サウンドドラマの制作⑱

第二十七話 スタジオ夜話(番外編)
サウンドドラマの制作⑱
☆はじめに
梅雨は空けたのか? 夏の蒸し暑さが戻ってきました。諸先輩の
皆さまには、元気にご活躍のことと思います。
さてスタジオ夜話「サウンドドラマの制作」台詞収録、今回は台
詞収録にあたってのインサイドワークというものをスタジオ夜話的
にお話します。
またお話にあたっては前回予告したように日本大学芸術学部(放
送学科)茅原良平先生のお話も加えて進めて行きます。
台詞収録作業での「インサイドワーク」って何? 本来の意味としてはスポーツなどでの臨機応変なプレーや対応を
表す和製英語です。しかしスポーツに限らずそれが仕事でも、もち
ろんあらゆる状況で必要作業になることがあります。
では収録作業時のインサイドワークとは何でしょう。収録現場で
写真 1)
調整室で台詞とのタイミング合わせやイメージ創りを確認しながら作曲家や
ディレクターが作業する。簡単なキーボードを持ち込み臨機応変にアレンジな
どの参考にテストして楽曲の完成に .
は臨機応変な対応は当然で、あらためてインサイドワークの必要性
などと思われるでしょう。ここで云うインサイドワークは、少し見
方をスタジオ夜話的にご理解頂きたい。
今回も前回に引き続き台詞収録のお話です。あらゆる作業にイン
サイドワークは必要ですが台詞収録ではこんなことがけっこう重要
なのです。
台詞収録作業での「インサイドワーク」スタッフ参加
に意義がある!
インサイドワーク、中心となる作業をより良く行うための補助的
作業、今回の場合は台詞の収録です。台詞をより良く収録するため
の作業、そのインサイドワークです。とても簡単な例をお話します。 写真 2)
ドラマの台本が出来上がり、各スタッフに配布され、出演者の本
読みも終了。いよいよスタジオでの台詞収録のリハーサル、本番を
むかえます。
ドラマ冒頭に今回はテーマ音楽、そのイントロ部分にナレーター
のドラマタイトルと脚本家名、テーマ音楽終了。新たな音楽が入り、
物語の導入部がやはりナレーターによって語られます。
28
FDI・2015・07
スタジオに隣接した控え室では仮素材の変更点や打ち込み作業に必要なことを
記譜したり、マニュピュレータとの打ち合わせもすぐに対応出来るように音楽
担当のスタッフがスタンバイしています。
読者諸先輩方はこのナレーターによるタイトル、導入部の語りは
オンリー録りですか?経済効率やスタッフそれぞれのスケジュー
ル、等々を考慮すればそれはやむおえない選択かもしれません。し
かしスタジオ夜話的には、
「やむおえない作業の積み重ね」の作品
の完成度は「やむおえない範囲での完成度」の出来になってしまう
と考えます。
様々な条件のもと、最善をつくした作業が大切なのです。テーマ
曲、次の曲がスタジオリハーサル間に合わない。当然、考えられる
事です。重要な点は作曲家が少なくともこの時点で仮の曲を用意し
写真 3)
DAW などには仮素材が用意され、スタジオ内の役者さんたちは送り返しから
流れる音楽などを聴きながら演技のテストに望む。
ていることです。この場合、その曲創り作業をインサイドワークと
はいいません。インサイドワークとはその仮の曲を使ったナレーシ
ョン録りの現場スタジオに参加することです。
仮の曲でイントロの長さや、ナレーターの語りの長さ、テンポな
どをその場で確認する作業が重要なのです。
筆者はかつてモダンバレーの音楽を作曲者とともに創っていたこ
とがあります。そのとき作曲家の先生は、毎回稽古場を訪れ、曲の
イメージはもとより、ダンサーや筆者にテンポや表現時間の持続可
能性、照明家などとその融合性について質問していました。
もちろん仮の曲を稽古用に用意していたことは云うまでもありま
せん。大御所といわれる方々でもそうした作業をいとわなかったの
です。作曲家に限らず音響効果、脚本家など可能な限りスタッフの
参加が望まれます。
台詞収録作業での具体的な「インサイドワーク」
1)出演者の場合、本読みの時も同様ですが、本人には関係が無い
シーンの収録時でもなるべく参加してもらいましょう。
写真 4)
効果音を担当するスタッフも、仮素材を用意して台詞収録のリハーサルにもか
かわらず全員が参加。
物語の登場人物同士の微妙な関係がその演出や台詞から見えてき
ます。本人の演技に奥行きが出てきます。
スタジオ参加する時の服装などもインサイドワークとして考えて
見ましょう。
マイクロフォンの前ではディレクターの指示、あるいは相手役な
どとの関係で動きが必要になること多々あります。衣擦れの音がす
る服装や足音が目だつ履物は避けます。
女性の場合、しゃがみこむこともあるので丈の短い、あるいはタ
イトなスカートは不可です。
スタジオ夜話的な余談になりますが、有名なドイツの高級車メー
カーの CM で、エレガントな女性が新車を購入したのですが時々
異音がするとクレームをつけました。ディーラーがいくら調べても
原因がわかりません。
(途中省略)結果、女性の着けていたイヤリ
ングが音をたてていました。この車の室内はそれほど静かなのです。
写真 5)
出演者たちは、スタジオの中でマイクロフォンとの距離感と声の大きさとの関
係などを仲間の出番時でも確認、女性はスタジオ内が若干寒いので衣擦れしに
くい柔らかな生地の上着も用意している。
というオチです。
スタジオもその車に負けず静かな環境です。出演者やスタジオ内
でそのフォローにあたるスタッフは要注意です。
29
FDI・2015・07
2)スタッフの場合、なるべく各担当が参加すること、併せて仮の
素材があることが重要です。特に脚本家、作曲家の参加はかか
せません。
前の例でもわかるように音楽に合わせてナレーションが入るとい
うような場合、脚本家の書いたナレーションが必ずしも音楽にぴた
りとはまるケースは少ないといえます。
仮素材があれば字数や若干の内容を変更する余地が生まれます。
絶対に変更は音楽にしても脚本にしても NO !という方にははじめ
から発注しないことです。
(諸先輩の皆さまよろしくお願いします)
また仮素材があればナレーターは、語るテンポや間(ま)などを確
認できます。音楽と MIX して仕上げるエンジニアもここで作曲家
と音楽的な強弱や楽器数など相談できれば、フェーダー操作などに
よる機械的バランスを極力おさえ、自然な出来あがりを期待できる
こともあります。
全員参加と仮素材、必ず完成度に寄与します
写真 6)
声優さんたちはスタジオ入りのとき、余計な音を出さないように着替えや靴を
用意している。
インサイドワークの効いたスタジオワーク
今回のスタジオ夜話、インサイドワークについてお話を進めてき
ました。
前号でお話したように日本大学芸術学部放送学科の茅原良平先生
にも取材しました。先生は音を通してもの創りを体験、作品を創る、
という授業を行っています。その背景にはラジオドラマの歴史など
様々な、それこそインサイドワーク的な授業も多々ありますが、今
回は 2 年生を対象とした所沢校舎で行われている、ドラマ制作の
リハーサルにお邪魔しました。写真の茅原先生の説明を参考に、ド
ラマ創りそのインサイドワークの様子を確認してください。
次回は:
台詞収録に関係して、効果音の収録についてお話する予定です。
効果音の基本的ありかた、その分類などを含め、わかり易くスタジ
オ夜話的に・・・・・・・・・・・・・・・・。
取材にご協力いただいた茅原良平先生(日大放送学科)をはじめ、
作曲家、西山淑子先生(昭和音大講師)
、学生さん、ご出演の声優
の皆さまに筆者・編集部一同、お礼と感謝を申し上げます。ありが
とうございました。
(ふぅっ)
二七撮影:島村幸宏
ー 森田 雅行 ー
30
FDI・2015・07
写真 7)
エンジニアもマイクロフォンをスタジオ内にセッティング
するとき、演出などの関係でスタジオ内どこにでもマイク
位置を容易く移動できるようにしている。