方程式の解の存在と一意性 7 7.1 室田 連立 1 次方程式 連立 1 次方程式 Ax = b (7.1) を考える.ここで,行列 A とベクトル b は所与であり,ベクトル x(の成分)が未知量である.A が m × n 型行列,b が m 次元ベクトルとすると,方程式の個数は m,未知数の個数は n で, a11 x1 + a12 x2 + · · · + a1n xn a21 x1 + a22 x2 + · · · + a2n xn .. . am1 x1 + am2 x2 + · · · + amn xn = b1 , = b2 , .. . = bm となる. 以下では,方程式 (7.1) の解 x が存在するかどうか,また,唯一つ存在するかどうかを考察する. 7.2 1 変数の場合の考察 方程式 ax = b(変数がベクトルでない場合; m = n = 1)では,次のことが成り立つ. 1. a ̸= 0 のとき,解 x は唯一つ存在する. 2. a = 0 で b ̸= 0 のとき,解 x は存在しない. 3. a = 0 で b = 0 のとき,解 x は無数に存在する(任意の x が ax = b を満たす). 上のことは,階数を用いて,次のように言い換えられる: 7.3 ax = b の解 x が存在する ⇐⇒ rank [a] = rank [a | b], (7.2) ax = b の解 x が唯一つ存在する ⇐⇒ rank [a] = rank [a | b] = 1. (7.3) 解の存在と一意性 方程式と未知数の個数が等しいとき,任意の右辺ベクトル b に対して Ax = b の解 x が一意的 に存在するための条件として,次の定理が基本的である. 定理 7.1 正方行列 A に関して,以下の 3 条件 (a)∼(c) は同値である. (a) 任意のベクトル b について,Ax = b が一意解 x をもつ. (b) 任意のベクトル b について,Ax = b が解 x をもつ. (c) 行列 A は正則である. この資料は,室田,杉原:線形代数 I (丸善出版,2015) に基づく. 1 正方形とは限らない一般の m × n 型行列 A を係数行列とする方程式系 Ax = b については,次 の定理が成り立つ(定理 7.2 の証明は 7.5 節に示す)*1 . 定理 7.2 m × n 型行列 A と m 次元ベクトル b に関して, Ax = b が解 x をもつ ⇐⇒ rank A = rank [A | b]. 定理 7.3 m × n 型行列 A と m 次元ベクトル b に関して, Ax = b が一意解 x をもつ ⇐⇒ rank A = rank [A | b] = n. 例 7.1 式 (7.2) は,定理 7.2 で m = n = 1 の場合である. 例 7.2 式 (7.3) は,定理 7.3 で m = n = 1 の場合である. 例 7.3 方程式系 1 1 2 1 2 3 0 3 3 1 3 4 x1 3 2 x2 = −2 x3 x4 2 1 1 1 2 (m = n = 4) を考える.[A | b ] の既約階段形 [ | b̂ ] を掃き出しで求めると 1 0 1 0 −3 0 1 1 0 1 [ | b̂ ] = 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 (7.4) (7.5) となる.掃き出しによって階数は不変なので rank A = rank  = 3, rank [A | b ] = rank [ | b̂ ] = 3 が成り立ち,rank A = rank [A | b] < n である.したがって,定理 7.2, 定理 7.3 より,解 x は存在 するが一意でないことが分かる. 7.4 斉次方程式系 与えられた方程式系 Ax = b に対して,右辺を 0 に置き換えた方程式系 Ax = 0 を,Ax = b に 付随する斉次方程式系とよぶ. 次の定理は,方程式系 Ax = b の解 x が,任意に選んだ一つの解 xs と斉次方程式系の解 x0 の 和の形に分解されることを述べている. 定理 7.4 方程式系 Ax = b が解をもつとし,その任意の一つを x = xs とする. (1) Ax0 = 0 を満たす任意の x0 に対して x = xs + x0 は Ax = b の解である. (2) Ax = b の任意の解 x は,Ax0 = 0 を満たす適当な x0 によって x = xs + x0 と表される. [証明] (1) は,Ax = A(xs + x0 ) = b + 0 = b による.(2) は,任意の解 x に対して x0 = x − xs が Ax0 = A(x − xs ) = b − b = 0 を満たすことによる. *1 定理 7.1 と異なり,定理 7.2, 定理 7.3 ではベクトル b も与えられていることに注意. 2 (証明終) 例 7.4 例 7.3 の方程式系 (7.4) に付随する斉次方程式系は 1 1 2 3 x1 1 2 3 2 x2 = 0 3 3 −2 x 3 1 3 4 2 x4 0 0 0 0 (7.6) −3 1 である.容易に確かめられるように,xs = は方程式系 (7.4) の(一つの)解である.また, 0 1 1 0 A の既約階段形  = 0 0 0 1 1 1 0 0 0 0 −1 0 0 (式 (7.5) 参照)から分かるように,斉次方程式系 (7.6) の 1 0 −1 任意の解 x0 は,x0 = ξ と表示することができる (ξ は実数のパラメータ).したがって, 1 0 定理 7.4 より,方程式系 (7.4) の解 x は −3 −1 1 −1 x = xs + x0 = +ξ 1 0 1 0 (7.7) と表される.これは解 x のパラメータ表示を与えている. 7.5 定理 7.2 の証明 「Ax = b が解 x をもつ ⇐⇒ rank A = rank [A | b]」(定理 7.2)を証明する.A は m × n 型行 列,b は m 次元ベクトルである.以下,二通りの証明を示す. 7.5.1 既約階段形による証明 掃き出しによって,行列 A を既約階段形 à に変換する.このとき,ある正則行列 S に対して à = SA が成り立つ.行列 à は既約階段形であるから,A のランクを r と表すと, ] [ Ã1 à = Om−r,n の形である.ここで,Ã1 は 0 0 0 1 0 0 0 ∗ 1 ∗ 0 0 0 ∗ 0 ∗ 1 ∗ のような形の r × n 型行列で,rank Ã1 は r に等しい. 3 ∗ ∗ ∗ (7.8) 行列 S を用いて b̃ = Sb と定義すると,方程式系 Ax = b は同値な方程式系 Ãx = b̃ に書き直さ [ ] b̃1 れる.式 (7.8) の分割に合わせて b̃ = と分割すると,方程式系 Ãx = b̃ は b̃2 Ã1 x = b̃1 , 0 = b̃2 (7.9) と書き直せる.第1の方程式 Ã1 x = b̃1 は任意の b̃1 に対して解 x をもつので, Ãx = b̃ が解をもつ ⇐⇒ b̃2 = 0 (7.10) Ax = b が解をもつ ⇐⇒ b̃2 = 0 (7.11) が分かる.したがって である. 一方,行列の階数は正則行列を掛けても不変であり, [à | b̃] = S[A | b] à = SA, であるから, rank [à | b̃] = rank [A | b] rank à = rank A, である.ここで [ à = Ã1 b̃1 Om−r,n b̃2 ] (7.12) の形より,rank à = rank [à | b̃] は,b̃2 = 0 と同値である.したがって, rank A = rank [A | b] ⇐⇒ b̃2 = 0 (7.13) が分かる. 式 (7.11) と式 (7.13) より,定理 7.2 の証明が完成する. 7.5.2 階数標準形による証明 正則行列 S, T を用いて,方程式系 Ax = b を (SAT )(T −1 x) = Sb と書き直すことができる.す なわち,変数変換 à = SAT, x̃ = T −1 x, b̃ = Sb (7.14) により,Ax = b は Ãx̃ = b̃ と書き換えられる. 正則行列 S, T をうまく選べば,変換後の行列 à = SAT を階数標準形 [ ] Ir Or,n−r à = Om−r,r Om−r,n−r にすることができる.ここで,r = rank A である.このとき,Ãx̃ = b̃ を成分で書くと x̃i = b̃i (i = 1, 2, . . . , r), 0 = b̃i (i = r + 1, r + 2, . . . , m) (7.15) となる.したがって,Ãx = b̃ が解をもつための必要十分条件(すなわち Ax = b が解をもつため の必要十分条件)は b̃i = 0 (i = r + 1, r + 2, . . . , m) 4 (7.16) である. 一方,行列の階数は正則行列を掛けても不変であり, [ [à | b̃] = S[A | b] à = SAT, T 0⊤ 0 1 ] であるから, rank [à | b̃] = rank [A | b] rank à = rank A, である.また, [à | b̃] = 1 .. . O .. b̃r+1 .. . b̃m 1 0 O b̃1 .. . b̃r . 0 の形より,rank à = rank [à | b̃] (すなわち rank A = rank [A | b])は,式 (7.16) の条件と同値で ある. 以上で,定理 7.2 の証明が完成する. 以上 (2016-01-01/2017-01-27) 5
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