欧州情報
●国際活動センターからのお知らせ
【欧 州 情 報】
担当:外国情報部 菊地 公一
CIPA Journal May 2011, p.313
[訳]
進歩性
(欧州特許条約第 56 条)
T 423/09: ミルクサンプル採取装置及び方法/デラヴァール
ホルディング
2011 年 2 月 3 日技術審判部審決
係争中の本件特許は、ミルクサンプルを保存するための改良手段を有するとされる自動ミルクサンプ
ル採取装置を記載している。異議部で第一審がなされ、異議申立人が審判を請求した。
技術審判部での手続きにおいて、共通の一般的知識は、問題となっているクレームの特徴的ステップ、
すなわち、自動ではなく手動のミルク採取であるが、ミルクサンプルを撹拌して混合し又は防腐剤を溶
かすステップを含むと考えられた。
TBA は、撹拌の共通の一般的知識における推奨案を当業者は採用しえた、と考えた。その推奨案は、
改良された効果(強力に加速された化学防腐剤の溶解)につながるが、その結果は予測できた。審判部は、
改良された効果は明白なテストから又は本件のように推奨案を採用して明らかになる場合には、進歩性
の証拠として提示できないという確立されたケースロー(T296/87 を含む)を参照する。審判部は、自動
化装置に撹拌手段を付加することは当業者にとって困難性はなく、よって本件特許は自明であると結論
づけた。
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[訳者コメント]
本審決は、引用例に開示されていない効果の主張に対し、その効果がハンドブックに規定された推奨
案から予測できるため、進歩性を認めることはできない、と判断したものである。効果の主張に対する
本判断は、従前の審決例(例:T296/87)に沿うものである。
主請求の請求項1(争点である箇所に下線を追加)
1. A milk sampling apparatus for use with an automated
milking system, said apparatus comprising a cassette
(7) wherein milk sample collecting elements (9) are
placed, and at least one filling member (27) capable of
being placed above a selected one of said milk sample
collecting elements (9) by means of a positioning
system, and capable of bringing a milk sample,
representatively taken from milk yielded during the
milking of an animal by means of said automated milking
system, into said selected one of said milk sample
collecting elements (9), characterized in that said
milk sampling apparatus comprises agitating means (5)
capable of agitating said milk sample.
主請求のクレーム1 (対応日本公報:下線追加)
複数のミルクサンプル収集部材(9)が配置されたカセット(7)と、前記複数のミルクサンプル収
集部材(9)の選択された1つの上方に位置決め装置によって位置決めすることが可能であり、かつ、
自動搾乳装置による動物の搾乳中に、搾られたミルクから代表として採取されたミルクサンプルを、前
記複数のミルクサンプル収集部材(9)の前記選択された1つの中に入れることが可能である少なくと
も1つの充填部材(27)とを有する、自動搾乳装置とともに使用されるミルクサンプル採取装置にお
いて、前記ミルクサンプル採取装置は、前記ミルクサンプルを撹拌することができる撹拌手段(5)を
有していることを特徴とする、自動搾乳装置用のミルクサンプル採取装置。
[参考資料]
(1)
Case Law of the Boards of Appeal、 I. Patentability, D. Inventive Step, 8.19.4 Routine
experiments
“8.19.4 Routine experiments
According to the case law of the boards of appeal enhanced effects could not be adduced as
evidence of inventive step if they emerged from obvious tests (T 296/87, OJ 1990, 195; T 432/98, T
926/00, T 393/01).
In T 308/99 the claimed use was based on a thoroughly obvious property of known
substances. The slightly enhanced effects associated with the claimed use in comparison with
substances used in prior art emerged from obvious tests.
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Work involving mere routine experiments, such as merely conventional trial-and-error
experimentation without employing skills beyond common general knowledge, lacked inventive
step (T 455/91, OJ 1995, 684; T 104/92).
In T 253/92 the subject-matter of claim 1 related to a process for the manufacture of a
permanent-magnet alloy. In the board's view, a skilled person would have regarded it as obvious to
try out a variety of alloys known from the prior art to be of similar composition to those of the better
examples and to measure their magnetic properties.”
(2)従前の審決例(T296/87:OJ 1990, P195-212)
審決例の概要
事実関係:特許権者(審判請求人)は、本発明の D-鏡像体は、対応するラセミ化合物に比べ、4分の1
の量で雑草の抑制ができることを示す試験報告書を引用して、本発明の進歩性を主張した。一方、被審
判請求人(異議申立人)は、D-鏡像体がラセミ化合物に比べて 2 倍以上の活性を持つことも驚くべきでな
いことを主張した。
進歩性に関する決定の理由において、審判部は、「確立されたケースローの下では改良された効果が
明白なテストの結果から得られるものである場合には、その改良された効果を進歩性の証拠として挙げ
ることはできない」とし、「本件においては、鏡像体のテストは明白であり、対応するラセミ化合物と
比較した D-鏡像体の効果の発見は進歩性がない」とした(OJ 1990, P.209, Reason for the Decision, 8.4
Inventive step )。
以上