経済分析レポート 2017 年 3 月 1 日 全5頁 Indicators Update 10-12 月期法人企業統計と二次 QE 予測 経常利益は過去最高を更新/二次 QE は上方修正を予想 エコノミック・インテリジェンス・チーム シニアエコノミスト 長内 智 エコノミスト 岡本 佳佑 エコノミスト 小林 俊介 [要約] 2016 年 10-12 月期の全産業(金融業、保険業除く)の売上高は前年比+2.0%、経常利 益は同+16.9%と増収増益となった。経常利益に関しては、原数値と季節調整値のいず れも過去最高を更新した点が注目される。これはドル円レートが円安方向に転じたほか、 輸出と国内生産の持ち直しを受けて製造業の経常利益が増加したことが主因である。 2016 年 10-12 月期の全産業(金融業、保険業除く)の設備投資(ソフトウェア除く) は前年比+3.3%と、2 四半期ぶりに増加した。季節調整値で見ても、前期比+3.5%と 3 四半期ぶりにプラスとなった。季節調整値の動きを業種別に見ると、製造業は同+ 7.4%、非製造業は同+1.3%であった。設備投資については、製造業と非製造業のいず れも持ち直しの兆しが出ていると評価できる。 今回の法人企業統計の結果を受けて、10-12 月期 GDP 二次速報(3 月 8 日公表予定)で は、実質 GDP 成長率が前期比年率+1.7%(一次速報:同+1.0%)と、一次速報から上 方修正されると予想する。公共投資が下方修正となる一方、設備投資と在庫投資は上方 修正されるとみられる。 株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2/5 企業収益動向:経常利益は過去最高を更新 2016 年 10-12 月期の全産業(金融業、保険業除く)の売上高は前年比+2.0%、経常利益は同 +16.9%と増収増益となった。経常利益に関しては、原数値と季節調整値のいずれも過去最高 を更新した点が注目される。これはドル円レートが円安方向に転じたほか、輸出と国内生産の 持ち直しを受けて製造業の経常利益が増加したことが主因である。 収益の動きを業種別に見ると、製造業では、売上高が前年比▲0.1%と 6 四半期連続の減収、 経常利益は同+25.4%と 6 四半期ぶりの増益となった。為替相場が円安方向に転じたことに加 え、輸出と生産が持ち直していることも経常利益に対してプラスに作用した格好だ。 製造業の業種別の経常利益の動向を捉えると、幅広い業種で増益となった。素材業種では、 「鉄鋼」(前年比+35.5%)、「化学」(同+29.9%)、「金属製品」(同+27.9%)が 2 割を 超える増益となった。「鉄鋼」に関しては、鋼材価格の上昇や輸出採算の改善などを背景に、6 四半期ぶりに増加した。加工業種では、円安進行の効果や昨年の大幅減益の反動などから、「情 報通信機械」(同+123.2%)、「生産用機械」(同+22.8%)、「業務用機械」(同+18.1%)、 「電気機械」(同+16.9)などが増益となった。「輸送用機械」(同+0.2%)は冴えない結果 となったものの、基調を確認すると底打ちの兆しが出ており、さほど懸念する必要はないと考 える。他方、「はん用機械」(同▲30.0%)は 4 四半期連続のマイナスと、弱い動きが続いて いる。 非製造業については、売上高が前年比+2.8%と 5 四半期ぶりに増加し、経常利益は同+12.5% と 2 四半期連続の増益となった。業種別に見ると、「宿泊業」(同+72.3%)、「卸売業」(同 +41.0%)、「建設業」(同+9.7%)などが大幅な増益となった。 図表 1:経常利益の動向(全規模) 業種別経常利益(前年比) 経常利益の要因分解(前年比) 60 (前年比、%、%pt) 30 25 40 20 20 (前年比、%、%pt) 非製造業 製造業 15 10 0 5 -20 その他要因 変動費要因 人件費要因 売上高要因 -40 -60 -80 経常利益 (全産業、除く金融・保険) 0 -5 -10 -15 経常利益 (全産業、除く金融・保険) -20 (四半期) ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ(四半期) ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ (年) (年) 11 12 13 14 15 16 11 12 13 14 15 16 (出所)財務省統計より大和総研作成 3/5 企業収益の動向を季節調整値で見ると、経常利益は前期比+5.2%と 3 四半期連続の増益とな った。業種別に見ると、製造業が同+17.0%、非製造業が同+0.1%と、ともに 3 四半期連続の 増益を記録するなど、経常利益は増加基調が続いている。 先行きについて、輸出関連製造業では、11 月中旬以降の大幅な円安進行が引き続き 2017 年 1-3 月期以降の企業収益に対して追い風になるとみている。他方、輸入関連業種は、円安進行な どに伴う輸入品やエネルギー価格の上昇が企業収益の重石となる。家計の節約志向などを背景 に、足下で価格競争に厳しさの見られる小売業においては、コスト上昇分を販売価格に転嫁で きるか否かが今後の焦点だと考えている。また、コスト上昇分を一定のラグを伴って販売価格 へと機械的に転嫁させる仕組みが存在する電力、ガス、素材関連など一部業種では、価格転嫁 までのラグの期間中は、収益が一旦下押しされる点に留意したい。 図表 2:売上高、経常利益(季節調整値)の推移 売上高・経常利益の水準(季節調整値) (兆円) (兆円) 450 24 業種別経常利益(季節調整値)の推移 (兆円) 20 全産業 (除く金融・保険) 売上高 400 20 350 300 15 16 10 250 12 200 非製造業 5 150 8 製造業 100 経常利益 (右軸) 50 0 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 4 0 (年) 0 -5 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ(四半期) 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (出所)財務省統計より大和総研作成 設備投資動向:製造業と非製造業のいずれも持ち直し 2016 年 10-12 月期の全産業(金融業、保険業除く)の設備投資(ソフトウェア除く)は前年 比+3.3%と、2 四半期ぶりに増加した。季節調整値で見ても、前期比+3.5%と 3 四半期ぶりに プラスとなった。季節調整値の動きを業種別に見ると、製造業は同+7.4%、非製造業は同+ 1.3%であった。設備投資については、製造業と非製造業のいずれも持ち直しの兆しが出ている と評価できる。 設備投資(ソフトウェア除く)の動きを業種別に見ると、製造業は前年比+7.8%と 2 四半期 ぶりに増加した。内訳を見ると、 「はん用機械」 (同▲49.1%)、 「情報通信機械」 (同▲18.0%)、 「生産用機械」(同▲13.6%)といった業種で設備投資が手控えられた一方、「化学工業」(同 +38.7%)、「輸送用機械」(同+16.6%)、「食料品」(同+33.3%)が堅調な推移となり、 全体を押し上げた。 4/5 非製造業は前年比+0.8%と 3 四半期ぶりに前年を上回った。内訳を見ると、「サービス業」 (同▲15.0%)、「運輸業、郵便業」(同▲6.3%)といった業種で設備投資が減少した一方、 「建設業」(同+21.2%)、「不動産業」(同+15.5%)、「情報通信業」(同+8.3%)など で設備投資が増加した。 先行きの設備投資は緩やかな増加を予想する。良好な企業収益と労働市場の引き締まりを背 景に、特に非製造業において、引き続き人手不足に対応した合理化・省人化投資が期待できる。 加えて、輸出と生産の持ち直しを受けて、製造業の設備稼働率が上昇傾向にあることもプラス 方向に作用すると考えている。 図表 3:設備投資(除くソフトウェア、季節調整値)の動向 業種別の動向 設備投資とキャッシュフロー (兆円) 20 キャッシュフロー 18 設備投資 (前期比、%) 20 製造業 15 16 10 14 5 12 0 10 -5 8 -10 6 減価償却費 2 -15 -20 4 非製造業 全産業(除く金融・保険) -25 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 (年) Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ(四半期) 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (注1)減価償却費の季節調整は大和総研。 (注2)キャッシュフロー=経常利益/2+減価償却費。 (出所)財務省統計より大和総研作成 (年) 5/5 二次 QE 予測:10-12 月期 GDP 二次速報は一次速報から上方修正を予想 今回の法人企業統計の結果を受けて、10-12 月期 GDP 二次速報(3 月 8 日公表予定)では、実 質 GDP 成長率が前期比年率+1.7%(一次速報:同+1.0%)と、一次速報から上方修正される と予想する。基礎統計の直近値の反映により公共投資が下方修正となる一方、需要側統計の法 人企業統計の結果を受けて設備投資と在庫投資が上方修正されるとみられる。在庫投資に関し ては、一次速報の段階で仮置き値となっている原材料在庫が主な押し上げ要因になるとみてい る。 図表 4:2016 年 10-12 月期 GDP 二次速報予測 2016年10-12月期 二 次 QE 一次QE (予想) 実質国内総生産(GDP) 前期比% 前期比年率% 民間最終消費支出 前期比% 民間住宅 前期比% 民間企業設備 前期比% 民間在庫変動 前期比寄与度%pt 政府最終消費支出 前期比% 公的固定資本形成 前期比% 財貨・サービスの輸出 前期比% 財貨・サービスの輸入 前期比% 内需寄与度 前期比寄与度%pt 外需寄与度 前期比寄与度%pt 名目GDP ▲ ▲ ▲ ▲ 前期比% 前期比年率% GDPデフレーター 前年同期比% ▲ (出所)内閣府統計より大和総研作成(予想は大和総研) 0.2 1.0 0.0 0.2 0.9 0.1 0.4 1.8 2.6 1.3 0.0 0.2 0.3 1.2 0.1 ▲ ▲ ▲ ▲ 0.4 1.7 0.0 0.2 1.6 0.0 0.4 2.2 2.6 1.3 0.2 0.2 0.5 1.9 0.1
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