伝統的な日本語研究と西欧言語学

伝統的な日本語研究と西欧言語学
音声・音韻研究は、西欧言語学に基盤を置いている。
一方、伝統的な日本語の研究は、江戸時代以前から五
十音図に基づいて行われている。
五十音図
五十音図は、日本語の音節の体系表で、縦に5字、横に10
字ずつ配し、計50字の仮名を収めた次のような図表である。
わ ら
ゐ り
う る
ゑ れ
を ろ
や
い
ゆ
え
よ
ま
み
む
め
も
は
ひ
ふ
へ
ほ
な
に
ぬ
ね
の
た
ち
つ
て
と
さ
し
す
せ
そ
か
き
く
け
こ
あ
い
う
え
お
五十音図の成立時期は、平安中期十世紀半ばごろとさ
れる。江戸時代には今日のものと同じようになった。
五十音図の名称は、江戸時代の国学者契沖に始まる。
濁音、半濁音、拗音、促音、撥音が入っていない。
五十音図は、明治に入ると小学校の国語教育の学習教
材として取り入れられ、辞典の見出し語の配列や名簿順
などに「五十音順」とか「あいうえお順」とか呼ばれて広く活
用されている。
清音・濁音・半濁音
清音:濁点または半濁点をつけない仮名で表される音節。
あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わの各行。
きゃ、しゃ、ちゃ、にゃ、ひゃ、みゃ、りゃなどの拗音の音節。
濁音は、清音に対立する概念。仮名の右肩に濁点をつけて
表される音節。
が、ざ、だ、ばの各行およびぎゃ、じゃ、びゃなどの拗音の音節。
清音と濁音の対立は、音声学的に見ると、音節の頭子
音についての概念である。
この清濁の対立は、音声学的には、無声、有声の対立と
なっている。
(例)
カ行子音[k]とガ行子音[g]
サ行子音[s]とザ行子音[ʣ]
タ行子音[t]とダ行子音[d]
しかし、ハ行子音[h]は、バ行子音[b]はそうした音声的対
応をもつとはいえない。
必ずしも整然とした対応関係をなしているわけではない。
音声学的には、バ行子音[b]は半濁音と呼ばれるパ行子
音[p]と対立する音である。
連濁:二語が連結する場合、後接する語の語頭の清音
が濁音化する現象。
旅人(たびびと)・草花(くさばな)
直音と拗音
直音は、仮名一字で表す音(音節)。撥音、促音を除く。
拗音とは、キャ、シュ、ギョなど、音節としては一つで
あるが、仮名一字にヤ、ユ、ヨを小さく右下に添えて、
仮名二字で書き表す音をいう。
音節
日常経験的に、春や夏を ハ・ル[ha・ru]、ナ・ツ[na・tsu]
のような単位に区切って発音する。
このような単位のものが集まって語を作り、文を作っている。
それらは単音の集合したものであるが、その言語を使用す
るごく普通の人において、それ以上短く分けられない一まと
まりの音声のことを音節という。
音節
別に言えば、音節は、日本語では、だいたい仮名一字
(拗音のように仮名二字で表すが、音声としては一つの単
位である。)で表される一まとまりの音連続が音節に相当
し、それを日本人は古くから音声上の最小の単位として
意識している。
・和歌、俳句
・いろは歌
・逆さ言葉
トマト ヤオヤ ナツマデマツタ ワタシマケマシタワ
日本語の音節構造の上から見ると、次のような種類がある。
① 1母音からなるもの
ア行の音
② 1子音+1母音
カ・サ・タ・ナ・ハ・マ・ラ・ガ・ザ・
ダ・バ・パの各行の音
③ 1半母音+1母音
ヤ行とワ行の音
④ 1子音+1半母音+1母音
キャ、シャ、チャ、ニャ、ヒャ、ギャなどの音。
*⑤ 特殊な単音からなるもの
ン(撥音)、ッ(促音)、―(長音)
拍(モーラ)
日本語の音節を時間的長さに着目して、一定の長さを持ち、
それ以上細かく分けられない単位を拍(モーラ)という。
日本 ニ・ッ・ポ・ン
ニッ・ポ・ン
ニッ・ポン
高校 こう・こう
こ・う・こ・う
日常談話での発音を観察すると、
ニッ・ポン
のように、特殊音は、原則として直前の音節と結合して、そ
の音節の部分となり、全体で一音節をなして実現され、音
節の切れ目はその直後にあると認められる。
しかし、非常にゆっくりと発音することもでき、 ニ・ッ・ポ・ン
のようにもなる。