テレビスターへの最初の一歩 マーク健司コンドン 皆さん、こんにちは。私

テレビスターへの最初の一歩
マーク健司コンドン
皆さん、こんにちは。私はマーク健司コンドンと申します。私の母は日本人ですが、私は母から
日本語を習ったことがなかったため、2年前にイギリスから日本へ日本語の勉強に参りました。1
年間、学校で日本語を勉強した後、私は新しい仕事を始めました。もしかしたら、皆さんの中には
「この外人の顔、どっかで見たことあるな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
私は去年の秋、あるテレビ局の連続ドラマに、女優の飯島直子さんの相手役として出演していま
した。この相手役のオーディションを受けてみないかと知人にすすめられた時、私はずいぶん迷い
ました。というのも、私は演技の経験はまったくなかったからです。それに、自分の日本語の力も
まだまだだと思っていました。しかし、せっかくのチャンスだからと考え、思いきって受けてみたとこ
ろ、自分でもびっくりしたことに、合格することができました。そしてこのあとの4ヶ月は、毎日が新
しい経験であり、失敗の連続でもありました。
皆さんは飯島直子さんをご存知でしょうか。私は日本のテレビのことはほとんど知らなかったの
で、初めは飯島さんの顔も名前も知らず、彼女がどのぐらい有名な人なのか想像もつきませんで
した。それで、初めて飯島さんに会って「マーク、彼女いる?」と聞かれた時、「飯島さんは彼氏い
ますか」と聞き返してしまい、周りの人にびっくりされました。飯島さんは「マークしかそういう質問
はできないよね」と笑ってくれましたが・・・。
ドラマが始まる前には、宣伝のための記者会見がありました。そこでは、自己紹介をするように
言われていたので「はじめまして。マークと申します。2002年の4月にイギリスのノッティンガムか
ら参りました。趣味はバスケと筋トレです。どうぞよろしく。」などと練習していたのに、その時になっ
て、ドラマでの役の自己紹介をしなければならないということがわかりました。英語でも大勢の人
の前で話すのは苦手なのに、ましてや準備もまったくなく、ドラマの筋も私の役のキースのことも
皆目わからなかったため、焦りながら「キース・コルベットはアメリカの証券会社で働いて・・・アメリ
カから来て・・・高尾山で花さんと出会って・・・殴られて・・・愛するようになります」と答えたら、聴衆
に大笑いされてしまいました。この日本語は、やっぱりおかしいですか?
記念すべき初めての撮影は、私が飯島さんに殴られるシーンでした。「生まれて初めてする演技
が、女の人に殴られる演技だなんて・・・」と思いながらも一生懸命やりましたが、とにかくタイミン
グが難しいんです。時には殴られる前に「イタッ!!」と言ってひっくり返ってしまったりして、何度
も何度もやり直しをさせられました。出演者は2人だけなのに、周りにスタッフが40人もいて、もの
すごく緊張しました。4ヶ月の撮影を通して、監督にはいろいろな演技の仕方を教えていただきまし
たが、人間の感情を表す動作はそれぞれ国によって違いますので、イギリス人の私にとっては不
自然に思え、とまどうこともありました。自分の感覚や気持ちがうまく出せなかった私は、きっと「ダ
イコン役者そのもの」に見えたことでしょう。
また、台本に漢字が多かったり、スタッフの人が素人の私にはわからない専門用語を使ったりと、
日本語で困ることもよくありました。しかし、私の日本語と同じぐらいの英語が話せるスタッフは、と
きどき、「これはBERI SADDOシーン。SADDOな顔をしなきゃいけないから、マークの一番SA
DDOなDAYをTRY TO思い出して」などと、ちゃんぽん英語で説明してくれました。正直言って、
何だかよくわからない時もありましたが、とても嬉しかったです。
このようにして過ぎた4ヶ月は、みんなに笑われたり、迷惑をかけたり、と失敗続きではありまし
たが、私にとってかけがえのない経験となりました。演技の難しさは勿論、日本とイギリスの感情
表現の違いや、テレビで見れば数秒のシーンであっても、そこには多くの人の時間や労力がかけ
られていることを、初めて知りました。また、今まで知らなかった世界の人と知り合うこともできまし
た。オーディションを受ける前にはずいぶん迷いましたが、今は受けておいてよかったと心から思
っています。何かをやろうか、やるまいか、と迷った時には、勇気を出してやってみることを、皆さ
んにもおすすめします。その結果、失敗することがあっても、その経験の中から学ぶことも数多く
あるからです。たとえ自信がなくても、失敗を恐れず、とにかくチャレンジしてみることが大切です。
どんなチャンスも大切にして、新しい自分の世界を大きく広げていきましょう!
ご清聴ありがとうございました。