Vol.44 2012年度

大学生における孤独恐怖と Facebook の利用との関連
井上亜友美 大野未来 桑原彩 原千裕 前田祐里 七田絵美
(中島義実・安部順子 教員)
キーワード:SNS,孤独耐性欠如,疎外恐怖
問題・目的 SNS(Social Networking Service)とは,オンライン
上で社会的なつながりを構築するサービスである。
SNS を利用する人々が増加する一方で,SNS 依存症
と呼ばれる状態に陥っている人々の存在が問題になっ
ている。SNS への依存については,以下のような研究
がある。
小寺(2009)は mixi に着目した研究を実施し,mixi
の利用度合い(過度の利用・情動的利用)と対人志向
性(親和欲求・賞賛欲求・対人依存・拒否不安)との
関連の検討を行った。
「情動的利用」は「過度の利用」
よりも対人志向性との関連が高いことが明らかとなっ
ている。しかしこの研究では,
「情動的利用」の内容に
ついてはあまり深く検討されていない。
次に,パーソナリティのネガティブな側面との関連
を重点的に研究したのが齋藤・長内(2008)の研究で
ある。ここでは,中村(2002)によって構成された孤
独恐怖(孤独耐性欠如・疎外恐怖・深い交際志向・広
い交際志向)というパーソナリティ尺度と SNS の関
連を検討している。研究の結果,SNS を利用したこと
がある人には「孤独を恐れる」傾向があることや,SNS
へのログイン率が高いユーザーほど孤独を恐れる傾向
があることが示唆されている。小寺(2009)の研究と
比較すると,パーソナリティ尺度については孤独恐怖
というひとつの尺度について深く検討されているが,
SNS の利用については量的側面からしか測定してお
らず,質的側面については検討していない。
SNS について調べた先行研究の数は少なく,課題も
多く残されている。上記の 2 つの研究においてもそれ
らは見受けられる。そこで,本研究では先行研究の課
題をふまえ,対人志向性の下位因子である対人依存に
焦点をあて,SNS の利用を量的・質的のどちらの側面
からも測り,孤独恐怖との関連について検討を行う。
本研究の第一の目的は,今回の研究で使用する尺度
構成と尺度の検討である。本研究では SNS の中でも
近年多くの人が利用している Facebook に注目し,
Facebook の利用に関する尺度構成を行う。またそれ
に付随して,中村(2002)の孤独恐怖尺度の再検討も行
うこととする。第二の目的は,Facebook の利用者と
非利用者のパーソナリティの違いを明らかにすること
である。第三の目的は,Facebook の利用(質的・量
的)と孤独恐怖との間にどのような関連があるかを明
らかにすることである。
これらの目的に伴って仮説は,以下のように立てる
ことができる。Facebook 利用者は非利用者に比べ、
孤独恐怖が強いと考えられる(仮説 1)
。孤独耐性欠如
の傾向が強ければ,
利用頻度は高く,
自己開示を行い,
積極的に情報を受信する傾向が見られる(仮説 2)
。疎
外恐怖の傾向が強ければ,自己開示はあまり行わず,
積極的に情報を受信する傾向が見られる(仮説 3)
。深
い交際志向の傾向が強ければ,そもそも Facebook を
利用しておらず,利用していたとしても利用頻度は低
い(仮説 4)
。広い交際志向の傾向が強ければ,仮説 1
と同様の傾向を示すが,輪を広げることを重視してい
るという点で異なる(仮説 5)
。
方法 調査対象者 大学生 342 名(男 87 名,女 255 名,平
均年齢 19.51 歳)
。
調査時期 2012 年 11 月~12 月
質問紙の構成(1)Facebook 利用状況 Facebook
利用の有無,利用者はアクセス数,非利用者は利用し
ていない理由を記述。
(2)Facebook 利用動機尺度 mixi の利用尺度(小
寺,2009)などを参考に,記事の閲覧・書き込み・コ
メント・Facebook の機能・Facebook の意義について
調査者 6 名で 54 項目を作成した。回答は 4 件法で求
めた。
(3)孤独恐怖尺度 項目は中村(2002)の孤独恐
怖尺度を使用した。①孤独耐性欠如:片時も孤独に耐
えられず常につながりを求める因子(5 項目)
。②疎外
恐怖:友達の輪から疎外されることを恐れる因子(4
項目)
。③深い交際志向:友人と深くつきあいたいとい
う因子(2 項目)
。④広い交際志向:広く多くの友人が
ほしいという因子(3 項目)
。これら 14 項目に,調査
者 6 名で作成した 10 項目を加えた計 24 項目を新たな
尺度とした。回答は 4 件法で求めた。
手続き 上記の質問紙を用いて,大学の授業時間内に
調査を行った。最初に Facebook 利用尺度について回
答させ,その後,孤独恐怖尺度について回答させた。
Facebook 非利用者については,孤独恐怖感尺度のみ
回答させた。
結果 (1)尺度構成 Facebook 利用動機尺度 54 項目
について因子分析(主因子法・Promax 回転)を行った。
固有値の減衰状況から 3 因子解を採用し,再度因子分
析を行い,最終的に 26 項目を採用した。次に,信頼
性分析を行った結果,第 1 因子から順に,α
=.87,.82,.86 であった。第 1 因子は「自己開示欲求
(11 項目)」
,第 2 因子は「習慣的利用志向(10 項目)」
,
第 3 因子は「反応期待(5 項目)」と命名した。
孤独恐怖尺度 24 項目について因子分析 (最尤
法・Promax 回転) を行った。因子負荷量が 0.35 以下
の 5 項目を削除し,再度因子分析を行った結果,5 因
子が見出された。そして,信頼性分析を行った結果,
信頼性が低かった第 3 因子以下を除外し,第 1・2 因
子のみを以下の分析に用いた(α=.73,.75)
。第 1 因
子「孤独耐性欠如(6 項目)
」
「疎外恐怖(5 項目)
」と
先行研究の因子名をそのまま使用した。
(2)Facebook の利用群と非利用群の孤独恐怖の
差の検討 利用群と非利用群の間に,孤独恐怖の差が
あるかを調べるために,孤独恐怖の各因子について独
立したt検定を行った。孤独耐性欠如においては有意
な差が見られ (t(340)=4.16,p<.01),利用群の方が非利
用群よりも孤独耐性欠如得点が高いことが分かった。
しかし,疎外恐怖においては有意な差が見られなかっ
た(t(340)=0.72,n.s.)。
(3)孤独恐怖と Facebook の利用の関連 まず,
独立変数である孤独恐怖の各因子について,低群・中
群・高群の 3 群に分けた。分析には,低群・高群のみ
を使用した。次に,孤独恐怖の強さによって,Facebook
の利用の仕方に差があるのかを検討するために,
Facebook の利用動機尺度得点を従属変数とし,孤独
耐性欠如及び疎外恐怖の高群と低群についてのt検定
を行った。孤独耐性欠如において,自己開示欲求,習
慣的利用志向,反応期待のすべて得点に有意な差が見
られた(t(164.46)=-2.82,p<.01;t(164.97)=-3.54,p<.01;
t(164.94)=-4.44,p<.001)。つまり,高群の方が低群に比
べ,自己開示欲求,習慣的利用志向,反応期待の得点
が高いことが示された。また,疎外恐怖においても,
自己開示欲求,習慣的利用志向,反応期待のすべて得
点に有意な差が見られた(t(155)=-3.13,p<.01;
t(138.31)=-2.38,p<.05;t(129.02)=-4.35,p<.001)。つまり,
高群の方が低群に比べ,自己開示欲求,習慣的利用志
向,反応期待の得点が高いことが示された。最後に,
Facebook へのアクセス数において,孤独耐性欠如及
び疎外恐怖の低群と高群の間に差があるかを調べるた
めにt検定を行った。その結果,孤独耐性欠如,疎外
恐怖のどちらにおいても有意な差は見られなかった
(t(165)=-1.33,n.s.;t(155)=0.02,n.s.)。
考察 (1)尺度構成と尺度の検討 Facebook 利用動機尺
度 の作成 因子分析の結果から,
「自己開示欲求」と
「反応期待」は,情動的な Facebook の利用の仕方を
測ることの出来る尺度と言える。さらに,
「習慣的利用
志向」は質的な側面から Facebook の利用頻度を測る
ことの出来る尺度と言える。今回の調査では「情報の
受信」についての尺度は構成されなかったため,更に
項目数を増やし再度検討することが必要である。
孤独恐怖尺度の検討 中村(2002)の孤独恐怖尺
度については,孤独耐性欠如と疎外恐怖の 2 因子が抽
出されたが,深い交際志向と広い交際志向は下位尺度
に分類されなかった。ゆえに,交際志向性は孤独恐怖
と関連がある可能性はあるが,孤独恐怖を測る下位尺
度としてはふさわしくないと考えられる。
(2)Facebook の利用者と非利用者のパーソナリ
ティの違いについて 分析結果から,孤独耐性欠如
傾向の強い人は,Facebook を介して間接的でも人と
つながろうとし,一方で,疎外恐怖傾向の強い人は,
Facebook の利用につながるとは限らないと考えられ
る。つまり本研究では,Facebook 利用者は非利用者
に比べ,
孤独恐怖が強いという仮説は一部支持された。
(3)Facebook の利用とパーソナリティとの関連 「自己開示欲求」と「反応期待」については,孤独耐
性欠如傾向の強い人だけではなく,疎外恐怖傾向の強
い人においても,Facebook において他者からの反応
を期待しつつ自己開示を行う傾向があると示唆された。
また,他者からの積極的な情報の受信については,こ
れらに関する因子が見出されなかったため,検討を行
うことができなかった。さらに,Facebook の利用頻
度については,量的側面(アクセス回数)と質的側面
(習慣的利用志向)で異なる結果が得られた。その原
因は,Facebook に頻繁にアクセスする人の中には,
孤独恐怖を紛らわすために Facebook を利用する人も
いるが,暇つぶしのために Facebook を利用する人も
多く存在することだろう。よって,孤独恐怖の強さに
よって Facebook 利用の仕方がどのように異なってい
るのかを測定するためには,量的側面からよりも,質
的側面からの測定のほうがより望ましい。
記銘語の情動性が虚記憶生成に及ぼす影響
小野結美 小西由子 高橋愛美 西山真帆 武久紗季 山内優美
(杉村智子・永江誠司 教員)
キーワード:虚記憶,DRM パラダイム,ソースモニタリング
問題・目的
従って本研究では,中立語と不快語の2種類のリス
ト語を用いた記憶テストを行い,その再認成績と虚再
認の起こりやすさを比較する。
まず,
先行研究と同様,
中立語よりも不快語の方が再認成績が高いことが予想
される(仮説 1)
。また、情動語が記憶に影響を及ぼす
ということから、中立語と不快語によって虚記憶の生
成しやすさに違いが出ることが予想される(仮説 2)
。
また本研究では,ソースモニタリング能力と虚再認
との関連性についても検討する。ソースモニタリング
とは,記憶の情報源の識別をすることで,例えば,あ
る情報を男性から聞いたか,女性から聞いたかについ
ての記憶の識別などがある。富田(1998)は,虚再認
の原因の一つはソースモニタリングの誤りによると述
べているが,
明確な関連は証明されていない。
従って,
ソースモニタリング能力が高い人ほど,虚再認をしに
くい(仮説 3)かどうかを検討する。
虚記憶とは,実際には経験していない出来事を誤っ
て想起したり,本来の経験とは異なるように想起した
りする現象である(Roediger& McDermott, 1995)
。
虚記憶を研究するために広く用いられているのが
Deese-Roedinger-McDermott 手続き(DRM パラダイ
ム)である(Deese, 1959 ; Roediger& McDermott,
1995)
。一般的に DRM パラダイムでは,特定の単語
(以下 CL 語)と意味的に強い連想関係にある連想語
を複数学習すると,その後の再生テストや再認テスト
において,学習がなされなかった CL 語が誤って再生
あるいは再認される。こうした CL 語の虚再生や虚再
認が虚記憶として定義される(鍋田・楠見,2009)
。
例えば、CL語が「戦争」なら、その連想語である「戦
車」
「原爆」
「戦火」
「核兵器」
「戦乱」などの単語を参
加者に学習させた場合,参加者は学習後のテストで誤
って「
『戦争』を学習した」と答えてしまう。
方法
本研究では,この DRM パラダイムにおいて,学習
語に中立語と不快語の2つを用い,記憶刺激のもつ情
調査対象者 成人 100 名(男性 41 名,女性 59 名,
動性を操作することによって,虚記憶の生成に違いが
平均年齢 20.47)
みられるかどうかを検討することを目的とする。
調査期間 12 月下旬~1 月上旬
従来の研究においても,記憶した単語刺激の再認成
材料
績に,刺激のもつ情動性がどのように影響するかにつ
(1)記憶テスト用紙:虚記憶の実験のための情動語リ
いては検討がされてきた。例えば,高橋(1988)は,中
スト(高橋,2001)を参考に,使用する中立語と不快語
立語(例えば「時計」
「重要」
)と不快語(例えば「借
を選定した。選定した単語は,学習時に提示される中
金」
「命令」
)を学習させ,再認成績を比較したところ,
立語 18 語と不快語 18 語,また未学習語としてCL語
中立語よりも不快語の記憶成績の方がよいことが明ら
6 語(中立語 3,不快語 3)と無関連語 6 語(中立語 3,
かになった。
不快語 3)であった。テスト用紙には,これらの 48
しかし,高橋(2002)も指摘しているように,虚記
単語それぞれについて判断をする選択肢(手続きを参
憶の生じやすさと記憶刺激の情動性との関連性は明ら
照)が印刷されていた。このような構造をもつテスト
かにされていない。すなわち,上述した DRM パラダ
用紙を 2 種類(課題 A,課題 B)作成した。Table1
イムを用いた研究においても,中立語と不快語のどち
には課題 A の単語リストを示す。
らのリストで虚再認が起こりやすいかは検討されてい
ないのである。
Table1.課題Aに使用した単語リスト
男の子が言う
学習語
女の子が言う
未学習語
CL語
無関連語
時間
目覚まし
秒針
時刻
時
刻む
時計
英語
中立語
建設
建てる
鉄筋
建築
建造物
校舎
建物
椅子
知らせる
会議
告げる
結果
伝える
通知
報告
陸上
不快語
夜逃げ
重圧
邪悪
負債
苦しい
黒
倒産
つぶれる
天使
取り立て 押さえつける
魔物
高利貸し
圧力
魔王
債務
息苦しい
恐ろしい
借金
圧迫
悪魔
大臣
選挙
満員
(2)学習語の提示スライド:上述した学習語である中
立語 18 単語と不快語 18 単語を,
1単語あたり2秒で,
パソコンの画面上に提示した。中立語 6 単語,不快語
6 単語ずつを 1 ブロックとして,ブロックが交互にな
るように提示した。その際,半数の単語は男の子のイ
ラストの吹き出しの中に,半数の単語は女の子のイラ
ストの吹き出しの中に提示した。
手続き
実験は,1〜20 名の集団で実施した。
「今から画面上
に女の子または男の子が 1 人ずつ表示されます。その
子どもたちが 1 つずつ単語を言うので単語を覚えてく
ださい」と教示し,スライドで学習語を提示した。提示
後,記憶テスト用紙に記載している単語について,1
「男の子からも女の子からも聞かなかった」2「男の
子からだけ聞いた」3「女の子からだけ聞いた」4「聞
いたけどどちらから聞いたかわからない」のいずれで
あったかを判断するように教示した。
実験全体の流れは,練習試行で課題のやり方を理解
してもらったあと,本試行2課題行い,最後に,「今回
の記憶テストで覚えるために何か工夫をしたか」など
を尋ねるアンケートに回答してもらった。
結果
(1) 中立語と不快語の比較
一人の調査対象者につき以下の 2 つの得点を,課題
A と課題 B を合算して算出した。
・再認得点:学習語を「見た」
,無関連語を「見ていな
い」と正答したものを 1 点とし、その正答数を再認得
点とした。中立語・不快語それぞれ 48 点満点であっ
た。
・虚再認得点:CL 語を「見た」と誤答したものを 1
点とし、その誤答数を虚再認得点とした。中立語・不
快語それぞれ 6 点満点であった。
中立語と不快語について再認得点,虚再認得点を用
いて t 検定を行った。その結果、再認得点において,
中立語と不快語の間に有意差がみられ(t(99)=-3.14,
p<.01)
,不快語の方が再認成績が高いことが明らかに
なった。また,虚再認得点においても有意差がみられ
(t(99)=3.13,p<.01),不快語の方が虚再認しやすいこ
とが明らかになった。
Table2 に,各得点の平均値と標準偏差を示す。
(2) SM 能力と虚再認の関連
一人の調査対象者につきSM得点を課題Aと課題B
を合算して算出した。
・SM 得点:学習語のうち調査対象者が「男の子から
も女の子からも聞かなかった」と回答した単語を除外
し,残りの学習語のうち,情報源を正答したものを 1
点とし,
その正答率
(正答数/残りの学習語の数×100)
を SM 得点とした。
SM 能力と虚再認の生成との間に関連があるか検討
するために,SM 得点と虚再認得点の相関分析を行っ
た。その結果,SM 得点と虚再認得点の間で負の相関
がみられ(r=-.21, p<.05)
,SM 能力が高いほど虚再認
が起こりにくいことが示された。さらに SM 得点と中
立語・不快語それぞれの虚再認得点の相関分析を行っ
たところ,SM 得点と中立語の虚再認得点との間に負
の相関がみられ(r=-.22, p<.05)
,SM 能力が高いほど
中立語の虚再認は起こりにくいことが示された。一方
で,不快語の虚再認得点との間には有意な相関はみら
れず(r=-.15, n.s.),SM 能力と不快語の虚再認生成との
関連は確認されなかった。
考察
本研究の目的は,DRM パラダイムにおいてリスト
語に中立語と不快語の二つを用い,記憶刺激の持つ情
動性を操作することによって,虚記憶の生成に違いが
みられるかどうかを検討することであった。
再認得点において,不快語の方が中立語に比べて成
績が高いことが明らかになった。この結果は仮説 1 を
支持するものであった。これは,中立刺激より情動性
をもつ不快刺激の方が記憶しやすいという,高橋
(1988)の先行研究を支持する結果となった。
また,不快語の方が中立語に比べて虚再認が起こり
やすいことが明らかになり,仮説 2 は支持された。よ
って,刺激の情動性は虚再認の生成に影響していると
言える。性虐待のようなネガティブな記憶が虚記憶を
起こしやすいという事例もあるように、ネガティブな
言葉は連想関連が強いため,虚再認を起こしやすいと
考えられる。
さらに,SM 能力と虚再認と間に関係性がみられ,
仮説 3 は支持された。しかし,不快語においては関係
性がみられず,不快語の虚記憶の生成には SM 能力以
外の要因が影響しているのではないかと考えられる。
これまでの研究において,虚記憶の出現に関する理論
として,SM 能力以外にも潜在活性化説やファジィ痕
跡説が提唱されてきた。今後は,今回行ったような情
動性を含めた上で,これらの説においても,様々な側
面から虚記憶生成の研究を行っていく必要があるだろ
う。
Table2.各得点の平均値と標準偏差
再認得点
平均値
SD
中立語
36.28
5.63
不快語
38.46
5.06
虚再認得点
中立語
3.26
1.49
不快語
3.68
1.46
=100
N
主要引用文献
高橋雅延 (2001). 偽りの記憶と実験のための情動
語リスト作成の試み 聖心女子大学論叢,96 ,
136-153.
PCEPS(Person Centred & Experiential Psychotherapy Scale)日本語版作成の試み
岡田 都・坂本遥香・浅野菜月・内田愛友子・清水理歩・宮崎貴行
(坂中正義・友清由希子 教員)
キーワード:パーソンセンタード・アプローチ,心理療法,カウンセリング,実証研究,PCEPS
問題・目的 心理療法における実証研究の発展は臨床心理学の
研究を発展させる上で重要な課題である。日本では,
心理療法の研究は事例研究を中心に発展しているが
(下山,2001),欧米では,臨床心理学においても実験
研究や調査研究によって介入の効果を客観的に示すこ
とを重視している。日本においても,心理療法の効果
やそれに関わる要因を実証的に示すことは,臨床心理
学が社会的な評価を受けるための必須のステップであ
ると考えられよう(丹野,2001)。
PCA(Person Centered Approach)の立場では,伝統
的に実証研究が進められており,池見・田村・吉良・
弓場・竹山(1986)による,面接場面におけるクライエ
ントの表現と,セラピストの関与の程度を評定する
EXP スケール(The Experiencing Scale)や,玉瀬・乾
(2001)による,カウンセラーの面接態度,面接技法,
面接効果を測定するカウンセラー印象評定尺度などが
開発されている。これらの尺度は,臨床心理学の実証
研究の様々な場面で活用されている。
PCA の実証研究に貢献する最近の知見に,Freire,
Elliott, & Westwell(2011)の PCEPS(Person Centred
& Experiential Psychotherapy Scale)がある。この尺
度は,パーソンセンタードセラピーにおいて,セラピ
ストの機能・能力を評定するために作成され,改訂が
重ねられている。欧州では,PCA の立場の心理療法や
カウンセリングの実証研究に貢献し,心理療法研究の
1 つの指標となることが期待されている(Freire et al. ,
2011)。日本でも,心理療法におけるセラピストの態
度を評定する尺度は複数作成されているが,PCEPS
のように広範囲の視点について詳細に記され,項目ご
との評定基準が明確になっているものは見られない。
PCEPS は 2011 年には,最新の Ver.10.5 が発表さ
れている。これは,セラピストの在り様に焦点を当て
るパーソンセンタードプロセスの 10 項目,情動の探
索や差異化の促進を行う過程に焦点を当てる体験的プ
ロセスの 5 項目,計 15 項目からなる尺度である。改
訂前の PCEPS Ver.10.1 と比較した主な改訂箇所とし
て,尺度の評定をセラピストの態度に限定したこと,
6 つの評定段階を精査したこと,各項目の間隔を揃え,
具体例を提示したこと,各項目の特徴をより明確にし
たこと,下位尺度をパーソンセンタードプロセスと体
験的プロセスの 2 下位尺度にグループ化したことがあ
げられる。
PCEPS の日本語版作成は,PCA の立場のみではな
く,日本の心理療法の実証研究の発展に貢献する。そ
こで,本研究では,PCEPS の日本語版を試訳し,そ
の特徴を検討することを目的とする。
方法 翻訳 PCEPS の日本語翻訳を行った。翻訳は,心
理学を専攻している大学生 6 名(男性 1 名,女性 5 名)
で行った。6 名それぞれが個別に訳した後,全員が集
まり,心理学専攻の大学教授 1 名の下で訳語を合議し
た。翻訳の際は,程度の表現などのニュアンスが評定
者同士で一致するように訳を調整し,評定マニュアル
(案)を作成した。その後,いくつかの逐語記録を評定
する中で,訳語を再検討し,最終的な評定マニュアル
を作成した。
評定尺度 日本語版 PCEPS の妥当性を検討する
ため,逐語記録を用いて面接場面の評定を行った。
(1)PCEPS:Freire et al. (2011)が作成し,調査者で翻
訳した 15 項目を使用した。各面接場面の開始から,
15~20 分程度の場面を抽出した。1 場面の各項目につ
いて 6 段階で,場面全体の流れを考慮し,評定した。
(2)EXP スケール:PCEPS の特徴を検討するために
PCA の立場の実証研究で用いられる,池見他(1986)
が作成したクライエント用体験過程スケール(以下,
C-EXP)とセラピスト用体験過程スケールを使用した。
クライエントの各発言については,C-EXP で評定を行
い,セラピストの各発言についてはセラピスト用体験
過程スケールのレファレント(以下,TR-EXP)で評定
を行った。
最終的な評定の値は,
モード値を使用した。
評定トレーニング PCEPS,EXP スケールの評
定が恣意的にならないよう,評定者全員の理解を深め
るため,
本評定を行う前に評定トレーニングを行った。
(a)素材:「カウンセリング代表事例集」(飯塚・関口,
1977)に掲載されている逐語記録から 4 事例を抽出し,
各事例の第 1 回面接を素材とした計 4 素材を使用した。
(b)合議:評定マニュアルを理解した後,6 名が個別に
4 素材の評定を行った。その後,心理学専攻の教授の
下,6 名全員で評定結果や評定の根拠を述べ合い,不
明な点が生じた場合にはマニュアルを再読し議論を繰
り返すことで尺度の理解を深めた。
本評定 (a)素材:初学者と専門家の行ったロール
プレイ場面の逐語記録 20 素材を評定した。初学者と
専門家の逐語記録は各 10 素材であった。初学者のも
のは心理学専攻の大学生同士が面接場面のロールプレ
イを行っているものであり,専門家のものは臨床心理
士ならびに指定大学院コース院生がセラピスト役とし
て面接場面のロールプレイを行っているものであった。
面接時間はいずれも 10~20 分程度であった。逐語記
録は対象者からの研究使用許可が得られたものを用い
た。なお,評定者には,どの素材が初学者のものか専
門家のものかは示されなかった。
(b)方法:評定者 6 名のうち,3 名は PCEPS で,別の
3 名は EXP スケールで素材の評定を行った。評定値に
ついての合議は行わず,各評定者が独立して評定を行
った。
結果・考察 Table1 に PCEPS の下位尺度と各項目を示す。
信頼性 評定者の平均評定値の信頼性を算出する
ために,Ebel(1951)の interclass method を用いて項
目ごとに信頼性を検討した。結果,PCEPS では,PC4,
5,7,8 を除いて,ある程度の信頼性が示された(rkk
≧.60)。EXP スケールにおいては,C-EXP と TR-EXP
にある程度の信頼性が示された(rkk≧.67)。信頼性が
低い項目については以降分析から除外した。 妥当性 (1)相関:PCEPS の妥当性を検討するため,
PCEPS と EXP スケールとの評定値の相関係数を算出
した。PCEPS と C-EXP とでは,PC3 を除いて中~
高の相関がみられた(r≧0.40)。PCEPS と TR-EXP と
では,全項目間に中~高の相関がみられた(r≧0.48)。
PCEPS はセラピスト用のスケールであるため,
TR-EXP と相関が多くみられるのは妥当であると考え
られる。EXP スケールで測定される体験過程は,PCA
の中核概念であり,EXP スケールと PCEPS とで相関
がみられたことは,PCEPS が PCA の概念に沿った尺
度であることを示唆している。
(2)t 検定:初学者と専門家との評定値の差を検討し,
妥当性をみるために t 検定を行った。t 検定の結果,
PCEPS では,PC1(t(18)=2.98,p<.10),PC3(t(18)=5.84,
p<.05),PC10(t(18)=3.87,p<.10),E2(t(18)=2.98,p<.10)
において傾向差が確認された。なお,EXP スケールに
おいては,いずれにも差はみられなかった。PCEPS
で差がみられた項目については,面接の流れやセラピ
ストの在り様,クライエントの経験がそのクライエン
ト独自のものであるということに焦点を当てるといっ
た,面接場面においてクライエントとの対話の経験が
大きく影響する項目であり,初学者と経験を積んだ専
門家とで能力の差が出やすいものであると考えられる。
それ以外の項目で差がみられないという結果となって
しまったことについては,今回の全素材が単発のロー
ルプレイングであり,クライエントの情動や核心を表
現するなどの展開まで至らなかったことがその原因と
考えられる。
今後の課題 今回試訳した PCEPS の特徴を 2 点述
べる。第 1 に,初心者には評定が困難な部分と容易な
部分がある。第 2 には,面接が展開していないと高い
評定値がつかない項目が多く含まれていることである。
本研究の問題点と今後の課題を,翻訳,評定者,素材
の 3 側面から述べる。 (a)翻訳:翻訳された語が不明確であったり,翻訳が固
かったりしたことがあげられる。翻訳の精度を高める
ためには,和訳したものを英訳し,もとの英文と比較
検討する必要があった。 (b)評定者:評定者間で評定段階の程度の基準が異なっ
ていた可能性があるため,評定者の評定能力の問題が
あると考えられる。より精度の高い結果を得るために
は,評定トレーニングをより多く重ねたり,評定能力
の高い専門家が評定を行なった場合の信頼性を出した
りするとよいであろう。また,PCEPS の特徴を踏ま
えた上で専門家が評定を行なうことで,評定段階の基
準が定まり,より精度の高い結果が得られると考えら
れる。 (c)素材:素材は,展開した面接のものを用意し,
PCEPS で高い評定値が得られるか確認することが必
要であろう。また,本研究では,対象者から研究使用
許可の得られる音声・映像素材の用意が困難であった
ため,
逐語記録のみで評定を行なわざるを得なかった。
しかし, 大元の PCEPS の研究には,面接場面のビデ
オ,もしくは音声セグメントが用いられていた。した
がって,逐語記録のみではなく,音声や映像による面
接場面を素材として評定を行なうことが必要であろう。
引用文献 Elliott, R., Freire, E. & Westwell, G. (2011). The
person centred and experiential psychotherapy
scale (PCEPS) : Field trial results and next
steps. PCE2012 10th conference of the World
Association for Person-Centered and
Experiential Psychotherapy and Counseling,
Program & Abstracts, p74.
Table1 PCEPSの下位尺度と各項目
項目名
下位尺度
1 照合枠/流れ(client frame of reference/track) *
2 コア・ミーニング(core meaning)*
パーソン
センタード
プロセス
(PersonCentred)
3
4
5
6
7
8
9
*
クライエントの流れ(client flow)
温かさ(warmth)
言葉の明快さ(clarity of language)
内容の指示性(content directiveness)
受容的在り様(accepting presence)
純粋性(genuineness)
*
心理的支え(psychological holding)
*
10 支配的・高圧的在り様(dominant or overpowering presence) *
1 協同性(collaboration)*
体験的
プロセス
(Experiential)
2 経験の独自性(experiential specificity) *
3 情動への焦点付け(emotion focus)*
4 クライエントの自己発達(client self-development) *
5 感情調節についての感受性(emotion regulation sensitivity) *
*
信頼性係数が0.6以上のもの。
価値判断の含まれない男性的行動をとる女性に対して形成される印象 築城幸美 出口未和子 野下倫花 山下康子 山領香澄 (笹山郁生・大坪靖直 教員) キーワード: 印象形成,ジェンダーステレオタイプ,ステレオタイプ内容モデル,非伝統的女性,社会的望ましさ 一般的に,女性と男性の性格特性,能力,社会的役
し)×2(参加者の性:男性/女性)の 2 要因参加者
割などについて人々が共有して持っている構造化され
間計画で実施した。 た社会的信念,思い込みはジェンダーステレオタイプ
刺激人物の性の操作 刺激人物の性は小冊子の教示
と定義される(Lippa,1990)。ジェンダーステレオタイ
文において,人物名とイラストを提示することによっ
プは,従来の性役割観に従う伝統的な男女,従来の性
て操作した。なお,ラベルなし条件では人物名の代わ
役割観に反する非伝統的な男女に対して存在する。 りに「ある大学生」と提示し,イラストの提示はしな
ところで,多くのステレオタイプは“能力”と“温かさ”
かった。教示文は行動文提示前に 60 秒間黙読させた。
の 2 つの次元から構成されるとする「ステレオタイプ
刺激人物の提示行動文 大学生が日常的によくする
内容モデル」が提唱されている(e.g., Fiske, Cuddy, と思われる行動 20 文(男性的行動 8 文,中性的行動
Glick, & Xu, 2002; Glick & Fiske, 2001)。この“能
12 文)をスクリーン(縦 1.22m,横 1.63m)の中央に 6
力”と“温かさ”の 2 つの次元は負に相関しやすい。
秒間ずつ提示した。文字サイズは 48 ポイントで,白地
例えば家庭的な伝統的女性は「温かいが無能」とステ
に黒文字で示した。これら 20 の単文は,予備調査の結
レオタイプ化され,
キャリア志向の非伝統的女性は
「有
果を参考に,男性的行動,中性的行動ともに,社会的
能だが冷たい」
とステレオタイプ化されることとなる。
望ましさが中程度となるように考慮して自作した。 この「有能で冷たい」という特性は,典型的な男性的
測定項目 ①印象評定項目:沼崎・小野・高林・石井
特性であるため,非伝統的女性は男性らしい印象が持
(2006)で使用された実験刺激語を参考に,有能さ,
たれてきた。 温かさを示す印象評定項目を 48 項目自作した。
これら
ところで,従来の研究で用いられた男性的行動項目
48 項目に好きと嫌いを問う 2 項目を加えた 50 項目に
は,
「TOEIC が 900 点」といったキャリア志向の非伝統
ついて,7 件法で回答を求めた。②性推測:ラベルな
的女性のステレオタイプに当てはまるものであり,こ
し条件の参加者に対し,刺激人物の性をどのように推
の行動特性には「有能」や「冷たい」などの価値判断
測していたかについて,5 件法で回答を求めた。③平
が含まれている。しかし,男性的行動は必ずしも「有
等主義的性役割態度:
「平等主義的性役割態度スケール
能」や「冷たい」といった非伝統的女性のステレオタ
短縮版(SESRA-S)
」
(鈴木,1987)を実施した。回答
イプに当てはまるものだけではない。中には「大食い
は 5 件法で求めた。
④実験参加者に提示した 20 の行動
である」などのように,日常的な場面で見られる価値
文について,Ⅰ)男性性:提示した行動が男性的であ
判断の含まれない行動も存在する。価値判断の含まれ
るか女性的であるかについて, 7 件法で回答を求めた。
た行動から形成された印象では,女性が男性的な行動
Ⅱ)社会的望ましさ:提示した行動文の社会的望まし
をしたから男性的に見られたのか,女性が有能で冷た
さの程度について,7 件法で回答を求めた。 い行動をしたから男性的に見られたのかを判断するこ
手続き 実験は小冊子とスクリーンを用い,講義時間
とができない。このような価値判断を含まない行動に
中に集団で実施した。
小冊子をランダムに配布するこ
おいても,男性的行動をする女性は同じ行動をした男
とにより刺激人物の性を操作した後,刺激人物の性の
性よりも男性的に見られるのだろうか。 操作を含む実験のカバーストーリーを記した教示文を
そこで,本研究では,価値判断の含まれない男性的
読ませ,
次いで,
スクリーンに 20 の行動文を提示した。
な行動をした人物に対して,その人物が女性の場合と
提示後,測定項目に回答させた。 所要時間は 20 分程
男性の場合,および,性の情報を与えない場合とでは
度であった。 印象がそのように異なっているのかについて検討する。
結 果 方 法 評定項目の得点化 性推測以外の全ての 7 件法の評
実験参加者 大学生 290 名(男性 102 名,女性 188
定値について-3~3 と得点化した。(得点が高いほどよ
名,年齢 18-25 歳,平均年齢 20.59 歳,SD = 1.18) りあてはまる) 実験実施時期 2012 年 12 月 11 日~22 日。 操 作 チ ェ ッ ク ①提示行動文の男性性/社会的望ま
実験計画 3(刺激人物の性:男性/女性/ラベルな
しさ:20 の行動文のそれぞれについて平均値を算出し
た結果,男性性では,男性的行動文は 1.08~2.20 とす
る限定を受けたのかを調べるために,3(刺激人物の
べて 1 点以上,中性的行動文は-.81~.54 とすべて±
性:男性/ラベルなし/女性)×2(参加者の性:男性/女
1.0 以内の値となった。社会的望ましさでは,-.57~
性)の 2 要因参加者間分散分析を行った。その結果,刺
1.17 と 20 文中 18 文が±1.0 の範囲内となった。した
激人物の性の主効果が有意であったのは「女性的」得
がって,男性的行動文は男性的,中性的行動文は中性
点のみであった (F(2,273)=4.434,p<.05)。そこで,Tukey
的行動として,また,社会的望ましさは中程度の行動
法による多重比較を実施した結果,男性と女性,ラベ
としてそれぞれ認知されていた。
②性推測:ラベルなし
ルなし条件の間に有意な差が見られた(男性>ラベル
条件の参加者が,刺激人物の性をどのように推測して
なし・女性)。なお,交互作用については,すべての印
いたかを確認した結果,
「絶対男性と思う」
「多分男性
象評定項目得点において有意ではなかった。 と思う」と回答した参加者が 87 名(ラベルなし条件の
90.6%)であり,参加者のほとんどが,これらの行動を
考 察 する人物は男性であると推測していた。 本研究では,男性的な行動をする女性の方が,同じ
印象評定項目の構造 「好き」
「嫌い」を除いた 48
行動をする男性よりも男性的な印象を持たれていた。
の印象評定項目について,
最尤法 promax 回転による因
これは,従来の研究と同様の結果であった。また,性
子分析を行い,3 因子を抽出した。第 1 因子(20 項目,
情報を与えなかった場合には,男性的な行動をする女
回転後の寄与率 27.38%)は「おしとやかな」
「物静かな」
性と類似した印象が形成されていた。 など女性的な印象を意味する項目の負荷が高かったた
本研究では,性情報を与えなかった人物の性推測は,
め,
「女性的」因子と,第 2 因子(9 項目,寄与率 10.25%)
印象評定後に実施した。そのため,性情報を与えなか
は「自分勝手な」
「傲慢な」など自己中心的な印象を意
った人物は,性を意識せずに印象評定を行った可能性
味する項目の負荷が高かったため,
「自己中心的」因子
がある。
このように,
性を意識せずに形成した印象と,
と,第 3 因子(12 項目,寄与率 7.44%)はリーダーシッ
女性であることを意識して形成した印象とが類似して
プのある印象を意味する項目の負荷が高かったため,
いたことから,本研究の結果は,男性的な行動をする
「統率力」因子とそれぞれ命名した。抽出した因子ご
女性の印象が,同じ行動をした男性以上に男性的にな
とに負荷量が.40 以上の項目の得点を合計し,それぞ
ったのではなく,男性であることを意識することが,
れ「女性的」得点,
「自己中心的」得点,
「統率力」得
形成された印象に影響を及ぼしたのだと考えられる。
点とした。 例えば,参加者は「男性が男性的な行動をとるのは当
刺激人物と参加者の性が刺激人物の印象に及ぼす
たり前だ」という認識を持っていたために,男性に対
影響 刺激人物×参加者の性ごとに 3 つの印象評定項
して「女性的でない」ことを強調した印象を形成する
目得点の平均値を項目数で除した値を Figure1 に示し
必要がなかったということが考えられる。 た。Figure1 より,全体的傾向として,本研究の刺激
本研究の結果は,男性的な行動をする女性に対する
人物はやや女性的ではなく,統率力のやや高い人物と
印象が,男性以上に男性的になるのではなく,男性的
いう印象を持たれていたことが示された。 な行動をする男性に対する印象が,男性とラベルづけ
次に,刺激人物の性が形成された印象にどのような
られることによって,男性的ではないという印象を持
影響を与えたか,またそれらの影響は参加者の性によ たれる可能性のあることを示唆している。 1.00
.50
自己中心的得点 女性的得点 .00
男 女 男 女 男 女 統率力得点 -.50
男 ラベルなし 女 Figure1 刺激人物の性×参加者の性ごとの各印象評定項目得点 -1.00