Twinkle:Tokyo Womens Medical University - 東京女子医科大学

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サイトメガロウイルスの胎内感染に関する研究 : 第
II編 健康妊婦のウイルス学的血清学的研究
篠崎, 百合子
東京女子医科大学雑誌, 52(10/11):1355-1362, 1982
http://hdl.handle.net/10470/4928
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
33
(書畿蠕62第52巻昭鵜il骨)
サイドメガμウイルスの胎内感染に関する研究
健康妊婦のウイルス学的
第II編
エ面青学的研究
大内広.子教授).
東京女子医科大学産婦人科学教室(主任:
篠 崎.百 合 子
シノ
ザキ
ユ
リ
コ
.(受付 昭和57年8月31日置
Studies・on Cytomegalovirus Infection during Pregnancy
Part II。 Vimlogi弔al and Serological Study on Healthy Pregnant Wom¢n
Yuriko SHINOZAKI, MD.
Department of Obstetrics&Gyne『ologア(Director:Prof. Hiroko OUCHI)
Tokyo Womeゴs Medical College
Virological studies were perfbrmed on 59 hrines and 42 ce士vical swab specimens taken f士om healthy
preghant women, and sera werサtested fbr colhplement丘xation(CF)antiわbdy to cyt6卑egalovirus(CMV)to
determine the f士e薩uency of the CMV infbction of pregnant women.
1> CMV was recoマered fナom l 3.9%・of the women. studied. It was fe¢overed more.f士equently fどo皿thε
urine.(1&6%)than. f士Qm the cerv量x(7。1%). The virus was recovered more Qf忙en in late pregnancy,
2) No striking di旋ren6e was seen between the newborn babies f士om the mothers in CMV positive group
段nd thqse from the mothers in a control group。
3)Single serum specimens were obt耳ined f士om l 614 pregnant women, and.these 656(40.6%)were
considered positive fbr CMV−CF. antibody.
の Paired serum specimehs were obtained f士om 57.pナegnant wolnen,.and these 8(14%)showed
・e…Qpversi・nΦ・im・・y i・艶・・i・n>βi・・h w・ig無・.・ξ・er・c・n・er・i・n g…pwere less th・n・h…f・・・…lg・・up・
飴,C惣1器dmenswe「eo戸ta’nl岬43uewbominfants’.Outoflhe甲244(71’1%)we「旦posilive
目
次
緒言
対象および方法
1.
2.
ウイルス分離対象
血清抗体価調査対象
.1.
ウイルス分離成績
2.
ウイルス分離陽性群。母児所見
3.
妊婦のCMV−CF抗体価成績
4.
妊婦.ペア血清の抗体価変動.
5.
妊婦抗体陽転例の母児の比較
6.
膀帯血のCMV一ρF抗体価成績
旧記血のCMV−CF抗体価と母児所見
3.「
ウイルス分離
4,
CMVrCF.抗体価測定
考察
5.
出生時記録
結語
7.
炉瀬
文献
一1355一
34
緒 言
先天性Cytomegalovirus(以下CMVと略す)
1980年6月までの1年間に同病院で分娩した343
例の健康新生児の膀帯血を対象とした.
症の感染経路には経胎盤感染以外にも近年産道感
3.ウイルス分離(図1)
染の存在が沼崎ら1>により提唱されている.すな
人工流産時に得られた胎齢13週のヒト胎児肺を
わち妊婦の子宮頚管,尿よりCMVが排泄され分
用いた。、方法は,無菌的に摘出した肺を眼科用ハ
娩時,新生児が産道で感染を受けるとする説であ
サミにて細切した後,0.2%トリプシン溶液に浸
る.日本における妊婦のCMVに対する抗体保有
し,撹絆して細胞を分散させ,分散した細胞を
率は95%と高率であり,新生児はこの受動免疫の
10%胎児ウシ血清(fetal calf serum:FCS)加
ため産道感染しても顕性発症は抑えられる.しか
MEM溶液中に浮遊させて,37℃で静置培養し
た.3日後に,単層の初代培養細胞が形成され
し母体免疫が失われるにしたがって乳児はCMV
を排泄するようになり,乳児を対象とした咽頭,
た.今回のウイルス分離には,2から6代目の細
尿からのCMV分離率は56%にも達するという.
胞を使用した.培養細胞の維持液としては,5%
このように高率に産道感染が起こることは産科的
FCS加MEM溶液を用いた.
にも重視すべきことである.
接種材料を各0・2m豆ずつ,細胞シート形成した
そこで著者は東京女子医科大学産婦人科教室に
セミマイクロプレート(口径16mm)の男憎2カ
おける妊婦のCMV感染の実態を知るため,妊婦
所に接種し,5%FCS加MEM溶液1mlを加
血清,膀帯血血清のCMVの補体結合(comple−
え,37℃のCO2艀卵器の中で静置培養を行なっ
ment倣ation:以下CFと略す)抗体価を測定
し,妊婦尿,子宮頚管分泌物からCMVの分離を
た.培養液は,3日目とに交換し,ウイルスによ
試みた.またそれらの結果と新生児の出生時記録
微鏡にて経日的に21日間観察した.CPEの変化
との比較を行なうことにより新生児に対する影響
が現われたものは,継代培養し,さらに変化の出
も合せて検討した.
現したものをレイトン管内のカバースリップ上の
る細胞変性効果(Cytopathi飾e飾ct:CPE)を顕
対象および方法
単層細胞に接種して培養し,CPEの発現したと
1.ウイルス分離対象
ころでアセトン固定を行ない,間接蛍光抗体法に
1979年9月に東京女子医科大学産婦人科外来を
よる同定の標本とした.分離ウイルスの同定は,
受診した妊婦の子宮頚管分泌物42例,尿59例を対
蛍光抗体法とラジオイムノアッセイ法(RIA)で
象にした.子宮頚管分泌物の採取は,綿棒にて子
宮口および腔壁をこすり,それを5m豆のEagie
のm呈nimum essential medium(以下MEMと
略す)に溶解し液体窒素容器中に凍結保存し,1
週間以内に使用した.使用に際しては,室温融解
1㍉し蕊.
し,2,500回転,15分間,遠心分離を行い,上清
0・5mlにゲンタマイシン0・lmgを加え接種材料
とした.尿は採尿後,2,500回転,.工5分間遠心分
離を行ない,上清を接種材料とした.
2.血清抗体価調査対象
c。、u 8 8
1979年7月より1981年7月までの2年間に同外
培養 9 言
来を受診した妊婦1,614名を対象に,その単一血
“
CPE(+》ぐ=コ継代ぐ一コ液交換
tube
清1,614例とペア血清57例について,CMVのCF
一70℃保存
抗体価を調べた.また膀帯血は,1979年6月から
CPE毎日観察
図1 ウイルスの分離法
一1356一
35
行なった.蛍光抗体法では,一次抗体として抗
%)に尿または子宮頚管より,CMVの排泄があ
CMVウサギ血清を用い,カバースリップ上に滴
下し反応させ,次に蛍光色素(FITC)標識抗ウ
ったことになる.また,妊婦初期,後期別にウイ
ルス分離率を比較すると表1のごとく尿では前期
サギガンマグロブリンを反応させた後,蛍光顕微
ユ7.6%,後期28.2%,頚管分泌物では前期0%,
鏡にて観察した.また,RIAでは, CMV抗原液
後期9%で,後期に分離率は高かった.
および正常抗原液を作製後,それを標準CMV抗
体陽性患者血清と抗原抗体反応させ,それに1251
2.ウイルス分離陽性群の母児所見(表2)
抗ヒトガンマグロブリンを反応させ,その放射活
CMV分離陽性群14例と対照の陰性群38例との
問で妊婦の年齢,CMV−CF抗体価,新生児の分
性を測定した.
娩週数,体重,身長,頭囲に関して比較した.分
4.CMV・CF抗体価測定
離陽性群におけるCF抗体価の平均値は12.3で陰
CMVのAD 169株より作製した4単位の抗原を
性群の8.7と比較して高値を示したが,他では差
用い,妊婦血清および膀帯血血清の抗体価をマイ
が認められなかった.
クロタイター法で測定した,判定は,抗体価4倍
以上を陽性とした.
また分離陽性例の妊婦(表3)は,年齢は27∼
36歳,分娩は1例の人工流産例以外は満産期であ
5.出生時記録
り,妊娠期間中,臨床的には無症状で著変は認め
分娩時の母体の年齢,分娩回数,分娩週数,胎
なかった.
盤の重量,また新生児に関しては,体重,身長,
3.妊婦のCMV・CF抗体価成績(図3)
舟囲に関して比較検討した.
妊婦血清1,614例のCF抗体価の成績は,4倍
績
未満の陰性例は958例(59.4%),4倍以上の陽性
1. ウイルス分離成績(図2)
例は656例(40.6%)であった.陽性例のCF抗
CMVは,妊婦尿59例から11例(18.6%)に,
体価の分布は,図3のごとく4倍から32倍で64倍
成
また頚管分泌物42例から3・例(7.1%)に分離さ
表1 妊娠時期による妊婦尿および妊婦
れた.したがって対象妊婦101名中,14名(13.9
頚管分泌物からのCMV分離率
妊娠前期
妊娠後期
17.6%(3/17)
282%(11/39)
0%(0/7)
9.0%(3/33)
戸数
乳oo
尿
頚管
80
()内は例月
表2 妊婦尿および頚管分泌物からのCMV
18.6%
60
分離陽性群と陰性群における妊婦およびそ
の新生児(体重,身長,頭囲)の比較
7.1%
陽性群(14)
陰性群(38)
妊娠年齢(歳)
30.1(14)
28.7(34)
CMV−CF抗体価(倍)
12.3(12)
8.7(36)
40
妊婦
20
分娩週数(週)
39.8(12)
39.9(38)
新生児体重(9)
3265(13)
3223(34)
新生児身長(cm)
49.8(13)
49.6(38)
新生児踊歩(cm)
33.3(12)
33.1(24)
新生児
0
尿
頸管分泌物
図2 妊婦尿および子宮頚管分泌物
( )内は例数
からのCMV分離率
一1357一
36
表3CMV分離陽性者
検体No,
氏名
年齢
妊娠週数
@(w)
CMV−CF
R体価
M.Y.
27
11
48
F.T,
30
21
4>→16×
52
A.K.
27・
36
8×→32×
74
U.14
4>
新生児
分娩週数,様式
性
体重(9)
その他
♀
3538
健
37 N−D
♀
3460
左副耳
41 N−D
♂
3120
健
高ビ血症
40w
N−D*
F.Y。
31
14
4×
39 VE**
♀
2917
75
T,Z.
29
33
8×
40 N−D
♂
2834
健
88
F.O.
29
21
4×
40 N−D
♂
3482
健
91
F,U.
36
29
8×→8×
40 V−E
♂
3040
鎖骨骨折
94
K.S,
30
23
16×→32×
39 N−D
♀
4008
健
98
Y.A.
29
24
99
A.0.
26
産後
8×
41 N−D
♂
3766
健
100
M.S.
36
15
16×→16x
38 N−D
♀
2707
健
C.25
T.N,
33
38
16×
40 N−D
♂
自159
健
39
Y.W.
32
32
4>
38 V−E
♀
4584
健IDM
51
M.O,
27
36
8×
42 N−D
♀
3154
健
/
28w人工流産
U.:Udne, C.=Cervix
N−D*:正常分娩,VE**:吸引分娩
例数
1000
900
以上の抗体価はみられなかった.
4.妊婦ペア血清の抗体価変動
958人
妊娠前期と後期の妊婦ペア血清57例について
CMV−CF抗体価の変動を調べた.妊娠前期に抗体
800
陽【生であったものは57名士15名(26.3%)であっ
た.このうち8名が妊娠経過中に抗体価陽転し,
700
妊娠後期の抗体保有率は57名子23名(40.1%)と
なり,57名中8名(14.0%)に血清学的なCMV
600
の初感染が起きたことがわかった.
500
5.妊婦抗体陽転群の母児の比較(表4)
CMV−CF抗体陽転例の妊婦の年齢,分娩回数,
400
分娩千弄,新生児体重を抗体価無変動群のそれと
348人
300i
比べたところ. N齢に関しては差がなかったが,初
産,経産の割合は,陽転群において初産婦の占め
200
る割合が87.5%(7/8)と無変動群の48.1%に比
213入
べ多かった.次に新生児平均体重は,陽転群で
100
/78人
17人
3,053.59,無変動群で3,204・49と陽転群では明ら
かに少なかった.
0
陰性
×4 ×8 ×16 ×32 CF抗体価
6.膀帯血のCMV・CF抗体価成績(図4)
343例の膀帯血血清のCF抗体価成績は,4倍
図3 妊婦血清のCMV−CF抗体価
陽81生率
40.6% (656/1614)
一1358一
37
表4 妊娠中の妊婦血清のCMV−CF抗体価
の変動一抗体価陽転群と抗体価無変動群に
おける三児の比較一
無変動群
妊娠年齢(歳)
陽転群
28.6
分娩初産(例)
28.3
13(48.1%)
経産(例)
14(51.9%)
7(87.5%)
39.4
39.2
新生児体重(g)
3204.4
3053.5
27例
33
32
31
30
29
8例
例数
00
、97;
(99)
(53)
O
o
l o●
●
1
@
@
@
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●
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22
21
20
19
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1
齢39
38
37
36
35
34
1(12.5%)
分娩週数(週)
例数
4〔}
年
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O
l
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l
n
l
@
l
Q
o
陰性
×4
×8
×16
×32
CF価
図5 膀帯血血CMV−CF清抗体価と母体
年齢ならびに初産・経産(○初産,●経産)
表5 膀帯血のCMV・CF抗体価一抗体価陰性群
(14)
と陽性群の妊婦および胎児と胎盤重量の比較一
d
1;会’1生
×4
×8
×ユ6
×32
陰性群
CMV−CF抗体価
図4 騰帯血のCMV−CF抗体価
陽↑生率
71.1% (244/343)
28.4
28.9.
分娩週数(週)
39.3
39.6
3205.7
3194.2
49.3
49.2
新生児体重(9)
未満の陰性例は99例(28.9%),4倍以上の陽性
新生児身長(cm)
例は244例(7L 1%)であった.陽性例のCF抗
体価の分布は,図4のごとく4倍から32倍までの
新隼児頭囲(cm)
値を示し,64倍以上はなかった.
総数(例)
胎盤重量(9)
7.膀帯血CMV・CF抗体価と母児所見
膀帯血の各CF価別に母体の年齢および,初
陽性群
母体年齢(歳)
考
33.0
33.0
564.0
574.0
99
244
察
産,経産の比較を行なったところ図5のごとく各
サイトメガロウイルスはヘルペス群ウイルスに
CF価においてほぼ似たような分布を示した。次
属すDNAウィルスであり,性質は不安定であ
る.ヒトCMVを分離したのは1956年Smith2)が
に膀帯血CF抗体価陽性群99例と陰性群244例に
分けて,両群の母体年齢,分娩週数,新生児体
最初であり,全身性巨細胞封入体症で死亡した
重,身長,頭囲,胎盤重量を比較したところ,表
乳児の腎組織から分離している.ところでCMV
4のように両群において差はほとんどなかった.
の感染性は種属特異性が大変強い.すなわちヒ1・
一1359一
38
CMVは,ヒト以外にはモデル動物がなく,ヒト
は,母乳を介しての経路が,注目されているが,
組織由来の細胞のみに継代できる.したがってウ
わが国では一般に重要視されていない,以上のほ
イルス分離やin vitroの感染実験に用いられる
かにも,CMVには,抗原型が,2つ以上あり,
細胞の種類もおのずから限定され,現在のところ
1つの型に免疫があっても他の型による再感染が
はヒト胎児の肺,腎,皮筋の培養細胞が用いられ
起こりうるとする考え,また一方,抗原型には区
ている3).そこで著者は今回,人工流産時の胎齢
別する程の差異はなく1つと考えて良いとするな
13週のヒト胎児肺から培養細胞を作製してウイル
ど議論のされているところであるが,著者の前報
での2種のCMV株の抗原分析では,株間の抗原
スの培養細胞に用いた.
CMV感染症の臨床的意義については今日なお
差は認められなかった.
はっきりしない点が多い.実際にウイルス分離を
さて妊婦のCMV・CF抗体の保有率は欧米では
試みるとCMV感染が予想以上に広くゆぎわたっ
Severら5)はボストン,フィラデルフィアの妊婦
ていることがわかるが,臨床的には特異な症状が
で51∼59%,Ster&Tucker6)はロンドンの妊婦
現われず,不顕性感染を示すことが多いといわれ
で58%に,Hildebralldtら7)はアメリカのメリー
ている.先天性感染についてもその伝播様式・病
ランドの妊婦で51%など,だいたい50%前後であ
因論はいまだ確立されていない.すなわち伝播様
る.一方,わが国の妊婦におけるCMV−CF抗体
式には垂直感染として経胎盤感染,産道感染,お
保有率は,沼崎ら8)の仙台市における95%,また
よび出生後感染の3つが考えられる.第1の経胎
千葉ら4)の札幌市での成績,94%,広田ら9)の塩
盤感染は,妊婦が初感染の際におこるもので,全身
釜市の成績9496といずれも90%以上の高率であ
性巨細胞封入体症はその典型例である,沼崎らに
る.さて著老の東京での妊婦1,614例を対象とし
よると本邦の妊婦の95%以上はCMV抗体保有者
たCMV−CF抗体保有率は40.6%であり,他の地
であり,このため妊娠中に初感染を受ける機会も
域と比べ低率であった.このような保有率の差は
まれであるという.このことからおが国では先天
地域差以外にも人種差あるいは社会経済的な生活
性CMV症は,ごく少ないであろうという考えが
様式などの差も考慮される.たとえぽ著者の報告
一般的である.しかし最近の報告では,健康新生
は東京での成績であり,これまでの報告の仙台,
児尿からもCMV分離が0.6%に認められたとい
札幌,塩釜などと比較し,生活様式,食事,環境
う成績が発表されの,まれなものではないという
などで欧米化が進んでいることなどの違いが考え
考え方が広まってきており,そのような児の長期
られる.
観察が必要となっている.第2の産道感染は分娩
時,新生児が産道内のCMVに接触して感染する
と著者の成績では陽転が14%であった.外国では
という説で,わが国では沼崎ら1)の報告がある.
Severら5)はボストン,フィラデルフィアで198名
それによると正常妊婦の満期における頚管粘液か
の妊婦のうち6%に抗体価の上昇を認めており,
らのCMV分離率は,28%と高率であり,また乳
日本では千葉ら4)は札幌市で2.6%,広田ら9)は塩
児を対象にした咽頭,尿からのCMV分離状況
釜市で9%に妊娠中の抗体価上昇をみている.こ
は,生後1ヵ月から陽性となり,5ヵ月には56%
れらの報告と比較すると著者の成績は14%と高
となり以後12ヵ月まで続き,その後は,潜伏感染
く,しかもすべて陽転例であった.これは妊娠初
に移行していったという.以上から沼崎らは,抗
期におけるCMV−CF抗体価陰性卜すなわち初感
体保有者であっても妊娠により,潜伏していた
染を受ける可能性のある感受性妊婦が59.4%と多
次に妊娠中のCMV−CF上昇率を検討してみる
CMVが,活性化され,頚管粘液中に排泄され,
いためと考えられ,かなりの率でCMV初感染の
分娩時に新生児は,産道でこれに感染するという
存在することがわかった.さらにこのことがその
産道感染説を提唱している.第3の出生後の感染
胎児の発育にどのように影響しているか現在よく
一1360一
39
表6 妊婦の尿および頚管粘液からのCMV分離率
わかっていないが,著老の新生児出生時記録をも
とに比較検討した成績では,抗体価上昇群が,無
頚管粘液
尿
変動群に比べてその新生児の体重が,低い傾向で
沼崎らD
あった.次に膀帯血のCMV−CF抗体陽性率は著
千葉ら4)
0%
2.8%
老の成績では対;象343例中,陽性例244例で71。1%
Montg。mery ln
であった.WHOの調査報告10)によると世界各地
白
人
4%
白
人
黒
人
3%
黒
人
4%
インディアン
インディアン
の二二血CMV−CF抗体価は最低ではOxf・rd(イ
Reynolds 12〕
ギリス)の46%からEntebbe(アフリカ)では,
著者ら
ほぼ100%と,地域によ.り異なっている.西欧の
28.0%
4%
5%
5.9%
13.0%
18.6%
7.1%
14%
Oxford, Manchester(イギリス), St・Gallen(ス
イス),五yons(フランス)は低い地域であるが,
葉ら4)は,妊婦尿において2.8%とウイルス分離率
東欧のBratislava(チェコスロバキア),南欧の
を報告している.著者の成績では,妊婦尿で18.6
Rome(イタリア)は90%台の高率でありFreiburg
%,頚管分泌液で7.1%と,分離率は,むしろ尿
(ドイツ)は中間である.アジア,アフリカ,中
の方が高かった.またCMV分離の妊娠週数によ
南米は膀帯血のCMV−CF抗体保有率はいずれも
90%以上である.一方わが国の附帯血CMV−CF
抗体保有率は,沼崎らによると95%が陽性であ
る傾向は,外国ではMOIltgOmeryら11)1ま,頚管
分泌液において妊娠初期,中期,末期の順に2
る.このように,CMV抗体は,世界各地の」血清
いてL3%,6.6%,13.4%,尿中で1.2%,4,3
中に認められ,このウイルスが広く世界に浸淫し
%,5.9%1。)と,妊娠の進行とともに,陽性率が
ていることがわかるが,その保有率は,地域によ
上昇している.日本では,沼崎ら1)は,妊娠初
り大きく異っている。著者の成績は7L7%であり
期,中期,末期の順に0%,9,6%,28%と頚管
わが国の従来の頻度と比べやや低率であった.次
分泌液からのウイルス排泄が多くなると報告して
に,膀帯血のCMV・CF抗体価を陰性群と陽性群
いる.著者の成績でも,妊娠初期,末期の頚管分
に分けて行なった新生児出生時記録の比較では新
泌液からの分離率は,初期0%,末期9%,尿か
生児の頭陀,身長,体重は,院児の間で明らかな
らは,初期17.6%,末期28.2%と,末期にウイ
%,7%,12%,Reynoldsら12)は頚管分泌液にお
差は認められず,これらのことより,膀帯血の
ルスの分離率が高くなり,他の報告と同じ傾向を
CF抗体価は,少くとも32倍以下では新生児に異
示した.またこれら分離陽性例,13例における
常は起らないものと思われる.なお,これについ
ては,64倍あるいは128倍と高い抗体価を有する
CMV−CF抗体価は,うち10例が,妊娠初期,す
でにCF抗体価は,陽性であった.このように抗
症例を集めて検討することが必要かも知れない.
体価陽性の者からも,CMV.は分離されており,
妊婦からのウイルス分離は,他の文献によると分
このことは,妊娠中に潜伏ウイルスの再活性化の
離率は,頚管分泌液のほうが,尿中からより高い
おこることを示唆している.一方,妊婦の頚管か
ようである(表6).外国では,Montgomeryら11)
らのウイルス排泄が児に何らかの影響を及ぼすか
は,頚管分泌液からの分離型は,白人4%,黒
人5%,インデアン14%であり,尿からは,白
いが,著者の成績からは,少くとも新生児に関し
人4%,黒人3%,インデアン4%と報告し8),
ては,CMV分離陽性群と陰性群の間で差は認め
どうかという点に関しては,明らかにされていな
Reyn・ld8ら12)は頚管分泌液からの分離率は,白
られなかった.しかし分離陽性例における児の長
人および黒人で13%,一方尿からは,5.9%と報
期フォローアップは,今後の課題と思われる.
結
告している.日本では,沼崎ら1)が,子宮頚管分
語
:東京女子医科大学産婦人科外来を受診した正常
泌液から28%と高率にウイルス分離しており,千
一1361一
40
妊婦を対…象にして,妊婦血清のCMV−CF抗体の
文 献
1)Numaza聡i, Toshio, N。 Yano, T. Moriz曲a,
測定と妊婦の尿および,頚管分泌物からのCMV
S.Ta阯a丑and N. Ishida 2 Primary infセction
分離をおこなった.さらに分娩時膀帯血血清の
with human cytomegalovirus:Virus isoiadon
蝕om healthy i1血nts and pregnant women・
Amen J Epidcmiol 91(4)410∼417(1970)
CMV−CF抗体価を測定し,新生児の体重:,身長,
頭並との比較研究をおこない以下の結論を得た.
2)Smith, Marga城G。:Propagation in tissue
1)妊婦血清1,614敵中,CMV−CF抗体価陽性
culturcs of a cytopathogenic viru忌仕om human
例は656例(40.6%)であった.
s凱livary gla夏d virus(SGV)disease. Proc Soc
Exp Biol Mcd 92424∼430(1956)
2)妊娠経過中のCMV−CF抗体価の陽転例
3)千葉峻三・大崎雅己・華園面面:綜説.cyto−
megalovirus感染症一実貿手枝ならびに臨床的
は,妊婦57例中8例(14%)に認められた,この
陽転例からの新生児を対照群と比較すると,前者
評価に関する問題点について一。阿児誌71
(10) 1187∼1194 (1967)
の新生児体重が,後者に比較して,低体重であっ
4)千葉峻三・鎌田 誠・華岡久彬・元川 卓・岡
部 稔・中田文輝・千葉靖男・中尾 亨・平沢
た.
3)CMV分離は,妊婦尿59例中11例(18.6
峻・小森 昭:CMV感染症1. CMVの胎内
感染一本邦における実態.臨床とウイルス7
%),頚管分泌物42例中3例(7.1%)であった.
(3) 274∼ 277 (1979)
妊娠時期による分離率は,妊娠後半期に,より高
5) sever, J.1イ. et a1.2 Serologic diagnosis‘‘cn
率に認められた.
masse,, with multiplc antigcns. Amer Rev
4)CMV分離陽性群と陰性群の新生児につい
て,体重,身長,頭囲の比較を行なったが,差は
認められなかった。
Resp Dis 33(SuppL)342∼359(1963)
6)Stern,耳and S.M. Tucker 3 Prospective
.study of cytomegalovlrus infbction in prcg−
nancy. Brit Med J 2268∼270(1973)
7)Hildebrandt, RJ., J.L. sever, A.M. Margi・
5)騎帯血のCMV−CF抗体価は,343例中244
1eth and I).A. Callag2m= Cytomegalovirus
例(71.1%)に陽性であった.陽性群と陰性群め
ill the normal pregnant woman. AIncr J Obst
新生児について体重,身長,頭囲の比較を行なっ
&Gynec 98(8)1125∼1128(1967)
8)沼崎義夫:小児科臨床とサイトメガロウイル
ス。小児科19633∼638(1978)
9)広田清方・渡部旭常・奥村正幸・刈田美和子・
玉橋征子・石井アケミ・塚本二郎・大島武子・
たが,差は認められなかった.
産科においてCMV−CF抗体価の測定は,妊娠
前半期と後半期の2回測定する必要があり,その
田中明子・沼崎義夫:CMV感染症2.妊婦の
CMV感染.臨床とウイルス7(3)277∼278
有意上昇例,さらに64倍以上の妊婦について,そ
の新生児を注意深く観察しフォローアップしてい
(1979)
かなけれぽな.らない.
10)沼崎義夫:CMVの疫学一WHOの報告調査一
臨床とウィルろ7(3)267∼270(1979)
11)Montgomery, Rりし. Youngb互ood and D。N.
稿を終えるにあたり御指導と御校閲を頂きました大
Medearis 3 Recovery of cytomegalovirus倉om
内広子教授に深謝申し上げます.また御教示頂いた吉田
the cervix in prcg耳ancy. Pediatrics 49(4)524∼
茂子教授,血清検査に御協力頂いた産婦人科教室諸先
531 (1972)
12)Rey蹴01ds, Dav量d W., S. Stagno, T.S. Hosty,
生方,ウイルス分離を直接指導して下さった国立予防衛
M.Tmer and C。A. Alfbrd 3 Maternal cyto−
生研究所の武田久雄博士に厚く感謝いたします.
megalovirus cxcretion and pe血atal infbction.
本論文の要旨は第59回日本産科婦人科学会関東連合
New Engl J Med 289正∼5(1973)
地方部総会にて発表した.
一1362一