東日本大震災復興都市モデル計画 ―岩手県宮古市田老地区をケーススタディーとして 東日本津波被災地復興のビジョンと方法― 2011 年 5 月 20 日 復興都市モデル研究グループ はじめ めに 想像 像を絶する巨 巨大災害のた ただ中にわたく くしたちは現 現在もいます。 。大地震後の の余震が続くなか, 地震被 被害に留まら らず,津波とい いう巨大な自 自然災害,原子 子力発電所と という近代技 技術の核心がた ただ今 も困難 難な課題に直 直面しております。 義援 援金やボラン ンティアの活 活動だけではな なく, 我々の職 職能を活かし した援助はで でいないかと大 大学研 究室を を中心に建設 設会社, 地元設 設計事務所, コ コンピュータ ター技術会社, , 研究会など どの有志が集ま まり, 本復興 興都市モデル ルをまとめあげたもので,復興の一助 助になることを願うもので です。 この の災害で「津 津波堤防・湾口堤防」など どの港湾イン ンフラそして「避難ビル」の無力ではな ないも のの不 不完全さを学 学びました。国の示した復 復興の方向性 性「高地移転, ,海辺の漁港 港、水産会社 社勤務, エコタ タウン」の中 中,本モデル計 計画は被災地 地復興を前提に に都市インフ フラとしての の防災ブリッジ ジとこ れに連 連続する防災 災コリドール ルの防災的,福 福祉的インフラを提案し,被災浸水地 地に太陽エネル ルギー のパネ ネルを全面に に敷設して自然エネルギー ーによる環境 境エコ都市の提 提言を骨子と とするもので です。 平泉 泉が世界遺産 産に登録され れることとなり りました。 本提 提案は毎年多 多くの台風や や高潮のたびに に破壊 され続 続けながらも も,世界遺産 産として風格を を守っている る厳島神社の工学的分析* *1から学んだ だ成果 として て、自然の威 威力を「かわす す」方法とそ そのデザインが、提案の防 防災ブリッジ ジと防災コリドール の原点 点にあります す。 また た,活動の原 原点にはスマトラ島の大津 津波を契機として,これま まで研究室が が中心となって て首都 圏を擁 擁する東京湾 湾岸都市に既 既存の鉄道・道 道路高架を防 防潮堤とするモ モデルとして て修士設計「鎌 鎌倉・ 防災都 都市構想」(2008 則本弘 弘明)*2 など どを通して検討 討してきまし した。また古 古くは岩手県宮 宮古港 をケー ーススタディ ィーとして様 様々な防災プロ ロジェクト「宮古集住プロ 「 ロジェクト」(1981 小林直 直明) *3「宮 宮古水上空港 港ターミナル」 」 (1982 関卓 卓夫)*4 をやは はり修士設計 計によって提 提案してきまし した。 さらに昨年太陽 陽エネルギー ーによる新しい い社会像の構 構築にあたっ って太陽エネル ルギーデザイ イン研 究会を を発足し,活動している最 活 最中の大震災 災でした。この の太陽エネル ルギーの未来 来都市像を昨年 年度の 卒業設 設計「太陽エ エネルギー共 共生都市」(22011.3 大久保 保勇樹)で取りまとめまし した。 これ れらの若きエ エンジニアの長年にわたる る活動が少し しでも活かされ れたらと思い います。 11.5.20 201 復興都 都市モデル研 研究グループ プ代表: 日本 本大学理工学 学部社会交通工 工学科 デザ ザイン研究室 「海洋空間のデザイ イン」(1990 伊澤岬) *1 「鎌倉・防災都市構想 想」(2008 則本弘明) *2 「宮古集住プロ ロジェクト」 (1981 小林直 直明) *3 教授 伊澤 澤 岬 「宮古水上空 上空港ターミナル」(1982 2 関卓夫) *4 1 目次 復興モデルのコンセプト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P3 提案の骨子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P3 復興都市のあり方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P3 これまでの研究成果 - 「抑え込む」から「かわし」へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P4 被災地の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P5 田老町のこれまでの津波被害とその対応策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P5 津波被害・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P5 津波対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P5 東日本大震災の田老地区の被害状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P6 田老地区の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P6 田老地区災害調査報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P7 湾口都市モデル:田老地区の復興都市モデル全体計画図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P9 防災都市:防災コリドール・防災ブリッジ・防災タワーによる防災インフラ・・・・・・・・・・・・・ P11 津波を「かわす」防災インフラストラクチャアの提案・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P11 防災コリドール・防災タワー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P11 防災ブリッジ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P11 湾口都市における防災コリドール・ブリッジ・防災避難ビル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P13 浜辺都市対応における防災コリドール・ブリッジ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P16 防災タワー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P17 住宅群の形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P17 宮古、大船渡、陸前高田などの湾口都市への応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P19 太陽エネルギー都市:太陽光発電と太陽熱発電・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P20 津波浸水地での太陽光発電の試算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P23 津波浸水地での太陽熱発電の試算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P23 日本と三陸地方における太陽エネルギーのポテンシャル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P24 宮古市田老地区への太陽光発電の導入効果試算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P25 中部電力㈱いいだ太陽光発電所・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P25 宮古市田老地区への太陽熱発電の導入効果試算(タワー集光型発電)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P26 タワー集光型太陽熱発電所(スペイン PS10)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P26 宮古市田老地区太陽光発電の発電電力量の推計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P27 ユニバーサルデザイン都市:平常と非常を融合する交通インフラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P28 愛知万博のインフラ<グローバルループ>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P28 坂のまち長崎のインフラ<斜行エレベーター:多様な斜面移動機器>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P28 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P30 2 復興モデルのコンセプト 提案の骨子 本東日本大震災復興都市モデル計画は 防災都市 太陽エネルギー都市 ユニバーサルデザイン(UD)都市 の3つからなる。 防災についは,被災地に安全,安心できる防災都市がどのように構築できるかを都市のインフ ラストラクチュアと建築の融合の視点で示した。 太陽エネルギー都市については、 再生可能なエネルギー都市の構築を目指した都市像を示した。 ユニバーサルデザイン都市については、高齢者,障がい者などの移動手段の絶対的不足の中, 避難弱者の多くが被災された。 防災都市であるとともに交通弱者に考慮したユニバーサルデザイ ン都市像を示した。 復興都市のあり方 菅総理大臣から 4 月 1 日に示された被災地での復興ではなく, 高地の安全な敷地に新たな都市 を構築し被災地は勤務地に限ることを提案している。 本復興都市プランは被災地の都市基盤を継 続的に生かした都市像を示した。 被災地復興モデル 被災の状況は地形特性から大きく二つのパターンに類例できる。 一つは三陸の 「リアス式地形」 といま一つは仙台湾以南の「浜辺地形」における被害である。このリアス式地形は宮古,釜石, 大船渡、陸前高田に代表される。(図-1)一方、仙台空港の立地する浜辺都市を対象として,二 つの立地パターンに共有できる防災インフラを提示すべく, 岩手県宮古市田老地区のケーススタ ディーとして示す。 3 図--1 被災都市分 分布図 これま までの研究成 成果 - 「抑え込む」か から「かわし し」へ 津波 波のエネルギ ギーをどう「抑 抑え込む」と という防災イン ンフラとして ての堤防による方法の代表 表とし て岩手 手県宮古市田 田老地区をさらに規模的に に拡大した提 提案として都市 市インフラを を「防災壁」とする と 「鎌倉 倉・防災都市 市構想」(200 08.3 則本)を をまとめ、首都 都圏の東京湾 湾岸都市群の の防災モデルと として 提案し した。さらに に宮古市を対象 象に強固は構 構造体をベー ースに津波を「かわして」主要建物を強 強固な 構造物 物によってリ リフトアップ プした未来的な な「宮古集住 住プロジェクト」(1981.3 小林)、さら らに同 一敷地 地に同様に津 津波を「かわす す」強固な構 構造物に「宮 宮古水上空港タ ターミナル」(1982.3 関) )を提 案して てきた。 本復 復興モデルで では「抑え込み み」から厳島 島神社から学 学んだ自然の威 威力を「かわ わす」方法へそ そして 「建築 築・土木イン ンフラの融合 合」の中に防災 災都市を提案 案する。 4 被災 災地の状況 況 田老町 町のこれまで での津波被害 害とその対応策 策 図-22 地域ガイド ド表紙 津波被 被害 田老 老町が昭和 44 4 年から編集 集・発行して ている「津波と防災」(平 平成 17 年・第 第7版)によ よれば, 田老町 町は「津波太 太郎」というあ ありがたくな ない異名をもつほど数多く くの津波被害 害を受け,その の中で も慶長 長,明治,昭 昭和の三回は は全町全域で被 被害を受けて ている。その の被害は明治三 治三陸大津波(1896 年)で で死者,不明 明者が 1895 人,昭和三陸 人 陸大津波(193 33 年)では 911 9 人で,明 明治はマグニチ チュー ド 7.55 最大波高 155m,昭和はマグニチュー ード 8.5 で最 最大波高 10mで であった。 津波対 対策 昭和三 三陸大津波(1933 年 3 月)の年に災 月 災害復興計画(同年 8 月)では「高地 地移転」の学者 者の意 見の中 中で約 500 戸の家屋を移 戸 移転する難事と と適当な高地 地が付近に見当たらないこ ことから, 防波 波堤を 築造し して市街地を をこの内につくることとし し,「防波堤築 築造計画」 「長内川, 「 田老 老川護岸計画 画」「防 潮林養 養成計画」 「集 集落計画」が進 進められるこ こととなった た。その結果, 防波堤は昭和 防 和 33 年に 135 50m, 昭和 41 年 582m,昭和 54 年に に 501m:と田 田代川水門が が完成して約 2Km に及ぶ ぶ田老万里の長 長城が 完成し した。そして てこれらの施設 設は、津波防 防災のハードな手本として て国内外に知 知られている。 。また 避難に についてのソ ソフトな津波 波対策も同時に に継続的に続 続けられてきた た。(図-3) 5 図-3 田老 老地区の避難場 場所と防潮堤 東日本 本大震災の田 田老地区の被 被害状況 第1回岩手県東 東日本大震災 災津波復興委員 員会(2011.4.11)は「マグ グニチュード ド 9.0 県内の被 被害状 況を三 三段階に分類 類し,最も被害 害を受けた地 地域を「壊滅 滅的な被害を受 受け,集落,都市機能をほ ほとん ど消失 失した地域」の1つとして て宮古市田老 老海岸,田老漁 老漁港を取り上 上げた。そし して被害状況と として 海側防 防潮堤は破壊 壊し, 海側の木 木造の建物は はほとんど全損 損, 鉄筋コンクリート構造 造のホテルは は残存, 三陸鉄 鉄道北リアス ス線の軌道(T T.P.+12.1m)には津波痕 痕跡なし。津波 波高は 11.3m m(田代川水門 門の痕 跡)と と推定国道 45 4 号盛土構造 造鉄道が津波 波被害を軽減している」と としている。(図-4) 田老地 地区の概要 人口:1988 年(昭 昭和 63 年)1 1490 世帯,人 人口 5,629 人 産業構 構造:主産業 業は漁業(さけ主体の定置 置網養殖業:水上高 400,0 000 千円/年 年(H21 年度 度)) 6 田老地 地区災害調査 査報告 調査日:2011 年 5 月 3 日(火 火) 調査人 人員:復興都 都市研究グル ループ計4名 山側か から見た被災地 倒壊を逃 逃れたコンクリート防波堤 沖合 合の防潮堤は全壊 破壊され れた車 防波堤:倒壊 壊した盛土とコンク クリート版 鉄骨造の建物は全壊 鉄 全壊 7 図-4 東日本 本大震災による る田老地区の被 被災状況 (岩 岩手県HPより) 8 湾口都市モデル:田老地区の復興都市モデル全体計画図-1 2011.04.28 1.防災機能の強化 ■造成レベルに合わせた土地利用誘導 ■避難安全レベルと防災ブリッジによる防災コリドール ■防災コリドールからアクセスする住宅 ■避難拠点とコリドールをつなぐ防災ブリッジ 2.太陽光利用促進 ■津波浸水区域に太陽光発電プラント ■太陽熱発電プラントモデル ■津波避難ビルや住宅のZEB化 3.地域の歴史の継承 ■集落構造の継承(山の上の神社に向けた集落の軸線) 4.産業・観光による活性化 10mレベル 緑のエッジ ■防災ブリッジに連続する水産業・観光業の促進 ■町と港をつなぐ観光拠点(シンボルタワーと丘) 1500戸調整 ?? (田老町世帯数) 住宅・学校 商業・観光 山あての集落の軸線 漁港 高地津波避難タワー 丘の上に新しい集落を整備 避難ビル 津波避難所(既存) シンボルタワー 15 防災コリドール 防災ブリッジ 15 スーパーアクセス 避難タワー パーソナルアクセス 76 15 ブリッジへの垂直動線 住宅(斜面地) 太陽光発電 93 3 太陽熱発電 防災コリドール(20mレベル) 樹林地 コリドール 20 水田・畑 10m~20mレベル 住宅・学校など 100 文 5m~10mレベル 商業・観光など 45 ブリッジ 文 53 神社(津波避難所) 0~5mレベル 漁業・生産など 太陽光発電プラント メモリアルパーク 太陽熱発電プラント 町と港をつなぐ観光拠点 (シンボルタワーと丘) 避難ビル 生態コリドール (防潮林・水辺の自然・氾濫原) 防災コリドール 避難ビル ▽50m シンボルタワー 避難ビル 防災ブリッジ 防災コリドール 500m 防災ブリッジ ▽20m ▽10m ▽0m ▽20m ▽10m ▽0m 水田・生態コリドール S = 1/10,000 100 200 ▽50m ▽50m ▽20m ▽10m ▽0m 0 太陽熱発電プラント 漁港 住宅 太陽光発電プラント 海 断面図 S=1/5,000 9-1 湾口都市モデル:田老地区の復興都市モデル全体計画図-2(ダイヤグラム) 2011.04.28 ■防災 + 歴史 ■エネルギー ■避難安全レベルの防災 コリドール ■避難拠点とコリドールを つなぐ防災ブリッジ ■コリドールから500m離れ た危険ゾーンに高地津波 避難タワー ■集落構造の継承 ■都市の原風景 ■津波浸水区域に太陽光 発電プラント・集光型 太陽熱発電 ■スマートグリッド 凡例 凡例 高地津波避難タワー 太陽光発電 避難ビル 集光型太陽熱発電 津波避難所(既存) シンボルタワー 防災コリドール 防災ブリッジ S = 1/18,000 0 100 200 S = 1/18,000 500m 0 ■UD、交通 ■森 ■既存の避難拠点をつなぐ 防災コリドール ■コリドールをつなぐ防災 ブリッジ ■垂直動線となるエレベータ ー、ミニモノレール ■10mレベル緑のエッジ ■既存防潮林の再配置 ■斜面緑地の保全 凡例 凡例 コリドール 100 200 500m 樹林地 ・鎮魂の森 ・防潮林 ・氾濫原 など ブリッジ スーパーアクセス パーソナルアクセス 水田・畑 ブリッジへの垂直動線 S = 1/18,000 0 100 200 500m 斜面緑地 S = 1/18,000 0 100 200 500m 9-2 地区復興都市 市モデルの浸 浸水状況想定図 図 田老地 平常 常時 浸水 水 10 メートル ル時 浸水 水 20 メートル ル時 10 防災都市:防災コリドール・防災ブリッジ・防災タワーによる防災インフラ 津波を「かわす」防災インフラストラクチャアの提案 強固な津波対応インフラストラクチュアとしての堤防の破壊を受けて、 堤防によって津波を完 全に「抑え込む」対応から、津波の道筋を考慮して津波を「かわす」防災インフラストラクチュ アの提案で、「非常時に直面しても逃げ切れる・やり過ごせる構造」*5 とする。 防災コリドール・防災タワー 強固な土木的ブリッジで避難安全レベル(仮に 20m)を設定し、地域を大きく取り囲む周辺斜 面地形に設けた避難安全プロムナードと連続した防災回廊を形成し、 谷部中心部の最も避難コリ ドールに遠い距離(500m)の地点に高層避難用の防災タワーを設置する。 防災ブリッジ ブリッジレベルは避難レベルとなる回遊歩行空間で、高齢者・車椅子利用者にも利用できる。 またブリッジ下部は、漁港関連施設・水産業施設などをこれまで通り設置し、水産業を継続およ び発展させる施設となる。さらに観光・公共・商業施設を設置する。 津波発生時にはこの防災ブリッジに設けられた様々な垂直動線によってブリッジレベルに避難 し、さらにこれに連続する防災コリドールによって山側に避難する。 *5 朝日新聞4 月25 日社説 11 田老地区復興 全体計画図 興都市モデル全 12 湾口都 都市における る防災コリド ドール・ブリッ ッジ・防災避 避難ビル 湾口都市の壊滅 滅的被災の中 中でいくつかの の鉄筋コンク クリート造の の建物はその構 構造体のみが が多く 残され れた。これら らは建物に津波 波が侵入して て内部(イン ンフィル)は大 大きく破壊さ されても,その の外部 (スケ ケルトン)が が残ったこととなる。そこ こで今後 ① これらの鉄 鉄骨コンクリー ート造による る建物をバラバラに復旧す するのではな なく集めて,相互に 相 か かたまって外 外力を抗して, ,少しでも避 避難時間を稼 稼いで,共有の の垂直動線を を合理的に共有 有する 建 建築避難ビル ル群を目指す。 。 海側の防災 災避難ビルは津 津波到来方向 向に棟方向を を合わせて設置 置し、妻側先 先端には鉄筋コ コンク リ リート造によ よる堅牢な消波 波効果の高い い構造体の形 形状を工夫し、これによって津波到来時 時に波 の の威力を「か かわす」役目を を果たし、ビ ビルを津波による倒壊から ら防ぐ。平常 常時には消波効 効果の 高 高い壁面全体 体に太陽光パネ ネルを設置し し、防災避難 難ビルのゼロエ エネルギー( (ZEB)化を を目指 す す。<建築> > ② 防災ブリッ ッジ(図-5)は は、湾口都市 市の三方を山に に囲まれた地 地形のレベル ルを利用して連 連続し て て同一レベル ルの防災コリドールと強固 固な構造体で で形成する。防災ブリッジ 防 ジは越波するこ ことを 前 前提に防災コ コリドールのある2方向の の山側とブリ リッジ上部の の建物へと多方 方向の避難を を確保 す する。<歩行 行インフラ> ③ 同一レベル ルは交通移動弱 弱者にとって て有効な福祉 祉対応インフラ ラともなる。<福祉インフ フラ> ず 図-5 防災ブリッ ッジのイメージ ジ 13 14 水辺の防災ブリッジと防災避難ビル(左) 15 水辺のにぎわい:防災ブリッジによって水辺の安全とアメニテイを確保する 浜辺都 都市対応にお おける防災コリドール・ブ ブリッジ 田老 老地区のよう うな湾口都市 市に加えて、 仙 仙台市荒浜地区 区のような浜 浜辺都市の復 復興都市モデル ルが求 められ れる。田老地 地区同様、防災 災コリドール ル・防災ブリッジ・防災避 避難ビル・防 防災タワーとと ともに 人工の のアイランド ドを拠点とす するなどして全 全体として防 防災ネットワー ークを形成す する。 防災 災ブリッジは は、既存の鉄道 道・道路高架 架を堤防化し,ここに歩行 行者道を付加 加して対応する ること も考え えられる。拡大な農地, 拡 拡大な住宅地 拡 地域や工場,空港等をいか 空 かに有効に防 防災ネットワー ーク化 するか かは地域特性 性を考慮してコンパクトに にエリアを構 構成して避難を確保する。さらに広域的 的なエ リア間 間のネットワ ワークを形成 成する。 ススタデイ ケース ケー ーススタデイ イとして荒浜 浜地区をモデル ルとして提案 案する。 ここで での防災ブリッジは高速道 道路の 歩行者 者用側道とし して付加し、既存の公共施 施設等に防災 災タワーなどをネットワー ーク化した提 提案。 この高 高速道路の堤 堤防が被災浸 浸水の拡大抑止 止効果のあっ ったことを利用 用しての防災 災ブリッジ化 化の例。 (図--6) 図-6 浜辺都市モデ デルのケースス スタデイ:荒浜 浜地区 16 防災タ タワー 三陸 陸地方同様の のリアス式地 地形を有する和 和歌山県、三重県も津波被 三 被害地域で、いくつかの津 津波防 災タワ ワーが設置さ されている。 その一つに和 そ 和歌山県太地町 町高地避難タ タワーは収容 容人数 500 人で でタワ ーの高 高さは 20.2m m、約5階分 分となる。写 写真は三重県大 大紀町錦地区 区錦タワーの の例。これらの の事例 を参考 考に防災タワ ワーを提案。(図-7) 図-7 防災タワーモ モデル 住宅群 群の形成 田老 老町では昭和 和三陸津波( (昭和 8 年,11933 年 3 月 3 日)で三陸 陸地方最多の 911 名の死者 者不明 者とな なり,復興に にあたり当初満 満州(中国東 東北部)への全 全村移住も検 検討された。高所移転は代 代替地 不足で で断念,選ん んだのが防潮 潮堤建設となっ ったという。<朝日新聞 2010.9.11 夕刊 刊> 菅内 内閣は 4 月 1 日「復興構想 想会議」の設 設置を表明し し,早くも「高 高台に家」,港へ通勤「エ エコタ ウン」 」「福祉都市 市」を示した。 本提 提案は被害を を受けた都市 市を一望できる る斜面側、もしくは斜面に に住居群を提 提案し,被災都 都市の 復興を を視覚的にも も常に共有しながらの住居 居計画を提案 案する。 また た海側の防災 災ブリッジと直結した避難 難ビル型住居 居棟を津波方向、 すなわち ち南北方向に設 設置し、 東西方 方向を採光面 面とする。 斜面 面上部の防災 災コリドール ルへは階段・エ エレベーター ー・エスカレー ーターなどの のインフラストラク チュア アを、住居群 群と一体として設置する。(図-8) 防災 災コリドール 斜面地インフラス 斜 ストラクチャア ア 図-8 住居群のイメ メージ 17 18 斜面型住宅群のモデルと津波浸水地に設置した太陽光パネル 宮古、大船渡、陸前高田など湾口都市への応用 岩手県宮古市田老地区 岩手県大船渡市 岩手県宮古市 岩手県陸前高田市 - 湾口都市の防災ブリッジ設置比較案 19 太陽エ エネルギー都 都市:太陽光 光発電と太陽熱 熱発電 震災 災を契機にク クリーンエネルギー、 スマ マートシティへ への本格的な な展開が始まるものと考え えられ る。具 具体的には建 建築物や土木構 構造物もエネ ネルギー消費 費から、自らが がエネルギー ーを生産する施 施設と なるこ ことが求めら られる。このよ ような日本の のクリーンエ エネルギーを象 象徴する都市 市モデル、エネ ネルギ ー共生 生都市をここ こ田老地区に提案し,これ れまでの資源 源・エネルギー ーの大量消費 費を前提とした た都市 モデル ルに代わる、 新 新たなエネル ルギー創出社 社会を目指した たこれからの の日本の都市 市モデルとなる ること を期待 待する。 この のような考え え方は,オバマ マ大統領のグ グリーン・ニュ ューディール ル政策の柱としたスマートグリ ッドが が原点となる る。これは太陽 陽電池等の自 自然エネルギ ギーの余剰電源 源などを効率 率的に監視・制御す 制 るもの ので、ますま ます都市や建築 築は設備化に に進むものと考えられる。これを都市 市の規模に応用 用・展 開した たものがスマ マートシティといわれる。その象徴的 的プロジェクトの一つが、アラブ首長国 国連邦 (UA AE)で進めて ている太陽光、 、太陽熱発電 電をエネルギー ー源とする新 新しい都市像 像の模索と構築 築で、 石油枯 枯渇 40 年を見 見越しての布 布石で、総額 額 2 兆円規模の のマスダール ル計画とよば ばれるものであ ある。 このマ マスダールと とは源泉を意 意味する。 図-9 スマー ートシテイーモ モデルの太陽熱 熱エネルギー都 都市案(卒業設 設計 2011.3 大 大久保 勇樹) 20 21 太陽熱発電モデルの例(手前)と防災避難ビルの太陽光パネルの例(その後方) 22 図-10 太陽熱発電モデル図 また EU では 2010 年には、ゼロエネルギービル化(ZEB)、アメリカでも 2030 年にはゼロカ ーボンの建築化(ZC)を進め、もはや CO2 を排出しない建築と言うわれわれがいまだ体験した ことのない未知の建築像が地球環境的視点から求められる。 そこで今後田老地区の提案は, 我が国がこの分野において新たに世界をリードするモデルとな る計画と位置付ける。提案は津波被災浸水地に太陽エネルギー発電施設を大々的設置し、さらに 住居群、避難ビルも太陽エネルギーを積極的に導入した施設とする。 津波浸水地での太陽光発電の試算 防災ブリッジに囲われた津波被災地、約 36ha のエリアに太陽光発電導入効果を最近完成した 中部電力いいだ発電所を例に試みた。 その結果 36ha の津波被災地では単純に年間発電電力量 2000 万 kWh/年となり,住宅1戸の年 間電力使用量を 3,600kWh/年・戸とすると田老地区住戸数 1,500 戸の約 4 倍の発電量となる。 ちなみに東日本大震災の津波被災面積は 561km2 で電力量 3,117,000 万 kWh/年となり,原子炉 1基 100 万 kw で年間稼働率 70%とすると 613,200 万 kWh/年で約 5 基分となる。 津波浸水地での太陽熱発電の試算 太陽光発電同様に太陽熱発電導入効果をスペインのプラント PSIO を参考に試みた。結果 36ha の津波被災地では年間発電電力量 626 万 kWh/年となり太陽光発電の約 1/3 と劣る。 しかし,今後のエネルギー技術革新の必要性から,実験的,社会教育的施設として考え,ソー ラータワーを田老の復興のモニュメントとする。(図-10) 23 と三陸地方に における太陽 陽エネルギーの のポテンシャ ャル 日本と 地球の の表面が 1 時間に受ける 時 太陽光エネル ルギーは、 人類 類の年間エネ ネルギー消費 費量に相当する るなど、 量的に には無尽蔵と といえる。 しか かしエネルギ ギー密度が低 低いため、有効 効利用するた ためには膨大な受照面積が が必要となる る。 世界 界の年間平均 均日射強度のマップを示す。(図-11) 米国 国南西部、中 中東、アフリカ、豪州、インド、メキシコ等が年 年間で 2,000~ ~2,500kWh/m m2 に対し、日 日本で は 1,0000~1,500kW Wh/m2 と約 1/2 1 と劣る。 日本 本のなかでも も仙台での年 年間日射強度は は 1,230kWh//m2 で、太陽光 光エネルギー ーの計画地と として、 決して て恵まれた地 地域とはいえ えないが、一方 方、三陸地方は はその中でも も日射量が周 周辺地域より高 高いゾ ーンと といえる。(図-12) 図-11 世界の年 年間平均日射強 強度マップ 図 図-12 年間日射強度 24 宮古市 市田老地区へ への太陽光発 発電の導入効果 果試算 (場 場所:岩手県 県宮古市、電 電池アレイ方位:真南、傾斜角 角 10 度) 中部電 電力㈱いいだ だ太陽光発電 電所 ・事 事業者:飯田市 市+中部電力㈱ ㈱ ・敷 敷地面積:1.8hha ・発 発電出力:1,0000kW ・年 年間発電電力量 量:1,000,000k kWh(住宅 3000 世帯相当) ・C CO2 削減効果:400t-CO2/年 年 25 宮古市 市田老地区へ への太陽熱発 発電の導入効果 果試算(タワー ー集光型発電 電) わが が国のタワー ー集光型太陽 陽熱発電所の建 建設は、1981 1 年に工業技 技術院のサンシャイイン計画の実証 証施設 として て香川県仁尾 尾町に建設された 1,000kW W 太陽熱プラ ラントのみで で、以降の実施 施例はない。 これ れは日本の日 日射量が世界 界のサンベルト ト地帯に比べ べて約 1/2 と少 少ないため、事業採算に乗 乗らな い事、 、反射鏡の汚 汚れ等が主因と言われてい いる。 この のため日本の の日射条件に合致した設計 計例は皆無な なため、 ここで ではスペイン ン南部のサンベ ベルト 地帯に に建設された た大規模実証 証プラント PS S10 の諸元を規 規模補正して て、日本にお おける導入効果 果を試 算した た。つまり、ここで示した値は PS100 の単純規模補 補正値のため め、あくまで でも参考値。 タワー ー集光型太陽 陽熱発電所(スペイン PS10) ) ・タ タワー高さ:115m ・ヘヘリオスタット台数:624 台 ・発 発電方式:スチーームタービン ・発 発電出力:11,0000kW ・年 年間発電電力量 量:24,300,000 0kW/年 26 宮古市 市田老地区太 太陽光発電の発電電力量の の推計 27 ユニ ニバーサル ルデザイン都市:平常 常と非常を を融合する る交通イン ンフラ 日常 常生活の交通 通インフラで では連続性や回 回遊性が重要 要となる。 特に に移動が困難 難とされている る高齢 者や障 障がい者にお おいては,これ れらシームレ レスな移動空 空間に加えて,高低差のあ ある移動に何ら らかの 移動支 支援が必要と となる。 そこで で, この地域の の連続性, 回遊 遊性を有する る防災コリド ドールを設置す する。 今回 回モデルとし した田老地区 区では標高 20m 0m を基準とした安全避難 難レベルを想 想定し、平常時 時,非 常時問 問わず移動を を容易にする機能を充実さ させる。 安全 全避難レベル ルへの移動に については垂直 直動線である るエレベーター ーや,長崎市 市で多様な「坂 坂のま ち」な ならではのイ インフラの工 工夫やミニモ モノレールの のような索道によって対応 応が考えられ れる。 (図--14・15) 万博のインフ フラ<グロー ーバルループ> > 愛知万 <グ グローバルル ループ>によって最大 40m 0m の高低差を をもつ地形を をそのままに にして、歩行者 者の水 平移動 動と良好なビ ビューポイン ントを確保して ている。具体 体的には、延長 長 2.6km、幅 幅 21m、平均地 地上高 7.0m の構造物を直 直接支持し、かつ高低差 差を橋脚部分の の工夫によっ って調整する る構造物。(図 図-13) 図-13 愛 愛知万博グロー ーバルループ まち長崎のイ インフラ<斜 斜行エレベータ ター:多様な な斜面移動機器 器> 坂のま 図-144 斜行エレベ ベーター 28 図-15 斜面移 移動機器:懸 懸垂式(吊り下 下げ式)のミニモノレール型 型 29 今後の課題 東日本大震災前まで防災・津波の聖地、田老地区について防災モデルの手本として、大学では 大学院生の修士設計などで継続的な提案をしてきました。東日本大震災の復興にも、この田老地 区を原点とした研究活動の延長線上で何ができるかを考えました。 基本的なイメージを3月中に まとめ、今回結成した復興都市モデル研究グループの人々に声をかけ、賛同を受けて短期間のう ちにまとめあげました。 私たちのこのような提案の過程として、ここに住んでいる人々の考えを聞くことが第一です。 しかし、実際に被災地を訪れて感じたのは、避難所での生活を余儀なくされている人々にとって は復旧はもとより復興のイメージを語り合うことなど不可能と現地で思いました。 そこで、これまでの研究活動の蓄積を踏まえ、田老地区を対象に復興ビジョンをまとめたもの です。今後、宮古、大船渡、陸前高田での対応も今後進めたいと思っています。 一方この震災の影響は私たちの住む首都圏における計画停電の中にも日々実感しています。 ま さに私達も間接的な被災者であり被災地域といえます。 この首都圏における都心部での復興ビジ ョンを考えるべく、 現在太陽光エネルギーデザイン研究会を中心に東京お茶の水地区における太 陽エネルギーによる都市モデルの検討を進めております。 被災地と間接的被災地の一体的ビジョンの共有の視点が重要と考えます。 さらに、 東日本被災地以外からも防災的視点からの応用の可能性について問い合わせもありま す。 今後は被災地域の人々との交流の中から復興計画案を宮古市田老地区も含め、 個々の都市に提 案できればと考えています。 (伊澤 記) 復興都市モデル研究グループ 日本大学理工学部社会交通工学科デザイン研究室 ㈱キャドセンター ㈱高橋設計 太陽エネルギーデザイン研究会 協力:大成建設(株) 問い合せ:日本大学理工学部社会交通工学デザイン研究室 伊澤 岬(教授) tel:047-469-5503 Email:[email protected] 太陽エネルギーデザイン研究会事務局 貝守 健司(事務局長) tel:03-3408-1771 Email:[email protected] 30
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