よ り抑制す る. ガ ス トリン産生細胞 よ りのガ ス トリン遊離 を抑 える。 ガス トリン と非競合的 に直接抑制す る。 直接 胃酸 を抑 制 しないで, 重 炭酸塩 を分泌 す る ことに よ り抑制す る. くて ,十 二 指腸 内へ重炭酸塩を分泌す るなどと,新 しい 知見があげ られている。さて,動 物実験 では ,合 成 ガス トリンなどの 胃分泌刺激剤を投与 した時 の ,外 因性 セク レチンの 胃分泌抑制効果に関 して多 くの報告があ る。イ ヌお よび ラッ トでは , 試 験食 , 合 成ガス トリン (tetra, Penta gastrin)による胃分泌に対 して,セ クレチ ンは抑 制作用を示 し,し か も maximal&super maximal dose 12j のガス トリン刺激 に よる場合に も,そ の抑制作用 101つ lり 1つ がみ られ るとい う。しか し男全 は ,ラ ッ トではそ の よ うな効果はみ られなかつた と述べ ,確 に実験動物 に よ る差がみ られ る。また ,胃 分泌 は外因性 のガス トリン刺 激 に よ リヒスタ ミンを介 して 元進 し, 胃 における ガ ス トリン分泌 は 外因性 のセ クレチ ンで抑制 され るが , ヒ スタ ミン自身に対す るセクレチ ンの効果はみ られない 。 しか し,セ クレチンの Submaximal dOse 32u/kgでは こ れを 抑制 す るといわれて ヽヽ る。 迷走神経 と関係 の深 い アセチル ヨ リン 刺激 19に よる 胃酸分泌 に 対す るセ クレ 考 案 セクレチ ンの 胃液分泌抑制作用については古 く,1869 年 PadOwり に よつ て示唆 された 。また1902年 Bayliss& チ ンの作用は これを抑制す ると述 べ ,Greenlee16)はィン Starlingによつて , セ クレチ ンがイ ヌ の 小腸粘膜 よ り 抽出された .し か し,そ の作用機序については大略表 4 HanSk71つらは,外 因性 セ クレチ ン はC細 胞 か らの ガス トリン分泌を抑制す ると報告 している。ガス トリンとセ の如 き諸説があ り,不 明のままで今 日に至 つている。そ の説明 として,① セ クレチ ンは血 中でガス トリンを破 クレチ ンの相互関係を考える場合 ,両 者 の生体内におけ る代謝 が重要 な問題 となる。 Davidson10の報告 に よる と, 腎臓 では 腎動脈血中のガス トリンの平均 30%が 腎 壊す る,② 血 中でガス トリンを中和す る,③ ア ミノ 酸 の構造上 の類似 に よる競 合作用に よ り抑制す るなどと 諸説があげ られて きたが ,1968年 MC Cuigan7)に よ り血 中のガス トリンの RadioiIIImunoassayが 始 ま り,Berson シュ リン,2‐deoxy glucose刺激 に よる胃酸分泌 は 抑制 1刺 激 の場合は抑制 され るとい う。 され るが ,bethanec。 を通過する ことに よ り extractされ る。また ,Beckeriめ され ,そ れによ リセ クレチンの 作用機序 を, さ らに④ ガス トリン産生細胞 (以下 G細 胞)の ガス ト リ ン 分泌 らは小腸に よ り,内 因性 ガス トリンを平均40%も extract され ると述べ ている。なお ,小 腸大量切除 ,と くに上部 小腸 の大量切除後 の 胃液分泌元進に関 しては ,上 部小腸 に存在す るセクレチ ンなどの体液性物質に よる抗ガス ト リン作用 も無視す ることはで きない。また ,著 者20)ら は イ ヌを使用 し,内 因性 ガス トリンが肝臓 においては不活 (遊離)を抑える,⑤ ガ ストリンに対する非競合的抑 制である,⑥ セ クレチンが直接胃酸を抑制するのでな 性化 されないことを証明 した.な お ,こ れは迷走 神経劇 deoxy glucOse(100mg/Xg i.V)投 激剤 であ る2‐ 与時におい anF Yalowら に よ り血清 ガス トリン測定 が 確立 されて い らい ,ガ ス トリンとセ クレチ ンの相互作用が再び注 目 43(361) 1975年7月 て も同様 であつ た。 一方 ,セ クレチ ンの体内代謝 についてはなお不朔な点 泌態度 は低下す るが ,血 清 ガス トリン値 は健康人 のそれ と余 り変 らない値 であつた。 この群 のセ クレチ ン刺激 の が多いが ,消 化管 の内外分泌 の調節機構 の 1つ として, セ クレチンの 胃分泌 に対す る作用を とらえるべ きで あろ 結果 は , 胃切除群 のそれ とほぼ 同様 であつた。 しかる に ,十 二指腸潰場 に対 し 幽門成形兼近位選迷切 を行 つ う。 指腸潰瘍症例 ,胃 ・十 二指腸 た群では,術 後 で も空腹時血清 ガス トリン値 は術前 よ り 高 く,ま た胃液酸度 も比較的高い状態 にあ り,セ クレチ 共存潰瘍症例 ,胃 癌症例 の総計245例 について ,手 術前 後 に経静脈的セクレチ ン刺激 を行 い ,胃 酸分泌態度 と血 ン刺激 に より両者 とも明らかに抑制 された。結局 ,ガ ス トリン産生細胞 の最密区域 である幽門洞を切除す るか , 清 ガス トリン値 の動態を検討 した 。手術前 の 胃潰瘍や胃 多 く,血 清 癌症例では ,胃 酸分泌 が低下 している症Fllが 一 セ クレ チ ス では ガ トリン値 は 般 に高い 。 かかる症例 しないかに よつて ,外 困性 セ クレチ ンの 胃酸分泌 お よび ガス トリン分泌 に 対す る抑待J効果 に 差 が生 じているこ とがわかつ た.し か も,セ クレチ ンの抗 ガス トリン作用 ンの静注で血清 ガス トリン値 は低下す る.す なわち,セ クレチ ンば抗ガス トリン作用を塁す る。しか し,こ れ ら は ,幽 門洞へ の迷走神経支 配の有無 と関係がな く,幽 門 洞 が残存 して いるか ど うかに 依存 して いると 考え られ 今回,胃 潰瘍症例,に 場合 ,胃 酸分泌 はもともと低下 し, 胃潰瘍や 胃癌症fllの かつセ クレチ ンに よつて 胃酸分泌 が抑制 され るかについ ては 明らかな答 は得 られなかつた 。したがつて ,少 な く ともセ クレチンは機能 が充進 しているガス トリン産生細 胞か らのガス トリン分泌を抑え ることは間違 いないであ ブこ . 著者 らはすでに 胃 ・十二指腸潰場 に対す る手術術式の 選択基準をも うけているが (図 5),さ らに術前 にイ ンシ ュリンお よびセ クレチ ン刺激 を行 い ,そ の時 の血清ガス れ る。 トリン値を指標 として,術 式選定を行 うことを もくろん でいる.す なわち,消 化性潰瘍 に対す る手術術式 の選択 2つ にあたつては,従 来検討 され ている胃液酸度 の面 のみ な らず ,空 腹時 ならびにイ ンシュリン刺激後 の血清 ガス 十 二指腸潰瘍 お よび 胃 ・十二指腸共存潰易症例 は ,ほ とんど全例 で 胃酸分泌 は元進 してお り,そ の血清 ガス ト トリン値 の動 き,さ らに これに対す るセ クレチン刺激 の 結果を加味 して考慮す る必要がある こと,ま た外困性 セ リン値 は低値 であつた .こ の症例群 では ,外 困性 セ クレ チ ンに よ り胃酸分泌 は抑待Jされたが ,血 清 ガス トリンは クレチ ンに よる血清 ガス トリン抑制効果 の如何 に よ り, 幽門洞切除を行 うべ きか否かを決定す べ きではないか と ほ とんど影響を受けなかつた.す なわち,セ クレチ ンは 過分泌状態 にあ る壁細胞 の機能を著 しく抑制す るが,す でに調節 されているガス トリン産生細胞へ の抑待」 作用 は 考えさらに症例 を重ね ている. ろ う。しか し,こ のよ うな症例 のよ うに機能低下状態 に あ る壁細胞 の胃酸分泌を抑制す る作用 は少 ない と考え ら 軽度である ことを意味 していると考え られ る。換言すれ ば ,外 困性 セクレチンは 胃液 の高酸例 に対 して,壁 細胞 結 語 ・ 二 従来,胃 十 指腸潰瘍 の外科治療 の際 には ,潰 瘍発 生 の攻撃困子 のみが主に論ぜ られ て きたが ,著 者 らは胃 か らの 胃酸分泌 の抑制作用を有 し,機 能元進状態 にあ る ガス トリン産生細胞 に対 して ,抗 ガス トリン作用を有す 酸分泌抑制機構 に注 目した 。十二指腸粘膜か ら輸出した 281-001) ポ リペ プタイ ドホル モンであ るセクレチ ン (E‐ の における 胃酸や血清 ガ ス を使用 し,消 化性潰場 手術後 ると考え られ る. つ ぎに,各 術式別 に 胃手術後 におけるセ クレチ ン刺激 トリン値 が どの ように変動す るかを,臨 床的に 247例を 検討 し次 の結果を得た . に対す る,胃 酸分泌態度 と血清 ガス トリンの変動 につい て検討 した 。ただ し,今 回は同一症例 における術前 ・術 後 の変化をみるのではな く,術 前後 についてそれぞれ の 1. 胃 潰瘍症例 では 潰場 の存在部位 が 噴門側 に寄 る 程 ,空 腹時血清 ガス トリン値 は高 く,ま た遊離塩酸は低 かつ た。本症例 に対す るセ クレチ ンの効果 は明らかなる されてお り,胃 酸分泌 は低下 し,血 清 ガス トリン値 もや や低 い傾向であつた 。これ らに対す るセ クレチ ンの抑制 抗 ガス トリン作用 を示 し,胃 酸 に対す る抑制作用 は少 な かつた .す なわちセ クレチ ンは ,機 能が充進 しているガ ス トリン産生細胞か らのガス トリン分泌を抑えていた 。 2.十 二指腸漬瘍 お よび胃 ・十二 指腸潰瘍共存潰瘍症 効果 はほ とん どなかつた。幽門洞切除兼迷切合併術後 で は,全 迷切 お よび選 胃迷切 のいずれ において も 胃酸分 例 では幽門狭窄 のない場合は,胃 酸 が高い程空腹時 の血 清 ガス トリン値 は低値を示 した 。本症例 に対す るセ クレ 平均値を求 めて考察 した ものであ る。 胃切除例 (胃潰瘍 お よび胃癌症例)で は幽門洞 が切除 胃分泌抑制機構 と胃 ・十二 指腸潰蕩 の外科療 法 44(362) チ ンの効果は ,胃 酸 に対 しては著 しい抑制作用を示 した が ,抗 ガス トリン作用 はみ られなかつた 。すなわちセク レチ ンは過分泌状態にある壁細胞 の機能を著 しく抑制 し ていた 。 3.1。 と2.を含 んで換言す ると,外 因性 セクレチ ンは 胃液 の高酸例 に対 して ,壁 細胞か らの酸分泌を抑制 し, また機能元進状態 にあ るガス トリン産生細胞 に対 して も 抑制作用を有 していた 。 日消外会誌 8巻 4号 式 , 弓三初予, 28: 369,1974. 7)Mc Cuigan,J.E.: Immunochemical studies with synthetic human gastrin,GastrOentelology, 54: 1005, 1968. 3 ) 杉 山 貢 : 内 因性 ガ ス トリン の 肝 ク リア ラン ス, ホ ル モ ン と臨 床 , 8 : 7 1 , 1 9 7 4 . 9)PadOW,VV.et al.: EfFect oF intestinal mucosal hormones on experilnental ulcer fOrmation in rats,GastrOenter01ogy,56: 1259, 1969. 10)Nakaiima, s.et al.: EfFect of secretin on 4. 胃 手術後 に関 しては ,胃 切除例ではほ とん ど幽門 洞すなわち ガス トリン産生細胞 の最密区域 が切断 されて お り,胃 酸分泌 は低下 し血清 ガス トリン値 も低 い傾向で あつた 。これ らにおけるセクレチ ンの効果 は明らかでな く,ま た これに迷切合併術式を付加 した症例 で も同 じで あつた。一方,幽 門洞を切除 しない迷切兼 ドレナ ージ合 併術後 では ,空 腹時血清 ガス トリン値 はむ しろ術前値 よ り高値 であ り,セ クレチ ンの抑制効果 は 著明に 出現 し た。少 な くとも血清 ガス トリン値 か らセ クレチンの効果 をみると,そ の抑制作用 は幽門洞を切除 してあ るか否 か に よ り変化を生 じ,ま た迷切の有無に よる差 は明らかで なかつた。 gastric acid pepsin secretion in respoIIse to various sdmuli,Am.」 .PhySi01.,216:87,1969. 11)CrybOSky,,VA.et al.: EfFects oF secretin on gastric secretion,Am.J.Dig,Dis.,9,87, 1964. etin and 12)TumpSOn,D.B.et al.: EfFects of seホ cholecystokinin on the resPonSe of the gastric istura Rat to Pentagastrin. 13)」ohnSOn,L.Ro et al.: Characteristics of the inhibition of gastric secretion by secretin,Am. ,217: 1401, 1969. J・PhySiCI・ 1 4 ) 男 全 正三 : セ ク レチ ンの 胃液 分 泌 抑 制 作 用 に 関 す る研 究 , ネ ル モ ン と臨床 , 2 0 : 6 5 , 1 9 7 2 . 15)'Vay,L.WV.: EfFect oF secretin on gastric acid secretion in resPOnse to cholinergic stinuli, 5。 上述の事項 よ り従来 の 胃液酸度か らみた,胃 ・十 二指腸潰場 の手術術式 の選択 に加えて ,イ ンシ ュリン刺 Castroenterology,59:510, 1970. 16)Greenlee,H,B`et al.: Inhibitory eFFect Of 激 お よびセ クレチ ン刺激 に よる血清 ガス トリン値 の反応 パ ター ンに よる選択を検討 し,満 足 し得 る結果を得た . 1・ 190:396,1957. 」・PhySi。 17)Hansky,J.et al.: EIFect of secretin on serum なお,本 論文 の要 旨は第74回 日本外科学会 において発 表 した。 文 献 1)大 井 実 :胃 潰蕩症,南 江堂,東 京,1957. 2)山 岸三木雄,他 :十二指腸潰瘍 に 対 す る胃半 切,迷 走神経切断合併術.(特 に選択的迷走神 経切断術 について),手術,17:805,1963. 3)堺 哲 朗,他 :消 化性潰瘍 に対す る迷走神経切 断 の価値批半け ,外 科治療, 9:167,1963. 4)広 田和俊 :十二指腸潰瘍 に対す る新 しい手術法 の検討,外 科治療,23,3,1970. 5)損 哲 夫 :難 治性 胃潰瘍 に対す る生理的 胃切除 法, 胃と腸, 2:105,1967. 6)榊 原幸雄 :十二指腸潰瘍 に対す る近位選迷切術 PanCraetic secretin on gastric secretion, Am. gastrin as lneasured by inllnunoassay,Gastro― enterology,61:62, 1971. 18)Davidoson, W.D.: Renal extraction and ex― cretiOn Of endogenous gastrin in the dOg, Castroenterology,64:955, 1973. 19)BeCker,H.D.: Extraction oF circulating endO_ genous gastrin by the smali bowel, Cast。 enterology,65:903, 1973. _ 20)t///出 貢 , 他 : 胃 。十 二 指腸潰瘍 に対 す る迷切 合併術式 の検 討 〔 殊 に血 清 ガス トリン値 の臨床 的意義及 び 応用】, 第7 4 回日本 外科学会, 東 京, 1974. 2 1 ) 大 久保高明, 他 : 胃 分泌 か らみた消化性潰 瘍 に 対す る手術術式, 外 科治療, 2 3 : 2 7 1 , 1 9 7 0 .
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