【講義資料7】 (2017-01-27 定理7.2の証明を7.5節として追加)

方程式の解の存在と一意性
7
7.1
室田
連立 1 次方程式
連立 1 次方程式
Ax = b
(7.1)
を考える.ここで,行列 A とベクトル b は所与であり,ベクトル x(の成分)が未知量である.A
が m × n 型行列,b が m 次元ベクトルとすると,方程式の個数は m,未知数の個数は n で,

a11 x1 + a12 x2 + · · · + a1n xn




 a21 x1 + a22 x2 + · · · + a2n xn
..


.



am1 x1 + am2 x2 + · · · + amn xn
= b1 ,
= b2 ,
..
.
= bm
となる.
以下では,方程式 (7.1) の解 x が存在するかどうか,また,唯一つ存在するかどうかを考察する.
7.2
1 変数の場合の考察
方程式 ax = b(変数がベクトルでない場合; m = n = 1)では,次のことが成り立つ.
1. a ̸= 0 のとき,解 x は唯一つ存在する.
2. a = 0 で b ̸= 0 のとき,解 x は存在しない.
3. a = 0 で b = 0 のとき,解 x は無数に存在する(任意の x が ax = b を満たす).
上のことは,階数を用いて,次のように言い換えられる:
7.3
ax = b の解 x が存在する ⇐⇒ rank [a] = rank [a | b],
(7.2)
ax = b の解 x が唯一つ存在する ⇐⇒ rank [a] = rank [a | b] = 1.
(7.3)
解の存在と一意性
方程式と未知数の個数が等しいとき,任意の右辺ベクトル b に対して Ax = b の解 x が一意的
に存在するための条件として,次の定理が基本的である.
定理 7.1 正方行列 A に関して,以下の 3 条件 (a)∼(c) は同値である.
(a) 任意のベクトル b について,Ax = b が一意解 x をもつ.
(b) 任意のベクトル b について,Ax = b が解 x をもつ.
(c) 行列 A は正則である.
この資料は,室田,杉原:線形代数 I (丸善出版,2015) に基づく.
1
正方形とは限らない一般の m × n 型行列 A を係数行列とする方程式系 Ax = b については,次
の定理が成り立つ(定理 7.2 の証明は 7.5 節に示す)*1 .
定理 7.2 m × n 型行列 A と m 次元ベクトル b に関して,
Ax = b が解 x をもつ ⇐⇒ rank A = rank [A | b].
定理 7.3 m × n 型行列 A と m 次元ベクトル b に関して,
Ax = b が一意解 x をもつ ⇐⇒ rank A = rank [A | b] = n.
例 7.1 式 (7.2) は,定理 7.2 で m = n = 1 の場合である.
例 7.2 式 (7.3) は,定理 7.3 で m = n = 1 の場合である.
例 7.3 方程式系

1 1 2

 1 2 3

 0 3 3

1 3 4
 

x1
3

 
 

2 
  x2  = 



−2   x3 
 
x4
2

1

1 

1 

2
(m = n = 4) を考える.[A | b ] の既約階段形 [Â | b̂ ] を掃き出しで求めると


1 0 1 0 −3


 0 1 1 0 1 


[Â | b̂ ] = 

 0 0 0 1 1 
0 0 0 0 0
(7.4)
(7.5)
となる.掃き出しによって階数は不変なので
rank A = rank  = 3,
rank [A | b ] = rank [Â | b̂ ] = 3
が成り立ち,rank A = rank [A | b] < n である.したがって,定理 7.2, 定理 7.3 より,解 x は存在
するが一意でないことが分かる.
7.4
斉次方程式系
与えられた方程式系 Ax = b に対して,右辺を 0 に置き換えた方程式系 Ax = 0 を,Ax = b に
付随する斉次方程式系とよぶ.
次の定理は,方程式系 Ax = b の解 x が,任意に選んだ一つの解 xs と斉次方程式系の解 x0 の
和の形に分解されることを述べている.
定理 7.4 方程式系 Ax = b が解をもつとし,その任意の一つを x = xs とする.
(1) Ax0 = 0 を満たす任意の x0 に対して x = xs + x0 は Ax = b の解である.
(2) Ax = b の任意の解 x は,Ax0 = 0 を満たす適当な x0 によって x = xs + x0 と表される.
[証明] (1) は,Ax = A(xs + x0 ) = b + 0 = b による.(2) は,任意の解 x に対して x0 = x − xs
が Ax0 = A(x − xs ) = b − b = 0 を満たすことによる.
*1 定理
7.1 と異なり,定理 7.2, 定理 7.3 ではベクトル b も与えられていることに注意.
2
(証明終)
例 7.4 例 7.3 の方程式系 (7.4) に付随する斉次方程式系は


 
1 1 2
3
x1


 
 1 2 3

 
2 

  x2  = 
 0 3 3 −2   x  

 3  
1 3 4
2
x4

0
0
0
0






(7.6)

−3
 1 
である.容易に確かめられるように,xs = 
は方程式系 (7.4) の(一つの)解である.また,
0 
1

1

 0
A の既約階段形 Â = 
 0

0

0
1
1
1
0
0
0
0

−1

0

0 
 (式 (7.5) 参照)から分かるように,斉次方程式系 (7.6) の
1 

0
 −1 
任意の解 x0 は,x0 = ξ 
と表示することができる (ξ は実数のパラメータ).したがって,
1 
0
定理 7.4 より,方程式系 (7.4) の解 x は




−3
−1




 1 
 −1 




x = xs + x0 = 
+ξ 1 
 0 


1
0
(7.7)
と表される.これは解 x のパラメータ表示を与えている.
7.5
定理 7.2 の証明
「Ax = b が解 x をもつ ⇐⇒ rank A = rank [A | b]」(定理 7.2)を証明する.A は m × n 型行
列,b は m 次元ベクトルである.以下,二通りの証明を示す.
7.5.1
既約階段形による証明
掃き出しによって,行列 A を既約階段形 Ã に変換する.このとき,ある正則行列 S に対して
à = SA が成り立つ.行列 à は既約階段形であるから,A のランクを r と表すと,
]
[
Ã1
à =
Om−r,n
の形である.ここで,Ã1 は

0

 0
0
1
0
0
0 ∗
1 ∗
0 0
0 ∗
0 ∗
1 ∗
のような形の r × n 型行列で,rank Ã1 は r に等しい.
3

∗

∗ 
∗
(7.8)
行列 S を用いて b̃ = Sb と定義すると,方程式系
Ax = b は同値な方程式系 Ãx = b̃ に書き直さ
[
]
b̃1
れる.式 (7.8) の分割に合わせて b̃ =
と分割すると,方程式系 Ãx = b̃ は
b̃2
Ã1 x = b̃1 ,
0 = b̃2
(7.9)
と書き直せる.第1の方程式 Ã1 x = b̃1 は任意の b̃1 に対して解 x をもつので,
Ãx = b̃ が解をもつ ⇐⇒ b̃2 = 0
(7.10)
Ax = b が解をもつ ⇐⇒ b̃2 = 0
(7.11)
が分かる.したがって
である.
一方,行列の階数は正則行列を掛けても不変であり,
[Ã | b̃] = S[A | b]
à = SA,
であるから,
rank [Ã | b̃] = rank [A | b]
rank à = rank A,
である.ここで
[
à =
Ã1
b̃1
Om−r,n
b̃2
]
(7.12)
の形より,rank à = rank [à | b̃] は,b̃2 = 0 と同値である.したがって,
rank A = rank [A | b] ⇐⇒ b̃2 = 0
(7.13)
が分かる.
式 (7.11) と式 (7.13) より,定理 7.2 の証明が完成する.
7.5.2
階数標準形による証明
正則行列 S, T を用いて,方程式系 Ax = b を (SAT )(T −1 x) = Sb と書き直すことができる.す
なわち,変数変換
à = SAT,
x̃ = T −1 x,
b̃ = Sb
(7.14)
により,Ax = b は Ãx̃ = b̃ と書き換えられる.
正則行列 S, T をうまく選べば,変換後の行列 Ã = SAT を階数標準形
[
]
Ir
Or,n−r
à =
Om−r,r Om−r,n−r
にすることができる.ここで,r = rank A である.このとき,Ãx̃ = b̃ を成分で書くと
x̃i = b̃i
(i = 1, 2, . . . , r),
0 = b̃i
(i = r + 1, r + 2, . . . , m)
(7.15)
となる.したがって,Ãx = b̃ が解をもつための必要十分条件(すなわち Ax = b が解をもつため
の必要十分条件)は
b̃i = 0 (i = r + 1, r + 2, . . . , m)
4
(7.16)
である.
一方,行列の階数は正則行列を掛けても不変であり,
[
[Ã | b̃] = S[A | b]
à = SAT,
T
0⊤
0
1
]
であるから,
rank [Ã | b̃] = rank [A | b]
rank à = rank A,
である.また,






[Ã | b̃] = 





1
..
.
O
..
b̃r+1
..
.
b̃m
1
0
O

b̃1
..
.
b̃r
.
0











の形より,rank à = rank [à | b̃] (すなわち rank A = rank [A | b])は,式 (7.16) の条件と同値で
ある.
以上で,定理 7.2 の証明が完成する.
以上 (2016-01-01/2017-01-27)
5