近代 の超克 - 早稲田大学リポジトリ

187
社学研論集 Vol. 12 2008年9月
研究ノート
近代の超,克
-バイオライフタウン構想の実践-
阿 部 守 利*
に来ている。
「自由-競争-発展」の構図では
1.はじめに
なく,「配慮-協力-持続」の構図を構築しな
「近代」は,「自同律」の時代である。
AはA
ければならない。
である,BはBである,との思惟の論理が優先
しかし,多くの人々は「自由-競争-発展」
それゆえに,科学・技術が進歩し,産業
する。
という近代自由主義思想の呪縛から離れられな
つまり,「自由思想」が
は急速に発展した(1)。
経済オンリー主義から脱却できない
いでいる。
米国は石油資源を確保することを最
強力になり,すべての人が自分の利益追求に遇 のである。
大儀は「テ
進するようになり,かくして,「経済優位」の 大の目的としてイラクを占領した0
世の中,「お金第一」の世の中になった。
ロ撲滅や中東の平和」であるが,中身は「抽戦
ところで,聖書は「人は神と金とに兼ね使え
確かに「抽」は人類社会において
争」である。
ることはできない。」(ルカ16:13)と語る。
お
非常に大切なもの,聖書の中にも「抽」に関
金は生活の手段であり,自己目的化してはな
「油を準備した賢い乙女と準
する記述が多い。
らないものであるが,逆に人間を支配してし
備を怠った愚かな乙女」とが対比されたりして
近代社会は経済が優先する社会であり,
まう。
油はそれだけ重要なものであるが,限度
いる。
「自由-競争-発展」の構図でその流れを表現 を超えた使用によりCO,が増加し,地球温暖
より自由にし,もっと競争すれば,経
できる。
化問題が深刻さの度合いを深めている。
日本で
済の発展は可能であるとの錯覚に陥る。
そし
は,夏は40度を適える猛暑となり,熱帯夜の連
て,規制が撤廃され,血みどろの競争が続いて 続であり,朝晩はインドの方が涼しいのではな
一見表面的には発展を続けているように
いく。
いまや人類は崖淵
いかと思われるほどである。
地球温暖化問題は人類滅亡
見えるが,その背後に社会的な矛盾が深まって に立たされている。
経済においては二極化が進み,生活でき
いく。
の予標でもある。
ない人々が増加していく。
いまや,石化燃料の大量消費による温暖化が
われわれは「経済危機」の意味をよく理解し, 明白となった。
その代替燃料としてバイオ燃料
社会のあるべき姿を考察しなければならない時が今全世界で注目を集めているが,これは自ず
*早稲田大学大学院社会科学研究科 博士後期課程2年(指導教員 臼井陽一郎)
188
と地産地消運動となっていく。
以下身近な地産
具体的には,エネルギー面では,新エ
ている。
地消運動の例を挙げ,「近代の超克」の流れを
ネルギーの利用促進(BDF化),石化燃料消費
考察する。
の減少,低公害車の利用推進等であるBDF
による市内循環バスの連行や農機の稼働,龍ヶ
2. バイオライフタウン構想の実践
崎鉄道等の利用を推進する。
茨城県龍ヶ崎市でエネルギーの地産地消運動
食糧面においては,地産地消運動を推進し,
菜種油・ひまわり
が展開されようとしている。
地元龍ヶ崎栽培の菜種・ひまわり種による食用
油の有効活用をする取組みである(図1「バイ
油等の生産や龍ヶ崎産はちみつ等を生産する。
このプロジェクトは内閣府
オライフの輪」(2>¥/。
また,有機栽培を推進し,油粕の有効活用を図
(旧経済企画庁)の地域再生計画や農林水産省
何よりも市場原理に基づき,食糧を安い外
る。
のバイオマスタウン構想にも合致し,国からの
国産に依存するという戦後の農政に対時し,こ
支援も取得しようとしている。
れによって拡大した休耕田畑の有効活用を図
このプロジュクトは,茨城県龍ヶ崎市の産
アメリカの核の傘の下,日本の安全保障体
る。
業・教育・文化・福祉・保険などあらゆる社会
制が産業構造をも大きく変化させることになっ
生活の領域に於いて,「ゆたかで自然と人とが
たが,食糧はアメリカの武器であり,戦略物資
調和した,健康的な暮らしよい町づくり」に向
農業国は後進国で,工
として利用されている。
け,環境と経済の調和,環境保全と地域振興を
業国が先進国であるとの考えは一面的であり,
両立させ,持続可能な資源循環型地域社会を協
アメリカやドイツ,フランス,イギリスでも農
働して創造しようとすることにその目的を定め
業は保護され,高い自給率を維持しており,工
図1 バイオライフの輪
近代の超克 189
業との調和が図られている。
支給し,バイオエネルギー化を推進している。
本プロジェクトは,地域資源となる菜種・ひ
BDFは近年の原油価格高騰,地球温暖化問題
まわりを基に農業振興,新産業創造,観光振興,
等を背景に,急速に実用化が高まっている。
景観向上,地球温暖化対策,環境教育の推進と
に欧州では,フランス(89万KL),ドイツ(80
いった多面的な効果を図り,資源循環型システ
万KL)などで,主に菜種油の新柚からBDFが
ムの構築を目指している。
20世紀はエネルギー多消費型社会であった。
生産されている。
便利さや早さを追求し,化学素材を大量に利用
もので,年間3000トン(ドイツの0.3%)にす
した結果,環境ホルモン問題も起こしてしまっ
ぎない。菜種油を食用油や洗剤の原料とするた
これからは歴史の振り子が大きく反対の方
た。
めには,現在は価格が高いため,BDF生産を
向に揺れ,自然素材,健康指向の社会になって
含めた大量生産によりコストを引き下げ,市・
いく4R(リサイクル・リユース・リデュー
市民団体等との連携を深めることが必要であ
ス・リフューズ)を理念としたエコロジー社会
る。
特
日本におけるBDFは,廃食油を原料とした
日本の2005年の農業人口は335万人で,ここ
の実現である。
龍ヶ崎市は戦前,水田の裏作で菜種を栽培し
10年間で2割も減少してしまった。
ていた。当時,菜種油を搾っていた工場が現在
は,40%を切っている。
も存続しており,原料を落花生に代え,今でも
中・拡大」により,「強い農業・プロ農家を育
工場を稼動させている。
JR常磐線佐貫駅から
食糧自給率
政府は「耕作規模の集
てる政策」を推進しているが,国土の広い米国
徒歩5分のところに存在する製油所がそれであ
や豪州と同じ土俵で価格競争しても勝負にな
ただし,落花生は原価を下げるために中国
る。
らない。農産物の完全自由化は不可能であり,
産の端物落花生を使用しており,安全面での問
EUや米国ですら国が補助金を払い農家を守っ
題が課題である。
ている。農業のすべてを価格メカニズムの中に
ところで,龍ヶ崎市の現在の水田の転作率は
組み入れることは国防面から見ても大変危険で
34%である。 国・市から多額の補助金が出てい
農業には共助の原理,人々が共に生きる
ある。
実際に有効な転作作物がなく,近年は景観
る。
というより高い次元の共同体精神が根底に流れ
作物として単なる花を植えるだけでも補助金が
ている。秦,畑,田んぼは公共的な存在でもあ
支払われる仕組みになっている。
り,共同体の存続のために活用されなければな
2001年,滋賀県で「菜の花プロジェクトネッ
らないものである。
トワーク」が,環境負荷の少ない「資源循環
本プロジェクトの菜種油・ひまわり油の利用
型」地域社会を目指して作られ,現在42都道府
方法については図1の通りである。
県で,100以上の団体が加入する広がりを見せ
田畑の利用による菜種・ひまわり栽培を100ヘ
ている。
クタール規模で行い,4月の開花時に蜂蜜をと
欧州では,バイオディーゼル燃料(BDF)
り,観光利用や観光学習にも活用する。
には課税しないことに加え,農家に補助金を
は菜種の種が収穫され,搾油される。
まず,休耕
6月に
190
二毛作の裏作としてひまわりが蒔かれ,9
同時に自転車道の整備も必要であり,無料自転
月にひまわり種が収穫され,搾油される。
菜
車を市内の拠点に設置し,盗難に配慮しながら
種油・ひまわり油は食用油にされ,市販され
市民が自由に移動手段として使えるシステムも
学校給食や地元名物の龍ヶ崎コロッケ等に
る。
構築する必要がある。
環境都市を宣言し,二酸
利用され,その廃油も洗剤やBDFに利用さる。
化炭素の排出量が極めて少ない健康的なバイオ
バージンオイルは高級洗剤・石鹸の原料として タウンとしてのイメージをつくり,外部からの
利用される。
これによりマレーシア産等のヤシ
菜の花やヒマワリが開花す
観光客を集客する。
油(パーム抽)を利用する割合を減少させるこ
る時期に巨大迷路をつくり,イベント等を開
とができる。
催,駅前広場も有効に活用する。
BDFは,硫黄酸化物が無く,黒鉛は軽油の
菜種・ひまわりを搾油し
3分の1以下である。
3. 「NPO法人バイオライフ」の発足
た場合,油が3割,油粕が7割である。
その油
このプロジェクトは,国策に則った市民参加
粕は有機肥料になり,飼料として家畜の餌とし
したがって,行政が中心的な
型のものである。
家畜の糞は堆肥化し,有機飼料
て利用される。
役割を果たさなければならないが,現在の行政
として利用される。
粗放は縦割りの色彩が強く,横の連携が極めて
平成19年の龍ヶ崎市内の田畑面積は,2175Ha
希薄な状態にある。
これも「自同律的思惟」の
うち,田が1890Ha,畑が285Ha。 休
である。
そこで,民間のNPO等のプ
なせる業である。
耕田畑の面積は約300Haで,そのうちの作付け
ロジェクトチームが必要となり,その流れの中
龍ヶ崎市
可能な面積は約IOOHaと推定される。
で2008年4月,龍ヶ崎市に「NPO法人バイオ
だけでこの面積があり,茨城県南地域全体では
ライフ」が発足したNPO法人認可取得のた
数倍以上になることが推定される。
めに茨城県に提出した平成20年度の事業計画
農家にインセンティブを与えるためには,当
等を記載しておく(表1平成20年度事業計画
面補助金を与えることが不可欠であり,市の農
書(3))。
政課が,予算の組替えを行い,菜種・ひまわり
この活動は,点から線-,線から面へと展開
栽培に対し補助金を組み入れ,農協との調整や
今や,重高長大の時代は
していくに違いない。
休耕田畑の情報収集しなければならない。
油糧
終君した。
21世紀は環境の時代であり,主役は
作物への転換推進,つまり菜種・ひまわりへの
小さな共同体で,それが連帯するネットワーク
転作推進への優遇制度の構築や指導等が不可欠 社会となるであろう。
そこでは,「無償で与え
となる。
る」というボランティ精神が高揚し,無意識の
また,市民に広めるためには,「菜の花ト
中で「よき社会」実現に向けた活動が開花して
地域循環型
ラスト」等の検討も必要となる。
この活動はどこも最
いくことになるであろう。
BDFモデル(市内循環バス,関東鉄道竜ヶ崎
初の一歩は小さいものであり,それが可能であ
線等)の検討や,ノーカー運動の推進(市内へ
るが故に多くの地域に伝播し,同様な共同体が
歩道と
の車排除規制)も検討する必要がある。
形づくられ,多様性に富んだ生き生きとした社
近代の超克 191
(法第10粂第1項関係様式例)
表1平成20年度事業計画書
成立の日から平成21年3月31日まで
特定非営利活動法人バイオライフ
1事業実施の方針
(1)特定非営利活動法人としての法人運営を実践し.
「ゆたかで自然と人とが調和した,暮らしよいまち」の実現に向け,環
境と経済の調札環境保全と地域振興を両立し,資源循環型社会の構築まちづくりに貢献して参ります。
(2)自ら行なう特定非営利活動事業について円滑な運営を図ります。
(3)まちづくりの推進・環境保全の推進については,長期的な視点に立ち推進して参ります。
2事業の実施に関する事項
(1)特定非営利活動に係る事業
事
業
名
事業 内 容
実
施
予定 日時
実
従事者 の
施
予 定 数
予 定場所
(K )
受益対象者
支
払
の範囲及 び
見 込み額
予 定 人員
(千円)
(人)
.休耕 田畑 の調査
①遊休 田畑 に油糧 作物 の栽培
.栽培 用地 の確保
.農 地保全 の調査研 究
.支援研 究機 閑 との連携
.菜種 . ひまわ り栽培
通年
休耕 田畑
10
30
450
10
100
20
②植物 観察 等の体 験型 環境教
育事業
. 開花 時環境学習 会
8月
牛久沼湖 畔公
園
③ 地産 地消の推進
.料理 講習会
2月
市内公民館
3
20
40
. まいん コロッケへ の油提供
.会員 への油提供
通年
中央農研
(搾油 )
2
100
20
.親子 石鹸づ くり教 室
8月
市内公民館
3
20
40
通年
事務所
o
10
B D F 化装 置 の内製 化研 究 問
%
i ・
事務所
3
20
事務所
2
-
ft 5
一般市民
不特定多数
150
10
100
50
.菜種 油, ひまわ り油の搾油
④ 植物油 の利用調 査
⑤ 4 R 推 進, 環 境 . 健康 に配
慮 の暮 らし方 の提案
⑥ 地域 ブ ラ ン ドの研究 開発 と
.菜 の花 は ちみつ 商品化検討
提案
⑦ 廃食 油 の燃 料化 とそ の活用
調査
⑧ 地域 資源利活用研 究, 提 案
.廃食 油の 回収検 討
. 地域 資源の利活用 調査研究
通年
-
. く りー ん プ
⑨ 各種 イベ ン ト事 業
⑩ 本法 人 の 目的達 成 のため に
必要 な事業
.龍 ヶ崎市環境 フェアー 出展
.地産 地消 フェアー出展
. 10月
.9月
ラザ龍
.商工 会施設
「どらす て」
.設立発 足会実施
4月
商工会 会議室
(2)その他の事業
-?
蝣
* 蝣 fc
事 業内 容
実
施
予定 日時
. 菜種油 販売
事業 に関す る物 品の加 工及 び
. ひま.わ り抽販売
販売事業
. はちみつ販売
. 6 月
その他物 品販売事 業
通年
. 健康 サプ リメン ト 飲料販 売
. 10 月
.通 年
実
施
予定場所
商工会施 設
「どらす て」
. 商工会 施 設
「ど らす て」
. 事務 所他
従事者 の 支
払
予 定 数 見込み額
(人)
(千円)
10
0
2
0
192
会が構築されていく。
これは一見「分化」に見
とする。
「受けるよりは与える方が幸いである」
えるが,共同精神が強められ,ネットワーク社
という聖書の金言(使徒言行録20.35)が実践
会の下で情報が相互方向に流通し,多様化の中
「物」ではなく「事」において豊かに
される。
「分化」に
で新しい「文化」が生まれてくる。
なる共同体社会の実現が理想(lJどaイデア)
より,「文化」が生まれる。
そこでは,強い者や早い者のみが勝つ
である。
近代社会は経済至上主義の時代となった。
こ
のではなく,強い者は弱い者を助け,弱い者も
大きな愛の支えの中で,生き生きと生活するこ
のしがらみから逃れられないのが大方の現代人
であるNPOはこの経済至上主義を超える組
とができる。
価値観は,「物」から離なれ,大自然
織であり,自発的なボランティア活動が主体と
しかし,人間は肉体をもっており,それ ((frflOICピシス)へと向けられていく。
生き
なる。
を維持するための栄養の充足がない限り存続す
ているのではなく,生かされているとの実感
したがって,このようなプ
ることはできない0
に立ち,そこでは自ずと人々に畏敬の念が生
人間
ロジェクトを存続させていくためには,経済原
じ,ありがたさ,感謝の念があふれ出る。
の自己意識が小さくなっていく性界であり,よ
理(交換の正義)を全く無視するわけにもいか
地域通貨の導入も検討しなければならなり大自然に近づき,更には信仰(niaxiCピ
ない。
い課題である。
人々は生死の
ステイス)の頚城に入っていく。
経済原理が行き過ぎると無味乾燥な社会にな
神秘を考え,「永遠の生命」の存在を知る。
そ
り,それをチェックし,「分配の正義」を図る
れは「物」から生まれるのではなく,「事」(関
「環境」は,「分配の正義」 係)の重要さを指し示す。
「関係」すなわち「繋
機能が必要となる。
を基にした「公」の額域であり,「官」の領域
がり」のことであり,人間を超えた大きな存在
(神・宇宙精神・天)との結びつきを澄んだ心
でも「私」の領域でもなく,それらを大きく包
む範噂にある。
21世紀は「環境」の
で捉えていく世界である。
これからは「自他不二」を意味する「実在の
時代,人々は「天の時」を知り,「大地の恵み」
論理」が顕現する。
その中のニーズに対応する
と「労働の実り」に感謝する。
「環境プロジェクト」は,経済原理を超えた共
さて,龍ヶ崎市では,休耕田畑の活用により,
「自己主張」する
同体原理に立つものである。
近い将来IOOHaの菜種・ヒマワリの栽培によ
ことが経済原理に組み入れられたが,共同体原
り,165トンの油が採取可能となる。
これは「地
農・工・商が一体となり,環境
理はつき詰めて行けば,これとは逆の「無私の
の利」である。
皆がサーバントであろうと
原理」に行き着く。
原理を優先させ,持続可能な社会を構築してい
「自由-競争-発
する「協力の原理」である。
そのベースには「人の和」があり,「農・
く。
展」という図式ではなく,「無私-協力-共生」
工・商」と「産・学・官」の大きな枠での連携
「物
の図式となり,「関係性」が重要になる。
その究極のミッションは「平
が重要になる。
事」の「事」の面である。
「無私」は,「受ける
和」であり,ビジョンは「共生」である。
目標
事」ではなく,「与える事」を根本の行動原理
は「持続可能な社会」,手段は人々が共に汗を
近代の超克 193
流す「労働」である。 すべての人が義務であり
まって行き,大自然の原理と対時していく。
同時に権利である「労働」にいそしむ(楽し
端な工業化や商業化が,リスク社会を構築して
む)0それは労働の提供であり,原則的にはボ
ifM
極
ランティア活動となるが,ささげた自己のエネ
ルギー(時間)に対する相応の見返りは,「分
4. おわりに
具
配の正義」の精神の中で公平に配分される。
但し,
体的には地域通貨の導入が必要となる。
「いつまでも存続するものは信仰と希望と愛
時間給の原理をプロジェクト従事者の中に浸透
ているが,循環型社会で大切となる価値は,「平
させざるを得ないが,それは結果であり,目的
和と希望と愛」である。 すべての人が自らの生
としてはならない。自律と共生の原理は対立す
き様を内省する中で,原点回帰を図れるような
るものではなく,補完し合う。
自律しているか
である」と聖書(Iコリント13.13)に記され
社会システムを構築することこそ,早急に取り
らこそ共生が可能となり,共生できるからこそ
組まなければならない課題である。
自律できる。自律の存在の根拠は共生に,共生
人々が輝く未来を目指して共に生きる社会
の存在の根拠は自律にある。 矛盾しているもの
が理想(ldeaイデア)である。
が矛盾したままで他を要請し合うという「相互
「健康で平和な共同体」の構築を目指さなけれ
律」の原理が,顕現している。
ばならない。それは大都市ではなく,農・工・
現在の「地産地消運動」は,実在の相におけ
商の産業と自然と文化の三つのバランスがとれ
る大きな揺り戻しであり,其実在(I△EAイ
た地方社会において実現されて行く。
デア)の顕現としての「近代の超克」の流れで
代経済論理に基づいてやみくもに拡大すること
バラバラになった個々人が,無意識の
もある。
は危険であり,それは近代の経済原理主義の踏
うちにこのままでは自己を存在させることがで
襲にすぎない。新しい時代の原理は,"Small:
きないと感じ,「連帯」,「共生」を求めていく
'である。 究極の自給自足社会にお
sustainable.
流れである。その流れはもはや止めることがで
いては,コストは問題にならない。
琶'/va
かさによって満たされるものではなく,公平な
また,「地産地消運動」は原点回帰の流れで
分配によって満たされる。 自然を深く理解し,
近代社会の中において人間は,本来あ
もある。
それに倣った価値観を持ち,優先順位を正さな
るべき地点から離れ,「おれはおれである,お
ければならない。
れの存在根拠はおれの中にある」との間違った
「平和をつくりだす人たちは幸いである。
認識に陥り,すべての原理を人間中心に建て上
らは神の子と呼ばれるであろう。」と聖書(マ
げようとした。その「自同律的思惟」を反省す
タイ5.9)に記されている。
るところにこの運動の出発点があり,エデン
体(相互律)を原理とする時代へと転換を図ら
(土台・原点の意味)への回帰運動である。
なければならない。 それは自覚的な人間の意思
共生原理は大自然の原理であり,人は「土」
に基づき,反対者が一致できる社会づくりであ
を通してそれを悟る。 大都会の「閣」は益々深
り,そこに「エデン」(ふるさと)が構築される。
われわれは,
規模を近
必要は,豊
彼
われわれは,共同
194
そこは,「秩序の静けさ」があり,「平和」に包
を目指して行動する時代である。
まれている。
平和をつくりだす神の子供と呼ば 今人類は危機に瀕している。
あと100年で鉱
物資源が枯渇し,400年で森林が消えると言わ
れる親しい仲間たちとの共同生活であり,その
理想OJeaイデア)を追い求める人々が集
れている。
ヨーロッパ等の実情からもそれは窺
う社会である。
える。
50万年前に地球上に生命が与えられた人
「地産地消連動」は,究極的には「平和」
類は,今後どのように生きるのであろうか。
近
(shalomシャローム)をもたらす運動である。代,すなわち経済時代の終葛の中で,人類は原
近代の「自同律原理」を超克した,「物」では
生活スタイルは
点-の回帰を求められている。
現代社会に
なく「事」(関係)に重点を置く。
否応なく変えていかざるを得ない。
「地産地消」
おいてこの運動は,「個」のレベルは「健康」
を目指すボランティア活動は,近代を超克する
を目指して行くが,「健康」の裏には「環境」
試みである(4)
バイオライフタウンの
があり,その意味で「環境」が最重要となる。
「時」は迫っている。
人は経済的側面からだけ見てこの運動を評価構築を急がなければならない。
地球環境の回復
この道動は経済を超えたとこ
してはならない。
に向かい,皆で``ZuGrundegehen"(原点回帰)
市場セクターは,企業や個人がその
ろにある。
しようではないか。
担い手になり,「利益」が根本的な動機づけに
〔投稿受理日2008.
5.24/掲載決定日2008.
6.16〕
そして,「自助」を基本的精神におき,
なる。
「効率」を追及していく。
「自由放任」が基とな
注
(1)難波田春夫1982『危機の哲学』早稲田大学出
るため,社会は二極化の度合いを増し,やがて
版部146「近代文明をつくり上げる基本的原動力
逆に全体が不自由となる。
となったのは,いうまでもなく技術であるが,近
しかし,「地産地消運動」は共生セクターに 代技術の一つ一つは,それぞれ「AはAである」
属する連動である。
担い手は「地域社会」であ
り,「共益」が誘引である。
人々の行動はそれ
という日岡律にしたがって,自分は自分であると
考え,自分は自分であるゆえに,自分自身の中に
内在する論理(法則)にしたがって進めばよいと
に動機づけられ,「共助的な機能」が中心にな
考えた。」
人々は「互酬」を得ることになり,利益を (2)安友純2008「NPOバイオライフの輪」資
る。
料
独り占めすることは許されない。
当然,「連帯
(3)松田敬治2008「NPO法人バイオライフ2008年
的な機能」が中心的になり,世の中が改善され
度定期総会」資料
これは「愛」(aγaitr¥アガペー)の
ていく。
原理であり,ボランティア精神が高揚してい
(4)マ-ヴイン・トケイヤーが,「ボランティア・
共同体・近代化」について的を射たコメントをし
マ-ヴイン・トケイ
ているので,以下引用する。
また,「平等」を規範とする公共セクター ヤー1996『21世紀塑教育のすすめラビ・トケ
く。
公共セクターの担い手は行
の働きとも異なる。
イヤーの校長日記なぜ誰もが英才児になるのか』
政であり,「公益」が誘引となる。
本郷印刷144-146「ボランティア活動は,人間社
21世紀はボランティアの時代であり,「ほっ
会という構造物がバラバラにならないようにつな
ボランティア活動は,
ぎとめている接着剤である。
とけない」と思う人々が自主的に「よき社会」
愛-あるいは善意から発する無償の行為である。
近代の超克 195
家族という社会のもっとも小さいが,基本的な単
ならない。
位をとってみよう。
家庭はメンバーの愛と善意に
(5)文中の出所を明記しない数値は,すべて官庁お
もとづく日常の無償の行為であるボランティアイ
ズムによって,一つに結ばれている。本来,社会
よび日銀の統計による。
といえば家族の延長線のうえにあるべきものなの
参考文献
だ。
『聖書』日本語(口語訳)1955日本聖書協会
アメリカでもヨーロッパでも日本でも,世界の
村でも町でも,都会の隣近所と
どこだってよい。
『旧訳新訳聖書語句大辞典』1959教文館
いう,小さな共同体をとってみれば,人類の長い
版部
歴史を通じて,そこに住む人々が,互いに無償で
もっとも,ついこの間ま
助け合ったものだった。
筒井信隆1986『バイオマス文明構想』日本評論者
では,このような行為は人情と呼ばれていて,ご
難波田春夫1982『危機の哲学』早稲田大学出版部
く当たり前で,自然なものであって,ボランティ
1983『社会哲学序説』早稲田大学出版部
ア活動といったような言葉が用いられることがな
マ-ヴイン・トケイヤー1996『21世紀塑教育のす
かった。
今でも,先進国の田舎や第三世界に行けば,ま
すめラビ・トケイヤーの校長日記なぜ誰もが
だこういった共同体は珍しくない。しかし,先進
松田敬治2007「エネルギーの地産地消一菜種油・
国ではいわゆる"近代化"が進んだ結果として,
ひまわり油の有効活用に向けた取組み-」
人々は隣近所の人々に対する人情を急速に失うよ
この二十年,三十年ほど,「コ
うになっている。
ミュニティ(共同体)」という言葉が頻繁に使われ
るようになっているが,ついこの間まではみられ
有機的だった社会が無機的
なかった現象である。
な社会に,体温がかよっていた社会がいっそう機
コミュニティが壊されてし
械的になりつつある。
まったから,かえって「コミュニティ」という言
葉が乱用されるようになったのだろう。
ユダヤ人は先人たちから受け継いできた伝統を
尊ぶから,社会の主流を構成している他の大多数
の民族のように,"近代化"とか"進歩"といった
言葉を無警戒に無邪気に受け入れることをしない。
"近代化"とか"進歩"といった言葉のなかには,
私たちは古くか
おぞましい危険がひそんでいる。
ら伝えられてきた価値あるものを,大切に守って
だから,エジプト,バビロニア帝国や古代
きた。
ギリシャのアテネやローマ帝国をはじめとする!
かつて栄華をきわめた国々が亡びたのに,今日で
もユダヤ民族ははかりしれない活力に満ちてい
無償の愛が,家族も社会も成り立たせている。
る。
チャリティは人を人たらしめているものだ,と私
たちは古代から信じてきたのだ。」
日本がアメリカの近代化路線を盲従することは
現在の行き詰まりは,「近代の
極めて危険である。
終幕」を意味しており,この時代認識を欠いては
田村正勝2007『社会科学原論講義』早稲田大学出
東僚隆進2004『よい社会とは何か』成文堂
英才児になるのか』本郷印刷