7.設計検証論(2008)

広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻
2008年度 M製品開発論テキスト
7.設計検証論
広島大学大学院社会科学研究科マネジメント専攻
非常勤講師
日野三十四
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
1.設計検証の全体像
下向きの矢印が『設計』、上向きの矢印が『検証』
基本
機能
使い
V
勝手
O
見栄
C
え
付加
機能
設計・検証
『プロダクト・モデル』
製品機能構成を中心にお
いてレイアウト構成と性能
構成で構成される
基
使
見
付
本
い
栄
加
機
勝
え
機
能
手
能
社内試験法(商品仕様書)
商
品
P
K
G
構
成
PT / シ ャシ
L/ O
エンシ ゙ンル ーム
L/ O
居住性・ 荷
室計画
アンダフロア
L/ O
CAD
P
T
性
能
構
成
品質・コスト・タイミングの同時
勝者になるためには:
展開・検証の単位時間当たりの
繰り返しスピードを早め、たくさ
ん実施すること。
製品機能構成
シ
ボ 内 電
デ 外 装
ャ
シ
ィ 装
走る、 曲が
る、 止ま る
NVH、 熱害
エ ミ ッ シ ョン
耐久性
耐環境性
人間工学
C r aft sm an sh ip
情報の展開・検証をスムーズ
に実施するためには:
プロダクト・モデルを中心とした
情報管理構成を標準化すること
CAT/
CAE
質量
CAD
VOC: Voice of the Customer
CAD: Computer Aided Design
CAT: Computer Aided Testing
CAE: Computer Aided Engineering
CAM: Computer Aided Manufacturing
PDM: Product Data Management
PDM
PDM
加工工程
PDM
重心
荷重配分
生
産
構
成
組立工程
商品開発とは:
商品開発に関わる上流から下
流までの各部門の情報を展開
し、検証することを、何回も繰り
返して収束を図ること。
質
量
構
成
開
発
資
開発工数
源
構
開発期間
成
技
材料費
術
原
加工組立費
価
構
治型具費
成
開発
設備費
CAM
検査工程
物流工程
共
通
費
生産原価構成
間
設
労
接
備
務
費
費
費
PDM
A社
購
買
B社
構
成
・・・
PDM
板
金
-1-
購買原価構成
鋳
機
・
械
鍛
加
工
電
機
組
立
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
2.社内試験
<社内試験体系の例(自動車)>
社内試験体系
社内試験
基本機能
試験
製品によって異なる
正の性能
試験
投入エネル
ギが目的
方向に使
われた性
能
走る
曲がる
止まる
快適
補機性能
試験
負の性能
試験
NVH試験
投入エネル
ギが無駄
に使われ
た性能
熱害試験
エミッション
試験
信頼性
試験
対環境
試験
耐久試験
人間工学
試験
(使い勝手)
運転者
工学
サービス性
工学
座り心地
視界・視認性
各種操作性
座り心地
各種操作性
積荷性
部品脱着性
意匠
評価試験
(見栄え)
設計美学
(体系化未確立)
Craftsman
ship
合い・沿い
まとまり
コンポーネント
実験
エンジン実験
ウオータポンプ
実験
乗員工学
トランスミッション
実験
オルタネータ
実験
サスペンション
実験
-2-
エンジン性能試験
0-400m加速試験
追い抜き加速試験
登坂試験
・・・
コーナリング試験
最小回転試験
据え切り試験
・・・
急制動試験
濡れ路面制動試験
・・・
空調試験
音響試験
NAVI性能試験
・・・
車内騒音試験
車外騒音試験
異音試験
加減速振動試験
高速シミー試験
操縦安定性試験
目地突き上げ試験
・・・
エンジンオーバーヒート試験
フロアー温度試験
枯れ草着火試験
ストッキング燃焼試験
・・・
排気ガス試験
燃料蒸発ガス試験
化学製品蒸発試験
・・・
高温試験
低温試験
高地試験
シャワー試験
電波障害試験
・・・
一般耐久試験
高速耐久試験
悪路耐久試験
法規耐久試験
特殊耐久試験
・塩散布耐久試験
・中国路面耐久試験
・石畳耐久試験
・寒冷地耐久試験
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論

社内試験とは、市場での製品の無限の使われ方を社内の一定条件下で再現する方法。

設計は、社内試験での性能目標や信頼性・耐久性基準をターゲット。

CAEも基本的には社内試験での性能目標や信頼性・耐久性基準との相関性が生命線。

したがって社内試験は設計やCAEにとっての神様。

社内試験の生命線は、「市場との相関性」。

特に信頼性・耐久性基準の市場との相関性が重要。

信頼性・耐久性の社内試験は、市場での故障モードと故障要因の全体の再現が必要。
(特性要因図全体の再現が必要)
<特性要因図>
故障要因2
故障要因1
要因21
要因22
要因23
要因13
要因32
故障要因3
故障
モード
要因43
要因33 要因41
要因31
要因11
要因12
要因42
故障要因4
<特性要因図の例>
排ガス装置
劣化
触媒劣化
燐被毒
熱劣化
熱変形
触媒反応器破損
-3-
鉛被毒
排ガス
悪化
M 製品開発論(2008)

7.設計検証論
市場調査や現地テストなどを通じて、特性要因図全体が再現するような社内の運転条件と運転時間を探
索すること。

基本的には市場での代表的な使われ方を社内で忠実に再現する方法を探索すること。

“加速試験”と称して市場にはない厳しい条件で運転して短時間で故障モードのみを再現する試験法を社
内試験として採用してはならない。こういう根拠のない試験法では、製品を構成している一部のユニットや
部品は過剰品質となり、一部は不足品質となる。

三菱自動車のハブ脱落問題は社内試験では問題なかったとしたら、社内試験法が市場の使われ方を忠
実に再現していなかったことになる。

三菱自動車のGDIは市場で燃焼スラッジ堆積問題を起こしたが、エンジンの耐久試験を根拠のない“加速
試験”でやっていた可能性あり。

市場の使われ方を忠実に再現した社内試験法は、たとえば『市場10年10万キロ耐久性保証』とかになる
と試験に長期間必要になり、開発期間短縮のネックになる。

加速試験は、市場の使われ方を特性要因図方式で忠実に再現した後、加速試験を適用したらどの特性
がどのように変化するか、再現できる項目と再現できなくなる項目を見極めながら適用することが必要。

開発期間短縮の決め手は、長期間要する社内試験法をCAEに置き換えること。その場合も、CAEが社内
試験法による特性要因図全体を模擬していることを確認が必要。
-4-
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
実験の自動化システム
(清水宏晃、倉科淳、藤井善雄、山田ゆう子、佐藤淳、黒沢和己『実験部門における CAE
の現状と将来』日産技法、第 23 号別冊(昭 63-3))
実験データによる設計インテリジェンスの獲得
実験データ群
実験情報群
設計インテリジェンス
Xがどうなら
Yはどうなる
理論的には説
明できない
経験的な法則
-5-
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
3.デザイン・レビュー (DR、設計審査)

DRの定義:JIS信頼性用語『アイテムの設計段階で、性能・機能・信頼性などを化かう、納期などを考慮し
ながら設計について審査し、改善を図ること。審査には設計・製造・検査・運用など各分野の専門家が参
加する』

ISO9001-1994での要求事項:『設計の適切な段階において、設計結果の公式な、文書に基づく審査を計
画し、実施すること。各々のデザイン・レビューに参加するメンバーには、審査される設計段階に関係する
すべての部門の代表者だけでなく、必要に応じて他の部門の専門家も含めること。これらの審査の記録は
維持すること。
→複数回実施すること。
→DRの手順が公式の文書
で定められていること
→製品に関する情報を授受
する部門の設計審査資
格を持った代表者が参加
すること。
→必要に応じて技術研究所
や品質分析部門などの
部門の専門家も含めるこ
と。
→審査の結果は記録し、未
解決問題は解決されるま
で維持すること。

『 設 計 部 門 をつ る し上 げる
場』になる危険あり、『設計
部門を助ける場』であること
を社内強調が必要。

DRの手順を明確にし、必要
な帳票を整備することが成
否の分かれ目。
(大津亘、1989)
-6-
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
<DR開催手順>
設計部門
(仕入れ先含む)
DR事務局
審査部門
DR発意
(DR開催のXヶ月前)
否
事前説明会の
開催必要?
要
事前説明会案内
(DRチェックリスト添付)
説明資料準備
事前説明会開催
議事進行
送付
説明
質疑
DR開催案内
(DRチェックリスト添付)
審査資料準備
DR開催
議事進行
事前確認
送付
事前確認
説明
質疑
報告 残問題フォロー 報告
確認
議事録作成・配布
節目ごとに棚卸
・DRは全部終了したか
・残問題は解決したか
・DR Check listは更新したか
(日野三十四、2002)
-7-
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
<DRチェックリスト>
DRチェックリストのできばえがDRの成果を左右する。
DRチェックリストは組織の“設計ナレッジベース”。実践を通じて年々向上させることが重要。
図 5 – 14 デザイン・レビュー チェックリスト
(全体版)
1. 基本計画
2. 信頼性
3. 安全
4. 工業
所有権
5. 操作性
(詳細版)
・日程計画 ・重量計画 ・性能・品質 ・海外CKD・
国産化 ・生産計画 ・原価企画 ・新規性
・仕向け地 ・基本配置計画 ・共通化・標準化
・構成部品 ・フールプルーフ ・公差(偏差) ・強度
・機能・機構 ・テスト条件 ・フェールセーフ ・特殊設計
・組付性 ・使用条件・頻度 ・故障率・耐用寿命
・フェールセーフ ・テスト ・クラッシュワージネス
・ウォーニング ・視認性 ・フールプルーフ ・法規制
・二次故障 ・安全設計
・工業所有権の取得
・工業所有権の抵触
・配置 ・操作力・フィーリング
・操作法 ・姿勢・動作
審査項目
1. 基
1
2
3
6. サービス性 ・点検 ・メンテナビリティ ・リペアビリティ
保守
・調整・交換 ・アンダメージャビリティ
7. 経済性
・共通化 ・互換性 ・ランニングコスト
・重量軽減・省資源 ・標準化 ・汎用性 ・製造コスト
8. 生産性
・加工性 ・検査容易性 ・設備能力
・組付性 ・標準化
9. 輸送・
・輸送保管条件
保管
・輸送効率
10. 市場
・法規制 ・対環境(公害)
適応性
・市場環境・メンテナンス
・
・
6
・
10
(出典:
『自動車工学便覧』表 3-15 自動車技術会 1984)
・
本 計 画
日程計画(開発大日程、出図日程、試作日程)
(1)出図日程上の問題はないか
(2)コンポーネント完成上ネックになる出図および試
作について考慮されているか
重量計画
(1)目標重量構成を達成できるか
(2)重量の算定に問題はないか
(3)重量低減が十分考慮されているか
性能・品質
(1)目標品質を確保できるか
(2)品質の予測に問題はないか
(3)品質向上のための十分な配慮がなされているか
・・・
原価企画
(1)目標原価構成を達成できるか
(2)原価の算定に問題はないか
(3)原価低減が十分考慮されているか
・・・
共通化・標準化
(1) 共通化・標準化が最大限なされているか
(2) ・・・
・・・
2. 信
頼 性
1 構成部品
(1)部品点数は最小限に抑えられているか
(2)実績のある部品が適切に使用されているか
(3)実績のある機構部品の最適な使用が行われているか
2 フールプルーフ
(1)フェールセーフは考慮されているか
(2)フールプルーフは考慮されているか
(3)冗長性を持たせた設計になっているか
・・・
(日野三十四、2002)
-8-
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
<DRチェックシート>
(大津亘、1989)
<DRフォローシート>
(大津亘、1989)
-9-
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7.設計検証論
<DRの効果>
(大津亘、1989)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<参考文献>
大津亘、『設計技術者のための品質管理』日科技連、1989
日野三十四、『トヨタ経営システムの研究』ダイヤモンド社、2002
- 10 -
M 製品開発論(2008)
7.設計検証論
4.設計検証マネジメントシステム
商品目標設定ツール
ボイス オブ ザ カスタマ
(VOC)
プロダクトベンチマーキング
(PBM)
製品仕様書
設計検証マネジメントシステム
設計スペック
マスター
データベース
Select
(2) 設計スペック表
(1)製品機能構成(マスター)
System: 01.00.00
Vehicle ID
SubSub-sub- Spec. Base Model 開発Stage毎のスペック
System System Name Spec. Plan 先行 試作 PP
量産
01.01.01 01.01.01 XXX
XXX
XXX
ベース製品/ベースシステムから何を
01.02.00 01.02.01 XXX
どのように変えるのか?
XXX
01.02.02 XXX
XXX
System
Sub-system Sub-sub-system
Component
Code Name Code Name Code Name Code Name
01.00.00.00 01.01.00.00 01.01.01.00 01.01.01.01
01.01.01.02
xx.xx.xx.xx
01.01.02.00 01.01.02.01
01.01.02.02
01.01.02.03
xx.xx.xx.xx
プロダクトユニークの構成
を選択
同じ
製品機能構成
開発の早い段階から使用す
る、機能設計のための標準
的なBOM。
部品仕上がりチャート
部品メーカーの部品
仕上がりチャート
製品機能構成
(3)部品仕上がりチャート
設計検証アイ
テムのマス
ターデータ
ベース
製品構成に
したがって
検証アイテ
ムを選択
検証ツール
設計標準
設計ガイド
CAE基準
CAD基準
試験基準
EGNG. Spec.
----
Class Verif. item
Criteria
SubSystem
Subsubsystem
----
検証結果
先行検討stage
XXX
判
結果 定 報告書#
Plan stage
判
結果 定 報告書#
量産開始stage
判
定 報告書#
結果
X
X
設計検証計画:
変更スペックの機能を確実に
するために何を、いつ検証す
るのか?
X
X
設計検証結果:
検証の結果はどうか?
クリティカルな問題は何かあるか?
X
X
X
X
確認項目
デザイン・レビュー
サプライヤ評価決定
技術スペック問題
スペック提案
----
真の
原因
変更スペックの機能を確実に
するためにどのようなプロセス
を採用するのか?
試験不具合
Stage 部品番号
設変
期待
スペック 低減コスト
生産部門不具合
Stage 部品番号
(5) IQS (J.D.Power)予測テーブル
IQS 真の
Code 原因
計画された日にすべての確認項目が
実行されたか?
(6) 不具合フォローアップリスト
(4)保証クレーム予測テーブル
部品 実際
コスト
内容
保証コスト IQS改善のため 期待され
への影響 の設変スペック
るIQS
不具合
判定
不具合
真因
判定
部品メ ー カー 不具合
Stage 部品番号 不具合
測定結果 設変#
真因
判定
真因
計画
測定結果 設変#
結果
計画
測定結果 設変#
結果
計画
結果
5W1Hでフォローアップ
(8) 開発仕上がりチャート
記号
QQ
QM
QC
M
R
H
C
QS
QA
E
N
目標・要求
(7)不具合の管理状況チャート
基準
判定
IQS
平均故障間隔
平均故障寿命
商品性
信頼性
法規遵守性
部品共通化率
Total Item XX
開発部門責任 XX件
生産準備部門責任 XX件
生産構造要件書適合率
新技術のFMEA実施率
・・・
- 11 -
A rank: XX
--D rank: XX
E rank: XX
F rank: XX
対策案
EC
PC
Spplr
XXX
XX
X
X
XX
X
X
-
XX