下田市景観計画をケーススタディとして景観まちづくりを考える ~下田まち遺産を未来に活かすために~ ㈱綜合設計事務所 都市設計部 佐野 智昭 1.はじめに 1)景観法の制定 我が国における美しいまち並みづくりや良好な景観形成に関する取り組みは、各自治体の自主的な景観 条例に基づき進められてきた。しかし、法的な根拠を持たないため、各地で景観に関連する問題がしばし ば起こるようになり、社会的にも注目される事例が出てきた。 そのようななか、美しい国づくり大綱(平成 15 年 7 月公表)において、良好な景観の形成が国政上の重 要課題として位置づけられ、平成 16 年に、これまでの自治体の自主的な取り組みを後押しする形で景観法 が制定され、平成 17 年 6 月に全面施行された。 景観法は、理念に始まり、建築物等の行為の規制誘導、重要景観資源の保全、公共施設の整備、組織体 制に至るまで、包括的なものとなっており、そのなかの基本となる仕組みが景観計画制度である。 2)下田市景観計画の策定 景観計画制度は、景観行政団体が景観計画を策定し、対象区域、景観形成に関する方針を定めるととも に、一定の行為に対して景観形成上の基準を設けて、建築物等の開発の質をコントロールすることで、魅 力ある良好な景観形成を実現しようとする仕組みである。 下田市は、静岡県との協議を経て平成 19 年 4 月に景観行政団体となり、平成 19 年度~21 年度の 3 箇年 で景観計画及び関連条例等を策定した。弊社は、委託業務として計画策定作業に関わった。 以下では、下田市景観計画等の内容をケーススタディとしながら、景観計画の策定及び景観まちづくり 推進のための留意点について考察する。 2.下田市が景観法の活用に至った経緯 1)最近のまちづくりの動きと課題 下田市では、最近のまちづくり活動や取り組み、社会経済情勢のなかで、以下のような課題が浮き彫り になっていた。 (1)下田らしい貴重な資源(景観)喪失の危機 伊豆縦貫道の概ねのルートの決定に伴う「都市計画マスタ ープラン」の改定作業(平成 16~17 年度)の際に行われた各 地域でのまちづくり会議において、市民からは下田を象徴す る建造物や豊かな自然などのすばらしい貴重な資源が失われ ていることについて危惧する意見が多く出された。 ▲下田を象徴する建物であった旧下田小学校 (2)市民等のまちづくり活動を支える仕組みの欠如 南豆製氷の保存運動、ハンギングバスケットによる花づくりなどの市民が主体となったまちづくり活 動や、下田ファン(市外の専門家等)による地域再生の試みなどが行われるようになってきたが、行政 としてそれを制度的・財政的に支える仕組みが必ずしも充分であるとは言えない状況にある。 1 (3)地域経済の低迷 下田市は、伊豆を代表する観光都市としての地位を築き上げてきたが、観光交流客数や宿泊客数は 15 年前に較べ約 6 割程度に減少している。全国的に昔ながらのまち並みの保存・再生や美しい景観づくり に積極的に取り組んでいる都市が脚光を浴び、交流人口が増加しているなか、下田市もその可能性を秘 めているが、多様な景観資源を地域の活性化に活かしきれていないのが実情である。 2)景観法の活用と下田市独自の制度の導入(暮らしやすいまち、活気あるまちを目指して) 下田市では、景観法が課題解決のための一つの手段として有効であると考え、庁内に検討委員会(平成 18 年 8 月)を設け、先進地視察や検討を重ね、景観計画の策定を決定した。 また、課題解決には、地域の魅力ある貴重な景観を資産として、市民・企業・行政等が協働で維持・継 承・改善すること、新たに美しい魅力的な景観を創り出していくことが必要であるとの考えから、下田市 の身の丈にあった独自の制度も導入することとした。 そして、景観施策を総合的に推進することで、市民の下田への愛着心を育み、来訪者には満足感や感動・ 安らぎを与え、暮らしやすいまち、活気あるまちを目指すこととした。(景観まちづくりの推進) ■景観法(景観計画)ありきではなく、都市の経営戦略、政策課題に対応する一つの手段として活用(景 観まちづくりの明確な動機付け・目的) 3.下田市景観計画等の特長 1)計画策定体制(市民参加と徹底した議論を踏まえての策定) ・「景観づくり市民会議」での多様な立場の委員(地侍と旅坊主)による議論を踏まえて策定(12 回開催) ・様々な角度からの市民参加(意見把握)の場を設けて策定(地域別景観まちづくり会議延 18 回など) ・市民の景観に関する理解を深め、意識の醸成を図りながら策定(ワークショップ、シンポジウムなど) ■熱い想いを持った市民の参加、客観的な視点で発言できる複数の専門家等の参加、市民が楽しく学べる 機会の創出 市議会 (条例議決 H21.12) 市 長 【市民参加(市民意向の把握)】 【計画策定組織】 地域別 景観まちづくり会議 景観づくり市民会議 旧町内 風景づくり会議 重点候補地区 意見交換会 アンケート (小中高校生・市民・観光客) 庁内景観計画研究会 (副市長・関係課長) ワーキンググループ (関係課主幹等) <図-1:計画策定体制図> 2 市都市計画審議会 (諮問・答申) ・行政関係者 ・景観関連市民団体関係者 ・経済関連団体関係者 ・学識経験者 ・景観に関し識見を有すると認 められる者 ・公募市民 【市民参加(啓発活動等)】 ・絵画、写真コンテスト ・景観シンポジウム等 ・景観ワークショップ 2)景観まちづくりの計画体系(景観まちづくり推進のための総合的な仕組み) 図-2 は、下田市の景観まちづくりの計画体系図である。「景観計画」において下田市の景観施策全般の 方針を示し、それを実現する制度・仕組みとして、下田市独自の内容も含めた景観まちづくり条例及び景 観まちづくり条例施行規則、景観まちづくりに関する要綱・要領等を策定した。 ●景観施策全般の方針(景観まちづくりのマスタープラン):景観計画 ○景観の規制・誘導(維持・保全):景観計画、景観まちづくり条例及び景観まちづくり条例施行規則 ○景観の維持・保全・育成・創出:景観まちづくりに関する要綱・要領等 ○景観の推進組織・体制:景観まちづくり条例施行規則、景観まちづくりに関する要綱・要領等 ■景観計画に加え、都市の状況に応じた柔軟な仕組みを盛り込んだ景観まちづくりの総合的な推進 ■理念・方針から施策に至るまでの一貫したストーリー性のある仕組みづくり 景 観 計 画(景観法で定める事項が決められている) ①景観計画の区域 3)景観計画の概要に示す。 ②良好な景観の形成に関する方針 ③行為の制限に関する事項 ④景観重要建造物・景観重要樹木の指定の方針(下田登録まち遺産から指定) ⑤景観重要公共施設の整備及び良好な景観の形成に関する事項 ⑥その他の事項 ・屋外広告物の表示及び掲出する物件の設置に関する行為の制限に関する事項 ・景観農業振興地域整備計画の策定に関する基本的な事項 ・自然公園法の特例に関する事項 ⑦景観まちづくりの推進方策 ・景観計画策定に関する事項 ・行為の制限等に関する事項 ・景観重要建造物・景観重要 樹木に関する事項 ・景観まちづくり審議会 している。 (今回説明略) 景観まちづくり条例施行規則 景観まちづくり条例 ■景観法に基づく事項 各事項の方針を示 ■景観計画・行為の制限等に関する事項 ■景観重要建造物・景観重要樹木に関する事項 ●景観まちづくり市民会議 ●景観まちづくり推進組織 景観まちづくりに関する要綱・要領等 ●下田独自の景観まちづくり の制度・仕組みの位置づけ ・下田認定まち遺産、下田登 録まち遺産制度 ・身近な景観まちづくり制度 ・景観まちづくり市民会議 ・景観まちづくりを支援する 制度 ・表彰 ・助成等 ●下田まち遺産の認定・登録に関する要綱 ●身近な景観まちづくり協定要領 ①まちなみ看板協定 ②まちなみ緑花づくり協定 ●景観まちづくりを支える制度要綱 ①景観まちづくり人材バンク制度 ②下田らしい素材バンク制度 ③表彰 ④助成 ⑤景観まちづくり地域貢献登録制度 ●景観まちづくりのための資金調達と助成等の仕組み(景観まちづくり基金条 例、景観まちづくり助成金交付規程、基金運用委員会設置要綱、基金処分規程) ●景観法届出行為に関する説明会開催要領 <図-2:計画体系図> 3 ●下田市独自の内容 3)景観計画の概要 (1)景観まちづくりの基本理念(下田まち遺産を未来へ) 下田には、「自然・歴史・文化・人の暮らし」に関連する貴重な資源が数多くある。そのなかで「下 田の象徴」、 「下田らしさ」、 「下田の人々の誇り」、 「次代への継承」に値するものを“下田まち遺産”と 定義づけた。 そして、この下田まち遺産を生き生きと輝かせ、未来に受け継いでいくことが、下田を暮らしやすい まち、活気あるまちとして発展させていくためには欠かせないことであると考え、景観まちづくりを推 進していくうえでの基本理念を「下田まち遺産を未来へ~今ある“まち遺産”を絶やすことなく、新た な“まち遺産”を創り出し、未来に活かす~」とした。 ■市民の熱い想いの反映、市民が共感できる基本理念、特徴的な表現 海、川、山、 田園風景、 温泉など豊かで 美しい自然環境 下田の自然環境や 文化に特有の 漁業、農業、産業、 職人技 下田まち遺産 開国の歴史や文化を 表す建物、施設と それらが 集合したまちなみ 歴史に根付い た祭り、地域の 行事、伝統芸能 (2)景観計画の区域(地域の特性を活かしたゾーン設定と重点的な取り組みを推進する重点地区の設定) 下田に携わるすべての人が景観に関心を持ち、景観まちづくりに取り組んでいくために、市域全域を 景観計画の対象区域とした。また、下田まち遺産が多く、下田の特徴を醸し出している地域を「景観誘 導ゾーン」として設定し、ゾーンの特性を活かした景観まちづくりを推進していくこととした。さらに 景観誘導ゾーンのなかで、特に貴重な下田まち遺産が集積し、重点的かつ積極的に景観まちづくりに取 り組んでいく地区を、関係者の合意のもとで「景観重点地区」に指定していくものとしている。(現時 点で景観重点地区の指定はないが、ペリーロード沿道地区を候補地区として位置づけている。) ■各地域・地区の特性を活かした景観形成のためのゾーン設定・地区設定による重点的な景観まちづくり (3)良好な景観の形成に関する方針(下田まち遺産を知る、創り・育てる、支える) ①協働による景観まちづくりの推進に関する方針 下田まち遺産を未来へつなげていくため、下田まち遺産を「知る」、 「創り・育てる」、 「支える」取り 組みを市民・企業・行政の協働のもとで実践していくことを方針として掲げており、前述した各種の制 度・仕組みは、この方針に基づき体系付けている。 4 ②景観誘導ゾーンの方針 ゾーンごとに、未来に活かしたい“下田まち遺産”を掲げ、景観形成の目標と景観形成の方針を示し ている。図-3 は、各ゾーンの概ねの区域と景観形成の目標である。 ■市民が景観まちづくりを進めていくうえでの参照先としてのわかりやすさと目指す方向性の明確化 (5)里山ゾーン 豊かな里山・水辺・田 園と調和した魅力的な 農村景観の形成 (2)下田港周辺ゾーン 歴史ある港を感じられ る景観、港を演出する まち並みの形成 (3)蓮台寺温泉ゾーン 昔ながらの湯治場の雰囲 気を大切にした情緒あふ れるまち並みの形成 (1)旧町内ゾーン (4)海岸線ゾーン 下田太鼓祭りが似合う まち並みの形成 白い砂浜や美しい海岸が映え る海辺と漁村景観の形成 <図-3:ゾーン区分図と景観形成の目標> (4)行為の制限に関する事項(下田の風景やまち並みの特長を守り・活かすための制限) ①概要 景観計画のなかの最も中心的な制度で、建築物等の行為(届出対象行為)に対する景観形成基準(以 下「基準」という)を設けて規制・誘導するもので、届出対象行為を行う市民や事業者は、その行為の 前に届出を行わなければならないこととなる。 下田市では、下田に携わるすべての人が下田まち遺産に配慮し、良好な景観を形成していくため、市 の窓口(景観担当課)へ事前に相談したうえで、市域全域、景観誘導ゾーン、景観重点地区のそれぞれ に定めた一定規模を超える行為(表-1)については、景観法に基づく届出を行うこととした。また、届 出の対象とならない延床面積 10 ㎡を超える建築物(景観重点地区は届出の対象)については、景観配 慮事項取組書を提出するという下田市独自の制度を創設した。(流れを図-4 に示す。) なお、届出対象行為は景観法に規定されているが、景観行政団体の条例で、対象行為を増やすこと、 適用除外とすること、対象規模を定めることなどが可能な柔軟な仕組みとなっている。 5 届出を要する規模 <表-1:届出対象行為> 市域全域 (景観誘導ゾーン、 景観重点地区以外) 高さ 13m超又は 延床面積 500 ㎡超 行為の種類 建築物 建築基準法・施行令に規定するもの 工作物 ・鉄筋コンクリート造の 柱、鉄柱・木柱類 ・煙突類 ・記念塔類 ・高架水槽、サイロ、物 見塔類 ・乗用エレベーター又は エスカレーターで観 光のためのもの ・ウォーターシュート、 コースター類 ・メリーゴーランド、観 覧車、オクトパス、飛 行塔類 ・製造施設、貯蔵施設類 ・擁壁 ・法面、垣、柵、塀類 ・高架道路、高架鉄道、 橋梁類 ・索道施設(ロープウェイ等) 開発行為(宅地造成) 土地の開墾、土石の採取、鉱物の 掘削、その他の土地の形質の変更 その他のもの 屋外における土石、廃棄物、 再生資源、その他の物件の堆積 景観誘導ゾーン (景観重点地区以外) 高さ 10m超又は 延床面積 300 ㎡超 高さ 15m超 高さ 15m超 高さ 13m超 高さ 6m超 高さ 4m超 景観重点地区 延床面積 10 ㎡超 高さ 3m超 高さ 8m超 高さ 13m超 又は 築造面積 500 ㎡ 高さ 10m超 又は 築造面積 300 ㎡ 高さ 3m超 又は 築造面積 10 ㎡ 高さ 5m超 高さ 5m超 幅員 13m超 又は高さ 5m超 高さ 20m超 面積 2,000 ㎡超 高さ 2m超 高さ 2m超 幅員 10m超 又は高さ 3m超 高さ 13m超 面積 1,000 ㎡超 高さ 1m超 高さ 1m超 幅員 10m超 又は高さ 3m超 高さ 13m超 面積 300 ㎡超 面積 2,000 ㎡超 面積 1,000 ㎡超 面積 300 ㎡超 敷地内の堆積面積 の合計 2,000 ㎡超 又は 堆積の高さ 5m超 敷地内の堆積面積 の合計 1,000 ㎡超 又は 堆積の高さ 3m超 敷地内の堆積面積 の合計 300 ㎡超 又は 堆積の高さ 3m超 市民・事業者等 相談 市の窓口での事前相談 助言 市独自 届出を要しない建築物の建築 届出を要する行為 (届出の対象とならない延床面積 10 ㎡超の建築物の建築) 景観計画区域内行為の届出書 を作成し提出する 景観配慮事項取組書を作成し提出する z 建築確認申請と同時の提出とする。ただし、 建築確認申請が不要なものについては、 建築に着手する 15 日以上前の提出とする。 z 他法令等に基づく申請等が必要な行為 は、各申請等の 30 日以上前に提出する。 z 申請等が不要な行為については、行為に 着手する 30 日以上前に提出する。 提出 提出 景観配慮事項取組書の受理 届出書の受理 届出内容についての確認 景観まちづくり 審議会の意見聴取 建築物の配置、高 さ、形態・意匠、色 彩、素材、外構等に ついて配慮した点 を「景観配慮事項取 組書」に記入して提 出。 (強制ではない) 景観法 景観形成基準への適合判断 景観法に基づく届出の内容が、景観形成 基準に適合しているかを判断 適合 変更・修正依頼 (適合通知書を発行) 助言・指導 変更・修正事項に ついての助言・指導 協議 勧告等 不適合 指導 変更・修正 指導の内容に基づき、 変更・修正を行う 適合 他法令等に基づく申請、行為の着手(建築物:届出内容の掲示) 完了届の提出(届出を要する行為のみ) <図-4:行為の制限の流れ> 届出書通りに実施されたかを確認 6 ②景観誘導の特長 下田市では、図-5 に示すように、まち並みを表面的に統一し、規制するための基準ではなく、下田ま ち遺産(歴史的建造物や自然景観等)に配慮して、下田の風景やまち並みの特長が失われないように誘 導していくための基準とした。これは、数値的な枠のなかで機械的に景観形成を進めるのではなく、市 民・企業等に対して下田まち遺産やまち並み形成について考えるきっかけを与え、意識を高めていく目 的もある。 基準は、市域全域、各景観誘導ゾーン、各景観重点地区それぞれに定めており、景観誘導ゾーン、景 観重点地区においては、各ゾーン・地区の特性を踏まえた基準とした。表-2 に代表例として旧町内ゾー ンにおける建築物の基準を示す。 しかし、この基準では、届出内容の適合判断や勧告等の際に苦慮することも考えられるため、判断が 難しい場合には、建築や景観の専門家等からなる「景観まちづくり審議会」の意見を聴く仕組みを盛り 込んだ。また、今後事例が蓄積されていくなかで、「景観まちづくり市民会議」等において市民と協議 し、良好な事例を参考にしながら、各種行為に対する景観形成デザインガイドラインを作成することと している。 ■都市の開発動向や地域・地区ごとの特性を踏まえ、届出対象行為や景観形成基準を設定 まち並みの特長が 失われないように 誘導する まち並みを表面的 に統一しようとす るものではない <図-5:下田市が目指す景観誘導のイメージ> <表-2:旧町内ゾーンにおける建築物の景観形成基準> 項 目 配置 高さ 建 築 物 形態・意匠 色彩 素材 外構 景観形成基準 ・道路から見た時に、両隣の建築物と壁面の位置がそろうように配慮してく ださい。 ・昔ながらのまちの形態を守るため、周囲の建築物より突出する高さは避け てください。 ・歴史性を意識した形態・意匠としてください。 ・屋上を設ける場合には、スカイラインを乱さない形状としてください。 ・室外に設ける設備などは、道路等の公共空間から目立たないように工夫し てください。 ・通りから外観が見える部分は、歴史的建造物等と調和した落ち着きのある 配色としてください。 ・通りから外観が見える部分は、周辺のまちなみと調和した違和感のない素 材としてください。 ・通りに面して垣又は柵を設置する場合は、閉鎖感のあるものは避けてくだ さい。 7 4.下田市独自の制度・仕組み 下田市独自の制度・仕組みの主なものを以下に示す。 <下田まち遺産があふれるまちに> 1)下田まち遺産の認定・登録に関する要綱 下田まち遺産を知り、創り・育て、支え、未来へ活かしていくた めの骨格となる制度であり、“下田まち遺産”を認定・登録するも のである。市民から、下田認定まち遺産の候補を募集し、「景観ま ちづくり市民会議」で審査(市民の参加可能)して、“下田認定ま ち遺産”を決める。また、認定されたまち遺産のうち、所有者等が、 現状を維持し、積極的に保全・活用などに取り組んでいくことに同 意したものを“下田登録まち遺産”とする。 2)身近な景観まちづくり協定要領 隣接し又は向かい合っている範囲において、3 軒以上の家屋等の土地又は建物の所有者及び占有者が、 柔軟な協定を結び、身近な景観まちづくりを進めていく制度である。当面、 「まちなみ看板協定」と「まち なみ緑花づくり協定」を推進する。 ●まちなみ看板協定は、周辺の景観に配慮し、ある程度の 統一感のある看板を設置するための協定である。周辺の 景観との調和に配慮した配色とすること、自然素材を活 用することなどを定める。 ●まちなみ緑花づくり協定は、ハンギングバスケットやプ ランター等を設置し、周辺の景観に配慮した美しい庭先 ▲協定のイメージ写真 (玄関先)にするための協定である。 3)景観まちづくりを支える制度要綱 (1)景観まちづくり人材バンク制度 【人材バンクの登録対象となる専門分野等】 ①職人(左官・大工・造園工・塗装工・石工・ 下田まち遺産の保存や景観まちづくりに関して専門 屋根工等) 的な知識・能力や技術・技能を有する個人や団体を登録 ②郷土の歴史や伝統 ③まち並みづくり し、市民等へ紹介・斡旋する制度である。 ④その他景観まちづくり全般(市長が認める者) (2)下田らしい素材バンク制度 下田らしい景観形成を進めるうえで重要な伊豆石などの素材を保存及び有効活用するため、不用とな った素材の提供が可能なリサイクル(解体)業者等とその活用を希望する市民等を登録し、両者を仲介 する制度である。 発生した素材の種類、形状、 素材が発生した現場に行き、 数量等を把握 連絡 市役所 建設課 情報 提供 活用希望者が提供者より購入 ●金額等の協議 (希望多数の場合は、提供者と複数 の活用希望者間で協議) <図-6:下田らしい素材バンクの仕組み> 8 活用の是非を判断 (3)表彰制度 景観まちづくりに著しく貢献したと認められる個人、団体又は事業者に「景観まちづくり賞」を、景 観的に優れた以下の建造物等に対しては「景観デザイン賞」を授与し、表彰する制度である。 <景観まちづくり賞> ① 下田登録まち遺産・下田認定まち遺産の保全・活用活動等を積 極的に行っている所有者・団体等 ② 身近な景観まちづくり協定を締結し、良好なまちなみ形成に寄 与している団体等 ③ 優れた建造物等をつくっている設計者(建築士)・施工者 ④ 景観まちづくり人材バンクに登録し、景観まちづくりに積極的 に参加・協力している個人又は団体 ⑤ 下田らしい素材バンクに登録し、積極的に素材の提供を行って いるリサイクル(解体)業者等 ⑥ その他市長が認める個人、団体又は事業者 <景観デザイン賞> ① 景観法に基づき届出された 建造物及び景観配慮事項取 組書の提出のあった建造物 のうち、景観まちづくり市 民会議で選定された景観的 に優れたもの ② 既存の建造物で、景観まち づくり市民会議で選定され た景観的に優れたもの (4)助成制度 景観まちづくりに著しく寄与すると認められる行為を行おうとする者に対し、助成する制度である。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ <助成金の対象要件> 下田登録まち遺産のうち、歴史的な建築物の修繕・改修等 下田登録まち遺産の維持・管理 景観重要建造物及び景観重要樹木の維持・管理 身近な景観まちづくり協定を締結して取り組む優れた行為 景観重点地区において、景観まちづくり審議会の同意を得て定められた助成基準に適合した建築物 市民等が参加する景観まちづくりに関するイベント等 景観まちづくり推進組織の活動 (5)景観まちづくり地域貢献登録制度と景観まちづくり基金 下田まち遺産の維持・保 地域貢献協力者(登録希望者) 存・創出並びに景観まちづ 地域貢献登録制度申込み 下田市 くりの推進のため、資金面 地域貢献登録者 で貢献することに同意した 事業者や市民を登録する制 度である。 登録者は、事業の売上金 地域貢献登録証の発行 売上の 一部を 寄附 地域貢献型自動販売機の例 ● 1本に付き 10 円の寄付 ⇒10 円×100 本(1 月)×12月=12,000 円(年に一回寄付) ● 年間の売上金の3%の寄付 ⇒100,000 円(1 月)×3%×6月=18,000 円(半年に一回寄付) の一部を、一般的な寄附金、 下田市ふるさと応援寄附条 例に基づく寄附金として寄 附する。 ①一般的な寄附金 ・企業等の事業の売上金の一 部を寄附 (地域貢献型自動販売機設 置寄附 他) ②下田市ふるさと応援寄附 条例に基づく寄附金 ・市民、下田出身者等からの寄附 ・個人の事業の売上金の一部を寄附 (地域貢献絵はがき寄附 他) ③その他 ・一般会計からの 繰り入れ等 市では、寄附金を「景観 まちづくり基金(景観まち 景観まちづくり基金 づくり基金条例)」として積 み立て、景観まちづくり等 のために活用する。 下田登録まち遺 産の活用等への 助成 (歴史的建造 物・お祭り等) 身近な景観まちづくり 協定者への助成 ・まちなみ看板協定者 ・まちなみ緑花づくり 協定者 景観重点地区に おいて定められ た助成基準に適 合した建築物へ の助成 その他の まち並み づくり等へ の助成 <図-7:景観まちづくり地域貢献登録制度と寄附金の流れ> 9 4)景観まちづくり基金の運用と助成の仕組み 景観まちづくり基金の設置のために景観まちづくり基金条例を定め、景観まちづくり基金運用委員会設 置要綱、景観まちづくり基金処分規程によって、適切な運用を図る。また、景観まちづくり助成金交付規 程によって、助成金の適切な交付を図る。 景観まちづくりの推進 ■景観まちづくり基金条例 景観まちづくり基金の設置 に関する必要事項 適切な 運用 助成金の適切 な交付 ■景観まちづくり基金運用委員会設置要綱 基金の適切な運用を図るための委員 会の設置に関する必要事項 ■景観まちづくり基金処分規程 基金の処分に関する必要事項 ■景観まちづくり助成金規程(景観まちづくり条例、景観まちづくりを支える制度要綱) 助成金の対象、額の範囲、手続き等についての必要事項 <図-8:景観まちづくり基金運用の仕組み> 5)景観まちづくりを支える組織 (1)景観まちづくり審議会 景観まちづくり市民会議の代表者、景観等の専門家、都市計画審議会代表者からなる組織で、景観計 画の変更、行為の届出に対する助言・指導・勧告等、景観まちづくりに関する重要事項を審議する。 (2)景観まちづくり市民会議 市民の代表、市内の建築・歴史・色彩等に詳しい者、景観まちづくりに寄与する団体の代表者からな る組織で、下田まち遺産の認定・登録に関すること、下田市独自の制度や仕組みを円滑に進めるために 必要なことなどを検討し、決定する。また、市民主体の景観まちづくりを先導する役割も担う。 (3)景観まちづくり推進組織 景観重点地区や一定の地区・区域において、良好なまちなみ形成を図ることを目的として組織された 団体を認定するもので、認定されると活動費への助成が受けられる。また、景観重点地区では、地区独 自のルールなどの提案ができ、地区主体の景観まちづくりが可能となる。 5.おわりに 1)市民・企業・行政の協働による景観まちづくりへの期待 平成 22 年 7 月に景観まちづくり条例が施行され、すべての制度の運用が開始される。本計画は、市民等 の意向を充分に反映しながら、 「景観まちづくり市民会議」等において熱心な議論を重ねて策定した。今後 も、市民等の理解と参加を得ながら、さらに充実した景観まちづくり制度につくりあげ、基本理念である 「今ある“まち遺産”を絶やすことなく、新たな“まち遺産”を創り出し、未来に活かす」ために、市民・ 企業・行政の協働による景観まちづくりが積極的に展開されることを期待したい。 2)景観まちづくりの必要性 どこの自治体も財政状況が厳しいなか、景観形成や景観整備に関する事業費等が削減、廃止の対象とな るケースが多い。しかし、景観は、まちの魅力や活力づくり、公共事業の品質の向上、市民のまちへの愛 着心・誇りの醸成、協働のまちづくりの仕掛け等々、ハード・ソフトの両面にとっても重要な視点である ため、各自治体で独自の景観まちづくりを推進していくことの必要性は高いと言える。 ※イラストは、「景観づくり市民会議」メンバーの絵本画家 鈴木まもる氏 作 10
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