Maxim MER-6.J

Microcontroller
ENGINEERING REVIEW
Volume 6
MAXQ3120を用いた
多機能電力メータの
リファレンスデザイン
なぜ、電力メータの改善が必要か?
現在、普及している電力メータは、すでに約1世紀も前に考案された機械式のもの
です。機械式電力メータは、電力会社が顧客に電力料金を正確に請求するために、
長年にわたり根気よく電力を計測してきました。機械式キロワット時の電力メータは、
入力電圧や力率によらず、金属製ディスクの回転によって、実際のエネルギー消費量
を積算します(図1)。
しかし、エネルギー産業の変化により、古い機械式電力メータでは対応しきれない状況
が出てきました。第一に、電力の使用量が非常に片寄っているにも関わらず、ピーク
需要時に省エネルギーを推進する理由が顧客側にないことがあげられます。そのため、
電力会社は、1日のほとんどの時間において、設備の能力が十分に活用されないと
しても、このピーク需要に対応するため、旧世代の設備や配電ネットワークを改善
すべきであるという認識を持ちつつあります。第二に、電圧と電流の位相が揃っている
状態のとき、配電効率が高くなることがあげられます。負荷に供給される実際の電力は
次式で表されます。
PREAL = V ✕ I ✕ cosθ
図1. 米国で使用されている
機械式電力メータ。機械式
ここでθは電圧波形と電流波形の位相角です。ところが、電力回路に接続される設備の多くは、 電力メータでは、回転する
誘導モータや蛍光灯のように誘導性の高い負荷であり、電圧に対して電流の位相が遅れる原因 ディスクを利用して使用
となっています。この非効率性について電力会社ができることは、つい最近まで、住宅用の 電力を測定します。機械式
大半に関して何もありませんでした。時間帯やピーク使用量、力率までを考慮して使用電力量 のディスプレイには、
をモニタリングし、電力料金を請求するには、あまりにコストがかかりすぎたのです。
メータが製造されて以来の
累積電力量が表示されます。
複数料金に対応した多機能メータがあれば、電力会社にとって好都合な計算式に変更することが
できます。マイクロコンピュータ制御によるキロワット時のメータがあれば、ピーク時間帯の
使用量を測定して高い電力料金を適用したり、使用量が契約上限を超えたときに高い電力料金
を適用することが可能になります。リアクタンス性の高い負荷に対して高い料金を適用したり、
そのデータを活用して、そのような非効率性を是正することもできます。
このようなタスクをはじめとするさまざまな処理は、Maxim/Dallas SemiconductorのMAXQ®
RISCアーキテクチャによるマイクロコントローラMAXQ3120を使って実現することができ
ます。本稿では、電力メータとして世界的に利用可能な電力メータのリファレンスデザインを
MAXQ3120を用いて構築します。
MAXQ3120を用いたリファレンスデザインによる電力メータ
MAXQ3120を用いたリファレンスデザインによる電力メータは、あらゆる機能を持ち、さま
ざまな規格に対応した電力メータであり、カスタマイズも可能です(図2)。どの程度カスタマイズ
するかは、設計者および市場のニーズ次第となります。
目次
MAXQ3120を用いた
多機能電力メータの
リファレンス
デザイン ..................1
組込みシステムに
おけるセキュリティ...8
MAXQ3212を用いた
リモートキーレス
エントリ ................10
Rowley CrossWorks
とMAXQ3120評価
キットによる光度計
アプリケーション....13
電力メータが準拠しなければならない主な国際規格はIEC 61036です。この規格は、電気的条件と
機械的条件、環境条件を定めるとともに、通常の使用電流範囲の大半において1%の公称精度を
持つクラス1と2%の公称精度を持つクラス2というふたつの精度クラスが定義されています。
表1に、電力メータに要求される主な条件を示します。
表1. 電力メータに要求される主な電気的仕様、EMC仕様、および精度
電気的仕様
項目
限界値(クラス1) 限界値(クラス2)
電流回路以外の消費電力
電流回路の消費電力
動作電圧レンジ
絶対最大電圧
絶対最大過電流(1/2サイクル)
図2. MAXQ3120リファ
レンスデザインの電力
メータは、さまざまなニーズ
にあわせてカスタマイズが
可能。メータ底部には、
電力、負荷、ネットワーク、
パルス出力の端子があり
ます。LCD上部には、
光通信端子とメータパルス
視認用LEDがあります。
2W、10VA
4.0VA
2.5VA
公称の90%∼110%
公称の0%∼115%
30 IMAX
EMC仕様
項目
限界値
静電放電(接触)
静電放電(気中)
電磁界放射耐性
電気的な高速過渡応答(負荷 = IB)
電気的な高速過渡応答(無負荷)
無線干渉
伝導妨害耐性
8kV
15kV
10V/m、80MHz∼1GHz
2kV (全端子)
4kV (全端子)
CISPR 22、クラスB
10V、150kHz∼80MHz
精度
項目
電力会社は、1日のほとんど
の時間において、設備の
能力が十分に活用されない
としても、このピーク
(エネルギー)需要に
対応するため、旧世代の
設備や配電ネットワークを
改善すべきであるという
認識を持ちつつあります。
2
限界値(クラス1) 限界値(クラス2)
公称精度(10% IB∼IMAX)
低電流精度(5% IB∼10% IB)
公称精度(20% IB∼IMAX、リアクタンス性)
低電流精度(10% IB∼20% IB、リアクタンス性)
10%電圧変動時の精度低下
1.0%
1.5%
1.0%
1.5%
0.7%
2.0%
2.5%
2.0%
2.5%
1.0%
電圧変動時(pF = 0.5誘導性)の精度低下
1.0%
1.5%
2%周波数変動時の精度低下
0.5%
0.8%
周波数変動時(pF = 0.5誘導性)の精度低下
0.7%
1.0%
温度変動時の精度低下
0.05%/ºK
0.10%/ºK
温度変動時(pF = 0.5誘導性)の精度低下
0.07%/ºK
0.15%/ºK
IMAX (pF = 1)時、自己発熱による精度低下
0.7%
1.0%
IMAX (pF = 0.5誘導性)時、自己発熱による
精度低下
1.0%
1.5%
このIEC 61036 (若干の変更が加えられていることもある)が電力メータの規格として広く採用
されていますが、多機能メータに対する要求は世界的に同じではありません。今回、構築する
電力メータのリファレンスデザインは、クラス1電力メータを中国における多機能メータの通信
規格(DL/T 645)にカスタマイズしたものとしますが、世界各地の規格や業界規格に合わせる
こともできます。
MAXQ3120の周辺機器
MAXQ3120の中核をなすMAXQ20コアは、動作速度が8MHzで、32キロバイトのフラッシュ
メモリと512バイトのRAMを持ち、多機能電力メータのタスクを十分にこなすことができます。
またMAXQ3120には、2つの16ビットΣ∆アナログ-ディジタルコンバータ(ADC)が内蔵されて
おり、瞬時的な電圧と電流を正確に測定することができます。これら2つのADCチャネルは、
48µsごとにAD変換を行い、1秒当り20,833サンプルというデータレートを実現します。
フロントエンドとしてプログラマブルゲインアンプ(最大利得は16倍)も持つ、これらのデータ
コンバータは、電圧波形や電流波形のモニタリングに最適です。取得した電圧サンプルと電流
サンプルからエネルギー利用に関する有益な情報を得るためには、かなりの計算処理が必要
です。MAXQ3120であれば、40ビットアキュムレータを持つ16 x 16乗算器を内蔵しており、 MAXQ3120には、
このようなタスクを十分に処理することができます。乗算処理は1クロックサイクルで行われ、 サブセカンドカウンタと
乗算器がCPUコアと緊密に統合されているため、高効率が可能です。
アラーム機能を持つバッテリ
MAXQ3120は、堅牢な通信モジュールも提供します。UARTも2チャネルあり、片方のチャネル
には赤外線通信用のロジックも組み込まれています。さらにMAXQ3120には最大112セグメント
を駆動可能なLCDコントローラも提供し、旧式のメータによく搭載されている電気機械式カウンタ
よりも経済的ですぐれた表示を行うことができます。時間帯に応じて電力料金を変化させたい
場合、高精度のクロックが必要になります。MAXQ3120には、サブセカンドカウンタとアラーム
機能を持つバッテリバックアップ付きの時刻モジュールが用意されています。このクロックは
ディジタルトリムを備えており、4ppm (月差10秒程度)以内という高い精度が得られます。
通信—物理層
バックアップ付きの時刻
モジュールが内蔵されて
います。このクロックには
ディジタルトリムも内蔵
されており、4ppm (月差
10秒程度)以内という
高い精度のクロックが
得られます。
多機能電力メータの中国規格では、2種類の通信が要求されています。1つは有線ネットワークに
よるもので、1つの建物あるいは隣接区画に設置された複数のメータからホストコンピュータ
(通常PC)にデータを送信可能なものです。もう1つは赤外線通信によるもので、ハンドヘルド
の非接触式リーダで使用するものです。
有線ネットワークは、一般的なRS-485マルチドロップ規格(1200ビット/秒)です。RS-485
規格では、ネットワークサイズが32ステーションまでに制限されています。しかし、最近の
RS-485トランシーバは、EIAネットワーク仕様に定められた最大である32ステーションを
はるかに超える数のステーションをサポートしています。たとえば、今回のリファレンス
デザインで採用したRS-485トランシーバのMAX3072は、1/8負荷のデバイスで、1本のバスに
最大256個のトランシーバを接続可能です。
RS-485チャネルとは異なり、IRチャネルは、あまり普及していない物理層規格を使用して
います。標準的な赤外線リンク(IrDAなど)によってデータを伝達するのではなく、DL/T 645では
オン/オフトーン変調技術を採用
しており、変調I Rビームがあれば
0ビットを表し、IRビームがなければ
1ビットを表すことになっています。 ASYNCHRONOUS
START
BIT
BIT
BIT
BIT
BIT
BIT
BIT
BIT
ODD
STOP
DATA
BIT
0
1
2
3
4
5
6
7
PARITY
BIT
この場合、アイドル状態のチャネルは
1を意味します。スタートビット、
38kHz CARRIER
833µs
BIT
つまり、キャラクタセルにおける
TRANSMITTED
TIME
0への最初の遷移は、トーン変調
CARRIER
されたビームが最初に検出された
瞬間となります。図3がこの方式を
図3. DL/T 645多機能電力
示しています。
メータ規格における
IR通信。トーン変調した
IRビームによってデータを
使用する物理層が定まったら、次はパケットのフォーマットを定める必要があります。電力メータ 送信します。トーンが
の使用環境の要求は汎用データネットワークのそれとは異なるため、パケットフォーマットも、 あれば0ビット、なければ
1ビットを表します。
他のネットワーク環境とは仕様が異なります(図4)。
通信—パケットフォーマット
以下のように、このパケットフォーマットには独特の特性があります。
• ソースアドレスがありません。通信は常にホスト側が開始し、各ネットワークにはホストが
1台しかありません。ホストにはアドレスが割り当てられません。
• ネットワーク上のメータから通信が開始されることはありません。メータが送信するのは、
ホストからの要求があったときだけです。多くの場合、実際にネットワークは 存在しない
ため、ホスト側で例外処理を行うこともできません。ホストは、月に1度、メータ読み取りの
ために係員が持ってくるハンドヘルド端末となります。例外処理は、すべてメータ側で行う
必要があります。
• パケット長は、ホストからメータで最大50キャラクタ、メータからホストで最大200キャラ
クタと定められています。このリファレンスデザインでは、両方向とも、パケット長を50
キャラクタとしました。
3
0x68
CMD
ADDRESS
LEN
0x68
VARIABLE LENGTH DATA
CKSUM
図4. DL/T 645では、
さまざまな固定フィールド
と可変フィールドからなる
フレームフォーマットが
定義されています。この
フレームフォーマットは、
IR通信やRS-485通信と
同じものです。
TASK
WHEEL
IR
DRIVER
動作パラメータを設定し、電力使用量などの測定結果を読み出すため、
DL/T 645では、数多くのレジスタを定義しています。ここでいう
レジスタとは16ビットのアドレスが割り当てられたオブジェクトで
あり、ひとつの情報アイテムを持ちます。たとえば、0xC030という
アドレスのレジスタは、有効電力メータ定数をキロワット時当りの
パルスで指定するものです。全レジスタとその機能の一覧は、
japan.maxim-ic.com/electric_meterのリファレンスデザインにある
registermanager.cのソースコードコメントに記述してあります。
EIA485
DRIVER
REGISTER
MANAGER
MESSAGE
BOARD
DISPLAY
FORMATTER
PRIORITY
HIGHEST
TIME OF
DAY
MANAGER
DSP ENGINE
図5. リファレンスデザイン
ソフトウェアは、タスク
ホイールによって
一連のタスクが次々と
呼び出されるという構成に
なっています。タスク間の
通信は各種のグローバル
変数で行いますが、
中でも重要なのは
メッセージボードです。
メッセージボードとは、
タスクがクリティカルな
イベントを他のタスクに
通知するための
フラグセットです。
MAXQ3120による
リファレンスデザインの
電力メータは、あらゆる
機能を持ち、様々な規格に
対応した電力メータであり、
カスタマイズも可能です。
4
DL/T 645プロトコルの詳細は、japan.maxim-ic.com/
electric_meterにある「Electric Meter Reference Design
Specification 」を参照してください。リファレンスデザ
インのソフトウェアの構成は、図5に示します。
リファレンスデザインで使用するレジスタ
MESSAGE PROCESSING
SCHEDULING
0x16
• ホストは、CMDフィールドによって、何をすべきかを
メータに伝えます。多くの場合、コマンドは、レジスタ
の読み、または書き込みです。しかし、CMDフィールド
によって、最大需要レジスタをクリアする、あるいは、
通信パスワードを受け取る、時間や日付をセットする
といった動作をメータに実行させることもできます。
ASYNCHRONOUS
EVENTS
NORMAL
LOWEST
このレジスタマネージャ(registermanager.c)は、全レジスタをソート
し、そのタスクを管理するものであり、いろいろな意味で、このメータ
ソフトウェアシステムの心臓部と言えます。通信サブシステムからの
シンプルな要求以外、メータ内で行われるタスクの多くは、レジスタ
データへのアクセスが必要であることを念頭に置いておいてください。
レジスタマネージャが、システム内の他のタスクからの要求を処理し、
各種レジスタからデータを読み出し、書き込みます。たとえば、ある
値をLCDに表示する時間をディスプレイマネージャが必要としたとき、
ディスプレイマネージャは、この値をレジスタマネージャにリクエスト
し、レジスタマネージャが外部EEPROMからこの値を読み出します。
レジスタの読み出しでは、レジスタマネージャは、通常、ReadEEPROMルーチンにリクエスト
を送るというシンプルな動作をします。ただし、実際のプロセスは、一見したほど簡単ではあり
ません。その前の書込みサイクルが終了しておらず、EEPROMがビジーだと、読出しサイクル
完了まで数ミリ秒かかることがありますが、それだけの時間、CPUを1つのタスクで占有する
ことはできません。その場合、レジスタマネージャはサスペンドされ、他のタスクは継続実行
されます。そして、EEPROMの準備が完了すると、レジスタマネージャが動作を再開し、
ほとんどの場合、処理を最後まで実行します。EEPROMへの書込みリクエストも同じように処理
されます。
非EEPROMレジスタ
レジスタの読み出しの中には、EEPROMに記録されていないデータエレメントに関するものも
あります。そのような読み出しをするために、レジスタマネージャは他のリソースを呼び出さ
なければならないのですが、その多くはディジタル信号処理(DSP)ルーチンです。
たとえば、0xB611というレジスタ(RMSボルト、フェーズA)がリクエストされたとき、レジスタ
マネージャは、 次の ラインサイクルでRMSボルトを算出するよう、DSP関数にリクエストを
出します。なお、この処理には50Hzというライン周波数で40msもの長い時間がかかることに
注意してください。ライン電圧が正に遷移する次の瞬間まで待った上で、その後のラインサイクル
でデータを累積しなければならないからです。このときもレジスタマネージャは、DSPタスクの
リクエストを出した後、DSPタスクからの戻りデータが用意されるまで自分自身の動作を
サスペンドします。
EEPROMレジスタの中には、値を書き換えるとDSPパラメータが変化するものもあります。
0xC030というレジスタ(有効電力メータ定数)への書き込みでは、EEPROMに新しい値を書き
込むとともに、メータパルスが正確に生成されるように新しい定数をDSPルーチンにもセット
する必要があります。このような場合、レジスタマネージャは、まずEEPROMを更新してから、
レジスタへの書き込みに応じて変化するRAM変数の更新に必要な計算を行います。
DSP関数は、リファレンス
デザイン電力メータでは、
レジスタマネージャがメータの心臓部であれば、DSPサブシステムは頭脳に当たります。DSP 割込で動作する小さなコード
サブシステムのリファレンスデザイン回路では、以下のようなメータとしての計測機能の大半を にすぎません。理由は明快
処理します。
です。あまりに多くのこと
が同時進行しており、DSP
• 電流と電圧のリアルタイム計測
サブシステムがソフトウェア
からのポーリングを受ける
• 有効電力と無効電力の算出
ことは無理なのです。
機能
• 力率の算出
• ライン周波数の推定
• RMS電圧と電流のオンデマンド計算
• メータパルスの生成
DSP関数は、リファレンスデザインの電力メータでは、割込みで動作する小さなコードに
すぎません。理由は明快です。あまりに多くのことが同時進行しており、DSPサブシステムが
ソフトウェアからのポーリングを受けることができないためです。割込みは48µs毎、つまり、
8MHzでは384命令サイクル毎に行われます。この割込みルーチンはCPU処理能力の25%から
30%ほどを消費し、さまざまなデータを出力します。DSPが保持する累算型データエレメントの
一覧を表2に示します。
最初から4つの合計値は、有効電力の算出で用いられます。5番目の合計値は無効電力の算出で
用いられ、最後の2つの合計値はRMS電圧と電流がリクエストされたときにのみ集計されます。
割込みルーチンでは、電圧チャネル上のゼロクロッシングも検出します。ゼロクロッシングの
誤検出を避けるため、ソフトウェアで実現されるシングルポールローパスフィルタにサンプル
を通します。このフィルタはゼロクロッシング検出において のみ 使用されることに注意して
ください。エネルギー計算に使われるサンプルはフィルタリングを行いません。
表2. メータDSPが保持する累算型データエレメント
データエレメント
n
∑ Vn
∑ In
現在のラインサイクルで累積したデータエレメント数
現在のラインサイクルで累積した電圧サンプルの合計値
現在のラインサイクルで累積した電流サンプルの合計値
∑ VnIn
瞬時有効電力サンプルの合計値(各瞬間における電圧と電流の積)
∑ VnIn-1 - Vn-1In
瞬時無効電力サンプルの合計値
∑V
電圧サンプルの二乗合計(RMS電圧の算出に使用される)
2
n
∑ I 2n
説明
電流サンプルの二乗合計(RMS電流の算出に使用される)
メータパルスの生成
メータパルスとしては、
LEDを一瞬光らせて、
エネルギー使用を目視
できるようにしたり、
接点を閉じて機械式
カウンタを進め、
ある負荷に対してパルスが生成される率をメータ定数と呼び、通常キロワット時当りのパルス数
で定義されます。つまり、パルス間隔は、負荷で消費されるネットの有効電力に対して反比例 使用されたキロワット時を
表示するようにしたり
します。一般に、メータパルスの生成率と負荷で消費される電力の関係は次式で表されます。
します。
電力メータは、通常、一定量のエネルギーが使用されるごとにメータパルスを1つ生成します。
メータパルスとしては、LEDを一瞬光らせて、エネルギー使用状況を目視することができる
ようにしたり、接点を閉じて機械式カウンタを進め、使用されたキロワット時を表示するように
します。このリファレンスデザインには、目視用のパルスLEDとスイッチング用の光カプラの
両方を持たせています。
パルス間隔(秒) = 3600 / メータ定数(パルス数/kWh) x 負荷(kW)
5
このレジスタマネージャ
(registermanager.c)は、
全レジスタをソートし、
そのタスクを管理するもの
であり、いろいろな意味で、
このメータソフトウェア
システムの心臓部とも
言えます。
この式から、1600パルス/キロワット時という定数を持つメータでは、パルスが2.25秒ごとに
生成されることがわかります。
このリファレンスデザインは、定格電圧が220Vで、最大電流が40Aです。つまり、負荷で消費
される最大電力は8.8kWであり、定数が1600パルス/キロワット時ですから、最大負荷時、
パルスは256msごとに生成されます。負荷がどのような状態であれ、1%の精度を確保するため
には、メータパルスの精度としては約2.5msが必要になります。
その他
システム内で最大のモジュールはレジスタマネージャであり、処理能力の大半を消費するのは
DSPですが、他のソフトウェアについても簡単に触れておく必要があるでしょう。このような
ソフトウェアは、ユーザが遭遇する要素を提供するとともに、メータ環境において重要なタスク
を処理しているからです。
SERIAL PORT
EIA485
SERIAL PORT
IR
MESAGE
CHECKER
SERIAL PORT
SELECTOR/MULTIPLEXER
MESSAGE
BUILDER
MESSAGE
FORMATTER
MESSAGE
DECODER
REGISTER MANAGER
SYSTEM
COMMANDS
図6. このリファレンス
デザインの電力メータの
通信は、常にホストから
スタートします。ホスト
から送られた通信は、
メッセージチェッカから
メッセージデコーダ、
レジスタマネージャ、
メッセージフォーマッタ、
メッセージビルダと流れ、
最終的にホストに戻され
ます。
通信サブシステム
すでに述べたように、通信は、多機能メータにとってきわめて重要
です。このソフトウェアにおいて、この重要な仕事を処理している
のは、シリアルポートドライバとメッセージチェッカ、メッセージ
デコーダ、メッセージフォーマッタ、メッセージビルダという5つの
タスクです。
これらのシステムは、メッセージチェッカとメッセージデコーダで
構成されるインバウンドパスとメッセージフォーマッタとメッセージ
ビルダで構成されるアウトバウンドパスという対称的な2つのパスと
して考えるのが良いでしょう。シリアルポートドライバはこのチェーン
のトップにあり、ボトムにはレジスタマネージャがあります(図6)。
シリアルポートドライバ
一見すると、シリアルポートドライバは不要に思えるかもしれません。MAXQ周辺機器セットの
UARTシステムは基本的に自動処理されるからです。キャラクタを送信するときは送信キャラクタ
を出力バッファにドロップするだけですし、受信するときは入力バッファを読み出すだけです。
ここで問題なのは、 2つの UARTチャネルがあるのにRAMの通信バッファは1つしかないこと
です。つまり、片方のチャネルをアクティブにするとともに、もう一方のチャネルがメッセージ
と干渉しないようにするメカニズムが必要なのです。一般に、ポートにキャラクタが到着すると、
もう一方のポートがアクティブでない限り、自動的にそのポートがアクティブになります。
メッセージチェッカ
メッセージチェッカは、到着するデータストリームに対する見張り番のようなもので、厳密に定義
された条件に合うデータだけがシステムに到着するようにします。特に、メッセージのフォー
マットが正しいこと、自メータ宛であるかブロードキャストアドレスを持つこと、チェックサム
が正しいこと、適切なコマンドフィールドを持つことの確認が必要です。
メッセージデコーダと
メッセージフォーマッタは
協力し、マルチメッセージ
の応答をスムーズに処理し
ます。
メッセージデコーダ
メッセージデコーダは、ホストからリクエストされたジョブを実際に処理するところです。
リクエストの内容はレジスタの読み書きであることが多いのですが、他のホストリクエストに
ついても、メッセージデコーダが処理の中心になります。
たとえば、メータアドレスを設定する特殊なコマンドがあります。メータの使用量レジスタに
セットされている最大需要データをクリアする特殊コマンドもあります。日時を同期させる
コマンドもあれば、パスワードのメンテナンスを行うコマンドもあります。これらの処理の中に
はレジスタを書き換えるものもありますが、いずれも、レジスタ書き込みだけで終わる処理では
ありません。
6
メッセージデコーダはまた、マルチセグメントの応答パケットも処理しなければなりません。
ホストからは、1つのコマンドで関連する複数レジスタを呼び出す「ワイルドカード」が送られて
くることがあるため、応答内容が通信バッファのサイズを超えてしまうことがよくあります。
この場合、メータからは、送り返す応答が部分的なものであり、続いて残りが送られてくると
いうフラグを送らなければなりません。メッセージデコーダとメッセージフォーマッタは協力し、
マルチメッセージの応答をスムーズに処理します。
メッセージフォーマッタ
レジスタデータが送信されるときは、必ずメッセージフォーマッタが必要なフォーマット変換
とセグメンテーションを行います。書込みリクエストに対する肯定応答メッセージを開始する
のも、メッセージフォーマッタです。
MAXQ3120リファレンス
デザインの電力メータは、
複数料金に対応した
多機能メータの
基礎となるものです。
メッセージビルダ
応答メッセージを送出する前の最終ステップとして、メッセージビルダがパケットのフォーマット
を整え、1バイトずつ、シリアルポートドライバへ渡します。メッセージビルダは、システム内
でもっともシンプルなタスクの1つです。ヘッダフィールドを送ってから、データを送り、最後に
チェックサムを算出します。
非同期イベントの処理
ここまでの説明を読むと、ADCチャネルを駆動するサンプルクロックであれCPUクロックであれ、
すべてがクロックにしたがって動作すると考えられるかもしれません。しかし実際は、クロック
に同期することができないイベントも数多く存在します。このようなイベントを処理している
のが、非同期イベントマネージャです。
たとえば、非同期イベントマネージャは、DSPサブシステムを監視し、EEPROMを更新する
タイミングをはかります。十分なエネルギー値を累積すると、DSPサブシステムは非同期イベント
マネージャに通知を出し、非同期イベントマネージャがEEPROMレジスタの更新を開始します。
非同期イベントマネージャはまた、停電時の課金処理も行います。DL/T 645電力計規格では、
電源の異常は記録しなければならないと規定されています。停電で動作を停止する直前に、その
時刻を非同期イベントマネージャがバッテリバックアップ付きCPUレジスタに記録し、停電が
解消したら、その情報を回収してEEPROMに記録します。こうすることによって、電源異常の
発生時刻と継続時間を記録することができます。
スケジュールマネージャ
スケジュールマネージャは、時間帯や曜日など、日時を基準に料率を変更するタスクを処理します。
スケジュールマネージャの構造はシンプルですが、ちょっと
見ただけでは理解しにくいかもしれません。図7の一番
右側は、1日の24時間を料率時間帯に分割したものです。
この図では、5:30からの料率2と18:00からの料率3、
22:00からの料率1という3つの時間帯があります。この
システムでは、最大14日までのスケジュールを持つこと
ができ、各日のスケジュールは、最大で10の料率時間帯
を持つことができます。
どの料率時間帯が有効であるかは、内蔵カレンダで選択
します。メータは、毎日深夜に、新しい1日のスケジュール
が有効になっていることをチェックします。図7は、第5
の日スケジュールが有効になっていることを意味します。
また、第5スケジュールは、4月下旬から有効になって
おり、6月上旬まで有効であり続けること、そして、6月
上旬からは第3スケジュールに切り替えられることも
わかります。
TABLE OF DAY
SCHEDULES
CALENDAR
1
2
JAN
APR
FEB
MAR
MAY
0600
0700
5
0800
9
10
11
OCT
NOV
DEC
「週末」となる曜日を指定(年間を通じて、その曜日の日スケジュールは固定)したり、年間の「休日」
を指定(休日料金のスケジュールを適用)することもできます。
まとめ
MAXQ3120リファレンスデザインの電力メータは、複数料金に対応した多機能メータの基礎と
なります。この設計を基にすれば、ニーズに最適な電力メータを作ることができます。開発が
容易になるように、Maxim/Dallas Semiconductorでは、さまざまなデバッガや開発ツールの
ハードウェアとソフトウェアも提供しています。また、サードパーティ製開発ツールを提供する
ベンダも数多く存在します。このようなツールは、すべて、japan.maxim-ic.com/maxqdevtools
にあります。
0300
4
6
SEP
0100
0200
0400
8
AUG
0000
3
7
JUL
DAY SCHEDULE 5
12
TARIFF 1
0500
0900
1000
1100
1200
TARIFF 2
1300
1400
1500
1600
1700
1800
1900
2000
2100
2200
2300
TARIFF 3
TARIFF 1
図7. スケジュール
マネージャは、システムに
対し、数多く存在する
料金レジスタの1つに
エネルギー使用量を累積
するよう指示を出します。
そして、現在の日時を
クロック設定とカレンダ
設定と比較します。なお、
この設定は、ホスト側の
ソフトウェアで変更可能
です。
MAXQはMaxim Integrated Products, Inc.の登録商標です。
7