The Connection between Indonesian Industries and - 素形材センター

インドネシア産業と日本との結び付きと
日本から見たインドネシア素形材産業の現状
横 田 悦 二 郎
日本工業大学
インドネシアと日本の間には現在でも既に様々な産業分野で深い関係が
ある。今後日本の“モノづくり”が世界の国々と競合し、生き残りを図
るためには基盤産業の分野でインドネシアと日本はより強い関係を結ぶ
必要がある。
1.はじめに
日本から見た一般的な“インドネシア”の印象
業に密着する重要な関係が日本とインドネシアに存
はバリ島に代表される自然豊かなリゾート地である
在することから、この度日本とインドネシアで経済
との印象や、ジャングルとそこに生息する珍しい生
連携協定(EPA)が締結されたが、それにより両国
物の宝庫の国であるとの印象が強い。しかしながら、
間では今後貿易がより活発化されることになるのは
日本にとってインドネシアは、それらのどちらかと
間違いない。
言えば「遊び」や「趣味を満足させる」国としての
インドネシアと日本との友好関係に関しては、第
対象国ではなく、日本が存続していくための産業を
二次世界大戦以前から友好的な関係が存在してい
支える重要な国としての位置付けをすべき国であ
た。終戦直後、当時オランダ領であったインドネシ
る。先の第二次世界大戦において日本軍がはるか遠
アは独立を図ったが、当時進駐していた日本軍の助
い南方に存在するインドネシアに進駐することを、
けがあったことはインドネシア人全ての人が知って
第二次世界大戦の最重要戦略として位置づけたこと
いる事実である。その後、スカルノ大統領時代、ま
も同じ理由からである。現在は、アルミニウムの基
すます日本との友好関係が深まり現在に至ってい
となるボーキサイトや、石油天然ガスに加え、石油・
る。従ってアジア地域でよく言われる「日本の占領
石炭に至るまで日本が存続し続けられている多くの
下時代の負の遺産」はインドネシアには全くと言っ
資源を、インドネシアに頼っていることはあまり知
てよいほど存在しない。
られていない。またインドネシアには多くの日系企
インドネシアの GDP は表 1 に示すように決して
業が進出しており進出する企業数はタイに匹敵する
高くは無いが、2000 年に発生したアジア経済危機を
数になっている(ジェトロ資料による)。これら、産
乗り越えた後は順調に伸び続けている。また、平均
表1 一人あたり GDP 推移
単位:US$
1,985
インドネシア
マレーシア
1,990
1,995
2,000
2,005
2,007
571
685
1,120
780
1,265
1,869
2,067
2,525
4,479
4,030
5,378
7,027
タイ
765
1,572
2,921
2,023
2,800
3,841
フィリピン
566
724
1,081
996
1,167
1,639
中国
295
358
635
956
1,785
2,604
総務省統計局「世界の統計」より
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SOKEIZAI
Vol.51(2010)No.11
特集 インドネシア素形材産業の動向
年齢が 20 代と言う若い世代中心の人口が 2 億 3000 万
業分野に加え観光やサービス業のどの分野について
人以上という大きな需要市場は産業界にとって非常
も明るいものがあるが、ここでは「素形材の分野」
に将来性の高い魅力ある市場でもある。日本とイン
についてのみ限定して、インドネシアと日本との関
ドネシアの関係の将来性については、資源分野・農
係及びインドネシア産業の将来性について報告する。
2.インドネシアの主たる“モノづくり”産業と将来性及び日本との繋がり
インドネシアの主たる“モノづくり産業”とそ
たが、年を追うごとに二輪車時代の期間は短くなる
の将来性について表 2 に表す。
傾向にある。インドネシアの二輪車と四輪車(自動
この表は平成 22 年 10 月 24 日から 29 日にかけて行
車)の販売台数を表 3 に示す。この表からも明白な
われた「インドネシア金型産業育成支援事業 金型
ように、四輪車の販売台数は多少は増加傾向にある
投資効率化セミナー専門家派遣」事業で行われた事
が 2007 年まではタイやインド・中国のような急激
前レクチャーの席上で基盤産業経営者から聴取した
な増加は見られない。一方、二輪車は 2000 年に比べ
内容で作成したものである。この表で挙げられた「自
2007 年では 5 倍近い増加率を示している。また、ア
動車」「トラック」「二輪車」「エアコン」「冷蔵庫」
ジア地域での 2007 年における二輪車保有台数は、中
国は別にしてその普及率は 6.9 % とタイやベトナム
「テレビ」「プリンタ」というインドネシア産業を代
表する製造分野では、一部「テレビ」を除き進出日
に比べても既に非常に高い保有率に達しており(表
系企業により、そのほとんどが製造されている。従っ
4)、今までの新興国における二輪車増加傾向から見
てインドネシアの主たる“モノづくり産業”は日系
ると、今後は頭打ちになる可能性が高い数値になっ
企業中心の産業であるとも言える。
ている。しかしながら、現地の二輪車の生産現場に
また、その伸び率予測は驚くべきものであり、イ
近い経営者の将来予測は今後も伸び続け今年(2010
ンドネシアの今後の GDP の伸び予測が 7 ∼ 8 % で
年度)は昨年に比べ 150 %、さらに 2012 年には 2009
あることを考えると GDP の伸びはこれらの“モノ
づくり産業”が牽引しているともいえる。この中で
表 4 アジア地域の二輪車保有台数と普及率
二輪車の伸びが 200 % に達すると予想されているこ
とは、インドネシア産業特有の事象として特筆でき
保有台数(単位:千台) 普及率(人 / 台)
32,988
6.9
マレーシア
8,217
3.2
次第にその生産販売は国内所得水準の上昇により自
タイ
15,962
4.0
ベトナム
20,145
4.3
動車の生産販売に移行していく。過去の例を見ると
中国
87,097
15.3
る事柄である。新興国ではアジア地域のいずれの
インドネシア
国々でも、まず二輪車の国内生産販売から始まり、
台湾、中国、マレーシア、タイがこの道を歩んでき
総務省:世界の統計より
表 2 インドネシア主要産業の将来
産業分野(商品)
2009 年度
2010 年度
2012 年度
1
自動車
100%
130%
170%
2
トラック
100%
120%
160%
3
二輪
100%
140%
200%
4
電気(TV)
100%
130%
180%
5
電気(冷蔵庫)
100%
160%
260%
6
電気(エアコン)
100%
115%
140%
7
電気(プリンタ)
100%
150%
300%
表 3 インドネシアの二輪車・四輪車の販売台数推移
単位:千台
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
二輪車
979
1,650
2,369
2,814
3,887
5,074
4,426
4,688
四輪車
300
299
317
354
487
533
318
434
Vol.51(2010)No.11
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年度比 200 % になるとしている。これを生産台数ベー
車メーカーは日系の H 社と Y 社及び K 社が生産の
スで見ると 2012 年度は年間 1200 万台という途方も
ほとんどを占めており、
「二輪車=日本ブランド製品」
ない数値になる。このインドネシアにおける二輪車
と位置づけられている。プリンタ生産もまた日系企
の販売台数の増加の原因は、異常とも思える都市部
業である E 社がシェアを占有しているがこの生産品
における「交通渋滞」に起因する。インドネシアは
のほとんどは輸出品であり、インドネシアの代表的
急激な都市部の発展により発生したジャカルタ近辺
な輸出産品になっている。これもまた「プリンタ=
の人口集中に、道路整備や公共交通整備が追い付か
日本ブランド製品」である。トラック生産に関して
ず、連日慢性的な「交通渋滞」が続いている。今
タイ等で生産しているピックアップトラック型の生
後も今のところ新たな道路拡張や増設計画も無く、
産はインドネシアでは許されていないこともあり、
タイやマレーシアで「交通状態緩和策」として行わ
普通トラックの生産になっているため、トラック生
れた電車やモノレールのような新公共交通の計画も
産台数は多くは無いが確実に増加しつつある。この
無い。従って今後少なくとも十数年間はこの「異常
トラック製造もまた日系企業が独占的に行っている。
な交通渋滞」が解消されることは無いと考えられる。
ここまで述べてきたようにインドネシアの“モノ
そのためインドネシアにおいては市民は二輪車に頼
づくり産業”の大部分は日系企業がその生産を担っ
らざるを得なく、他の国々が歩んできた二輪車から
ており、世界の中でも特異な存在にある。今後もこ
四輪車への移行は起きず、普及率はさらに上昇する
れら産業の確実な進展が望まれることからインドネ
と推測される。その結果として今後暫くは、国内需
シアにおける“モノづくり”は日本との連携により
要二輪車製造販売はインドネシアおける“モノづく
行われることは間違いない。
り産業”の柱となると思われる。インドネシア二輪
3.インドネシアの素形材産業の状況
インドネシアの素形材産業の内、金型産業につい
表 5 アジア地域のアルミ新地金需要量(2008 年度)
ては別項でインドネシア金型工業会(IMDIA)の会
長である高橋会長からの報告がなされるので、ここ
ではインドネシアにおける鋳鍛造関係について中心
に報告する。この報告は経済産業省のもとで 2009
年度に行われた「アルミニウム産業の高度化」事業
と筆者が委員長を務めた「インドネシア・金属加工
産業高度化」事業の調査結果に基づいている。
(1)鋳鍛造業・アルミニウム産業界の概要
正確な数値ではないが、インドネシアには鋳造
インドネシア
新地金需要量
(千トン / 年)
291
1人当たり需要
(Kg/ 人)
1.3
マレーシア
241
9.6
タイ
405
6.3
中国
13,695
9.8
インド
1,239
1.1
台湾
372
11.6
韓国
1,132
23.6
日本
2,339
18.3
CRU Monitor Aluminum
メーカーが約 200 社、鍛造メーカーが 10 社程度存在
する。鋳造メーカーは現地企業若しくは国営企業で
あるのに対し、鍛造メーカーの大部分は日系企業で
アルミ窓枠サッシに代表される建材分野や、アルミ
あるが企業数が少ない。これは高品質な棒材や板材
缶に代表される食品分野に加え、自動車分野の発展
等を輸入に頼っているため材料コストが高価にな
が未熟であることに起因していると考えられる。し
り、特殊な製品でないと採算性が取れないためであ
かしながら自動車生産や、より増加する二輪車生産
ると思われる。また、鋳物生産量は年間 20 万トン程
に連動してこの生産高が今後増加することは確実で
度で日本の生産量 680 万トンに比べ非常に少ないも
ある。
のと推測される。
一方アルミニウムの新地金需要は表 5 に示すよう
22
(2)鋳鍛造業・アルミニウム産業界の課題
にアジア諸国の他の国々に比較して甚だ低い数値に
鋳鍛造生産の基本になるのは優秀な技能を有した
とどまっている。需要の大部分が前述した二輪車重
人材である。確かにインドネシアには 2 億人を超え
要であることを考慮すると他の産業に対するアルミ
る若い人材が存在する。しかしながら鋳鍛造業界は
ニウム需要が少ないのは、アルミニウムを使用する
いわゆる 3 K(キツイ・キタナイ・キケン)職場でも
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特集 インドネシア素形材産業の動向
ある。都市部の失業率が 10 % 程度と高い環境下でも、
なことにアルミ地金を日本を中心に輸出しているに
この分野ではジョブホッピングが続き優秀な技能者
も関わらず同量のアルミ地金を日本からの輸入に
は育っていないのが現状である。今後は日本の経験
頼っている点があげられる。今後自動車産業の活性
してきた技能職の成長を待つのでは無く、最新技術
化により発生するアルミ地金の需要増は今のままで
を利用した自動化による新しい形のインドネシア方
は高価な輸入品に頼らざるを得ない。インドネシア
式の鋳鍛造生産が望まれる。鋳鍛造の増強無くして
の重要な資源であるボーキサイト資源をアルミ地金
は“モノづくり”の成長が難しいのはインドネシア
へ精錬する体制構築を急がないとアジア諸国との競
でも同様である。
争を有利に戦うことができないと思われる。
一方、アルミニウム産業の課題としては、不思議
4.インドネシア“モノづくり”産業の日本から見た課題
アジア地域は今 FTA・EPA の推進に加えそれを
ることは確実である。日本ばかりでなくインドネシ
さらに進めた TPP 締結に向けて動き始めている。こ
アに進出している外資系大手セットメーカーは、自
れはアジア地域全域が「国境なき生産」が始まりつ
社の製品品質を高めるためには調達する部品一つ一
つあることを意味している。日本は農業問題ばかり
つの品質を厳重にチェックしなければならないが、
でなく、金型を始めとする基盤産業もアジア地域で
調達品質を担当する海外からの派遣人材に限りがあ
は最も高価な人件費の環境下で戦わなければならな
りその作業が困難になってきている。そのため、で
い状況下におかれている。しかしながらインドネシ
きるだけ数多くの部品をセットにしたユニット製品
アもまた、この関税無き自由貿易経済の波に飲み込
での納入を進め、品質チェック作業を簡便化しよう
まれると、単に「人件費が安い」だけではインドや
としている。加えて、1 か国集中部品調達ではなく
タイ・バングラデッシュ等の新興国との競争に勝つ
アジア地域全体から見た最も「安価で品質の良い」
ことはできない。この新しい世界ではアジア地域全
部品の調達活動が活発化することにより「何処でも
域での分業化が推進されるがその際に重要になるの
全く同じ基準=標準化」も合わせて推進し始めてい
は「標準化とユニット化」の推進である。
る。その流れの中で日本側の支援とインドネシアの
日本では図 1 の左側に示したように直接大手セッ
取組みがどのようになっているかを以下に記す。
トメーカーに納入する T 1(ティアワン)メーカーら
下請けと呼ばれる T 4 までピラミッド型の生産体制
が形成されてきた。しかしながら、アジア諸国では
(1)モノづくりの基礎についてのインドネシア基盤
産業の理解度
図 1 の右側にあるようにどちらかと言えばフラット
インドネシアの基盤企業は、手に入れられる種々
型の生産体制にある。インドネシア地域で見ると金
の日本のテキストや日本視察等を通じて一般的な知
型製造は殆どが部品製造企業の内製によりその生産
識は保有しており日本との齟齬は大きくは無い。但
が行われている。内製化率に関する正確な数値は無
し、インドネシアは製造業としての歴史が浅く、現
いが、筆者の聞き取り調査の結果からは、その比率
場経験が少ないため、「生産効率の向上や品質向上
は部品企業の直接金型輸入を加えると 50 % 以上であ
を行うには日本企業が保有しているはずの最新鋭工
作機械や設備が必要である」と誤解している。確
日本の多くの例
アジアの多くの例
かに多くの基盤企業の保有する工作機械等の設備
セットメーカー
セットメーカー
は古いものが多く、効率的生産に対しては満足で
きる状態では無いことは確かである。しかしなが
T1
大手ユニット製造企業
T2
一次部品製造企業
T3
二次部品製造企業
T4
金型製造企業
T1
ユニット製造企業
(金型及び部品製造)
ら、“日本のモノづくり”を推進するためには、
その設備をどのように活用するかまたその設備目
的は何かについての理解度を深めないと、折角最
T2
部品製造企業
(金型内製)
新鋭工作機械を導入しても、必ずしも求める結果
を得ることはできない。加えて日本式の「計測の
トレーサビリティ」や「顧客が求める品質とは何
か」について今後日本の基盤企業と連携し、正し
図1 部品製造の流れ
い理解を得ることが大切であると思われる。
Vol.51(2010)No.11
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23
(2)日本の技術・技能情報についての判断力
と違うところは、インドネシア企業では経営者を含
インドネシアには多くの日系企業が進出している
め、20 代から 30 代の若い人材で成り立っている。そ
にも関わらず、日本の“モノづくり”のための基
のため、基盤産業特に素形材産業には熟練技術者・
盤技術情報が不足している。特に「日本が求める技
熟練技能者数が極端に少ない。一般的に、このよう
術の目的は何か?」については殆ど本質が伝わって
な場合の工場運営は、技能者優先で進めることが必
いない。世界には金型技術は無数に存在しているが、
要である。技能を理解できない技術者では高品質モ
インドネシアにとって必要な金型技術とは何かにつ
ノづくりを行うことができない。現在、日本からの
いて日本の基盤企業が積極的に指導することが両者
技術支援の中で日本企業から派遣されている「技能
の今後の発展にとっては最も重要であると思える。
オリンピック金メダリスト技能者」等の指導により
インドネシアには日本からジェトロやジャイカの活
日本式“モノづくり”の基本中の基本である「ヤス
動により基盤産業経験者や熟練者が、短期的ではあ
リがけ研修」が行われている。この研修は後述され
るがインドネシア企業を直接指導してきた。しかし
る「インドネシア金型産業」の項でも報告されるが
その指導者側の考え方の違いにより与える情報が違
IMDIA 活動の柱に据えている技能検定受験者数及び
うことも原因して、インドネシア全体としての底上
その合格者数の増加活動の一環である。日本ではこ
げには大きな貢献はできていない。今後は指導する
のような「ヤスリがけ研修」はトヨタ等の大企業で
日本側も「日本の基盤産業にとって役に立つ指導と
は行われているが、一般の中小企業では行われてい
は何か?」について統一見解をまとめ、指導する内
ない上に、その「技(わざ)」も無くなりつつある。
容と方向についての本質的なグランドデザインを持
技能の基本である“ヤスリがけ研修”をもしインド
つことが必要である。
ネシアで今後も続けることができれば日本式“モノ
づくり”が浸透し日本との連携に大いに役立つこと
(3)インドネシアにおける標準化・規格化
は間違いない。
インドネシアでは日本の JIS 規格ばかりでなく
ISO 規格・DIN 規格に加え米国規格や欧州規格の上
(5)基盤技術開発と日本との関係
にインドネシア独自で決めている自国の規格も存在
日本式“モノづくり”技術は前項に記述した技能
し、対象となる製品により様々な規格に対応しなけ
に加え金属機械加工技術が重要な鍵を握る。現在の
ればならない環境下にある。日本でも同様な状況下
インドネシア基盤企業はその技術は当然ながら日本
にはあるがインドネシアでも、それら規格に対する
企業に比べ満足できるものではない。金属機械技術
教育は殆どなされていない。今のままでは品質基準
を真に習得するには工作機械自体を開発・設計・製
が定まらないため、日本が求める「高品質製品づく
造することが必要であるが、現在のインドネシアの
り」を行うことは難しい。まず標準化・規格化につ
状況下ではそれは不可能に近い。その代わりに少な
いて、日本とインドネシア両国で必要な一般的知識
くとも工作機械のメンテナンスを自国内で行うこと
教育を日本主導の下始め、両国にとって重要な規格
から始める努力が必要である。幸いなことにこの工
や基準は何かを纏める必要がある。
作機械技術も日本は世界一の技術を保有している。
インドネシアは日本の工作機械の大きな市場である
(4)技能の重要性についての認識と日本との関係
ことを考慮すると、工作機械産業分野の積極的な関
日本でも同様な企業が存在するが、インドネシア
与が望まれ、そのことが同時に両国の基盤産業の連
では技能者より技術者を優先する傾向が強い。日本
携にも繋がることも間違いない。
5.インドネシア金型産業の位置づけと課題
インドネシアの金型産業については後述の報告に
置づけを図 3 に示す。両図共縦軸にグローバル対応
委ねるが、ここでは日本から見たインドネシア金型
力横軸にその技術力を示している。この図は筆者が
産業の位置づけと課題について簡単に記す。
アジア諸国の代表的な企業を訪問するとともに、そ
の金型を調達している企業が判断している品質力及
(1)インドネシア金型産業の位置づけ
24
び輸出率を総合的に組み合わせて作成したものであ
インドネシアの金型産業の位置づけに関してはプ
る。この図から見ると残念ながら現在のインドネシ
ラスチック金型の位置づけを図 2 にプレス金型の位
アの位置づけは決して高いものでは無く、むしろ今
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特集 インドネシア素形材産業の動向
グローバル展開指向高い
Taiwan
Korea
Malaysia
Philippine
Thai.
技術レベル低
Japan
技術レベル高
China
India
インドネシア
国内向け指向
図 2 インドネシアのプラスチック金型の現在の位置
グローバル展開指向
Korea
Philippine
Taiwan
Japan
Malaysia
技術レベル低
技術レベル高
China
Thai.
India
インドネシア
国内展開指向
図 3 インドネシアのプレス金型の現在の位置
グローバル展開指向
Taiwan
Malaysia
Korea
Philippine
Thai.
インドネシアの目指す位置
技術レベル低
Japan
技術レベル高
China
India
インドネシア
国内展開志向
図 4 インドネシアのプラスチック金型産業の目指す位置
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グローバル展開指向
Korea
Philippine
Taiwan
Malaysia
Japan
インドネシアが目指す位置
技術レベル低
China
技術レベル高
Thai.
India
インドネシア
国内需要指向
図 5 インドネシアのプレス金型産業の目指す位置
後インドネシアの競合国になると考えられるアジア
日本側の全面支援の下行われている。数年後にはこ
諸国に比べ、遅れをとっていると言わざるを得ない。
の運営を全てインドネシア側に移管することが計画
しかしながら、今インドネシアは EPA・FTA 推進
されているが、もし IMDIA をインドネシア側に全
により急速に金型技術向上を図る必要がある。近い
面移管すると、崩壊の一途をたどることは間違いな
将来その位置づけをプラスチック金型では図 4 の位
い。現在ある IMDIA が 2006 年に設立される前に、
置づけ、プレス金型では図 5 の位置づけになるよう
インドネシア企業のみで立ち上げたインドネシア金
にしなければならない。そのためには友好国である
型工業会が存在した。この旧インドネシア金型工業
日本との連携が鍵である。
会は FADMA(アジア金型工業会協議会)にも参加
していたが、運営能力に加え資金力が無かったため、
(2)インドネシアに進出予定の日系部品企業にとっ
ての金型産業
休眠状態に陥り活動を停止した。この間 FADMA
からも参加費用の全面免除や情報開示を行い協力し
前述したようにインドネシアの金型産業の大部分
たが存続ができなかった。もし数年後、現在の状況
は部品企業の内製化により行われている。しかしな
のままで日本側が完全に手を引けば、旧金型工業会
がら、内製化できる部品企業の大半は現地資本企業
と同様の道を歩むことになり、現在までの努力が無
であり、進出日系部品企業では現在も金型は日本か
駄になる可能性がある。一方、現在のような日本主
らの調達に頼っている。その理由は
導による工業会運営は進出している日系企業にとっ
・金型製造するための膨大な設備投資が必要な
ては非常に有効で且つ信頼がおける工業会になって
いる。特に、日本の“モノづくり”をインドネシア
こと
・使用金型のインドネシア進出外資顧客の本社承
認が必要なこと
に広めるには現在の IMDIA 運営が理想的である。
今後インドネシア以外のベトナムやカンボジア・バ
である。特に設備投資に関しては 1000 人を超える日
ングラデッシュ等新たに金型工業会が設立する国に
系部品企業でもできないことになると、今後日本か
は、日本がインドネシアで行っているような全面的
ら進出を予定している多くの中小部品企業において
工業会支援ができれば、日本はアジア地域の基盤産
は現地での金型製造は難しい状況にある。従って、
業の主導権を握ることが可能である。既に規格や基
今後日本の中小部品企業がインドネシアに進出する
準作りでは欧州勢に主導権が握られ、アジア地域で
際には金型を日本から輸出するか、または現地で金
の日本の進出企業は苦戦しているが「工業会設立と
型を製造するかは別にして、「日本の金型企業と連
支援」は唯一残された日本ができる道である。特に
携した行動」が絶対条件になると考えられる。
金型工業会設立は重要な鍵を握っている。数年後の
現地への完全移管ではなく半永久的に日本主導の下
(3)インドネシア金型工業会(IMDIA)運営に関して
現在のインドネシア IMDIA 運営はジェトロ等の
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Vol.51(2010)No.11
での工業会運営が進出日系企業及び今後進出する日
系企業の活動のためにも必要であろう。
特集 インドネシア素形材産業の動向
6.おわりに
インドネシアは今成長を始める出発点にある。国
⑤ 素材(部品を含む)調達環境不足
内需要に関しては、当面の間、拡大が続き安定した
であるがこれらは全て日本の中小製造業であっても
需要が望まれる。一方、FTA や EPA に加えて TPP
提供できるものである。逆に日本に無くてインドネシ
の締結さえ具体化し始めているが、これらの推進に
アにある利点と欠点は前述した内容の裏返しになる。
よりインドネシアの活発な国内需要はアジア諸国の
書き換えると
「草刈り場市場」になる可能性を秘めている。これ
① 豊富な若い労働力 ⇒日本は高年齢化する労働層
を解決するにはインドネシア自体の基盤産業の実力
② 積極的な外資の投資環境 ⇒日本市場は消極的な
を向上させる必要がある。一方、日本の基盤産業市
投資環境
場は国内需要の低迷に加え前記自由貿易協定の推進
③ 2 億 3000 万人を超す膨大な人口を背景にした増
により大手企業の海外生産度合いは高まる可能性も
大する国内需要 ⇒日本は減少する国内需要
ある。これらの状況を打開するためには以前から関
④ アジア各国への利便性のある地理的位置 ⇒日本
係が友好的であった両国が手を結ぶことが必要であ
はアジアの東の果ての地理
る。提携する基本としては両国にとって「利益」を
⑤ 将来性のある資源保有 ⇒日本には資源が無い
生まなければならない。日本側から見て、インドネ
と言う「日本の欠点」となり、インドネシアの「欠点」
シアの日本にない「利点」としては、
は日本にとって
① 豊富な若い労働力
① 高品質な“モノづくり”ができる製造人材不
② 積極的な外資の投資環境
③ 2 億 3000 万人を超す膨大な人口を背景にした増
大する国内需要
④ アジア各国への利便性のある地理的位置
⑤ 将来性のある資源保有
足(特に技能工)⇒日本には優秀な技能職が存在
② 技術教育を行う人材と環境不足 ⇒日本は技術教
育を行える人材を保有
③ 中小製造業における設備不足 ⇒日本の中小企業
は過剰設備
であり、加えて他のアジア諸国にない利点としては、
④ 品質管理能力不足 ⇒日本の品質管理は世界一
① 安定した政治と文化
⑤ 素材(部品を含む)調達環境不足 ⇒日本では全
② 日本との友好的な関係
ての素材を調達できる
が挙げられる。一方日本に比べ劣っていると考えら
と言う「利点」に置き換えられる。両国の課題を解
れる「欠点」としては、
決するには、両国が連携すれば全て世界に比しても
① 高品質な“モノづくり”ができる製造人材不足
(特に技能工)
「利点」になり、両国にとって「利益」を生み出す
源泉となりうるのである。この観点からすると日本
② 技術教育を行う人材と環境不足
にとって世界に存在する多くの国々の中でインドネ
③ 中小製造業における設備不足
シアは連携する最適国であると位置づけられる。
④ 品質管理能力不足
Vol.51(2010)No.11
SOKEIZAI
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