表裏二体の少女 ID:109048

表裏二体の少女
ラーメン三郎
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
ホグワーツに入学した少女は幾つかの秘密を抱えていた。
そんな少女が、ホグワーツ、と言う環境でどう成長し、変わってい
くのか、と言う物語。
本編は、賢者の石から、アズカバンの囚人までで終わります。
原作を知らないと内容が分からないかもしれません。
一応、ほかのハリーポッターの二次小説をいくつか読めば分かる程
度には説明を入れようとは思いますが、ご了承ください。
処女作ですので、文の書き方が不安定だったりします。
さらに、漢字があったりなかったり
[、]の使い方が下手くそで
はてなマーク多用して
文章が下手くそで
口調が不安定で
話が飛んだりするかもしれませんが。
読んでもらえると嬉しいです。
一章 賢者の石
目 次 1話 組み分け ││││││││││││││││││││
2話 授業開始日の朝 │││││││││││││││││
3話 ハーマイオニーの悩み ││││││││││││││
4話 ハロウィーンとトロール │││││││││││││
5話 クロアの秘密 ││││││││││││││││││
6話 クリスマス │││││││││││││││││││
7話 仲直りとドラゴン ││││││││││││││││
15話 ハロウィーン │││││││││││││││││
16話 バジリスク ││││││││││││││││││
17話 ルーの錯乱 ││││││││││││││││││
18話 クロアとルーの過去 ││││││││││││││
19話 崩壊の予兆 ││││││││││││││││││
終章 アズカバンの囚人
20話 吸魂鬼 ││││││││││││││││││││
21話 まね妖怪 │││││││││││││││││││
1
14
20
24
38
46
54
64
79
8話 罰と磔の呪文 ││││││││││││││││││
9話 クロアsとフラグ ││││││││││││││││
10話 前兆 │││││││││││││││││││││
││││││││││││││││││
11話 崩壊した壁 ││││││││││││││││││
二章 秘密の部屋
12話 私はだれ
││││││││││││││││││││
13話 私は
?
││││││││││││││││││││
14話 私は
!
103 90
199 183 171 159 146 134 122 108
231 210
?
22話 記憶 │││││││││││││││││││││
23話 終わり ││││││││││││││││││││
257 243
一章 賢者の石
1話 組み分け
∼クロア視点∼
﹁....ア、ク..ア﹂
﹂
﹂
誰かに体をゆすられる感覚に意識が強制的に覚醒させられる。
﹁クロア
﹁ん...はい、なんですか
目をこすりながら顔を上げつつ、私の名前を呼ぶ声に覇気のない声
でこたえる。
﹁ついたよ、ホグワーツに﹂
確か寝る前にした自己紹介ではハーマイオニーと名乗っていた茶
色い髪と瞳の少女と目が合う。
﹁そうですか、私は眠いのでもう一度寝ます、ホグワーツについたら起
こしてください﹂
ハーマイオニーは﹁はぁ﹂と呆れた調子でため息をつき、再度両腕
を枕にして眠ろうとしていた私の顔を両手で挟んで持ち上げるよう
に起こす。
﹁やめてください﹂
と抗議すると
1
?
!
﹁だからもう着いたんだってば﹂
帰ってきた言葉に少し呆れながらも﹁そんなはずは....﹂と窓の外
に顔を向けながら答えようとして頭が完全に目覚めた。
思っていたより熟睡していたらしい、
ハーマイオニーに軽くお礼を言い2人で列車の外に出る。
外にいた巨人のような大男の案内に従ってボートに乗って移動し
ていると、
気持ちよく揺れるボートのせいで一度は消えた眠気が襲ってくる。
﹂
ボートを降りても眠気は消えず少しふらつきながらも足を進めて
いると
﹁大丈夫
と前にいたハーマイオニーが見かねて聞いてくる。
こんなことなら昨日徹夜で読書なんてするんじゃなかった....
﹁大..丈夫....です..﹂
とりあえず肯定してみたはものの自分でも大丈夫な気はしないた
め、
ハーマイオニーの背中をつついて留める
﹁ん..﹂
繋いでほしいとの意を込めて右手を伸ばす。
すこし戸惑った様子のハーマイオニーだったが意味を理解したの
かすぐにつないでくれる
﹁ありがとうございます﹂
2
?
とお礼を述べながらそのヒンヤリとした手を頼りにしばらく道を
進んでいくと、
ハーマイオニーが急に立ち止まった、彼女の肩に額をぶつけてし
まった。
ハーマイオニーに抗議をしようと顔を上げるとそこには巨大なお
城がある、
﹂
ハーマイオニーを見ると彼女も少し驚いたような顔でお城を見て
いた。
﹁やっと目が覚めたの
と少し毒を含んだような物言いを無視し
﹁はい、驚きで目が覚めました、思ってたのと全然違いますね﹂
と返すとこちらを一瞥し、うなずいて同意を示してくれる。
そのまま移動を続けていると、ボロっちい帽子の置いてある広間に
ついた。
何が起こるのかと少し緊張しているとハーマイオニーが眠くなる
どうしました
﹂
ような言葉をブツブツをつぶやきだした。
﹁その..ハーマイオニー
?
?
﹁やあハーマイオニー、ヒキガエルは見つかったかい
﹂
ハーマイオニーの肩に額を載せ、寝ようとしたところで後ろから
だがやはり聞いていると眠くなってしまう。
おそらく復習をしているのだろう、
不審に思い本人に聞いてみたところ呪文だと教えてもらった、
?
3
?
と赤い髪の少年を連れた緑色の瞳の眼鏡の少年から声がかかり
ハーマイオニーが動き肩の位置がずれて頭は空を切る。
﹁見つかったわよ、それより、ハリー、どうやって寮を決めると思う
﹂
私の後ろにいる眼鏡少年︵ハリーというらしい︶に答えるためにこ
ちらを向いたハーマイオニーに抱き付くと、今度こそとばかりに肩に
頭を乗せる。
﹁どうだろうね、ロンが言うにはすごく痛いらしいけど..﹂
と少し怯えたようにハリーが答える
﹁正確には僕じゃなくて僕の兄だけどな、それよりどうしたんだい、そ
の子﹂
∼ハーマイオニー視点∼
自分に抱き着いたままスヤスヤと寝息を立て始めた少女を見なが
ら
4
?
ともう一人の赤毛少年︵ロンというらしい︶も少し怯えた様子で答
える
髪の色が全然違うし﹂
﹂
﹁たぶん眠いんだと思う、さっきからずっとこの調子でね﹂
﹁よく寝られるなこんな体勢で、妹
﹁あー、ロン、さすがに違うと思うよ
?
と話しているのを子守唄に意識は再び闇の中に落ちていく....
?
﹁違うにきまってるじゃない、さっきの列車の中で同じコンパートメ
ントだっただけ、それにこの子寝てばっかだったからそんなに話して
ないし﹂
﹁その割にはよく懐いてるね、
....お、始まるみたいだね﹂
﹂
女の教師....マクゴナガル先生がボロい帽子に近づく
﹁まさかあの帽子で
呆れたように問うと
﹁みたいだね﹂
ハリーがロンを見ながら答えるロンはバツが悪そうに目を逸らす、
﹂..........
それからマクゴナガル先生は新入生の名前を読み上げ始めた
﹁アボット・ハンナ
、クロア
∼クロア目線∼
﹁ク..ア
ながらも
﹂
眠りが浅かったのか急速に意識が覚醒する
﹁んむぅ....はい、なんですか﹂
眠気も幾分かとれ、すっきりとした頭で答えると
5
?
!
!
またしても身体を揺すられながら名前を呼ばれる既視感に襲われ
!
﹁きみの番﹂
なんのことだろうか、とはてなマークを浮かべながら顔を上げると
﹂
ハリーが椅子を指でさしている
﹁クロア
と椅子の近くでボロっちい帽子を持った教師が私の名前を呼ぶ
そこでようやく椅子のほうに向かえばいい
ということを察した私は小走りに椅子の所にいき椅子に座ると
どうなっている
上から帽子をかぶせられる、すると頭の中に直接声が響く
﹁ふむ、これは....ん
?
﹁あの、さっきから誰と話しているんですか
﹂
突然口調が話すようなものに変わると納得し始めた
いうのならいいじゃろう﹂
しかしおそらくそこはこの子には向かんだろうが、まあ本人がそう
﹁ん、お前は、なるほど、ほうほう、お前はそっちを望んでいるのか、
とまだ少し悩んだ様子の帽子だったが、
だが本来ならばグリフィンドール....ならば、いやしかし....﹂
ドール、
表はスリザ..いやレイブンクローに向いているが裏はグリフィン
?
一つの可能性に思い付いた。
いてみたところで
もちろんテレパシーなど使えるはずのないのに、と不審に思って聞
?
6
!
﹁早くと決めてくれませんか、もういいですよね﹂
﹂
これ以上の会話を拒否するように急かすと、帽子は大きな声で
﹁グリフィンドール
と叫んだ。
さっさと帽子を外すと地面に叩きつけるように落とす。
﹁......﹂
帽子を一睨みするとさっさとグリフィンドールの席に向かう、
腕を枕にしてふて寝をしようとしたが寝付けない。
おそらくあの帽子が話していたのはあいつだろう
﹁なんで私があんなものに決められないといけないんですか...﹂
私の真っ黒な髪につけている黒いカチューシャを軽く撫でながら
呟く
イライラする、ものすごくイライラする、が抑えなければならない
だろう
こんなことでイライラするだけ無駄だ、と理性ではわかっていても
なかなか収まってはくれない。
﹂
少しでも気持ちを落ち着かせようと何度目かのため息をつく
﹁グリフィンドール
だれかが近くに寄ってくる足音が聞こえるが気にも留めずに
﹂
7
!
!
やっと私を包みこんできた睡魔に身を任せようとしたところで
﹁大丈夫
?
と心配そうな声色で肩に手を置かれ声をかけられる。
睡眠を妨害され、
声をかけられたことにより覚めかけていた頭を上げ、
肩に手を置いている丸顔の少年に顔を向け
﹁触らないでください、気が散って眠れません﹂
と言うと肩に置かれた手を振り払うとまた机に突っ伏そうとした
ところで
グリフィンドール、つまり私のいる机の付近が沸いた
﹁........﹂
ね、
私は寝ます、起こさないでください、
8
イライラは最高潮に達した
とりあえず何があったのか確認しようと
﹂
周囲をうかがっているとハリーと目が合い、ハリーはこちらに向
かって笑顔で走ってくる
﹂
﹁やあクロア、僕もグリフィンドールになれたよ
と上機嫌で話しかけてくる、うざい
﹁あの、この騒ぎはあなたが原因ですか
と問うとニヤけ顔で照れるように頷く
とんでもなくうざい
!
﹁そうですか、なら私の快眠を妨害した罪はあなたが償ってください
?
﹂
それから睡眠中の面倒をみてください﹂
﹁え
一気に要件を告げると、戸惑っているハリーを尻目にさっさと寝る
普段からあまり話さないのに、一気に話して話疲れたせいか、すぐ
﹂
に意識は混濁していった。
∼ハリー目線∼
﹁グリフィンドール
こすの躊躇われる。
とはいえ、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立て始めた彼女を起
彼女の言動はどう考えても八つ当たりだ。
正直納得はできない、
と強引に面倒を見させられた。
睡眠を妨害したのだから責任を取れ、
彼女は僕を睨みながら
もイライラしていた事に気づいた。
問に嬉しくて自慢げに答えてしまってからようやく彼女の顔がとて
ているクロアを見つけると、つい自慢したくて近づいて行き彼女の質
だからか気分は高揚していたため、そのあと自分と同じ黒髪を持っ
思うこともできた。
親戚の家では考えられないような待遇だし、自分は特別なんだ、と
かった。
できるだけ態度には出さないように気を付けると思うが、正直嬉し
いた。
そう帽子が叫んだ瞬間に、グリフィンドールの机にいた上級生が沸
!
ため息をつくと仕方がないので彼女の隣に座るとロンがやってき
た。
9
?
﹁また寝てるのかい
その子....クロア
机の上に食事が並んでいく。
﹁起こさなくてもいいのかい、お兄さん
とニヤけ顔でいってくるロンに
ないことを言って、
だっけ﹂
頷き、食べていると、好調であるダンブルドアが何やら訳のわから
﹁まぁいいか、さっさと食べよう、時間がなくなる﹂
と返す
ぐらいわかるよ﹂
﹁できる兄だからね、言葉を交わさなくても起こしたら怒られること
﹂
と肩を竦めながら返していると、組み分けが終わったようだ。
﹁僕は遠慮しておくよ、面倒見切れない﹂
の身長、確かに妹っぽいかもしれないが
僕と似てるが、僕と違い真っ黒の髪に瞳それから僕の肩ぐらいまで
そういわれ彼女に目を向ける、
﹁それにしてもこうして見ると兄妹だな、今度は髪の色も同じだし﹂
ロンは僕と彼女を見比べながら
とため息をつきながら答える。
﹁ああ、そうだよ、ついでに僕に面倒を見るように申し付けた上でね﹂
?
?
10
?
それぞれの寮に向かうことになった、が
隣を見ると、未だぐっすりと睡眠中のクロア
﹁....どうしようか﹂
身体を揺さぶっても起きる気配はない。
﹂
ロンに助けを求めようと声をかけるが
﹁軽そうだし運んであげれば
面倒を見るように言われてるんだろ
と、楽しそうに帰ってくる。
ため息をつくと、とりあえず、
背負って運ぼうとするが、机に突っ伏したクロアを背負うのは難し
い
背中を後ろに倒しながら膝に腕を差し込み、お姫様抱っこの体勢に
して持ち運ぼうとする
やはり小柄なクロアは見た目通りとても軽く、なんとか一人でも運
べそうだ
∼ハーマイオニー視点∼
軽く探しても周りに知り合いがいなかった為
一人寂しくぼっち飯をする、という苦行を終え、寮に向かっている
と
何故かクロアをお姫様抱っこしている
ハリーを見つけた
何をしているのか不審に思って後ろから近づき、聞いてみると
何やら起きないから仕方なく運んでいるらしい
この子の近くにいるとため息が増えそうだ、などと考えたそばから
ため息をつくと
11
?
?
﹁ハリー、男子は女子寮には入れないんじゃないの
﹂
と聞いてみると、忘れていたのか今更慌てている、
ハリーの近くにいてもため息は増えそうだ
結局ハリーとロンに協力してもらい、起きる兆しさえ見せないクロ
アを背負うと、そのまま寮に連れて行きながらこの不思議な少女につ
いて思う
初めて会ったのは列車の中で、
コンパートメントの空きが他になかったので、入れてもらった時
だ。
その時は確か、自己紹介の最中にいかに私が勉強をする気がある
か、
というのを見せつけようとして、長々と語っていると、気が付いた
時には、もう寝ていた。
せっかく話しているのに無視して眠りだすものだからムッとして
起こそうとするが、
あまりにも気持ちよさそうに眠っているから起こすのも忍びない
仕方がないので諦ると
手持ち無沙汰になったので例のあの人を倒したというハリー・ポッ
ターを探しにコンパートメント出て行ったが、
泣きそうな顔をした丸顔の少年がいたので
どうしたのか聞いてみたところ、
ペットのヒキガエルが居なくなったらしい、
丁度ハリー・ポッターを探していたので、
ついでに手伝っているとハリーを見つけた、
軽く自己紹介をして、ヒキガエルを見なかったか聞いたが、
知らないそうなので[ハリーを探す]という目標を終えた私は、ヒ
キガエル捜索の続きをしていると、
そろそろ着きそうだったので、
諦めてコンパートメントに戻ろうとした時にクロアと名乗った少
女のことを思い出し、寝て起きた時に私がいないと驚くかもな、なん
12
?
て考えながらコンパートメントに帰った。
まさか私の方が驚かされるとは、
そこには先程コンパートメントを出た時と同じ体勢で眠っている
クロアがいた。
その時は驚きつつも心底呆れたものだが
今も耳元で寝息を立てている少女を見る、
なのかは分からないが同じ部屋らしい、
一つため息をつくと部屋に向かう
幸い
そのままベッドに寝かしてあげ、
自分も寝ようとしたところでクロアの真っ黒な髪に紛れて黒いカ
チューシャをつけていることに気づき、
外してあげ、今度こそおやすみ、と呟くと私もベッドに潜り込む、案
視点∼
外疲れていたのか、私の意識は直ぐに霧散した。
∼クロア
明らかな違和感を覚え、首を傾げる、
目が覚めた、よく寝たせいか既に意識はスッキリしていたが、
?
原因を探そうとして、自分が首を傾げていることに気づき、原因に
気がついた。
13
?
目線∼
2話 授業開始日の朝
∼クロア
た。
﹁おはよ
ハーマイオニーも挨拶を返そうとして
違和感を覚えたのか、開けた口を閉じ、
再度口を開くと
﹁おはよう、ねえ、なんか雰囲気変わった
﹁そう
﹁それくらい自分で言えば
と少し眉をひそめて返される、
﹂
ハリーにお礼を言っといてほしいんだ﹂
﹁それじゃあもう一つ頼んでいいかな、
﹁まあ、途中までは私じゃなくてハリーだし、気にしないで﹂
ありがとね﹂
それよりさ、昨日運んでくれたの
﹂
と本を閉じ、随分と久し振りに笑顔を浮かべ挨拶をする、
﹂
ベッドの縁に座り本を読んでいると、ハーマイオニーが目を覚まし
許されるだろう
その手を止めた、2年半も我慢したんだ、少しぐらいのワガママも
ようとして、
原因に気づいた私は枕元に置いてあったカチューシャを頭に付け
﹁ああ、そういうことか﹂
?
?
?
14
!
?
?
﹁あー、それは分かってるんだけど......まあいいか、そうだね、自
分で言うことにするよ﹂
﹁当たり前よ、それぐらい﹂
﹁そ れ じ ゃ あ、も し お 礼 を 言 わ な か っ た ら 無 理 に で も 私 の カ チ ュ ー
シャを叩き折ってね﹂
私のよくわからない頼みにはてなを浮かべていたハーマイオニー
だが、
一応了解したのかうなずいてくれたのを確認して
今度こそカチューシャを付けると
頭の中がかき混ぜられるように気分が悪くなり、身体が思うように
15
動かせなくなる....
∼クロア目線∼
やっと帰ってきた。
最悪な寝覚めだ、目が覚めたとき、身体を動かせないと思って焦っ
ていたら
私の意思に関係なしに動き出した身体の
視界に私のカチューシャが入ったことで全て理解した。
恐らく昨日私が寝るときにハーマイオニーが外してくれたのだろ
う
忌々しい、身体が帰って来たので今朝の悪夢は忘れる事にしようと
して思い出す、
アレに身体を乗っ取られていた時に勝手にハーマイオニーと取り
付けていた約束の存在を。
急に表情が変わったけど﹂
勝手にため息が出る。
﹁どうしたの
?
とハーマイオニーが聞いてくる、あなたのせいだ、
と愚痴を言いたくなったが言ったところで悪い方向にしか変わら
ないだろう、
ため息をつくと
﹁大丈夫です﹂
といつもより少しムスッとした顔で答えると、ハーマイオニーは目
ざとく
﹁あれ、いつものクロアだ、さっきみたいに笑顔を浮かべてた方が可愛
いと思﹁結構です、それからさっきまでの会話は忘れてください﹂⋮.
どうしたの
やっぱりさっきと全然違う、まあ約束は忘れないけどね﹂
と少し訝しむような目を向けてくるが
気にせずに一瞥すると、着替えを済ませ、朝ごはんまでの時間を読
書で潰すことにする。
﹂
読書に熱中していると不意にハーマイオニーから
﹁そろそろ朝食だと思うし、大広間に行かない
たのに﹂
﹁今日はあまり眠くなさそうね、昨日なんて私に抱きついてまで寝て
の顔を見て頷くと、少し嬉しそうな顔をしていたがそれを隠すように
いる私に声をかけるのを躊躇っていたのだろう、私がハーマイオニー
と少し遠慮がちに聞かれる、彼女に非はないのだが読書に熱中して
?
16
?
なんて言いだす、正直記憶になかった。
顔が少し熱を持つのを感じながら、それを隠すように部屋を出なが
ら
﹁昨日は徹夜で本を読んでいたせいで眠かっただけです。
普段はあんなに眠くないです﹂
と答えるとハーマイオニーは
﹁当たり前ね、授業の度に寝ててもらったら点がいくつあっても足り
ないもの﹂
なんて返してくる、
育ての親とでさえ必要最低限の会話しかしない私は﹁そうですね﹂
17
と短く返すとそこで会話が途切れてしまうが、その沈黙を人と話さな
くても良いから楽だ、などと感じてしまう、
どうやら私は社交性が低いらしい。
そのまま沈黙の空気を保ったまま談話室に着くとハリーとロンも
丁度談話室にいた。
﹂
ハーマイオニーはこの気まずい空気を打開しようとしたのか、ハ
リー達に話しかける。
﹁今日から授業が始まるわね、どんな先生がいると思う
﹁今朝の約束、まさか忘れたとは言わないわよね﹂
ハーマイオニーがこちらを向くと、少しきつめの口調で
そのまま黙ってハーマイオニー達の後ろを歩いていたのだが、
たため、ハーマイオニーの後ろに隠れるようにして立った。
と聞いていた、私は昨日の件で正直ハリーがあまり好きじゃなかっ
?
と聞いてくる、やはり忘れてはくれないらしい。
ため息をひとつ着くと、ハリーの前に歩いて行き、小声で﹁昨日は
助かりました、それからごめんなさい﹂とだけ言うとさっさと元の位
置、ハーマイオニーの後ろに戻る。
最初は何のことだかわからない、といった様子のハリーだったが、
少しすると昨日のことをだと気付いたのか﹁別に構わないさ﹂と返っ
てきた。
﹂
﹂
﹁これで良いんですよね﹂とハーマイオニーに確認すると、少し不満気
だが、頷いてくれた
﹁そのカチューシャ、大事なものなの
と聞いてきた、
君が笑うことなんてあるんだね。
18
﹁今朝の会話のことは忘れてください、といったと思いますが
と口調にトゲを混ぜつつ聞き返す。
ハーマイオニーは少し驚いた様子で私のカチューシャを見て、何か
と答えた。
﹁はい、私という存在と同じぐらい大切なものです﹂
と言われ、反論できず、正直に
それに、これは約束の話だから、忘れない、と言ったはずよ﹂
られないわ、
﹁嫌よ、あなたが笑顔を浮かべた珍しい瞬間だもの、そう簡単には忘れ
?
?
言おうと口を開いたがロンが口を挟む、
﹁クロア..だっけ
?
常に不機嫌そうな顔してるから意外だな﹂
と言われ、私の頬に手を添えてみる、そんなに不機嫌そうだろうか、
鏡など持ち歩いてはいないし自分で触ったぐらいではどんな表情
を浮かべているかなど詳しくは分からないが、間違いなく笑ってはい
ないだろう。
﹁そうよ、今朝は何故かとても機嫌が良かったみたいでね、
写真にでも収めて見せてあげたいぐらい可愛かったのよ、
今じゃ見る影もないけどね。﹂
とハーマイオニーに言われ顔が紅潮するのを感じる。
ハーマイオニーの服の裾を引っ張って抗議すると、
ハーマイオニーはこちらを見て﹁ごめんね﹂と軽い感じで謝ったが
反省の色は見えない
ホグワーツに来て急速に回数を増やしているため息のカウントを
増やすと﹁もう良いです﹂と返す。
いつの間にか到着していた大広間での食事を終えると授業に向か
う。
19
3話 ハーマイオニーの悩み
∼クロア目線∼
ホグワーツに来てから約一ヶ月半がたった。
この一ヶ月半で全ての授業、多くの教師、主要な教室を巡ったが、
やはり一番重要なのは図書室だろう。
もともと住んでいた家でもほとんど書斎に引きこもっていた私で
さえも驚愕した。
私はこの一ヶ月半で授業や生活に必要なこと以外の時間のほとん
どを図書室に当てている、
それどころかたまに図書室でいつの間にか寝てて、目が覚めたら図
書室で起きてる何てこともたまにある。
流石にマズイ気もするがそれ以上に面白い本が多いし、
授業に関しては、まあ実習は苦手だが真面目に受けているし課題も
20
しっかり提出できている。
そんな感じで友人とは無縁の生活をしていたせいかハリーやロン
とはあまり話した記憶がない、
その代わりハーマイオニーがよく図書室に来て話をしたり無理や
り寮に連れて帰ってくれたりと何かと面倒を見てくれた。
それとハリーやロンと疎遠になりつつある理由はもう1つある。
彼らとハーマイオニーの関係が私とハーマイオニーの関係に反比
例するかの如く悪化しているらしい。
つまり私はハーマイオニーにかなり気を許している、
それこそ私の秘密を軽くなら話しても良いかな、何て考えるぐらい
に
私は元からハリーはあまり好きじゃなかったから、
あまり気にしていないがハーマイオニーはよく彼らの愚痴を私に
言いに来る。
ホント信じられない、
そして今が丁度その時だった。
﹁何なのよあの態度
!
自分ができないのが悪いんじゃない。
それを教えてあげただけで逆ギレ
これだから男子って何考えてるかわかったものじゃないわ
﹂
と一息に愚痴を吐いてくるが、私はこの時間がそれなりに好きだ、
もともと話すのが苦手な私は基本的に聴くだけ、
それに普段は真面目で成績優秀で実技も得意なハーマイオニーが
私を頼ってくれている、
というのも嬉しかった。
﹁分かります、私は現場を見ていなかったのでロンについては詳しく
言うことは出来ませんが
男性が何を考えているのかは全く理解できない、という部分には強
く同意します﹂
ふと、頭に知識としての過去がよぎるが頭を振って振り払うと、す
ぐに意識を戻す。
﹂
私達は図書室でハーマイオニーの愚痴を聞きながら課題をやって
いた。
﹁ハーマイオニー、ここ、何だと思います
分かりやすく説明してくれる。
のだがどことなく、気を遣っている、というか怯えている
気がする。
私が疑問に思っているが、聞いて良いのかわからない
もしこれが割と繊細な彼女の地雷だったら、
?
があるが、
いや、きっと大丈夫だろう、ハーマイオニーは少々お節介焼きな所
と考えるとなかなか聞けない
ような
と聞くと彼女は私のプリントを見て少し考える仕草をすると、
?
21
!
?
基本的に優しい、多分謝れば許してくれるだろう。
と思い、聞いてみる
﹁ハーマイオニー、どうかしたのですか
少し様子がおかしいですよ
すると、ハーマイオニーは涙目になりながらも、私に
﹁あ、あなたは....あなたは私の説明がウザいと思わないの
﹂
上から目線で見下したような命令に聞こえない
私と話してて....気持ち悪くならないの
?
それはあなたが友達だからです。
ですが、私は他に友達が欲しいとは思いません。
世界中を探してもいません。
﹁私はですね。あなたしか友達と呼べる人がこのホグワーツに、いえ
ニーに対し視線を重ねる。
それでもたりなかったので、椅子の上に膝立ちになってハーマイオ
私はハーマイオニーと目線を合わせようと背伸びをして、
この時ばかりは、ハーマイオニーが小さく見えた、
身長は私よりもハーマイオニーの方がかなり高いが、
はいけない気がする。
なるほど、おそらくロンに言われたのだろうが、これ以上は聞いて
?
ハーマイオニーを落ち着かせようと、ゆっくりと慎重に言う。
と少し前までなら恥ずかしくて言えなかったであろう発言を
私はあなたの力になりたいと思っています﹂
私にできることはあまりないですが、
何かあるのでしたら教えて下さい。
まるで不安を押し殺して私に接してくれているような気がします、
?
と涙声で不安をぶつけるように話してくる。
?
22
?
私はあなたのそのお節介に助けられています。
そしてその説明でいま新しいことが理解できました。
むしろ、こんな私と友達でいてくれるあなたの事を大切に思いま
す。
だから、もっと、あなたの、不安をぶつけて下さい。
私はあなたを受け入れます。絶対に﹂
とここまでを言うと流石に恥ずかしくなってくるが、
ここで目を逸らしたらダメだ、と紅潮した顔でハーマイオニーを見
据える。
ハーマイオニーと少しの間目を合わせていたが、やがて彼女は私に
勢いよく抱きついて来た
椅子の上で膝立ちを長いこと続けたせいで膝が少しだけ震えてい
る私に
軽く悲鳴をあげ、椅子の後ろにハーマイオニーごと倒れる。
私に引っ付いているハーマイオニーはわんわん泣いているが、
私は受け身も取れずに思い切りぶつけた後頭部の痛みでそれどこ
ろではない。
というか、視界が白に染まり、体の感覚が薄くなっていっている。
ハーマイオニーが異変に気付き、
涙をポロポロとこぼしながらも私の名前を叫んでいるのが目に映
ると
それを最後に私の意識は途切れた。
23
4話 ハロウィーンとトロール
∼クロア目線∼
ハーマイオニーに押し倒されて気を失ってから半月ほどたった。
結局あの後、ハーマイオニーが適切な対処をしてくれてたらしい
やはりハーマイオニーは天才だと思う、いや天才よりは秀才の方が
近いか。
普通ならまず暴力沙汰になるだろうが被害者である私が否定した
ため注意で終わった。
そして今日だが、ハロウィーンだ。
パーティー前最後の授業を終えると、大広間へ向かうが、
ハーマイオニーの姿がどこにもない、
先ほどの授業での彼女のパートナーに聞こうと思い、誰が彼女の
24
パートナーだったか考えていると、
ハリーが後ろから呼び止めてきた。
ハリーの方を向き続きを待っていると
彼は言いにくそうに
﹁クロアにも聞こえてたかもしれないんだけどね、
ロンとハーマイオニーが喧嘩しちゃって、
それでハーマイオニーがどこかに行っちゃったんだ、多分クロアは
ハーマイオニーを探すと思ったから、一応言っておくね﹂
﹂
と目を泳がせながら言ってきた。
﹁何故それを私に言うのですか
﹁えっと、多分ロンが言いすぎたのが悪いと思うから......﹂
と問うとしどろもどろになりながらも
?
との事らしいが、全く答えになっていない、
そんなハリーの態度にイラついて、
﹁つまりあなたは、ロンを悪いですが、責任は代わりに私が取ってくだ
さい、
そう言うことですね、あなたという人間の事ががよく分かりまし
た﹂
と、怒りを感じながら告げる。
つまりこの男はロンの前ではロンの仲間のフリをしつつ、その実ロ
ンに非があるとわかっているにもかかわらず、ロンではなく私にハー
マイオニーを慰めてくれ、と言いたいのだ。
こんな話はするだけ時間の無駄だ。
25
ハリーとの会話を切り上げてハーマイオニーを探しに行く事にす
る。
..........いえ、あり
ハーマイオニーは地下のトイレですすり泣くようにして個室にこ
もっていた。
﹁ハーマイオニー、すいません。
﹂
遅くなりました。﹂
﹁ク..ロア
と、半月前ほどに聞いた涙声が聞こえる。
﹁はい、私です﹂
パーティーはどうしたの
?
﹁何..でここに
がとう﹂
?
?
と私がパーティーよりハーマイオニーを優先した事に気づきお礼
を言ってくる。
﹁どういたしましてです﹂
とドア越しの友達に対し、出来るだけ明るい声で言おうとして、
いつも通り平坦な声しか出ない自分が少し嫌になる。
﹁ごめんなさい、私のせいで....﹂
いいんですよ、と答えようとしてふとここに来る前に見た怪物を思
い出す。
26
﹁..そう言えばですが、ホグワーツってトロールを飼ってるんです
ね。
ここに来る前に見ましたが、とても臭かったですよ、それに今も臭
いがします。﹂
﹁え....﹂
ガチャ、とハーマイオニーが個室のドアを開けると、非常に焦った
様子で手招きをしていた。
﹂と聞いてみるが、彼女は何か考え事で上の空という
とりあえずいつになく焦ったハーマイオニーの様子に気圧されて
入る。
﹁どうしました
感じだ。
る
そんなことより、トロールの臭いがどんどんきつくなっていってい
?
やがてハーマイオニーが口を開く
﹁よく聞いてクロア。
ホグワーツはトロールなんて飼ってない。
それが何故かここにいる、いくら何でも危険すぎる。
トロールが遠ざかるまでここで待機しておきましょう﹂
と言う。
確かに普通ならトロールなんてものここに居るはずがない、冷静に
考えれば緊急事態とも取れるだろう。
この辺りのハーマイオニーの頭の回転は羨ましい。
﹁分かりました。
それにしても判断が早いですね。
羨ましい限んっ....﹂
急にハーマイオニーに口を塞がれる。
口元に人差し指を立て、静かにしろ、
と伝えてくる。
少し息苦しいため首を強く上下に振り
了承の意を示すと、ハーマイオニーは開放してくれたが、
おそらく状況は最悪だろう。
トロールの気配はトイレの中から発せられている、
トイレに入ったトロールに個室に居ることがバレたら間違いなく
殺されるだろう。
出来るだけ気配を消しつつトロールが出るのを待っているとトイ
レの出入り口の扉の鍵の音とハリー達の嬉しそうな声が聞こえる。
本当にやってくれたな、あいつら....
ここで取れる選択肢はおそらく2つ
1つはここで隠れながら教師を待つ
2つ目は何とかしてここから逃げる
27
1つ目だがおそらくそう長くは持たないだろう。
何せトイレという狭い空間の中だ、一介の子供にすぎない私達が気
配を殺したところですぐにバレるだろう。
とはいえ2つ目もできる見込みはない。
私は魔法の実技は苦手だ。
>
さらに運動もあまりできない私では鍵のかかったドアを開けてか
ら逃げる。
などまず不可能だ。
どうすればいい どうすればいい どうすれば......
<私が、護ってあげようか
突如頭に響く声に驚き、目を見開く、
何で....
︵何であなたの方から私に干渉できるんですか︶
<ごめんね、ホントはいつでもできたんだけど、あなたが嫌がるか
なって....>
いや、そんな事より今は
︵そんな......いえ、それより先ほどの発言の意味は私たちを護る、
と言う意味ですか︶
<そうだよ、知ってるでしょ、私とキミの違い
まあ本当はあなただけのつもりだったけど、一人でも二人でもあま
り変わらないしね>
28
?
ああ、そういう事か、それなら確かにうまくいくかもしれないが
︵はい、よく知っていますよ、あなたが欠陥品だと︶
<....今だけでいいから私を頼ってくれないかな、絶対に何とかす
るから、
お願い、今だけでいいから....>
冗談じゃない、リスクが大きすぎる
︵ダメに決まっています。
そもそも、そんなことをしたってあなたに利点はない、
信用出来ません︶
じゃないと....>
そこでおびえた様子で私の手を握り震えているハーマイオニーが
目に入る。
いつも私を気にかけてくれている繊細だが優しい頼り甲斐のある
どこか抜けている少女
その彼女が冷静さを失いかけている、
と言うことに気づいて、私も冷静さを失いかけていることに気づい
た。
心の中でため息をつくと、頭の中を整理する
この状況での最善は恐らくこいつを頼ることだ
やはりこの手しかないか
29
拒絶するが、まだ食い下がってくる。
私を信用して
<で、でも、でもそれじゃああなた達が危ないじゃん....
お願い
!
その先の言葉が出ないのか、言葉に詰まった様子
!
︵分かりました。あなたの事を今回だけは仕方なく信用する事にしま
す。
>
ですが、その代わり絶対に私の身体とハーマイオニーを守ってくだ
さい︶
<うん、任せて
と少し安心したような声にイラつくが
気持ちを落ち着けて、ハーマイオニーの耳元に口を近づける。
﹁ハーマイオニー、今から私のカチューシャを渡します。
そしてこのトイレから逃げます。
ここから出て安全を確認したら直ぐに私の頭に戻してください。
良いですね﹂
とだけ告げると戸惑うハーマイオニーを尻目にカチューシャを外
すと
目線∼
急激に重くなっていく腕でハーマイオニーに手渡す
∼クロア
これなら奥の手を使う必要はなさそうだ。
前にこの子がとても大切なものだ、
と言っていたカチューシャを急に渡されたからか
戸惑っているハーマイオニーに
﹁ほら、逃げるよ﹂
と手を引っ張って無理に個室の外に連れ出す。
ハーマイオニーはトロールを認識した瞬間、思い切り悲鳴をあげ
30
!
良かった、この子が私を頼ってくれて
?
た。
明らか取り乱していたが、ハーマイオニーの手を強く握ると彼女も
幾分か落ち着きを取り戻す。
緩慢な動作で手に持っていた棍棒を振り上げると、私たちに向かっ
て振り下ろすが、
﹄
私はハーマイオニーと繋いでない方の手に持っていた杖を一応振
るうと
﹃ペル・サルス‼
と一番護りたかった時にこの子を護れなかった呪文を使う。
予想に反して潰れなかった私達に驚愕しているトロールの隙をつ
いて鍵のついたドアの前に行く、
﹂
振り返り、トロールの追撃に備えると背中の向こうにいるこの子の
大事な友達に
﹁ハーマイオニー、ドアを‼
﹄
この身体とハーマイオニーだけは絶対にこの魔法で護ってみせる。
ならば私は私の仕事をしよう、この子との約束だ。
きっとこの子が頼った人なら大丈夫だろう。
間違いを指摘しようと思ったが、こちらもあまり余裕はない。
顔を真っ青にして何度も間違えた発音を唱える少女が見える。
ダメだ、焦って発音に失敗している。後ろをチラ見すると、
と少し間違えた発音が聞こえる。
﹃アロホモーラ‼
と叫ぶと﹁わ、分かったわ﹂返事が返ってくる。
?
﹄
再び固く決意すると、私だけの私が嫌いな魔法を行使する。
﹃ペル・サルス‼
∼ハーマイオニー視点∼
何で
31
?
?
?
何で鍵が開かないの
?
!
呪文は唱えてる、杖もちゃんと振ってる
何で、何で開かないの
ナンデ
ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナン
デナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ
ダメだ、焦れば焦るほど思考が纏まらない。
今までは1人でたいていのことはできた。
できないことなんてほとんどなかったのに。
いつもは1人でちゃんと出来てたのに
なぜかできない。
何で出来ないのよ‼
﹃アロホモーラ‼
﹄
大きく深呼吸して今度こそ、と唱える
そっと手の中のカチューシャを握り直すと、
私も笑顔で頷き返す。
彼女が優しい微笑みを浮かべながら頷いてくれる。
いた。
チラリと後ろを見ると、丁度彼女も同じタイミングでこちらを見て
今も後ろで私を守ってくれている。
私が落ち込んだ時、いつも隣に立っていてくれる少女
今の私には失敗しても取り返してくれる大事な大事な友達がいる。
そうだ、私は1人じゃない、
それを認識すると同時に、狭まっていた視界が広がるのを感じる。
る。
痛みの原因を見てみると、そこには黒いカチューシャが握られてい
つい強く握った手に痛みが走る。
こんな所で私の生涯を終えるのか
あああああああああああ
杖を振っているが開く気配がしない。
恐らくもう30を超える回数は
?
手応えを感じ開いたことを伝えようと後ろを振り返り、
?
32
?
大きな声で﹁開いた
﹂と言うと
彼女は振り返ると大きく頷き出口に向かって走る。
私も外に出て、彼女のためにドアを開け放つと、直ぐに彼女も出て
きた。
彼女が出ると直ぐにドアを閉め鍵を掛ける。
隣には魔法の使いすぎによる疲労からか床にへたり込む私の友達
私自身も正直立っているのもきついが、彼女からの借り物を返さな
ければならない。
重い体に鞭打って彼女の所に向かいカチューシャを手渡すと、彼女
はカチューシャを少し寂しげに眺めると頭につける。
やはり彼女のカチューシャには何かありそうだ。
いつもの表情でに戻ったクロアが、私の後ろを見ながら言う
﹁はぁ、もう一歩も動けません、死ぬかと思いましたよ。
今更ながら遅れてヒーローの登場のようですね﹂
と言われ振り向くと、マクゴナガル先生を連れてこちらに走ってく
るハリー達を見つける。
﹂
∼クロア視点∼
﹁遅すぎませんか
いや当たり前だ、彼らは私達がトイレの中にいたことを知らなかっ
た。
ハリーに皮肉を言おうとして、頭が全然回ってくれない
疲労のせいで考えるのも億劫だ。
ハーマイオニーに説明を任せると、
私は地面にへたり込んだまま、壁を眺めていると、ふと思い出す
ハーマイオニーには多分、言ったほうが良いだろう、
彼女のことだ、恐らくある程度気づいている。
33
!
と言うが、ハリー達はなぜ私達がここに居るのか分からないようだ
?
﹁ハーマイオニー、今日のことで話があるので、後で少し話しましょ
う﹂
と、その場から少し離れた所でハリー達に説明をしているハーマイ
オニーに言う。
彼女は説明中にも関わらず器用に了承した。
見ればハリー達の顔が段々と青ざめていく、
自分のしでかしたことに気づいたのだろう、ハーマイオニーの説明
中、
ずっとアワアワしていたが、
説明が終わった瞬間にロンが、いきなり土下座をした。
﹁本当にごめんなさい、僕達のせいで....
授業の時も、
何でも簡単に出来るハーマイオニーに嫉妬してつい言い過ぎてた、
今まで悪いとは思ってはいたけれど
なかなか自分からは謝れなくて....
今回も本当に悪気はなかったんだ。
ただハーマイオニーもクロアもパーティーに居なかったから、
トロールが居ることを伝えなきゃ、
て思って探してたらトロールを見つけて、
閉じ込めたら安全になるって思い込んでて......本当に、ごめん
なさい﹂
ハリーもそれを見て隣で土下座を始めた。
ハーマイオニーが急に土下座を始めたロン達を見て慌てている。
﹁わ、私はもういいわ、そこまで怒ってないし、
私の方も少し上から目線だったかな
ってちょっとは反省したしね、
34
それより、クロアに謝ってあげて、
あの子がいなかったら私はもうペチャンコよ﹂
許された事にほっとした顔を上げたロンは私を見ると、
顔を強張らせながらこちらに走ってくる。
そういえばロンとちゃんと話したことはない殆ど無い気がする、
大体はハーマイオニー越しに話を聞くくらいだった、
恐らく彼は私のことを全然知らないのだろう、
緊張した様子で、なんて言えば良いのか分からないのか、
目を泳がせていた、少し面白いが話が進まないので、こちらから切
り出す。
﹁あの、私も別にハーマイオニーが許したのなら別に良いです、
そんな事より寮まで運んでくれませんか
歩けるには歩けるのですが、フラフラなんですよ﹂
と言うと、組み分けの時の教師、マクゴナガル先生が怖い顔をしな
がらこちらに歩いてくる。
﹁いえ、貴方は寮ではなく、医務室です。
全 く、お と な し く 私 達 が 来 る の を 待 っ て い れ ば 良 か っ た も の
を....﹂
と言うが、恐らく個室にこもらなかった理由はハーマイオニーから
聞いているはずだ、
単純に心配してくれているのだろう。
﹁すいません、
それなんですが、私はまだうまく足が動かないので....﹂
﹁分かりました、ミスター・ウィーズリー、ミス......クロアを医務
35
?
室に連れて行きなさい﹂
私にファミリーネームがないことに気づいたのか、気まずそうに言
う。
∼ロン視点∼
まさかハーマイオニーとの喧嘩がここまで大惨事になるとは思わ
なかった。
ハリーとハーマイオニーはまだ先生達と話しているが僕はクロア
を医務室に連れて行く様に言われたから、
クロアを背負って、医務室に向かっている。
僕には妹がいるがクロアと同じぐらいの身長だ、
﹂
背負う前はなかなか気恥ずかしかったが、今では平然としてられる
恥ずかしいらしい。
36
﹁そういえばさ、どうやってトイレから出たの
とふと思った疑問を口に出す。
﹁ハーマイオニーに鍵を開けてもらいました﹂
明らかに説明不足だが、
﹁あの、下ろしてくれませんか
クロアは僕とは違った様で
何て考えていると、
ないほうが良いのかも、
言わない、という事は言いたくないのかもしれないし、深く追求し
?
多分、少し休めばちゃんと歩けると思うので﹂
周りの視線がとても恥ずかしいです。
?
恥ずかしいがるクロアがどこか新鮮で吹き出してしまう。
﹁そうは言っても、前はハリーにお姫様抱っこされてたじゃん﹂
と言うと、少し呆然としたクロアだったが、すぐにいつのことか気
づいたのか
﹂
﹁あの時は寝てて意識が無かったのでいいんです、
いいから降ろしてください
流石にかわいそうなので降ろしてあげると
床に座ったまま赤い顔でこちらを睨んでくるが、無視して
﹁歩ける様になったら言ってね﹂
と言うと、彼女はため息を吐いて顔を隠す様に膝の上に頭を乗せ
る。
結局彼女が自分から歩き出したのは20分後だった。
37
!
5話 クロアの秘密
∼クロア目線∼
私とハーマイオニーは使われていない空き教室にいる。
ハロウィンの時にハーマイオニーに行った話をするためだ。
まさか私が秘密を話せるぐらいの友人を作るとは思わなかった、
﹁事実は小説より奇なり﹂とはあながち間違いでも無いらしい。
1つ深呼吸をすると、口を開く
﹁ハーマイオニー、最初に言っておきます。他言無用ですよ。﹂
真剣な表情で頷く
﹁まず、私がこのことを言う理由ですが
恐らくハーマイオニーならある程度勘づいていると思ったからで
す。
次に、何かあった時に私のことを知っている人がいれば対処がしや
すいから、
もう1つはあなたのことを信用しているからです。
ですがすべてを話すわけではありません、今話すのはある程度、で
す。
....多分ここはわかっていると思いますが、私はとある理由から
二重人格者です。
今あなたと話しているのが、表である私です、
そして、授業開始の日の朝とトロールの時あなたと話していたのが
裏....
この身体にあるもう1つの人格です。
そして裏が上に出ることができるのは私がカチューシャを外した
時だけ、
つまりこのカチューシャで裏を抑えています。
これが無ければ私は表として上にあがることは出来ません。
38
なので私にとってこのカチューシャは私という存在と同じぐらい
重要なんです。
と、まあこんなところでしょうか﹂
∼ハーマイオニー目線∼
トロールの時、クロアに話があると言われ、
その話を聞いていた、大体予想通りだったが、幾つか疑問が残る。
﹂
﹁でもそれって、あなたがカチューシャをつけている間は、その、裏
がずっと抑えられてるんでしょ
これだと裏が少しかわいそうでは無いか
﹁構いません、どうせアレは不良品です。﹂
そんな私の思考を読んだように告げて来る
﹁裏の子が上に来ることって殆ど無いんでしょ
と、クロアの態度から予想する。
﹁当たり前です。一度アレが上に出てきたら
私が私の意志で上に戻ることは出来ません。
危なすぎるため、ほぼずっと抑えています﹂
﹂
いてはいけない気がして押し黙り、次の疑問をぶつける。
目を逸らし、何かをこらえる様に歯をくいしばるクロアにそれを聞
は分からないが、
その〟アレ〟がカチューシャのことを指すのか裏の事を指すのか
?
の事を優先すると思うの﹂
﹁でも、多分だけどその裏の子って、いい子だと思うんだよね、あなた
?
39
?
次の疑問をぶつけようと口を開く。
﹁だから﹁私という存在を蔑ろにしろと言いたいのですか
が被せてくる。
﹁私はそもそもアレのことを信用していません。
極力リスクは避けたいと思っています﹂
﹂
やはりか、慎重なクロアの事だ、彼女の中での最優先は彼女自身な
のだろう。
﹁でも私にカチューシャを預ければ......﹂
ならばトロールの時と同じ様にすれば、と思ったが
﹁トロールの時の様に、ですか
と言ったはずです。
あの時あなたが私の身体に手渡した時は心臓が止まるかと思いま
した﹂
と少し怒った様に言う
慌てて謝ると﹁まあ良いです。あの時は時間がなかったので仕方あ
りません﹂
40
?
﹁ここから出て安全を確認したら直ぐに私の頭に戻してください。﹂
確かあの時、私はあなたに
それと、
私とアレではできる事が違いますから。
あの時は緊急事態だったため仕方なく外しただけです。
?
﹁とにかく、私があなたにカチューシャを渡しても、アレが私の身体を
使ってあなたを騙そうとするかもしれません。
最悪不意打ちで強奪、という可能性もあります﹂
なるほど、どうやらクロアは裏の事を微塵も信用しないつもりらし
い。
﹂
なら最後に今までずっと、組み分けの日から今の今までずっと疑問
だったことを聞いてみる。
﹁ねえ、なんでクロアは、
いえ、あなたは......笑わないの
そうクロアは確かに笑うことはある。
が、表であるこの子が笑った所を私は見たことが無い、
それは二重人格では、納得できない。
﹁..........あなたの言いたいことは分かります。
ですがここからは言えません。すいません﹂
﹁そう....﹂
と答えるとお互いに沈黙が流れる
∼クロア目線∼
まだあまり納得できた様子では無いがとりあえず事前に言ってた
方が良い、と思っている範囲までなら話した。
まだ少し考え込む様子のハーマイオニーに寮戻ることを告げると
部屋を出る。
そう言えばもう少しでクリスマス休暇だ、
....帰る必要は無いな、帰った所で
いるのは別に親しくも無い、
41
?
というよりかは私の方から関係を持とうとしていないだけだが、そ
んな親戚だけだ。
それにあそこの書斎に置いてあるめぼしい本は大体読んだがホグ
ワーツにはまだまだ面白そうな本がある。
﹁あ、クロア﹂
後ろから呼ばれ、振り返るとハリーとロンがいた。
トロールの時からハリー、ロン、ハーマイオニーの3人はとても仲
が良い。
私は、まあ仲は良いほうだと思うがハリーとロンと読書を比べるな
ら読書を優先するだろうが、
私の身体を危険に晒したのだ。
42
まだまだ危険に見合うとは思えないが....
﹂
﹂
いや、もう過ぎたことで考え込むのは止めよう。
﹁どうしました
﹁クロアはクリスマス休暇の間、ここに残るの
何だ、そんなことか
﹁家でも良く書斎で寝てましたからね。
前﹁また寮に帰らず図書室で寝てた﹂なんて怒ってたよ﹂
﹁クロアって本当に本を読むのが好きだよね、ハーマイオニーがこの
﹁残りますよ、私はここの図書室で本を読まないといけませんからね﹂
が、割とどうでも良い質問だった
ハーマイオニーと秘密に関して話していたからか、緊張していた
?
?
本が周りにあると何となく安心して寝れるんです﹂
頭に今の家での生活がよぎる。
良く本を近くに置いたまま寝ていた。
目が覚めると毛布がかけられていたが
ホグワーツではそんなことは無い。
そう思うと家が少し懐かしくなった。
﹁あんまりハーマイオニーに心配かけさせるなよ、
あいつ、お節介焼きだから過労死するぞ﹂
と言われる、
ハーマイオニーと彼らの仲が良いことに少し嫉妬してしまう。
﹂
43
﹁大丈夫です。私は寮に帰らないことはあっても、夜中に抜け出した
りはしません﹂
確か前にハーマイオニーが私に、
彼らが寮を抜け出した
と愚痴をはいていたことを思い出す。
﹁はは、お互い様みたいだな﹂
﹁そうですね、それで、何で前は抜け出したりなんかしたんですか
﹁ああ、あの時はマルフォイの奴に決闘を挑まれてね﹂
誰だそいつ、と言うかそれは抜け出す理由になり得るのだろうか
いや、私も図書室で寝る理由なんて大したことはない
そんなものなのだろうか......
?
﹁それで、その後はどうなったのですか
﹂
ハリーが﹁それは....﹂と言いにくそうに口ごもる。
その反応から結果を予測する。
﹁来なかったのですね﹂
図星らしく、まるでなんで分かったんだ、とでも言いたそうな顔を
している。
﹂
﹁私はマルフォイ、という方のことは存じ上げませんが、
もう少し慎重に考えたら分かったのではないですか
ですか
﹂
﹁それで話題を戻しますが、あなた達はクリスマス休暇はどうするの
関わらないのが正解だろう。
間違いなくめんどくさい人間
上そのやり口は狡猾
導し減点を狙ったところを見ると寮自体も敵視しているようだ、その
ハリー達を敵視している、いやハリー達に夜中に抜け出すように誘
との事だ、その話からマルフォイという人の人柄が見えてくる。
﹁で、でももし行かなかったらマルフォイの奴に馬鹿にされるんだ﹂
?
と吐き捨てるように言う
ロンはそんなハリーに苦笑いしながら、ハリーに遠慮したのか﹁僕
は帰るよ﹂とだけ小さく言った。
ハーマイオニーも帰るようなので寂しくなりそうだ
ホグワーツに来るまではこんな事思う事もなかったのだろう、
それが悲しい事なのかは私には判断しきれないが....
44
?
ハリーは顔をしかめると﹁帰らないよ、帰りたくもない﹂
?
﹁そうですか、寂しくなりそうですね、
では、私は部屋に戻るので﹂
と会話を切り上げると部屋に戻る。
クリスマスか、ハーマイオニーは何を贈ったら喜んでくれるだろう
か
友人とプレゼントを渡しあう、
という事が今から、楽しみだった。
45
6話 クリスマス
﹂
∼クロア目線∼
﹁くしゅん
風邪を引いた気がする。
原因は図書室で寝ていた事だろう。
幸い今はクリスマス休暇だ。
授業も無いので医務室で無理に直す必要も無いだろう。
あそこは本が読めないから嫌いだ。
移しても悪い気がするので、寮で1人、毛布にくるまって本を読ん
でいる。
ダメだ、本の内容が頭に入って来ない
悪化している気がする。
読書を中断してベッドの中に潜るが、する事が無くなると、寒さと
頭痛だけが激しく自己主張してくる。
さらに、まだ時間は朝、眠れる時間でも無い。
どうせ本が読めないのなら医務室に行った方が良さそうだ。
と結論付けて、医務室に向かう。
頭の中で医務室の位置を探すが、分からない。
医務室ってどこにあるんだ、
とりあえずさまよっておけばいつかは見つかるだろう、最悪、教師
にでも聞けば良い。
おぼつかない足取りで探し始める。
∼ハリー目線∼
暇だ、クリスマス休暇に入ってからハーマイオニーもロンもいな
い。
図書室に行ったがクロアも居なかった。
だがクリスマス休暇はあのドラコ・マルフォイもいない......こ
れはこれで暇だ
46
!
暇になると昨日の鏡を思い出してしまう。
想像するだけで興奮してきた。
別に見るだけだ、何が悪い。
むしろ、両親を映す鏡なんて、僕が見るために置いてあるようなも
のだろう。
気がつくと早足で鏡のもとに向かっていた。
鏡のある部屋が視界に入る。
ドアの下に走って行く、途中で誰かにぶつかるが、気にせずドアを
開けて中に入る。
[みぞの鏡]と言うものらしい、どういうものかは分からないが、僕
と僕の両親が映る、という事が重要だ。
鏡の中の理想郷を見ていると、
後ろから誰かが何かを言ってくる。
うっとおしいが、僕にはこの鏡、いや両親の方が重要だ。
47
無視して鏡とその中の両親の事を見続けていると、肩が揺すられる
ついカチンときて目は鏡を見たまま後ろの人を突き飛ばす。
﹂
やってしまった、と思ったが、僕の両親との時間を邪魔する方が悪
い。
﹁ハ、ハリー
クロアのところに駆け寄ると、
中に入ってきた、そんな感じだろう
その時の僕の様子がおかしかったから
う、
おそらくここに来るときにドアの前でぶつかったのはクロアだろ
そこまで来てようやく冷静になった。
見た、といった感じの表情を浮かべて、こちらを見ていた。
地面に尻もちをついたままの体勢でクロアが信じられないものを
ビックリして、振り返ると
と聞き覚えのある声が聞こえてくる。
?
﹁ご、ごめん
﹂
僕、鏡に夢中で....﹂
と急いで謝る。
﹁いえ、別に大丈夫です。
それより、なんですかその鏡は
と聞かれながら、クロアが伸ばした手を掴むと、引き上げる。
﹂
やはりこの鏡に興味を持ったらしい。
﹁この鏡はね。
僕の両親を映すんだ‼
........は、今なんて言った
....ふざけるな
みる価値は無い
この2人、僕の両親は偽物で、
鏡の中で僕に優しくしてくれている
?
そこまで熱中してみる価値のあるものではありません﹂
本物ではなく、あなたの想像から作られた偽物、まがい物です。
つまり、ハリー、あなたの見ている両親はあくまであなたの願望、
﹁これは、おそらく[みぞの鏡]、見る者の望みを映す鏡です。
考えていたが、やがて
と、興奮しながら言うが、クロアは壁に背をつけたまま、少しの間
?
ここにいる僕の両親が偽物なものか
∼クロア目線∼
﹁ふざけるなよ‼
しかもそれを無価値
?
!
?
?
48
?
!
﹂
ここにいるのは、本物の僕の両親だ。
僕を騙そうとしたって無駄だ‼
﹁うるさい‼
黙れ‼
﹂
医務室の場所を聞こうとしただけなのに、何でこうなる......
落ち着かせようと、諭すように言う。
だから本物では無いんです﹂
します。
先ほども言いましたが、この鏡はあなたの心の中の一番の望みを映
﹁騙すも何もありません。全て事実です。
ハリーが大きな声で叫ぶ、頭に響くからやめてほしい。
?
﹁気に障ったのなら謝ります。
慎重に言葉を選んで
無言で私を睨んでくる。
私よりも背の高いハリーが少し怖い。
どうしたら良いのか分からなくて、とりあえず謝る。
やめてください。私が悪かったですから﹂
﹁ハ、ハリー
息苦しいし、頭に響く
られる。
さらにヒートアップしたハリーに胸ぐらを掴まれて壁に押し付け
?
私はあなたが偽りの両親でも良いのなら、みる価値は無い、という
言葉は訂正します﹂
49
?
?
地雷を踏み抜いた。
彼が私の胸ぐらを掴む手が首に動く。
マズイ、さっきの言葉は失敗だったようだ。
息苦しい。
両手で彼の手を外そうとするが、ビクともしない
おそらく彼も私を殺そうとはしないだろうから、ある程度で離すと
は思うが....
彼の凄まじい形相を見ていると、少し自信が無くなる。
私もささやかな抵抗として、彼を睨み返す。
あ、だめだ意識が保てない、視界が狭まり、私は身体のコントロー
ルを手放す。
∼ハリー目線∼
僕の手の中で力無くうなだれる少女を見てハッとして手を離す。
きっと生きているはずだ
にやけ顏でこちらを見ていた。
﹁さぁて、どうするのかな∼﹂
....生きてるよな
僕が......人殺し
へ
?
い....生きてる..よな
?
50
崩れ落ちるクロア。
生きてるよな
﹁あれれ∼殺しちゃったの
?
驚いて上を見ると、そこにはピープスが
﹂
そうだ、皆に話せば分かってもらえるはずだ、
ら....
いや、クロアが悪いんだ、クロアが僕の両親を偽物呼ばわりするか
?
ピクリとも動かないクロアを見ていると不安が強くなる。
?
動かない
嫌だ、一生牢屋で暮らすなんて嫌だ
逃げなきゃ クリスマス休暇が終わればロンが帰ってくる。
そうしたらきっと分かってくれるはずだ。
だって..僕は....僕は悪く無いんだ......
∼クロア目線∼
目が覚める
ここは....医務室か、さっきまで何をしていたのか、と考えている
その首の痣、何があったのか、教えてくれる
﹂
と、医務室の先生、マダム・ポンフリーがこちらに目を向け、
﹁大丈夫
と聞いてきた。首の痣で思い出した、
マダム・ポンフリーは少しの間ブツブツと何かを呟いていたが、
らしい。
私を発見した時は私が倒れていただけで近くには誰も居なかった
マダム・ポンフリーに説明を終える。
れただろうか。
こんなときにハーマイオニーが居てくれたら彼女は甘えさせてく
今思い出しても怖かった。
が震えていた。
マダム・ポンフリーに説明しているときに気づいたのだが、私の声
さらにヒートアップして首を絞められたのだ。
それをなだめようとして、おそらく失言をしたのだろう。
かってきた。
確か、ハリーにみぞの鏡について説明したら、なぜか怒って掴みか
?
やがて立ち上がると﹁他の先生に話してきます﹂と言うと何処かに
行ってしまった。
51
?
1人になるとさっきのことを思い出す。
怖くて涙が出てくる。何かから隠れるように布団に深く入る。
ふと気づいたのだが風邪も治っていた。
おそらく何かの薬で治してもらったのだろう。
早く寮に戻りたい。
早くハーマイオニーに会いたい
楽しみだったはずのクリスマス休暇は既に無くなった。
その後寮に帰るついでにあらかじめ買っておいたハーマイオニー
にプレゼント︵本︶を贈る。
少し早いプレゼントだが、
もう寮から出たく無い、
きっとハーマイオニーも分かってくれるだろう。
幸い寮にも本を置いたままだ。
それを読めば、時間は潰せるだろう。
読み返せば、だが
みぞの鏡......そこに写っていたものを思い出す。
そこに映る私にカチューシャは付いてなかったが、いつも通り笑っ
ていなかった。
そのことに少し安心する。
早くアレを私の身体から消したい。
クリスマスになった。
私のもとに来るプレゼントは1つだけ....
だと思っていたが4個きた。
ハーマイオニー、ロン、ハリー、現在の家からだ、
ハーマイオニーからは本、なかなか高そうだ。
ロンからはクマのぬいぐるみ、とりあえず枕の隣に置いておく。
ハリーからは....お菓子と謝罪の手紙だ。......お菓子は美味し
かった。
52
家からは手紙と本だ、手紙は他人行儀な文で私を心配する旨の内容
だった。
想像以上に多くきた、こんな事ならロンにも送っておくべきだった
かもしれない。
まあ、来年から気をつければ良いだろう。
ハーマイオニーと家からは本だが、丁度寮に持ち込んである本は全
て読みきっていたところだ、
少し気持ちが明るくなる。
ベッドの縁に腰をかけると家からの本を読みはじめる。
53
﹂
7話 仲直りとドラゴン
ク..ア
∼クロア視点∼
﹁ク....
﹁どうしたの
﹂と聞いてくる
と泣きながら言う。
﹁怖かったです....﹂
ハーマイオニーに抱き着くと
男子が入れない女子寮はある意味最強のセキュリティーだった。
ハリーの件があってから寮の部屋からは一歩も出てない
目から涙があふれてくる。
なかなか寝れなかった。
ち遠しくて
ハーマイオニーだ、確か昨日はハーマイオニーが帰ってくるのが待
私の名前を呼ぶ懐かしい声がして飛び起きる。
!
﹂と聞いてくる、
私もそれについていく。
頷くと、彼女は部屋を出て談話室に向かう
気を遣えるいい子だと思う
理由ではなく大丈夫かと聞くあたり
﹁大丈夫
落ち着いてきたので、ハーマイオニーから顔を離す。
どれくらいそうしていただろう。
何も聞かず頭をなでてくれる。
ハーマイオニーは私の態度から何かを察したのか、
理由も話さずハーマイオニーを抱き枕に泣き続ける。
彼女とハリーとの関係がまた悪化するだろう。
優しいハーマイオニーに正直に話せば間違いなく
?
54
!
?
談話室にはすでにハリーとロンがいた。
ハリーから隠れるようにハーマイオニーの陰に立つ
﹁ロン、プレゼントをありがとうございます。
すいません、私にもらえると思ってなかったので用意していません
でした﹂
と言うと彼は微妙な顔でこちらを見ると、
まじめな顔をして、ハーマイオニーに何か耳打ちした。
∼ロン視点∼
約一週間ぶりにホグワーツに帰ってきた。
ハリーを見つけると彼も僕を見つけたらしく
安心したような表情でこちらに走り寄ってきたが
55
その表情がどこか追い詰められているのに気づいて
聞いてくれ、僕は悪くないんだ‼﹂
不安になる、何かあったのだろうか
﹁ロン
ないぞ﹂
﹁ハリー、いいから、落ち着け。今のお前は何を言っているのか分から
そう泣きそうな顔で必死に訴えてくる。
て....﹂
﹁違 う ん だ、僕 じ ゃ な い ん だ、ク ロ ア が 僕 の 両 親 の こ と を 偽 物 っ
﹁落ち着け、いったいどうしたんだ﹂
と、僕はまだ何も言っていないのに言い出してくる。
!
まだ何か言いたそうなハリーを無理に落ち着かせると
ハリーは深呼吸して少しずつ、懺悔するようにこぼす。
......これはハリーがやりすぎだろう、
クロアもかなり容赦ないことを言っているが本人にその自覚はな
いだろう。
ため息が出る。とりあえずハリーをなだめていると
クロアとハーマイオニーが来た。
クロアの目が少し赤い、泣いていたのだろうか。
僕らも彼女達のほうに移動する。
ク ロ ア は ハ リ ー か ら 隠 れ る よ う に 立 っ た ま ま 僕 に プ レ ゼ ン ト を
贈ってないことを謝る。
それに笑顔で返そうとして、うまく笑えなかった。
ハーマイオニーに﹁少し話があるんだ、クロアのことで﹂
56
というとまじめな表情を浮かべる僕と、様子のおかしかったクロア
を見て頷く。
ハリーに﹁ハリーとクロアの事でハーマイオニーと話があるから
待っててくれ﹂
といい、ハーマイオニーと離れようとしたのだが
クロアがハーマイオニーから離れようとしない、
﹂
当たり前か、あんなことがあったのにハリーと二人きりにはなりた
くはないだろう
﹁何があったのかハリーから聞いたよ、ハーマイオニーは
と、たずねると
で言う。
?
﹁いやあれは仕方ないだろう、思い出したくもないんじゃないか
﹂
﹁すいません、私が言いたくなかったので......﹂とクロアが小さな声
?
と言うとクロアがこくりと頷く。
﹁え っ と そ も そ も 私 は 何 が あ っ た の か、そ こ か ら 知 り た い ん だ け
ど....﹂
蚊帳の外になりかけていたハーマイオニーがおずおずと聞いてく
る。
僕はハリーから聞かされたことを話し始める。
∼クロア視点∼
トラウマとまではいかなくともそれなりにハリーのことが怖い
それをロンの説明を聞きながら再確認した。
説明を聞いている最中、無意識のうちにハーマイオニーの服の裾を
﹂
57
強く握っていた
﹁クロア、さっきの話は本当なの
私の力になりたいって言ったじゃない‼﹂
私にもっと不安をぶつけてって、
﹁なんで....あの時あなた、
して私に言う
と答える。ハーマイオニーは悲しいとも寂しいともとれる表情を
﹁はい、そうです﹂
がして目を逸らしながら
さっきは言えなかったからか、なんとなく咎められているような気
と真っ直ぐにこちらを見ながらハーマイオニーが聞いてくる
?
確かハロウィーンパーティーの前だったか、確かにそう言った。
﹁私だって、私だって同じなのよ..私だってあなたの力になりたい
あなたの不安を取り除いてあげたい‼
もっと私を頼ってよ‼﹂
泣きながらそう私に叫ぶ。
﹂
それに、私は先ほども言いましたがハリーとの関係は良好のままの
すし。
﹁私は別に構えません、もともとはたぶん私の失言が原因だと思いま
彼も相当悩んでたんだ﹂
﹁あー、悪いんだけど、ハリーのことも許してあげてくれないかな
涙をこらえながら謝る。
と言われ口を閉じる。やはりハーマイオニーは優しいと思う。
よりクロアのほうが大事なの
オニーとハリーの関係が﹁知らないわよそんな奴‼私はハリーなんか
﹁すいません....ですが、私がこのことを正直に言えばまたハーマイ
!
クロア自身は、私達の関係なんて気にしなくてもいいんだ
ほうがいいですし﹂
﹁いいの
よ﹂
あと私はいったいどこで失言をしたのか分かりません。
それに心当たりがありましたら教えてくれると助かります﹂
ハーマイオニーとロンは私を見ると苦笑いした。
58
!
﹁はい、私自身がそれを望んでいます。
?
私達は談話室に戻るとハリーが立っていた。
ハリーが振り返った時、私と目が合うとサッと目を逸らす。
﹂
どうやらロンが言っていた﹁悩んでいた﹂というのは本当らしい。
﹁あの、ハリー、私はもう気にはしていませんよ。
私にも非はありますし....なにより反省、しているのでしょう
﹁そ、それは....反省はしてるけど、
﹁へ....私、マダム・ポンフリーに言いましたよ
ハリーが瞬きをする。
﹂
僕はまだ罰を受けてないんだ。釣り合わないんだよ、これじゃあ﹂
たんだろ
それに、僕はどの先生にも怒られてない、クロア、君が言わなかっ
じゃ....
そ れ で も 僕 が や っ た こ と は そ ん な 簡 単 に 許 さ れ て い い も の
?
まるで何もなかったかのように
しい
私は先生に言ったにも関わらず、ハリーは誰にも怒られていないら
?
ハーマイオニーのほうを見ると、彼女も同じようなことを考えてい
るようで
あごに手を当て、考え込んでいた。
﹁ダンブルドアね﹂
﹂
ハーマイオニーが小さな声で漏らす。
﹁なぜそう思ったのですか
?
59
?
素直に聞いてみると
﹁まずこのことが生徒に漏れればハリーの扱いは最悪殺人未遂者、
良くていじめの対象でしょうね。
そしてスネイプ先生あたりなら喜んで言いふらす。
でもスネイプ先生が何も言っていない、ということはスネイプより
上の立場
そんな奴この学校じゃあダンブルドアしかいないでしょ﹂
スネイプ先生で思い出したんだけど。
なるほど、さすがハーマイオニーだ。
﹁そうだ
﹂
スネイプ先生がこの学校に隠されている
賢者の石を盗もうとしてるんだ
ハリーが叫ぶ。
﹁賢者の石、とはなんですか
﹂
ハーマイオニーが少しムッとしたがなだめる。
!
﹁ちなみにどこからその情報を
?
その証拠にそのときあいつは三頭犬に足をかまれてた、
﹁ハロウィーンパーティーのとき一人だけ4階にいってたんだ、
﹂
口ごもるハリーにハーマイオニーがかぶせる。
を黄金に変える石。不老不死の薬﹃命の水﹄の材料よ﹂
﹁賢者の石っていうのは......えーと..とにかく凄﹁あらゆる金属
何かの本で読んだような気がするが思い出せない。
?
60
!
だから僕達はスネイプがあの騒動を起こして、
その混乱に乗じて4階の三頭犬が護っている何かを盗もうとして
いる。
それから、少し前にハグリッドが誰かに三頭犬の弱点を聞かれたら
しい。
だからハロウィーンパーティーの時に失敗したスネイプは、
﹂
番犬である三頭犬の弱点を魔法生物に詳しいハグリッドから聞き
出して
次で確実に盗み出そうとしている。と思ったんだ﹂
﹁なるほど、ちゃんと筋は通ってますね。
でもなぜ三頭犬の居場所を知っているのですか
あとなぜ一般の生徒であるあなたが賢者の石の存在を
﹁ハリー達が夜中に抜け出したときにフィルチ先生に見つかりそうに
なって逃げ込んだ部屋で三頭犬を見たのよ﹂
ですよね﹂
ハリーとロンはごまかすように苦笑いを浮かべる。
﹁賢者の石はハグリッドが口を滑らせてね﹂
﹁ハグリッド......確か禁じられた森の番人
ことがなかったな﹂
﹁なら今から行ってみる
しね﹂
ハグリッドはスネイプとは違っていい奴だ
61
?
?
﹁そうだよ、そういえばクロアを連れてハグリッドの小屋には行った
?
﹁えっと、私は...﹁そうだな、一度会ってみるといいと思うぞ﹂
?
どうやら拒否権はないらしい。
私の意見を無視して話は進んでいき、私は正直本を読んでいたかっ
たのだが....
﹂
まあみぞの鏡の件がうやむやになってくれるのならそれでもいい
だろう。
ため息をつくと、三人についていく。
﹁おお、ハリーにロンにハーマイオニーと......だれだ
﹁クロアっていう子よ﹂
自分から聞いた割にハグリッドは大した関心を持っている様子は
ない。
そわそわしているハグリッドを訝しげに見ていると
﹁それよりこれ、みてくれ、ドラゴンの卵だ﹂
と信じられないような発言をした。
﹁あの、一つ質問していいですか。
62
?
確かドラゴンの卵を所持するのって法律で禁止されてましたよね
﹂
暗にお前たちは犯罪に加担しかけている。と告げる。
私は犯罪に加担したくありません﹂
今すぐに専門の人に預けるべきだと思います。
﹁興味はあります、ですがそれとこれとは別です。
気になるだろ﹂
﹁それは....そうだけどさ、ドラゴンの卵だぜ。
?
﹁そうよ、ハグリッド、ドラゴンはあきらめなさい﹂
﹁だが....﹁ダンブルドアにも迷惑がかかるのよ﹂....そうだな。
惜しいがドラゴンはあきらめることにするか﹂
ハーマイオニーがうまくハグリッドを説得する。
ハリーとロンはまだ少し不満げだったが持ち主であるハグリッド
があきらめたのだから
仕方ないといった感じであきらめていたが。
これならドラゴンに関してはもう大丈夫だろう。
なんて思っていた..........
63
8話 罰と磔の呪文
∼クロア視点∼
﹁....ア、ク..ア﹂
誰かに体をゆすられる感覚に目が覚める
﹁んぅ....﹂
ここは....図書室だ。おそらくいつものようにここで寝たのだろ
う。
周りを見るとハリー、ロン、ハーマイオニーがいた。
﹁どうしました、まだ真っ暗じゃないですか。
眠いのですが....﹂
﹁今夜ドラゴンを逃すんだ。だからその送別式みたいな事をしようと
思ってね﹂
珍しくハーマイオニーも一緒になって深夜徘徊に加担していると
ころを見ると、彼女もそこそこドラゴンに愛着が湧いていたのだろ
う。
﹁私はここでもっと寝ていたいのですが﹂
﹁ならなおのことよ、私はあなたのその図書室で寝る癖をなんとかし
たいと思ってたの。
だから無理にでも連れて行くわよ﹂
おそらく私もついて行くまで粘るだろう。
64
﹁分かりました﹂
とため息をつきながら言うと
﹂
ハーマイオニーは頭を押さえながら﹁ため息をつきたいのはこっち
の方よ﹂
と呟く
﹁あの、私今とても眠くてですね。寮で寝ててもいいですか
﹁あなただけおいて行ったらまた図書室に戻って本を読むでしょ﹂
私は信用されてないようだ。そんなつもりはないのだが....
そもそも私は生まれた後のドラゴンを一度も見ていない。
興味は無いこともないのがそんなことよりさっさと寝たかったが、
ハーマイオニーがこの様子では無理だろう。
仕方ないか、私もおとなしくドラゴンの所に行こう。
ハグリッドの小屋は暖炉がパチパチと音を立てて燃えていた。
つまり何が言いたいかというと、
夜にあったかい部屋、聞き心地のいい音、眠い
小屋の中では何やらハリー達三人とハグリッドが涙ながらにドラ
ゴンに別れを告げていた。
が、私はそれどころではなく、意識を総動員して睡魔と大戦を繰り
広げていた。
意識の大半が睡魔に寝返ったところでようやくドラゴンの送別会
が終わったらしい。
ハーマイオニーが壁に寄りかかって眠る直前の私を引っ張って行
く。
目をこすりながらもふらつきつつ立ち上がり、ハーマイオニーに
引っ張られて行く。
ハーマイオニーと初めて会った日もこんな感じだったな
65
?
﹁そこで何をしている
﹂
急に怒鳴り声が聞こえた。
私は目をこすりながら前を向くと、確かフィルチという管理人
その隣に
とがった顎に金髪の生徒がこちらをにらむように立っていた。
と
その後、なぜか私たちの事情をを知っていた金髪の生徒︵前にハ
リー達が話していたドラコ・マルフォイ︶がすべてを話し、
グリフィンドールから減点され、私たち︵ついでにマルフォイも︶は
罰を受けることになった。︵ハーマイオニーが私は寝ているのを無理
に連れてきた、と言い張り私は減点だけは逃れた︶
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
罰を受ける日が来た。
私たちは、フィルチについて行くようにして深夜に禁じられた森に
きていた。
こんなところで何をするのだろうか、と思っていたが
ハグリッドが出てきて、説明を始めた。
どうやら傷ついたユニコーンを見つけ、
手当もしくは助からないようなら殺処分するだけらしい。
私たちはハグリッド率いるマルフォイ、ロンと
ファング︵ハグリッドのペットの頼りなさそうな犬︶、私、ハーマイ
オニー、ハリーの二組に別れて森の中を捜索することになった。
というかなんでわざわざ深夜なのだろうか、眠いのだが......
なんて考えながら探していると、開けた場所に出た。
そこには真っ黒な闇の中に横たわる真っ白なユニコーンがいた。
隣でハーマイオニーがつばを飲み込む音がする。
66
?
!
﹁あれ、ですよね
生きているのでしょうか、
血....のようなものがあふれていますけど﹂
近づこうとして三人同時に足を止める。
フードで顔を隠した男がユニコーンの近くで四つん這いになって
血をすすっている。
ファングがすさまじい速さで逃げていく、
逃げ足に見合った大きな音を立てて。
音に気付いた男が緩慢な動作で体を起こしこちらを見る。
ハーマイオニーをみるとあちらも同じことを思っていたようだ。
速く逃げよう。
ユニコーンの血は口にすれば永遠に呪われる。
まずそんなものを飲む以上教師ではないだろう。
なら何者か、不審人物だ。
﹁ぐっ....﹂
隣を見るとハリーが額を抑えてうずくまっている。
明らかに様子がおかしい、どうしたのだろうか。
戸惑っている間にも、何者かは近づいてくる。
﹁ハリー‼﹂
ハーマイオニーが叫ぶと、彼はふらつきながらも立ち上がり
何者かと距離を取ろうとするが、あの状態では逃げられない。
だめだ、逃げることはできない、そして私はあまり魔法は使えない
ならば....杖を抜き何者かに向ける。
﹁止まってください、見たところあなたは杖を持ってはいないようで
すが
魔法使いですよね、この状態ならいくら子供とはいえ三人です。
67
?
あなたをホグワーツの教師に突き出すことぐらいならできますよ﹂
全力で戦闘を回避するのが得策だろう。
状況を見ると杖を持っていない大人が一人、杖をすでに構えている
子供三人
明らかにこちらのほうが有利だろう。
と思っていたが、フードの男は止まる様子はない
﹄
ハーマイオニーが杖を振り
﹃ステューピファイ
失神呪文を使う。
戦闘は回避したかったが....いや仕方ないだろう
男は軽く身をよじり、それをかわす。
あの様子なら私の呪文などおそらく、大した効果などない。
ならハリーを何とかしないと、と思い、私が振り返った瞬間に、
﹃ステューピファイ﹄
と明らかにハーマイオニーとは違う声が聞こえ、私は自分の考えの
間違いに気づく
杖を構えていなかったから、持っていないと思い込んでいたが、そ
んなことはなかった。
隣でハーマイオニーが倒れる。
振り返ると、そこには男が目深にかぶったフードの奥からこちらを
見ていた。
﹁どいてくれ、私はそいつに用がある﹂
と私に言ってくる。
この状態からどうにかできるとは思えないので、
素直に杖を放り捨て、両手を上げ聞き返す
﹁ハリー・ポッターに何の用ですか﹂
68
!
﹁お前がそんなことを気にする必要はない、いいからどけ﹂
男の焦っている様子を見ると、時間がないのだろう。
たしかにこのまま時間がたてば、ハグリッドやフィルチ、ほかの教
師が来るかもしれない。
そしてこの男はハリーに用があると言っていた、おそらく私がどけ
ばハリーは殺される、そんな雰囲気をこの男は出していた。
ハーマイオニーにはわざわざ失神呪文を使っていたところを見る
と、私が邪魔をしても殺されはしないだろう。
﹂
なら、私のすることは時間を稼ぐことだ。
﹁ハリー・ポッターを、殺すのですか
﹂
﹁ああ、そうだがお前は関係ない、あのお方の気が変わらないうちにお
となしくどけ﹂
﹁あのお方、というのは誰ですか
ヴォルデモート......誰だろう、どこかで聞いたことのある名前
だ。
こんなに特徴的すぎる名前、普通は忘れないと思うが....
﹁ヴォルデモート、とは誰ですか﹂
あのお方を知らないのか﹂
と聞いた途端に、男が驚愕とも怒りともとれる表情に変わった。
﹁貴様
69
?
﹁あのお方、偉大なるヴォルデモート卿だ﹂
?
﹁はい、どこかで聞いたことはあるのですが思い出せません
!
貴様、あの方の名前を侮辱するのか‼﹂
そのような名前は忘れることはないと思ったのですが....﹂
﹂
﹁そのような名前だと
﹁へ
<大丈夫
何があったの‼>
立っていられなくて地面に倒れこむ。
直後、私を形容しがたい苦痛が襲う。
﹃クルーシオ‼﹄
男は憤怒の表情を浮かべて私に杖を突き付けていた。
別に悪意はなかったのだが....と考えていると
侮辱....そのような名前、と言ったことに怒っているのだろうか、
!
﹁あああああああっ
﹂
頭に声が響くがそれどころではない
!?
る。
﹁あああああああっ
ひどく冷たい目でハリーを見ると杖を向ける、魔法を使おうとし
く。
男は苦しむこの子を一瞥すると、鼻を鳴らし、ハリーに近づいてい
まだに気絶中
どうすればいい....この子が普段頼っているハーマイオニーはい
この子の悲痛な叫びが聞こえる。
﹂
男から何かの魔法を受けたこの子がとても衰弱していくのが分か
∼クロア裏視点∼
!
!
70
?
て、
森の奥からケンタウルスが現れ、それを妨害する。
男はケンタウルスを見ると、ローブを翻すと逃げ去っていく。
とりあえずこの子の目的は達成されたようだが、この子は依然苦し
んでいる。
ハーマイオニーの意識が戻り、このこの身体を揺さぶるが、
この子は身体を抱いてうめいている、
なぜだ、私たちは身体を共有しているからこの子に来る痛みは私に
も来るはずだ。
違う、そんなことはどうでもいい、
この子を護るのは私だ。私がやらないでどうする。
無理やり身体の主導権を奪うと起き上がる。
普段ならそんなことはカチューシャのせいで出来ないが、
衰弱し続けるこの子からは想像以上に簡単に主導権を奪えた。
71
ハーメイオニーなら何か分かるかもしれない。
﹁ハーマイオニー、どうしよう、この子が......﹂
泣きそうな顔になりながらも聞いてみる。
﹂
驚いた顔をしたハーマイオニーが私に
﹁今のあなたは....どっちなの
と聞いてくる。
?
ハーマイオニーは事情を察したらしく、真剣な顔でうなずくと
この子は、今もずっと苦しんでるの﹂
﹁ハーマイオニー、そんなことは後回し、何か知らない
そんなことはどうだっていいだろうに
?
﹁魔法を使うとき、なんて言ってたの
﹂
確 か....こ の 子 が 苦 し む 直 前 の 記 憶 を 探 す と、そ れ は す ぐ に 分
かった。
﹁クルーシオ、って言ってたと思う﹂
ハーマイオニーは口を開けたまま私を見ていた。
﹁それ、磔の呪文、許されざる呪文の一つよ、相手を苦しめるための魔
法
早く何とかしないと、その呪文で精神が壊れた人もいるのよ﹂
なるほど、精神に干渉する呪文か、それで私には何ともないわけだ。
﹁と、とりあえず誰でもいいから先生に....﹂
と校舎に向かおうとしていると、後ろから
﹁ねえ、大丈夫なの、さっきまで凄い苦しんでたのに﹂
とハリーの声が聞こえる。
私はその声に悲鳴を上げ、ハーマイオニーに引っ付く。
﹁あ、ごめん、ちょっと驚いちゃって﹂
表情が引きつって手が震えているのにに気づくが、強引に抑え込ん
で、校舎に向かう。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
72
?
﹁先生っ、どうしたらいいんですか
﹂
マクゴナガル先生を見つけたとたんに叫ぶ。
私には先ほどから小さくなっていくこの子の悲痛な叫びが怖かっ
た。
この声がこのまま小さくなって、消えてしまったらこの子はどう
なってしまうのだろう。
それが頭から離れない。
私の様子を見た先生が禁じられた森で何かあったのだろう、と察し
てくれ、
﹁どうなさいました、落ち着きな﹁磔の呪文の解き方を教えてくださ
い。﹂
﹂
ミス・グレンジャー、それは許されざる呪文の一
焦るように言うハーマイオニーの言葉に目を見開くマクゴナガル
先生
﹁どういうことです
つ
解除の方法など....何に使うのですか﹂
﹁違うんです、クロアが....クロア、代われる
﹁う、うん。ちょっと待ってて﹂
とができた。
急に顔色を変え、廊下に倒れる私を見て眼を
生。
くマクゴナガル先
?
﹄
ハーマイオニーは悲鳴を上げ、かなり取り乱していた。
﹃フィニート・インカンターテム
!
73
!
身体のコントロールを手放すと、この子の身体を状態を感じ取るこ
?
?
∼クロア視点∼
﹃フィニート・インカンターテム
<大丈夫
﹄
︵どうやって私の身体を動かしていたんですか
カチューシャはまだついている。
?
顔を青くして、心配そうに私を見ていた。
マクゴナガル先生もハーマイオニーほどではないが、
ていた。
ハリーは何が起こっているのか分かっていない様子でオロオロし
ハーメイオニーは真っ青な顔で泣きながら私の手を握っていた。
ハーマイオニーとハリーとマクゴナガル先生の顔が視界に入る。
今のあなたは動けるような状態じゃない>
<やめて、あなたは自分の様子が分からないかもしれないけど、
無理に身体を起こし寮に向かおうとするが、身体に力が入らない。
>
<....そんなことができるくらいあなたが精神的に弱っていたから
︶
頭の中から心配する声が聞こえるが、質問には答えず。
>
目線だけはハーマイオニーに向け、大丈夫だ、と訴える。
が、精神的な疲労からか、身体を動かす気にはなれない。
身体から、苦痛が抜け落ちていく。
!
ため息をつこうとしたが、口から出たのは咳
74
?
<代わろうか
私ならあなたの身体を自由に動かせる>
︵そんなことをするぐらいなら、私はここに寝てます︶
<だめ、せめて寮のベッドか医務室で寝てて>
︵いやです。私の身体は私が管理します︶
<さっきもそうだったけど、精神的に弱っているあなたを押しのけて
身体を奪うこともできるから、あなたがしないなら私がする>
﹁やめてください‼﹂
つい口に出てしまった私の声に驚く、まるで死人のように生気がな
い。
<そういうこと、こんなとこで寝るんだったら、
私が身体を動かして寮に連れていく>
確かこいつは私が精神的に弱っているから身体のコントロールを
奪えた、
と言っていた。
それが事実なら私の方から反抗はできるのだろう。
しない手はない。
目をつむり集中して、今の自分を認識するように深呼吸する。
私の身体は....この私だけのモノ。他の誰にも譲らない。
たとえそれがもう一つの私でも......なのに、
<ごめんね、すごい頑張ってるから、ほんとは奪いたくはないんだけ
ど....
75
?
。やめてくださ....﹂
でもこれ以上無理しないで>
﹁うっ....いやです
な の に、私 が 発 し よ う と し た 言 葉 は 最 後 ま で 続 く こ と は な か っ
た....
∼クロア裏視点∼
﹁ごめんね....﹂と誰にも聞こえないように小さな声でつぶやく。
こちらをいまだに不安げな顔で見ている三人にもう大丈夫だ、と伝
え、
ハーマイオニーを連れて寮に向かう。
﹁ねえ、今のあなたって....﹂
﹁うん、この子の言い方を借りるなら裏、だよ﹂
﹂
﹁でもまだカチューシャはついてるけど、もともと自由に入れ替われ
たの
﹁でも、クロアは嫌がってた﹂
﹁そうだね、でも今のこの子はとても危ない状態だった、
あなたには分からないかもしれないけど、校舎に戻るまでの間だっ
て
この子はずっと苦しんでた、
私はこの子がこんなに苦しんでるところは見たことないし、見たく
もない。
だから、仕方なかったと思う....でも確かに悪いことしたよね﹂
76
!
﹁......いや、普段はできないよ。でも今はこの子が弱ってるから﹂
?
﹁ねえ、あなたは一体何なの
﹂
急にハーマイオニーから来た質問に驚く
さすがこの子が秀才と呼ぶだけある。
あまり話したことはないはずなのにもう核心に近づいてる。
﹂
もしかしたらたまたまかもしれないが....
﹁あなたは、どこまで予想してる
確認のため、一応聞いてみる。
﹁なんか、あなたってクロアの親
みたいね﹂
私は私を消せないのだから仕方ないだろう。
私が言うのもおかしい気もするが、
ただけだと思うし﹂
この子は私という脅威に常に怯えてる。このこが頼れるのはあな
﹁まあ、そこは否定しないよ。それより、この子の事、お願いするね。
﹁そう、やっぱりあなたはクロアの事を優先的にかんがえてるのね﹂
﹁ごめん、それは私の口から話すことじゃないんだ....﹂
自身の秘密を隠そうとするこの子に関してよく分析している。
全然分からない、なんて言いながらあまり話していない私の事や、
それでもクロアの事を最優先に考えてる、だから気になったの﹂
﹁全然分からない、でもあなたがクロアに嫌われていて、
?
?
77
?
親、私にもこの子にも分からないものだ。
﹁んー....親っていうよりかは姉、のほうが近いと思うよ、多分だけ
ど﹂
雑談をしていると。いつの間にか寮に着いていた。
﹁ありがとね、私はここで休んでおくよ、一応この子と私は身体を共有
してるから
私が寝ればこの子も休めるし﹂
﹁そう、私は何があったのかを先生に話さないといけないから、行く
ね﹂
﹂
78
﹁あ、この子の秘密は言わないでよ
﹁うん、わかってる﹂
﹁じゃあ、おやすみ﹂
﹁ええ、おやすみなさい﹂
えていった。
もう一度﹁おやすみ﹂と心の中に向けてつぶやくと、私の意識は消
そして、ハーマイオニーが部屋から出た後に、
?
9話 クロアsとフラグ
∼クロア視点∼
私は....
<ん、起きたね>
最近急に話すことが増えた私の声で何があったのかを思い出す。
︵そうでした、私が弱っている間、あなたに私の身体を無理やり乗っ取
られてましたね︶
<うん、悪いとは思ってるけど......もう少し私への警戒を解いて
くれてもいいんじゃないかな>
︵......い や で す。も し 私 が あ な た な ら 何 が 何 で も 信 用 さ せ て 身 体
を乗っ取ります︶
この状態は裏にとってのメリットがない、なぜ私を助けるのか分か
らない。
<もし私にその気があるなら今頃あなたは身体を動かせないと思う
けどね>
口には出さないがそれは私も分かっている。
だが、やはり私自身の存在を左右するモノをそう簡単には信用でき
ない。
一つ間違えるだけでも私は私の身体の中にしかいられない存在に
なる。
︵あなたの目的がハッキリしない以上、あなたのことは信用できませ
79
ん︶
私....私の目的って言ってなかったっけ
目的を問う。
<あれ
あなたを護ることだよ。それだけ>
︵私はその目的を聞いているのです。
私の以上に私のことを知っている
私はこいつの言っていることの意味が分からない。
事を護れなかったから>
だからこそ私はあなたを護りたいと思う、あの頃は....あなたの
<あのね、私は、あなた以上にあなたと私の事を知ってるの
だからこそ、信用できない。
を奪っている。
そう、私はカチューシャを使い、私の問題を押し付け、その上身体
す。︶
あなたには私を恨む理由はありますが、私を護る理由は無いはずで
?
それに﹃護れなかった﹄
....
で視覚を共有してきたはずだ、
どういうことだ、こいつはあの時に生み出されてからずっと私の中
?
﹁今度はなんですか﹂
立っていられなくて、ベッドに座る。
い頭痛が襲う、
そう結論付け、立ち上がり、寮を後にしようとしたとき、頭を激し
に変わりは無い。
まあいいか、こいつが何を知っていようが、こいつを警戒すること
?
80
?
どうしたの>
つい漏らす
<へ
<はえ
︶
?
が、なら
︵....て、まさかあなたは磔の呪文を受けていながら私の身体を
と言うことになるが....
?
んだと思う>
︶
神に直接作用する魔法だから上にいたあなたにしか効果がなかった
<いやぁさすがに無理かな....たぶん磔の呪文は身体じゃなくて精
︶
初耳だ、いやでも同じ体を使っているのなら当たり前かもしれない
寝る前....その時の私は話を聞ける状況でもなかったのだろう。
ど....>
< ん、そ う だ よ。っ て 寝 る 前 に ハ ー マ イ オ ニ ー に は 言 っ た ん だ け
共有しているのですか
︵なんですか....まさか、あなた、視覚だけじゃなくて他の感覚まで
何で....私には何ともないよ>
と皮肉を言うと
︵あなたのせいで溜まったストレスが原因で、頭痛がしましてね︶
?
︵なら今の私の頭痛も共有しているのですか
?
81
?
<頭痛が....
大丈夫なの
︵遠慮しておきます︶
ることをやるだけだ。
まだ休んでたほうが....>
考えよう、深く深く、集中して、よく考えて、そして私は私のでき
そう気づいてから私のすべきことが見えてきた。
最初は不満だったが....これは私の責任でもあり、贖罪でもある。
私に身体を動かす必要はない。
は嫌だ。
でも、何をしたらいいのか分からない、でも、あの頃の二の舞だけ
気がした。
このままでは私もこのこも取り返しのつかないことになる、そんな
が、こんなことは無かった。
分からない、私が完全に不完全になってからもう少しで3年たつ
今まで私とこのこは同じ身体で同じ感覚を共有していたはずだ。
い。
どういうことだ、さっきからこのこを襲う頭痛の意味が分からな
∼クロア裏視点∼
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
う。
無理にでも立つと、少しでも頭痛を紛らわせようと、図書室に向か
これ以上休んいると、身体を動かす気が無くなりそうだったので、
?
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
82
?
もうすぐ進級試験だ。
頭痛は今のところは変わっていない。重くも軽くもならないせい
か、慣れてきた。
あまり喜べることではないが、そのおかげか周りの人にはバレてい
ない。
ハーマイオニーは少し怪しんでいたが、隠し通せた。
おそらくこれがバレれば休養を強要されるだろう、普段なら構わな
いのだが
試験前に勉強ができないのはかなりまずい。
私は座学や魔法薬などの実技はそれなりにできるのだが、魔法の実
技はダメだ。
かなり弱いものしか出ない。
理由はおそらく私が杖に認識されていないからなのだろう。
つまり忠誠心など存在しない。一応魔力を通せば魔法は使えるが、
いた。
最初は前みたいに図書室でやろうと思っていたのだが、思いのほか
人が多かったため、寮で勉強をすることにした。
キリがいいところまで終わったので、伸びをしようと顔を上げると
ハーマイオニーと目が合う
彼女も勉強をしていたはずだが。
83
一般的な杖に忠誠心を持たれたうえで使う魔法とでは大きな差が
できてしまう。
だから、私はその分を座学で補う必要があった。
﹂
これは確か教科書の48ページに書いてあったと思うわよ﹂
﹁ハーマイオニー、これはどういうことですか
﹁これ
?
そんなことで私は寮でハーマイオニーに勉強を手伝ってもらって
﹁ありがとうございます﹂
?
﹁えっと、どうかしました
﹂
﹁いや、その、クロアなら勉強をしなくても進級ぐらいできるよね、
ほら、クロアなら進級できるから勉強しないって思ってたの﹂
とハーマイオニーは言いずらそうにそう言った。
﹁私は魔法がほとんど使えませんからね、別にスクイブ、と言うわけで
はありませんが、
まあ要は魔法の実技がほとんど点を取れないので他の部分で補う
必要があるんですよ﹂
......て、あなたハロウィーンの
あの....なんだっけ﹂
﹁そう、聞かないほうがよかった
時魔法使ってなかった
ああ、あの時の事か
?
﹃ペル・サルス﹄..アレが使っていた魔法だ、私は理論すら分かってい
ないので
詳しい効果も分からないがおそらく防御系だろう。
﹁わたしはあまりあいつのことを知りませんからね﹂
そのくせなぜか私に詳しいあいつに腹が立つ
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
84
?
﹁あれは私が使っていたわけではありません、アレの魔法です﹂
?
私は夜に備えて図書室にきていた。
というのもあれから変わらずに続く頭痛のせいでなかなか寝れな
いため、
>
図書室で眠くなるまで時間をつぶして、そのまま寝るためだ。
<ねえ、聞こえてる
読書中に煩わしい声が聞こえてきて、無視しようとしたのだが
真剣そうな声で訊ねてきて、無視するのも悪い気がして
︵....今読書中なのですが︶
と強めに返す。
<ごめんね、でも急用だし、すぐ終わるから。
>
それにあなたの頭痛と私達の壁についての事だから、あなたも興味
あるでしょ
︵ありますが......
まさかとは思いますが、あなたが原因ですか
<私は....確かに原因だよ。
︶
でもそんなことより、ちょっとまずい状態なの、
?
それはつまり
このままいけばあなたと私を隔てる壁がなくなる>
....壁がなくなる
︵私とあなたが元に戻る、と言うことですか︶
?
85
?
確かに慣れたとはいっても頭痛が煩わしい事に変わりは無い。
?
<あんまり驚かないんだね>
︵別にこの状態が永遠に続くとは思っていませんでしたし、
あなたに身体を永遠に乗っ取られるよりはマシだと思っただけで
す︶
そ う、い つ か は こ う な る と は 思 っ て い た....す こ し 想 像 よ り 早
かったが。
<そう、なら状況はあなたにとって、もっと最悪だよ。
だって、今更私たちは元に戻るなんてできはしない、この状態が長
く続きすぎた>
︵え、それ..はつまり....︶
<私たちは元には戻れない、もう異物が混ざりすぎてるの。
たぶん、一番の原因は﹃磔の呪文﹄、私たちはずっと身体の感覚を共
有してきたのに
それがあの瞬間に手遅れなぐらいに歪んじゃったの
私たちの痛覚が現に共有できてないのがその証拠だと思う>
呆然とする、それって下手したら私自体が....
86
<お、落ち着いて、まだ大丈夫、まだ壁は壊れたりしないから、
それに前にも言ったでしょ、私があなたを護るから
それに、元には戻れない以上どうなるのか、私にも想像がつかない
最悪どちらかが消滅するかもしれない、
でも、もしかしたら何も起こらないかもしれない>
﹁消滅は最悪ではありません、本当に最悪なのは
私がこの身体の中に一生押さえつけられて自我だけは残ったまま
独りぼっちで過ごすことです﹂
でもそれなら全然最悪なんかじゃないよ。
とりあえず気を紛らわせるため、ぼそりとつぶやく
<そうかな
だって、それなら私があなたを助けられるじゃん
もしそうなっても、私があなたをこの身体の中から出してあげるよ
>
︵なら一応、その時はお願いします。
︶
壁が壊れるのを止める方法を知りたいのですが、
何か心当たりはないのですか
そもそも私は別に危険が好きなわけじゃない、本来ならお断りだ、
しないだろう。
理由は分からないが、言わないのなら別に聞いたところで変わりは
もう少し安全に生活して。それで止められるはずだから>
みぞの鏡、それから禁じられた森
ホグワーツに入ってからでもハロウィーンパーティーに、その....
......単刀直入に言うね、これ以上危険なことをしないで
たんだもん
<あるよ、っていうか本当はそれを言おうと思ってあなたに話しかけ
?
87
?
︶
そちらは一応気を付けておきます。
言われなくても危険からは逃げるだろう......今までは逃げきれ
なかったわけだが。
︵嘘、ではないですよね
....頭痛のほうは何か分かります
<それはたぶんだけど、危険信号じゃないかな、私たちの壁が壊れか
かっている、ってことの
治すのに一番簡単な方法は壁を壊すことだと思うけど嫌だよね
まあこっちはまた方法を考えてみるよ。
それより頭痛がひどくなったら気を付けてね。
たぶん壁が壊れかけるほどひどくなると思うから>
︵危険なことさえしなければ問題は無いのでしょう
なら大丈夫だと思いますよ︶
﹁わ、そ、その......﹂
と背後から怒鳴られる。
﹁そこで何をしている‼﹂
寮に向かっていると
寮で頑張って寝ることにする。
たぶんこのまま図書室にいても寝れないので、
長々と話していたら、目が覚めてしまった。
そう会話を終わらせて、図書室を後にした。
から止められるだろう。
さすがにあんなことがあった後だ、危険なことはごめんだし、周り
?
正直に寝れないので図書室にいました。なんて答えると怒られる
88
?
?
気がして、
振り返りながら口ごもる。
そこにはクィレル先生がいた、と言うか口調がおかしくなかったか
いつもはもっと、なんというかどもりながら話していた気がする
が....
﹁し、しし質問をか、変えます﹂
あれ、気のせいか
﹂
?
?
﹁け、賢者の石について....な、なにか知っていますか
89
?
10話 前兆
∼クロア視点∼
深夜0時
賢者の石、どこかで聞いた気がするが、思い出せない。
というかなぜ今こんなことが聞かれるのだろうか。
﹂
﹁えっと、どこかで聞いたような気がします、確か誰かに狙われてる
みたいな話を聞きました、それがどうかしましたか
?
かを考えていた。
というか小声でブツブツと話していた。
﹂
とか処理
この人、嫌な予感しかしないんだけど>
と言い私に近寄ってくる。
<やばくない
とか聞こえ
さっきまで自身な下げだったクィレル先生が真剣そうな表情で何
?
?
﹁あ、あの、私眠いので明日でお願いしますっ﹂
早口で告げると速足で逃げるように離れ、角を曲がった瞬間に走っ
て逃げる。
90
注意して聞いてみると......念には念を
てくる。
﹁あの、私、寮に帰ってもいいですか
?
﹁ま、待ってください、す、すすこし話があるのですが﹂
?
同感だ、目つきがやばい、獲物を狙う猛禽類の目つきをしている。
?
後ろから追いかけてくる足音がする。
寮の女子部屋には入れば逃げきれるだろう、上に向かおうとして
<ダメ、寮に着く前に追いつかれる。下に逃げたあと朝まで隠れたほ
うがいいと思う>
と言われ、ハッとして、下に降りる。
すぐ後ろで階段を駆け上がる音が聞こえる。
危なかった
だが、おそらくグリフィンドールの寮付近に隠れて待ち伏せをして
いるだろう。
>
本格的に朝まで隠れることになりそうだ。
どこで隠れる
起きてられるだろうか。
<どうする
もない。
<女子トイレとかは
>
︵そこで朝まで隠れ続けられるのですか
︶
<でも、あのおっさんは寮の前から動かないと思うよ
>
本当ならどこかの寮には入れればいいのだが、合言葉など知るはず
さすがにこの状況で読書にいそしめるほど私の神経は図太くない。
︵どこにしましょうか、図書室は論外ですね︶
?
<そ、それもそうだね>
︵いえ、私が寮に帰ってこないと気づいたら探しに来ると思いますが︶
?
?
?
91
?
︵私は地下の廊下がいいと思います。
>
地下なら音が響きますから一方的に場所が把握できます︶
<なるほど、でも探すときに音なんか出すかな
︵分かりませんが、他に候補がないので仕方ありません︶
<分かった、なら急ごう>
できるだけ音をたてないように地下に降りると、
空き部屋に入り、出入り口から死角になる位置に腰を下ろす。
深夜1時
︵起きてられますかね︶
<眠くなったら私に代わってくれたら頑張って起きるよ
ねえ、頭痛に変化ない
>
って、さっき危険なことをしないでって言ったのに....
?
どうやらさっきの話は事実らしい。
︵すこし悪化していますが、多少の頭痛なら慣れたので大丈夫だと思
います︶
<そうじゃなくて、さっき言った通り、それは壁が壊れていってる証
拠、この状況はかなりまずいんだって>
︵分かっていますが、どうにもできません︶
92
?
言われて考えてみると少し悪化しているような気もする。
?
どうにかできるならさっさとしている
<そうだけどさ......>
︶
今さっきまで一切変化しなかった頭痛が少しずつ悪化している気
がする。
︵具体的にどこまで頭痛がひどくなったらマズいですか
<んー、私には何とも言えない、今の私はあなたと痛覚を共有してな
いからね>
︵そうですよ、というか、あなたもあまり分かってないのによくあそこ
まで断言できましたね︶
>
?
<うっ、まあ私のあれも全部予想だけどね>
︵.............︶
<い、いやちゃんと自信はあるよ
結構まずいかも、最悪寝るのもアリかも、
︵確かに現在進行形で悪化していますね︶
<ほんとに
︵嫌ですよ、こんなところで一人で寝るなんて︶
<一人じゃないじゃん>
93
?
それに、危険になった時に頭痛がひどくなってるでしょ
?
多分寝てる間は悪化しないと思うし>
?
︵....そうですね︶
不愉快だが
本当に独りぼっちだとかなり寂しいだろう。
その点は感謝できる。
不愉快だが
深夜2時
︵そろそろ探し回ってますかね︶
<どうだろうね、探し始めるならもう始めててもおかしくないと思う
けど>
︵そうですよね︶
>
94
︶
ずっと同じところでじっとしているからか、だんだん眠くなる。
︵しりとりをしませんか
<しりとり....眠いの
<リサイクル>、
︵ルームメイト︶、<トロール>、
︵ルーク︶、<クー
︵しりとり︶
腹が立つ。
煽っている。
明らかに眠いからしりとりをしようとしていることに気づいてて
<そうですかそうですか>
︵眠くないです、暇なだけです︶
?
?
ル>、︵ルーム︶、<ムニエル>、︵ルームシェア︶、<アマガエル>、
>
︵ルーマニア︶、<アルコール>
︵..........︶
<ん、負けを認める
楽しそうな声が聞こえてくる。
︵あなたって割と性格が悪いですよね︶
<ふふーん、賢いって言いなさい>
>
︵賢いですね、本当に....ルール︶
<へ、ルー....ル
︶
>
︶
︵ほら、どうしました、私は今さっきあなたの事を賢いと思ったのです
が、
勘違いでしたか
︶
<うっ、パ、パスってあり
︵無しです、負けですか
深夜3時
︵切り札って、最後に出すものですよね
<あなたもなかなか性格悪いよね>
?
身体が一つしかないという都合上、できることは限られる。
あれからいろいろと時間をつぶせることをしていたが、
?
?
95
?
?
?
︵頭の中まで共有していれば、チェスとかもできたのでしょうけどね︶
>
<まあそれでチェスをしても相手の策を全部読めるから面白くない
と思うよ
︵そうですね︶
本格的に眠くなってきて、話が続かなくなる。
︵今何時でしょうね︶
<たぶん4時か5痔ぐらいだと思うよ、体感だけど>
せ め て 地 下 じ ゃ な け れ ば 窓 か ら 外 を 見 て 時 間 を 予 測 で き た の だ
が....
<ねえ、今....>
︵外にいましたね、足音が聞こえました。思っていたより遅かったで
すね︶
>
<たぶん、この時間に来たってことは、上から順に片っ端から見てき
︶
たんだと思うよ>
︵つまり
<この階を片っ端から探す、代わろうか
私ならそんなに眠くないから起きてられるよ
確かにそれなら....と思ったが
?
?
96
?
?
>
︵無いですね、あなたの事ですし、あなた自身の欠陥ぐらい知ってるで
しょう︶
<そうだね、でも寝るよりはマシだと思うよ
︵考えておきま﹁ガラッ﹂︶
入ってきた
かなり近くからドアが開く音がした。
見つかったら殺される
?
︵あ、あなただって落ち着いてないじゃないですか︶
?
<わ、私は落ち着いて﹁ガタン﹂....出てった..かな
身体が緊張から解放され、ようやく気付く
︵あの、頭痛が....ひどいのです..が︶
<え....そっか..もうそこまで..大丈夫
>
>
身体の震えは収まらないが、心に少しだけ余裕ができる。
深呼吸して、わ、私がいるから>
大丈夫、きっと見つからないと思う。
<お、落ち着いて、えっと、大丈夫だから。
恐怖で身体が震えるのが分かる。
さっきまでのゆるい雰囲気が嘘のように、背筋がゾッとする。
?
身体を動かすのに支障が出るんなら代わるよ
?
?
97
?
︵大丈夫です。どのみち眠気はきれいに取れましたし、動く必要はな
さそうです。
多分ですが、ここには私はいないと考えていると思いますから、
今頃別の所を探してると思います︶
<そう、なら大丈夫そうだね>
︵はい、私の想像通りに運べばいいのですが....︶
深夜4時
一度安心したからか、すさまじい睡魔が私を襲う。
危うくつむりそうになっていた目をこすって頭を振る。
︵まずいです、頭痛が気にならないほど眠いです︶
98
<うーん、私もいまちょっとまずいかも、頭痛がない分余計眠い>
ここで寝たらかなり危ないですが、
....私を護るんじゃないのか..
︵どうしますか
それが眠気から来る﹃希望的観測﹄だと気づかずに。
だから、私達は寮に戻ろうとした。
う。
私ならまず諦めて、次の日にでも適当な理由を付けて呼び出すだろ
ね>
<たしかにこれだけ探したんだし、あきらめててもおかしくないもん
今ならもしかしたら寮に戻れるかもしれませんよ︶
?
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
眠たい、まっすぐ歩けない、裏も話しかけてこなくなった。
ぼんやりと歩いていると、壁に頭をぶつけた。
額をこすりながら目を開けると、壁もこちらに振り返っていた、
というかそれは壁ではなく人だった、それもいま一番会いたくない
感じの
つまりクィレル先生と目が合う。
私は機能停止しかけていた頭をフル回転させ、現在すべきことを考
え出す。
﹃寮に逃げなきゃ﹄
幸い、あまり寮は遠くない。
<代わって‼私が逃げる、私なら魔法が使えるからあなたより逃げら
れる>
私が頭をフル回転させたことにより、裏も目が覚めたらしい。
︵いえ、ダメです、先ほどと同じく、あなたにあなた自身の欠陥がある
以上、
この場で身体は任せられません︶
<....ごめんね、護るって言ったのに、こんな時に役立たずで>
ああ、本当にこの欠陥には悩まされる、これさえなければ....い
や、今は目先の事のほうが優先だ。
談話室の絵画が見える。合言葉を叫ぶと、そのまま談話室に入る。
すぐ後ろにクィレル先生がいるが振り返る暇はない。
とりあえず女子寮にさえ入れば私が逃げ切ったことになる。
99
もう少しで..﹃ステューピファイ‼﹄呪文が聞こえ、
振り返ると杖をこちらに向けつつも、こちらに向かって走るクィレ
ル先生の姿、
そして、その杖から放たれた光が眼前に迫ってくる。
ダメだ、よけられない着弾して、私は失神して、捕まって、殺され
る
嫌だ...
﹃ペル・サルス‼﹄
頭の中で声が響くと、私に向かって飛んできていた魔法が消失す
る。
私もクィレル先生も何が起こったのか分からず立ち尽くす。
<早く‼逃げて‼>
その声にハッとして、女子寮に逃げ込む。
︶
自分の部屋に入り、ドアに背を預けて、座り込む。
︵何を....したん..ですか
この際、どうやったかなどは、どうだっていい、
あれが無かった..ら私は逃げられ..ませんでした︶
た。
いえ、今は..いいです。それ..より、あり....がとうございまし
た。
︵そう..ではなく、あの時私は....杖を..持っていま..せんでし
<魔法、トロールの時と同じ>
?
100
?
私は助かった、これが重要なのだ。
<いや....その、どういたしまして>
なのに、すこしバツが悪そうに返され不安になる。
あなたの..態度が変ですが︶
そういえばさっきから頭痛がひどい、正直このまま寝られるとは思
えない。
︵何..かあるので..すか
<ごめんね、多分あの魔法はまずかったと思う。
あの時私が魔法を打てたのは魔力に無理に干渉したから
私のあの魔法はもともと杖を必要としないの
でも魔力は身体にある、それを無理に引き出した、
一つの身体に歪んでいる二つの精神が無理に入ったせいで、
たぶんかなりまずいことになったと思う>
なるほど、だがまあ、死ぬよりはマシだろう。
︶
それより、頭痛がひどくてうまく話せない。
︵ま..ずいこ....と、とは
<壁が壊れた>
︵やは..りですか....︶
<本当にごめんなさい、あの時は焦ってて....>
︵いえ、もう..過ぎたことですし、別に間違って....はいな..いと
101
?
大方予想できるが、一応聞いておく
?
思いますよ。
......助 か り ま..し た、そ れ に 壁..が 壊 れ た と し..て も、助
け..てくれる..ので.............︶
そこで私の意識は途切れた。
∼ハーマイオニー視点∼
嫌な予感がして、早くから目が覚めた。
寝ぼけた頭で、ベッドから降りる。
昨晩はクロアは部屋には帰ってこなかったな。
と 思 い 図 書 室 に 起 こ し に 行 こ う と し て ド ア に 向 か い 何 か に 足 が
引っ掛かる。
﹁ドアの前に荷物なんてなかったと思うんだけど﹂
などとつぶやきながら足元に目を向けると、
そこにはクロアがいた。
身体の中からサッと血が引いていくのが分かった。
最近のクロアは少し様子がおかしかった。
たまに何もない時にペンを落としたり、頭を押さえて顔をしかめて
いた。
もしかしたら、何か悪い病気にでも侵されていたのだろうか。
急いで床に倒れているクロアを抱っこすると、医務室に向かう。
よく見ると、いつも彼女がつけていたカチューシャにひびが入って
いた。
何もないといいけど......
102
11話 崩壊した壁
∼ハリー視点∼
危なかった、もう少しで賢者の石が盗まれるところだった。
まさかクィレル先生が盗もうとしていたなんて....
僕は今までずっとスネイプが狙ってると思ってたのに。
まあどちらにしても石を守れたのならそれでいいだろう。
それよりハーマイオニーの様子がさっきからおかしい。
なんというか、心ここにあらず、と言った感じだ。
せっかく石を守ったのにそんなことはどうでもいい、
とでも言いたげな態度だった。そんなハーマイオニーにロンが
﹁えーと、ハーマイオニー、トイレ行きたいなら漏らす前に行ったほう
103
がいいぞ﹂
と明らかに見当はずれなことを言っている。
雰囲気を盛り上げるためにふざけているのか、
まじめに言ったのかは分からないが....
﹂
少し考え込んでいたハーマイオニーが口を開く。
﹁ねえ二人とも、クロアの事、なんて聞いてる
﹁ハーマイオニー、まさかとは思うけど、クロアはもっと重い病気にで
ているのだろうか。
どういうことだ、ハーマイオニーは何か僕らが知らないことを知っ
﹁そう......﹂
﹁数日前に倒れたって....﹁僕もそんな感じだ﹂
?
もかかっているのか﹂
ハーマイオニーの不審な態度に僕と同じ結論に達したらしいロン
がハーマイオニーに問いただすように聞く。
﹂
﹁う う ん、そ う い う わ け じ ゃ な い の、で も....あ な た た ち な ら 何 か
知ってるかなって﹂
﹁ハーマイオニーこそ、何か心当たりが
﹁あ、おい
分かっていない。
むしろ異常なほどに異常がない、なぜ起きないのか、先生方でさえ
たまに不安になり、心音を確かめるのだが、異常はない。
やかな様子で寝ている。
も苦しんでいる様子もない、それこそまるで死んでいるかのように穏
私はよくクロアの様子を見に来ているが、別にうなされている様子
ない親友の頭をなでる。
医務室のベッドに座ってそこに眠る、ここ数日間目を覚ます様子の
∼ハーマイオニー視点∼
﹁そうだな﹂
﹁まあいいか、もう遅いし、僕らも寝ることにしよう﹂
ロンが呼び止めようとするが、そのまま走り去ってしまう。
﹂
﹁いえ、別にないわ....医務室に行ってくるわね﹂
?
私はそろそろ就寝の時間が近づいていることに気づくと、クロアの
104
!
頭から手を離し、
医務室を後にする。
﹁おやすみ、クロア﹂
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼ハーマイオニー視点∼
修了式が終わった。
﹄
私は、別れの挨拶を言うために、また一人で医務室にきていた。
クロアはあれから一度も目を覚まさない。
たまに私の中で﹃このこは、このまま目を覚まさないのでは
と浮かぶが、できるだけすぐに忘れようとしている。
?
そうしないと怖かった、私にはこのこに何があったのか分からな
105
い、
そもそもこのこが抱えている秘密をあまり知らない。
それでも私はこのこを大事な親友だと思っているし、
このこも私の事を頼ってくれていると思う。
なのに、今私の心配をよそに起きる様子は無い。
やはり、このまま目が覚めないのではないか。
ふ、とよぎる。
想像するだけでも泣きたくなる。
私が泣いたら前みたいにまた慰めてくれるのだろうか。
それとも、私が泣いても寝たまま....
頭を振って恐ろしい想像を消す。
医務室を後にしようとして、ドアに手をかけたとき、
後ろから、毛布がずれる音が聞こえた。
私は、はじかれたように振り返る。
クロアがベッドの上に座っていた。
目が覚めたのか
!
うれし涙が出てくる。
﹁クロアッ‼﹂
そのままいまだにベッドの上でぼんやりしているクロアに抱き着
く。
﹁やっと......やっと起きたのね....﹂
困惑していた様子のクロアが口を開くと
﹁あの、あなたは........それに....
この意識にズレが生じている。
今までなら身体の主導権を握っているほうが起きれば、もう一つも
起きていたはずだが、
逆に、主導権を持っているほうが起きなければ、もう一つは起きれ
なかった。
寝起きだというのに、思ったより冷静になれてる。
106
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア裏視点∼
確か、あの怖いおっさんから逃げて....壁が壊れた。
とい
それで..気絶してて、私が今目覚めて......視界は....真っ暗
だ。
いや、ほんのり赤黒い灯りが見える....目をつむっている
うよりもまだ起きてない
?
だとしたら、これも壁が壊れたことによる影響だろうか、私とこの
?
突如、ほんのりとした赤黒い光に慣れていた私の視界に、強い光が
入ってくる。
意外とまぶしくは感じなかった、このこも起きたのだろうか。
とりあえず、ここからが気になるところだ、壁が壊れたことによる
影響は私にはあまりなかった、だがこのこはどうなるか分からない、
とりあえず意識が戻ったから
意識が消滅したわけではないようだ、あとは身体から感覚が受信で
きなくなったり、
精神が正常ならいいのだけど....
視界の中で、小さな手が握ったり開いたりしている。
この様子なら、感覚は大丈夫そうだ、あとは精神的な問題だが....
布団が擦れる音で起きたことに気づいたハーマイオニーがこちら
を驚いた表情で見つめたと思うと、抱き着いてくる。
107
戸惑っているこのこにハーマイオニーが声をかけるが、まだ戸惑っ
た様子で、ぼんやりしている。
﹂
なにかがおかしい、このこはこう見えて結構寂しがり屋で、甘えん
坊なところがある。
それは私がよく知っている。
にもかかわらず、反応が薄い。
﹁あの、あなたは........それに....
................私は、誰..でしょう
?
二章 秘密の部屋
12話 私はだれ
∼クロア視点∼
....私は、だれ
らない。
<ねえ、ほんとに記憶無いの
?
椅子に倒れこむように座る。
<ちょっとだけ、身体を貸してもらってもいいかな
?
それから、あなたは誰ですか
﹂
と返事が来る。この様子を見るとこの声の持ち主は少なくとも目
>
と頭の中の声に向かって言う。目の前の少女は、顔を真っ青にして
﹁本当です。私は私が誰だか分かりません﹂
に違和感はなかった。
と頭に響く、これは....魔法だろうか。なぜだか魔法という存在
>
ないわよ﹂と引きつった顔で言っているが、私だって何が何だか分か
目を見開いたまま﹁し、心配してたんだから、そういう冗談はよく
も背が高いが︶は
そう聞くと、口を開けたまま唖然としている目の前の少女︵私より
?
の前の少女のモノではないらしい。
﹁なぜですか
?
108
?
と問うと、少し悲しげな声で
?
<私は....そういえば、私って名前持ってなかったんだ。まあこの
際名前なんかどうでもいいけど、それから、頭に強く思い浮かべるだ
けでも会話はできるよ。
あとは....そうだ、私はあなたの中にいるから、困ったら呼び出し
えっと、まず質問がいくつかあります。
てくれてもいいよ>
︵こう....ですか
一つ目にあなたはすべて知っているのですか
︶
二つ目は、あなたはなぜ私に協力的なのですか
最後に、あなたは何ですか
パッと思いついた三つの質問をぶつける。
<なかなか難しいね
すべて知っているか、と言われても答えはノーだね、すべては知ら
ないけど
大体知ってるよ、記憶をなくす前のあなたよりね
次はなんで協力的か、と言うことだね。これはね、私が決めたの、あ
なたを護るって、それだけ
最後に私が何か、それはあなたが記憶を取り戻してからのお楽しみ
だね
そこは私が教えるわけにはいかない、と思うんだ>
知っているなら教えてくれてもいいだろうに、
︵そうですか、ありがとうございます。︶
﹄って言ったことは無視
?
<それにしても、﹃身体を貸してくれる
せめて理由くらい聞いてくると思ったけど>
?
109
?
?
?
?
咎める、と言うよりは単純に興味本位、と言った調子で聞いてきた。
︵貸すわけないじゃないですか、あなたの話を聞く限り
私に協力したってあなたに利点はないじゃないですか、
信用できません︶
<あはは、ちょっと安心したよ。やっぱりクロアだ>
︶
自分でも言ってて既視感があった。記憶を失う前の私も同じこと
を言っていたのかもしれない。
︵私の名前はクロア、であってますよね
<合ってるよ、うん。
それがあなたと、いや、あなたの名前だよ>
﹂
何かを言いかけたような気がするが、きっと何のことか聞いても教
えてはくれないのだろう、なぜか確信できた。
﹁あの、私の名前ですが、クロアで合ってますか
﹂
さっきからする頭の中の声の情報の正否を確認する。
問して、
とりあえずいまだに青い顔でぶつぶつつぶやく目の前の少女に質
?
と言える部分は残っていると思います。
﹁あ、合ってるわよ、それより本当に記憶がないの
﹁はい、ただ、常識
?
私自身や、他人に関する知識がすっぽりと抜けています﹂
110
?
例えば、魔法に関する知識や生活に必要な知識は残っていますが、
?
なんというか、知識自体が霧のようで掴もうとしても掴めなくなっ
た感じだ。
﹂
この少女は記憶喪失前の私の友人だろうか、行動が明らかに他人の
ものではない。
﹁あの、名前を聞いてもいいですか
名前を聞くと、ハッとしたように立ち尽くすし、彼女はうつむいて
肩を震わせていたが、やがて走り去っていった。
友達じゃなかったのだろうか。
<これで今頼れるのは私だけだね>
そう憎々しげな声が聞こえた。
何に怒っているのだろうか、不審に思ったが気を遣うつもりはない
ので
︶
︵名前がないと不便です、記憶喪失前の私はあなたをなんて呼んでい
ましたか
かって呼ばれてたよ。
︶
呼びにくかったら考えてくれてもいいよ>
と楽しそうな声が聞こえてくる。
︵そうですね、﹃ルー﹄でいいですか
適当に思い付いた名前を言う。
まさかあなたから名前を付けられる日が来るとは
?
111
?
<おお、確かに不便だったのかも、んー別に﹃あなた﹄とか﹃アレ﹄と
?
ほんとに
?
<え
?
思わなかった
>
︵そうですか、それで私の交友関係ぐらい教えてもらえませんか
︶
さすがに必要最低限ぐらい教えてもらえるだろう、と思い聞いてみ
るが
私があなたの
<ねえねえ、あなたは私の事をルーって呼ぶんでしょ
クロアって呼
事をあなたって呼んでるとなんか距離を感じるよね
>
<え、ちょ、ちょっと私達いつからそんな関係に....は、恥ずかしい
が正直どうでもいいのでそれを伝える。
題ないですね︶
︵そうですか、それだけなら別にこれからも﹃あなた﹄って呼んでも問
なかなか奇抜な発想だと思う。
<ふふふ、﹃あなた﹄って呼んでると夫婦っぽいよね>
︵なんですか︶
います>
<ふふん、そういうと思って私はとっておきの魔法の言葉を用意して
︵別に﹃あなた﹄って呼ぶだけでも問題は無いと思いますが︶
と質問を無視された挙句よく分からないことを言い出した。
んでいい
?
よ>
112
?
!
?
?
妄想癖があるようだ。それもなかなか重度の
︵馬鹿なこと言ってないで話を戻しますよ、私の交友関係ぐらい教え
てください。
どうせ記憶喪失前もずっと私の中で引きこもっていたのでしょう
︶
<んー口頭で説明するより、実際にあった時に説明したほうが分かり
やすいと思うよ
>
それよりさ、私もクロアと同じぐらいの時に起きたからさ、あんま
り現状を把握できてないの
だからさ、ちょっとその辺ぶらつかない
思うのですが︶
心の中でわざと聞こえるように愚痴りながら、医務室
屋から出ようと、
がいいと思う。あなたのためにも>
のような部
<......一応あなたのだよ、壊れてるけど一応保存しておいたほう
誰にともなくつぶやく。
﹁誰のでしょうか﹂
入った真っ黒なカチューシャが落ちていた。
驚いてベッドに座りなおしながら、足元を見ると、大きなひびの
ベッドから立ち上がったところで、足に鋭い痛みが走る。
?
︵割とルーって無能ですよね、あと私の事を名前で呼ぶ必要はないと
?
それにしても私は真っ黒な髪なのに真っ黒なカチューシャを付け
113
?
ていたのだろうか、
起きたんだ﹂﹁ほんとだ、起きてる。久しぶり﹂
私の手の中でひびの入ったカチューシャを弄びながら、疑問に思
う。
﹁あ、クロア
﹁ど、どうした
﹂
?
︵この二人は誰ですか、ルーはそれぐらいしか役に立たないのですか
と苦し紛れにつぶやく
﹁.........独り言です﹂
どう考えても頭がおかしいと思われるだろう。
か。
頭の中からする声に話しかけてた、なんて言ってもいいのだろう
......ええと﹂
﹁ああ、ごめんなさい。あなたたちじゃなくてですね。
が、私の望む声は聞こえてこない。
戸惑った様子の赤ノッポが聞いてくる。
頭でも打ったか
が反応していたからつい出てしまった。
と口に出してしまいハッとする。さっきまで私のつぶやきにルー
﹁誰ですか、この眼鏡と赤ノッポは﹂
廊下ですれ違いかけた二人が声をかけてくる。
!
ら、役に立ってください︶
114
?
<ひどいなあ、えっと、その人たちは一応あなたの友人だよ。
眼鏡はハリー、赤ノッポはロンって言うんだよ......
そこのクソメガネはあなたの言葉に顔を真っ赤にしてあなたに暴
行を加えた奴>
静かだが、強い憤怒を浮かべた声で私に言う。
﹂
ルーの言うことが本当なら、なんでこいつは私にヘラヘラしながら
話しかけられるのだろうか。
﹁ええと、ロンとハリーで合ってますか
一応ルーの言った名前があっているかを確かめる。
頷いたのを確認してから
﹁すいません、目が覚めてから記憶をほとんど失っていまして
﹂
今日が何日か教えてくれると助かります﹂
﹁ね、ねえ。それ、本当かい
今学期最後の日だよ、今さっき修了式を終えたところ﹂と言う。
なんというか、学校に修了式の日に転校したみたいだった。
学校生活の思い出も何もないな。まあ別にいいか、本来の私なら思
い出があるはずだし。
﹁大丈夫だ、僕らが全力でクロアの記憶を元に戻すから﹂
考え込んでると、心配したのか、そう聞こえてくる。
でも、その言い方だとまるで......いや、やめよう。
115
?
頷くと、うつむいて考え込むロンの代わりにハリーが私に﹁今日は
?
︵他 の 友 人 っ て い ま す か
︵そうなんですか
﹁ハーマイオニーの事
とりあえず顔ぐらい合わせておかないと
﹂
?
彼女ならたぶん寮の部屋にいると思うよ﹂
けど、どこにいるか分かりますか
﹁あの、栗色の髪と瞳のこれぐらいの髪の女の子がいると思うんです
なら一応挨拶ぐらいしときますか︶
<そうだね、さっきの女の子も一応友達だったはずだよ>
ルーも忘れると思いますし︶
?
﹁いえ、きっとそれは仕方のないことなのだと思いますよ﹂
﹁ごめんなさい、でも私の事を忘れられたのが悲しくて....つい﹂
が、目が合わないように逸らされる。
身体をピクリと震わせたハーマイオニーがこちらを見上げてくる
り去っていくなんて﹂
﹁ハーマイオニー、で合ってますよね。ひどいじゃないですか、急に走
定ハーマイオニーに声をかける。
部屋に入ると、私のベッドの上でうつむいて嗚咽を漏らす少女、推
部屋は....たしかここか。
向かう。
うん、場所はわかる。二人に軽く頭をさげると、記憶を頼りに寮へ
寮....たしかグリフィンドールだったかな。
彼女の名前はハーマイオニーと言うらしい。
?
何もない今の私には分からないが
116
?
﹁ねえ、クロアは、記憶を取り戻したいとは思わないの
﹂
﹁思いますよ、ですがそれがどんな記憶なのか私には分かりません。
ですから別にこのままでもいいかな、とも思います﹂
私は私の考えを正直に言う。
﹁そう、でも私はあなたに記憶を取り戻してほしい、今まで見たいに過
ごしたい。
だから大丈夫、私がクロアを元に戻してあげるから、全力で助ける
から﹂
でもその言い方だとまるで....
﹁そうですか、ならそのと..あ....﹂
﹁....はぁ、あのときクロアから逃げたのはちょっと失望したよ、で
も今は気分がいいから許してあげる、
知りたいよね
ふふん、うらやましいでしょ、これから
なんだこれ、私の身体が動かなくなったと思ったら、急にしゃべり
だす
このテンションと話している内容から間違いなくルーだ。
さっき身体を貸して、と言っていたが強奪もできるのか
﹁え、えっとクロアの言ってた裏..今はルーって呼べばいいのかな、
えっとあなたはすべて覚えてるの
その、クロアのなくなった記憶のこ....なんであなたが、ってカ
?
117
?
あ、ねえねえ、聞いてよ、私ね、クロアに名前もらったの、
知りたい
?
私の事は﹃ルー﹄って呼んでいいよ、あなたは特別だよ﹂
?
チューシャは
﹂
そういえば壊れてたわね。あれ、でもクロアが....どういうこと
?
なにやらブツブツと考えていたがルーに説明を求めている。
というか私も気になる。
︵私も気になります、どういうことか説明してください。これくらい
別に構わないですよね︶
﹁そうだね、なにから言えばいいのかな、本当はクロアに口止めされて
たけどその本人も聞きたいみたいだから言ってもいいよね。
確かハーマイオニーはクロアの身体に二つの人格が入ってるのは
知ってるよね。
で、クロアは魔法具であるカチューシャの魔法で壁を作って私を抑
えてたの、壁がないと私が常に身体のコントロールを持つことになる
からね。
それで、その壁が、まあいろいろあってカチューシャごと壊れて、そ
の時にいろいろあって私がカチューシャが無くても身体をクロアに
譲れるようになった、って感じかな、私にはプラスだけどクロアは壁
が壊れた影響で記憶を失っちゃったし、結果的にはマイナスかもしれ
ないけどね﹂
なるほど、うまく説明している
ように聞こえるが、ただ
︵はぐらかしすぎじゃないですか、それでは重要な部分が何も分かり
ませんよ︶
例えば
﹃クロアは魔法具であるカチューシャの魔法で壁を作って私を抑えて
118
?
たの﹄
﹃壁がないと私が常に身体のコントロールを持つことになるからね﹄
﹃その壁が、まあいろいろあってカチューシャごと壊れて﹄
﹃その時にいろいろあって私がカチューシャが無くても身体をクロア
に譲れるようになった﹄
どれも曖昧で理由が分からない。
ここまで徹底して結果だけを言いその理由を伏せているが、ルーの
事だ、知っているのだろう。
<んー、そうかな。とりあえずハーマイオニーがほしがってることは
言ったよ。
それに私もクロアには記憶を取り戻してほしいからね、記憶を取り
戻したときには分かるよ、とだけ言っておくよ>
119
やっぱり私には教えてくれないか。
....記憶、ハーマイオニーにも言ったが、戻るに越したことは無
い、
だがそこまで望むことでもない、ただ、他の人はそれを望んでいる。
だがその他の人たちの事も忘れている。
それはただ単に私を私ではなく﹃クロア﹄と認識しているだけで、記
憶を忘れた私に価値は無いと言われているみたいで寂しい。
︵そろそろ返してください︶
﹂
<ああ、ごめんねいきなり、名前の事自慢したくて、つい>
﹁ん、戻りましたね。
あの、私とハーマイオニーは仲が良かったのですか
﹁うん、ちょっと恥ずかしいけど、一番の親友だと思ってる﹂
?
﹂
ならやはりハーマイオニーに聞くのがいいのだろうか
﹂
えっと、クロアはクロアじゃないの
﹁なら、私は誰ですか
﹁え
﹂
を隠してる
とかかなぁ﹂
わいい私の親友....あとはよく寝てて、読書が好きで、いろんな秘密
﹁んー、ちっちゃくて人と話すのが苦手で、寂しがり屋で甘えん坊でか
すか
﹁えっと、そうではなくて......なら、あなたの思うクロアって誰で
?
?
﹁クロア
﹂
皆は私に記憶を戻してほしがっているのだろうか。
本当に私はクロアなのだろうか、本当は私自身の事がいらないから
がしない。
秘密を隠してる、そしてハーマイオニーの親友、どれも当てはまる気
だが、寂しがり屋で、甘えん坊、よく寝る、読書が好き、いろんな
それから、人と話すのが苦手、まあ人と話したい、とは思わない。
人はいなかった。
ちっちゃい....まあ私は小さいのだろう、周りに私より背の低い
?
いつ
私がクロアじゃないから
分からない
なんで
﹁クロア
﹂
?
ければよかった存在にはなってはいないか....いつか
いつかって
本当に私は必要なのだろうか、いつかのようにいらない存在、いな
?
?
!
?
120
?
?
?
私は、なんでここにいるの
﹂
私は....分からない
どうしたの
私は......
﹁クロア
私は......
﹂
私はクロアじゃない、でもみんなは私がクロアだといい、私がクロ
私はなんでここでこの身体を動かしてるの
﹁私は......本当にあなたの言うクロアなのですか
?
何でいるの
?
アであることを望んでる。
なら、私は何
?
?
私は....だれ
121
?
?
?
?
?
?
13話 私は
∼クロア視点∼
ここは、家の前か。
あの後何があったのかあまり覚えていないが、ただ流されるように
ぼんやりしたまま帰ったと思う。
ルーは話しかけてこないが、今は話す気になれない、正直助かる。
ただ、その中でもただ一つの疑問、
﹃私はだれ﹄という言葉はずっと
頭をめぐっている。
鍵を開け、蚊の鳴くような声で﹁ただいま﹂とつぶやくとそのまま
書斎に向かう。
が、本を読もう、という気にはなれない。
当たり前だ、私は読書好きなクロアではない。だが紙とインクのに
おいは私の心を落ち着かせた。
本棚に寄りかかって床に直に座ってぼんやりとしていると、私の母
の父、つまり母方の祖父︵ルー曰く︶が心配したように、腫れ物に触
少し考え事をしたいので︶
るように遠慮した声が聞こえてくるが、反応を返す気にはなれない。
︵代わってくれませんか
私はこの身体からすれば不必要なもの、それでも居させてもらって
私には協力してくれなくても仕方ない事なのかもしれない。
本当なのだろうか....いやルーが味方をしているのはクロアだ、
ど、ほんとごめん、今は無理なんだ>
陥を抱えててね、本当ならクロアの頼みなら喜んで代わりたいんだけ
<あ、その....私には日常生活を行うにあたってかなり致命的な欠
と声をかける。
とりあえず、一人で考え事をしたくて、身体の事をルーに任せよう
?
122
!
いるのだから、それくらいしないわけにはいかないだろう。
考える時間ならいくらでもある。なら私はゆっくりと探せばいい、
どうすればこの身体から私を消せるのかを
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
書斎の本は数日で読み終わってしまった。
大体の本は読んだ記憶はなくとも、本の中身は頭の中にあった。
おそらく記憶を失う前の知識だろうが、どの本を読んだか分からな
いのに、中身は分かるのだ、なかなか厄介だったが、すべて確認し終
わったが
人格を消滅、排出する方法についたはなかった、まるで意図的に抜
き取られたかのように抜けていた。
後は、ホグワーツから手紙が来た。中身は次の学年で必要なモノが
書かれていた。
ちょうどいい、書店に行けば何かヒントがあるかもしれない、そう
思い
次の学年で必要なモノを買いに行くついでに書店に向かうことに
した。
あれからそれなりに時間がたっているので、疑問は消えずとも落ち
着いた。
事務的に祖父に外出する旨を告げると、白い半袖のシャツに黒の半
パン姿で家を出る。
この家には暖炉などなかった、一応あまり遠くでは無いし、公共機
関に祖父のお金を使うのはためらわれるので、徒歩で向かう。
私は地理に関する記憶は失っていないはずだが、周りはどこも新鮮
だった。
.......私は引きこもりだったのだろうか。
周りをキョロキョロと見まわしながら歩いていると、ダイアゴン横
丁に着いた。
ダイアゴン横丁の出入り口である漏れ鍋という店を出て、目的の店
123
を探す。
まず服....は買う必要はないかな。なぜか目から汗が出てきた。
なら教材を買うために、と書店に向かう。
書店ってどこだ、そもそもこの場所の記憶があいまいだ、見たこと
はあるはずなのだが、あまり思い出せない。
まあ探せばいいか。
いろんな店があるし、ほとんど忘れている私には新鮮だ、そうそう
飽きはしないだろう。
と思っていたが、なかなか見つからない、周りの景色に飽きてきた
頭を巡るのは一つの疑問だった。
考えれば考え出すほど、気分が落ち込んでくる。
あれから私をこの身体から消す方法と同時に私はだれ、ということ
についてもずっと考えてはいるが、答えは出ない。
私自身の事をだれも肯定はしてくれない、否定もされないが、それ
は認められてすらいない、ということなのだろうか。
目頭が熱くなってきて、書店を探す、という気分でもなくなって、涙
をこらえるために俯いたまま座れる場所を探す。
だが、座れるところを探していようが、思考だけはお構いなしに回
り続ける。
誰かに認めてほしい、否定でもいいから誰かから私という存在自体
を認識してほしかった。
だって、そうじゃないと、私は、一人だ。
だって、一人は、さみ﹁わっ、す、すいません﹂
俯いて考え込んでいたら、頭に衝撃が走る、誰かにぶつかったよう
だ、
とっさに頭をあげ、謝る。
目 の 前 に い た の は 青 白 い 顔 に と が っ た 顎 を 持 つ 特 徴 的 な 男 の 子
だった。
124
﹂
﹁ああいや別にい....っておまえあの時ハリー達とい....な、なん
で泣いてるんだ
誰だろう、分からない、だって私はこの人の知っている人とはきっ
と別の人で....
この人の瞳に映るのはきっと私じゃなくて....
﹁ううっ....﹂
嫌だ、考えたくない、でも考えるのをやめたら誰が私の事を認識し
てくれる、私が私の事を考えなくなったら、だれが私を見る
なんだろうと思ったが、すぐにそれが動き出して何か気づく。
俯いて、嗚咽をこらえていると、頭に暖かいものが置かれる。
げてくる。
﹃一人﹄という部分がどこか強調されている気がして、また涙がこみ上
﹁どうしたんだ、こんなところで一人で﹂
何かをしている時は考えなくて済む幸せな時間だった。
涙をぽろぽろとこぼしながら謝る、
﹁....ごめんなさい﹂
見たいだろ﹂
﹁お、おい、どうしたんだよ、ほ、ほら泣き止んでくれ、僕が泣かした
?
頭をなでられているのだろう、揺れていた心が落ち着いていくのが
分かる。
﹁......ありがとうございます、だいぶ落ち着きました﹂
125
?
﹁ああ、いやいいんだ、それで、なんで泣いてたんだ
﹂
﹂
すごい悩んでるみたいだけど、辛かったら言え
が、書店ってどこにあるか分かりますか
﹁えっと、そのちょっと悩み事があって....そ、それとは別なんです
?
私って、誰ですか
﹂
あの、変な質問してもいいですか
﹁分かりました、辛くなったらまた頼らせてください。
よ、誰かに話すだけでも楽になるからな﹂
﹁ん、本当にいいのか
?
﹁おまえか
の子﹂
おまえは....おまえだろ、ダイアゴン横丁で泣いてた女
返事を待たずに質問を投げかける。この人ならもしかしたら....
?
私はそのことがたまらなく嬉しくて、また涙が出てくる。
この人が初めて私を見てくれた人....
﹁ありがとうございます。私は、もう大丈夫です、私の悩みを解決でき
ました﹂
∼ドラコ視点∼
﹁ありがとうございます。私は、もう大丈夫です、私の悩みを解決でき
126
?
?
客観的に見れば普通なのかもしれないが。
見てくれている。
私を私って、
この人は、
?
ました﹂
目の前で少しぎこちないながらも笑う少女を見て、少し安心した。
はじめて会ったのはかなり前だが、その時はあまり話してもなかっ
たから分からなかったが、こうしてあってみると、第一印象はとんで
もなく小さい、同い年とは思えない、うつむいていたこともあるのだ
ろうが。
そして、壊れそうな顔で泣いていた。
なんというか、直感でこのままではまずいと思ってしまった。これ
がハリーどもならそうはならないんだろうが、同い年というより護る
対象にしか見えなくて、つい優しく接したが、この笑顔を見ていると、
これでよかったんだな、って思える。
ぎこちなくても、屈託のないこの笑顔で見られるのが気恥ずかしく
て
127
﹁じゃあ、書店に行くか﹂
が行われ
と言い、目を逸らすために手を引いて二人で書店に向かう。
身長のせいで歩幅が違うので、遅めに歩く。
書店ではすさまじい人だかりができていた。サイン会
そこでふと思い
﹁そういえばお前の名前、なんて言うんだ
∼クロア視点∼
﹂
すると、後ろの少女が小走りで付いてくる。
中心から逃げるように移動したハリーを煽ってやろうと、僕が移動
青年の隣にいたことだ。
ているらしい。なにより驚いたのはその中心にハリーが整った顔の
?
﹁私....ですか。私はクロアです。ファミリーネームはありません﹂
?
クロアと名乗ってもいいのか少し悩んだが、別の名前があるわけで
もなくこの身体の持ち主の名前を言う。
﹁クロアか。僕の名前はドラコ・マルフォイだ、よろしくな﹂
﹁はい、こちらこそよろしくお願いします﹂
﹂
そう言うと、ドラコは私の手を取ると、移動を再開した....あれは
ハリーだろうか
﹁サイン会はもういいのかい、英雄様
と心底楽しそうな様子でドラコが言う。とても活き活きとしてい
る、彼にとっては本当に楽しくてたまらないのだろう、私はその真っ
なんでそこに....﹂
直ぐな笑顔がうらやましかった。
﹁もう勘弁してく......クロア
ていた手が大きく揺れ、うめき声が聞こえる。
﹁何してるんだ、マルフォイ‼﹂
﹁もう大丈夫よ、クロア﹂
後ろから二人の声が聞こえる。
ロンがドラコを殴り飛ばし、ハーマイオニーが私の手を引っ張っ
て、ドラコから引きはがす。
何が起こったかを理解した私は、ハーマイオニーを引きはがし頭を
押さえているドラコのもとへ走る。
128
?
ハリーに事情を説明しようと口を開きかけた時にドラコにひかれ
?
﹁大丈夫ですか
か
﹂
﹁クロア
﹂
﹂
!
だって
てくれたドラコに対し暴力をふるって、挙句の果てには私を助ける
に落ちようって時に何もしてくれなかったくせに、私を唯一救い出し
私を助けなかったくせに、私が誰にも見てもらえなくて、孤独の沼
なんなんだ、こいつらは、
語尾を強く言い切るように、そう言うと、三人は目を丸くしていた。
﹁そうです、ただ一人だけ私を助けてくれたドラコです﹂
何やってるんだ、そいつはマルフォイだぞ
﹁あ、ああ、大丈夫だ。それよりお前ら、自分が何したか分かってるの
?
﹁な、なんだよ。おいクロア
ドラコになんかされてるんじゃないのか
!?
!
なのに
どうして
なんで
!
誰も私を見てくれなかった‼
それだけで....それだけが欲しかった、
﹁そこの暴力眼鏡より百倍良い人です、それに、私を見てくれました。
﹂
なんでそんな奴のとこにいるんだ。
私の息子、と言っていることからドラコの父親だろうか。
寄ってきていた。
低く渋い声が広がる。見ると、長身の男性がこちらに向かって歩み
﹁私の息子に何の用だ、ウィーズリー共﹂
一体何がしたいんだ。
?
!
かった‼
記憶が無くなったからって、私を見ない‼誰にも認めてもらえな
!
129
!?
?
私は、私は記憶が無くてもここにいます‼例え私がクロアではなく
あなたたちが見てたのは私じゃなくてクロアでした。
ても、私は私です‼
なのに
わたしはっ、わたしは....わたしなのに........
私は、私のやりたいようにやります、クロアなんて関係ありません。
私は、私を助けてくれた人を頼ります﹂
そう言い切ると彼らは、私に失望したような眼を向けてくる。先に
失望させたのはそっちだ、知ったことじゃない。
もう一度聞こう、私の息子に何の用だ﹂
ドラコ父は、私の方を見て、ニヤリと笑うと、
﹁だ、そうだが
﹁誘拐、の間違いではないかな
?
﹂
?
見損なったぞ、裏切るのか
﹁私の息子に何か言うことがあるのではないかね
﹁う、クロア
!
ウィーズリー﹂
押し黙る彼らに、ドラコ父が歩み寄り、ロンに杖を向ける。
れ去ったように見えるだろう。
客観的に見たら、ドラコと歩いていた私をドラコを殴り飛ばして連
﹂
﹁わ、私たちは、ただクロアを助けようと....﹂
?
突如第三者の声がしたと思ったら、ドラコ父が床にしりもちをつい
﹁何してる‼﹂
本当にイヤになる。
未だに私がクロアであることを望むのか、気持ち悪い。
!
130
!
ていた。
髪の色がロンと同じ大人の男性︵おそらくロン父︶が拳を突き出し
たまま息を荒げながら、ドラコ父を睨みつけている。
﹁邪魔をするな、アーサー。先に手を出したのはそっちだ﹂
立ちながら杖を、推定ロン父に向け、冷静に睨みつけながら言う。
﹁うるさいぞ、だからと言って杖を向ける理由にはならん。﹂
﹁何も魔法を使ったわけではない、ただこいつに謝ってもらおうとし
ただけだ﹂
そんな事も分からん
こちらこそ言わせてもらうが、その発言こそ息子を守る、とい
﹁魔法を使わなければいいというわけではない
のか﹂
﹁なに
﹁うるさいぞ、やるのか
﹂
﹁そちらこそ、やるつもりかね
当に魔法使いなのだろうか
﹂
彼らの背中を見ていると、ハーマイオニーが振り返り
ロン父が捨て台詞を吐きながら、帰っていく。
か、手を出しはしない。
どちらもまだまだやり足りない、と言った顔だが奥さんが怖いの
?
結局二人は両者の奥さんが出るまで殴り合いの喧嘩を続けた。本
?
!?
131
!
う範疇を超えた発言だぞ、それではただの愚弄だ﹂
?
﹁クロアー
﹂
、ごめんね、あなたの悩みに気づいてあげられなくて
それから、ごめん、ルー、あとは任せる
と叫ぶが、言い終わる前に私は書店に入る。
それに、クロアはそうやって笑ってるほうがいいよ﹂
﹁いや、いいさ、僕もさすがにあんな顔してたら無視できないしね。
と頭を下げ、お礼を言う。
﹁ありがとうございます。いろいろと吹っ切れました﹂
る。
ドラコ達とはここでお別れだ、私は漏れ鍋、彼らは暖炉を使って帰
出る。
教材と人格、精神や、ゴースト関連の本をいくつか買うと、書店を
!
笑ってる....笑ってるのだろうか、頬に手を当ててみると、少し上
がっている気がする。だとしたらそれはたぶん、
﹁たぶん、あなたのおかげです﹂
もう一度頭を下げると、彼とは別の帰り道を通る。
﹁また、ホグワーツで合いましょう﹂
﹁ああ﹂
すこしだけ、ホグワーツが楽しみになった。
132
!
!
∼ルー視点∼
懐かしい、まるで過去のクロアを見てるみたいだ。
いや、あの頃よりかなりいい状態だ。
事実、嬉しい誤算があった。
うん、クロアなら大丈夫だろう。
ハーマイオニーは私に任せたが、その必要はないだろう。
きっと、このこなら問題無い。
そしていつか、たどり着くだろう、
今度こそ﹃本当の答え﹄に
そしてその時こそ私は....
133
14話 私は
∼クロア視点∼
﹁へ∼、記憶を、ねぇ﹂
﹁は い、そ れ で、そ の、誰 も が 私 を み な く て、私 は い ら な い み た い
に....﹂
﹁大丈夫だ、少なくとも僕はおまえの事を見てる﹂
﹁....はい、分かってます﹂
私はホグワーツ行きの列車のコンパートメント内で私の事をドラ
コに話していた。
その中には私が知っている私の秘密、二重人格についても含まれて
いる。
私が話し終えると、今度はドラコが彼の家や、笑える話等いろいろ
﹂
やっぱりここにいた、何度も言うがこんな奴と一緒にいる
話してくれた。
﹁クロア
べきじゃない
に。
﹂
﹁そうよ、やっぱり相手は考えたほうがいいと.....クロアが、笑って
た
134
?
そんな楽しい会話が妨害されてしまった、あのクソメガネ共三人組
!
!
言われて気づく、頬が少しだけ上がっている。
?
﹁ねえ、やっぱりやめよう、クロアはたぶん大丈夫だよ﹂
﹁いやだね、どうせドラコに騙されたんだろ、僕はクロアを信じてるか
らな﹂
あなたが信じているのは私じゃなくてクロアだろう、うんざりし
て、彼らを追い返そうと席を立つ。
﹁信じるのは勝手ですが、私の邪魔はしないでください﹂
コンパートメントから追い出し、ドアを閉める。
﹁あのね、よく聞いて、クロア、私はあなたの邪魔はもうしないわ、きっ
とそれが今は最善だと思うから、でもね、もし気が変わったらいつで
135
も私たちの所に来てもいいからね、私はいつでもあなたの事を歓迎す
るから﹂
﹁大変だな﹂
﹁はい、本当に﹂
そう苦笑いしながら答える。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼ハーマイオニー視点∼
頭からクロアの笑顔が離れない。
私は約一年彼女と過ごして、かなり仲が良かった自信があるが、そ
の笑顔なら見たことはあるが、あれ
れでも彼女の笑顔を見たことは無い。
裏....今はルーだったかな
?
は完璧な笑顔だったと思う、
クロアの笑顔はどちらかというと、ぎこちない、というか、精一杯
感情を表現しようとしている。といった感じだ。
そしてドラコ・マルフォイ、彼の前ではその笑顔を見せる。
彼女は私といた時でさえ、一歩離れたところから私と接していたよ
うな気がする、なんというか、何かを恐れていた、という表現がしっ
くりくる。
だが、彼の前ではそれが無い。
きっと彼女は彼の事を信用しているのだろう。
一番の原因は、記憶を失ったことで、不安で仕方なかったのだろう、
周りは誰も知らない人ばかり、
さらに、悔しいことだが私は気づけなかったが、彼女から見た私は
彼女を彼女ではなく、私の中のクロアとして見ていたようだ。
そんなとき、彼女を彼は肯定したのだろう。
それで彼女は彼を信頼しきっている。その相手がドラコ、というの
は少し心配だが、大丈夫だろう、少なくとも私が何かをするよりかは。
それより、ルーは分かっていたのだろうか、私はドラコ以上にルー
が怪しいと思っている、ルーならクロアがああなる前にどうにかでき
たのではないのか。
クロアの事を最優先に考えているのは本当なのだろう、だがその行
動理由が分からない。
クロアと話すこともないから、今彼女たちがどうなっているのか私
には分からない。
悔しくてしょうがない、私があの時ちゃんとあのこのことを見てい
れば....
いや、後悔してももう遅い、とりあえずルーがいる以上クロアは大
丈夫だと思うが....
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
136
久しぶりの授業だ。そして、次の授業は闇の魔術に対抗する防衛
術、つまりスリザリンとの合同授業だ。
今から少し楽しみだ。
そして授業
うん、私は楽しみだった。なのに授業がひどい。いや、授業、とい
うより授業をする教師がひどい。
今年の教材のほとんどはこの授業の教師、ギルデロイ・ロックハー
トの書いた本らしい。
なんというか、まるでファンクラブみたいだった。
まあ、それももう終わった、次の授業は....
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
ここで軽くドラコ・マルフォイの説明に入ろう。
彼は純血と呼ばれる、両親が魔法使いの家庭に生まれている、
﹂
137
そして何よりその血筋にマグルの血が一切混じっていないと呼ば
れる聖28一族であるマルフォイ家の息子、つまり超優良物件だ。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
スリザリンの先輩に呼び出された。女子トイレに。
嫌な予感しかしない、うかつだったか
れたところだ。
私は今女子トイレで五人ほどの先輩に囲まれて、遮音魔法が掛けら
なんてのんきに考えていたのが間違いだったのか。
出られれば助けを呼べる。
理由は分からないが、逃げたほうがいいかもしれない、廊下にさえ
?
....現実逃避をやめてまじめにどう切り抜けるか考えなければな
らない。
﹁あの、何の用ですか
?
しらばっくれるつもりなの、分かってるくせに
とりあえずこちらからアクションを取る、先手必勝だ。
﹁何の用ですって
先手を間違えたかもしれない。
﹁ほ、本当に分からないんです。何のことなのか﹂
の
﹂
﹁ドラコ、ですか
しれなが、私にその気はない。
﹂
嫉妬だろうか、最近よく一緒にいたからそういう風に見られたかも
﹂
みそに詰め込みなさい、あなた、いつからマルフォイと仲良くなった
﹁あっそう、あくまでのシラを切るつもりなのね、いいわその小さな脳
!
﹁えっと、ダイアゴン横丁で合って、その時に相談に乗ってくれて﹂
なんでずっと一緒に居ることに何のよ﹂
正直に話すが、
﹁それが
﹁ち、違います、誤解です
!
確かにグリフィンドールとスリザリンは犬猿の仲だが、私は別にグ
違ってんのよ﹂
﹁そもそもグリフィンドールのくせにマルフォイに近づくこと自体間
﹂
﹁そうよ、どうせそうやってマルフォイ家を狙ってるんだわ﹂
?
138
?
?
?
﹂
リフィンドールで仲がいい人はいないので、別にそんなことは意識し
たことは無かった。
まだ口答えすんの
﹁で、ですが﹂
﹁何
暴力はダメだよ
﹂
﹁﹃セパレーション﹄。
数舜後にやってくるであろう衝撃にこらえようとして、
真っ赤な顔をした先輩は拳を振り上げる。
?
︵ルー、ですか
︶
口が、勝手に謎の呪文を唱える。
急に勝手に動き出した右手が顔の右半分を覆うように被せられ、
?
かげろう
代わりに手を顔の右半分に置くのが条件か
やはりルーのようだ、それよりルーの使った呪文は何だ、杖を使う
<やっほー、久しぶりだね>
?
そしてそこで先輩の手が止まっている。
?
に攻撃をしてみるが、まるで歪んだ空間に変化はない。
その言葉になおさら激昂した先輩方は、いくつかの魔法や、物理的
にドラコが好きなわけじゃないし、ただ頼れる兄ぐらいの認識だよ﹂
﹁ねえ、あなたたちじゃあこの魔法は破れないよ
あきらめて、私は別
なんというか、私の周りが陽炎のように歪んで見える。
?
139
?
︵なんですか
ヒントは私の最低の間違いと、私の最高の後悔から
この魔法は︶
<なんだと思う
できた魔法、とだけ教えてあげる>
つまり教えるつもりは無いのだろう。
まあ痛くないのならそれでいいだろう、ここはルーに任せることに
しよう。
﹁あきらめたほうがいいと思うよ、この魔法、持続するのに魔力使わな
いし、あなたたちじゃあ破れないんだから無駄だって﹂
としばらく攻撃を繰り返していた先輩方にルーがそういうと、彼女
らは捨て台詞を残して帰って行った。
︵助かりました︶
と、一応助けてもらったわけだから礼を言う。
>
<いいんだよ、言ったでしょ、私はあなたを護るって、
もう少し私を頼ってくれてもいいんだよ
すこし、寂し気にそう言われる。
︵ないほうがありがたいですが、その時は任せます︶
せて、絶対に護るから>
<うっ、ま、まあ人には得手不得手があるからね、暴力沙汰は私に任
が︶
︵家に帰ってすぐあなたを頼ろうとしましたが、断られた気がします
?
140
?
?
これからが思いやられる。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
廊下でハーマイオニーに呼び止められた。
大丈夫
﹂
﹁クロア‼今あなた、そこのトイレから出たわよね、さっきスリザリン
の上級生が大勢で出て行ったけど、なにもされてない
?
せんね﹂
﹂
?
﹁やっぱり何かあったんじゃない
本当に大丈夫だったの
﹁大丈夫でしたよ、ただ、ドラコとは少し距離を開けるべきかもしれま
?
﹂
ルーがいるから大丈夫だと
﹁はい、あなたの大好きなクロアの身体は傷一つありませんよ﹂
あなたの事が心配なの
と皮肉交じりに返す。
﹁そうじゃない
﹁今更遅い、とは思わないのですか
﹁そう、よね、ごめんなさい。
﹂
は思いたいけど、ルーはちゃんと守ってくれてる
!
私はね、クロアの親友だったの、その私が断言するわ、
あなたは間違いなく、誰が何と言おうと、私の親友だったクロア、張
本人よ﹂
141
!
でも、遅れたけど、あの時のあなたの質問にもう一度答えるわね。
?
?
!
﹁そうあってほしい、の間違いじゃないのですか
いてるんでしょ
﹂
﹂
﹁それは、あなたがそう思ってるだけよ、だって、本当は少しだけ気づ
?
それに、クロアの言ってる通り今更遅すぎる
﹁ねえ、しつこいって思わない
のせいでもあるんだよ
んだよ﹂
口が勝手に言葉を紡ぐ
?
じゃないの
﹁そのしゃべり方、ルーね。あなたこそ、こうなるって分かってたん
嫌がってる人にネチネチ大体あなた
理解してあげられるのは本人であるあなただけよ﹂
てできるかもしれないけど、
﹁クロア、よく聞いて、自分を見て、あなたの事を見ることなら誰だっ
関係ない他人だ。
何のことだ、しらない、しってたまるか、私は私だ、クロアなんか
?
・
・
﹂
?
・
・
私は、本当は気づいている
?
ニーの言葉がぐるぐるとめぐるだけ。
私は、クロア
は私だけ
?
私は、私じゃないの
私を理解できるの
耳を通る声は、脳を通らない。頭の中にはさっきからハーマイオ
はない。違う
行動に移せばいいだけ、別にそこで逃げる必要はない。諦める理由
でもその間違いに気づいて、後悔して、
・
確かに私はクロアの悩みを解決させてあげられなかった、
?
142
?
?
?
﹁違う
、あなたはあなたで、そして、クロアよ﹂
私が頭の中で考えてた疑問にハーマイオニーが答える。
口に出てたのだろうか
﹁な、急にどうしたの
﹂
いや、そんなわけがないのだ
?
﹁クロアなの
﹂
くと、私に身体が帰ってきた。
そして、ハーマイオニーに聞こえないように、羨ましい、とつぶや
﹁ごめんね、あなたは私が思ってたよりもずっと強いよ﹂
降参するように、両手を上げたルーが小さくこぼす。
﹁びっくりだね、驚いたよ﹂
ハーマイオニーの言う事が本当なら、私は......
ら、あなたは間違いなく私の知るクロアよ﹂
聞こえてるんでしょ、クロア、あなたの疑問に私が答えられていた
なんて手に取るようにわかるわよ。
﹁言ったでしょ、私はクロアの一番の親友だって、クロアの考えること
私の身体はルーが使っている。
?
﹁急にひどい顔になったわよ、あのドラコが優しくなるのも当然ね﹂
なぜ分かったのだろうか。
?
143
!
本当に私の考えてることを予想できているのだろうか、
﹁私には、分かりません。本当に私はクロア、なのでしょうか﹂
﹁そうね....きっといつか、自分でも納得できる時が来るわよ、
それが記憶が戻ったときか、別の時かは分からないけど﹂
︶
本当にそうなのだろうか、だとしたら私はこの身体にいてもいい
いや、まだ断言はできないだろう。
でも、気になる。
私は取り戻したい、私の記憶を。
︵ルー、どうすれば記憶を取り戻せますか
<......そうだね>
ドラコとハーマイオニーじゃあさすがに無理があるか。
考えたいのですが、まあ無理ですかね︶
︵どうせなら二人だけじゃなくてハーマイオニーやドラコとも一緒に
でも、二人で考えれば、きっと見つかるよ>
法が分からないの
<ん、任せて、って言いたいけど、私も原因は分かっていても治す方
?
︵まあそれならしょうがないです、私とルーともう一人の三人で考え
ることにしましょう︶
144
?
記憶、それが戻ってしまった時私はどうなるのだろうか。
クロアの記憶に呑まれて消える
?
それとも、三つ目の人格となったりするのだろうか。
あるいは、こんなことを考えている私自身がクロアなのかもしれな
い。
145
15話 ハロウィーン
∼クロア視点∼
﹁ああ、クロアではありませんか、聞きましたよ。どうやら記憶をなく
数々の強敵と戦い、豊富な魔法の知
したことで困っているらしいではありませんか。
ここは私の出番、違いますか
識を持つ私なら記憶など軽く治してしまいましょう﹂
ロックハート先生に呼び止められた。
....本当に記憶を取り戻せるのだろうか。
﹂
不安だが、隣にいたハーマイオニーは目を輝かせて頷いてるし、他
﹄どうです
に治す方法の手掛かりがないのも事実だ。
ここは賭けてみるのもアリか
﹁では、お願いします﹂
﹁ええ、では失礼して、﹃メモント
?
﹁ふぁーまいおひー、なんかへんれすか
﹂
こういう時はハーマイオニーに聞くのが一番だ。
なら何が起こった。思考がまとまらない、
ただこの様子だと間違いなく治ってはいない。
....なんだろう、頭がふわふわして、何か変だ。
!
なる。
舌が回らない、なんだろう、唐突にハーマイオニーに抱き着きたく
?
どうしたの、顔が真っ赤よ。
146
?
?
うん、こういう時は直感に従うべきだろう。
﹁ク、クロア
?
・
・
・
・
・
・
・
って、抱き着かないでって、動けないから、離して、ねえちょっと
﹂
・
ちょ、正気に戻ってって、次の授業いけ
やっぱりハーマイオニーは抱き心地がいい。.....やっぱり
あなた酔ってるの
﹁クロア
﹂
いえ、ひょんなことより、ふぁーまいおひーはわらひが抱
﹂
ないから
﹁よってる
き着いたらいや、なのれすか
﹁ほんとう
ロックハート先生が魔法をたまたま失敗してしまったのだろうか、
変わらないな。
いつだったか、このこといるとため息が増えそう、なんて思ったが
声に出さないようにため息をつく。
∼ハーマイオニー視点∼
やっぱりハーマイオニー抱き心地がいい。
嫌われたのかと思ったがそんなことは無いようだ。
﹁....よかったです﹂
﹁当り前よ、嫌なわけがないじゃない﹂
﹂
いから泣かないで﹂
﹁ちょ、クロア、泣かないでよ。ねえ、い、嫌じゃないから、嫌じゃな
普段はこんなことでは泣かないはずなのに、やっぱりなんか変だ。
やっぱり本当は嫌なのだろうか、なんだろう、涙が出てきた。
?
?
?
?
?
147
!
?
!
いつの間にかどこかへ行ってしまったから、記憶を戻す魔法につい
ては聞けなかったが、
それより今はクロアだろう、ロックハート先生に魔法をしてもらっ
てから、様子が明らかにおかしい。
顔を真っ赤にしながら、ろれつの回ってないしゃべり方で話しなが
ら私に抱き着いてきた。
間違いなく酔っている。びっくりして、引きはがそうとしたら、
泣きながら私に抱き着かれるのが嫌なのか、と聞いてきた。
﹂
反則だ、そんな顔と声で言われたら拒否できるはずがない。
﹁クロア、そろそろ次の授業にいかない
さすがにもう落ち着いただろう、と思って聞いてみるが返事がな
い。
・
・
・
・
・
・
まさか、と思い耳を澄ましてみればスヤスヤと落ち着いた寝息が聞
こえてくる。
絶対に寝てる。
そっと引きはがして顔を見てみれば、気持ちよさげに微笑んだまま
寝ている。
次の授業に行かなければならないんだけど
どうしようか、いくら小さいとはいえクロアを抱えたまま階段を何
うん、それがいいだろう。
度も上り下りするのはきついものがある。
起こす
よし、起こそ﹁わっ﹂
﹁きゃあああ﹂
耳元で急に大きな声がして驚いた。
﹁あはは、ごめんごめん、なんか考え込んでるみたいだったからつい﹂
148
?
これならクロアも私も次の授業に行ける。
?
この雰囲気はルーか。
ルーだと分かるとどうしても多少警戒してしまう。クロアの味方
なのは分かるのだが、なぜクロア本人よりもクロアに詳しいのか、分
からないことが多すぎるし、
﹂
クロアもかなり警戒していた。
﹁クロアは
﹁ん、あのこならたぶん寝てるよ。
あのおっさん使えもしない呪文を使うとか正気じゃないよ﹂
おっさん....ロックハート先生の事だろうか
﹁ロックハート先生よ、それに、たまたま失敗しただけよ﹂
﹁あれで、ねぇ。まあどっちでもいいや、私はクロアが無事ならいいし
ね﹂
本当にそうなのだろう、どうでもいいような調子でそう言ったルー
は、
次の教室まで来ると、なぜか周りを何度も確認しながら早口で焦っ
たように私にクロアを任せると、クロアの中に帰って行った。
∼クロア視点∼
ルーと私が入れ替わる。
﹁忘れてください﹂
開口一番に言う。
149
?
﹁いやよ、ってこのやり取りも一年前にやったわね﹂
これだ、ちょくちょくハーマイオニーは、私に私をクロアと認識さ
せるようなことを言う。
﹂
本当かどうかは分からないが、記憶さえ戻ればそれも分かる。
記憶さえ......
﹁そういえば、最初からルーはあんな調子だったのですか
ルーが明らかに挙動不審だったことを思い出しながら聞いてみる。
﹁ん、この教室に入ってからだったわよ﹂
ひょうひょう
﹁この教室....なにか苦手なモノでもあるのでしょうか﹂
いつも飄 々としているルーの弱点、これが分かれば彼女が隠して
いることが分かるかもしれない。
﹁んー、どっちかっていうとモノってより人って感じだと思うよ。
ルーの話が本当なら、ルーの事を知っているのは
視線が周りの人を見てるって感じだったし﹂
苦手な....人
私とハーマイオニーとドラコだけだ、そのルーが苦手な人
ハ
リー
いちばんあり得るとすればハリーだろうか。
あのメガネはルーに、という訳ではないが私に暴力を振るったらし
い。
ただルーの性格だと、自分から進んで復讐をしそうなものだが。
.....そういえばなんでルーは今もハリーの事を放置しているん
だ
ないとしても、今復讐しない理由は無いだろう。事実ルーはまだハ
150
?
?
?
当時は自由に身体をコントロールを取れなかったらしいから仕方
?
リーを許してない。
まあ考えても分からないものは考えるだけ無駄だろう。
..........ルーの弱点か、気になる。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
﹂
ハロウィーンパーティーをドラコと過ごしていた。
﹁久しぶりになりますね、ドラコ﹂
﹁ああ、最近合わなかったな、大丈夫だったか
﹂
﹁はい、それでですね、あれからハーマイオニーと話していろいろと考
えが広がりました﹂
﹁ふーん、どんなのだ
それで、何か心当たりはありますか
﹁ないな﹂
﹂
﹂
﹁ドラコ、もしかして私がハーマイオニーと話したこと、怒ってますか
障ったのかもしれない。
なぜかドラコが冷たい、ハーマイオニーと仲良くしてたことが気に
?
たぞ﹂
151
?
私は、記憶を取り戻したいんです。ただ、その方法が分かりません、
﹁まずは、そうですね。
?
﹁ん、ああ、いや別に、というか今は、クロア、悪かったな、話、聞い
?
話
何のことだろうか。別に謝られるようなことは無いと思うし、
﹂
私がドラコに聞かれて困るような秘密など、そもそも私が知らない。
﹁え....と、なんのことですか
ハロウィンパーティーから帰ってると、すごい人だかりがあった。
﹁あれ、なんでしょうか﹂
∼クロア視点∼
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
﹁ありがとうございます﹂
ので、助けてもらえるなら大歓迎だ。
需要は無いと思うが、そんな防御機能たるルーにも弱点があるっぽい
だが、私には高性能オート防御機能が備わっているので、そこまで
ろう。
ありがたい言葉だ、女子であるハーマイオニーにはできないことだ
心配しただろ、僕に言ってくれれば僕だってクロアの事を護る﹂
﹁いや、そういう問題じゃない。
﹁あれ、ですか。あの時はルーが護ってくれたので大丈夫でしたよ﹂
ああ、あれのことか
か、それの事、僕が原因なんだろ﹂
﹁ん、ほら、スリザリンの女子共にトイレで何かされたらしいじゃない
?
隣を歩くドラコに聞いてみる。
152
?
﹁さあ、僕も知らないな、気になるし、行ってみるか
﹁ドラコ、何か見えましたか
リー
対して、なのかは分からないが。
﹂
﹂
それが、
﹃生き残った男の子﹄としてのハリーなのか、ハリー個人に
いる。
大方メガネ関連なのだろう。ドラコはハリーに対し強く敵対して
ハ
大体何がしたいのかは予想がつく。
ドラコには見えたらしく、楽しげに三日月形に裂ける口を見れば、
﹂
近づいてみるが、私の背丈だと全く見えない。
﹁はい、行ってみましょう。私も気になります﹂
別になにか用事があるわけでもないし、断る理由もない。
?
﹁秘密の部屋は開かれたり、継承者の敵よ。気を付けよ
!
﹂
﹂
そう、普通より抑揚をつけた声で、芝居がかった調子で叫ぶドラコ、
どうしたのですか
私から見ればただの狂人だが、
﹁ドラコ
﹁あ、ああ、悪かったな。見えないか
﹁見えません、何があったのですか
﹂
?
153
?
?
ドラコに悪気は無いのだろうが、少し悔しい。
?
?
﹁ええとだな、ハリー達と猫があって....ああもうめんどくさい﹂
視界が急に上昇する。
めんどくさいって....﹁よいしょっと﹂
へ
﹁どうだ、見えるだろ﹂
ドラコが横腹を掴んで私を持ち上げている。
よ じっ て
﹁ちょ、ま、や、やめてください﹂
目を捩ってドラコの手から逃げようとする。
﹁お、おい、暴れるなって﹂
暴れるのも致し方ないと思う。だってここは人だかりのすぐ近く。
ただでさえ人が多い場所で、しかもさっきドラコが何かを叫んでい
たこともあり、
>
注目を浴びていた訳で、いくら何でも恥ずかしかった。
﹂
急に身体を浮遊感が覆う。
﹁クロア
<やっぱりそんな奴より私が護ったほうがいいよね
﹃ペル・サルス﹄私の口が勝手に小さく動く。
ドラコはバツが悪そうに謝る。
床に倒れたままの体勢で首だけ動かしてドラコを見ながら言うと、
﹁善意でしてくれてるのは分かりますが、せめて一声かけてください﹂
?
!
154
?
・
・
・
本当は高所恐怖症なのもあったのだが、言う必要はないだろう。
﹁はぁ、なぜか疲れました、寮に帰ります。また会いましょう﹂
﹁ほんとに悪かったって。それじゃ、またな﹂
ドラコに手を振って別れると、寮に向かう。
一刻も早くこの場から離れたかった。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼ハーマイオニー視点∼
ようやく先生方から解放された。
そもそもの事の発端は、私達三人がゴーストの絶命日パーティーに
呼ばれたことだ、
何で行ってしまったのだろうか、ゴーストたちのパーティーで出さ
れた腐ったナニカを食べるわけにもいかず
お腹をすかせて急いでパーティーに向かっていたが、その途中で石
のように固まったフィルチの飼い猫を見てしまった。
第一発見者になってしまったのだ。すぐに他の人が集まり、大騒ぎ
となった。
その後、先生方に捕まり、事情を話していた。結局何も食べられな
かった。
ため息をつくと、寮に向かっている時、何か重要なことを忘れてい
る気がした。
そうだ、クロアだ、確かクロアとドラコの焦った声が聞こえた。何
かあったのだろうか。
不安に駆られて、寮に向かう足が速くなる。
クロア自身はいまだ悩んでいるようだが、彼女は間違いなくクロア
だ。
またあの時のように泣いてはいないだろうか。
ドラコのやつ、クロアを泣かせたらぶん殴ってやる。
155
﹁クロア
﹂
ドアを開けながら叫ぶ。
部屋の中にあったのは、勉強用の机で本を近くに置いたまま、腕を
枕に寝ているクロアだった。
身体から緊張が抜けていくのが分かる。
心配して損したかもしれない。
もうルーが自由に出入りできる以上そこまで大事になることは無
いだろう。
﹁ルー、起きてるんでしょ、せめてベッドまで動いてあげて﹂
クロアとルーの話だと、壁、とやらが壊れてからは意識と痛覚が身
体と連動しなくなったらしい。
﹂
﹂
壁がなくなったという割に、二人の間に距離ができていっている気
がする。
まるで独立していくかのように。
﹁えー、クロアが目を覚ました時に驚くよ
それにしても、ルー、この人は本当に謎だ。
﹁ねえルー、クロアの事はやっぱり教えてくれない
﹁んーダメだよ、フライングしちゃあ、
きっとすぐに分かるよ。そう遠くないうちに﹂
最近見ることが増えたその表情はいまだに違和感を覚える。まる
クロアとルーが独立してからルーが表に出ることが増えたせいか、
いつものようにルーは私に完璧な笑顔を向けてくる。
?
?
156
!
で用意されたかのような気がする。
﹁それじゃあ、あの時何であんなに挙動不審だったの
あなたの事なのに
﹂
﹁それもクロアにかかわる最重要機密だよ﹂
﹁クロアに
﹂
?
だろうか。
想像したら少しだけ幸せな気分になれた。
﹁うーん、まあそうだね。ってあれ、起きたの、寝ててもいいんだよ
クロアが起きたのだろうか。
しまう。
﹁ルーの言う通り寝ててよかったのよ
まだ夜だし﹂
﹂
まだ夜中なのだが、眠たげにそういうクロアが面白くて吹き出して
マイオニー﹂
﹁そう、分かった、ちょっと待ってね....おはようございます。ハー
?
そしたら、いつもの不機嫌顔でため息を漏らして私に愚痴を言うの
例え本人に煙たがられても付いて行ってやる。
りはない。
いや、そんなことは知らなくたって私はクロアの親友をやめるつも
クロアは記憶が戻った時、私に秘密を教えてくれるだろうか。
クロアとルー、どっちの事も私は知らなすぎる。
?
﹁......ハーマイオニー、聞いてください、重要な話があります。﹂
?
157
?
私の言うことを無視してそういうクロアの顔がまじめで、少し気圧
される。
慎重に頷くと、クロアは私の目を真っ直ぐに見ながら口を開く。
﹁私はいまだに私が誰か、という疑問に結論が出ていません。
ハーマイオニーは私をクロア、と言いドラコは私は私、と言います。
私からしたらどちらも大切な人からいただいた大事な意見です。
なので、まだ自分で確信できるまで悩もうと思います。
それで、もし、私が、クロアではないのなら、
....クロアにそれ以上言わせないため
私はきっと、このか........またまた登場だよ﹂
ルーなのか
﹁ダメだよ、それは絶対に、許さないし、させないよ。
い表情だったのを思い出す。
あの時のルーの表情がいつもと打って変わった、濁った何も映さな
少なくとも喜ばしい事ではないのだろう。
気と、ルーの言動から
彼女はどうするのだろうか、話す前の彼女の意を決したような雰囲
がそうだと勘違いしたら、
もし彼女がクロアではなかったら、万が一にもあり得ないが、彼女
クロアはあのとき何て言おうとしたのだろうか、
ルーはそういうと、そのままベッドに行き、寝てしまった。
く考えてね﹂
悪いけど、そこでよく考えてて。反省しろ、とは言わない、でもよ
なんでそう思うか、予想もつく、でもね、それだけはさせない。
あなたが何を考えてるかなんて私が分からないわけがないの。
?
やはりクロアの隣で彼女を護ってあげられるのは私の仕事だろう。
明日から頑張ろう。
そう決意して私もベッドに入る。
158
?
16話 バジリスク
∼クロア視点∼
暇だ。何が﹁考えて﹂だ、考えた結果の事なのに今更何を考えると
いうのだ。
......いいや、もう寝よう。考えるとか知ったことか、寝てしまえ
ば時が解決してくれることもあるだろう。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
︵反省してるので身体を返してください︶
<だめ、反省どころかずっと寝てたじゃん>
159
︵そのことについての反省です︶
<ならなおのこと返すわけにはいかないよね>
︵ならすべて反省しています︶
<そんな棒読みで言われてもね>
︵というかそもそも私からいつでも身体を奪えるなら怪しい動きを見
せた時に奪えばいいじゃないですか︶
<そうじゃなくて、私はあなたに反省してほしいの>
>
︵この際なのではっきり言わさせてもらいますが、反省する気はあり
ません︶
<そんなこと言われたら余計に返すわけにはいかないよ
?
私たちは真っ黒な部屋の中にお互いのほうを向きながら立ってい
た。
部屋は暗いわけではなく、真っ黒だ、なのにはっきりと見通せるそ
んな不思議な場所だ。
ところどころ、血管の中を血が通るかの様に部屋の壁を白い筋が通
る。
ここは、ルー曰く、ルーの中、と言っていた。
もちろんルーに身体は無いので、ルーという人格の中、つまり精神
の中なのだろう。
なんでも、部屋の外観以外の内装などは自由にいじることができる
ようだ。
そんな部屋のなかで、私は目深にフードをかぶって顔を隠すルーに
手錠で拘束されて、お説教を受けていた。
︵でもこんなことしたって私の意見は変わりませんよ︶
<......分かった、でもその代わりその時は私にも相談して、絶対に
止めるから>
私を拘束していた手錠が消える。
︵分かりましたけど、次からはもう少し穏便に解決しましょう︶
ル ー に こ の 部 屋 の 事 を 紹 介 さ れ て 好 奇 心 か ら 入 っ た の が 間 違 い
だった。
﹁ん....﹂
目を開く。
160
﹁近いですよ。ハーマイオニー﹂
涙目のハーマイオニーが私の肩を握って私を見つめていた。
﹁クロア....心配させないでよ﹂
﹂
ああ、はたから見たら急に眼をつむって床に座って動かなく
そういうと、ハーマイオニーは床に座り込む私に抱き着く。
心配
なったように見えるのか。
﹁どのくらいこうしてました
﹁20分ぐらいよ﹂
涙声でハーマイオニーはそう言う。
20分、私がルーの精神の中にいた時と体感時間では経過した時間
は同じだ、ということは別に精神の中だからといって、
時間の進みが速くなったり遅くなったりするわけではないようだ。
﹁すいません、心配をおかけしました。ルーと少し話してました﹂
さすがにルーに監禁されてた、とは言えず少しぼかして言う。
﹁もう、そういう時は私にも教えてよ、急に崩れ落ちるから心配した
じゃない﹂
﹁すいません、私も急だったもので﹂
まあ、嘘は言ってないかな。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
161
?
?
∼クロア視点∼
﹂
クリスマス休暇が明けた。
﹁日記、ですか
﹁ええ、会話ができる日記よ﹂
﹁それが、盗まれた、と﹂
ハーマイオニーの話を聞いていると、何やら不穏な話になった。
なんでも、ハリー達の部屋から日記が盗まれたのだとか。
それもただの日記ではなく、その日記自体と会話ができるモノだ。
その特性と部屋中が荒らされているにもかかわらず被害はそれだ
け、
間違いなく犯人は日記がお目当てだったのだろう。
なら私は心配する必要はなさそうだ、私もハーマイオニーも部屋に
﹂
高価なものは置いて無い。
﹁売却目的ですかね
﹁そう
﹂
?
私からしたら不気味なだけよ﹂
のか気になりませんか
﹁私は少し興味がありますよ、話せる日記なんてどうやってできてる
思わないけど﹂
﹁どうでしょうね、わざわざそんなことをするほどの価値があるとは
?
るものだ。
162
?
不気味、確かに怖いかもしれないが、人との交流は、割と安心でき
?
﹂
﹁そういえば話は変わるけど、サラザール・スリザリンの継承者って誰
か知ってる
サラザール・スリザリンの継承者、確か最近話題になっている石化
事件に関連したことだろう。
﹁いえ、私は知りません。それと、おそらくドラコも違います。あの猫
が石化したときは私が彼といましたから﹂
﹁そう、ごめんね。なんかクロアの友人関係を利用するようなことし
て﹂
﹁いえ、構いませんよ﹂
申し訳なさそうに謝ってくるが、別にそこまで気を遣わなくてもい
いと思うが....
やはり昨日の事が関係しているのだろうか。
....もし私がクロアではなかった場合の話。
もしそうなら私はこの身体にいるべきではないと思う。
だから、その時は当初の目的通りこの身体から出ていこうと思う。
方法は、まあその時に探せばいい。
ちなみに当初の候補にあった私自身の消滅はナシだ。
理由は単純、私に過去の記憶はないが、少なくとも今の私の記憶は
失うには惜しいものだからだ。
予定ではゴーストのように、精神体として生きる、というのが一番
理想的だろう。
ただ、生きながらにして幽霊になれるのだろうか、やはり方法を探
﹂
163
?
さねばならないだろう。
﹁クロア
?
﹂
す こ し 考 え す ぎ て い た よ う だ。ハ ー マ イ オ ニ ー に 心 配 さ れ て し
まった。
﹂
﹁いえ、なんでもありませんよ﹂
﹁そう......本当に
﹁はい、ほんと....なんでしょうか。この音﹂
蛇、蛇、蛇と言えば、パーセルマウスって知ってる
耳を凝らせばシューシューと壊れた笛のような音とが聞こえる。
﹁蛇....かな
﹁知ってますよ、蛇語を話せる人のこと、でしたっけ﹂
というとハーマイオニーは複雑そうな顔をしながら、
もの、らしいですね﹂
﹁そして、サラザール・スリザリンと、その継承者のほとんどが使える
そして蛇語を話せる者の特徴は
前からある知識だろう。
どの本かは分からないが、知識としてはあることから、記憶を失う
?
?
リー
ということはまさか....ハリーが
﹁実はね、ハリーがそれなのよ﹂
ハ
メガネが
?
なるほど、話がだいたい予測出来てきた。
164
?
﹁あ、いや違うのよ、ただ、周りの人はそうは思わないらしくてね﹂
?
﹂
﹁ハリーがうっかり使ったパーセルマウスのせいで周りから疑われて
いる、ということですか
﹁うん.....そうなのよ﹂
ハ
リー
それは....自業自得ではないのか。こんな状況で蛇語を披露すれ
ばどうなるか等予想ができそうなものだが。まあメガネだし仕方な
いのかもしれないか。
<クロア、蛇が近づいてきてるよ、噛まれないように気を付けてね>
︵ああ、分かりました。毒蛇に噛まれてそのまま死ぬ、なんて冗談じゃ
ないですからね︶
﹂
﹁ハーマイオニー、蛇がちか....<クロア‼この気配は明らかに普通
の蛇じゃない‼>どういうことですか
た。
>
!
<これはたぶん....バジリスク
代わるね
ハーマイオニーにルーから聞いたことを言おうとしたが、妨害され
?
その一瞬が遅れれば命取りだ。
私とルーは一瞬では入れ替われない、微妙にタイムラグがある。
右半分を右手で覆う。
そう頭で思考しながらも、私はハーマイオニー抱き着きながら顔の
どちらも一瞬が致命的だ。
見るだけで死ぬ目、噛まれれば即死であろう牙。
その最大の特徴は、目と牙だ。
背筋がゾッとする、バジリスク、確か蛇の変異種だったはずだ、
!
165
?
私の意思を汲んだルーは入れ替わった直後、
﹁﹃セパレーション‼﹄ハーマイオニー、じっとしてて﹂
直後、私たちの周囲を陰に包まれる。
間一髪だ、もう少し遅れていたら私もハーマイオニーも今頃は仏様
だろう。
陽炎のように歪んだ分厚い膜のようなものが私たちを覆っていて、
その上からバジリスクが口を大きく開けているが、膜に阻まれて止
まっている。
この魔法は何
大丈夫な
﹁ハーマイオニー、あれがバジリスク、たぶん石化事件の実行犯だよ﹂
そ、それより、クロ....ルー
?
﹂
﹁あれ、が
の
?
﹁え、その間ずっとこの体勢
?
よ﹂
まさかルーが作ったのか
どうやって
?
作った
?
﹁うん、この魔法、基本的に一人用に作ったからそんなスペースない
﹂
﹁まあ、少なくとも朝になる前にはあきらめるはずだよ﹂
﹁うん、このまま誰かが気づいてくれるのを待つよ﹂
﹁それって......﹂
し、こちらからあっち側に干渉もできない﹂
﹁微妙、まず絶対に壊されはしないけど、膜を動かすことはできない
?
?
166
?
﹂
?
だろう、私だけの視界
﹁あ、ハーマイオニー、そっちから主犯見えない
向き合っている私達の視界はほぼ360
......え
そんな、はず..は、ないわ....﹂
は、上にはバジリスク、他は誰もいない。
﹁いたわ
﹁だれがいたの﹂
°
﹁ハーマイオニー
そいつはもしかしたら、生徒を何人も石にしてき
否定しようとしている。
どうしたのだろうか、ハーマイオニーは見えたはずなのに、それを
?
﹁誰
﹂
﹁で、でも、だって。あのこは﹂
たやつかもしれないんだよ﹂
!
﹁あ、逃げてった﹂
分が悪いと判断したのか、バジリスクは逃げていった。
﹂
﹁え、ええ、そうね﹂
﹁もう大丈夫かな
と言い、ルーが顔から手を外すと、膜が消える。
?
167
!
ハーマイオニーが、なかなか言おうとしない。
?
﹁それで、主犯はだれだったの
分からない。
ロンの妹
襲う
一年生か
﹂
なぜ一年生がバジリスクを使役して生徒を
﹁ジ、ジニー。ジニー・ウィーズリーよ、ロンの妹﹂
?
日記
︵ルー、分かりますか
ありません﹂
らも膜に傷一つ入っていませんでした。それに杖を使用する必要が
﹁はい、ルーの魔法です。私は二回しか見たことはありませんが、どち
少々露骨な話題逸らしだが、まあ乗ってあげよう。
なのね﹂
﹁あ、ありがとう。あの膜の上からならバジリスクの目を見ても平気
﹁....はあ、疲れました﹂
まあ、そうなるだろう。
は分かったよ>
<動機はさっぱりだけど、ジニーが石化事件と、窃盗事件の犯人なの
︶
ますますわからなくなる。
﹁それに、あの日記を持ってた﹂
?
実質かなりの性能だと思う。
168
?
?
?
?
﹁杖を
それであの硬度ってもう反則じゃない﹂
私もそう思う。
というかあのルーが絶対の自信を持っていた魔法だ。
もしかしたら単純な障壁ではないのかもしれない。
﹂
﹁まあ反則でもなんでも助かったのでいいです。
それで、今あった事はどうするのですか
﹁ありがとう﹂
﹁構いませんよ﹂
まあ、彼の妹なら仕方ないか。
﹁えーと、ロンに相談してからでもいい
﹂
うがいいだろう、と思い直したため、こうして遠回しに聞いてみる。
最初は忘れたフリをしようとも思ったが、口裏を合わせておいたほ
遠回しにジニーの事を先生に言うかどうかを聞く。
?
こと、忘れないでよ﹂
私の魔法とクロアの機転が無かったらあなたはもう死んでるって
さ、
﹁ねえ、クロアが無事だし、クロアも許したからあんまり言わないけど
口から出たのは。
口を開き、寮に帰りましょう。と言おうとしたが、
?
まあ、これぐらいなら言ってもいいだろう。
169
?
﹁と、言うことらしいですよ。それでは、寮に帰りましょう﹂
﹁うん、分かってる﹂
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
今日はいろいろと疲れた、部屋に帰るとさっさと寝ることにする
が、
今日の思い出が頭をよぎる中、どうでもいいことが気になる。
なんでルーの精神の中にいるときにルーはフードを被ってたんだ
ろう。
それも顔全体を隠すように、別に同じ顔だとしても気にしないの
に。
まあいいか、もうあそこに行く気はないし。
くだらないことを考えていると眠気が私を襲う。
うん、疲れてる時に無理に考えるモノじゃないね。
私が睡魔に身を任せると、
すぐに意識は霧散していった。
170
17話 ルーの錯乱
冗談はよしてくれ。ジニーがそんなことするわけないじゃない
∼クロア視点∼
﹁は
か﹂
﹁でも、私は見たのよ、彼女が日記をもって、バジリスクに蛇語で指示
を出してたところを﹂
私たちは、ロンに昨日見たことを話していた。
﹁見間違いか何かだろ﹂
﹂
﹁なら、ジニーが日記を持っているか確かめればいいじゃない﹂
﹁....そう、クロアに言われてるのか
ん、私
?
﹁クロアがそんなことするわけないじゃん
﹁正確には私が守ったわけではありませんが﹂
かったら今頃私はここにはいないわよ﹂
むしろバジリスクから守ってくれたわよ、クロアに守ってもらわな
!
嫌われていたのか、そういえば前に﹃裏切者﹄って呼ばれたっけ。
ンは明らかに私を避けていたような気もする。
......そういえば私がドラコと仲良くするようになってから、ロ
﹁クロアがそういえって命令してるのか、お前に﹂
?
171
?
私じゃなくてルーだろう。
﹁それならむしろクロアが怪しいだろ、なんであのバジリスクから守
れるんだ、
言ってみろ﹂
﹂
バジリスクから私を守ってくれただけじゃない
ドラコにそうするように言われたのか
全部ジニーを犯人に仕立て上げるために仕組んだんじゃないのか
ドラコか
﹁なんでそうなるの
﹂
﹁ならどうやって守った
のよ﹂
﹁ギリギリなのは、来るのを分かってたからなんじゃないのか
かって攻撃したのかを確かめてやる﹂
﹁ふん、なら今ここで使ってみろよ。バジリスクが本気でクロアに向
﹁杖を使わない魔法よ﹂
そもそもそんなタイミングで杖を出してることのほうが怪しいな﹂
?
﹁それは、確かバジリスクに噛まれるギリギリで魔法を使ってくれた
?
確かにそれなら確認できるだろう、ただロンがバジリスク並みの攻
撃力を持っているとは思えないが。
︶
?
で、できるよ。たぶん....>
︵ルー、出来ますか
<ふぇ
?
172
?
?
?
?
!
︵何か問題でもあるのですか
ロン
︶
ルーの弱点はロンなのか
してやるよ﹂
︵それでは、お願いします︶
﹁﹃セパレーション﹄で、できたよ﹂
のような雰囲気だ。
怯え方が尋常じゃない、まるで傷に刃物でも突きつけられているか
という様子で、聞こえてない。
ハーマイオニーが心配そうに声をかけるが、顔を押さえるのに必死
﹁ど、どうしたの、ル..クロア﹂
分を押さえている。
左手でハーマイオニーにしがみついて震えながら、右手で顔の右半
ルーは、
や は り ル ー は ロ ン が 怖 い の だ ろ う か。上擦 っ た 声 で そ う 言 っ た
うわず
﹁ふん、いいさ。なんで近づいたらいいけないのかは、聞かないことに
ね﹂
﹁そう、だったらロン、あなたは遠くから魔法で攻撃でもして確かめて
﹁ロンが近づかなければ問題なく使えるようですよ﹂
?
<えっと、ロンが近づかなかったら問題はないと思う>
?
﹁﹃イ ン セ ン デ ィ オ﹄、﹃エ ク ス ペ リ ア ー ム ス﹄、﹃ス テ ュ ー ピ フ ァ イ﹄、
173
?
﹃ディフィンド﹄....ああもうめんどくさい、バジリスクは魔法なん
て使ってこないだろ﹂
魔法が膜に触れると消滅して、効果を示さないことに苛ついたの
か、ロンこちらに歩み寄ってくる。
﹁や、やめてっ﹂
近づかないって言ったじゃない﹂
私の口から洩れる小さな叫び。
﹁ロン、約束が違うわ
それにただならぬ雰囲気を感じたハーマイオニーがロンに抗議す
る。
﹁でも、バジリスクの攻撃を耐えられるほどの強度があるかは物理攻
撃じゃないと分からないだろ﹂
そういって拳を振り上げるロンが、視界に写ると、
﹁いやあああああああああああああああああっ﹂
悲鳴を上げ、ルーは頭を両手で抱えて床にうずくまる。
当然、顔から手を離したことで膜は消え、私の身体はハーマイオ
ニーにしがみついてた位置から床に動いたため、
私のいたあたりを殴ろうとしたロンの拳はハーマイオニーを直撃
する。
﹁え....﹂
ロンもまさか膜が消えるとは思っていなかったようで、
174
!
床にうずくまったまま、小さな声で﹁やめて、いやだ﹂と、うわご
との様につぶやき続けるルーと、殴られた箇所を押さえながら床に座
り込むハーマイオニーを見て、
ようやく現状を理解したようで、顔がみるみる焦燥に染まってい
く。
その様子を見た生徒が集まり、いつの間にか、私達の周りに大勢の
気配がする。
︵ルー、代わってください、今のあなたは正気ではありません︶
と代わるように要請しても、ルーからの返事はない、さっきから
ずっと錯乱したまま震えている。
ハーマイオニーがルーに呼びかけても変わりはない。
そんななか、
かったはずなの
........ドラコ、クロアから彼女の事、どこまで聞いてる
﹂
?
175
﹁ウィイイイイイイズリイイイイイイイイイ‼﹂
﹂
ドラコの憤怒に染まった大声がする。
﹁クロアに何をしたぁ
﹁ふざけるな
明らかに様子がおかしいだろっ﹂
﹁ち、違う、急にこうなったんだ。ぼ、僕は....﹂
外の情報を得る手段は視覚以外だ。
ルーはいまだに床にうずくまったまま目をつむっているため、私が
!
﹁ドラコ、落ち着いて。私から見てもここまでなるの怯える理由は無
!
だったか、そいつの事なら聞いたぞ﹂
ルーの事を遠回しに聞いているのだろう。
﹁ルー
﹁そう、今クロアの身体を動かしているのはルーよ、私もクロアも、
ルーの事はあまり知らないけど、たぶん、別の理由があるんだと思う
の﹂
とりあえず僕はクロアを医務室に運ぶ、その間にそっち
ドラコの舌打ちが聞こえた。
﹁本当だな
・
・
・
・
しそうになる。
その何も映さない片方の目と片側の顔が恐ろしくて、つい目を逸ら
左半分は、むしろ、異常なまでに何かに怯えたような顔をしていた。
黒な目だったが、
顔の右半分は何も映さない完璧なまでの無表情に、光を映さない真っ
・
そして、その表情が見えた瞬間、ゾッとする。
ハロウィーンの時も思ったが、見た目以上に軽い。
しゃがみこんで、クロアをそのまま抱き上げる。
違う雰囲気だ。
一瞬、クロアと初めて会った時の様子を思い出すが、よく考えれば
る。
床にうずくまって、小さな声で何かをつぶやき続けるクロアを見
∼ドラコ視点∼
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
そういうと、私に近づく足音がする。ドラコだろう。
の問題も解決しておけ﹂
?
医務室に着くと、マダム・ポンフリーに、医務室から追い出された
176
?
ので、
仕方なく廊下で待つが、クロアの小さな声が、医務室の中から聞こ
えてくる、
いや、これはさっきからずっと聞き続けていたせいで、耳に残って
いるだけか
﹃いやだ﹄
﹃やめて﹄
﹃いやだ﹄
﹃やめて﹄
﹃いやだ﹄
﹃やめて﹄
﹃いやだ﹄
﹃やめて﹄
うわごとの様に繰り返され続けていた言葉だ。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
何があったのかは僕には分からないが、尋常じゃないことは分か
る。
それにしてもルー、か初めて表にいるのを見たな。
クロアの言ってたような性格には見えなかったが....まあ錯乱し
てたからかもしれないか。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
︶
医務室に運ばれてから、どのぐらいたっただろう。
<ごめんなさい>
︵落ち着きましたか
<ごめんなさい>
のですが︶
︵謝るぐらいなら、何であんな事になったのか、教えてくれると助かる
一口目に謝ってくる。
<うん....ごめん。本当にごめんなさい>
?
177
?
教えてはくれないようだ。
︵まあいいですが、もともと教えてくれるとは思ってませんでしたし。
それより、次からは無理しないでくださいよ︶
<......ごめんなさい>
いつの間にか私が身体を動かせるようになっていた。
マダム・ポンフリーに一言告げて、医務室を後にする。
﹂
今は......夜か、探せばハーマイオニーやロン、ドラコはいるだろ
うか。
﹁クロア、もう大丈夫なのか
まさかずっと待っていたのだろうか。
私たちがロンと話していたのは確か昼だったはずなので....およ
そ6,7時間は待っていたことになるのか
ルーは助けられなかったかもしれませんが、私は助けられました﹂
﹁いえ、あの時は私ではなくルーが表に出てたので、
もできなかった﹂
﹁いいんだ、それよりごめんな、僕が助けるって言ったはずなのに、何
今思い出すとなかなか恥ずかしい、ルーのせいだ。
います﹂
﹁はい、大丈夫です。それと、医務室まで運んでくれてありがとうござ
来た、とかなのかもしれない。
いや、ずっと待っていたとは限らないだろう。もしかしたらさっき
?
178
?
﹂
事実、あそこから医務室に運んでくれたのは、助かった。
恥ずかしいが。
﹁そうか、ならよかったが、....それで、何があったんだ
﹁私にもあまり分かりません、ルーに聞いても教えてくれませんでし
たし。
これは予想ですが、ルーはロンに対してかなり怯えていましたか
ら、
私が記憶を失う前に何かあったのかもしれません﹂
﹁そう、か、それじゃあ、今日はもう遅いし、寮に帰るか。送るよ﹂
﹁そうですね、助かります﹂
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
談話室にも部屋にもハーマイオニーはいなかった。
というか、歩くたびに周りの視線が痛いので、急いで部屋に帰った。
することもないので、とりあえず、溜まってる本を読むことにする。
││ゴースト、あまり詳しくは分かっていないが、ゴーストになる
には、死んだ時点で、現世への強い未練と、死への恐怖が必要らしい。
身体を構成するものは魔力に似た霧状の謎の物質
つまり死後のみしかなれない様だ。
ふと、ハーマイオニーの話を思い出す。
日記、確か会話ができるんだったか。
どうなっているのだろうか、もし日記自体に魂が組み込まれてい
て、それと会話するのなら、
179
?
私の魂を何かに入れれば、この身体から出て、別の器で過ごすこと
はできるのだろうか。
﹂
﹂
なら日記の入手も一応の目的の一つかな。
﹁あらクロア、いたの
ん、ハーマイオニーか。
﹁遅かったですね、何してたんですか
﹁先生と、ちょっとね﹂
まああれだけ大事になったのだ、教師を交えてのお話会は当たり前
か。
﹂
それと気になることがもう一つ。
﹁ロンとはどうなりました
﹁ジニーの事は
﹂
一応、とついているあたり、本心は分からないのかもしれないが、
われたわ﹂
﹁一応、謝ってはくれたし、クロアにもごめんって伝えてくれ、とも言
?
やはりそうだろう、というかバジリスクの話をそもそも信用してく
れるのだろうか
﹁大体は分かりました。ですが、こちらの方は全く分かりません。ご
180
?
?
﹁先生の前では話してないわ﹂
?
めんなさい﹂
ルーも教えてくれてもいいだろうに。
﹂
どういうことだろう
﹁ううん、それは分かってたからいいの、それよりクロア自身は大丈夫
なの
私自身
﹁ああ、えっとね、ルーが表にいたから様子が分からなかったから、
一応聞いてみただけよ、平気なら別にいいの﹂
アザ
ああ、別に私自身が暴力を振るわれたわけではないし、別に問題は
ないだろう。
それを言うならむしろ、
﹁ハーマイオニーの方こそ大丈夫なのですか
﹁ほら、そんな事より、見てよこれ﹂
......それはつまり痣にはなった、と言うことだろうか。
わ﹂
﹁全然平気よ、マダム・ポンフリーにもらった薬で痣も残らなかった
ごめんなさい、私のせいで殴られてましたよね﹂
?
ハーマイオニーが手に持っているものを私に見せる。
﹂
なんだろうか、
﹁パイですか
?
181
?
?
﹁うん、クロアは昼からずっと寝てたなら夜ご飯、食べてないんでしょ
﹂
そういわれて、空腹を認識したら止まらなくなる。
首を縦に振って頷くと、ハーマイオニーからパイをもらう。
パイを食べてる最中、ずっとハーマイオニーに見られていたが、
極力気にしないように食べる。
﹁ごちそうさまです。それと、ハーマイオニー、見られてたら食べづら
いですよ﹂
﹁ごめんなさい﹂
楽しそうにそう言われる。反省の色はない。
ため息をつく。
﹁ごめんって、だってクロアのパイを見た時の表情がすごいキラキラ
してたからつい﹂
つい、って......まあいいや、空腹を満たしたら眠くなってきた。
ささやかな仕返しに、ベッドに行き、枕をハーマイオニーに投げつ
けて、そのまま腕を枕にして寝ることにする。
﹁おやすみなさい﹂
﹁おやすみ﹂
182
?
18話 クロアとルーの過去
∼クロア視点∼
あれから数か月たち、あと一か月ほどで期末試験だ。
ロン達とは変わらず、避けられるし、私も避けている。
そして、もう少しで試験なのもあり、ホグワーツをふらふらと散歩
する人はあまりいない。
今年はルーが代わりに実技をしてくれるらしいので、去年ほど勉強
をする必要はない。
杖は私を認識しないくせにルーは認識するのだ、理由を聞いてみて
も、もちろん教えてはくれなかった。
別に私はハーマイオニーと違い、高得点を狙うわけではない。
ただ落第しなければいいか、程度の認識だ。
そんなわけで、私は絶賛ホグワーツを散歩している。
あの本、どこかで....﹂
183
そんな中、視界の端に小さな黒いモノが映る
﹁あれ
いるのか
いし。
いや、ハーマイオニーならこれが何か知ってるかな
てみよう。
これが何か分からないと私もモヤモヤするし、今度会った時に聞い
?
まあいいや、落とし物ならどこかに届けたほうがいいのかもしれな
なんて特徴がある本なんて一度聞いたら忘れなさそうなものだが。
そもそも何も書かれてないのに古ぼけた見た目の本、
?
何も書かれていない。何も書かれていないのにこんなに古ぼけて
る。
どこかで聞いた気がする。好奇心から、本を手に取って、開いてみ
古臭い見た目に真っ黒な本。
?
<ねえ、その本、何
>
びっくりした、あの時から全く話しかけてこなかったから、とても
久しぶりな気がする。
︵廊下に落ちてました。たぶん、誰かの落とし物ですね、気になるの
︶
で、これが何か分かるまで持っておこうと思いました。あ、ルーはこ
れが何か分かります
感じがする>
いや、確かに古臭いし、見方によっては汚いのか
<いや、でも、なんていうか、その、汚い
汚い
︶
︵どういう風に、ですか
<んーと、赤黒い
よく分からない。感覚的な話だろうか。
︵別に害がある、という訳ではないのですよね︶
<大丈夫、もし害があっても護るから>
そういう訳じゃないのだが、
︵分かりました。一応頭には留めておきます︶
思う>
<でも、やっぱり気持ち悪いから、早く捨てるに越したことは無いと
?
?
そんな感じかな>
穢れ
?
?
まあ、よくわからない理由だし今すぐ止める理由にはなるまい。
184
?
?
?
?
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
いそ
部屋に戻ったが、こちらに脇目も振らず勉強に勤しむハーマイオ
ニーを見てると、
なかなか話しかけることができない。結局次にハーマイオニーが
﹂
休憩したときに聞こうとして、そのまま夜が訪れた。
﹁ハーマイオニー、今いいですか
﹁ん、なに
すか
﹂
﹁えっと、これなのですが、今朝、廊下で拾ったもので、何か分かりま
﹂
めたハーマイオニーにおずおずと話しかける。
そして、休憩の代わり、と言わんばかりに、目をつむって瞑想を始
?
﹂
そもそもどうやって会話をするのだろうか。
﹁これは....ほら、前に話したじゃない、会話ができる日記よ﹂
これが
﹁これが....会話を
﹁ほら﹂
ハーマイオニーに日記を渡すと、何やら書き込みだした。
﹁ええ、ちょっと見せて﹂
?
?
185
?
古ぼけた本を見せる。
?
そういい、私に日記を差し出してくる。
﹄
日記の空いたページを見ていると、文字が浮かび上がってくる。
﹃あなたは誰ですか
﹃あれ
﹁クロア
﹂
違和感は拭えない。
そう言われ、ハッとして日記を放り投げるが、手遅れだ、身体から
<クロアっ、それを捨てて、早く‼>
なんだろう、何かが..おかしい気がする。身体に違和感がある。
君って、もしかして......﹄
そう書くと、
﹃私はクロアです﹄
だろう。
とにかく会話のやり方は分かった、本に書き込むと、返信が来るの
私への皮肉のつもりだろうか、私だって知りたい。
?
そう、少しの間、入れ替わったルーがそう言う。
に﹂
﹁よく聞いて、クロアもね、その日記を壊す方法を探してきて、今すぐ
ハーマイオニーが私を不思議そうに見ている。
?
186
?
﹁ハーマイオニーはどうしますか
を探します。どうせ暇ですし﹂
﹁クロア、何があったの
ら、
私は言われた通りこれを壊す方法
私は、私の精神の中で、私の目の前に立つ赤黒い靄のような存在か
の日記を捨てておくべきだった。
これは不味いことになった。私のせいだ、あの時有無を言わさずこ
今まで順調だったせいで、完全に気が抜けていた。
くそっ、油断してた。
∼ルー視点∼
さて、どうしようか、マクゴナガル先生あたりに聞こうか。
﹁ありがとうございます﹂
﹁分かったわ、私も手伝うわ﹂
思います。﹂
それに、ルーが相当焦ってました。たぶんそれなりにまずいのだと
﹁私も分かりませんが、日記を持ってから、身体に違和感があります。
﹂
ハーマイオニーは少し悩む素振りを見せて、
?
﹂
クロアの身体、いや、ここだとクロアの精神体か、を隠すように間
に立つ。
﹁あなたは何
187
?
クロア達が日記を壊すまでの時間稼ぎだ。質問を投げかける。
?
﹃僕は、君が何なのか気になるな﹄
・
﹂
・
・
・
・
脳に直接響くような中性的な声がする。
・
﹁まあいいや、なら何の目的
隙間
体だから、違う
﹂
﹁あなたが私たちの身体の中に入れたのは、あなたも私たち同様精神
まさかこいつ....私たちの身体を乗っ取ろうと......
﹃いや、たぶん僕なら、君たちの隙間にピッタリとハマれるからね﹄
?
﹂
の右半分を覆う。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
私は、右手を上げ、全体の髪のうち、右半分が真っ白な髪を持つ、顔
ところ大丈夫だ。
万が一は、まあ私の唯一の欠陥がバレることかもしれないが、今の
ることはできないだろう。
その間にクロア達が日記を壊せば、こいつはここに精神体を維持す
もかく、この空間なら実質無限に稼げる。
私の魔法があればいくらでも時間稼ぎができる。特に、現実ならと
きなくとも、
だが、時間稼ぎなら、こいつがいる以上この空間を自由に操作はで
くそ、まさか私たちの中に入れる奴がいるとは思わなかった。
るから、だよね
﹁あなたがいるのは、あなたがさっき言ってた私たちの隙間、それがあ
普通は人の身体にホイホイ入れはしないさ﹄
﹃ああ、そうだよ、それからもう一つ言うなら、精神体だからと言って、
?
?
188
?
﹁﹃セパレーション﹄﹂
私が、私の後悔の証たる魔法を行使すると、後ろにいるクロアの精
神体ごと膜で覆う。
﹁あきらめて、私たちの身体と、クロアは私が護るって決めてるの、絶
対に渡さないよ﹂
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
陽炎のように歪んだ膜の奥で、靄がこちらに近づいて、膜に触れる。
﹃これは....意志の魔法か厄介だな﹄
﹁へえ、物知りだね﹂
・
君も才能みたいだね
﹂
でも、僕はそれを上回る才能があった、ってことだね﹂
マズイ、それはイコール私が機能しなくなる。
マズイ、マズイ、マズイ
189
・
﹃ああ、僕は確かに物知りさ、だって僕は、
なんで......
君の弱点についても知ってる﹄
な、え
私に開心術
?
﹁そう、意外かな、僕は開心術の天才だ、君も閉心術が得意....いや、
!?
開心術、ってしってるかい
﹁いや、違うな、知ってるんじゃない、今、見たよ。
?
﹁そう、マズイね﹂
﹂
そう言う膜の外の靄は、だんだん形を持っていく。
マズイマズイマズイマズイ
﹁やあ、これが本来の僕の姿だ﹂
頭をよぎるのはあの頃の記憶
﹁ああああ、あ、あ、や、やめて、いや
﹁そう、君にとっては苦痛でしかないだろうね、なにせ押し付けたはず
なのに、いつの間にか帰ってきたモノだ﹂
ダメだ、気をしっかり保て、顔の右半分を覆うこの手だけは離した
らダメだ。
立てなくて、床に膝から崩れ落ちる。
﹁意志の魔法はその名の通り意志の力を魔法の力を源とする魔法だ、
なら僕がするのは君の意志を削ぐことだ﹂
﹁い....ああ....だ......めて...........﹂
ダメだ、考えるな、想像するな、今目の前にいるのは、靄だ、さっ
きのまま変わってなどいない。
私の耳に届く声が男性の声に聞こえるのは気のせいだ、そう言い聞
かせる。
﹁ふっ﹂
190
!
膜の外の少年は、自分の右手に作った手の平に、左手で拳を作って、
殴る。
パン
﹁ああああああああ、やだぁ、もうやめてよぉ、私が悪かったからぁ﹂
﹂
身体中に激痛が走る、殴られて等無いはずなのに.....
もうヤダ、何も考えたくない。
ナニもナニも......................
﹂
∼クロア視点∼
﹁ルー
なんだろう、とんでもなく嫌な予感がする。
﹁ハーマイオニー、日記を任せてもいいですか
口にしなくても何をするのか分かったのだろうか。
﹁ええ、任せて、あなたもルーの事をよろしくね﹂
?
頷くと、壁に寄りかかって座り、意識を集中するのは、
いつだったか入ったルーの精神の中だ。
191
!
?
﹁いやあああああああああああああああああ﹂
唐突に私の声がしてハッとする。入れたか
声の主を探して、
うりふた
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
私と瓜二つの見た目だが、その髪の毛はすべて真っ白だっ
﹁ルー‼大丈夫ですか、落ち着いて下さ..................﹂
いや、床に投げ出された右手に押し付けているようにも見える。
の顔の右半分に置かれている
もう一度ルーを見て気づく。ここまで取り乱してなお、右手はルー
周りを見て、膜がある。
た。
ルーか
居た。足元で床にうずくまったまま悲鳴を上げている。
?
ルーに触れたからか
ルーに駆け寄り、右手同様投げ出された左手に触れたところで、私
なぜ今
?
の中に何かが溶け出してくる。
これは......わたしの記憶
?
は........記憶
それも私とルーの分もだ。
ということは....ああ、それはマズイな。
﹂
いや、何かおかしい、よく考えろ....いまさっき溶け出してきたの
だからルーはさっきから取り乱しているのか。
憶を整理し終わった。
それより........ああ、そういうことか、やっと溶け出してきた記
?
﹁ルー、しっかりしてください、もう大丈夫でしょう
?
?
192
?
何でここに........﹂
くそ、本当に........厄介なことになった。
﹁え....ク..ロア
顔の右半分を押さえたままこちらを見るルーを見返しながら、
﹁ルー、あなたを護りに来ました﹂
﹁え、なんであなたがわた........あ....うそ、うそ..でしょ
・
・
﹁これが嘘だったらどれほどいいでしょうね、本当に﹂
﹁は、はは、あはは、私は....また失敗したんだね﹂
﹂
﹁はい、そうですよ。あなたはやっぱり使えませんね、あの頃から変わ
らない
さて、後悔はもういいでしょう。まずは目先の問題を処理しましょ
う﹂
﹁ごめんね、本当に﹂
・
せいぜい共有した程度で、心の奥深くに根付いたト
・
﹁いったでしょう、後悔はもういいです。それに、私はあなたを護りに
来た、と言ったと思いますが﹂
﹁あはは、そうだね、まずはこいつだ﹂
私とルーは陽炎の様にぶれた先にいる少年を二人で見据える。
・
193
?
?
ラウマを無視することが﹂
・
﹁できるのかい
?
・
・
・
・
・
・
・
・
・
﹁ちがうよ、そうじゃない。意志の魔法、護るべき対象がすぐ近くにい
るのに弱くなるわけないじゃん﹂
﹁そういうことです、諦めてください﹂
・
﹁ふーん、なら確かめてやるよ、その意志の力、とやらを﹂
﹂
そういうと膜の奥で、少年の姿がブレて、見覚えのある成人男性に
姿を変える。
﹁開心術ですか
﹁そうみたいだね﹂
おそらく私もルーも精一杯の虚勢だろう。
>
だって、この姿は......
<こいつが誰か分かる
・
・
・
・
・
・
・
・
・
︵はい、分かりますよ。マズイ、ですよね︶
・
ルーが左手で私の右手を握る。
?
﹁姿を見せただけでそれか
﹂
隣ではルーがすでに座り込んでいた。
・
・
・
唇を噛んで、できるだけ意識をしっかりと保つ。
・
・
・
・
頭をよぎるのは、記憶喪失前も持っていなかった私の記憶。
・
頭にルーの声が響く、ここでもそうやって会話できたのか。
?
194
?
これも聞き覚えのある声だ。
さっきからずっとトラウマを抉られ続けているルーにはきついだ
ろう。
私でさえ片膝をつく。だが、ルーに向き直すと。
﹁ルー、しっかりしてください、私はあなたを全力で護りますが、私を
護れるのはあなただけです﹂
・
・
・
・
ルーとつないだ右手からドズグロいモノが流れてくる。
これは....ルーの中で今生まれ続ける負の感情だろうか、なるほ
ど、この役割なら私らしい。
ルーも、私にルーの負の感情が流れて行っているのに気づいたの
・
・
か、その光を映さない真っ黒な両目に理性の色が灯る。
﹁ごめんね、クロア、あなたにまたこんな役割を押し付けて﹂
﹁その代わり、あなたは私を護ってください、ハーマイオニーに日記は
渡してあるので壊れるのも時間の問題のはずです﹂
そう、もう少しのはずだが....
﹁ふざけるなああああああああ﹂
﹁﹁ああああっ﹂﹂
ダメだ、まずい。ルーもそうだが、私も耐えられる気がしない。
思い出すなっ、クソ。思い出したらダメだ。
ルーの右手に私の額を押し付ける。
﹁お前のせいでっ、お前のせいでっ﹂
195
私の記憶と重なるそのセリフを引き金にさっきまで抑えていたは
ずの記憶が流れてくる。
ロープで結ばれた私の両手、痣だらけの身体、私を見る憎悪のこ
もった瞳、私に振り下ろされる拳、眼前に迫り来る足、
そして、身体中を包む激痛。
﹁ああああああああああああああああああああああ﹂
やだやだやだやだ
私を見る、いや、私に向けられた生気のない瞳、冷たい身体、腐っ
た臭い、母だったナニカ、
そして、その隣で同じく死んだように転がる私。
も う や め て っ、こ れ 以 上 見 た く な い、思 い 出 し た く な い、こ れ 以
上....痛いのはイヤ
止むことのない私への暴力、いつしか私を吐き出して、そのまま心
を閉ざしたもう一つの私。
突如止んだ私への暴力、空中で揺れ続ける私の両親の片割れの足。
数日後、私を引き取った祖父。
まともに接することができなかった。
196
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
祖父を見ると、いや男性を見ると思い出すのだ、あの頃の痛みを、記
憶を、暴力を
﹁はっ..はあ.....はあ........はあ..............はあ﹂
いつの間にか周りの景色が変わっていた。
........私は何を考えていた
確か....ルーに触れた時に記憶が戻って....それで、
ルーから私に負の感情が流れてきて........
そ れ で......思 い 出 せ な い....な に か 重 要 な こ と が あ っ た は ず
だ。
何か....思い出せない、なんだ、何が思い出せない
・
・
・
・
・
・
・
・
ダメだ、とりあえず今の記憶を整理しよう。
名前のもう一つの人格を持っていたはずだ。
それから、私は二重人格、記憶喪失後に名前を付けてルー、と言う
捨てたはずだ。
私はクロア、私の知識としての過去によれば、ファミリーネームは
?
あとは....昔の事か、すべてを私に押し付けたルーに逆に押し付
け返して....何をだ
分からない、ルーが何かしたのか
ダメだ、疲れた。寮に帰ろう。
∼ルー視点∼
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
寝て起きてから、もう一度考えよう。
?
197
?
ここだ、私はルーに何を押し付け返したのだ。
?
﹁あああ、ああああああ、ああ﹂
私の右手を押さえていたクロアの額が外れ、そのまま私の右手が顔
から外れる。
頭を巡っていた記憶を無理に投げ捨てて、もう一度魔法を使おうと
して気づく。
いつの間にか、あいつはいなくなっていた。
ハーマイオニーがやってくれたのだろう。
足元で青い顔をして震えているクロアを見る。
今回のは私のミスだ。
私が油断したせいでクロアはもともとなかったはずの記憶まで取
り戻した。
ならその責任は私がとるべきだろう。
これがあればクロアがまた、あの頃の様に普通に過ごせなくなって
しまう。
私の右手を私の顔の右半分、左手をクロアの頭に当てると、
﹁﹃セパレーション﹄ごめんね、でもあなたを護るのは私だよ、
あなたは私に護られてくれるだけでいいの、そのくらい、私にさせ
て﹂
クロアから彼女に必要ない記憶を自分に押し付けると、クロアの震
えが止まる。
これでいいのだ。これで....
198
19話 崩壊の予兆
∼クロア視点∼
はあ、ダメだ全く思い出せない。魔法で記憶を弄られた
いや、そんな簡単にいじれる内容ではないはずだ、そんな気がする、
そもそも、消せたら消してるような内容だったはずだ。
ひ
と
教えてくれるとは思えないが、
・
・
・
・
・
・
・
・
で も そ れ は 別 に 他人の記憶ではない し
・
証拠もないから
︵ルー、他人の記憶を弄るのはどうかと思いますよ︶
<んー
セーフだよ>
他人の記憶ではない
︵まあいいです、いつか教えてもらいますよ︶
<気が変わったらね、少なくとも今は教える気はないよ>
︵一つ聞きます、それはもともと私にはなかった記憶ですか
︶
いや、そうだ、私たちは....なんだ
その発言は証拠になりえないのだろうか。
ん
?
中途半端に記憶が抜け落ちているせいで違和感がすごい。
?
>
︵なら教えてくれてもいいと思いますが
<まあ、軽くならいいよ>
︶
<......あったよ、ただ、記憶として、じゃなくて知識としてだけど
?
?
思ったより簡単に聞き出せそうだ。
?
199
?
?
?
<えっとね、あるところに、お父さんとお母さんがいました。
お母さんは娘を産み落とすと同時に亡くなりました。
お父さんはお母さんがいなくなって頭がおかしくなって娘を虐待
しました。
お父さんは娘を殴り続けて8年、ついに自殺しました。
│││めでたしめでたし>
どこがめでたいのだ、まあ言いたいことは分かったが、
︵足りませんよね、全然︶
そう、足りない、それだけでは全然納得できない。
というか、違和感がある。
200
例えば、本当に抜けている記憶がそれだけなら、なぜそこにルーが
いない。
<軽く、だからね>
軽くどころのレベルじゃない。
︵まあ、それが聞けただけでも良しとしましょう︶
当面の目標は記憶を完璧に取り戻すことだろうか。
ハーマイオニーにもお礼を言っておかなければならない、いつの間
にかあいつは消えていたが、
あれは間違いなくハーマイオニーのおかげだろう。
別にあれぐらい構わないわよ、私がしたのはあれ
﹁ハーマイオニー、助かりましたよ、日記﹂
﹁あれ、起きてたの
?
﹂
を壊してくれるよう先生に頼んだけだし、そんな事より何があったの
か教えてくれる
そういえばハーマイオニーは知らないのに手伝ってくれたのか。
﹁ええと、何から話したら....というか、私もあまり知りませんね。
主にルーのせいで........なら私が話すよ﹂
まさかの悪びれる様子もなく本人登場だ。
え、か、髪が....﹂
って、え
し、白髪....﹂
髪がどうしたのだろうか。
﹁ルー....
髪
﹁ん
ルーの絶望したような声が聞こえてくる。まさか、もう白髪が
て真っ白に....﹂
︵入れ替わった時だけらしいですよ。ルー、歳ですか
﹁う、うう﹂
半泣きになった。
︶
﹁い、いや。そうじゃなくて、入れ替わった時に髪の一部が、ぶわぁっ
くるとは。
なかなか苦労した人生だとは思うが、まさかそんなところに響いて
?
?
黒に白が混じってて、可愛いわよ﹂
﹁ちょ、ちょっと、何で泣きかけてるのよ、いいじゃない、
?
201
?
?
?
?
﹁たぶん、クロアが見た時の私は髪が全部真っ白だったと思うけど、も
﹂
ともとは右半分だけだったんだよ。それがあの日記のせいで....﹂
﹁ね、ねえ、本当に何があったの
﹁ああ、ごめんね。えっと、あの日記の中には誰かは分からないけど性
いびつ
格が悪い人の記憶が入ってたの、その記憶の中の精神体が私たちの中
に入ってきた。
もともと私たちは歪な繋がり方をしてるから、その隙間を突かれた
形でね。
それで、その侵入者は性悪らしく開心術が上手くてね、私の心を見
られて、それで私の欠陥がバレて、
ああ、欠陥っていうのは私が極度の男性恐怖症って事ね。
それで、そいつが見た目を15,6ぐらいの少年に姿を変えたせい
で私のトラ..男性恐怖症が出てね、
それでも辛うじて耐えてたけど、もうそろそろやばい、ってところ
でクロアが来て、まあその時にはもう髪は真っ白だと思うけど、
それで、クロアと、まあいろいろあって、クロアは記憶をすべて取
り戻して、
その後、私たちは何とか耐えて、その間にハーマイオニーが日記を
壊してくれた
って感じかな。何か質問はあるかな﹂
﹂
私の記憶に残っていること以上の事は言わないつもりらしい。
﹁なんでその日記はクロア達を襲ったの
理由は、まあ、むしゃくしゃしてたとかだと思う、性格悪かったし﹂
は隙間があって簡単に入れたから、とかそんな感じだと思うよ。
﹁たぶん、普通は人の精神になんてそう簡単には入れない、でも私たち
?
202
?
雑だが、本当に分からないのだろう、ルーは言いたくない部分は
堂々と濁してるし。
﹁そう、分かったわ、ありがと。それで、さっきクロアが言ってたルー
﹂
のせいであまり分からない、ってどういうこと
クロアも一緒に護ってくれてたんでしょ
?
﹁どうして
んじゃないの
の両
一瞬どこかの風景がフラッシュバックす
﹁まあいいや、説明はこんな感じでいいかな﹂
これは....ダメだ、思い出せない。
る。
なんだろう、おかあさん
ルーはつまらなさそうに答える。
﹁ふーん﹂
﹁そう....やっぱりあなたは姉って言うよりお母さんね﹂
とを優先するよ﹂
﹁私の行動理由はね、クロアを護ることだけ、クロアの意思より護るこ
﹂
せめてクロアに相談して、クロアの意見を聞いてもいい
取り戻した....やはり消滅はできないのだろうか。
もの、クロアには必要ない﹂
﹁それは、私がクロアから、一部の記憶を取り戻したからだよ。あんな
?
﹁あ、答えたくなかったら答えなくてもいいわ、あなた....達
?
?
203
?
?
親ってまだいるの
﹂
﹁もういないよ、そもそもいない方がよかったのに....﹂
さっきのルーの話を思い出す。
私はその頃の記憶が無いから、他人ごとのように思えるけど、
ルーの反応を見るにまだ思うところがあるのだろう。
﹁そう、ごめんなさい﹂
﹁........ん、戻りましたよ。私は別に構いませんよ、それに私は過
去の記憶のほとんどを持っていません。
大体はルーに持っていかれましたから、両親、と言う存在の事がよ
く分かりません﹂
﹂
﹁そう....ねえクロア、それ以外は記憶、戻ったんでしょ、どうだっ
た
ていた。
結論から言えば..
﹁私は私で、クロアでしたよ﹂
そもそも私が最初にハーマイオニーに聞いたとき、
彼女は﹃んー、ちっちゃくて人と話すのが苦手で、寂しがり屋で甘
とかかなぁ﹄
えん坊でかわいい私の親友....あとはよく寝てて、読書が好きで、い
ろんな秘密を隠してる
実際、私は寂しがり屋だ、認めよう。
なことは無かった。
と言っていて、私はあまり当てはまらない、と思っていたが、そん
?
204
?
ああ、そういえば私は誰か、と言うことで悩んでいたな、正直忘れ
?
それから甘えん坊は、まあ否定はできないだろう、なにせ酔った時
の私の態度は..やめた。恥ずかしくて思い出したくもない。
ハーマイオニーの親友、まあそうだろう。
良く寝る、これは知らない、そもそも私は記憶を失う前からそんな
ことは無いはずだ。
読書が好き、これはハーマイオニーは誤解しているところがある
が、記憶喪失前はルーを消すため、記憶喪失後は私自身をこの身体か
ら出すための知識を求めて読んでいた訳で、別に読書は嫌いではない
が、一応目的があったのだ。
秘密は....記憶が無いのだ、当たり前だが知ってるわけがないの
だ、仕方ない。
うん、やっぱり私はもともとクロアだ。
だが、一度完璧に記憶が戻ったせいで、今の中途半端な記憶に違和
感がある。
205
....私は、知りたい。私とルーに何があったのか。
私は知らないといけない気がする。ルーは私を護ると言うが、あの
時の様に、私も護りたい。
そのためには、あの時の様に、もう一度知る必要があるのだろう。
そしてもう一度ルーと対等な関係になりたい。
﹁どうすれば私の記憶が完璧に戻るのでしょうか﹂
ボソッと呟く。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
二年生最後の日、帰りの列車に一人でコンパートメントに乗ってい
他に....﹂
ると、ドアがノックされ、ドアが開く。
﹁ここ入っていい
?
﹁あら、クロアじゃない。他に空きが無いから使わせてもうらうわね﹂
ハリー、ロン、ハーマイオニーだ、ハリーとロンは私を見て固まっ
ているが、
ハーマイオニーはさっさと私の隣に座る。
﹁別にいいですよ﹂
その後、反対側にハリーとロンが座ったが、どこかぎこちない感じ
だった。
....そういえばロンは私にやらかしちゃってるのか。
﹁ロンも、別にあの時の事はいいですよ、過ぎたことですし﹂
﹁あ、ああ、そうだな﹂
ロンドンに着いても、そのロンの態度が変わることは無かった。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
私としては、ハーマイオニーと仲の良い二人との関係がぎこちない
と、
いろいろとめんどくさくなりそうなので、何とかしたかったのだ
が、難しそうだ。
・
・ ・ ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
駅で、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人と手を振って別れる。
・
一応ハリーもロンも手を振り返してくれた。
・
│ │ な ぜ か 、手 を 振 る た め に 上 げ ら れ た 手 が 少 し だ け 怖 か っ
た......
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
206
∼クロア視点∼
約一年ぶりの祖父の家。
た
確か去年は....もうあれから一年も経つのか。
あの時は私が誰か、で悩んでたっけ。今の私からすれば、去年の私
が少しバカバカしく思えてくる。
家の鍵を開け、中に入り、祖父に挨拶すると、ほとんど使われない
私の部屋に久しぶりに入る。
そういえば、祖父も私にいろいろしてくれてるなぁ
なにせ初めて会った時は....
ああ、ここも抜けている記憶か。
すべての記憶....取り戻したいが、そこまで急を要するものでは
ない。
今まで、ルーに怯えていたり、私が誰か、悩んでいたりで、精神的
に余裕がなかったが、今はある。
今までは、祖父ともほとんど交流が無かったが、してみたほうがい
いのかもしれない。お世話になっているわけだし。
それに、多分私の悩みに一番尽力してくれた人だろう。どこから
持ってきたのか、あんなカチューシャ、おそらく二つ目は無いのだろ
う。
まああったとしても今の私には効果は無いのだろうが。
ドアの前に、食事が置かれる音がする。
祖父が離れる前に、ドアを開け、食事を持って、祖父について行く。
祖父は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを見ていたが、それを
ジッと見返していると、やがて微笑み、リビングに向かった。
食事中は、どちらも何も話さなかったが、不思議と居心地は悪くな
かった。
食べ終わると、ごちそう様、美味しかったです。と小声でいい、食
器をキッチンにもっていき、部屋に戻る。
久しぶりに祖父とコミュニケーションを取った気がする、あれをコ
ミュニケーションと呼んでいいかは別として。
ベッドでゴロゴロしていると、ドアがノックされ、風呂が沸いた、と
207
?
言われる。
私もだが、祖父もそれなりに口下手だ。風呂が沸いたってだけじゃ
あ入っていいのか分からない。
まあ、祖父の性格からすると入ってもいい、と言うことだろう。
風呂から上がって、風呂に入る前と同じようにベッドでゴロゴロし
てると、眠くなる。
二年たってからは
そういえば、このベッドで寝るのって初めてじゃないか
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
でもこんな時間に聞きに行っ
・
おぼろげな意識の中、ふと思い出す。
ため息をつくと、ベッドに身体を埋める。思いのほか沈んだ。
明日にでも聞いてみようか。
ても迷惑だろう。
分からない。祖父に聞いてみるか
ずっと書斎で寝てたのは覚えてる。最初の一年間はどこで寝てた
この家にきて一年は....なんだ、どうしてた
?
・
再起不能になりうる
せっかくすべて順調だったのに、日記のせいで振り出し....いや、
それでも、なんとか方法を見つけて償いたかったのだが....
私がいなければこうはならないのだろう。
いや、そんなことは無い、分かっている、すべて私が悪い、きっと
.......原因が分からない。
い。
私が使ったのは意志の魔法だ、そうそう簡単に解けるモノではな
なんで彼女にまだ小さく残っている
クロアから私に隔離したはずなのに、
何でだ、あの時しっかり魔法を使ったはずだ、アレに関する記憶は
∼ルー視点∼
なぁ。
・
そ う い え ば 祖父の高身長から見られるのがちょっとだけ怖かった
・
?
?
つくづく油断したあの時の私をぶん殴ってやりたい。
208
?
?
やはり、奥の手の使用も考えておかないとならないか
これだけは
やりたくはなかったが....最悪の場合使ったほうがいいだろう。
奥の手すら手遅れになる前に決断しなければならないか
?
それに、髪が白くなったのはおそらく私の だろう。
どうやら予定以上に時間はなさそうだ。
209
?
終章 アズカバンの囚人
20話 吸魂鬼
∼クロア視点∼
まさか祖父に言葉を濁されるとは思わなかった。
本当にどこで寝ていたのだろうか。
まあいいや、記憶が無い以上悩んでも分からない。
ともかく、今日からはまたホグワーツだ。
列車に乗り込んで、空きがなかったので、ハーマイオニーの所..ま
あハリーとロンもいたが、に入れてもらう。
私は会話に入ることなく、窓の外を眺めていた。
のような人が
凄い雨だ、それに夏だというのに、寒い。肌寒い、と言うのもある
が、なんというか心の底から冷え込むような感じだ。
壮年
﹂
魔法薬学とか、薬草学とかのほうが似合いそうなものだ
ることになったリーマス・ルーピンだ﹂
この人が
が。
210
﹁やあ、ここ、入れてもらってもいいかな﹂
誰だろう、病院が似合う青い顔をした青年
入ってきた。
生徒ではないだろう、と言うことは教師か
﹁ええ、大丈夫です....ホグワーツの教員ですか
ハーマイオニーが聞いている。
?
﹁ああ、そうだよ、僕は今年から闇の魔術に対する防衛術の教師を務め
?
?
?
突如、さっきまでの寒気が冗談のように強烈な悪寒がコンパートメ
?
ントを包む。
それとはもう一つ、少し前に感じたのと同種の感覚を覚える。
いらない、こんな
いや、中に人型のナニカが
何かが溶け出すような....まるで、あの時の......これは..記
憶
ドアが開く。
そこに立っていたのは、人型の黒い布
いるのだろう。
私の
痛い、私は何もしてないのに。
ああ、違う、知らない。誰だ、誰の記憶
記憶なら..私はいらないっ
イヤだ、何で私は殴られるの
去はないっ
私を盾にして逃げたの
違う、私だ、これが私の過去だ。ああ、分からない。
何で、何で私を追い出したの
?
目に光が入り込む。
﹁クロア‼﹂
これはもう一つの記憶
違う、これは私のモノじゃない。
ごめんなさい、でも、私はもうこんなの耐えられないっ
に合うべきなのに......
なんでそこに隠れてるの、なんで私だけ....あなただって同じ目
だったのに。
ずっと一緒
ああああ、思い出すなっ、違う、これは私じゃない、私にこんな過
?
?
ルーの記憶が混ざってるのだろうが、もう既に思い出せない。
ああ、もう思い出せない、なんだったのだ、今の記憶は、多分私と
かかる。
頬を伝う涙の根元を拭い、うつむいたまま、椅子の背もたれに寄り
﹁....ごめんなさい、もう、大丈夫です﹂
?
211
?
?
?
?
﹁これを食べなさい、チョコレートだ、甘いものを食べると、気分がよ
くなるよ﹂
﹁はい....﹂
ルーピン先生から、チョコを受け取り、口に含む。
﹂
口に広がる甘さは、心を落ち着かせる。
﹁先生、今のは何
青い顔をしたハリーがルーピン先生に聞いている。
﹁あれは吸魂鬼、アズカバンの看守だ。人の幸福を糧に生活している﹂
︶
私とルーの記憶で私はああなったのだ。ルーも何か影響を受けて
いるかもしれない。
︶
︵ルー、あなたは何もありませんしたか
︵......ルー
?
大丈夫ですか
﹂
部屋の中央で、真っ白い髪をした私が、いや、ルーが立っていた。
﹁ルー
?
﹂
そこにあったのは、何も映さない表情。
﹁ルー
212
?
不審に思い、意識を集中して、ルーの精神の中に入る。
返事が無い。
?
歩み寄りながら。その顔を見る。
?
!
いつものように飄々と笑う顔はない。
同じく幸福を吸われた私とは大違いだ。なぜ
肩を揺さぶっても、名前を呼び掛けても反応はない。
﹁え....﹂
ルーの顔にひびが入る。
ルーの右目を中心に広がっているひびは、やがて全身に広がり、身
体が、末端からポロポロと崩れていく。
私と同じ顔をしたルーが壊れていくのが怖くて、後ずさる。
だが、このまま逃げたらダメな気がして、震える膝に鞭打って、ルー
に近づく。
私の方を向きながら、私を見ないその顔のひびがだんだん増えてい
くのが見えて、
バラバラになるルーを何とかつなぎとめようと、その身体に抱き着
く。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼ルー視点∼
クロアの視覚に、長身の黒い布を被った人型のナニカが映る。
ナニコレ
私が、私の主軸、私を構成するモノが失われて分かる。
刹那、人型のナニカが何をしているかに気づく。
こいつは幸福を吸っているのか
そしてそれはすぐに崩壊するだろう。
213
?
ダメだ、それをされたら私は抜け殻だけになる。
?
崩壊すればどうなるか、私の残りカスはクロアのモノとなるだろ
う。
それだけは何が何でも避けたい....だが、私にはどうすることも
できない。
なんで、だって、こんなの卑怯じゃないか。
こんなの予想しようがない。日記の時に油断しないように気を付
けようって決めたのに。
油断も何もない。こんな存在がいるなんて聞いてない。
これじゃあ、どうしようもないじゃないか。
あの時さんざん後悔しておいて、失敗するのか。また、間違えるの
か。
・
・
・
・
・
・
・
・
....思 っ た よ り..悲 し く な い..な........あ あ、そ..う い
・
う....ことか....だか..ら........
∼クロア視点∼
腕の中のルーが完全に崩れて私の中に入ってくる。
............ああ、そういうことか、だからルーはあそこまで私を
護ることに執着していたのか。
・
・
・
それから、なるほど、ルーが崩壊した理由も分かった。
・
....ああ、ルーはそうやってできていたのか。
なら、作り方も分かったし、今の私なら作れそうかな。
頭の中で、ルーの記憶と私の記憶を意識して区別する。
そして、私に残る今まで、幸せだった時のことを思い出す。
右手を顔の右半分に、左手を目の前の虚空に突き出す。
﹁﹃セパレーション﹄....本当に、世話の焼ける人ですね﹂
手の先から、光のような、靄のようなものが流れ出て、それが徐々
に人型を作っていく。
214
﹁....クロ..ア
なんで、あなたが私を作れるの
﹂
?
・
正しいかの確認です﹂
﹂
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
﹁ま ず 一 つ 目 で す。私とあなたはもともと一つ で し た。違 い ま す か
・
﹁その前にいくつか質問しますよ。あなたの記憶を見ました。それが
まった。
ほとんどが、私の記憶になることなく、ルーを作るのに消費してし
憶を軽く見ただけのせいで、
....失敗したな、いや、ルーを作るのは失敗してないが、ルーの記
?
﹁うん、合ってる﹂
﹁次です、あなたを構成している物は、主に感情、それもほとんどが正
....うん、そうだよ﹂
の感情﹂
﹁え
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
間にか使っていた魔法﹂
﹁うん、....ねえ、本当はほとんど記憶が残ってないんだよね
え、何で分かった
?
﹁その表情は肯定してるようなものだよ、えっとね、まず、一番最初に
?
﹂
何かを隔離する魔法。そしてあなたが作った魔法ではなく、いつの
・
御魔法などではなく、
﹁次は、あなたの魔法についてです。セパレーションと言う魔法は防
?
215
?
来るであろう質問が来なかったこと、
次に私を構成してるのは正の感情、合ってるけど、それだけじゃな
い、もう一つ、感情と同じぐらい大きなもので出来てる﹂
ああ、読み違えたのか。流れでいろいろ聞けるかなって思ったけ
ど、難しいようだ。
﹁なら、一つだけ質問をします﹂
・
・
・
﹂
﹁うん、分かった、でもその代わり私も後で聞きたいことがあるよ﹂
・
﹁あなたを構成するその正の感情、誰のモノでしたか
﹁今も昔も、あなたのモノだよ、いや、この言い方はあんまり正しくな
いかな、
今の私の正の感情は元はあなたのモノだけど、昔のは私たちの、か
な﹂
あなたに私を作る材料は無
やっぱりそうか、私とルーはもともと一つだったのは、間違いない。
﹁次は私の番だね。なんで私を作れたの
いはずだと思ってたけど﹂
ただ、次作れるのは当分先になりそうですから、もうやめてくださ
いよ﹂
﹁..そ う、っ て こ と は、私 が あ な た か ら 幸 せ を 奪 っ た 形 に な る の か
な....﹂
﹁いえ、私が使ったのは、おそらく初めて作られたとき同様、あくまで
216
?
﹁そうでもなかったみたいですよ、意外と私は幸せだったみたいで。
?
﹂
感情だけを使いましたから、記憶は残ってますよ﹂
﹁でも、結局は一緒でしょ
﹁違います。正の感情があるから幸せになるのではなく、幸せだから
こ そ 正 の 感 情 は 生 ま れ ま す。そ れ は あ な た も 理 解 で き る は ず で す。
だから、きっとすぐにまた出来ます﹂
﹂
・
・
・
﹁そう、だね。私の記憶もほとんど残ってないみたいだし、問題はなさ
そうだね﹂
﹁そこまでして私の過去を隠したいのですか
﹁そう、でも私は、クロアのその気持ちを理解したうえで隠すよ。
﹁ですが、それを理解した上で、私は私の記憶を取り戻したい﹂
だ、知らなくてもいいだろう。
ルーの間違いに関してはさっぱりだが、これはまあルー個人の事
し付けるのは違うと思う。
無くせるのなら、無いほうがいいのは間違いない、だが、誰かに押
なくすレベルでだ。
ただ、一度体験したからわかる、あの記憶は強すぎる。軽く正気を
るのだろう。
これが戻れば、私にも、ルー同様に男性恐怖症が発症するようにな
の事だろう、
私の過去の記憶....これは多分、ルーが私から隔離した私の記憶
いかな﹂
﹁過 去....っ て い う よ り あ な た の 過 去 の 記 憶 と 私 の 間違い を 隠 し た
?
これはね、私の償いだから、本来クロアだけが背負うべきものじゃ
217
?
なかったはずなのに、私が....いや、何でもない、忘れて﹂
狙ってやっているのだろうか、そこまで中途半端に言われると、余
計気になる。
﹁なら忘れます。気が変わったら教えてください。では、私は戻りま
す。吸魂鬼の対策、考えないといけませんね﹂
忘れるつもりはないが。
目を開く。
﹂
﹁はあああ、疲れました﹂
﹁また前みたいに
ハーマイオニーが私たちにしか分からないような聞き方で聞いて
くる。
﹂
﹁はい、ルーの様子がおかしかったので﹂
﹁大丈夫だったの
﹁次に吸魂鬼が来たら、非常にまずいです、具体的には....﹂
ハーマイオニーの耳に口を近づける。
﹁ルーが消滅します﹂
ハーマイオニーが目を見開く。
218
?
?
﹁どういうこと
﹂
﹂
﹁まあ、私達にもいろいろあるんです。それでですね。ルーピン先生、
吸魂鬼ってどう対処すればいいのですか
ルーだ。上手くいくかもしれない。
︵分かりました、やってみましょう︶
>
なるほど、役割分担か、確かに杖に認識されているのは私ではなく、
て。私は杖に認識されてるから、できると思う>
<んー、私が幸福なことを思い浮かべながら、クロアが杖を振ってみ
ルーなら簡単に出せるのだろうが、簡単に消滅するだろう。
よ︶
︵何を言っているのですか、男性が近づいただけで守護霊が消えます
<うん、私ならたぶん簡単にできるね>
﹁幸福..ですか。それなら﹂
い、これがなかなか難しくてね﹂
まず、呪文を持続させるのに幸福なことを考え続けなくちゃならな
そう簡単に習得できる呪文じゃあない
﹁吸 魂 鬼 か い
基 本 的 に は 守 護 霊 の 呪 文 で 追 い 払 え る は ず だ が....
ルーピン先生のほうに向きなおりながら聞く。
?
<﹃エクスペクト・パトローナム﹄....あれ
?
219
?
?
﹁え
﹂
目の前にいたのは、半透明な7,8歳ぐらいの幼女だった。
それも、私そっくりな.....というか、これは私だ。
﹂
私の身長あんまり変わってないな....
﹁なんで....私がここに
﹁クロア
﹂
ン先生....男性....私に暴力を......
周りのみんなも驚い....周りにいるのは..ハリー、ロン、ルーピ
?
﹁ルーピン先生、今のは何か分かりますか
?
﹂
聞いたことが無いな、守護霊は基本的には動
とりあえず、先生に聞いてみる。
﹁守護霊..だけど、人
物だ。そもそも、君は使えたのかい
﹁使ったことがありませんでした﹂
﹂
みると、幼女バージョンの私は消えていた。
別に周りの男性陣をみても恐怖を覚えない。
.......なんだったんだ、今の、何があった。
!
は....
次はルーだ、守護霊も言葉を話していた。と言うことはまさかあれ
を出されても、何が何だか分かる訳がない。
先生もいまいちわかってない様だ、当たり前か、急に幼女の守護霊
?
?
220
?
<私だったよ>
やっぱりか
︵なぜか分かりますか
︶
︶
<うん、多分私が幸福を思い浮かべてたから、私の中の幸福そのもの
が守護霊になったんだと思う>
︵それは、私の中からあなたが出れた、と言うことですか
アの身体があったからこそできたことだと思う>
なるほど、ただ、まだほかにも疑問がある。
︵まず、私が周りの男性を怖いと感じました。これは
︶
<んー、半分はそうだと思う、たぶんあの日記みたいな感じで、クロ
?
女の姿になって、かつ、私が男性恐怖症を発症したのか。
そして、守護霊の時は、トラウマの部分は具現化できないから、幼
だろう。
ルーの人格を構成するモノの半分がトラウマ、さすがに大きすぎる
ど半分ぐらいの歳になって具現化したんだと思うよ>
次に、トラウマ、こっちは具現化できないみたい、だから、ちょう
に正の感情、こっちが具現化したね。
私を構成するのは主に二種類のモノ、まずはクロアも知ってるよう
た....ああ、そういえば話してなかったね。
< さ っ き も 言 っ た よ う に、私 の 中 の 幸 福 が 具 現 化 し た け ど、余 っ
?
︵まあ、そこは頑張って抑えるとして、吸魂鬼は追い払えるのですか
221
?
︶
そこが重要だ、どうも他の守護霊と比べると、少し特殊だ。吸魂鬼
>
を追い払えないなら、価値は無いのだが....
<試してみる
﹂
?
かな﹂
﹁これが、クロアの守護霊
っていうかルーだよね﹂
﹁やっほー、なんか慣れないね、この姿。ハーマイオニーも久しぶり、
<﹃エクスペクト・パトローナム﹄>
軽く事情を話す。
ルーピン先生に続いて、ハリーとロンも出ると、ハーマイオニーに
﹁ああ、着替えるのかい、分かった、今から出るよ﹂
ントから出てもらってもいいですか
﹁えっと、ハリーとロンとルーピン先生、少しの間だけ、コンパートメ
︵そうしますか︶
?
﹁おっけーおっけー、任せといて﹂
を急かす。
あまり長時間コンパートメントから出てもらうのも悪いので、ルー
﹁はい、守護霊としてのルーです。じゃあ早く試してきてください﹂
?
222
?
そう言ったルーはコンパートメントから出ていく。
∼ルー視点∼
視線が微妙に低い。
まあいいか、ただ、これだと私が守護霊を作った時とあまり状況が
変わっていないことにクロアは気づいているのだろうか....まあ気
づいてないだろう。
クロアに急かされたので、コンパートメントから出る。
ハリーとロンが、私の方をじっと見ている。そんなに変な見た目だ
ろうか。それともこいつらまさかロリコンか
﹁
%#&
%#&‼﹂
ハリーの股間めがけて。
足を思いっきり振り上げる。
まあどっちでもいいか、ハリーの前に歩み寄ると、
?
﹁ねえ、覚えてる
・
・
・
・
と泣いてたんだよ、ねえ、分かる
これで許したわけじゃないから﹂
あなたがクロアに何をしたか。あの時クロア、ずっ
床にうずくまって悶えているハリーに
??
....間違いない、このままいけば、私とクロアは......
だが、吸魂鬼以上に気がかりな事が一つ。
吸魂鬼を探す。
これ以上いると、ルーピン先生に何か聞かれそうなので、さっさと
げる。
ロンは名前を呼ぶと、次は自分の番だと思ったのか、軽く悲鳴を上
﹁ロンは....まあいいか、クロア自身には何もしてないし﹂
と、冷たい声を意識して告げる。
?
?
223
??
>
∼クロア視点∼
<聞こえる
︶
ルーの声がする、守護霊になっていてもこの方法で会話ができるの
か。
︵聞こえますよ、どうでしたか
い払えそう>
ルーも話せるか分からなかったのか
はなさそうだ....守護霊ってどうやって消すんだ
?
よ>
<あ、まだ試したいことがあるから、徒歩で帰るね。多分、すぐ着く
︵分かりました、なら早く帰ってきてください︶
<魔力が尽きた時か、私の意思で消えれる、っていうか帰る、かな>
を教えてください︶
︵それはよかったですね。それで、守護霊としてのルーが消える条件
?
まあ追い払えるんなら、問題
<ん、やっぱり聞こえるんだね、うん、うまくいったよ。ちゃんと追
?
試したいこと....守護霊としての役割って吸魂鬼を追い払うこと
だけじゃないのか
﹁帰ったよ﹂
本当にすぐだった。
224
?
﹁それで、試したいことって何ですか
に聞く。
﹂
﹁えっと、クロアはさっき体験したと思うけど....﹂
それに、記憶が戻ってるって、どういうこと
んー、そこが問題だよね﹂
﹁はい、私にトラウマの記憶が戻っているのだと思いますが﹂
﹁やっぱりそう
﹁ね、ねえ、トラウマ
ああ、ハーマイオニーは知らないのか。
?
になったのだと思います﹂
・
く、私たちが二つに別れる際、元の私からこの二つが分離して、ルー
もう半分は、私たちの記憶から成るトラウマの二つです。おそら
半分を占めています。
の感情、つまり﹃楽しい﹄
﹃嬉しい﹄
﹃愛しい﹄そして、
﹃幸せ﹄等が約
・
で、もう一つの人格である、ルーと言う人格を構成しているのは、正
ました。
と時期に関して、私は知りませんが、何かの要因で二つの人格に別れ
・
﹁私が話します、ルーと私はもともとは同じ人格でした、ですが、理由
﹂
いつの間にか戻っていた、目の前の半透明な白い髪を持つ小さな私
?
﹁ちょ、ちょっと待って、クロアとルーはもともとは同じ人だったの
﹂
225
?
?
話の腰を折られた。
?
﹁はい、そうなりますね、予想ですが、その頃からルーは﹃セパレーショ
・
・
・
・
・
・
﹂
・
ン﹄、隔離呪文を使えるようになったのだと思います﹂
・
﹁なら、クロアは何で出来てるの
﹂
・
・
・
・
・
ると思ってたけど、そうじゃなくて普通に嘘が下手なのかな
・
・
そういえば、いつもは下手に隠そうとせず、分かりやすく濁してい
挙動不審気味だ。
﹁あ、そう..だよ﹂
なところまで気づけるものだ。
ハーマイオニーがポンポンと質問を出してくる、よくもまあ、そん
だけなの
﹁なら、ルーは正の感情とトラウマを持ってるのに、クロアは負の感情
いのだ。
ああ、言われてみれば、そうでもないと私がルーを作れるはずが無
私達を構成するモノは、構成していたものになったよ﹂
・
﹁クロアと私が別れてから、いろいろなことを体験して、感じて、もう
だった
うだよ、クロアを構成するモノの大部分は負の感情....だった﹂
・
﹁ハーマイオニーはちょっと頭の出来が良すぎると思うね。うん、そ
あ........考えたこともなかった....
?
そんな私の表情を見て察したのか、
?
226
?
?
﹁いや、クロアは基本的には負の感情で出来てたはずだよ、ただ、それ
﹂
関連で隠したいことがあっただけ。
そろそろ話を戻さない
﹁話の逸らし方が雑ですね、ええと、どこまで話しましたっけ....あ
あ、それで、私は守護霊を作る際、杖は私自身で振り、そのほかの事
はルーに任せています。
つまり、ルーが幸福を思い浮かべ、ルーをルー自身で維持していま
す。その際、詳しい理由は分かりませんが、ルーの正の感情が、守護
霊として具現化しました。
ですが、ルーのもう半分、トラウマの記憶が私に残ります。
なので、一部ですが、私に記憶が戻っている、と言うことです。ち
なみに、この記憶は直接男性恐怖症とつながっているので、今のルー
は男性恐怖症もなく、記憶の事も、記憶ではなく、知識として持って
いるだけのはずです﹂
自分でも最近、増減の激しい記憶を整理しながら話す。上手く伝
わっているだろうか。
﹁なるほど、大体分かったわ。ありがと﹂
﹁それで、私が試したいって言うのは、この状態のクロアの、記憶を抑
えられるか、って事だよ﹂
....それが出来たら、常にそうするようにすればいいのではない
か
﹁ああ、普段はできないと思うよ、私が具現化した時にできた隙間に入
れるから、私が持続できる時間に限りがある以上、
長時間はできないし、不完全なものになるから、それなりに男性恐
227
?
そんな私の表情を見たルーは、
?
怖症は残ると思う﹂
﹂
なるほど、それなら守護霊の呪文中のみしかできないな
﹁それで、どうやって抑えるのですか
﹁んー、分かりやすく言うと、できた隙間にクロアから正の感情とトラ
ウマをもらって、私のミニバージョンを作る。自我はないけど、それ
である程度なら抑えられるはずだよ﹂
分かるような分からないような感じだが、おそらくできるのだろ
う。
﹁なら、お願いします﹂
﹁うん、えっと、﹃セパレーション﹄﹂
ルーは右手をルーの顔の右半分に、左手を私の頭に当てる..身長
差があまり無いせいで私がしゃがまなくても、背伸びをすれば届くよ
うだ..と魔法を使う。
﹁どう、かな﹂
﹁微妙に気分が沈んだ気がします﹂
やはり、私の中にできている、正の感情を使ったのだろう。
﹁たぶん、うまくいったかな、ちょっと外に出てもらってもいいかな
大丈夫、もし失敗してそうならすぐ戻るから﹂
頷いて、ドアのもとに向かう。一つ深呼吸して、ドアを開けると、ま
?
228
?
ず目に入ったのは、私がドアを開けるのを分かっていたのだろう、
ルーピン先生がこちらをニコニコしながら見ていた。
......頭を振って、頭に浮かんだ嫌な記憶を消すと、落ち着くまで
深呼吸をして、
﹁ありがとうございます、もう大丈夫です﹂
﹂
極力ハリー達男性陣の顔を見ないように気を付けながら、震える声
でそう言う。
﹁あれ、着替えじゃないの
私の様子を見て、気を遣ったハーマイオニーが、私の前に立ち、代
わりにこたえる。
私はそろそろ魔力が尽きるから戻るけど>
﹁別にクロアは着替え、なんて言ってないわよ﹂
....確かにそうだな
<クロア、大丈夫そう
れば、大丈夫そうですね︶
<了解だよ、これなら何とか吸魂鬼が来ても大丈夫そうかな、不意打
ちじゃない限りは>
︵そうですね....戻りましたか︶
先ほどまで、頭の中で、強く自己主張をしていた記憶に靄がかかっ
ていく。
229
?
︵....顔を見ないように気を付けながら、一定以上の距離を保ってい
?
﹁ハーマイオニー、もう大丈夫です﹂
﹁そう..みたいね、分かったわ。それより、ホグワーツに着いたみた
いよ﹂
雨に濡れた窓を見ると、いつの間にか、外の景色は変化をやめてい
た。
230
21話 まね妖怪
∼クロア視点∼
ハリーとロンのテンションが高い。
おそらく、今から闇の魔術に対する防衛術があるからだろう。
今までの闇の魔術に対する防衛術の教師は、マトモな人がいなかっ
たから、今年の教師が気になっているのだろう。
﹁ルーピン先生、どんな授業をするんでしょうね﹂
隣を歩くハーマイオニーに聞いてみる。
﹁私は別に何でもいいわ、闇の魔術に対する防衛術の自習にはもう慣
れたし﹂
新しい考え方だが、仕方ないのかもしれない。
視界の端に、懐かしい姿が映る。ドラコだ。
ハーマイオニーに、一言告げて、ドラコのもとに向かう。
﹁お久しぶりですね、ドラコ﹂
﹁ああ、クロアか、久しぶりだな....あー、身長は相変わらずだな﹂
久しぶりに会った友人に言うことじゃないだろ
﹁それは言わないでください。ああ、そういえば話してませんでした
ね、私にある程度記憶が戻りました﹂
ドラコが、どこか嬉しそうな、寂しそうな表情を浮かべる。
﹁そうか、良かったな﹂
231
なんか反応が薄くないか
﹁あっさりしてますね﹂
﹁ああ、何となくそうなんだろうな。とは思ってたからな、ハーマイオ
ニーと最近よくいただろ、だからな﹂
となると、この態度は嫉妬だろうか。
﹁そんな顔をしないでください、記憶が戻ったとしても、私がドラコに
感謝していることに変わりはありませんよ﹂
﹁そうか、ああ、なら、何かあった時は僕の事も頼ってくれよ﹂
﹁分かってますよ、では、また﹂
ドラコに手を振って別れると、ハーマイオニーの所に戻る、ハリー
とロンは、特にロンは私の事を睨んでいるような気がしたが、無視す
る。
﹁やあ、私が今年から闇の魔術に対する防衛術を担当する、リーマス・
ルーピンだ。
早速だが、教科書をしまってくれ。
さて、早速だが、誰かに実技をしてもらおうと思うが....誰が良い
かな﹂
早速実技か、やはり男子は座学より、実技が好きな人が多いのか、男
子を中心に、かなり沸いている。
自分を当てろとばかりに自己主張をしている男子を無視して、ルー
ピン先生は何故か、私を指名する。
232
?
男子達の、絶望から来るため息と、嫉妬の視線を感じながら、前に
出る。
ルーピン先生に、なぜ私を指名したのか、小声で尋ねる。
﹁ああ、君なら大抵のことなら対処できそうだし、落ち着いてそうだか
らね﹂
し
よし
守護霊の事で、過大評価されているようだ。あれは、特殊な例なの
だが。
そんな私の事情を知る由もないルーピン先生は、話し始める。
﹂
﹁このタンスの中には、まね妖怪、ボガートが入っている。ボガートを
知っている人はいるかな
ハーマイオニーが答える。
﹁近くにいる人が恐れているモノに化ける妖怪です。﹃リディクラス﹄
で退治できます﹂
さすがハーマイオニーだ。
﹁よく知ってるね、完璧だ。ハーマイオニーも言ったが、ボガートは
﹃リディクラス﹄で退治できる。
それさえ忘れなければ、大抵の場合は何とかなる﹂
︵ルー、リディクラス、お願いしますよ︶
私だと使えないかもしれないので、守護霊の時の様に、呪文を唱え
るのをルーに任せようと話しかける。
<....ね、ねえ、待って、今からでもいいから、ルーピンにやめるよ
233
?
うに言って
>
︵待ってください、何を焦っているのですか
<あ、えっと、なら、せめて私と代わって>
︶
︵あなたが私と代わっても、何も出来なくなるだけですよね︶
この周りを男性に囲まれた場所で代わったところで、結果は見えて
いる。
そもそも何を焦っているのかを教えてくれないとどうしようもな
い。
﹁じゃあ、ボガートを出すよ﹂
ボガートの姿は最近も見た男性だった。それも、記憶の中と、ルー
の精神の中でだ。
﹁あ....あ..ああ......﹂
私の父親と言う肩書を持った男だ。
足が震える。頭の中の冷静な部分で、思考する。なぜ
いた手に杖はすでにない。
立っていられなくて、後ろに倒れるようにしりもちを着く。床に着
鳩尾に鈍い痛みと衝撃が走る。
みぞおち
の間にか目の前に立っていた。
できるだけ、その男の事を見ないでいたことか災いしたのか、いつ
のだが、杖を構えたところで、気づく。
だが、そこまで思考する程度の冷静さはあった。
ぜこの男が、それに今の私の感情、恐怖だ。
私にその記憶はないはずだ、ルーがすべて保有している。なのにな
?
234
?
!
腹の痛みを無視しながら、辛うじて上を向くと、靴底が見えた。
後頭部が痛む。
もうやだ、私はこいつからは逃げられないの
、ダメだ、もう少し、まだもう少しだけでも、しっか
・
・
・
・
・
すまなかった、対処が遅れたよ、私の責任だ﹂
︵ルー、どういうことですか︶
そう言って、私に謝るルーピン先生を無視して、
﹁大丈夫かい
∼クロア視点∼
そう、自身に言い聞かせるように強く思う。
・
りしろ私、私が護るんだ。私が護るんだ。だってこれは、償いだから。
違う、違う
のだし、私だって、痛いのは嫌だ。
仕方がない、仕方がなかったのだ、私だってトラウマを持っている
また護れなかった。
∼ルー視点∼
ああ、身体中が痛いな。
床に倒れたままぼんやりと思う。
良かった。
周りが今更ながら騒がしくなっているが、そんなことはどうだって
辛うじて残る頭の中の冷静な部分で、そう思う。
?
<ごめんね、私からはまだ言えない、その時になったら必ず言うよ、だ
から、もうちょっと待ってて>
ああ、もう、何もかも嫌な事ばかりだ。
﹁大丈夫です﹂
235
!
?
﹂
私を遠目から眺める周りの生徒すら気にならない。
﹁寮に帰ってもいいですか
﹁ああ、別に構わないさ、ハーマイオニー、付いて行ってあげなさい﹂
精神的に疲れた、このまま寮に帰ってさっさと寝たかった。
﹁あ、待ってください。僕、守護霊の呪文を使えるようになりたいんで
す。
そのために、クロアとルーピン先生に教えてほしいんです﹂
ふざけてんのか
﹁あークロア、僕は次の授業の準備があるし、あまり長時間教えてあげ
ることは出来ないんだ。
だから、教えてあげてくれると助かるんだけど....﹂
超いやだ、このまま寮のベッドにインしたい。
そんな気持ちが表情に出ていたのか、ハーマイオニーがルーピン先
生に断ろうとする。
いやまて、身近に守護霊の呪文を使える人がいる、と言うのは大き
くないか
い。
﹂﹂
﹁分かりました、私に教えられる範囲なら構いません﹂
﹁﹁いいの
ハリーとハーマイオニーの声が重なる。
236
?
少なくとも私はあんな記憶、それなりの理由がないと、見たくはな
?
?
﹁ハーマイオニーには言ったと思いますが、私は特に、吸魂鬼対策のた
めの手段は多いに越したことはありません。
とはいえ、別に私は練習して使えるようになった訳ではなく、少し
特殊な例なので、教えられることはあまりありませんよ﹂
﹁うん、別に構わないさ﹂
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
﹁とりあえず、私はあまり出し方についても知らないので、本人に直接
聞いてください﹂
︵ルー、頼みますよ︶
・
・
237
杖を振る。
<﹃エクスペクト・パトローナム﹄>
・
・
頭に呪文が響くと、目の前にルーが出現すると、即座に私に隔離魔
法をかけて、トラウマを抑える。
ハーマイオニーの後ろに隠れながら、ルーの説明を眺める。
・
ルーを見たハリーは目を見開いて、小さく悲鳴を上げていた。
幽霊とかが苦手なのだろうか
る。
そもそもなぜボガートはあの男の姿になった
?
手持ち無沙汰になったので、さっきの授業のボガートについて考え
よりかはマシだろう。
まあ、ルーの安否に関わることだ、険悪な関係になられて進まない
いらしい、態度が柔らかい。
・
それより、ルーはハリーの事が嫌いなのかと思ったが、そうでもな
?
ルーが記憶を保有している以上、あれがあの男に姿を変える訳がな
いのに。
私の記憶が戻った
いや、ルーに聞いても隠されている以上は、ルー
?
ルーがわざと記憶を洩らした
戻ってきている。
・
・
・
・
・
・
︵ハリーは守護霊の呪文を使えそうですか
︶
どうやら今回はもうやめるらしい、見れば、いつの間にか、ルーも
思考が中断される。
﹁クロア、そろそろ帰るわよ﹂
ならば、なぜ私からもう一度その記憶を隔離しようとしない....
決まっている、分かっていたからだ、私がああなると言う事を。
止めようとした
....そういえば、何であの時ルーは、ボガートと知った瞬間に私を
方はできないだろう。
いや、それはないだろう。ルーのあの魔法はそんな中途半端な使い
?
ら記憶など洩れてはこなかった。
だが、今更ルーの隔離魔法が解けるとも思えない、今まで、あれか
が関係しているのか
吸魂鬼の影響か
てなど、いられなかっただろう。
いや、それはない、もし完全に戻っていたら、私は今頃正気を保っ
?
?
ろう。
とはいえ、あまり強力な守護霊でもないと思うので、過信は禁物だ
これなら、吸魂鬼を追い払ってくれそうだ。
もう少し練習すればすぐに動物を出せるようになると思うよ>
<んー、まだ霧状の守護霊しか出せないけど、多分コツをつかんだし、
?
238
?
﹁クロア、今日はありがとう、おかげで守護霊が、まあ霧状だけど、出
せるようになったよ﹂
ハリーが私にお礼を言ってくるが、私は何もしていない。
﹁私は何もしていませんよ、やったのはル....私の守護霊です﹂
﹁それでも、クロアがあそこでOKしてくれなかったら、僕は多分、守
護霊を出すことさえできなかったと思うよ﹂
﹁そういうことなら、お礼は受け取っておきます。では、また明日会い
ましょう﹂
﹁うん、また明日ね﹂
ハリーと別れて、部屋に戻る、今日はいろいろと疲れた。
明日からはもう少し楽に過ごしたいな。
....ハリーの事が少し怖かったのは、きっと、ルーを具現化してい
た時に出てきた、トラウマが影響したのだろう。
∼ルー視点∼
だんだんと決心が鈍って行く気がする。
いや、まだ大丈夫なはずだ、なら、ギリギリまで償うおう。
私は私の間違いを償うまで、逃げることは出来ない....はずだ。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
ホグズミード村に行く日が来た。
私は、祖父から預かっている、ホグズミード村へ行くための許可証
をマクゴナガル先生に見せ、無事、ホグズミード村へ行く許可が取れ
239
た。
祖父は、許可証をもらう際、私に友達ができたか聞いてきた。無言
でうなずくと、
祖父曰く、1年生を終えて、ホグワーツから帰って来た時は、酷い
顔をしていたらしいが、
今は、とても楽しそうな顔をしている、と嬉しそうに話してくれた。
私には分からないが、祖父の嬉しそうな顔を見ていると、嘘ではない
のだろう。
その時は、どう反応していいのか分からず、戸惑ってしまったが。
まあ、過ぎたことはいいとして、私はホグズミードが楽しみだ。普
いかん
通なら素直に喜びたいのだが、
如何せん、すぐ近くではハリーがすさまじい勢いで、落ち込んでいる
ため、素直に喜べない。どうやら、許可証を貰えなかったらしい。
﹁元気出せって、僕らがお土産をたっぷり買ってきてやるから﹂
﹁そうよ、大丈夫よ、何か欲しいものがあったら教えてね、買ってきて
あげるから﹂
と、ロンとハーマイオニーが励ましているが、逆効果らしい。
﹁二人とも、僕に気を遣わなくていいさ、ああ、別にお土産だけ買って
もらったって、虚しくなるだけさ﹂
こんな時、なんていえば励ますことができるのだろうか、あれから、
守護霊の呪文を教えるために、私は教えていないが。最近はよく会っ
ているハリーを励ましたいのだが、コミュニケーション能力が圧倒的
に不足気味だ。
﹁元気を出してください、別に行けなくたって、そこまで大きな問題で
は無いと思いますよ。それに、行けたとしても、楽しいかは別です﹂
240
とりあえずこんな感じだろうか。
﹁クロア....それって、励ましてるの
心外な。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
﹂
ホグズミード村、住民全員が魔法使い、と言う特殊な村だ。
住民全員が魔法使い、と言うのは、何でもイギリスの中でホグズ
ミード村だけらしい。
面白い本はあるのだろうか。
列車に揺られて、ホグズミード村に向かう。
これから楽しくなるかは分からないが、幸先は最悪だった。
﹂
少なくとも、コンパートメントの中で行き交う言葉はそう思わせる
クルックシャンクスはそんなことしないわ
には充分だった。
﹁違う
やがて、列車がホグズミード村に着くまで、口論は続いた。
口に出しても無駄なのは分かっているので、外野に徹する。
私は、友人としてのランクが上のハーマイオニーを擁護したいが、
い、と主張しているが、イタチごっこだ。
ハーマイオニーは彼女のペットの猫は賢いのでそんなことはしな
マイオニーのペットの猫が食べた。と主張して、
話を聞く限り、ロンはロンのペットのネズミがいなくなって、ハー
ながら、読書に集中する。
ため息をして、私に矛先が向いたら面倒くさいので、ため息を抑え
!
241
?
﹁ならスキャバーズはどこ行ったんだよ﹂
!
ああ、ようやくこの空間から解放されそうだ。
私は、列車を降りてもなお口論を続ける二人を無視して、書店を探
す。
思っていたより小さな村だ、これならすぐに書店も見つかりそう
だ。
と、思っていたのだが、全く見つからない。
既に、目立つ店は大体見たのだが、そこに書店は無かった。
ならばと、外見だけでは判断しづらい店に入って確かめたりしてみ
るのだが、なかなか見つからない。
さらに、普段から運動不足なのが災いして、歩き疲れた。
とりあえず、のどを潤すため、近くのパブに入り、適当な飲料を注
文する。
届いた飲料を見る、この飲み物、においがもうすでに甘い。
慎重に一口つけてみる。甘い。
とりあえず甘いが、飲みづらいほどではない、自分が注文したもの
だし、と一応飲み干す。
頭がほわほわする。
それから、睡魔が襲ってきたので、腕を枕に、机に突っ伏していつ
でも寝れる体勢をとる。
でも、少し休憩したら、すぐにまた探すつもりなので、寝ないよう
に気を付けないと......まあいっか。
微睡む意識を手放すと、私は眠りについた。
242
22話 記憶
∼ロン視点∼
﹁だったらどこにスキャバーズいったんだよ
﹂
﹂
あんたに愛想をつかして逃げて行ったんじゃな....
クロアは
﹁知らないわよ
あれ
!
﹁それが何だよ
酷いこと言ってるとは思わないの
﹂
﹂
!
﹂
ネズミなら最悪野生でも何とかなるわ、でもクロアは違
﹁当り前よ
﹂
うじゃない
?
スキャバーズはどうでもいいのにあいつの事はひどいのか
﹁何よそれ
﹁酷 い
﹂
そんなこと今はどうだっていいだろ
そういえばいつの間にかいなくなってるが、今はそんなこと
?
!
!
﹁なら探して来ればいいじゃないか
!
!?
!
いネズミなんて食べないわ
﹂
なんだ、思ったよりホグズミード村は小さいんだな。
僕もホグズミード村をぶらつく。
ため息をつくと、苛立ちを抑えるために、荒い足取りで、
過保護すぎるだろう、親でもないのに。
そう言って、ハーマイオニーは去って行った。
!
243
?
?
﹁ええ、そうさせてもらうわ。それから、私のクルックシャンクスは汚
!
!?
パブに入って、そう思った。
あの机に突っ伏して寝ている背中はクロアだろう。
あののんきに眠るクロアの姿を見てると、ある感情が僕の中に生ま
れてくる。
苛立ちだ。
これは、ハーマイオニーの事での八つ当たりなのだろう。
マルフォイと仲良く接することが気に食わない、と言うのもある。
だが
起きる様子のないクロアの肩を揺さぶって、強引に起こすと、正面
に座る。
﹁んぅ....ロンですか、まだ眠いのですが﹂
ぼんやりとした顔で、僕にそう言うクロアは、今の僕にとって、苛
﹂
244
立ちの原因でしかなかった。
﹁クロア、君は自分が何をしているのか分かっているのか
ているのだろうか、ぼーっとしているようにしか見えない。
ああ、イライラする。
僕はハーマイオニーを問い詰められなくなった
!
﹁君のせいで
﹂
怒鳴ると、クロアは、ようやく、その目に理性が灯る。
﹁..それは、ネズミの話ですか
いつも通り、不機嫌そうな顔で淡々と聞いてくる。
?
﹂
変わらず、ぼんやりとしたままのクロアは、首をかしげて....考え
?
八つ当たりなのは分かっていても、止める気にはなれない。
!
﹂
﹂
﹁ああそうだ、クルックシャンクスが食べたことは分かっているのに、
君のせいで逃げられた
﹁ええと、どういうこと、ですか
せる。
﹁うるさい
そうやって知らない振りしたって無駄だ
張って、店から出て、店の正面で、クロアに振り返る。
﹁ロ、ロン、離してください、痛いです﹂
﹂
ハーマイオニーに協力した、そうなんだろ
!
﹁いいから答えろ
﹂
とりあえず、周りの人の視線から逃げようと、クロアの手を引っ
る。
頭に血が上っているのか、そんな周りの人にさえ、イライラしてく
周りの人が、こちらをチラチラと見ている。
つい、椅子から立ち上がり、そう怒鳴ってしまう。
どうせハーマイオニーと組んで急にいなくなったんだろ
!
強がっているのかは分からないが、やはり、その態度は僕を苛立た
くる。
少し、表情に怯えが混ざったクロアは、態度を変えずにそう聞いて
?
!
ついでに、ハーマイオニーの数少ない友人を無くすことができるだ
で、僕はクルックシャンクスに仕返しをすることができる。
そのために、クロアが、ハーマイオニーに協力した、そういうだけ
え作ってしまえばいいだけだ。
なら、理由は何だとしても、クルックシャンクスにやり返す理由さ
たことは間違いない。
ハーマイオニーのクルックシャンクスが僕のスキャバーズを食べ
!
245
!
!
ろう。
なのに、
﹁ち、違います。それに、協力が何のことか分からないんです﹂
恐怖からか震えているクロアを見るだけで、
罪悪感が沸く自分にさえイライラする。
﹂
僕のスキャバーズに対する気持ちはそんなものなのか
﹁いいからハーマイオニーに協力したって言え
﹁うるさいっ
いいこぶってないで、さっさとハーマイオニーに協力
がらも言わないのか、鬱陶しく思いながら、
そう、途切れ途切れになりながらも言うクロアに、なぜそうなりな
言っているのか分からないと、どうしようも無いじゃないですか﹂
﹁ロン、い、一旦..落ち着いてください。私だって....何のことを
?
て、ハッと我に返る。
﹁....その....ごめん......﹂
嗚咽をこぼしながら、頷くクロア
冷静に戻った僕を強い自己嫌悪が襲う、後悔しても遅い。
246
!
目の前で、涙を流しながら、消え入りそうな声でそういう少女を見
﹁もうやめてくださいっ﹂
と、店の壁を叩きながら怒鳴るが、
したって言えよ‼﹂
!
﹁でも、僕はクルックシャンクスがスキャバーズを食べたと思ってる。
それで、僕は、ハーマイオニーともう一度話し合いたい。その時に
冷静でいられるように、クロアに仲介してほしいんだ。
僕がこんな事言えないのは分かってる。でも、やっぱり僕は納得で
きない。
お願いだ、僕を助けてほしい﹂
なら、この先の事を考えよう。
﹁分かり、ました。私も、ロンとハーマイオニーが、険悪な雰囲気だと、
気まずいですからね﹂
口ではそういうが、おそらく本心は僕の事を怖がっているのだろ
う。
僕を見ようとしないし、声がまだ震えている。
あの時も後悔したはずだったのになあ。
うん、これから頑張ればいいか、まだクロアとの関係が終わったわ
けじゃないんだし。
﹁ありがとう、それじゃ、ハーマイオニーを探しに行こうか。
彼女もクロアの事を探しているはずだ﹂
大通りに出ようとして、クロアの横を通りすぎた時、クロアが小さ
く悲鳴を上げ、一歩離れて、すぐに謝ってくる。
全部僕が悪いのだが、ちょっと傷ついた。
∼クロア視点∼
内心怯えながらも、ロンについて行く。
この恐怖はどこからきているのだろうか。
間違いなく記憶だろう。過去のトラウマの元となる。
247
なら、なぜそれが私の中にある
︵ルー、なぜ私にトラウマが戻りかけているのですか
<ごめん、まだ言いたくない>
?
﹁ハーマイオニー
﹁クロア
探したじゃない、急にいなくならないでよ﹂
ているところだった。
ロンの視線の先を見ると、ハーマイオニーが私たちの元へ走ってき
頭に浮かんだ記憶は、即座に頭を振って忘れる。
急にロンの大きな声が聞こえて、びっくりする。
﹂
まあ、見つけてから考えればいいか。
ハーマイオニーには話しておくべきだろうか。
いずれ慣れるだろう。
けだ。
確かに困りはするが、もともと私のモノだったモノが帰って来ただ
ダメ元で聞いても無駄か。でも、いつかは教えてくれるだろうし、
︶
ルーに聞いても隠された以上、ルーが関係している。
?
様子はない。
﹁あの雰囲気の中では、さすがに逃げたくなりました﹂
ロンと二人きり、という状況から解放されることで、少しだけ気分
が上がる。
248
!
口調は咎めているようだったが、顔がほころんでいて、怒っている
!
﹁あっ、そうよ、ロン
スキャバーズ、いたわよ、列車の中に
うん、私は何のために、ロンに怒られたのか、
そもそも仲介なんてする必要が無かったのか....
﹁クロア、これでも私は心配し....泣いてたの
﹂
ハーマイオニーはロンにネズミを渡すと、私に向きなおる。
ら、ロンは呆然としている。
﹂
ネズミをつまんで、ロンに嬉しそうに言うハーマイオニーを見なが
!
﹁ハーマイオニー、全部僕が悪いんだ。
だからこそ、あなたの事が気がかりなの﹂
してるの、
もっと言えば、私はあなた以外であなたの事を一番知ってると自負
と思ってるの、
それに、あなたにはルーがいるけど、私にしか出来ないこともある
﹁クロア、あなたは最近いろいろとあったでしょう、心配なの。
﹁あの、私は本当に大丈夫なので﹂
イヤな雰囲気になりそうで、
﹁ロン、あなたね。説明して﹂
﹁あ..い、いえ、大丈夫です﹂
私の顔....と言うか、目を見たハーマイオニーが聞いてくる。
?
ハーマイオニーと喧嘩してて、イライラしてる時にクロアを見つけ
て、
当たり散らしちゃって....﹂
249
!
﹁ハーマイオニー、私はもう許してますので、あまり怒らないでやって
ください﹂
一応さっき、仲介を頼まれた身だ、関係が悪化しないような動きは
しよう。
﹁クロア、本当に大丈夫なの、その....記憶の方も﹂
トラウマの事か
﹁はい、大丈夫です。記憶の方は、ルーに聞いても隠されましたが、間
違いなく徐々に戻ってきています﹂
たぶん、思い出そうと思えば、ある程度ぼんやりと思い出せるのだ
ろう。思い出したくはないが。
﹂
﹁とりあえず、そろそろ暗くなりそうですし、ハリーのお土産でも買い
に行きませんか
﹁そうね﹂﹁そ、そうだな﹂
私の意を汲んでくれたのか、ハーマイオニーもロンも同意してくれ
た。
私とハーマイオニーはお菓子、ロンは魔法具を買って、列車に乗り、
見つかって良かったですね﹂
帰り道をコンパートメントで過ごしていた。
﹁スキャバーズ..でしたっけ
?
250
?
暗くなりつつある雰囲気を何とかしようと、そう提案する。
?
一体このネズミは何歳なのだろうか。
﹁ああ、こいつは僕が小さなころから一緒に居るからね、大切な家族
だ﹂
ロンが小さいころから
ネズミをじっと見ていると、ロンに、
﹁食べるなよ、僕のだからな﹂
と、冗談を言われた。
いつの間にか、ロンと、それなりに仲良くなっていたが、やはり私
は、ロンの顔を見ることができない。見ると、思い出すのだ、あの男
の顔を。
﹂
そんなことを考えていると、頭に浮かびそうになり、頭を振り、そ
の思考を消す。
今日はもう頭を振りすぎて、頭が痛くなってきた。
﹁そういえばクロアってよく頭を振ってるけど、何してるんだ
なぜあの時、私が入れ替わらなかったことも、すべて繋がった。
ついに確信できた。
∼ルー視点∼
しぶしぶ、と言った様子で、下がってくれた。
だ、と伝えると、
ハーマイオニーは何か言いたげに私を見ているが、視線で大丈夫
ださい﹂
﹁あ..えっと、嫌なことを忘れようとしただけです、気にしないでく
?
私はもう嫌なのか、なら、もう決意を固めるしかないのだろう。
分かってはいても....
251
?
....嫌だよ..
..私は....
∼クロア視点∼
﹁ハリー、どうしたの
嬉しそうね﹂
ハリーは、私たちがホグズミード村に行く前は散々いじけておい
て、いざ帰ってみれば、全然そんな雰囲気はない。
良い事ではあっても、頑張って慣れない言葉で励ました私は何だっ
たのか。納得がいかない。
﹂
そんなハリーが、興奮冷めやらぬ様子で羊皮紙を私たちに見せてく
る。
﹁その紙がどうかしたのか
﹁なんですか
それ﹂
な物が映し出された。
と、ハリーが呪文のようなものをつぶやくと、羊皮紙は、地図の様
くらむ者なり﹄﹂
﹁ああ、よく見ててね。﹃われ、ここに誓う。われ、よからぬことをた
見たところ、何も書かれてはいない様だが。
?
こ
﹂
﹁これは忍びの地図って言ってね、ホグワーツの地図なんだけど。
ど
ほら、こんな感じで、誰が何処にいるのかまで分かるんだ
凄い物だ、分解してみたい。
!
252
?
魔法具だろうか、興味が湧いてきた。
?
﹁ハリーはそんなもの何処で見つけたのよ﹂
確かに疑問だ、ただの生徒であるハリーがそんなものを作れるはず
がない。
﹁そ、そ れ は..ま あ、い い か。僕 が ホ グ ズ ミ ー ド 村 に 行 け な い っ て
知った、ジョージとフレッドから貰ったんだ﹂
ジョージとフレッド、確かいたずら好きなロンの兄の双子だったは
ずだ。
私も、トラウマの元となる記憶が戻る前は、たまにいたずらをされ
ていたが、
なら、そのジョージとフレッドはどこから盗って来
戻りつつある、今されたら、気絶しかねない。
....記憶じゃない
むしろ....今までの幸せな時間が夢
のような背景に、ハッキリ
・
・
・
・
嘘だ......私は..この苦痛をまた耐えなければならないのか
・
・
無理だ、幸せを知ってしまった以上、私には......
・
若干、低めになった視点、痣だらけの私......
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
無知だった頃の私とは違い、今の私なら、この不必要な私の世界を
いる。
....もう、いいよね、今なら、ここから、抜け出す方法を、知って
?
253
﹁そうなのかい
たんだろうね﹂
・
?
?
?
違う、これは記憶だ、頭を振って、消そうとしても、消えはしない
とした靴底。
・
次に浮かんだのは、ぼんやりとした、家
突然現れた後ろの気配からする男性の声、目の前が真っ白になる、
?
・
・
・
・
・
・
・
終わらせられる。
....もう、いいや、痛む身体に別れを....
﹂
ふと、腕にやけにハッキリとした痛みが走る。
﹁クロア
世界が戻ってきて、何があったのかに気づく。
気づけば、私は私の杖を、私自身に向けていた。
ハーマイオニーが、私の意識を戻してくれなかったら、私は何をし
ていた
私は....死のうとしていたのか。
﹁あ..あああ、ごめんなさいっ、私は....﹂
そう、思うと、怖くなってくる。自分が自分じゃないみたいで、立っ
てられなくて、床に崩れ落ちる。
心配したハリー達が近づいてくるが、ハーマイオニーが、止めてく
れた。
﹁クロア、落ち着いたら、いったん寮に戻りましょう﹂
無言で頷く。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
寮に戻った私達を、静寂が包む。
どういうこと、クロアに記憶が戻ってるじゃない﹂
そのまま、少しの間そうしていたが、やがてハーマイオニーが、
﹁ルー
254
!
?
?
責めるように、そう言った。
私の中に、ルーの気配はあるが、反応はない。
﹁だんまりみたいですね。ただ、そこまで問題では無いと思いますよ、
記憶が完全に戻った訳では無いですし﹂
さっき、後ろにいたルーピン先生に声をかけられたときに、あまり
﹂
明瞭に思い出すことは出来なかったのがその証拠だ。
﹁で、でも、クロアのあれは心配よ
ハーマイオニーは私を真剣な顔で見ながら言う。
﹁あれは、多分ですが、その前にあったロンとの事が原因だと思いま
す。﹂
﹂
﹁ロンと何かあったのは知ってるわ。それで、精神的に弱ってたこと
が原因
別にハーマイオニーは全く悪くはないと思うのだが、彼女は自分の
行動に不満があったらしい。
﹁いえ、もともとは私が悪いんですから、私があれぐらい、抑えられる
ようになればいいだけです﹂
これは、別にハーマイオニーが自身を責めないため、とかじゃなく、
255
!
﹁そう....ごめんなさい、私がもっとしっかりしていれば....﹂
﹁多分ですが、そうですね﹂
?
本心からそう思っている。
こいつって....スキャバーズ..よね﹂
いつまでもルーを頼っていてはいけないだろうから。
﹁でも....ってあれ
ハーマイオニーがネズミをつまみながら、私に聞く。
﹁私の記憶が正しければ、そうだと思います﹂
﹁また逃げてるのね。私はロンにこいつを届けてくるわね、すぐ戻る
から、大丈夫よ﹂
ハーマイオニーは、私を心配するように言うが、今は一人になりた
くなかった。
﹁私も付いて行きたいです﹂
少しの間、考え込んでいたが、私から杖を没収すると、許可してく
れた。
﹂
﹁なら、ロンを探しに行きましょうか。それから、私から離れないで
よ﹂
﹁はい
ハーマイオニーが久しぶりに頼もしかった。
256
?
ハーマイオニーは、私の手を握って、寮を出て行った。
!
23話 終わり
﹂
∼クロア視点∼
﹁やっと見つけた
﹂
私たちが、ロンを探し始めて、それなりに経ったとき、ようやく校
庭で、ロンを見つけた。
のだが、
﹁ハーマイオニー、様子がおかしくないですか
﹁ロン、スキャバーズが逃げてたわよ、それから、こちらの人は
この人は....だれ
?
声が、残響していた。
﹁お、追いかけなきゃ
﹂
私もハリーもハーマイオニーも、呆然と立ち尽くす中、ロンの叫び
いつの間にか、さっきまでいた、汚い身なりの男性は消えていた。
て、引きずられるように、連れていかれた。
いや、どこから来たのかは分からないが、巨大な犬に、噛みつかれ
直後、ロンが消えた。
ハーマイオニーが、ロンにネズミを差し出しながら聞いている。
かは知らないけど、ピーターを出せって、なんか危ない人っぽいんだ﹂
﹁ハーマイオニー、クロア、もう大丈夫なのかい
﹂
極力、彼らを見ないようにしながら、ハーマイオニーに付いて行く。
なにやら、成人ぐらいの汚い男性と言い争っているように見える。
?
?
ハーマイオニーも頷いて、ハリーと、犬が消えた方向に向かう。
ハリーが、慌てて叫ぶ。
!
257
!
私は、どうしたらいいのか分からず、呆然としていたが、置いて行
かれたくなくて、ハーマイオニーに付いて行く。
犬の消えた場所、暴れ柳と呼ばれる木の根元を見てみると、隠し通
路のようなものがあった。
﹁この中に消えたのでしょうか﹂
﹁そうみたいね、入ってみましょうか﹂
ハリー、ハーマイオニー、私の順で、通路を進んでいく。
通路の先は、ボロい屋敷につながっていた。
﹂
不気味な声もするが、私たちは、すでにそれどころではなかった。
﹁ロン
ハリーが叫ぶ。
ハリーの視線の先には、遠く離れた場所に、
ロンが倒れていて、もう一人、おそらくさっきの汚い身なりの男性
﹂
であろう人物がいた。
﹁ロンを返せ
距離は十分にある、これなら会話もできるだろう。
おそらく、この様子だと、私達を傷つけるつもりはないのだろう。
先ほどから話にあがるピーター、と言うのは誰だろう。
﹁こいつはすぐに返そう、だが、ピーターを見つけてからだ﹂
にゆっくりと振り返る。
ハリーが杖を構えたままそう叫ぶと、汚い身なりの男性は、こちら
!
258
!
﹁名前を聞いてもいいですか
﹂
私は、今までの経験だと、成功率が極端に低い説得を始める。
﹁シリウス、シリウス・ブラックだ﹂
﹂
やはり、こちらに害意は無いのだろう、男は素直に答える。
これなら、何とかなりそうか
と、思っていたが、
﹁お前が....お前がシリウス・ブラックか
たような気が....
﹂
シリウス・ブラック
﹁お前が、僕の両親を裏切ったせいで
どこかで聞い
?
うと、ハーマイオニーも杖を構える。
かわ
私とブラックの間に立つハーマイオニーの背中に、小さくお礼を言
即座に、ハーマイオニーが私の視界を塞ぐ。
そのまま、人の姿に戻る。私の近くで、
しつつ、ハリーの前に移動すると、器用に、口でハリーの杖を奪う。
が、ブラックは、さっきの巨大な犬に変身して、ハリーの魔法を躱
から、魔法を使い、ブラックを攻撃している。
ハリーは杖を持っているという、リーチの差を使い、離れたところ
いくハリー
必死に思い出そうとしていた私の横で、怒りのボルテージを上げて
!
なぜ怒っているのだろう、ん
ハリーが憤怒の表情を浮かべて、ブラックを睨んでいた。
!
?
?
﹁ハーマイオニー、彼に害意はありません﹂
259
?
﹁クロア、あなたは知らないかもしれないけど、シリウス・ブラックは、
﹂
どこでシリウス・ブラックを見たか思い出した、いつかの新聞
アズカバンを脱獄した、大量殺人鬼よ
﹁ハーマイオニー
﹂
そして、蹴り飛ばされる。
対して、魔法を使う。が、ハリーと同じように、躱されて、
早口で、私にそう言ったハーマイオニーは、シリウス・ブラックに
で見たのだ。
あ
!
ク....シリウス・ブラックか
回..............
回.......................
そして、いつか、私の鼓膜を震わせるモノは、
なれ ひとごろし
なんでおまえがいるんだ おまえがいなければ さっさといなく
再生された記憶の中で、やけに鮮明に空気が、私の鼓膜を震わせる。
回.................................
回.......
一回、二回、三回、四回、五回、六回、七回、八回、九回、十回.....
再生された記憶の中の拳が振り落ろされる。
そして、
もう同じ間違いだけはしたくない。
でも、これは記憶のはずだ。
私はこんな風に身体が痛かったな。
私はこんな風にあの男に、暴力を振るわれていたな。
ああ、そうだったな。
....記憶....今なら、ほとんど鮮明に思い出すことが出来る。
どことなく雰囲気があの男に似ているような気がする。
?
目の前で、私を身長差のせいで見下すように立つ、シリウス・ブラッ
気絶しているハーマイオニーに、ハリーが叫ぶ。
!
肺から、空気を絞りだすような音と、骨と骨がぶつかるような音、苦
260
!
しそうな呼吸の音、空の木箱に、ナニかが激突するような音だけに
なった。
身体中を包む激痛、身体が満足に動く日なんてなかった。
決まって毎日のように、私を無言で殴り、蹴る。
私の中のナニカが壊れる音がした。
夢の中
現実
関係ないじゃないか。
そんな、ハイイロの世界の中、私は思う。
これは記憶の中
どれも......同じだ。
?
タリと止まった。
﹁私を、殺してくれませんか
ニーの元へ向かい、身体を揺すり、彼女の意識を戻す。
シリウス・ブラックを一瞥すると、まだ、気絶しているハーマイオ
いちべつ
やっぱり頼れるのはハーマイオニーだ。
なかなか、殺してくれる気配はない。あまり使えない人のようだ、
私と、シリウス・ブラックの視線が交錯する。
生への欲求が消えたからか、怖くも何とも無かった。
い。
るだろうし、もしかしたら苦しまないように殺してくれるかもしれな
どうやら、目の前の男は大量殺人鬼らしい、なら確実に殺してくれ
口は勝手にスルスルと動く。
出来るだけ、苦しまないように﹂
不思議と、答えを見つけ、その手段を意識した時、記憶の再生はピ
きは、人を頼ればいい。
そして、その手段も、答えさえ分かれば、簡単なもので、困ったと
簡単だ、簡単な答えだった。
私はこんなのイヤだ、だから逃げる。
辛い、なら、逃げたっていいじゃないか。
たとえ、それが夢でも現実でも、記憶だとしても、今の私は苦しい、
?
?
261
?
﹁ハーマイオニー、私を助けてください。まだ杖はあるのでしょう
﹁クロ....ア
﹂
って言われても、秀才のハーマイオニーが分か
何を言っているの
なんて、信じていたのに、彼女は
きっと、優しいハーマイオニーならやってくれるはずだ。
るのはハーマイオニーだけみたいなので﹂
私の物が、それで、私が死ぬまで魔法を使うだけです。どうやら頼れ
?
だろう。
?
﹁ル、ルーも、何やってるのよ、クロアを護りたいんじゃないの
﹂
クロ
何を言っているのだろうか、私が助かる方法なんてそれぐらいの物
﹁助けるって、でもさっき....私にあなたを殺せって﹂
﹁だから、私を助けてください﹂
らないはずがないのに、何で聞き直すのだろう。
何を言っているの
?
誰だろう。そんな奴、私の記憶にはいなかったけど....
アの意思より優先してでも
ルー
!
﹂
私は死ねればもうどうだっていい、死ねさえできれば....
﹁ハーマイオニーは、私を助けてくれないのですか
......私は逃げることさえ許されないのか。
..私が一体何をしたって....
?
262
?
?
まあいいか、ルー、と言うのが、誰だか分からないが、関係はない。
?
・
・
・
・
﹁あっ....﹂
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
私の中で何かが崩れて行っている気がする。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
そして、私の中に、隔離されていた記憶が流れてくる。
それと、もう一つの私の記憶もだ。
﹁あ.....ルー、と言うのはあなただったのですね。どうせ、消えてい
ねえ、本当にどう
くのなら、私を殺してからにしてくれればいいのに﹂
﹂
﹁クロア、何を言っているの ルーが、消えていく
しちゃったの
?
﹁あれ....私は..ルー....ダメ
その記憶で、全てが逆転した。
マズイ、ルーが崩壊している。
待って、まだ消えないで
﹂
!!
﹁ルー
﹂
私は、急いで、精神の中に入る。
せる。
その記憶は、私にとっての私自身の価値も、ルーの価値も、逆転さ
!
なにか、たった一つの記憶が流れてきて、全てがひっくり返った。
﹁どう....って、言われましても..答えを見つけ.......あ﹂
?
た。
違いはただ一つ。その髪は、私の髪の様に真っ黒だった。
今崩れられるともう直せない。
263
?
そこにいたルーの姿は、いつか見たひびだらけのルーに酷似してい
!
・
・
・
・
・
・
・
﹁まだ、ですよ。まだ私は、あなたの事を許していませんだから、勝手
に逃げないでください﹂
自分でもどの口が、と思う。だが、それどころではない。
私に流れ込むルーの記憶が正しければ、
今の私に使えない理由は無い。
・
・
・
・
・
・
﹄﹂
右手を顔の右半分に、左手はルーの頭に。
・
﹁﹃セパレーション
・
・
ルーの中の負の感情を私の中に隔離する。
気分が悪い、吐きそうで、精神的にも、苦痛を感じる。
だが、その苦労の分の成果はあったみたいで、ルーの髪は、もう真っ
白だ。
やっぱりそうなるか、危ないところだった。
地面に座り込んで、ルーの様子を眺めていると。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
ルーは、ハッとしたような表情で、私を見て、溜息を吐く、
・
﹁全部話してください。もういいんですよね﹂
﹁うん、もういいよ。もう、私は疲れたし﹂
私は疲れちゃったから﹂
一応、私も大体は覚えているが、やはり、張本人の口からも聞いて
おきたい。
﹁やはり、諦めるのですね﹂
﹁うん、もう、大丈夫でしょ
﹁....それじゃ、話すよ﹂
?
264
!
・
・
・
・
・
・
ぽつり、ぽつりと、忘れるはずの無い記憶を語りだした。
﹁あなたの記憶は、多分五歳の時からだよね﹂
頷く。私が自我を持ったのは、五歳の時だ。それも、物心とかでは
なく自我だ。
﹁私は、生まれてから、五歳まで、ずっと虐待を受けてたんだよ、それ
が嫌で、もう耐えたくなくって。
そんなとき、私の..意志の魔法、セパレーションが使えるように
・
・
・
・
・
・
・
・
・
なって....当時は意識して使ったわけじゃなかったけど。
・
・
・
・
・
・
私は、それで私を二つに分けて、あなたを私の中から隔離したの。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
265
それで、あなたを身代わりに、私は心を閉ざした。
そこからは、あなたも知ってるように、八歳の時にあの男が首を
・
吊って、祖父に引き取られたんだけどね。
私は、なぜ私が表に出られないのか不思議だった。
その時は、あなたが、いるせいで出られないんだって、ずっと思っ
てた。
・
・
・
あなたがカチューシャを付け始
そして、トラウマを持っていて、祖父とコミュニケーションを取れ
ないあなたを、本気で憎んでた。
・
でも、九歳の時....だったっけ
・
・
....私は、その時ようやく気付いたの、あなたが受けた傷の重さ
けど。
まあ、あなたにはその代わり、私の中の負の感情が行ったみたいだ
らね。
トラウマだけを私に植え付ける、なんてしたら私は私を保てないか
を背負うことになった。
あの魔法具のせいで、私は、全てのトラウマと、あなたの正の感情
めた時期だよね。
?
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
と、私が表に出られない理由に。
当時の私は、すごく後悔して、あなたの気持ちを考えずにあなたの事
を憎んでた私を許せなかった。
だって、全部私が悪かったんだもん。
当たり前だよね、もともと同じものを分けた私たちが、それに追加
でトラウマを持ってたクロアを押しのけて表に出られるわけがない
のに。
それから、私は私の間違いに気づいて、私はどうするべきなのか、っ
て考えてた。
本当は、今だから言えるけど、あなたが、男性に近づくだけでも怖
かったし、寝る度に悪夢を見た。
私の心のよりどころは、あなただけだった。
あなたを護る、そんな目標さえが無いと、耐えられなかった。
全部私が悪いんだ、って自分を責めて、あなたを護らないといけな
いんだ、って自分に言い聞かせて、それでもなお揺れる心を無理に動
かして....
でも、もう必要ないよね、私はもう、罪悪感すら薄れてきちゃった
し。
もう、私はあなたを護ることに疲れちゃった......﹂
....概ね、私の知った事と同じだ。
そして、私の予想が正しければ、おそらくあと一つ、ルーは私に言っ
てない事があるだろうが、今は、別の問題がある。後回しだ。
﹁また、後でしっかりと話しましょう﹂
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
ルーは無言で私が精神の中から消えるのを待っていた。
寂しそうな表情を浮かべながら。
本当に、ルーは嘘が下手ですね。
266
意識を現実に戻した私は、周りの状況を確認する。
....あれは、ルーピン先生だろうか、いつの間にか、ルーピン先生
とブラックが、ネズミを挟んで向き合っていた。
なにやら、仲良さげに話しているが、何を話しているのか、遠すぎ
て、私には聞こえない。
それから、いつの間にか、傷だらけのロンとハリーも近くにいた。
﹁ハーマイオニー、あれから、どうなりましたか﹂
ハーマイオニーは、なぜか、泣きそうな顔で私を見る。
・
....そういえば、さっきまで、私は﹃殺してくれ﹄なんて言ってた
んだった。
﹁すいません、もう大丈夫です。私も、すべき事を見つけましたから﹂
﹁そう、なら、大丈夫そうね﹂
ハーマイオニーの私を見る顔に、
私は、自信をもって強く頷く。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
∼クロア視点∼
結局あの後、ロンのペットであった、スキャバーズが、実はピーター
と言う中年のおじさんだったり、
大量殺人犯はシリウス・ブラックでは無くて、スキャバースこと
ピーターだったり、
いろいろとあったが、それは置いといて......
﹁また、来ましたよ﹂
私は、精神の中にいた。
267
﹁どうしたの
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
もう私は話すことなんて無いと思うけど﹂
・
その記憶に掛けた意志の魔法が弱まる
﹁あなたは、自身を存在ごと世界から隔離しようとしていますよね。﹂
ルーの目が見開かれる。
﹁な、なんで....分かったの
はずがないのに﹂
くだろう。
・
・
ンスを取るためだ、正の感情が欠ければ、彼女は自我から崩壊してい
そもそもルーが正の感情とトラウマの二つを持っていたのは、バラ
情は生まれます。﹄いつかの私の言葉が頭をよぎる。
﹃正の感情があるから幸せになるのではなく、幸せだからこそ正の感
ありません﹂
﹁崩壊して、あなたと私でトラウマが分かれる。別に大した問題じゃ
﹁でも、仕方ないんだよ、このままいけば私は....﹂
そう言うと、ルーは俯き、私から目を逸らす。
言ったでしょう、﹃勝手に逃げないでください﹄と﹂
す。
なんでそう思うか、予想もつく、でもね、それだけはさせない。﹄で
あなたが何を考えてるかなんて私が分からないわけがないの。
﹃ダメだよ、それは絶対に、許さないし、させないよ。
あなたの言葉を借りるなら。
﹁そうですね、別に、ただの予想ですよ。
?
そして、彼女が持っていたのは、トラウマの記憶だ。
268
?
ほぼ半自動的に負の感情も湧き続ける。
そうしてバランスを崩した彼女を襲うのは、崩壊だろう。
そうなれば、自我が消え、残ったのトラウマの記憶は、きっと、私
あなたは、幸せを知りながらこれを耐えられ
が所有することになるのだろう。
﹁大した問題じゃない
るの
!?
﹂
あなたに漏れ出てたのは、ほんの小さな
!?
﹁体験
﹂
!
私は..もう耐えられない....だったら、もう終
!
﹁そうだよ
私は
﹁それでも、それはあなただけに背負わせる理由にはなりません﹂
カケラだけなんだよ
本気で言ってるの
が、それはあなたにすべてを負わせる理由にはなりません﹂
﹁体験は、今までに何度かしました、耐えられるか、など分かりません
必死に叫ぶルー。
の
そんなの、あなたは体験したことないから分からないだけじゃない
!?
?
いるのですか。
三度目になりますが
!
!
......だって、私が壊れちゃったら、ずっと、この記憶が付きま
﹁あなたには関係無い
勝手に逃げないでください﹂
﹁そうだよね。ではありません、何勝手に一人で終わらせようとして
やっぱりルーも私も元が同じなだけある。結論はそこか。
わらせればいい、私ごと終わらせれば、全部解決。そうだよね﹂
!
269
!?
とってくるんだよ
ああ、もう、本当に
あなたは
﹁何勝手に自己解決しているのですか
もう、私とあなたは同等です
ですか
いつまで私の姉のつもり
!
そんなことないよ。
いつまで私の保護者気取りになっている
﹁違う
私は、大丈夫、もう....もう悩まない。
!
....あなただって、護ってほしいのではないのですか
﹂
私の事まで、さっきから....勝手に決めつけないでください‼
﹃話すことなんて無い﹄﹃耐えられない﹄﹃関係無い﹄
!
?
ウマさえなくなれば、私が私を許す。それでいいじゃん....﹂
今しか逃げられないの。お願い。もういいでしょ、あなたからトラ
?
本心からだから
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
だから、私はあなたを護るために、意志の魔法を使う
・
・
・
・
・
・
・
・
だって、私はもう、あなたを許しています。
ですが、逃げるのは許しません。
だって、私だって....あなたの事を、護りたいんです
﹂
私はもう、大丈夫です。あなたが、私を護る必要はない。
﹁ルー、よく聞いてください。
ここだ、ここが一番のチャンスだ。
ために彼女は、効果の薄れてきた魔法を使おうとする。
・
そう自分に言い聞かせるように、叫びながら、自身を世界から消す
﹂
私はあなたに嘘はついてない、それに、私があなたを護りたいのは、
!?
!
!
270
!
!
このタイミングなら、一番効果的に攻撃できるだろう。
事実、首を横に振りながらルーは、
....な ん..
﹁ちがうっ、私は....私はあなたを護れさえすれば、もうそれでいい
の、
だから私は、決心が鈍る前にはやく消えるっ
﹃セパレーション﹄
..........
......
..あ れ....な ん で....な ん で..使 え な い の
で....﹂
呆然とつぶやくルーを見て、内心、胸をなでおろす。
全て賭けだった。
最近のルーには、私を護ることを自身に強制するような言動が多
かった。
それと、同時期にルーの意志の魔法が弱くなり、意志の魔法が、使
用者の意志を糧にしている。
そして、私のため、と言っておきながらも、ルーの方にも利益が大
きな使用用途。
なら、そこに関係してくるものは、使用者の使用目的への意志、で
はなく、使用者の意志だ。
つまり、意志の魔法の使用者が、朝ごはんに、パンを食べたいと強
く思っている時に、米を出そう、と思い、意志の魔法を使うと、パン
を食べたい気持ちを糧に意志の魔法が使用される。
と言うことだ、だったら、なんでもいい、ルーの強い願望、目標を、
消す、または、妥協させればいい。
それだけで、すでに弱まってきていたルーの意志は、意志の魔法を
使えなくなるまでに弱るだろう。
﹁それがあなたの返事ですよ。
271
?
!!
あなたは逃げられないんですよ。
あの男からは....私だってそうです。
なら、助け合えばいいだけです。
私だって、その記憶で苦しんだ時も、それ以外の事で苦しんでも、
ハーマイオニーや、あなたに助けられました。
だからこそ、私は困ったときは、誰かに助けてもらえばいい、と結
論付けます。
ですがあなたは、誰にも助けてもらえなかった、それだけです。
あなたは知らない、たったそれだけ、それだけなんですよ。
だから、私が教えてあげます。
私が、あなたを助けます。
私が、あなたを護ります﹂
﹁....私を..助けてくれるんだったら、あなたも、使えるよね、意志
の魔法、それで私に全部押し付けて私を消して﹂
ルーも私もやっぱり基本的な部分は同じだな。
﹁ルー....泣きたいときは、泣いても良いんですよ。そんな顔してま
で、こらえなくても、いいんですよ。
.....あなたは私、私はあなた、根本的には同じです。
同じはずなのに、私は救われてしまった、あなたは救われなかった。
なら、私があなたに分けます。
私たちは、もう同等になります。
私が....あなたを、救います﹂
やっぱり、私もルーもあまり変わらない。
そう、思いながら、私は、涙をこらえようとして、こらえきれず、俯
いたまま無言で涙をぽろぽろとこぼし続けるルーを、
しっかりと抱きしめ、頭に手を置く。
それだけで、ルーは大声で泣きだした。
272
私も涙を流していた、今更ながら気恥ずかしくて、でも何となく、ど
うでも良くなって、私も大声で泣く。
一人の身体で、二人だけの世界で、二人だけが泣いていた。
273