H 研究成果 Results of Research Activities 伊勢湾における付着生物幼生の出現と環境要因との関係解明 火力発電所における付着生物対策実施時期の最適化 Effect of Environmental Factors on the Appearance of Sessile Organism Larvae in Ise Bay Optimization of the timing of antifouling in thermal power plants (エネルギー応用研究所 バイオ技術G 水域生物T) (Aquatic Research Team, Bio Technology Group, Energy Applications Research and Development Center) 火力発電所における付着生物対策の実施時期最適化 を目的として、伊勢湾内の全火力発電所にて付着生物7 種の幼生出現時期を3年間調査した。その結果、出現時 期は発電所間で顕著な差はなく、知見は湾内で共用で きることが示された。また、出現時期には1 ∼ 2ヶ月の 年変動が見られたが、その要因は水温の変動であると 考えられた。 1 With the aim of optimizing the timing of antifouling in thermal power plants, the timing of the appearance of larvae of seven species of sessile organisms in all thermal power plants on Ise Bay was studied for three years. As a result, it became clear that there was no significant difference in the appearance timing and therefore the information can be shared among all plants on the bay. In addition, yearly fluctuations of one to two months were observed in the appearance timing, and these are believed to have been caused by fluctuations in the water temperature. (2)リアルタイムPCRによる同定・計数 研究の背景と目的 採集後、サンプルをエタノール固定し、種特異的なプ 火力発電所では付着生物対策としてボール洗浄等を ライマーを用いたリアルタイムPCR法により、月毎の 行っているが、付着生物幼生の出現時期に合わせて行 出現を調べた。対象はムラサキイガイ、ミドリイガイ、 えば費用削減が見込まれる。そのため2008年に知多火 アメリカフジツボ/ヨーロッパフジツボ(両種は識別 力を対象として付着生物幼生の出現を調査し、それら 不能のため合計値)、タテジマフジツボ、アカフジツボ、 の 出 現 時 期 を 明 ら か に し た( 技 術 開 発 ニ ュ ー ス ココポーマアカフジツボ、ベニクダウミヒドラの7種と No.147)。 した。 しかし、当時は知多火力単独かつ単年調査であったた このうち、ムラサキイガイ、ミドリイガイ、アメリカフ め、発電所や年による変動、またそれらと環境要因との ジツボ/ヨーロッパフジツボ、タテジマフジツボの4種 関係が不明のままであった。そこで、調査対象を伊勢湾 は6発電所全てで出現し、出現盛期はムラサキイガイで2 内の6火力発電所に拡げるとともに、3ヶ年に渡り調査を ∼ 5月(8.7 ∼ 18.5 ℃) 、ミ ド リ イ ガ イ で7 ∼ 10月 行い、伊勢湾内の発電所で広く利用しうる付着生物の出 、アメリカフジツボ/ヨーロッパフジ (20.8 ∼ 29.1℃) ツボで7 ∼ 11月(15.8 ∼ 29.2 ℃)、タテジマフジツボ 現カレンダーの作成を目指すこととした。 2 。一方、 で6 ∼ 10月(18.2 ∼ 29.2℃)であった(第2図) アカフジツボは知多火力でのみ、ベニクダウミヒドラは 研究の概要 四日市火力のみで確認され、ココポーマアカフジツボは (1)付着生物幼生の採集 いずれの発電所からも確認されなかった。 伊勢湾内の6ヶ所の火力発電所取水口(第1図)にて、 2013年6月∼ 2016年1月の間(2014年4 ∼ 5月は欠測)、 月1回の頻度にてプランクトンネット(目合100µm)に 4x104 ムラサキイガイ 5x103 ミドリイガイ 4x103 3x104 幼生密度(Inds/m3) より付着生物幼生を採取した。 西名古屋 新名古屋 川越 3x103 2x104 1x10 2x103 4 1x103 0 アメリカフジツボ/ ヨーロッパフジツボ 6x104 0 2x104 タテジマフジツボ 4x104 知多第二 1 四日市 2x104 知多 0 第1図 調査を実施した6火力発電所 技術開発ニュース No.156 / 2017-2 GN156_P25-26_研究成果_H.indd 25 1x104 0 10 20 30 0 10 水温(℃) 20 30 0 第2図 付着生物幼生4種の高密度出現水温 25 2017/02/08 9:12 Results of Research Activities 研究成果 年別の比較では、夏期を中心に出現するアメリカフジツ ダーを示す。第3図および第5図から、付着生物幼生の出 ボ/ヨーロッパフジツボにおいて2013、2014両年は9 ∼ 現傾向には発電所間で顕著な差が見られないことから、 11月に出現ピークがあるのに対し、2015年は7 ∼ 10月 。同年2 ∼ 5月の水温は へ早まる傾向が見られた(第3図) 、 平年より高く、約1 ヶ月早く20℃を越えており(第4図) きると考えられた。 第6図に示したカレンダーは湾内の発電所で広く共用で 4x104 2x104 8x104 6x104 4x104 2x104 1x104 5x103 0 2x105 1x105 3x104 2x104 1x104 0 6x104 5x104 3x104 2x104 1x104 0 2014 0 4x104 2014 3x104 6x103 3x103 0 2015 1x104 0 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 調査月 また、本研究の結果から付着生物幼生の出現時期は年 変動することが確認されたが、その挙動は20℃付近の水 2013 平年値 2013 A 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 調査月 第5図 ムラサキイガイ幼生出現密度の推移 温変動とよく一致した。 20 したがって20℃に達する時期(第4図の青破線との交 点、春と秋の2回)の平年との差を目安に第6図を補正す 10 平年値 2014 A 30 ることで、簡易的に出現時期の年変動への対応が可能と 2014 考えられた。 20 タテジマフジツボ 10 平年値 2015 A 30 2015 幼生密度 水 温(℃) 四日市 川越 西名古屋 知多 知多第二 新名古屋 2x103 2x104 2015 第3図 アメリカフジツボ/ヨーロッパフジツボ 幼生出現密度の推移 30 2013 4x103 四日市 川越 西名古屋 知多 知多第二 新名古屋 2013 幼生密度(Inds/m3) 幼生密度(Inds/m3) これにより本種の成熟が促進されたものと推察された。 20 アメリカフジツボ/ ヨーロッパフジツボ ムラサキイガイ ヒドロ虫類 ミドリイガイ 10 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 調査月 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 月 日 第4図 伊勢湾(湾奥・表層)における各年の水温と 平年水温との比較(青破線は20℃) 第6図 伊勢湾における付着生物出現カレンダー 4 一方、冬(2 ∼ 5月)に出現期を持つムラサキイガイで は、2014年のみ12月にも顕著なピークが見られた(第5 今後の進め方 図) 。同年8 ∼ 10月の水温は平年よりも低く、約半月早 現在、日本海および三河湾の火力発電所にて同様の調 く20℃を下回っており(第4図)、これにより本種の成熟 査を行っており、将来的には当社の火力発電所をほぼカ が促進されたものと考えられた。 バーした出現カレンダーが完成する予定である。 3 なお、本研究の成果は2016年度日本付着生物学会に て報告した。また、リアルタイムPCRによる幼生検出は まとめ 一般財団法人電力中央研究所から特許実施許諾を得て行 第6図に、水温がほぼ平年並みで推移した2013年の結 った。関係各位に厚く御礼申し上げる。 果を基に作成した伊勢湾における付着生物の出現カレン 執筆者/濱田 稔 技術開発ニュース No.156 / 2017-2 GN156_P25-26_研究成果_H.indd 26 26 2017/02/08 9:12
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