第3章 3-1 基本方針の検討 市に求められる緑の基本的な考え方 本来、「緑の基本計画」は「旧緑のマスタープラン」と「旧都市緑化推進計画」を合わせたもので あり、主として都市計画区域内の公園等の確保と総合的な緑化の推進を目指したものです。しかし、 本市は山林が大半を占める都市であり、都市計画区域は市域の僅か 7.4%で、都市計画区域外にも人 口の 1/3 が住んでいます。また、本市の市街地は、その背景となっている彩あふれる山林があってこ そ魅力的な景観を形成していると考えられます。このことから、本市の「緑の基本計画」は、主とし て都市計画区域内を計画対象としますが、都市計画区域を包み込むように形成されている丘陵地や山 林についても適切に維持管理していくことが重要となることから、都市計画区域外の山林などについ ても、必要に応じて扱うものとします。 これらをふまえた上で、以下に本市に求められる緑の考え方を示します。 (1)緑の計画的な整備と質的向上 本市の都市計画区域は市域の 7.4%にあたる 4,584haであり、一人当たりの都市公園面積は平成 27 年3月時点で 4.2 ㎡/人と、岩手県平均(10.85 ㎡/人)に達していない水準となっています。 したがって今後は、公園、緑の量的な拡大を計画的に進めるとともに、市街地内の身近な公園の改 善や市街地を取り囲んでいる山林の適切な維持・保全などの緑の質的向上も並行して進めていくもの とします。 また、河川緑地やポケットパークの整備、民地の緑化など、公園整備にとどまらない緑の創出によ り、地域の魅力や都市の魅力を高めることが重要となります。 (2)エリア特性をふまえた施策展開 本市は、久慈駅周辺や古くから商店が集積する中心市街地、久慈川などの河川沿いに発展し形成さ れた市街地、河川流域に広がる農地と集落が共存する地域があり、これらを丘陵地の山林が取り囲み、 さらに、久慈湾の水辺空間に面しているという構造で形成されています。このように多様な地域特性 を有しているため、課題や施策展開の方向も地域ごとに異なるものと考えられます。 特に中心市街地は、本市を訪れる観光客等の人々にとっての玄関口となるエリアであり、交流人口 のさらなる拡大を目指して、賑わいの創出とともに水と緑のおもてなしを充実させることが求められ ます。 これらのことから、緑に関する施策は、地域の特性を十分にふまえた上で展開する必要があります。 (3)市民・企業と連携した緑づくりの取り組み 市街地を彩る民地の緑化や、市街地を取り囲む民有林の保全については、市民や企業と連携した取 り組みが必要となります。 また、公園や河川緑地、街路樹などについても、市民が中心となった維持・管理がなされることに よって継続性の高い良好な緑が確保できるとともに、より市民に愛される空間となると考えます。 したがって、緑に関する施策の多くは行政だけでなく、市民や企業の協力・協働のもとに実現する と認識することが重要です。特に今後、人口減少が続くと想定される本市にとっては、これらがコミ ュニティの維持や市民生活を豊かにする契機の一つとなることが期待されます。 29 3-2 基本方針(案) (1)緑の将来像 本市の緑は、久慈川を中心として地形的に形成された構造となっています。 今後はこのような本市の地形やエリアごとの特性を活かし、充実させることにより、メリハリのあ る魅力的な緑の将来像を描きます。緑の将来像は、『緑のエリア特性』、『水と緑の拠点』及び『水と 緑の軸』を基に形成されます。 1)緑のエリア特性 本市の地形的条件や市街地形成の状況から、緑のエリア特性を「中心市街地」 「河川沿いの市街地」、 「市街地周辺の山林」及び各々の河川の流域に形成される「農地と共存する地域」に大別します。 それぞれのエリア特性をふまえた緑の形成を目指します。 ○中心市街地 本市の中心地であるとともに、玄関口として、市内外より訪れる人々をもてなす緑の形成 ○河川沿いの市街地(用途地域内) 主に市民の生活、活動の場として、生活に身近な緑の形成 ○市街地周辺の山林(都市計画区域内) 市街地の後背に位置する丘陵部の山林等においては、市街地から望む自然景観を醸し出す本市 のシンボルとなる緑を保全するエリアの形成 ○農地と共存する地域(都市計画区域内) 河川沿いに形成される集落地においては、農地等の緑と集落地の生活空間が共存する環境を維 持していくエリアの形成 2)水と緑の拠点づくり 本市の既存の『水と緑の拠点』として、 「中心市街地内の緑」 「高舘市民の森周辺」及び「久慈港湾 周辺」が位置づけられます。 さらに今後は、市街地北側において整備が進められている「久慈市総合防災公園」や、基本計画が 進められている「久慈市総合運動公園」、東日本大震災後の復興による再整備が進められている「久 慈港湾周辺」、遊覧船が就航した「滝ダム周辺」を『水と緑の拠点』として位置づけ、魅力的な拠点 整備を図ります。 3)水と緑の軸づくり 本市の市街地には、久慈川をはじめ、久慈川水系の長内川、小屋畑川、夏井川などが流れ、久慈港 湾に注いでいます。また、これらの河川流域に沿って本市の市街地が形成されており、河川は生活に 身近なものとなっています。 久慈川の下流部には久慈川河川公園が整備されており、川面に親しむ市民の憩いの場となっていま す。しかし、他の河川については、部分的に親水空間となっているものの多くは、災害防止のための 堤防整備にとどまっており、市街地に近接する河川としての魅力に乏しい状況にあります。 これらの河川を『水と緑の軸』として位置づけ、各々の状況に応じて親水空間、自然観察エリア、 河川緑地、遊歩道、護岸の並木などの整備や、橋梁整備、隣接する市街地との緑の連携強化などによ る水辺、緑の連続性の確保と市民生活に密接に関わる魅力的な空間形成を図ります。 30 図 緑の将来像 31 (2)緑の将来像のテーマ 緑の将来像の実現を目指すためのテーマを、以下のように設定します。 《本市に求められる緑の基本的な考え方》 緑の計画的な整備と質的向上を図る 本市のエリア特性を踏まえる (中心市街地/河川沿いの市街地/水辺/市街地を囲む山林など) 市民・企業と連携した緑づくりに取り組む 【緑の将来像のテーマ(案)】 『パブリックコメントに合わせて、都市づくりの将来像をイメー ジするキャッチフレーズを募集中です。応募要領をご覧になりぜ ひご応募ください。』 図 緑の将来像のテーマ 32 (3)計画の目標水準 1)計画フレームの設定 目標年次となる平成 48 年の緑の目標水準を定めます。 将来人口は、都市計画マスタープランでの将来人口をふまえて設定します。 表 将来人口の設定 現状(平成27年10月) 目標(平成48年) 35,642人 人口 28,000人 (平成27年国勢調査) 2)緑地の目標水準 本市の都市計画区域内の緑地面積は 3,308.51ha で、都市計画区域の 72.2%と大半を占めています。 用途地域内についてみると、緑地面積は 94.72ha(12.00%)であり、未供用の公園緑地等の整備に より、平成 48 年までに 94.86ha(12.00%)になるとされています。 国が推奨する緑地の目標水準は、将来市街地面積の概ね 30%以上とされています。本市では、計画 対象区域である都市計画区域内の緑地は 72.2%で、目標値をすでに達成しているため、ここでは用途 地域を対象として目標水準を定めます。 平成 48 年の用途地域における緑地は、未整備の公園が整備されることをふまえると 94.86ha (12.00%)となり、現状と同水準の緑地面積を確保することとします。 表 用途地域における緑地の目標水準 現状(平成27年3月) 目標(平成48年) 用途地域における 面積(ha) 94.72ha 94.86ha 緑地の目標水準 割合(%) 12.00% 12.00% 表 都市計画区域における緑地の目標水準 現状(平成27年3月) 目標(平成48年) 都市計画区域における 面積(ha) 3,308.51ha 3,367.53ha 緑地の目標水準 割合(%) 72.2% 72.2% (参考:国が推奨する緑地の目標水準) ・ 「緑の政策大綱(平成6年7月建設省)」 、 「社会資本整備審議会公園緑地 小委員会報告(平成 19 年6月)」では、「将来市街地面積に対して永続 性のある緑地を概ね 30%以上確保することが望ましい」としています。 33 3)都市公園の目標水準 本市の都市計画区域内の公園面積は 15.09ha で、一人当たり公園面積は 4.2 ㎡となっています。 現在、計画決定されている都市公園の面積は 35.23ha であり、一人当たり公園面積は 12.58 ㎡とな ります。その他、計画決定がされていない久慈市総合運動公園が整備されること等をふまえて、平成 48 年の一人当たり公園面積を約 20 ㎡/人にすることとします。 表 都市公園の目標水準 現状(平成27年3月) 目標(平成48年) 人口 35,644人 28,000人 都市公園面積 15.09ha 約56ha 一人当たり公園面積 4.2㎡/人 約20㎡/人 (参考:都市公園の目標水準) ・ 「緑の政策大綱(平成6年7月建設省)」 、 「都市計画中央審議会答申(平 成7年7月) 」では、住民一人あたりの都市公園等の面積の目標水準を 20㎡/人としています。 34 (4)基本方針 「市に求められる考え方」をふまえて「緑の将来像」の実現を図るため、3つの基本方針を以下の ように定めます。 1)新たな緑の創出を図る(つくる) 山林に囲まれた本市の市街地において、緑の構造をより明確にしつつ魅力を高めるため、水と緑の 拠点と軸の形成を図ります。 水と緑の拠点は、計画的な都市公園の整備、公共施設緑地の整備、民間施設緑地の充実などにより、 本市を代表するような魅力的な空間づくりを進めるものとします。特に中心市街地は来街者に対する 玄関口となっているため、本市のイメージを形成するおもてなしの空間づくりに努めます。 また、現在整備が進められている久慈市総合防災公園、基本構想が策定された久慈市総合運動公園 などの整備により、災害時における防災拠点や市民の日常的なレクリエーション活動の拠点としての 活用を図ります。 水と緑の軸は、市街地を流れる久慈川、長内川、小屋畑川、田沢川、夏井川、鳥谷川において、そ れぞれの状況に応じた河川緑地の整備、身近な水辺の整備などを行い、単なる河川ではなく市民が日 常的に集い憩う空間として、本市の良好な景観軸としての魅力づくりに努めます。 さらに、水と緑の「拠点」と「軸」のほか、久慈琥珀博物館や文化会館(アンバーホール)など本 市を代表する拠点施設を結ぶように、アクセス道路の魅力づくりに努め、水と緑のネットワークの形 成を図ります。 〔基本施策〕 ●水と緑の拠点の形成 ●水と緑の軸の形成 ●水と緑のネットワークの形成 ●緑の街並みづくり 2)緑の質的向上を図る(受けつぐ) 四季折々に市街地の背景を彩る山林は、市域の87%を占めています。ブナ・ミズナラなどの落葉広 葉樹林やスギ・アカマツなどの植林による広大な山林は、木材生産の場であるだけでなく希少生物を 含むほ乳類、鳥類、は虫類、昆虫類などの良好な棲息地となっています。これらは本市の財産として 受けついでいく必要がありますが、現在、林業の衰退や薪炭需要の激減などによって山林との関わり が減少し、手入れが行き届かずに荒廃している山林の増加が懸念されます。 自然環境が守られている久慈湾沿いの三陸復興国立公園や山間部の久慈平庭県立自然公園だけで なく、伐採や採掘が制限される保安林の指定も行われていますが、多くの山林は良好な自然環境が担 保されていない民有林となっています。 このままでは山林の荒廃は拡大し、良好な自然環境が損なわれるだけでなく土砂災害の危険性も高 まるため、林業従事者や地権者に任せるだけでなく、市街地周辺の山林とともに本市の特徴の一つと なっている広大な山林を地域的に保全する仕組みづくりに取り組みます。 沿岸に整備された「みちのく潮風トレイル」については、周辺景観と利便性に考慮した施設整備や 35 標識設置などの維持管理に努めます。 久慈川などの河川についても、水と緑の軸としての活用だけでなく、市街地内の貴重な自然環境と して受けついでいく必要があり、水質保全や多様な水棲生物の保護を図ります。 また、これまで整備されてきた都市公園の多くで老朽化が進み、計画的な改善が必要です。その際、 公園・緑地の長寿命化計画に基づき維持管理費の削減、安全確保に努めるとともに、市民との協議検 討を行い、地域ニーズを十分にふまえた取り組みを行います。 なお、河川沿いなどにみられる農地は地域を彩る緑として保全を図るとともに、民地に残る大樹や 樹林地を保全する仕組みについても検討します。 〔基本施策〕 ●山林の保全 ●河川の保全 ●都市公園の改善 ●民地の緑地保全 ●環境対策の推進 3)市民・企業と連携する(支える) 水と緑のまちづくりは、行政だけで実現できるものではなく、市民や企業の理解と協力が欠かせま せん。 水と緑の質的向上については、市民や企業の参画が重要であると考えられます。特に山林の保全は、 遊び、学習、レクリエーションなどの様々なメニューを提供しつつ、市民や企業の活動をいかに山林 に向けるかが重要になります。したがって、市民や企業と連携する多様な仕組みづくりに積極的に取 り組みます。 また、都市公園などの公的な施設についても、地域住民が清掃活動や樹木管理などを行うことで愛 着のある空間が形成され、地域コミュニティの維持や公園利用の拡大に結び付くため、市民との協働 による維持管理の充実を図ります。 その際、市の花・鳥・木である「つつじ」、 「うぐいす」、 「しらかば」は市民に親しまれるシンボル であり、効果的に活用し啓蒙することで市民の一体感を形成し、市民参画のまちづくりを推進します。 〔基本施策〕 ●水と緑の保全活動の充実 ●環境教育の充実 ●都市公園などの市民管理の拡大 ●情報提供の充実と人材育成 ●市の花・鳥・木の活用 36 〔エリア別の視点〕 中心市街地 河川沿いの 農地と共存 市街地周辺 市街地 する地域 の山林 ■新たな緑の創出を図る(つくる) 〔基本方針〕 ■緑の質的向上を図る(受けつぐ) ■市民・企業と連携する(支える) 図 「緑の基本計画」の構成イメージ 37
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