オオカミ少年FRB、米国は本当に利上げできるのか

リサーチ TODAY
2016 年 9 月 6 日
オオカミ少年FRB、米国は本当に利上げできるのか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
昨年12月16日に米国FRBが政策金利を0.25%に引き上げてから9カ月近くが経過し、再び利上げが噂
されている。イエレンFRB議長は、8月後半のジャクソンホールで「利上げを支持する事例が増えてきた」と
慎重ながらも一歩踏み込んだ判断を示した1。さらに、フィッシャー副議長は年内に複数回の利上げの可能
性も否定せず、市場の利上げ観測を一層高めた。ただし、こうした利上げ観測の高まりは今回に限ったこと
ではない。今年5月も利上げを強く示唆するコメントをFRBは行っていたが、6月に発表された5月の雇用統
計が市場予想を大幅に下回り、市場の利上げ観測は大幅に低下した。先週発表された8月の雇用統計で
は非農業部門雇用者数が15万人の増加と市場予想を下回ったが、先述の6月のようなショックとまではなら
ず、FRBの利上げ判断には微妙な数字だ。ただし、下記の図表のように、依然、市場が見込む利上げ確率
は5月の頃より低い。今日の米国金融市場は、株式も債券も良好で、どちらにも程よい、「ゴルディロックス」
の状況とされる。ただし、それは、中央銀行関係者には極めて居心地が悪い。なぜなら、本来中央銀行が
引き締めに向かうべき状況でも中央銀行が金利を据え置かざるをえないと市場がたかをくくっているように
見えるからだ。従って、中央銀行としては、意地でも利上げの可能性を示唆したくなる。こうした文脈で、最
近のFRBの関係者の発言を振り返ると彼らの意向がわかりやすくなる。
■図表:ドル円相場と年内米利上げ予想回数
(円/ドル)
125
(回)
2.4
2.0
年内利上げ予想回数
ドル円相場(右目盛)
120
1.6
115
1.2
110
0.8
105
0.4
100
0.0
95
-0.4
16/1
16/2
16/3
16/4
16/5
16/6
16/7
16/8
90
(年/月)
(注)FF 金利先物相場に織り込まれた年内の利上げ予想。25bp の利上げ予想を 1 回として計算。
(資料)Bloomberg より、みずほ総合研究所作成
次ページの図表は昨年来の米国10年国債利回りと政策金利の推移である。昨年12月の利上げ前の利
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2016 年 9 月 6 日
回りは2.3%程度であった。一方、足元は利上げ観測が根強いなかでも1.6%であり、0.7%程度低下した。
政策金利であるFFレートが0.25%上昇し、長短スプレッドは0.95%程度縮小したことになる。中央銀行の利
上げサイクル上、長短金利差は、最初の利上げ段階で最も大きく、次第に縮小する。昨年末からの状況を
みると、利上げをした最初の段階からすでに長期金利が低下し、現時点で既に従来なら利上げの最終局
面に類似した状況が起きている。5月、さらに8月とFRBは一段の利上げを市場に織り込ませようとしたが、
それでも長期金利の反応は限られたままだ。
■図表:米国の10年国債利回りとFFレート推移
3.0
(%)
米国10年国債利回り
2.5
2.0
1.5
1.0
FF目標金利
0.5
0.0
15/1
15/3
15/5
15/7
15/9
15/11
16/1
16/3
16/5
16/7
16/9
(年/月)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
さらに気掛かりなのは、下記の図表に示されるように、米国製造業景況感が再び悪化し、判断となる50を
割ったことである。こうした数字からは、景気の局面が第4コーナーを回ったとの観測が生じやすい。また、
FRBはオオカミ少年になるのだろうか。足元、為替はドル高に戻っているが、円高リスクも根強いだろう。
■図表:米国の製造業ISMとドル円相場推移
60
(指数)
(円/ドル)
130
120
50
110
100
米製造業ISM指数
ドル円相場(右目盛)
40
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
16/7
90
(年/月)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
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小野 亮 「サプライズのジャクソンホール」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 8 月 29 日)
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