JSA神奈川支部通信

日本の科学者
Vol. 47 No.2 2012 年 2 月 1 日発行 付録
JSA神奈川支部通信
JSA神奈川支部通信
No.2 February 2012 日本科学者会議 神奈川支部 発行
事務局長:〠252-0813 藤沢市亀井野 529-29 西岡啓二
☎ 047-647-5111 E-mail: [email protected]
ホームページ:http://members3.jcom.home.ne.jp/jsa-k/
この号の見出し
◆ シンポジウム「コンビナート問題の諸相」のお知らせ
事務局長
◆ 第3回「日本の科学者」読書会のお知らせ
西岡啓二
岸 文夫
◆ 研究例会「『低線量』放射線、内部被爆による健康障害」の案内 食糧問題研究委員会
◆ 宇宙の加速度膨張とダークエネルギー
◆ Nature 社説「仮面はずり落ちる The mask slips」
神奈川民間懇
秋村
理
訳
川崎
健
シンポジウム「コンビナート問題の諸相」のご案内
支部事務局長
西岡啓二
私たちは 3 月 11 日のテレビ報道で地震と津波のすさまじい破壊力を目撃しました。その
中に、宮城県気仙沼市の大火災と千葉県市川市で起こったコンビナート火災があります。
極めて大規模な災害に発展する可能性があるにもかかわらず、都市近郊に備蓄される石
油・ガスによる火災のリスクについてあまり議論されていません。今回神奈川のコンビナ
ート問題に携わってこられた鈴木浩平先生をお招きし、基本的な理解を得ようと思います。
鈴木先生の経歴:1942 年東京都生まれ。
北海道大学工学部機械工学科卒業。工学
博士。東京大学生産技術研究所、東京都
立大学、首都大学東京にて機械工学、地
震工学の研究・教育に従事。現在、東京
都立大学名誉教授。日本機会学会名誉会
員。2008 年より日本地震工学会会長、日
本クレーン協会会長。
日時:2月25日(土)13時から16時まで
会場:神奈川県商工団体連合会
221-0823
〒
横浜市神奈川区二ツ谷
町1-11(TEL 045-314-5551
FAX
045-312-5244)
1
交通:JR京浜東北線「東神奈川」駅西口下車
徒歩5分
プログラム:
13:00-14:00
鈴木浩平氏(東京都立大学名誉教授)
コンビナートの地震被害の特徴と耐震・防災対策のありかた
14:00-14:30
竹内康雄氏(川崎労連事務局次長)
危険な京浜コンビナートの実態と防災対策(仮)
14:30-15:00
濱田政則氏(早稲田大学)
15:00-16:00
総合討論
連絡先:西岡啓二(☎ 047-647-5111
講演依頼中
E-mail: [email protected])
講演概要:コンビナートの地震被害の特徴と耐震・防災対策のありかた
東京都立大学名誉教授
鈴木浩平
2011 年 3 月 11 日に生じた東日本大震災は、地震動による直接被害はもとより、引き続
き襲ってきた巨大津波、さらに人災ともいえる原子力発電所の壊滅的損傷と放射線漏洩に
より未曾有の大惨事となった。これらの被害状況の把握と解明はまだ始まったばかりであ
り、今後の作業に待たなければならないが、広大かつ大量の施設を持つコンビナート地域
を抱える神奈川の県民にとってはこの被災を教訓としてコンビナートの地震被害、津波被
害への対策や解決すべき課題を一刻も早く構築すべきとの声があるのは当然のことである。
この講演では、最初に発表者が長年関わって来た高圧ガス設備などのコンビナート施設
の地震被害の歴史的教訓とそれに対する耐震設計、防災対策の現状を述べる。次に。今回
の東日本大震災でのタンク火災やコンビナート被害例を示して、現時点で解明された問題
点と今後の課題について私見を述べる。最後に、神奈川県のコンビナートが有する地震対
策、津波対策について、特に重視すべき問題点についても考えてみたい。
第3回「日本の科学者」読書会のお知らせ
岸
文夫
第 3 回の読書会の予定ですが、次のようにしたいと思います。皆様の参加をお待ちして
おります。
日時:2012 年 1 月 28 日(土)
会場:プロミティあつぎビル
13:00〜15:00 ごろ
8階
C 会議室
交通:小田急小田原線、本厚木駅下車
テーマ
:47 巻 1 月号
徒歩 5 分)
特集「自然エネルギー元年」
皆様にお願いです。上記の特集は、次の6本の論文からなっています。
1.和田論文
「自然エネルギー社会への転換の重要性と可能性」
2.歌川論文
「原発縮小化の省エネ・自然エネルギー普及シナリオ」
3.豊田論文
「自然エネルギーに関する先進自治体の取り組み」
4.石田・南論文
「日本周辺海域における風力と潮流力エネルギー利用の可能性」
2
5.江原論文
「地熱エネルギー開発利用の可能性と課題」
6.阿部論文
「「新段階」に入った世界の自然エネルギー開発」
今回は、講演者をお招きしておりませんので、参加者それぞれが、感想を述べて、議論
する形にしたいと思います。できれば、興味をもたれた論文のレポートを用意して、ご参
加いただきたいと思います。
私は、和田論文、歌川論文のレポートを用意いたします。他の論文について、レポート
担当の立候補をお願いします。また、参加ご予定の方は、ご連絡いただけると助かります。
レポートは、10 部程度ご用意願います。参加者が多く見込まれる場合は、改めてお知らせ
いたします。
連絡先:岸 文夫(E-mail:[email protected])
研究例会「『低線量』放射線、内部被爆による健康障害」の案内
日本科学者会議食糧問題研究委員会
福島原発の事故で、農地や海洋が汚染され、一次産品とその加工品を通じた食べ物によ
る「内部被曝」が心配です。松井先生は、チェルノブイリ原発事故後の健康被害にも詳し
く、多数の知見をお持ちです。この貴重なチャンスをお見逃しなく、ふるって、ご参加く
ださい。JSA 会員も非会員の方も、ぜひ、誘い合わせてお運びください。
はなしのポイント:
「低線量」放射線が体の中に入った時、どんな作用を及ぼすか?とくに
胎児・子どもに与える健康への影響は?
広島・長崎、第五福竜丸事件、チェルノブイリ、
「劣化」ウラン弾被害などの事例にあたりながら、核兵器開発と原発の問題を検証する。
そして今回の東電福島原発事故が引き起こしたものは何か?
いのちを守るために、私た
ちが成すべき課題は何か?
講師プロフィール:元岐阜大学医学部放射線医学講座助教授、放射線医学、呼吸器病学専
攻、日本呼吸器学会専門医、日本肺癌学会および日本呼吸器内視鏡学会特別会員、 がん研
有明病院顧問、東京都予防医学協会学術委員。
日
時:2012 年 1 月 28 日(土)午後 1 時 30 分~4 時 30 分
会
場:東京・四谷
主婦会館 プラザエフ 5階
生協総合研究所第 1・2 会議室(主婦会
館 Tel 03-3265-8111)
交
通:東日本JR 四ツ谷駅 麹町口
前方左手に見える主婦会館
地下鉄 丸ノ内線 四ツ谷駅 出口①、同南北線 出口③
テーマ:「低線量」放射線、内部被曝による健康障害
講
師:松井英介 氏
岐阜環境医学研究所・座禅洞診療所 所長
3
徒歩 2 分
JR 麹町口へは駅員に
参加費:無料
申込先:日本科学者会議(JSA)東京都文京区湯島 1-9-15
- 1472
Fax
03 - 3813 - 2363
茶州ビル9階(Tel 03-3812
E - mail
[email protected]
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宇宙の加速度膨張とダークエネルギー
神奈川民間懇
秋村
理
昨年12月の民間懇例会で報告したものです。参考文献は以下の通り。
・文献①『重力』(ハートル)ピアソン・エデュケーション
2008年12月15日発行
4600
円
・文献②『ビッグバン』(佐藤文隆)ブルーバックス
1984年4月20日発行
・文献③『宇宙のダークエネルギー』(土居守・松原隆彦)光文社新書
740円
2011年9月20日発行
760円
第1章
ハッブルによる膨張宇宙の発見
1929年、ハッブルは、遠方の銀河が私たちから高速で遠ざかり、その後退速度Vは、私た
ちと銀河との距離rに比例し、遠方の銀河ほど速く遠ざかっていることを発見した。
V=H・r
(ハッブルの膨張則
H:ハッブル定数)
この発見は膨張宇宙の直接的な証拠となった。なぜなら、宇宙が全体として膨張してい
れば遠くの銀河ほど速く遠ざかるからである。
銀河までの距離rは、ある種の変光星という明るさのわかっている標準光源を用いるこ
とによって、その星までの距離を推測して求められる。後退速度Vは、銀河からの光のス
4
ペクトルのライン(輝線や吸収線)の波長がどのくらい伸びているかを測ることで、「赤方
偏移」と呼ばれる量zから、次式より求められる。
λ(観測された光の波長)/λ0(遠い銀河から発射された光の波長)=1+ V/c=1+z
この式はVが、光の速さcよりも十分小さい時には、光源が遠ざかることによるドップラ
ー効果のために波長が伸びると解釈して得られる近似式である。Vがcに近づいていくとこ
の近似式は成り立たなくなる。ハッブル時代の実測では、Vは数1000Km/secで、最近の超
新星の実測では最大値で~0.9cである。
第2章
膨張宇宙のモデル(主に文献②)
この膨張宇宙のより具体的なイメージを得るためにゴムひもの伸び方で考えてみる。
ゴムひもに等間隔で1,2,3・・・と目印(座標値)をつける。ゴムひもを2倍に引き
伸ばしたとすると、目印の間隔は時間的に変化する。このような座標をxと書いてゴムひ
もとともに動くので共動座標と呼ぶ。
原点からの距離をrとすると時間とともに変化するので、
r=a(t)x
と書ける。ここでaは比例係数であり、膨張または収縮を表すスケールファクターである。
ゴムの伸びが場所xによらずにどこでも同じという一様な膨張を考えているので、aはxに
よらずtだけに依存するということになる。
上式をtで微分すると、
dr/dt = V = da(t)/dt・x = 1/a(t)・da(t)/dt・r
= H・r
H ={ a(t)/dt } / a(t)
となり、ハッブルの膨張則が得られる。このような関係は一様に伸びる媒体の上に静止し
ている点の間の速度と距離の関係として一般的なものである。
遠方の銀河ほど速く遠ざかるということは、静止している空間の中を銀河が移動してい
るのではなく、ゴムひもに対応した空間そのもの(xという共動座標系そのもの)が膨張
していて銀河がそれに乗って運ばれていることを示している。これが膨張宇宙のイメージ
である。
ここでやっているのは“空間の動力学”であり、その物理的イメージはそうやさしいも
のではない。共動座標ということでゴムひもとともに動く座標系を考えたが、ある程度空
間的に拡がったものという座標系のイメージは捨てなければならない。
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第3章
宇宙モデル(主に文献①)
空間の動力学を宇宙モデルに適用したのが、次頁の図である。
教科書的説明では、図の2次元の球表面が現実の3次元宇宙を表しており、一つの黒丸
が一つの銀河を表している、とされ“膨らむ風船”の表面を空間の膨張としてイメージさ
れている。これだと表面以外の空間が誤解を醸成する。「そこに目をやるな」といわれても、
それには修行がいる。いっそのこと、数式を見るのが一番だが、ここでは無限に大きな3
次元のレイズン入りのパンの一部を球状にくり抜いた領域の膨張と考え、一つのレイズン
が銀河に対応するととらえ、共動座標系にもとづいた説明を試みたい。
ここでの座標軸は銀河とともに動いていく共動座標系で、宇宙の大きさを表すスケール
ファクターa(t)が、宇宙の膨張または収縮を決める関数で、下のグラフで示したいくつか
の解として一般相対論にもとづくアインシュタインの重力場の方程式から得られる。
方程式を解く前に、重力源となる物質の密度を特定しなければならない。宇宙に存在す
る重力源として以下の3つが考えられる。
・物質:銀河と呼ばれる重力的にまとまった物質の集団中に含まれる星とガス
(密度としてρm
visible(t0)~10-31g・cm3
1立方メートルあたり陽子一個)、と、
未知のダークマター(見えない暗い物質)
・放射:光子、たぶんニュートリノや重力波も含まれる。これらの放射は光速で進み、銀
河をつくっている物質とは違い重力的なかたまりの中には集まらない。ρr(t0)~10-34
g・cm3
・真空のエネルギー:現在、真空のエネルギーの値を決める基本的理論は存在しない。後
述するように、様々な実験結果から存在するだろうと言われているダークエネルギーのこ
とである。引力ではなく斥力として作用する。
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これら3つの密度は、次のグラフの中の平坦な宇宙モデルとなる臨界密度で規格化、無
次元化して、それぞれ
ΩM (物質)、
ΩR
(放射)、ΩΛ
(真空)
とパラメータ化して表現されている。通常ΩRは宇宙初期以外は他と比べて小さいので以
下では無視する。
真空エネルギーが存在しない(ΩΛ=0)という仮定で解かれたフリードマン解は3
つに分類される。
・ΩM>1の閉じた宇宙:膨張のエネルギーが不足で膨張がいつか物質による重力によ
って収縮に転じてしまう場合。
・ΩM=1の平坦な宇宙:減速膨張で常に膨張は減速を受けるが決して収縮はしない。
・ΩM<1の開いた宇宙:等速度で膨張する。
さらに、真空エネルギーが存在する(ΩΛ>0)という仮定で解かれたるルメートル解
は、
・加速膨張:ある時点で真空エネルギーによる斥力が優勢になって宇宙膨張が加速する。
現実の宇宙は、これら4つのモデルのうちのどれなのか、長らく結論は出ていなかった。
どの宇宙モデルになるかは、密度パラメータの値によって決まる。1990年初めまでの
頃までは、真空エネルギーなどという余計なものを排除した、フリードマンの平坦な宇宙
が標準的な宇宙モデルだった。
しかし、1998年に現実の宇宙は加速膨張していることがわかってしまった。これは通常
の万有引力とは違う、なにか「得体のしれない斥力」が宇宙に働いていることを意味して
いる。
第4章
超新星を用いた加速膨張の発見(主に文献①)
宇宙膨張の速度がどのように変わってきたのかを観測するためには、遠くの天体までの
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距離を正確に求める必要がある。つまり過去には膨張がどうなっていたのかを知る必要が
ある。前述した標準光源としての変光星はさほど明るくないため、ハッブル望遠鏡など、
最先端の望遠鏡を用いても私たちに最も近い、大きなおとめ座銀河団(約5000万光年
の距離)など、比較的近い銀河までしか観測することができない。それよりもさらに遠く
の位置での宇宙膨張の測定をするには、より明るく、標準光源となりうる天体を使う方法
が必要となる。
その有力な方法の一つが「Ia型超新星」で90億光年の彼方までの観測が可能になった。
こうした観測の結果、過去には膨張がゆっくりであり、現在は膨張が加速していることが
わかった。
ここで超新星とは何かを理解するために、星の進化について概略する。
ほとんどの星は重力の崩壊力に対して熱核燃焼という高温ガスの圧力で星自身を支えてい
る。最終的に星のコアは熱核反応の燃料を使い果たし、ブラックホールに至る重力崩壊か、
非熱的圧力によって重力を支える星(白色矮星や中性子星)かの2つの終末点のどちらか
に至る。
星の進化の終末点に至った星を理解するためには、ある意味、物理学のほとんどすべて
の分野の知識を必要とする。
次に白色矮星について説明する。いきなりミクロの量子力学の世界となるが、パウリの
排他原理により、2つの電子は同じ量子状態で存在することが禁止されるため、フェルミ
圧力と呼ばれる縮退圧が生じる。中性子や陽子にも同じような縮退圧がある。これは核力
の反発力によって生じる非熱的圧力であり、電子の縮退圧によって重力崩壊を支えている
星は白色矮星、中性子の縮退圧によって重力崩壊を支えている星は中性子星である。
このように、普通の白色矮星は、電子の縮退圧という量子力学的な力で自己重力を支え
ている。もっとも明るい超新星は重い星が熱核反応の燃料を使い果たして重力崩壊するが、
Ia型超新星の場合は、普通の星と相互に回りあっている白色矮星に普通の星から質量が
降り積もった結果起きる。
白色矮星の質量が、電子の縮退圧が支えられる最大質量(太陽質量の1.4倍)に近づ
くと、強力な核燃焼波が巻き起こり、完全に星を破壊するほどのエネルギーを解放し、爆
発が起きる。最大質量は物理の基本定数だけで記述でき、星の環境にはほとんど影響され
ないと考えられるため、Ia型超新星の明るさがほぼ一定であることの理論的裏づけとな
っている。さらにピークの明るさと、明るさが減衰していく時間の間には、経験的にかな
り強い相関が存在する。
よって、Ia型超新星は標準光源として使える。
今回のノーベル賞は、
①物理学者による超新星宇宙論チーム(アメリカ
ローレンスバークリー国立研
パール
マター氏)
②天文学者による高赤方偏移超新星探査チーム(オーストラリア国立大
/
アメリカ
ジョンズホプキンス大
シュミット氏
リース氏)
の2チームに贈られた。授賞理由は「遠距離の超新星観測を通じた宇宙の膨張加速の発
8
見」である。
第5章
探索の戦略(主に文献①③)
「Ia型超新星」はすばらしいプローブではあるが、自然は超新星に対してけちである。
典型的な銀河では超新星は100年に1個も発生しないし、現象そのものもはかなく、爆発後
最初の2週間に極大光度に達した後は、1か月かそこらで暗くなってしまう。
十分な数の大きいzを示すIa型超新星を見つけるため、①のチームは、半年ごとの観
測サイクルに約2ダースの超新星を必ず捕らえる方法を開発した。1年に2回、新月の直
後に望遠鏡につけたCCDカメラで約100の天球上の領域を記録する。各像には、ほぼ1000個
の大きな赤方偏移を示す銀河が写っている。3週間後に同じ視野を再び撮像し、前回の像
をコンピュータ上で差し引くと、前回に存在しなかった新しい明るい点源が現れてくる。
次にこれら新しい点源と母銀河のスペクトルを別の望遠鏡で引き続き撮られる。zの大
きいIa型超新星(大部分がそうであるが)であることがわかった天体は、その後光度変
化曲線を作るため、種々の大望遠鏡で時間の許す限り追跡される。②のチームも同じよう
な方法でzの大きい超新星を観測している。(多くの点で2つの方法は異なっていたそう
である。)
この2チームは、それぞ
れの結果をほぼ同時に発表
した。それが最後のページ
のグラフである。縦軸は、
明るさと関係した量であり、
標準光源の場合には、距離
で置き換えることができる。
横軸は、赤方偏移量なので
銀河の後退速度Vで置き換
えられる。さらにグラフ中
の線は、3つの宇宙モデル
の理論曲線である。
2011年10月18日に「ダー
クエネルギー発見!
加速
する宇宙」としたTV番組
の中で、上記2チームが学
会で同時に発表し、その場
で参加者の2/3が、この加速
する宇宙という結果を認め
ることに賛成の手をあげた
ことを紹介していた。ニュ
ーヨークタイムズは、
9
「1998年に宇宙論は変わった。こうして宇宙にダークエネルギーが生まれた」と報道した。
2つのチームはどちらかが他方の影響を受けて答えを出したのではなく、それぞれのチ
ームが独立して測定した結果、同じ答えが得られたということで、加速膨張という大変驚
くべき観測事実が受け入れられていく上で大切な事実となった。
この2チームはしばしばライバル関係にあるという形で紹介されているが、どちらのチ
ームもダークエネルギーの概念が固まっていく過程で非常に大切な役割を果たしたといえ
る。
第6章 その他のダークエネルギーの証拠(主に文献③)
超新星を使ったダークエネルギーの測定方法は誤差がまだ大きい。
別の手法として、宇宙背景放射のゆらぎを使った方法がある。詳細は省くが、このゆらぎ
の周期的なパターンを衛星電波望遠鏡で10万分の1の高い精度で測定することによって、
約137億光年の彼方にある宇宙背景放射のゆらぎには「ものさし」が写っており、超新星か
ら得られるダークエネルギーの密度とほぼ一致する、という結果(ΩM~0.3、ΩΛ~
0.7)だった。
もう1つの手法として、銀河分布の周期性を使った測定があり、銀河の分布のパターン
を何十万個という銀河を測って調べたところ、宇宙の加速膨張が確認された。
これ以外にも、銀河団の数、重力レンズを用いる方法もあり、どちらもΩΛ~0.7のダ
ークエネルギーを示唆している。
Nature 社説
2011 年 12 月 15 日号:仮面はずり落ちる The mask slips
ダーバン会議は、気候政策と気候科学は(接点のない)並行する世界に住ん
でいることを示している
川崎
健
訳
今週末の南アフリカでの国連の気候会議の結果について、その時の報道のほとんどが、
合意それ自体の内容や意味よりも、その種の合意へ導いた議論に焦点を当てていたといわ
れている。世界の明白な運命がその双肩にかかっている火花を散らす交渉者たちの間での
夜遅くの話し合い、深夜の議論そして早朝の決着は、とくにダーバンの混迷の中でそれを
直接経験した人たちにとっては、我慢し難いメロドラマの過程であった。
このような遅い決着は、これらのサミットでは普通のことになりつつある。諸国家がか
れらの本来の交渉の立位置を放棄し、本当の要求をむき出しにする
―国際的な違いがくっきりと浮き彫りになる―時にはじめて、切迫感が発生し、真剣な
協議が行われるのである。交渉の合意の性格-それは、すべての国がすべてのことに合意
することを要求する-とともに、その結果は通常つぎはぎの妥協で、出来るだけ多くの国
家が勝利を宣言することを許容し、そしてもっとも大切なことは、かれらに 12 ヶ月後に再
10
び集まるためのマンデートを与えることである。
今回もそうだった。京都議定書の後継者を探し求めて、やっとダーバン・プラットフォ
ーム(合意)にたどり着いたが、それはバリ・ロードマップ(工程表)とコペンハーゲン・
アコード(合意)の後追いである。
多くの人が主張するように、ダーバンの結果を地球温暖化についての有意義な局面打開
と考えることは、ある種の楽観論-もしくは集団的ストックホルム症候群の発生-であろ
う。ヨーロッパは、延長された京都のもとで一方的な削減を続けるためのそれが表明した
計画のもとで、引き継ぐであろうものを超えた短期・長期にわたる法的に拘束された排出
目標をそれ自身に課した。ヨーロッパ以外のどの国も、来る 10 年間の終わりよりずっと前
には、増え続ける温室効果ガスを削減するいかなる義務も負わないだろう。しかも、将来
の国連の会議ですべてがスムーズに進行すると考えており、また法的に拘束力のある約束
をともなう世界の取り決めが、2015 年にスタートすることになっている交渉の中で、これ
までよりも容易に行われる、と考えている。
ダーバンの取り決めは気候変動に取り組む政治的な過程においては成功を画するものか
もしれないが、気候それ自体にとっては、まったくの災難である。気候変動の科学と気候
変動の政治(前者を体現していると主張するが)は、いまや並行する世界に住んでいるこ
とは明らかである。
このことは常にある程度真実であったが、いまや確実に政治的レトリックの仮面はこれ
までにはがれ落ち、その下の醜い政治的実体をさらし、それは決して取り替えることが出
来ない。政治家たちは、地球温暖化を 2℃に制限することについて、どのようにして表情
も変えずに語ることができるのであろうか?
宣伝家たちは、地球を救うための“ラスト
チャンス”がまだ残っていると、どのようにしてこの結果を組み立てるのであろうか?
このことは、政治的な過程は余計なものだというのではない-それとは大違いである。
排出を抑えるために政治を導入するのは、地球を救うかどうかでは決してなかったし、地
球温暖化を止めるかどうかでも決してなかった。それはダメージを少なくするためである
-
ダーバンの結果のある分析によると、長期的には地球が経験しかねない 3℃~4℃の平
均温暖化は、現在危険の指標として用いられている 2℃より明らかにずっと悪い。しかし、
排出が減らないで増え続けるならばありうると科学が示唆している 5℃~6℃よりは、ま
しである。
このような結果を阻止することは、京都に続く世界的な後継者を間に合うように見つけ
出すという現在は放棄された努力と同様に、政治的にはまさに困難であろう。しかし、可
能性は残っている-そしてダーバンでは、これまでは強情だった諸国が、遅かったとはい
え、それが必要であることを認めるという少なくとも勇気づけられる兆候があった。Nature
誌を含めて、温室効果ガスの排出をコントロールする必要性についての科学の役割を長年
主張し続けてきた人たちは、この新しい政治的ムードを徹底的にバックアップしなければ
ならない。しかしながら、ダーバン・プラットフォームが政治家たちで混み合うころには、
彼らが待っている気候列車はその駅を発車してしまっているのである。
11
行事予定
◆ 1 月 21 日(土)14:20〜16:40
教科書を学ぶ学習会「育鵬社の公民教科書は中学生を
どこに導くのか?」 講師:神谷幸男(元社会科教員) 会場:県民サポートセンター
3階 301 号室(横浜駅西口徒歩5分) 資料代:200 円
連絡先:横浜市教科書採択連
絡会(電話:090-9293-8446)
◆ 1 月 28 日(土)13:00〜17:00
階 C 会議室
「日本の科学者」読書会
会場:プロミティあつぎ 8
交通:小田急小田原線「本厚木」駅下車徒歩5分
テーマ:47 巻 1 月号
特集「自然エネルギー元年」 連絡先:岸 文夫(E-mail:[email protected])
◆ 1 月 28 日(土)13:30~16:30
JSA 食糧問題研究委員会の研究例会「『低線量』放射線、
内部被爆による健康障害」講師:松井英介氏
フ 5階
会場:東京・四谷
主婦会館 プラザエ
生協総合研究所第 1・2 会議室(主婦会館 Tel 03-3265-8111) 交通:東日
本JR 四ツ谷駅 麹町口
前方左手に見える主婦会館徒歩 2 分、地下鉄 丸ノ内線 四ツ
谷駅 出口①、同南北線 出口③
03-3812-1472
Fax
参加費:無料
03-3813-2363
申込先:日本科学者会議(電話
E-mail
[email protected]
http://www.jsa.gr.jp)
◆ 2 月 11 日(土、祝)13:00〜16:00
第 39 回神奈川地学ハイキング:室内行事「骨の学
習会」 会場:鶴見大学歯学部 2 号館6階解剖学研究室
駅西口下車徒歩 5 分
料
講師:小寺春人・後藤仁敏
交通:JR 京浜東北線「鶴見」
持ち物:筆記用具など
連絡先:後藤仁敏(電話 090-7175-1911 E-mail: [email protected])
◆ 2 月 14 日(火)16:00〜17:00 「日本の科学者」「支部通信」の発送作業
30
JSA 神奈川支部幹事会
不二ビル 5 階
育館南側
17:00〜18:
会場:NPO かながわ総研会議室(横浜市中区翁町 2-7
電話 045-662-9839) 交通:JR 根岸線関内駅下車徒歩5分
第2
横浜文化体
連絡先:西岡啓二(Email:[email protected])
◆ 2 月 25 日(土)13:00〜16:00 シンポジウム:コンビナート問題の諸相
商工団体連合会(〒221-0823
FAX
参加費:無
横浜市神奈川区二ツ谷町1-11
会場:神奈川県
電話 045-314-5551
045-312-5244) 交通:JR 京浜東北線「東神奈川」駅西口下車徒歩5分
プログ
ラム: 鈴木浩平氏「コンビナートの地震被害の特徴と耐震・防災対策のありかた」、竹
内康雄氏「危険な京浜コンビナートの実態と防災対策(仮)」、濱田政則氏(講演依頼中)、
総合討論
次号の原稿の募集:
近況、論説、報告、旅行記、論評、自著紹介、書評、その他、原稿をお寄せください。
毎月 10 日締め切りです。
送り先:後藤仁敏(E-mail:[email protected]
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