農学部 MITSUTAKE SUSUMU 光武 進 生命機能科学科 食料科学講座 准教授 「スフィンゴ脂質の合成・代謝制御による細胞膜機能制御機構の 解明」 「食品分子受容体の活性制御機構に関する研究」 [キーワード] スフィンゴ脂質,細胞膜,GPR120,味覚受容体,インクレチン, メタボリックシンドローム 細胞膜の機能解明を通して様々な生命現象の謎を解く 研究紹介 ◆研究概要 私は,これまで細胞膜脂質の一つスフィンゴ脂質の代 謝・制御に関わる酵素群の機能解析を行ってきました. 細胞膜は細胞の内側と外側を隔てる重要な役割を持って います.しかし,分子レベルでその構造と機能が議論で きるようになったのは,1972 年に Singer と Nicolson が流動モザイクモデルを提唱してからです.アインシュ タインが 1905 年に特殊相対性理論を発表したことか ら考えると,細胞膜の研究の歴史の浅さが良くわかりま す.興味深いことに,脂質二重層の形成に関わる脂質分 子は,数千に及ぶ多様性があり,何故このように多様な 分子が必要なのかという大きな疑問があります. ◆細胞膜機能制御機構の発見 ごく近年になり,細胞膜上の脂質は均一に分散してい るのではなく,その物性の違いから,まだらな分布をし ていることが解ってきました.これを水に浮かぶ筏に例 えて“脂質ラフト”や“脂質マイクロドメイン”と呼びま す.この脂質ラフトには,細胞が外界からの情報を細胞 内へ伝えるための受容体や,細胞の接着に関わる分子等, 細胞機能に重要なタンパク質が集積し,プラットフォー ムを形成していると考えられています.脂質ラフトの形 成に重要な役割を持っているのがスフィンゴ脂質の一 つ,スフィンゴミエリンで,私は,その合成酵素の解析を 通して細胞膜の機能を研究してきました. スフィンゴミエリン 受容体 脂質ラフト その結果,細胞膜上でスフィンゴミエリンの代謝と合成が 起こっており,これによって脂質ラフト上に存在するタン パク質の機能が制御されているという“スフィンゴミエリ ンの合成・代謝制御による細胞膜機能制御機構”を見出し ました.つまり,細胞膜は,単に細胞内と細胞外を隔てる コンパートメントではなく,より積極的に細胞機能に関与 していることが明らかになってきました.さらに,この細 胞膜スフィンゴミエリンの代謝制御は,個体レベルでは, 脂肪肝や2型糖尿病といったメタボリックシンドローム の発症と深い関わりがあることを明らかにしました. ◆メタボリックシンドロームの改善 現在, 「スフィンゴ脂質の合成・代謝制御による細胞膜機 能制御機構の解明」と,この脂質ラフト上に存在する「食 品分子受容体の活性制御機構に関する研究」を進めていま す.受容体は長鎖脂肪酸受容体 GPR120 と甘味受容体 T 1R2/T1R3 複合体です.近年,小腸上皮内分泌細胞は, 食品消化物に含まれる脂肪酸や糖を受容体で感知し,イン クレチンと呼ばれる消化管ホルモンを分泌することが明 らかになってきました.インクレチンは,食欲の抑制やイ ンスリンの分泌促進といった生体恒常性の維持に働くと 考えられ,インクレチンの血中での分解を阻害する薬が, 2型糖尿病の改善薬として上市されています.つまり栄養 成分とこれら受容体の相互作用を詳細に解明することで メタボリックシンドロームの改善に働く食品成分を明ら かにできると考えています.一方,小腸内分泌細胞に発現 する食品成分受容体の一部は,味蕾に発現している味覚受 容体と同一であり,つまり舌で美味しく感じる物が,小腸 内分泌細胞でもセンシングされている可能性が高いと考 えられます. 細胞膜の構造と脂質ラフト 掲載情報 2016 年 11 月現在 食品機能の解明を目指す 学生へ一言アピール 基礎研究を通して新しいことが解れば,食品機能の解明に大きなブレーク スルーをもたらします.目先の応用に惑わされずに,生命の本質に迫るよう な研究に情熱を燃やしましょう. 産学・地域連携機構より 光武准教授は,味覚の受容体も含め活性制御機構に関する研究も進めています.最終的には, 細胞膜の機能制御を介した,まったく新しい食品機能概念の創出を目指しています. 興味がある方は気軽にお問合せください. 佐賀大学研究室訪問記 2016 佐賀大学 産学・地域連携機構 (佐賀県佐賀市本庄町1番地) (お問い合せ先) 国立大学法人 佐賀大学 学術研究協力部 社会連携課 TEL:0952-28-8416 E-mail:[email protected]
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