サウンドドラマの制作(19)…… 森田 雅行

第二八話 スタジオ夜話(番外編)
サウンドドラマの制作⑲
☆はじめに
でてきました。たとえば効果音とはどうい
上がった秀逸な作品でした。が音そのもの
うものなのでしょうか?その本来的な考え
が主役ではありません。物語りの意味進行
方について一歩掘り下げて考えて見ます。
がやはり主たる作品です。映像の世界では
毎日暑い日が続きます。諸先輩の皆様は
映像が物語りの意味やそこに登場する人物
お元気にお過ごしでしょうか。暑さに負け
脚本家のニーズする効果音ラジオドラマ
以上の存在感ある作品があります。
ずお身体をご自愛ください。さてスタジオ
時代、効果音は脚本上で指定されてきまし
代表的作品としてはスティーブン・スピ
夜話「サウンドドラマの制作」前回は台詞
た。多くはシュチエーション設定のための
ルバーグ監督の邦題「激突」です。絶えず
収録そのインサイドワークについてお話を
ものです。例えば電車など乗り物の車内音
画面に圧倒的存在感で表現されるトラック
しました。今回からは台詞収録から効果音
などが代表的な例と思います。
の映像には様々な意味を感じさせ、その映
の収録にお話を展開して行きます。
ドアが閉まる、電車発車音、車内音にか
像が記憶に鮮烈に残っているという方も数
その第一歩は「効果音というもの!」に
わって、
という設定です。これでリスナーは、 多くいると思います。物語的登場人物の会
ついて考えます。また前回までの台詞収録 「設定は電車の車内なのだ」と理解するわけ
話によって表現される作品とは違った映像
に関係する基本的な収録の方法について追
です(この段階でも、いくつかの問題点も
という素材そのものの独自の特質を生かし
加説明を加えます。今回の効果音もスタジ
あります)が、大きな問題はこの後にあり
た作品といえます。
オ夜話的な視点からお話します。
ます。先輩諸兄はすでに気が付いたと思い
音という素材そのものの独自の特質を生
ます。説明を進めます。この後車内シーン
かし、ラジオドラマとは違ったステージで
「効果音」って何?Ⅰ
で登場人物の会話など台詞が入ってきます。 サウンドドラマの作品創りを模索してみる
すると車内音はその台詞が聴き取りやすく
のも大切では。
基本的な意味としては劇中でシュチエー
するため次第に小さくなり場合によっては
ション設定や登場人物の心理描写などに用
フェードアウトしてしまいます。
●「鉄の伝説」
いる音素材ということになります。
脚本家は台詞の内容を重視、音はそのシ
初放送:1973-11-02 芸術劇場
あるときはリアルな情景をあらわす自然
ュチエーション設定が済んでしまえば不要
昭和 48 年度に文化庁芸術祭で大賞
音であったり、自動車や工場などの人工的
なものと基本的には考えています。例外的
宮本研:脚本
な環境音、心理描写のための人的作成音(心
に、その台詞の内容によっては登場人物の
大和定次:効果
臓の鼓動?や時を刻む時計の音?等々)で
心理的描写の手助けとして車内音を利用す
伊東孝久:技術
す。
ることはあります。いずれにしても効果音
千葉守:演出
かつては(ラジオドラマ時代)その音は、 そのものは脚本上の脇役的役割を担ってい
効果的に必要に応じて、という原則?があ
るほかありません。
●「激突」原題「DUEL」
りました。表現媒体の特性を考えるとそう
音は主役にはなり得ないのでしょうか?
リチャード・マシスン作
した原則が有効であり、今日でも基本的考
NHK 制作のラジオドラマ「鉄の伝説」と
スティーブン・スピルバーグ 監督
え方は同じだと筆者も思います。
いうドラマがありました。蒸気機関車の音
1971 年 11 月公開(米)
しかし若干その考え方を修正する必要も
が台詞に勝るとも感じられる存在感で出来
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FDI・2015・08
演出家、サウンドクリエーターのニーズす
る効果音
一方ラジオドラマ時代の制作技法では、 ればどんな要素をもってすれば「元音以上
台詞収録「ライブ感ある台詞収録」
・・・追
加説明
すでにリスナーのニーズには応えられない
のリアリティ」を得られるかという考え方
と感じている演出家もいます。シュチエー
です。
ション設定に限らずあらゆる設定条件での
ラジオドラマ時代、映画などでは想像上
写真を見てください。台詞のステレオ収
効果音のありかたに、疑問を感じ新たな制
の設定(SF 等々)そのリアルな映像表現は
録を例にセッティングしていますが、マイ
作技法としての取り組みを考え効果音を創
不可能とされていました。一方ラジオドラ
クロフォン前に反射板を立てて台詞収録音
りはじめた人達です。回りくどい言い方に
マはリスナーの想像力の助けを前提として
にライブ感を持たせています。基本的にス
なってしまいました。リアルかリアリティ
いる作品創りなので、想像上の設定でも映
タジオはデッド感が強く自然な室内空間の
かという問題がその一例です。
像作品に比べ陳腐化しないなどとも云われ
ような台詞収録には無理があります。
サウンドドラマの世界で今でもリアルな
てきました。しかし現在、想像的なあらゆ
反射板を立てるなどするとライブ感のあ
音が必ずしもその設定でリアルに聞こえる
るものが CG などでリアル以上の表現が可
る音の収録が可能です。またこの時、マイ
のではないことは周知の事実です。ラジオ
能となっています。サウンドドラマの演出
クロフォンの指向性の切り替えや反射板と
ドラマ時代、多くの演出家や効果音制作者
家の中には「想像的なリアル以上の音創り」 の距離の工夫で室内の広さなど、表現に幅
は、効果音の元となる元音の要素から必要
を目指す演出を効果音創りのクリエイター
がでます。エフェクターでは表現できない
な要素を考え、省略やデフォルメを行い、 と伴に模索しているのではと期待していま
自然なライブ感はこうした工夫で実現しま
ドラマ設定上リアリティある効果音を創っ
す。
しょう。またスタジオ内ブースの窓などの
反射を利用するのも有効です。
てきました。
しかしそれは、リアリティある音ではあ 「効果音」って何?Ⅱ
次回は
るがリアルでは無いということでもありま
す。
サウンドドラマの効果音、ラジオドラマ的
効果音収録に関係して専用スタジオのあ
リスナーは優等生でそれをリアルに感じ
効果音に加え、よりリアリティあるリアル
り方、その実際についてお話します。また
てくれるのが前提でした。今日、音媒体の
な効果音の追求、設定されたシュチエーシ
ロケーション収録に関連してもお話する予
高性能化にともなってラジオドラマ的に創
ョンにある音はクリエイターの想像力によ
定です。
られた音は、もはやリアリティすら感じさ
って創造される音なのです。
せられなくなってきたのです。言い換えれ
リアリティという問題をかつてのリアリ
ば今日的にはリアル以上のリアリティを求
ティある効果音という概念から解き放ち新
められているのです。
たな創造によって実現することも必要です。
元音の要素を考えて省略やデフォルメな
ど様々な加工を、という考え方から極論す
ー 森田 雅行 ー
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