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別紙第1号様式
No.1
サムスン輸出に依存しつつある。特にサムスンが工
場を設立した地方においては地域経済が左右されて
博 士 論 文 の 要 旨
いる。
専攻名 システム創成科学専攻
氏
名(本籍)BUI DINH THANG
このような状況を背景として、本研究は、サムス
印
(ベトナム)
ンはどんな戦略の下でベトナムに集中投資を行って
いるのか、またその戦略がベトナム経済とサムスン
博士論文題名
の工場が設立されている地域の経済にどのように影
ベトナム経済発展と対内 FDI の影響に関する研
響しているのかという問題意識から出発する。本稿
究
はサムスンのFDIとベトナム経済への影響に着目す
-サムスンの対ベトナム進出を事例に-
るが、直接関係のある研究は殆ど見当たらない。な
お、サムスンの対ベトナム戦略について、石田(2013)
要旨
は、サムスングループがベトナム工場の稼働後、ベ
ベトナム政府は 1986 年に「ドイモイ」政策を導入
トナムを、東南アジア・西南アジア・中東・アフリ
した。ドイモイ政策の柱の一つが FDI 導入による工
カ・欧州に対する低価格携帯電話の輸出拠点とする
業化の推進である。その一環として 1987 年に外国投
という戦略があると述べている。しかしサムスンの
資法を制定し、FDI 導入に法的措置を整えた。それ
最新機種であるギャラクシー6をベトナムで生産し
以来、ベトナム政府は外国資本の対ベトナム投資を
ているのを鑑みると、
「低価格機種の輸出拠点」とい
積極的に呼びかけてきた。ベトナムでは、認可ベー
う論点は斥けられる。本稿は、サムスンには「高価
スにおいて 1990 年代半ばと 2000 年代半ばという 2
格機種の輸出拠点」の対ベトナム戦略があることを
回の投資ブームがあった。特にベトナムが 2007 年に
明らかにするとともに、その戦略とベトナム政府の
WTO 加盟国となってから、翌年に FDI 額は認可ベー
2000年代以降のFDI政策の関連性、またベトナム経済
スで例のないスピードで急増した。その後、リーマ
とバクニン省経済に与えているサムスンFDIの影響
ンショックの影響で 2009 年以降に FDI は認可ベース
を分析することを研究目的とする。
では急減していたが、実行ベースは安定している。
本研究は、ベトナム政府発表のマクロ経済基礎デ
このことは、依然としてベトナムが有力な投資先と
ータを綿密に分析したうえ、研究プロセス全体に定
見られていることを裏付ける。韓国のサムスングル
量的、定性的調査・分析を組み込む研究手法をとっ
ープが本格的に対ベトナム投資を始めたのがこの時
ている。本研究は第 7 章の構成である。章ごとの概
期である。
要は以下のとおりである。
サムスングループは 2009 年 10 月に携帯端末を製
第1章では本研究の研究背景と問題意識、FDIに関
造する第 1 工場を稼働しはじめ、2014 年にはベトナ
する先行研究や研究方法、ベトナム政府の経済政策
ムの最大直接投資家となった。サムスンのベトナム
動等を概観し課題を論じた。
進出によって、2012 年には 19 年ぶりに貿易収支の
第2章では、FDIの位置づけを明らかにするために、
黒字転換を果たした。サムスンは 2013 年にベトナム
ドイモイ以降の成果と課題を取り上げた。ベトナム
から 239 億ドルを輸出し、携帯端末が初めて衣料品
は、1人当たりGDPが1980年に500ドルから2015年に
輸出を上回って第 1 位の輸出品となった。この時に
2500ドルに増加したように、ドイモイ政策によって
ベトナムの総輸出に占めるサムスン製品のシェアは
貧困国から低中所得国に変化してきた。しかし、そ
18%に上った。このように、ベトナム貿易はますます
の発展は一貫してFDIに依存する開発政策であった。
別紙第1号様式
No.2
得られたデータによって、2013 年までバクニン省の
成長・雇用・歳入・輸出といった 4 つの面において
博 士 論 文 の 要 旨
専攻名 システム創成科学専攻
氏
名 BUI DINH THANG
直接効果を分析した。しかし、技術移転と裾野産業
ネットワーク形成といった間接的効果は確認できな
かった。
第7章では本研究をまとめた。またドイモイ導入以
輸出主導型経済発展を進めてきた中国などが外資
来、ベトナム政府は一貫してFDI誘致政策を中心に経
に依存しながらも国内産業育成に力を注いできた戦
済成長を成し遂げてきたが、質的且つ持続的な発展
略からすると、ベトナムが歩んできた道は大きく異
を目指すために、国内産業育成を中心に政策転換が
なる。そこで本稿はドイモイ過程を4つの段階に分け
必要であることを論じた。
て概括した上で、中国の「開放改革政策」と比較し
てベトナムの国内産業育成の課題を議論した。
第3章では、FDI変遷過程を論じた。FDI関する先
行研究は、ベトナムのFDI誘致政策について2つの時
期区分を行っているが、本研究はFDIの全過程を3つ
に時期区分を行った。特に2009年から現在に至るま
での期間を「新段階」と捉え、ベトナムが電子産業
の新集積地になりつつある状況やサムスンがけん引
する韓国からの投資内容を分析した。
第4章では、ベトナムの FDI 政策と密接に関係す
る貿易構造を分析した。ベトナム政府が FDI を積極
的に誘致した結果、中・越・米の三角貿易構造が定
着したが、同時に貿易赤字問題の副作用ももたらし
た。2000 年代半ば以降は貿易赤字額が急拡大し、ベ
トナムのマクロ経済に悪い影響を与えていた。そこ
で、耐久消費財付加価値の高い商品が生産できなか
ったベトナムはサムスンの携帯電話製造工場を大歓
迎したことを明らかにした。
第5章では、ベトナム FDI 誘致の「新段階」にお
けるサムスンのベトナム戦略について議論し、その
戦略はベトナム貿易構造を転換させたことを分析し
た。現地調査等を通じて、中国では中低価格の機種
を、ベトナムでは高価格機種を生産していることを
明らかにした。またサムスンのベトナム進出は、ベ
トナムの貿易構造を変化させたことも明らかにした。
第6章では、バクニン省経済に対して、サムスン
FDI の直接効果と間接効果を分析した。現地調査で