つくばエクスプレス開業による市街地変化-千葉県流山市を事例として-

[都市再生研究]
つくばエクスプレス開業による市街地変化-千葉県流山市を事例として-
1.はじめに
H05054
鈴木 槙人
指導教員
遠藤 玲
響を与えたのか GIS を利用して分析していく.使用デ
平成 17 年 8 月 24 日に秋葉原~つくば間につくばエ
ータは千葉県が行った町丁字別人口統計調査(平成 12
クスプレス(以下 TX)が開業した.この TX 沿線地域
年,平成 17 年,平成 20 年)とし,流山市内の鉄道駅
は「大都市地域における宅地開発と鉄道整備の一体的
近接地域における人口変化について分析を行った.
推進に関する特別措置法」(通称 一体化法)と呼ばれ
2-2. 地形図による市街地解析
る法律に沿って計画され,あらかじめ整備地域を定め
新駅開業が駅周辺に影響を与えているのか分析す
ることで,駅周辺部の未開発地帯の乱開発を抑制し鉄
るために,開業 9 年前の平成 8 年及び開業直後の平成
道整備と都市開発を一体的に実施することを目標とし
17 年の 2 枚の国土地理院発行 25000 分の 1 地形図に基
て掲げている.
づき市街化率を計測した.駅を中心とした半径 1km の
対象地域は 3 カ所の TX 駅(既設の南流山駅と新設
範囲に 100m 間隔で中心角 10°おきに区切った同心円
の流山セントラルパーク駅,流山おおたかの森駅)が
グリッドを配置し,各年の距離別・方位別の市街化率
開業した千葉県流山市とする.ここで,市の常住人口
を比較することにより,開発時期と市街化の関係を明
数に着目した場合,TX 開通前は横ばいに推移してい
らかにした.
たが,TX 開通以来,常住人口が増加を始めているこ
流山市
とが図-1 より見受けられ,今後も流山市の人口が上
昇し続けることが見込まれる.この結果より,TX 駅
開業が流山市の市街地に影響を与えていることは確実
だといえる.
そこで本研究では,新線開業による市街化プロセス
を分析し,先行開発の有無や住宅地開発に影響を与え
る要素について明らかにする事を目的とする.
図-2 同心円グリッド配置例
2-3. 現地調査及び住宅地図による現況調査
160,000
H17 年開業後
平成 20 年に発行されたゼンリン住宅地図に現地調
158,000
常住人口数(人)
図-3 流山市の位置
査から得られた結果を加筆後,その上に 2-2 と同様に
156,000
同心円グリッドを配置し.最近の状況を調査した.
154,000
3.調査結果の要約
152,000
3-1. 市内全域における TX 効果
150,000
GIS で市内の常住人口数を分析したのが図-4 であ
148,000
る.市内では平成 17 年から平成 20 年にかけて,TX
沿線のほかにも,TX おおたかの森駅の隣駅となる東
図-1 流山市の常住人口数
武野田線初石駅などでもマンション開発や住宅地増加
2.研究の方法と手順
などに起因する人口増加が GIS の結果に出てきており,
2-1. GIS を利用した広域的分析
TX が流山市全体における人口増加にどのような影
TX 開業が既成市街地に対して少なからず影響を与え
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ていることが推測される.
東武野田線
3-2.開業前及び開業直後の市街地変化
運河駅
駅開業前と直後の比較を行った結果が図-5 及び図
-6 である.図-5 は各駅の市街化率を方向別に平均
値をとって,円状にグラフ化したものである.TX 開
江戸川台駅
通前から南流山駅近辺ではすでに高い市街化率となっ
ていることが分かる.これは,TX 開通以前に JR 武蔵
野線開業時に施工した駅前の土地区画整理事業が完了
初石駅
して,相当年が経過しているからだといえる.また,
駅から離れると市街化率は下がる相関性も認められた.
一方で,流山セントラルパーク駅の西側と流山おおた
流山おおたかの森駅
かの森駅の一部地域に関しては、新駅からある程度離
れた位置において,すでに既成住宅地が広がっていた
ため、むしろ駅周辺部よりも離れた地域の方で市街化
が進んでいる結果がみられる。なお,平成 8 年と平成
17 年のグラフにほとんど変化が見られないため,総合
流山セントラルパーク駅
JR武蔵野線
的に見て駅の開業より市街化が先行した箇所は少ない
と判断できる.
南流山駅
3-3. 現在(開業 4 年目)の状況
南流山駅では駅周辺に密集していた駐車場や空地
の転用が目立ち,建物が建設されているケースが住宅
図-4 平成 17 年から平成 20 年の流山市内の人口増加率
地図より確認された.
流山セントラルパーク駅では現在もなお,駅前の開
50%
発が停滞しているが,徐々に駅前通りに関しては住宅
100%
地開発が始まりかけている状況である.加えて,旧住
宅街が刺激された形で新たな宅地化が進められている
平成 8 年
流山おおたかの森駅
平成 8 年流山
セントラルパーク駅
平成 8 年南流山駅
ところがみられる.
流山おおたかの森駅では乗換駅という交通利便性の
良さが影響し,マンション開発が盛んな地域となって
いるが,駅から離れた場所では未だに住宅地開発が進
んでいない.
4.まとめ
平成 17 年
平成 17 年流山
セントラルパーク駅
流山おおたかの森駅
図-5 流山各駅を中心とした方向別平均市街化率
平成 17 年南流山駅
今回の研究では,開業前と現状に関して定量的な分
析を行うことができた.しかし,TX は現時点におい
(%)
100
て開業からわずか 4 年しか経過しておらず,計画され
90
た宅地開発が進捗していない箇所が多々見受けられた.
70
南流山市街化率
y = -0.038x + 99.72
80
流山セントラルパーク市街
化率
流山おおたかの森市街化
率
60
今後は,開発主体や土地所有を調べた上で,各駅の
50
線形 (南流山市街化率)
40
市街化の違いが生じる要因を明らかにしたい.また,
TX沿線開発に関しては,計画の実現に向けて開発の
遅れている駅周辺の開発と市街化をどう進めていくか
が課題である.
y = 0.044x + 9.333
30
線形 (流山セントラルパー
ク市街化率)
20
y = 0.026x + 13.25
線形 (流山おおたかの森
市街化率)
10
0
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
(m)
図-6 平成 17 年における各駅の距離別市街化率
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