APPROACH 25 vol. 2007.12.18 Inside Topics 編集責任者: (財)海外貿易開発協会 総務部長 大嶋 巖 JAPAN OVERSEAS DEVELOPMENT CORPORATION APPROACHは、海外各国で専門家として活躍されて いる方々の指導現場での貴重な体験談を掲載しております。 <専門家の声> 1 中津川新一専門家 (フィリピン) 専門家の声 中津川 新一専門家 Mr. Shinichi NAKATSUGAWA フィリピン・サントトーマス 派遣期間:2007/1∼2007/12 (派遣中) 2 土師野正専門家 (インド) 指導内容:PCハードディスクドライブへの無電解 ニッケルめっき処理に関する技術指導 中津川専門家 会社のイ ベントで ダンスを 披露 3 宮崎雄一郎専門家 (フィリピン) 3-4 西村耕三専門家 (マレーシア) 4 専門家はこう思う! ・ 読者からの声 ・ JODCからのお知らせ ・ JODC理事長からの エール ◇初めの印象から課題を見出す ◇休日の楽しみ 指導を始めた当初、「何て国に来てしまった のか」という思いがありました。その理由は、 現地の人が①平気でうそをつく、②あやまら ない、③ミスは隠し通す、④掃除やドアの開 閉で足を使う、等々一般的な躾の無さに圧倒 されたからでした。根気よくやらねばと志を 強くもち、とにかく本気でぶつかるうちに、 指導現場の状況も徐々に変わっていきました。 生活面で重要な事は、週1回の休日を上 手に過ごしてストレスを溜めない事です。 私は、ショッピングやグルメ、テニスに SPAにと有意義な時間を過ごしていま す。また、折角の機会なのでスキューバ ダイビングの免許取得にも挑戦しました。 海に潜った時には、あまりの綺麗さと、 今まで感じた事のない感動で興奮が覚め やりませんでした。フィリピンは汚い、 危ないというイメージがありますが、海 は別世界です。 ◇説明はハッキリ簡潔に! 指導中に実践して一番良かったなと思えたこ とは、間違った時の“Sorry“、人にやっても らった時の”Thank you“でした。この二言を心 <バックナンバー> がけているうちに、現地スタッフの対応も変 http://www.jodc.or.jp/ 化していったと思います。彼らはもともと勉 approach/index.html 強家で、物事に対する取り組み方は真剣その 「APPROACH」はメルマ もので目を見張るものがあり、指導した事が ガでも配信中です。配 身に付いていくのがはっきり見えます。今で 信希望の方は上記サイ トよりお手続きをお願 は 、 「壊 して しまったので申し訳ありませ ん 」 、「 どの 様にしたら良いですか?」、 いします。 「この様に思っているのですが、どうでしょ うか?」などと、初めは指導のやり方自体に 不安を抱いていた私ですが、彼らのこの変わ <JODC事業・ りようには何とも嬉しい限りです。コミュニ 最新情報> ケーション=自分がどれだけ現地の人の中に http://www.jodc.or.jp/ 入り、かつ、自分の本音を言っていけるかが 重要だと感じました。ただし、自分の目が届 いていない所では、彼らは直ぐ手を抜くこと もあるので要注意です。 ◇現地の人達から学ぶべき事 フィリピン人の性格は一言で言うと、ノ リが良いという所です。お菓子を食べて いても、一緒に食べましょう、歌や、ダ ン ス も 一緒にやりましょうなどと、人 懐っこく陽気な性格です。彼らは歩くの は苦手ですが、ダンスは4時間でも平気 です。そんな現地の方々と触れ合う中で、 一日一日を「生きている」のだなと、改 めて実感させられました。色々な面で一 番学んでいるのは私なのかなと、この頃 感じています。 中津川専門家 ローカルスタッフと Ⅱ APPROACH Vol.25 2007/12/18 専門家の声 土師野 正 専門家 Mr. Tadashi HAJINO ◇古き良き日本を想わせる・・・ インド・バンガロール 派遣期間:2006/6∼2007/6 (派遣終了) 指導内容:油圧装置設計用CADシステム構築によ る設計生産性向上並びに製鉄設備用高圧大口径 油圧装置の品質向上・コスト低減に関する技術指導 ◆目覚しい発展の地、バンガロール 受入企業は、南インドのデカン高原南西部に位 置したバンガロール市郊外のマンゴ畑に30年前 に設立されました。緑あふれるのどかな庭園に 囲まれ、日系企業とは思えない、いかにもイン ドらしいたたずまいの会社でした。現在のバン ガロールは、インドのシリコンバレーとも言わ れ近年目覚しい勢いでITビジネスが発展してい ます。受入企業の近隣には州政府による大型複 合施設のITテクニカルパークを初め、欧米のソ フトウエア会社の高層オフィスビルが建設され、 農場や荒野が一大ハイテク団地に変貌していま す。 インドと言うと、「暑くて不衛生で病気にかかっ たら死ぬしかない」と思って来てみたら、古きよ き時代の日本を想わせる所があり、田舎育ちの私 には快適な生活を送ることができました。 特にバンガロールは軽井沢より100Mほど高い高原 にあり、1年を通して快適な気候のため、「エアコ ンシティー」とも言われています。市内には大き な街路樹が生い茂り、緑のトンネルの中を走ると 言った感じですが、最近では道路の拡張で2∼3抱 えもある大木が無造作に切り倒されており、嘆か わしい限りです。また町並みも、美容室、喫茶店、 ケーキ屋、スポーツ店などがモダンな店舗に建て 替えられ、インドらしい町並みが失われつつ あり、寂しい気がします。 誕生日に 皆から祝 われて ◆技術の移転と蓄積の大切さ インドも、他の開発途上国同様、より良い待遇 を求めて転職を繰返す人が多くいます。特にバ ンガロールはIT産業が急成長しており、ソフト 技術者は通常の3∼4倍の給与でIT産業に採用さ れていき、優秀な機械技術者がそちらに流れて 行くなど歯止めが利かない状況です。この状況 はある程度わかっていたので、何時でも誰でも 利用できる「技術標準書」(全ての技術指導内 容のメモを基に、基準書、標準書、マニュアル、 技術連絡書に分類した社内規格書)を作成し、 技 術 の 移 転 と蓄 積に 力を 注ぎ まし た。 例え ス タッフが3∼4年で退職するとしても、その間に 吸収した知識や技術は必ず転職先企業で活かせ るし、またその転職先が受け入れ企業のユーザ になることもあり得ることも念頭に、「自分の 指導は十分意味がある」との信念で、できるだ け多くのことを何度も何度も繰り返し繰り返し 指導しました。 お客様へ 工場の説明 土師野専門家 土師野専門家 ◇自給自足の生活も満喫 家での食事は全くの日本食でしたが、味噌、醤油、 ワカメ、揚げ、納豆と言った日本独特の食材を除 けば殆ど現地で間に合うので大助かりでした。肉 類、ソーセージ、新鮮な野菜などは、日本人会の 方々に教えていただき10Km、20Kmの遠方にまで買 出しに行きますが、日本のような物はなかなか手 に入りません。会社の敷地内に1坪ほどのスペー スを貰い、そこに細ネギとミツバを栽培して楽し んだり、アパートのバルコニーでも細ネギ、ミツ バ、ニラなどを栽培し、朝の忙しい時間に一葉つ まんで味噌汁に入れて豊かな気持ちで朝食を楽し んでいました。昼食は自前の弁当です。幸い家内 が何度か長期滞在をしてくれたので助かりました。 1人のときは大変です。朝起きて朝食と弁当を如何 に早く作るか、奇想天外なアイデアで弁当を作る 面白さを知りました。外食は衛生上何処ででも食 べるわけに行かず、ホテルや高級レストランは高 価なので、夜中まで気軽に飲食できるイギリス風 会員制の社交クラブやゴルフクラブに幹部連中と 色んな理由をつけてよく出かけるのが楽しみでし た。 Ⅲ APPROACH Vol.25 2007/12/18 専門家の声 宮崎 雄一郎 専門家 Mr. Yuichiro MIYAZAKI フィリピン・マカティ 派遣期間:2007/8∼2008/7(派遣中) 指導内容:日本向橋梁鉄鋼部品の加工図面設計及び 同加工用CADデーター作成に関する技術指導 ◇スタッフとは共に考える 現地スタッフとは、特に何も意識せず、構えるこ ともなく自然に接しています。受入企業での指導 に関しては、技術面は指導しますが、指導の「や り方」では“共に考える”をモットーとしています。 皆と共に考え一番良い方法をとるため、時には意 見の衝突が生じ口論にもなりますが、どんな事柄 でも納得出来るまで徹底的に話し合います。そこ で重要な点は、口論になった事に対してクヨクヨ しないことです。「これでいいのか?」などと悩 んでいても答えは出ないので、出来る限り共に考 え、やってみてダメならダメで違う方法をやれば 良いと考えています。 んが、そんな時はスタッフに相談し、教えてもら うことです。仕事ではこちらが教える立場なので、 遠慮なく何でも話し合い、こちらも現地の事、ま た逆に日本人・日本式のやり方の悪さも教えても らい、肌でコミュニケーションをとることが肝心 です。一挙両得ですし、このスタイルの方が楽で す。双方にとって、2倍にも3倍にもプラスとなっ ているんだなと最近は思えるようになりました。 とにかく自分らしくやっている事が一番親しくな れる方法だと思います。 宮崎専門家 ローカル スタッフ の誕生日 パーティー 専門家の声 西村 耕三 専門家 Mr. Kozo NISHIMURA マレーシア・ペナン 派遣期間:2006/1∼2007/7 (派遣終了) ローカル スタッフ への指導 風景 宮崎専門家 ◇はっきり伝えることの大切さ 普段は、現地スタッフと冗談を言い合ったり、同 じテーブルを囲んで一緒に昼食を食べたりしてい ます。とりわけ現地の人達は関西人である私と良 く気が合うようで、冗談が良く通じます。金曜日 などは一緒に飲みに行ったりもしますが、常に彼 らに合わせている訳ではなく、行かない時は行か ないと率直に伝え、その他全ての事柄に対しても 「YES」・「NO」のハッキリした意思表示をしてい ます。指導もそうです。きついと思うかもしれま せんが「YES」・「NO」をハッキリさせることが現 場でのプラス要因となります。その他に重要なこ とは、仕事とプライベートをキッチリ区別して考 えること。「外国だから・・・」と力を入れ過ぎ ることなく、気楽に構えれば生活面も楽になりま す。時には「薬が欲しいけど、何が良いんや ろ?」、「ここはどうやって行けばいいんだ ろ?」なんて困った場面に遭遇するかも知れませ 指導内容:鋼板加工工場の管理者育成及び6S(5S +Safety)、品質改善並びにコスト削減に関する技術 指導 ◆指導は、現地文化の理解を基本に 現地での指導においては、絶えず文化や習慣の違う 国の人達を指導するという事を念頭に、絶えずそれ を思い出す事が必要だと思います。我々専門家の使 命は、日本で働きその間に得た幾ばくかの知恵と技 量を現地で再現し実際に示す事により、現地の人達 にその技術や管理手法その他を体得してもらうこと だと思います。これまでの海外での指導経験を通じ て痛感したことは、「継続して何かを実践させる」 ことの難しさでした。彼らは、「続けないのではな く、続けられない」のです。目的や意味が理解出来 ないことにその要因があるのだと思います。我々日 本人は、1を聞いたら2,3の事を考えて作業なり仕 事をするという指導教育を受けてきたため、自動的 に「意味」を理解し、また「目的」を理解してから 物事を進めて行く習慣が身についています。そのた め、日本人は自然に「継続して何かを」していける のだと思います。しかし現地の人達は「言われた事 をする」、「言われたからする」という考えがベー スになっているので、意味を判ろうとしないのでは なく、彼らにしてみれば判る必要性が無いのだと思 います。この違いを知った上で指導することが大切 です。 Ⅳ APPROACH APPROACHVol.25 Vol.○ ◆スタッフの理解度チェック 2007/12/18 200○/○/○ 読者からの声 組織として何かを取り決める際、スタッフから の質問・発言が無い場合は、その内容について 彼らが理解出来ていないことを意味しています。 そんな時には、まず彼らに自分達がこれから取 組もうとしている事柄の内容の説明をして貰い ます。その説明が充分であるかどうかで彼らの 理解度を判断し、最後に最終目的を確認して、 全員の理解の一致、また目的の共有が出来たと ころで物事を進めるようにしました。時間はか かりましたが「急がば回れ」。結果的にはこの やり方が良かったのだと信じています。 海外に派遣された専門家の方々の、現地スタッ フ指導での大変なご苦労がひしひしと伝わって きます。ただ、受け入れ企業の中には現地ス タッフの技術指導教育を、派遣専門家の個人的 なご苦労と努力に任せてしまう傾向があるので はないでしょうか。派遣された方々がその技術、 指導能力を十分に発揮するには、受入企業側に 現場への会社方針の徹底とか、なにかもう一工 夫必要なのではと感じます。 (大学研究機関関係者より) JODCからのお知らせ ◆シンプル化で意欲度アップ 作業のシンプル化を心がけ、作業実行に際してス タッフが、「煩わしい」「面倒くさい」といった 気持ちにならないよう工夫を凝らしました。例え ば、数値を入力すれば目的の数値が計算され、表 に自動的に表示されるフォーマットを作り、それ を使ってもらうようにしました。余分な計算等を 省く工夫をし、結果を使いこなす事に集中出来る 様に心掛けました。 ・ フィリピンJODC事業説明会・成果報告会 レポート発行予定(近日中) 今年度9月にフィリピンにて開催したJODC 事業セミナーの内容を収録しております。 ・ 「JODC派遣専門家による技術指導事例集」 マレーシア編が完成致しました。 本レポート・事例集をご希望の方は、 [email protected] までご連絡下さい JODC理事長からのエール ∼専門家の皆様へ 西村専門家 指導現場の 様子 専門家はこう思う!! 専門家はこう思う!! (オリエンテーションより) 10月開催のオリエンテーションに出席された、 10月開催のオリエンテーションに出席された、 Y専門家(現在派遣中)の豊富な指導経験から 得られた指導現場での指針は下記の4つであり、 これらを念頭に指導に取り組んでおられます。 ・SelfSelf-reliance (自立性) ・Corporation (チームワーク) ・Positive Attitude (積極性) ・Creativity (創造性) 小林 惇 APPROACHにもあるとおり専門家の指導の際には、 “5S”(整理、整頓、清掃、清潔、躾)が重要です。 また、作家の半藤一利氏の著書の中には、海軍兵 学校での士官養成の際に「おいあくま」(おこる な、いばるな、あせるな、くさるな、まけるな) という5つの頭文字を連ねた教訓があります。これ は士官兵を統率していく上で自分自身に課したも のの例えです。専門家の皆様の現場でもコミュニ ケーションが一因となり、言葉一つ伝わらない事 も多々あるとは思いますが、この「おいあくま」 を教訓としていただきたいと思います。 さて、アジアの経済状況は順調という調査結果が ありますが、最大の経済大国である中国の胡錦濤 国家主席は環境問題等への注力を示し、経済への ブレーキをかけるような事柄にも言及されていま す。しかし、やはり7-8%の成長がないと国の混乱 を招きかねないのも事実です。ASEANを初め、その 他各国ではこのような経済上の懸念材料もありま すが、専門家の皆様には芯を強くもって頑張って 頂きたいと思います。 ご意見・ご感想等を「APPROACH」担当者までお寄せください。[email protected] お待ちしています。 本誌掲載記事を無断で、転載、掲示板等へ掲載することを禁止いたします。
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