概要 - 政策研究大学院大学

地域による学校支援充実のための方策
―埼玉県における学校応援団の事例から―
(概要)
MJE14701
鈴木
裕一
【要旨】
埼玉県では、学校応援団が全小中学校で組織化されており、地域全体で学校教育を支援する体制づくりが全県的に推進
されている。一方、コミュニティ・スクール及び類似制度を導入している自治体及び学校は数少ない。本研究は、学校応
援団とコミュニティ・スクール及び類似制度を一体的に取り組むことにより、相乗効果が得られるのではないか、という
問題意識に基づくものである。
本研究では、学校応援団を検証評価したうえで、コミュニティ・スクール及び類似制度を導入している自治体及び小学
校を訪問し、それぞれの取組や成果、課題等についてインタビュー調査を行った。調査の結果から、コミュニティ・スク
ール及び類似制度を導入することにより、学校応援団の取組がより充実すること、地域連携が強まること等を確認できた。
この結果をもとに、埼玉県教育委員会に対し「学校応援団事業 10 年点検の実施」、市町村教育委員会に対し「コミュ
ニティ・スクール等の検討」、学校に対し「学校応援団会議の充実」を提言した。
第1章
研究の概要
学校を支援するため、学校が必要とする活動について地域
1.1 研究の背景
の人々をボランティアとして派遣する組織で、いわば学校
1.1.1 はじめに
の応援団というような性格をもつものである。地域住民が
平成 18 年に全面改正された教育基本法 13 条には、
「学
学校を支援するというこれまでの取組をさらに発展させ
校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそ
て組織的なものとし、学校のニーズと地域住民のパワーを
れぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び
継続的に調整・合致させることで学校の諸問題の解決と子
協力に努めるものとする」との規定が新たに設けられ、学
供の成長発達を支援することを趣旨とするものである1。
平成 25 年度までに、全国 619 市町村に 3,527 本部が設
校・家庭・地域とのつながりが重要視されている。
学校教育をめぐる環境は、近年目まぐるしく変容しつつ
あり、より複雑化・困難化している。いじめや暴力行為な
置されており、全公立小学校の 28.5%、全公立中学校の
27.7%で実施されている2。
どの問題行動の発生、不登校児童生徒数の増加、特別支援
学級・特別支援学校に在籍する児童生徒数の増加に加え、
1.1.3 コミュニティ・スクールの概要
教員の勤務負担の問題等、学校のみで対応していくことは
平成 16 年 6 月に、「地方教育行政の組織及び運営に関
困難であると言える。また、超少子化・高齢化の進展、共
する法律」が改正され、コミュニティ・スクールが制度化
働き世帯、一人親世帯、独居老人の増加、核家族化、地域
された。
佐藤(2010)は、学校運営協議会設置の意義は、①地
のつながりの希薄化等、子供たちを取り巻く地域力が衰退
域のニーズを反映させた教育活動を展開すること、②地域
している。
平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災を通し、
ならではの特色ある学校づくりを展開すること、③保護
学校と地域のつながりがいかに大切であるかが再認識さ
者・地域住民に対する説明責任を果たすこと、④保護者・
れ、学校を核にした地域コミュニティの形成や、学校と地
地域住民が学校教育について自覚と意識を高めるように
域の連携体制の確立は、教育改革を構想するうえで欠かす
すること、⑤学校を核とした地域社会づくりの広がりが期
ことはできない課題とされており、国でもこれらの取組を
待されることなどの点にあるとしている3。
平成 26 年 4 月 1 日現在、42 都道府県、187 市区町村、
推進している。学校支援地域本部やコミュニティ・スクー
ルといった地域連携による教育事業は、こうした方策に位
幼稚園 94 園、小学校 1,240 校、中学校 565 校、高等学校
置付けられる。
10 校、特別支援学校 10 校が指定されている4。
1
1.1.2 学校支援地域本部事業の概要
2
平成 20 年度から始まった国の学校支援地域本部事業は、
3
4
-- 11 --
笹井宏益(2011)、p.18
文部科学省(2013)、p.67
佐藤晴雄(2010)、p.5
文部科学省(2014)
1.2 研究の目的
を達成している。また、中学校においても平成 20 年度の
国では、学校支援地域本部とコミュニティ・スクールの
33%から、
平成 25 年 2 月 1 日には 100%を達成している。
一体的な取組を推進している。埼玉県では、学校支援地域
学校応援団は、保護者や地域住民が小中学校を支援して
本部事業の取組につながる学校応援団はすべての小中学
いくために設立された組織である。学校への支援はボラン
校で組織化されている一方、コミュニティ・スクールはわ
ティアという形で行われており、その中から選出された人
ずか 2 市 3 校しか導入されていない現状である。
が「学校応援コーディネーター」を務め、学校とボランテ
平成 25 年度文部科学省委託調査研究報告書によると、
ィアとの間の橋渡しをすることになっている。
教育委員会がコミュニティ・スクールを指定していない理
由として「地域連携がうまく行われているから」
、
「評議員
2.2 学校応援団の成果と課題
等の類似の仕組があるから」、
「すでに保護者や地域の意見
埼玉県教育委員会(2014)によると、地域人材の活用とい
が反映されているから」、
「学校支援地域本部等が設置され
う観点から、小中学校において成果が出ていると認識され
ているから」といった「不要感」を指摘した回答が多い5。
ているのは「子供に社会性が身に付いた」
、
「子供が学習に
一方、同報告書によると、学校支援地域本部と学校運営
意欲的に取り組むようになった」、
「子供の多様な体験や経
協議会の併置によって相乗効果が得られるか、という質問
験が増えた」などである。
に対し「そう思う」と回答した学校は全体の 18.8%、「あ
また、学校と家庭・地域の連携という観点から、小中学
る程度そう思う」が最も多く 34.5%、「あまりそう思わな
校において成果が出ていると認識されているのは「学校と
い」が 23.3%、「そう思わない」が 7.1%、「わからない」
家庭・地域との連帯感が強まった」
、
「保護者や地域の方の
が 15.7%となっており、約半数の校長が相乗効果を得られ
学校に対する信頼が深まった」
、
「教師が、子供を地域ぐる
ると考えている6。
みで育てているという意識を持つようになった」などであ
このような現状から筆者がもった問題意識は、埼玉県の
る。一方、小中学校で回答に差の出た項目は、
「応援団の
学校応援団とコミュニティ・スクール及び類似制度を一体
方から、学校の教育活動における支援に『生きがい』や『や
的に取り組むことにより、相乗効果が得られるのではない
りがい』などを感じるという声が聞かれるようになった」
か、ということである。
というものである。小学校で肯定的な回答が多い理由は、
本研究では、埼玉県が推進している学校応援団事業の成
通学路の見守りをはじめ非常に高い頻度での学校と家
果と課題を明らかにしたうえで、コミュニティ・スクール
庭・地域との交流があり、学校応援団の活動が日常生活の
及び類似制度を導入した県内自治体及び学校へヒアリン
中に浸透していることが考えられる。
グを行う。これにより、学校応援団に加えてコミュニテ
学校応援コーディネーターと連携していく上での課題
ィ・スクール等を導入することによる効果を検討する。
として、
「学校側が多忙で、十分に打ち合わせができない」、
「コーディネーターが多忙で、十分に打ち合わせができな
1.3 先行研究
い」という回答が、小中学校ともに多かった。
学校・家庭・地域の連携に関する研究、学校支援ボラン
また、学校応援団づくり及びその推進にあたって苦労し
ティアに関する研究、学校支援地域本部事業に関する研究、
た点としては、
「学校支援ボランティアを集めること」が
コミュニティ・スクールに関する研究は多くある。
小中学校でともに最も大きな課題となっている。また、学
一方、埼玉県の学校応援団とコミュニティ・スクール及
び類似制度の一体的な取組に関する研究はほとんど見ら
校応援コーディネーターに関しても、その人物の確保や活
動場所の確保が今後の課題として認識されている。
れない。先行研究では分けて語られがちなそれぞれの分野
について、一体的に検討していくことに本研究の意義があ
2.3 地域の参画状況における都道府県間比較
平成 26 年度全国学力・学習状況調査の学校質問紙には、
るといえる。
地域人材の活用における調査項目がある。
第2章
埼玉県の学校応援団事業について
ボランティア等による授業サポート(補助)をよく行っ
2.1 学校応援団の概要
たと回答した埼玉県の小学校の割合は全国 1 位、同中学校
平成 17 年度からの「元気な学校をつくる地域連携推進
は全国 4 位である。PTA や地域の人が学校の諸活動(学
事業」の展開を経て、平成 20 年度以降は「学校応援団推
校の美化など)にボランティアとしてよく参加してくれる
進事業」として、全小中学校を対象に学校応援団が組織化
と回答した同小学校の割合は全国 2 位、同中学校は全国 2
された。学校応援団の組織率は、小学校において平成 17
位である。学校支援地域本部などの学校支援ボランティア
年度当初は 1%であったが、平成 24 年 2 月 1 日には 100%
の仕組により、保護者や地域の人が学校における教育活動
や様々な活動によく参加してくれると回答した同小学校
5
6
日本大学文理学部(2013)、pp.380-407
同上、p.98
の割合は全国 2 位、同中学校は全国 1 位である。保護者
-- 22 --
や地域の人の学校支援ボランティア活動は,学校の教育水
第4章
準の向上に効果があったと思うと回答した同小学校の割
4.1 調査の方法
合は全国 3 位、同中学校は全国 2 位である。
インタビュー調査
コミュニティ・スクール及び類似制度を導入している自
以上により、埼玉県では地域の参画状況における学校の
意識が高いことが分かった。
治体及び学校へインタビュー調査を実施した。教育行政と
教育現場の当事者、学校運営に関わっている地域住民の認
識を明らかにしていく。
第3章
埼玉県の新しい連携事業
3.1 コミュニティ・スクール指定状況
4.2 新座市
4.2.1 新座市教育委員会
①川口市の取組
平成 19 年 9 月に学校評議員、町会長、主任児童委員、
新座市教育委員会学校教育部副部長兼学務課長兼指導
PTA 会長、後援会長、校長、教頭等をメンバーとした第 1
主事、学務課副課長兼指導主事、学務課指導主事にインタ
回目の勉強会を立ち上げ、以後 5 回開催された。平成 21
ビューを実施した。
成果として、学校運営協議会委員として地域の方、PTA、
年度に川口市立飯仲小学校でコミュニティ・スクールが埼
玉県で初めて導入された。
あるいは学校応援コーディネーターに依頼したことによ
②新座市の取組
り各種の協力体制がつくりやすくなったこと、また説明会
平成 20 年度に京都市教育委員会、平成 24 年度に岡山
などを通して多くの PTA、保護者、地域の方々にコミュ
市教育委員会へコミュニティ・スクールをテーマにした教
ニティ・スクールへの理解を進めることができたというこ
育行政視察を行い、導入に向けて検討が行われてきた。平
と、そして一番大きなものは学校運営協議会の委員たちの
成 25 年度に新座市立野火止小学校、平成 26 年度には新
中で、校長と同じ目線で物事に対応していこうという一体
座市立陣屋小学校でコミュニティ・スクールが導入された。
感が生まれたことを挙げている。
3.2 コミュニティ・スクールに類似した取組
る時間的な制約を挙げている。
課題として、地域、保護者への広報活動、会議等を進め
①富士見市の取組
富士見市ではコミュニティ・スクールと同様の理念で学
4.2.2 新座市立野火止小学校
校運営支援者協議会を導入している。平成 23 年 4 月 1 日
に「富士見市立学校『学校運営支援者協議会』モデル校実
新座市立野火止小学校校長と学校運営協議会会長兼新
座市商工会事務局長にインタビューを実施した。
施要項」を施行し、平成 25 年 4 月 1 日に「富士見市立学
校『学校運営支援者協議会』実施要項」を施行している。
平成 25 年 4 月 1 日に学校運営協議会が設置され、委員
9 名で構成されている。
富士見市の学校運営支援者協議会とは、「学校の管理運
学校運営協議会では、学校応援団をより充実させるため
営に保護者や地域の支援を積極的に取り入れ、家庭・地域
にはどうすればよいかという話題になり、それぞれのボラ
の教育力を生かした『特色ある学校づくり』、学校の教育
ンティアが情報交換し、相互関係を深めていくための学校
方針や教育活動の理解を深めるとともに、保護者や地域の
応援団会議を平成 26 年度に新たに作った。また、ボラン
声を取り入れた『開かれた学校づくり』の推進のため保護
ティアの確保について話が出ると、委員が探しておくよと
者、地域住民、学識経験者等で構成した組織」である。
言ってくれ、協力してくれている。
②深谷市立豊里小学校の取組
連携事業を実施するうえでの留意点として、継続可能な
深谷市立豊里小学校では、平成 26 年 8 月 21 日に、
「深
谷市立豊里小学校 学校・家庭・地域運営協議会 規約」を
範囲で、教育効果が期待できるものに絞り込みながら、連
携を深めている。
作成し、「学校・家庭・地域運営協議会」を設置した。学
学校応援団の課題は、人材の確保を挙げている。学校運
校・家庭・地域運営協議会は、「学校長に、豊里小学校の
営協議会の課題は、委員のモチベーションを維持すること、
運営等に関して、地域の方々の意見・考えを聞いて学校運
行政の人的財政的支援を挙げている。
営に資する諮問組織」であり、「地域・保護者がそれぞれ
委員からは、登下校の見守りや声かけ運動など、地域が
の役割を担いながら、一体となって連携し、豊里小学校の
学校と完全に関わっており、学校と地域が一体となって連
児童の人格の完成を目指すこと」を目的としている。人事
携できていると感じている。高齢者が子供と関わっていく
や予算に関する権限はなく、最終的な決裁は学校長が行う
ことにより、高齢者にとっても張り合いができるし、健康
こととしている点で、コミュニティ・スクールとは異なっ
にもつながり、元気を子供からもらっていると感じている。
ている。
4.2.3 新座市立陣屋小学校
新座市立陣屋小学校校長と学校運営協議会委員兼学校
-- 33 --
応援コーディネーターにインタビューを実施した。
学校応援団の課題は、ボランティアをより充実させるこ
平成 26 年 4 月 1 日に学校運営協議会が設置され、委員
10 名で構成されている。
とである。学校運営支援者協議会の課題は、運営を工夫す
ることにより、話し合われた内容が学校運営に反映される
学校運営協議会では、ボランティアの確保についても話
こと、学校が情報を公開することを挙げている。
委員からは、学校応援団に多くの世帯が登録をしてくれ、
し合いが行われており、委員の中に前コーディネーターと
町内会長がいることにより、人のつながりからボランティ
無理なく楽しんでできていると感じている。
ア数が増えていると感じている。また、委員として地域住
民が学校に携わるため、学校と地域それぞれがお互いに頼
4.3.3 富士見市立勝瀬小学校
富士見市立勝瀬小学校教頭と学校運営支援者協議会委
みやすく、連絡しやすくなったと感じている。
連携事業を実施するうえでの留意点として、明確な方針
員兼学校応援団コーディネーターにインタビューを実施
した。
を校長が提示することを挙げている。
平成 23 年 4 月 1 日にモデル校として、学校運営支援者
学校応援団の課題は、よりきめ細かい学習支援となるよ
う学習支援ボランティアをより増やすことを挙げている。
協議会が設置され、委員 28 名で構成されている。
学校運営支援者協議会では、ビオトープを整備するため
学校運営協議会の課題は、議論を活性化させることや、学
ボランティアを募り、委員が地域内に発信し、連携を深め
校職員との関係を親密にすることを挙げている。
委員からは、保護者や地域住民がもっと興味をもっても
ている。また、環境整備ボランティアの運営方法について
らうことを課題に挙げている。子や孫がいない地域住民に
も改善案が出たりしている。学校運営支援者協議会では、
も学校に来てもらいたいと考えている。
学校からの一方的なお願いだけではなく、何か学校に求め
ることはあるか聞くようにしている。また、学校のことだ
4.3 富士見市
けでなく、地域の防災についても議論されている。
4.3.1 富士見市教育委員会
連携事業を実施するうえで、相互連携に留意している。
富士見市教育委員会学校教育課副課長兼指導主事にイ
学校が支援を受けるだけでなく、学校も地域の中で協力で
きることはするようにしている。
ンタビューを実施した。
成果としては、学校応援団の募集や方策を学校運営支援
学校応援団の課題は、学校応援コーディネーターとの話
者協議会で話し合ったり、話し合った内容を学校応援団が
し合いや、学校支援の依頼方法を挙げている。学校運営支
実行したりしている。学校応援団と学校運営支援者協議会
援者協議会の課題は、教員との情報共有を挙げている。
委員からは、学校から一方的ではなく、地域の情報も学
がお互いカバーし合っている。また、各関係者が持ってい
るノウハウや情報を共有できることを成果と感じている。
校へ行き渡るようになり、情報共有することで相互理解が
課題としては、意見を取り入れていく中で、教職員間で
図られるようになったと感じている。一方、学校応援コー
共通理解を図ることを挙げている。また、議論を活性化さ
ディネーターの担い手がいないことを課題に挙げている。
せることや学校応援団の人材確保を課題に挙げている。
4.4 深谷市
4.4.1 深谷市立豊里小学校
4.3.2 富士見市立関沢小学校
富士見市立関沢小学校教頭と学校運営支援者協議会委
深谷市立豊里小学校校長、教頭、学校・家庭・地域運営
員兼学校応援コーディネーターにインタビューを実施し
協議会会長兼学校応援コーディネーターにインタビュー
た。
を実施した。
平成 26 年 8 月 21 日に、学校・家庭・地域運営協議会
平成 23 年 4 月 1 日にモデル校として、学校運営支援者
が設置され、委員 15 名で構成されている。
協議会が設置され、委員 15 名で構成されている。
学校運営支援者協議会では、ボランティアの確保につい
学校・家庭・地域運営協議会では、地域は鼓笛隊に誇り
ても話し合いが行われており、各委員がそれぞれの組織に
を持っていることや、高齢者が活躍できる場があるとよい
帰って話をしてくれており、町内会の敬老会が平成 25 年
という意見が出ている。また、豊里小学校ネット使用 7
度から学校応援団のメンバーに加わった。また、ボランテ
つのルールを作成し説明することにより、学校・PTA・学
ィアの募集方法について、年 1 回から年 2 回へ増やした
校応援団が共通理解を図り、協働で対応している。
連携事業を実施するうえでの留意点として、学校が助け
らどうか、という意見が学校運営支援者協議会で出ており、
てもらうだけでなく、地域に貢献していくことを挙げてい
事業の改善がされている。
連携事業を実施するうえでの留意点として、学校運営支
る。学校が拠点となり、地域を盛り上げたいと考えている。
学校・家庭・地域運営協議会の課題は、議題が何もない
援者協議会で話し合われた内容を学校内と地域内で共有
していくことを挙げている。
と、話がばらばらになってしまうため、学校として何を話
-- 44 --
し合いたいか決めなくてはいけないことを指摘している。
5.3 学校応援団を充実させるために必要な視点
委員からは、学校応援団に母親だけでなく、父親や高齢
成果をもたらした要因は、幅広い多数の委員で構成され
者が加わり、活動が充実していることや、学校が地域の行
た会議で目標を共有することにより、相互協力していく土
事を積極的に受け入れてくれていることを評価している。
壌が築かれ、幅広い意見や支援を受けることができるよう
一方、管理職が変わっても、方針が変わることなく、継続
になったと考えられる。
して続けてほしいと考えている。
課題改善に必要な視点は、学校は方針を一貫させること
で学校と地域の交流を円滑化し、同時に学校の活動に対し
第5章
考察
て地域の人々が入ってきやすいオープンな環境を整備す
5.1 成果
ることである。地域としては、学校と地域が交流するよう
5.1.1 学校応援団の充実
な場に人々が積極的に参加していくことや、そうした場に
①ボランティアの確保
参加するだけでなく自分の意見を発信していくことであ
第 2 章の現状分析では、学校応援団の課題としてボラン
る。また、学校と地域のそれぞれの取組だけでなく、その
ティアの確保が挙げられていたが、コミュニティ・スクー
両者がともに目標を共有し、情報共有や協力体制の構築を
ル等でボランティアの募集が行われることにより、新たな
進めていくことが重要となる。
以下の表 1 は、学校応援団を充実させるために必要な視
人材を確保できた事例があった。学校運営協議会等は幅広
い分野の代表者で構成されており、地域に根付いている人
点をまとめたものである。
が多く、地域の情報をたくさん持っているためである。
表 1 学校応援団を充実させるために必要な視点
②学校応援団の運営改善
第 2 章の現状分析では、学校応援コーディネーターと十
学校
人材の確保、方針の一貫性
分な打ち合わせができないという課題が挙げられていた。
地域
活動への参加、積極的な意見発信
学校応援コーディネーターが委員となっているコミュニ
学校と
幅広い多数の委員で構成される会議の設置
ティ・スクール等では、学校応援団の運営についても話し
地域間
目標の共有、情報の共有、相互協力の形成
合いが行われ、より一層充実した取組になっている事例が
出典:著者が実施したインタビューから作成
あった。
第6章
5.1.2 学校と地域の連携強化
政策提言と課題
6.1 政策提言
第 2 章の現状分析では、
「学校と家庭・地域との連帯感
6.1.1 埼玉県教育委員会に対する提言
が強まった」という成果が出ていたが、コミュニティ・ス
「学校応援団事業 10 年点検の実施」である。第 2 章で
クール等により、地域との連携がより強まっている事例を
は、学校応援団事業の成果を明らかにしたが、課題も残さ
確認することができた。当事者意識の高まりや、情報共有
れていた。事業開始から 10 年という節目であるため、全
により相互理解が高まったためである。
県点検の実施を提案する。学校管理職だけでなく、教員や
学校応援コーディネーター、ボランティアを調査対象に含
5.2 課題
めることにより、学校応援団事業全体を点検する。
①ボランティアの確保
そのうえで、学校応援団事業の発展を目指すため、コミ
ボランティアの確保について、より一層充実させていき
ュニティ・スクールや類似制度の検討会を実施する。
たいと考えている学校が多かった。また、自治体へのイン
タビューでも同様の意見が出ていた。
6.1.2 市町村教育委員会に対する提言
②地域住民からの意見吸収
「コミュニティ・スクール等の検討」である。地域によ
まだ委員が遠慮しているという意見や、学校が議題を設
り実情はまちまちであるが、第 4 章では、コミュニティ・
定しなければ意見が出てこないという指摘、人によって異
スクール等を導入することにより、学校応援団の充実、地
なる意見を持っているため集約して制度に反映させるこ
域との連携強化につながる事例を確認することができた。
とが困難であるという声があった。
検討するにあたり、国のコミュニティ・スクール推進委
③その他
員の活用、校長や地域住民を交えた勉強会が考えられる。
その他の課題としては、管理職が変わっても方針を変え
ずに一貫した取組を行ってほしい地域住民の声があった。
6.1.3 学校に対する提言
また、情報の共有が円滑に進まず、校長や教員、地域住民
の間で理解に齟齬が生ずることなどが挙げられていた。
「学校応援団会議の充実」である。幅広い多数の関係者
から構成される学校応援団会議を設置し、学校の目標を共
有し、学校支援だけでなく地域についても話し合いを行う。
-- 55 --
これにより、相互連携を高め、幅広い意見や支援を受ける
ことで、学校応援団をより充実させていくことができるた
めである。また、学校応援団会議は、学校公開日や運動会、
文化発表会等の行事に付随して行うことを提案する。こう
した学校行事と同時に行う利点は、地域住民が会議のみで
なく学校のイベントに参加することができ、さらにもとも
と学校応援団の活動に意欲的でなかった人も学校行事を
契機に参加するようになることが予想されるためである。
充実を図った後、さらに安定的なシステムにするため、
長期計画の策定が必要である。これは、学校の運営者や学
校応援団の担当者が変わっても、運営の軸を一貫させてい
くことを意図している。比較的長いタイムスパンを見据え
て学校運営や地域との関わり方の方針を定めておくこと
により、属人的な要因に大きく左右させることなく安定的
に学校応援団を動かしていくことが可能となるためであ
る。
6.2 本研究の課題
本研究では、定性的な記述を基にしたインタビュー調査
であったため、数量データに基づいた実証的な研究は行っ
ていない。今後は、客観的なデータに基づいた分析が必要
になるだろう。
参考文献・参考資料
・埼玉県教育委員会(2014)
『「学校応援団」
「放課後子供
教室」実践事例集』
・笹井宏益(2011)
「学校・家庭・地域の連携協力の基本
原理にかかる考察―3 つの政策を分析して―」『学
校・家庭・地域の連携と社会教育』東洋館出版社、
pp.10-22
・佐藤晴雄(2010)
『コミュニティ・スクールの研究―学
校運営協議会の成果と課題―』風間書房
・日本大学文理学部(2014)『平成 25 年度文部科学省委
託調査研究報告書 学校の総合マネジメント力の強化
に関する調査研究 コミュニティ・スクール指定の促
進要因と阻害要因に関する調査研究』
・文部科学省(2013)『平成 25 年度文部科学白書』
・文部科学省(2014)
『コミュニティ・スクールパンフレ
ット(平成 26 年度)』
-- 66 --