泥炭性軟弱地盤における低改良率地盤改良と砕石 - 寒地土木研究所

泥炭性軟弱地盤における低改良率地盤改良と砕石マット併用工法の改良効果
聖 1・山梨
○橋本
1
1.
高裕 1・林
宏親 1・山木
正彦 1
独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所
はじめに
北海道には約 2,000km2 に及ぶ泥炭地が分布しているといわれている 1)。これは、東京都とほぼ同じ面積であり、北海
道総面積の約 2.4%、平野部面積の約 6%に相当する。泥炭層の厚さは 3~5m であるが、この層の下には地域によって異
なるが軟弱な粘性土層で構成されるケースが多く、その厚さは 20m 以上に達することがある。泥炭は含水比、強熱減量、
間隙比、圧縮指数などが粘土と比較して極めて大きく、せん断強さは著しく小さいことが知られており 1) 、このような
地盤上に短期間で道路盛土を構築する場合には、セメント等を主体とした固結工法が採用されてきた経緯がある。
セメント等による固結工法は非常に短期間で改良効果を得られることが知られているが、有機物を多く含有している
泥炭に対しては、一般的に用いられている高炉セメントや普通ポルトランドセメントでは固化しにくい場合があり
2)
、
高有機質土専用のセメント系固化材が使用されるケースも少なくない。しかし、これらは一般的なセメントの価格と比
較して高価であることから、高規格道路などの大規模な地盤改良を実施する際には、他工法と比較して建設費用が割高
となることが避けられない。軟弱地盤対策における「工事期間」と「建設費用」の関係はトレードオフにあるといわれ
るが、泥炭地盤で固結工法を採用する際に如何に建設費用を抑制するかが課題である。
本報告は、泥炭性軟弱地盤上に早期に盛土が構築できる経済的な『低改良率(ap=10%)地盤改良+砕石マット併用工
法』による試験施工を実施し、盛土の安定性および周辺地盤への変形などの改良効果について確認したので報告する。
2.
軟弱地盤における低改良率地盤改良の課題および実例
固結工法による杭式改良では、改良体と未改良地盤の強度を
面積平均として均一な地盤とみなす、いわゆる複合地盤として
設計するのが一般的である。能登 3) は改良率(全面積に対する
改良体の面積比率)を低くしすぎた場合には、図-1 に示すよう
に、未改良地盤の圧縮沈下や不均一の盛土荷重などによって生
じる水平力によって改良体にせん断変形や曲げ破壊が生じたり、
改良体間の未改良地盤が側方流動する危険性を伴うことが想定
される、としている。
図-1
低改良率地盤改良で想定される問題 3)一部加筆
低改良率による地盤改良は、北海道以外では新潟西バイパス
(改良率 ap=14.8%)4)、有明海沿岸道路(改良率 ap=21.7%)5)、タイ王国の軟弱地盤対策(改良率 ap=12.6%)6 )などが報
告されている。また、土木研究所では盛土の下を低改良率で全面的に改良することにより、改良体直上に盛土荷重を集
中させて、未改良地盤に作用する荷重を軽減させることが可能な ALiCC 工法
7)
を開発している。これらはいずれも粘
性土地盤を対象とした事例である。
一方、泥炭地盤の場合の改良率は、盛土の沈下および安定に対して複合地盤とみなして設計しても差し支えない、と
経験的に判断された改良率 ap=50%以上
1)
が標準的である。しかし、泥炭地盤のような特殊土に対してもより経済的な
対策方法が求められたことや、泥炭に対して改良率を低減することを目的した遠心力載荷模型実験の結果、盛土厚が 5m
以下であれば改良率 ap=30%まで低減可能であるとの知見
8)
が得られたことから、泥炭性軟弱地盤上の盛土工事におい
て複数の改良率(ap =50%,40%,30%)による試験施工が実施された 9),10) ,11)。なお、改良率 ap =40%,30%のケースは
補強材(ジオテキスタイル)を併用したケースである。その結果、改良率 ap =30%でも改良体と未改良部の沈下差は 3cm
以内であり、盛土表面にも不陸が発生しないことが確認された。この結果から、本施工では補強材(ジオテキスタイル)
と改良率 ap =30%地盤改良の併用工法が採用され、長期的な挙動等についても問題無いことが報告されている 12)。
ただし、泥炭地盤は冒頭に述べたとおり、粘土地盤に比べて極めて軟弱で非常に圧縮性が高い特殊性を有するが故に、
複合地盤と見なし得る限界については不明確な点が多く残されていることから、設計時に改良率を低減させるためには
試験施工を実施してその改良効果を確認する必要がある。実態としては標準的な値である改良率 ap =50%以上を採用す
るケースが圧倒的に多いのが実情であり、固結工法の建設コスト縮減には改善の余地が残されていると考えられる。
Improvement effect by the low improvement ratio combined with the Gravel Mat method on peaty soft ground.
Hijiri Hashimoto1, Takahiro Yamanashi1, Hirochika Hayashi1 and Masahiko Yamaki1
(1Civil Engineering Research Institute for Cold Region, PWRI)
3.
試験施工の概要
3.1
低改良率固結工法+砕石マット併用工法とは
『低改良率固結工法+砕石マッ併用工法』とは、従来より低
い改良率(ap=10%など)の改良体を盛土直下全面に配置し、そ
の上に、砕石層(砕石層厚 t=0.5m)をジオテキスタイルで覆い
囲んだ「砕石マット」と称した対策を併用した軟弱地盤対策工
法である(図-2)。以下、本工法の特長について述べる。
①
従来の設計と比較して改良体の本数を大幅に低減するこ
とが可能になるため、施工性の向上および建設コストの
図-2
縮減に大きく寄与する。
②
低改良率固結工法+砕石マット併用工法断面
「砕石マット」は一定の剛性が期待できる材料として機
施工箇所
能し、改良体間の不同沈下を低減することが期待できる。
③
3.2
「砕石マット」はサンドマットの代替機能を有する。
施工箇所と地盤特性
試験施工は、北海道開発局が北海道稚内市郊外で建設を進めている一般国
道 40 号の更喜苫内防雪事業区間内で実施した。現場は北海道でも広範囲に泥
炭が分布するサロベツ泥炭地の北部に位置する(図-3)。
試験施工箇所における地盤の深度方向の力学、物理特性を図-4 に示す。地
層は地表面近くに泥炭(Ap)、下位に粘性土(Ac1)、粘性土(Ac2)が堆積
図-3
し、その下に砂質土層(As)と砂礫層(Ag)を挟んで基盤とする砂岩(Yt)
試験施工箇所
が続く構成である。ボーリング調査から得られた地下水位は
GL.-0.6m であり、自然含水比は泥炭(Ap)では wn=300%、粘性
土(Ac1、Ac2)の自然含水比はそれぞれ wn=140~380%、wn=225
~280%であった。原位置試験の結果、地表面から GL.-13.5m まで
N=0、泥炭(Ap)と粘性土(Ac1,2)の非排水せん断強度 c をオラ
地下
水位
土層名
土層
記号
GL(m)
深度
Ap
単位
体積
重量
粘着力
γt
C
N値
N
qc
Wn
(m)
(m)
(回)
(kN/m2)
(%)
1.00
1.00
0
180
300
11.0
9.0
12.0
~
13.0
10.0
Z
泥炭
コーン
貫入 含水比
抵抗値
層厚
(kN/m3) (kN/m2)
-0.60m
ンダ式コーン貫入試験の貫入抵抗 qc から泥炭性軟弱地盤対策工マ
ニュアル(以下、泥炭マニュアル)に記載している(1)式で算出し
Ac1
4.10
3.10
0
-
140
~
380
(腐植土質)
Ac2
13.50
9.40
0
-
225
~
280
11.5
~
13.0
7.0
~
11.0
粘性土
(腐植土質)
たところ、c = 7~11kN/m2 と非常に低い値であった。
c = 1/20 qc
(1)
ここに、qc:オランダ式コーン貫入試験の貫入抵抗(kN/m2)
粘性土
3.3
設計条件
砂質土
As
14.60
1.10
4
-
-
-
-
設計は、①改良体の設計基準強度、②すべり破壊に対する盛土
砂礫
Ag
15.80
1.20
25
-
-
-
-
の安全性の検討を行った。改良体は既設盛土に新規に腹付けする
砂岩
Yt
-
-
50>
-
-
-
-
盛土(以下、拡幅盛土)の直下全面に改良体の中心間隔が 2.8m(改
図-4
試験施工箇所の土層構成図
良率 ap=10%)の杭式改良(改良径φ=1m)とした(図-5)。改良
体上に厚さ t=0.5m の砕石層をジオテキスタイル(製品名:パラリンク、設計強度 TA=133kN/m)で覆い囲んで砕石マッ
トを構築した。改良体の設計基準強度(quck)は、設計盛土高(Hp=3.3m)の全盛土荷重が改良体直上に集中すると仮定
13)
して、(2)式により quck=560kN/m2 とした。
Fs ≦ quck/(W/ ap)
(2)
ここに、Fs:設計安全率(≧1.2)
quck:改良体の設計基準強度(kN/m2)
W:全盛土荷重(kN/m2)
ただし、砕石マットも含む。
ap:改良率(%)
盛土のすべり破壊に対する検討は泥炭マニュアル に準拠して、盛土立ち上がり時のすべり安全率 Fs>1.2 を満足する
ものとした。砕石マットは円弧すべりに対して十分に抵抗できると考えられたが、せん断抵抗力を定量的に評価できな
いために、今回の設計では砕石マットのせん断抵抗を考慮しなかった。
3.4
施工条件および計測機器配置
試験施工箇所の断面図、平面図を図-5 に示す。
施工順序は、①固結工法、②砕石マット、③
盛土の順に実施した。固結工法は中層混合処理
工法の一つである MITS 工法にて軟弱層厚に応
じて必要な改良長 z=5.0, 11.5, 12.3m の改良体を
構築した。MITS 工法は小型ベースマシンによ
りセメントスラリーを原位置にて、中圧噴射と
機械撹拌を併用して円柱状の改良体を構築する
工法である。改良体は砂質土層(As)と砂礫層
(Ag)が被圧しているために、これらの層まで
改良体を構築することが困難と判断し、改良体
を支持地盤まで構築しない「浮き型式地盤改良」
とした。なお、28 日材齢における現場強度は
quf28=700 ~ 3,600kN/m2 と 設 計 基 準 強 度
quck=560kN/m2 を満足することを確認した。
改良体を構築後、改良体上の泥炭を 0.5m 掘
削し、引張力が期待できるジオテキスタイルを
敷設した。敷設したジオテキスタイル上に切込
み砕石(0-80mm 級)を仕上り厚 t=0.5m となる
よう Dc=90%で締固めし、その後、ジオテキス
図-5
タイルで切込み砕石を覆い囲んでマットレス状
にした。盛土は礫混り細粒分質砂(SF-G)を用いた
(図-6)。
施工は 1 次盛土として、拡幅盛土全幅(W=18m)
を 2 層(t=0.8m)施工した(詳細は後述)。その後、2
試験施工の断面図および平面図
表-1
計測項目と目的
計測項目
目 的
孔内傾斜計
改良体や未改良地盤の地盤内変形量を把握する
沈下板
改良体や未改良地盤に生じる沈下量を把握する
ひずみゲージ
ジオテキスタイルの応力状態を把握する
次盛土は盛土幅 W=10m を施工速度 v=30~60cm/day、
3 次盛土は盛土幅 W=8m を同じく v=15~20cm/day と分割して計画盛土高(Hp=3.3m)まで構築した(図-7)。
表-1 に計測した 3 つの項目および目的を示す。孔内傾斜計は改良体 1 箇所(図-5 B1)と改良体の外側の未改良地盤
(図-5 B2)、改良体間の未改良地盤(図-5 B3)の計 3 箇所で実施した。沈下板は改良体直上に 3 箇所(図-5 S1、S3、
S5)、未改良地盤 2 箇所(図-5 S2、S4)に設置した。ひずみゲージは砕石マットの上部と下部のジオテキスタイルに、
それぞれ改良体直上と未改良地盤に設置した(図-5 SHU1~5、SHD1~5)。
地盤改良(MITS 工法)
砕石マット施工
図-6
砕石マット完了
地盤改良(MITS 工法)および砕石マット施工状況
2次盛土
3次盛土
図-7
拡幅 2 次盛土および 3 次盛土施工状況
3次盛土完了
施工結果および考察
4.1
5
沈下量
4
1 次盛土で拡幅盛土全幅(W=18m)を 2 層(t=0.8m)施
工したところ、改良体直上(S1~S3)の沈下量は Sp=5~7cm、
未改良地盤上(S2、S4)の沈下量は Sc=10~12cm であった
盛土厚 (m)
4.
た。厚さ t=0.8m の盛土にも拘わらず沈下が急速に進んだ理
由として、①:盛土荷重が改良体を介して改良体下に存在
する非常に軟弱な粘性土(Ac2)に伝達した、②:
「砕石マ
沈下量 (cm)
イルのひずみに変化が無いことから一時的に盛土を中止し
2
1 1次盛土開始
2次盛土
開始
1次盛土
2次盛土
3次盛土
3次盛土
開始
0
(図-8)。後述するが、盛土厚 t=0.8m にも拘わらず、地盤
内地中変位量がδh=30mm 超に達したことやジオテキスタ
盛土完了
3
S1
S2
S3
S4
S5
5
10
15
20
25
0 100 200 300
ット」は一定の剛性を見込める材料と期待したが、急激な
荷重増加にその機能が発揮されず応力が未改良地盤に作用
1100
1200
1300
1400
盛土開始からの経過日数 (日)
図-8
沈下板の計測結果
した、の 2 つが要因であると推測された。ただし、2 次盛土開始(1,100 日)
までは沈下が生じなかったが、これは、静的な載荷重(t=0.8m の盛土荷重)
に対しては砕石マットがある程度の剛な構造物して機能していることを示
唆している。
2 次盛土は図-9 に示すジオテキスタイルを重ね合わせた箇所を先行して
盛土して、その後に 3 次盛土で残りの断面を施工する計画とした。2 次盛
重ね合わせ長
L=2m
土は施工速度 v=30~60cm/day で構築したが、2 次盛土完了時の沈下量は
S1、S2=2cm と非常に小さく、S3~S5 は沈下量が計測されなかった。
3 次盛土では盛土高が高くなるに従って改良体直上、未改良地盤のいず
れも沈下量が増加する傾向であり、2 次盛土完了時の沈下量は S1、S3、S5
図-9
ジオテキスタイルの重ね合わせ部
が 3~5cm、S2、S4 が 10、14cm であった。その後約 3 ヶ月間に渡り S1
~S5 のいずれも沈下量は漸増したが最大 3cm で、S1 と S2 以外は既に収
束していた。
1 次盛土を開始してから収束するまでの改良体直上の総沈下量は
Sc=11~15cm、同じく、未改良地盤の総沈下量が Sp =23cm であり、相対
的な沈下量の差は SG=10cm 前後であった。
このような結果を踏まえ、改良体と未改良地盤は複合地盤として機能
していると仮定した上で、改良体下部の未改良層の沈下量がジオテキス
タイルを用いた補強土の設計・施工マニュアル 14)(以下、ジオテキスタ
イルマニュアル)で評価することが可能か検討した。ジオテキスタイル
マニュアルでは、浮き型式で、改良層の下に圧密沈下が起きると予測さ
れる未改良層が存在する場合には、未改良層の部分に対する沈下量(Sh2)
を検討して、改良地盤の沈下量(Sh1)を加えて全沈下量(Sh)を求める
ことになっている。改良地盤の沈下量(Sh1)は(3)式、未改良層の沈下量
図-10
沈下検討断面
(Sh2)は(4)式で求める。なお、沈下検討にあたり改良長や粘性土(Ac2)
層厚は盛土法尻部の改良体に対するチェックボーリングの結果を用いて実施した(図-10)。
Sh1 
a p E col
q1 H 1
 (1  a p ) E soil
(3)
ここに、Sh1 :改良対象層の沈下量(m)、q1 :盛土による増加応力(kN/m2)、H1 :改良層の厚さ(m)
ap :改良率 10% 、Ecol:改良体の変形係数(kN/m2)、Esoil:無処理地盤の変形係数(kN/m2)
Sh2 
σ  q2
Cc
log 10 v 0
H2
σv 0
1  e0
(4)
ここに、Sh2 :改良対象以深の沈下量(m)、Cc :未改良層の圧縮指数
q2 :未改良層中央の深さにおける q1 の分散荷重(kN/m2)、e0 :未改良層の土の初期間隙比
σv0:未改良層中央の深さにおける改良前の有効土被り圧(kN/m2)、H2 :改良層の厚さ(m)
改良地盤の沈下量(Sh1)の算出に必要な改良体の変形係数 Ecol は、孔内傾斜計を設置する際にトリプルチューブコア
サンプラーで採取した 12 供試体に対して一軸圧縮試験で得られた代表値 qu を用いて (5)式より求めることで得た。
なお、一軸圧縮強さの代表値は泥炭マニュアルに記載している(6)式より得た。
未改良層の沈下量(Sh2)は、施工箇所直近から各軟弱層の不撹乱試料を採取して土の段階載荷による圧密試験で得た
ものをパラメータとして算出した。
Ecol= 100・qu
(5)
ここに、Ecol :改良体の変形係数(kN/m2)、qu:代表値(kN/m2)
qu = quf28_ave-1/2σ
(6)
2
ここに、qu:代表値(kN/m )、quf28_ave:得られた一軸圧縮強さ(28 日材齢)の平均値(kN/m2)、σ:標準偏差
(3)、(4)式による計算の結果、全沈下量(Sh)=改良地盤の沈下量(Sh1=2cm)+ 未改良層の沈下量(Sh2 = 23cm)=25cm
であった。一方、実測の全沈下量は、複合地盤と仮定して、改良体直上(S1、S3、S5)の沈下量(Sc)と未改良地盤(S2、
S4)の沈下量(Sp)の総量を相加平均した値(Save=17cm)とした。双方を比較すると、計算値の全沈下量は実測値のそ
れより若干、大きな値になったが、改良体下の粘性土層厚(Ac2)が一様ではないことが理由であり、誤差の範囲内と
考えられる。
これらから「低改良率固結工法+砕石マット併用工法」はジオテキスタイルマニュアルに示される沈下検討の適用が
可能であることを示した。ただし、複合地盤としての機能に関しては今後の検討課題である。
地中変位
終了時(盛土 t=0.8m を施工後)
の地盤内水平変位をみると、B1
~B3 のいずれも深度 5m 附近に
80
0
100
20
40
60
80
地盤内水平変位量(㎜)
100
0
0
2
2
2
4
6
8
10
12
h=30mm
14
でも述べたが、この時点で一時
60
0
おいて最大水平変位量(δ
超)が確認された。4.1
40
B1
a)
次および 3 次盛土完了時と盛土
を構築するに従って地盤内水平
6
8
10
12
14
B2
b)
16
16
的に盛土を中止した。その後、2
4
深 度 (m)
位の計測結果である。1 次盛土
20
深 度 (m)
図-11 a)~c)は地盤内水平変
地盤内水平変位量(㎜)
地盤内水平変位量(㎜)
0
深 度 (m)
4.2
0
20
60
80
100
4
6
8
10
B3
12
14
c)
16
1次盛土施工前(0日)
1次盛土終了後(8日)
2次盛土終了後(1102日)
3次盛土2層目後(1112日)
3次盛土4層目後(1117日)
3次盛土終了後(1130日)
盛土完了1ヶ月後(1164日)
盛土完了3ヶ月後(1224日)
1次盛土施工前(0日)
1次盛土終了後(8日)
2次盛土終了後(1102日)
3次盛土2層目後(1112日)
3次盛土4層目後(1117日)
3次盛土終了後(1130日)
盛土完了1ヶ月後(1164日)
盛土完了3ヶ月後(1224日)
40
1次盛土施工前(0日)
1次盛土終了後(8日)
2次盛土終了後(1102日)
3次盛土2層目後(1112日)
3次盛土4層目後(1117日)
3次盛土終了後(1130日)
盛土完了1ヶ月後(1164日)
盛土完了3ヶ月後(1224日)
変位量は大きくなる傾向にあっ
た。しかし、3 次盛土完了後か
図-11
地盤内水平変位の計測結果
ら 1 ヶ月後、3 ヶ月後の経時変化をみると、B2(改良地盤背面部)では深度 0~5m において最大δh=10mm の水平変位
の増加が確認されたものの B1、B3 では B2 ほどの変位は確認できなかったことから、地盤内水平変位は収束する傾向に
あると判断できる。ここで、あらためて図-11 a)~c)をみると、いずれも 1 次盛土、2 次盛土を構築する段階で深度 5m
附近をピークとした曲げ変形モードで、3 次盛土を構築する際には倒れ込むような挙動であった。これらの変形モード
および変形量は概ね同じであること、未改良地盤に大きな側方変形などが確認されていないことから、改良体と未改良
地盤は一体として挙動したと考えられる。
4.3
補強材ひずみ
「砕石マット」は一定の剛性が期待できる材料として機能し、改良体間の不同沈下を低減することを期待している。
これは、砕石のみでは砕石マットとしての役割を果たすことはできないが、ジオテキスタイルを用いて砕石を覆い囲む
ことによってある程度剛性を有した構造体としての機能を期待するものである。しかし、コンクリート床版に比べると
剛性ははるかに小さいために、砕石マットは盛土の載荷によって変形する、すなわち、ジオテキスタイルにひずみが生
じるもの思われるが、ジオテキスタイルは盛土、改良体、未改良地盤(泥炭)の剛性の異なる材料と接するために、ど
の程度、ひずみが生じるかは定かでない。仮に、設計強度以上のひずみが発生すれば、砕石マットとしての機能を果た
せない可能性があることから、ジオテキスタイルに生じるひずみの経時変化を把握する必要がある。
図-12 a)、b)は砕石マットのジオテキスタイルに設置したひずみの経時変化である。図-12 a)は砕石マットの上側、
図-12 b)は砕石マット下側のジオテキスタイルのひずみである。ひずみε(%)は+が引張りを示す。図をみると、1 次盛
5
開始まで(1,100 日後)の期間および 2 次盛土ではひずみに
4
大きな変化は見られなかった。この理由として、4.1 でも述
べたが、静的な載荷重(t=0.8m の盛土荷重)に対しては砕
石マットがある程度の剛な構造体として機能しているが、
盛土厚 (m)
土で最大ε=0.2%程度のひずみが発生しているが、2 次盛土
1 1次盛土開始
0.4
0.2
0.0
-0.2
1.4
でひずみが増加した。SHD2、SHD4 でひずみが増加した理
1.2
束傾向にあること、使用したジオテキスタイルの設計強度
に相当するひずみはε=7.6%であることを踏まえると、ジ
オテキスタイルの強度に対する健全性は十分満足しており、
1.0
ひずみ ()
ただし、観測されたひずみは最大ε=1.2%でいずれも収
砕石マット上面
:道路横断方向
SHU1
SHU2
SHU3
SHU4
SHU5
a)砕石マット上面
0.6
砕石マット上部の SHU3、砕石マット下部の SHD2、SHD4
用したことでクリープが生じたと考えられる。
3次盛土
開始
0.8
働いた状態であったことを示している。3 次盛土構築後も
由として、上載荷重が軟弱な改良体間の未改良地盤上に作
2次盛土
開始
1.0
ひずみ ()
のすべてで増加している。これは、マット全体に引張力が
2
1.2
どの応力が作用しなかったことが推測される。
加する傾向にあり、特に砕石マット上面では SHU1~SHU5
3
0
1.4
経次的にジオテキスタイルには張力(ひずみ)が生じるほ
一方、3 次盛土では盛土が高くなるに従ってひずみは増
1次盛土
2次盛土
3次盛土
盛土完了
砕石マット下面
:道路横断方向
SHD1
SHD2
SHD3
SHD4
SHD5
b)砕石マット下面
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
-0.2
0 100 200 300
1100
1200
1300
1400
盛土開始からの経過日数 (日)
長期的に砕石マットの機能が維持されると思われる。
図-12
ジオテキスタイルひずみの計測結果
5.まとめ
『低改良率(ap=10%)地盤改良+砕石マット併用工法』による試験施工を実施し、盛土の安定性および周辺地盤への
変形などの改良効果について、下記の知見を得た。
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改良体と未改良地盤が複合地盤として挙動すると仮定して、改良体下部に存在する軟弱層の沈下量をジオテキス
タイルマニュアルに従って整理した結果、
『低改良率地盤改良+砕石マット併用工法』はジオテキスタイルマニュ
アルによる沈下検討が可能であると考えられる。
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盛土の構築に伴う、改良体、改良体背面地盤および未改良地盤は、いずれも曲げ変形モードから倒れ込むような
挙動で概ね同じ変形量であった。また、未改良地盤に顕著な側方流動は確認されなかったことから、改良体と未
改良地盤は一体とした挙動を示すことがわかった。
・
砕石マットで使用されたジオテキスタイルのひずみは、3 次盛土構築後も未改良地盤上で増加する傾向であった。
その増加はクリープによるものと考えられ、時間の経過に伴い収束する傾向にあった。計測された最大ひずみは
設計強度のひずみより大幅に小さいことから、砕石マットの機能は維持されていると考えられる。
今後は、今回実施した試験施工の地盤構成や施工条件などを忠実に再現した解析モデルにより、改良体と未改良地盤
の不同沈下量を許容値内に低減できる盛土高、改良率、砕石マット厚等の関係を弾塑性 2 次元解析で検討し、本工法の
設計手法確立に努めたいと考えている。
【参考資料】
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pp.77-78、1994. 4) 旭勝臣ら:一般国道 116 号新潟西バイパスの軟弱地盤対策について~高コラム強度、低改良率の DJM 工法~、第 43
回建設省技術研究会論文集、pp.85-92、1989. 5) 井上靖武ら:有明海沿岸地域の地盤と地質~有明海沿岸道路の試験盛土工~、基礎工
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ついて、北海道開発土木研究所月報 No.595、pp.10-16、2002. 9) 山田祐幸ら:コスト縮減を目的とした低改良率による深層混合処理工
法の試験施工について、第 47 回北海道開発局技術研究発表会、2003. 10) 梶取真一ら:泥炭性軟弱地盤における浮き型・低改良率深層
混合処理の改良効果(その 2)-道路供用後、1 年 3 ヶ月間の追跡調査-、寒地土木研究所月報 No.679、pp.30-36、2009. 11) (財)土木
研究センター:陸上工事における深層混合処理工法マニュアル改訂版、pp.80-81、2004. 12) MIT(CMS 中圧噴射システム)工法技術資
料、MIT 工法協会 pp.1-3 13) (財)土木研究センター:ジオテキスタイルを用いた補強土の設計・施工マニュアル改訂版、pp.248-249、2000.