高専入試過去問解説 平成 29 年度 数学 ナレッジスター Knowledge Star http://know-star.com/ まえがき 高専受験の数学では,公立高校受験に比べてかなり高度な論理的思考力が要求される.また,基 礎的な公式や考え方も,しっかりと見についていなければ正解にたどり着くことはできない.しか しながら,「ひらめき」が 1 つ生まれた瞬間に一気に正解に近づける感覚や,自分の中で組み立て た正解へのロードマップによって正解を導けたときの快感は,従来の数学の問題では味わえないも のだ.ぜひ,以下のことを意識しながら,高専受験の数学の問題を楽しんで解いてみてほしい. • 基礎問題 ( ) 1 をのぞき,::::::::::::::::::::::::::::::::::: すぐには正解にたどり着くことはできない.高専受験の数 学では,まず解き方のロードマップを決め,それを常に意識しながら地道に正解に近づ いて行くことが大切だ. • 「大きな問題を小さな問題に分割」して解く(分割統治法)ということを意識しよう. 工学や理学で現れる重要な問題は,そのようにして解決する必要があるものばかりだ. 高専の受験では,その思考能力を問われている. • 頭のなかに「ひらめき」が 1 つ出てきた瞬間に,問題が突然解け始めることが多い.そ してその「ひらめき」は,根気よく悩むことにより必ず得られる.焦ること無く,じっ くりと考えを巡らせて,「ひらめいた」瞬間の感動を味わってほしい.高専の問題は, 数学の楽しさに気づくのに最適な題材だ. また,最初の問題 ( ) 1 では,簡単な基本問題が出題される.特に高専だから難易度が高いという ことはないので,本資料では解説を省略してある.本資料が,高専受験生にとっての勉強の一助と なることを心から祈りつつ,まえがきを終えたいと思う.頑張れ!! Shinji Akematsu http://know-star.com/ ※この資料を学校,塾等で配布する際は,[email protected] へご一報ください. また,製作者を偽って配布したり,販売したりすることは御遠慮くださいませ. 1 babababababababababababababababababab 2 下の図のようなパソコンの画面上に,入力した数値が表示される場所(セル) と,入力した数値をもとに,計算した値を表示する場所(セル) P , Q A , R に 34 が表示された.よって,a = ア がある.入力した数値を x とすると, • P は ax2 − 16 の値を表示し, • Q は bx + c の値を表示し, • R は P , Q の値の和を表示する. このとき,以下の各問に答えなさい. (1) A に 5 が表示されているとき, P である. (2) A に −3 が表示されているとき, 示されているとき, Q Q に 15 が表示され, に −6 が表示された.よって,b = A イウ に 4 が表 ,c = エ である. (3) R は に −8 が表示されているとき, カキ ク A に表示されている数値は オ また である.ただし,a, b, c は (1), (2) で求めた値である. 「言われたことをそのまま式にする」.文章題では当たり前のこれが出来てしまえば,実はこの 大問は全て解けてしまう. (1) A に 5 が表示されているということは x = 5, 2 P に 34 が表示されたということは, ax2 − 16 = 34 である.x = 5 を ax2 − 16 = 34 に代入すると, 25a − 16 = 34. これを a について解くと,a = 2 を得る.よって,ア.2. □ (2) A に −3 が表示されている (すなわち,x = −3) のときに ので, Q には 15 が表示された { x = −3 bx + c = 15 第一式と第二式に代入すると,−3b + c = 15. もう一つの条件も同様に数式にしよう. ときに Q A に 4 が表示されている(すなわち,x = 4)の には −6 が表示されたので, { x=4 bx + c = −6 第一式を第二式に代入すると,4b + c = −6. この 2 つの式を連立方程式にして解くと,b = −3, c = 6 を得るので,イウ.-3, エ.6 である. □ には −8 が表示されている.また,これまた問題文より,a, b, c は先程求め (3) 問題文より, R たものを使う. R は 値は ax2 − 16 = 2x2 − 16, P Q , Q の値の和であり, A の値 x を使って, の値は bx + c = −3x + 6 と表せるから,その和 2x2 − 16 − 3x + 6 と表せる.これが −8 だと言っているので, 2x2 − 16 − 3x + 6 = −8. これは 2 次方程式なので,左辺にすべて移項して整理すると, 2x2 − 3x − 2 = 0. 因数分解は出来無さそうなので,解の公式を用いてこれを解けば, x = 2, − を得る.よって,オ.2, カキク.-12 □ 3 1 2 P R の は, ひとくちメモ シチュエーションは一瞬だけすこし特殊に見えるのだが,言われたことをそのまま式にすれ ば,自ずと解法が定まって答えまで出てきてしまう.高専の入試の中ではかなり難易度の低い 問題だと言えるだろう.「当たり前のことを当たり前に出来る」かどうかが問われている.必 ず得点源として全て正解しておきたいところだ. 4 babababababababababababababababababab 1 2 x のグラフ上に 2 点 A,B がある.A,B の x 座標がそ 4 3 下の図のように,関数 y = れぞれ −6, 4 であるとき,次の各問に答えなさい. (1) 直線 AB の式は y = (2) △AOB の面積は アイ オカ ウ x+ エ である. である. (3) △AOB を原点 O を回転の中心として,時計の針の回転と同じ向きに,点 B が初め ′ て x 軸上にくるまで回転移動させる.この移動によって,図のように点 √ √ B が Bに, 点 A が A′ にきたとき,A′ の座標は ある. 5 キ ク コサ シ , ケ ス で まずは,問題文で与えられたことは全て図中に書き込む.この鉄則は最初に必ず実行してお こう. 1 2 x の式に代入すれば,A と B の y 座標が分かる.あとは,A 4 と B の座標から直線 AB の式が定まる.とてもオーソドックスな問題だ.まず,A の x 座標 1 x = −6 を y = x2 に代入すると, 4 (1) A と B の x 座標を放物線 y = y= 同様に,B の x 座標 x = 4 を y = 1 (−6)2 = 9. 4 1 2 x に代入すると, 4 y= 1 × 42 = 4. 4 よって,A(−6, 9), B(4, 4) と座標が分かるので,これを 1 次関数の式 y = ax + b にそれぞれ 代入して連立方程式を作ると, { 9 = −6a + b 4 = 4a + b. 1 2 これを加減法で解く(b の係数が揃っているので引けばすぐに解ける)と,a = − , b = 6 が 1 2 分かる.よって,直線の式は y = − x + 6 となり,アイ.-1, ウ. 2, エ.6 である.□ (2) 放物線と直線により作られるこのような三角形の面積を求める問題は,巷の参考書には必ず 載っているこれまた定番中の定番.このような三角形は「y 軸で 2 つに分ける」ことにより, 面積を求めることができる. 6 放物線と直線により作られる三角形の面積 放物線と直線で作られる三角形の面積は,三角形を左右にわけて求める. 今,直線 AB の切片は 6 だったので,直線 AB と y 軸の交点を C と書くことにすると, △AOC, △BOC の共通の底辺の長さは 6 となる.さらに,A,B の x 座標より,△AOB の高さ は 6, △BOC の高さは 4(下図). これより, △AOC = 1 × 6 × 6 = 18. 2 △BOC = 1 × 6 × 4 = 12. 2 よって, △AOB = 30 となるので,オカ.30 である,□ 7 (3) この問題は結構難しい.今求めろと言われているのは A′ の座標だが,基本的なアイデアを述 べておこう. A′ の y 座標 (i) 前問で △AOB の面積は分かっている.△A’OB’ も,回転移動させただけなので面積 は一緒.すなわち,△A’OB’ = 30. (ii) A′ の y 座標は,△A’OB’ の高さなので,底辺が分かってしまえば,先程の面積の値 と合わせて高さが出て来るはず. (iii) △A’OB’ の底辺の長さは OB と等しい.OB の長さは「2 点間の距離」で計算出来 る!! → y 座標の決定 A′ の x 座標 下図を見ながら納得してみてほしい. (i) A′ から OB′ におろした垂線の足を H としたとき,A′ の x 座標は OH の長さと等 しい. (ii) OH を求めたいわけだが,ウンウンと悩んでいるうちに △A’OH という直角三角形が 見えてくる.A′ H は A′ の y 座標なので,先程求めてある. (iii) OA′ は OA と等しいので,「2 点間の距離」で計算できる. (iv) あとは,OH と A′ H と OA′ で三平方の定理を使えば,OH が決定できるはず!! → x 座標の決定 A′ y x O H B′ こんな方針,すぐに思いつく訳がなかろう!!と思ってしまうかもしれないが,その通り.思い つくわけがない.これについては,平成 27 年度分の過去問解説資料のコラム「本番で思いつ く気がしない!!」を参照してみてほしいわけだが, 「試行錯誤の末に」この方針にたどり着けれ ば,それで OK なのである*1 . *1 もっというと,この問題の解法は色々あると思うので,何ならこの方針を使わなくても正しく答えが計算できればそ れでよい. 8 ということで,まずはA′ の y 座標から求めてみることにしよう.まず,△A’OB’ の底辺の 長さは OB と等しいので,B の座標 (4, 4) を思い出して 2 点間の距離の公式を使うと, OB′ = OB = √ √ √ (4 − 0)2 + (4 − 0)2 = 32 = 4 2. さらに,△A’OB’ の面積は前問により 30 だった.あとは,高さ (A′ の y 座標) を h とでも置 いて三角形の面積の式を作ると, 30 = これを h について解くと, √ 1 × 4 2 × h. 2 30 h= √ . 2 2 分母を有理化すると, √ 15 2 . h= 2 これが,A′ の y 座標である. 続けて,A′ の x 座標を求めよう.まず,OA′ の長さは OA と等しいので,A の座標 (−6, 9) を思い出して 2 点間の距離の公式を使うと, √ √ √ (−6 − 0)2 + (9 − 0)2 = 117 = 3 13. √ 15 2 ′ 更に,既に求めてあったように A の y 座標は だったので,直角三角形 △A’OH は以下 2 OA′ = OA = のようになる. A′ y √ 3 13 √ 15 2 2 x O H B ′ あとはこの三角形に三平方の定理を適用して, √ )2 √ 15 2 = (3 13)2 . OH2 + 2 √ 3 2 を得る.これが A′ の x 座標である.よって, OH を求めて分母を有理化すると,OH = 2 ( √ √ ) A′ の座標は 3 2 2 , 152 2 であるから,キクケ.322, コサシス.1522 と分かる. □ ( 9 ひとくちメモ 小問 3 は,おそらく平成 29 年度の問題の中で最も難しい問題だったかもしれない.まぁ,こ ういう問題には無理してこだわる必要はないし,この大問は小問 1,2 が完答できれば上出来と いったところだろう.ちなみに,小問 3 には色々な解法があるようなので,色々考えてみても 面白いかもしれない. 筆者はこの問題を解きながら,「おっ,結構良問キタコレ?」とちょっと感動した.やっぱ り,高専の問題は面白い.受験生のあなたにも,是非是非高専の問題を楽しみながら解いて欲 しいなと思う.とにかく試行錯誤に試行錯誤を重ねるのだ.その結果として問題が解けたと きの快感は,やはり高専の問題は格別にデカイ. 10 コラム.高専受験生が焦り始める時期!? 高専受験向け学習塾「ナレッジスター」の WEB ページで「高専過去問解説」を公開しはじめて から 1 年くらい経つ.どのくらいのアクセス数があるのだろうな∼と,僕は毎日「アクセス解析」 を眺めているのだが,あるとき,「高専過去問解説の日毎のアクセス数」がたまたま記録されてい たことに気がついた.そして,そのアクセス数の推移を眺めてみるとかなり面白い結果が現れてい た.そのグラフは以下の通り*2 . このグラフは「全国の高専受験生の危機感」のグラフでもある*3 .これはなかなか興味深い. 1 年間蓄積したこのアクセスデータを解析した結果,全国の高専受験生の心理の動きはだいたい 以下のようになっているという仮説にたどり着いた. • 8 月くらいにオープンキャンパスに行った中 3 生が,「高専行きたい!でもあれ?受験 が...??」と,一旦焦り始める. • 9 月に夏休みが明けて学校が始まり,一旦受験のことを忘れる. • 11 月くらいに「あれ?高専って受験早かったよな...?ていうか数学難しかったよな...?そろ そろやばくないか...?」と,再度焦りだす. • そこから受験の日まで,どんどん全国の受験生が危機感を大きくして行く. ということで,全国の高専受験生が本格的に焦り始めるのは,意外にも結構遅くて,「11 月くら い」なのであろうということが分かる.入試はだいたい 2 月中旬∼下旬に行われるので,意外にも 皆さんスロースターターだ.まぁ,そのほうが高専生らしいといえばらしいのだが. 今このコラムを読んでいる君. 「あぁ,じゃあ 11 月から頑張ればいいか∼」じゃないぞ.その思 考は危険だ.「みんなが 11 月から焦り始める」のならば,もっともっと早い時期から対策をする べきなのだ.高専に行きたいという気持ちがあるならば,早く対策を開始して,周りとの差を広げ ておくのがどう考えても得策だ.この過去問解説が,そのお役に立てたのならばこの上ない幸せで ある. *2 *3 最もアクセス数が多い「高専過去問解説 平成 27 年度」のデータ. なぜなら, 「やばい!受験だ!」と感じた受験生がググった結果この資料にたどり着いていると考えられるからだ. 11 babababababababababababababababababab 4 図1のように,1 辺の長さが 2cm の立方体 ABCD-EFGH がある。図 2 のように, この立方体の 4 つの頂点 A,C,F,H を結んでできる正四面体 ACFH を考える。図 3 は, この正四面体 ACFH を取り出したものである。図 4 は,図 3 と同じ大きさの正四面体を 4 つ用いて,頂点と頂点が重なるように積み上げたものである,重なった頂点を図のよう に P,Q,R,S,T,U とする. このとき,次の各問いに答えなさい。 √ (1) 正四面体 ACFH の 1 辺の長さは (2) 正四面体 ACFH の体積は ウ エ (3) 図 4 において,立体 PQRSTU は ア イ cm である。 cm3 である。 オ である。 オ に当てはまるものを, a から ⃝ j までの中から選びなさい。 下の ⃝ (4) 図 4 において,2 点 P,U を結んでできる線分 PU の長さは カ cm である. (5) 図 3 の正四面体 ACFH の体積は,図 4 の立体 PQRSTU の体積の ある. 12 キ ク 倍で (1) AC の長さは,正方形 ABCD の対角線の長さと等しいので,三平方の定理より, AB2 + BC2 = AC2 22 + 22 = AC2 AC2 = 8 √ AC = 2 2. よって,アイ.22 である.□ ひとくちメモ 正方形を対角線で半分に分けた直角三角形は「1 : 1 : √ √ の長さを 2 倍して 2 2.でもよい. √ 2」の直角三角形になるので,1 辺 (2) 正四面体 ACFH の体積は,立方体 ABCD-EFGH の体積から,三角錐 B-ACF,三角錐 D-ACH, 三角錐 G-CFH,三角錐 E-AFH の体積を引くことで求められる。立方体 ABCD-EFGH の体 積は,2 × 2 × 2 = 8.三角錐 B-ACF の体積は, 1 1 4 2×2× × |{z} 2 × = 3 3 | {z 2} 高さ 底面積 (△ABC) また,三角錐 D-ACH,三角錐 G-CFH,三角錐 E-AFH も同様に体積が 体 ACFH の体積は 8− 4 となるので,四面 3 4 24 16 8 ×4= − = . 3 3 3 3 よって,ウエ.83 である.□ (3) 立体 PQRSTU が作る平面(三角形)の数を数えると,△RPS,△RSU,△RUQ,△RQP, △TQP,△TPS,△TSU,△TUQ の全部で 8 つあり,それらの三角形の辺の長さは,全て正 四面体 ACFH の一辺の長さと等しい. よって,立体 PQRSTU は正八面体*4 となる。 *4 正八面体とは,正三角形 8 枚を貼り合わせて出来る立体のこと. 13 (4) 前問で出てきた正八面体 PQRSTU に着目しよう.正八面体の形を頭のなかで想像すればすぐ √ に分かるように,四角形 PTUR は正方形で,その一辺の長さは 2 2 である.そして,PU は この正方形の対角線になっている. R U √ 2 2 P T √ 2 2 上図の △PTU は辺の比「1 : 1 : √ 2」の直角三角形なので, √ √ PU = 2 2 × 2 = 4. よって,カ.4 である. □ (5) 前問より,PH= 2cm なので,正四角錐 P-QRST の体積を求めると, √ √ 16 1 2 2×2 2×2× = 3 3 よって立体 PQRSTU の体積は 16 32 ×2= 3 3 四面体 ACFH の体積は (2) より 8 なので, 3 8 32 ÷ 3 3 8 3 = × 3 32 1 = 4 したがって,正四面体 ACFH の体積は,立体 PQRSTU の体積の である.□ 14 1 倍であるから,キク.14 4
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