総括的検証後の日銀はトランプノミクスで管理

【 緊急リポート 】
総括的検証後の日銀はトランプノミクスで管理フロートに転換
~長期金利を固定化せず緩やかな上昇容認も~
2016.11.24
Copyright Mizuho Research Institute Ltd. All Rights Reserved.
《構 成》
1.総括的検証の評価と、今日銀が考えることは
P3
2.日銀の長期戦下の政策対応の選択肢
P 25
1
まとめ
○日銀の政策枠組み変更の背景に、国債買入れ持続性の懸念。総括的検証は、量の制約を離
れ、追加緩和要請の呪縛からも解かれ、2020年を展望した持久戦に向けた歴史的転換点
○トランプノミクスによる米金利上昇で、日本の長期金利コントロールの効果で円安が進行する
局面に。今次「日本版ペギング」は1940年代の米国でのペギング(釘づけ)と異なり、イールド
カーブ・コントロールをしつつ一定の金利変動を容認する「管理フロート」 (※) 。トランプノミクス
がこうした特徴を一層顕現化させる中、日銀は超長期ゾーンを中心に一定の金利上昇を容認
すると予想。ただし、急激な上昇には指し値オペ等で牽制
○対外的明示なきまま、日銀は2017年から国債買入れ縮小を開始すると予想。超長期ゾーンの
買入れ減額により、20年ゾーンは0.6%台程度までの上昇を展望
○今後は、インフレ率の底上げを志向する持久戦の下、①出口も視野にした管理フロート化、
②「質」へのシフトを視野に置くが限界も、③インフレ目標の弾力化、④政府との一体性強化・
成長戦略へのバトンタッチ の明確化に向かうと予想
(※)管理フロート化:金利形成を市場メカニズムに任せるものの、日銀が介入してコントロールする手法。為替市場における管理フロート制と同様の枠組みを想定
2
総括的検証の評価と、今日銀が考えることは
~トランプノミクスが焙り出す管理フロートの実態~
3
総括的検証は、2020年を展望し金融政策枠組みの歴史的転換点に
◯ 日銀は9月会合(9/20・21)における総括的検証を踏まえ、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入を決定
◯ 量に制約される短期決戦型対応から、量の制約を離れ長期持続的な金融緩和の枠組みへシフトする転機
【 アベノミクスにおける金融財政政策のロードマップ 】
【金融政策】
2013年
金融緩和策
量的・質的金融緩和
2016年
マイナス金利
付き量的・質
的金融緩和
短期決戦型
大胆な金融緩和
「総括的
な検証」
経済・物価動向
やこれまでの政
策効果を評価
2%の「物価安定の目標」
物価目標
政府と日銀の政策連携(共同声明)
【政治日程】
2020年
・イールドカーブコントロール
・オーバーシュート型コミットメント
物価安定
長短金利操作付き
量的・質的金融緩和
量と金利の制約を意識した持久戦
政府と一体で物価目標を達成
このまま続ければ・・・
国債買入れ
が限界に
日本の構造問題
適合的なインフレ
期待形成
2018年
金融機関の収益悪化
保険・年金の運用難
物価安定
安倍総理の再任?
自民党総裁選
衆院任期満了
東京オリンピック
2019年
【財政健全化】
消費税引上げ
(8%→10%)
プライマリーバラ
ンス黒字化目標
(資料) みずほ総合研究所作成
4
日銀はイールドカーブ・コントロールを導入。「量」から「金利」にシフト
◯ 政策目標をマネタリーベースからイールドカーブコントロールにシフト。国債買入れの柔軟化余地を確保
◯ 総括的検証で想定する長期金利は、10年国債金利を「概ね現状程度」(ゼロ%程度)とするもの。ただし、次回の会合まで
の目途であることに留意
‧ 当分現在の水準は維持されるが、物価を中心とした温度感の中で変化しうるものと理解
【 イールドカーブ・コントロール 】
施策
内容
金融市場調節方針
・短期金利:日本銀行当座預金のうち政策
金利残高に▲0.1%のマイナス金利を適用
・長期金利:10年物国債金利が概ね現状程
度(ゼロ%程度)で推移するよう、長期国
債の買入れを行う。買入れ額については、
概ね現状程度の買入れペース(保有残高
の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、
金利操作方針を実現するよう運営する。買
入れ対象については、引き続き幅広い銘柄
とし、平均残存期間の定めは廃止する
・日本銀行が指定する利回りによる国債買
長短金利操作のため 入れ(指値オペ)
の新型オペレーション ・固定金利の資金供給オペレーションを行う
ことができる期間を10年に延長
の導入
(現在は1年)
(資料) 日銀等より、みずほ総合研究所作成
【 総括的検証における分析 】
(1)「量的・質的金融緩
和」のメカニズム
・「量的・質的金融緩和」により実質金利が低下。
実質金利は自然利子率を十分下回り、金融環
境は改善。
・①原油価格下落、②消費増税後の需要の弱
(2)2%の実現を阻害した
さ、③新興国経済の減速等により、適合的要素
要因
が強い予想物価上昇率が弱含みに転じた
・マネタリーベースと予想物価上昇率は、短期的
(3)予想物価上昇率の期
というよりも、長期的な関係を持つ。マネタリー
待形成メカニズム
ベースの長期的な増加へのコミットメントが重要
(4)マイナス金利と国債 ・中央銀行がイールドカーブ全般に影響を与える
買入れによるイールド うえでマイナス金利と国債買入れとの組み合わ
せが有効
カーブの押し下げ
・経済への影響は、短中期ゾーンの効果が相対
的に大
(5)イールドカーブ引き下
・イールドカーブの過度な低下、フラット化は、金
げの効果と影響
融機能の持続性への不安感を高め、マインド面
を通じ経済活動に悪影響を及ぼす可能性
(資料)日銀より、みずほ総合研究所作成
5
国債買入れ持続性への懸念(量の限界)が総括的検証の背景に
◯ 日銀の国債保有額は金融機関を上回り、国内最大の国債保有者に
◯ 国債の売り手は金融機関が中心。日銀が民間投資家からの国債買入れを必要とする年間額86兆円(120兆円-34兆円
(新規国債発行額))を全て金融機関から買い取ると仮定すると、国債買入れを継続できる期間は、約3年(=2019年まで)
との計算に(国内金融機関の国債保有残高232兆円(2016年3月末)÷86兆円)
【 主要投資家の国債保有残高推移 】
【 日銀の国債買入れ可能期間の試算 】
(兆円)
350
2016年度日銀国債買入れ額
2016年度国債発行計画
預金取扱金融機関
300
新規国債
34兆円
250
国債保有増加目標
80兆円
保険会社
200
150
日銀
借換債
109兆円
100
50
-
海外
年金基金
民間非金融法人企業
家計
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
財投債
16兆円
復興債
2兆円
(暦年)
(資料) 日本銀行より、みずほ総合研究所作成
(資料) みずほ総合研究所作成
投資家
の保有減
86兆円
買入れ
合計
120兆円
国債償還額
40兆円
・国内金融機関の国債保有減少額:
86兆円=80兆円(日銀国債保有増加目標)
+40兆円(日銀保有国債の満期償還額→日銀が
償還額と同額を民間投資家から買入れ)
-34兆円(2016年度新規国債発行額)
・国債買入れ可能期間:
約3年=232兆円(国内金融機関の国債保有残高)
÷86兆円
6
担保需要を勘案すると2018年以降国債買入れが困難。量の限界が転換を促す要因に
◯ 金融機関の担保需要などを踏まえると、2018年以降国債買入れが困難となる可能性。金融緩和長期化が予想される中、
国債買入れ額の減額などにより、金融緩和の持続性を高める必要
【 日銀以外の民間投資家の国債保有残高 】
【 国債発行額に占める日銀保有比率の見通し 】
(%)
90
(兆円)
残存10年以下
600
80
全体
500
70
全体
60
400
残存10年以下
300
50
200
40
30
100
20
0
2016
2017
2018
2019
2020
推計担保需要
残存5年以下
残存10年超
国債買入れ
困難化
2016
2017
2018
2019
(暦年)
(暦年)
(注)日本銀行の国債買入れは年間80兆円増額ペースで想定。
国債発行額は2016年度計画ベース。
(資料) みずほ総合研究所作成
2020
(注)日本銀行の国債買入れは年間80兆円増額ペースで想定。
国債発行額は2016年度計画ベース。
(資料) みずほ総合研究所作成
7
2020年以降も視野に入れれば、20兆円台までの国債買入れ減額が必要と試算
◯ 国債買入れ増額ペースを年間80兆円から年間60兆円に減額するとともに、日銀当座預金の一部を適格担保化し担保負
担を軽減することで、2020年までの国債買入れが継続できる可能性も(次貢参照)
◯ 2020年以降も国債買入れの持続が可能な均衡買入額は、各年限の国債残高増加額と同金額を買い入れる場合(20~30
兆円)。国債発行額が増額すれば均衡買入額は上昇
【 試算2:均衡国債買入れ額(80兆円⇒20~30兆円) 】
【 試算1:国債買入れ減額(80兆円⇒60兆円)
+適格担保拡充 】
(兆円)
600
(兆円)
600
全体
500
400
全体
500
400
残存10年以下
300
300
200
200
残存5年以下
適格担保拡充
100
残存10年以下
残存5年以下
民間保有額は横ばい
となり、担保需要の
問題を回避
100
0
0
2016
2017
2018
2019
2020
(注)日本銀行の国債買入れは年間60兆円増額ペースで想定。日銀当座預金
のうち基礎残高を適格担保とし、金融機関の日銀預け入れ国債30兆円を
流動化。国債発行額は2016年度計画ベース。
(資料) みずほ総合研究所作成
(暦年)
2016
2017
2018
2019
2020
(暦年)
(注)日本銀行の国債買入れ増額ペースは、2017年度:29兆円、2018年度:28兆円、
2019年度:25兆円、2020年度:23兆円。国債発行額は2016年度計画ベース。
(資料) みずほ総合研究所作成
8
日銀当座預金を担保で活用で、資産買入れの長期化も(限界点の先送り策)
◯ 日銀当座預金に長期間滞留が見込める基礎残高を金融緩和の長期化に活用
‧ 基礎残高(200兆円程度)を日銀適格担保とすることで、金融機関が日銀に担保として預け入れている国債(31兆円程度)
等を流動化
‧ 日銀は米ドル資金供給の担保となる国債を日銀当座預金を見合いに貸し付ける制度を新設(16年7月)
――― SLFの連続売却日数は原則最長50営業日。上限利回りは無担O/Nを勘案した水準-最低品貸料(当面0.5%)
‧ 国債補完供給(SLF)を拡充することで、日銀取引以外の資金取引等に必要な国債担保繰りを緩和する効果も
(兆円)
【 日本銀行が受け入れている担保の残高 】
【 日銀当座預金残高の推移 】
住宅ローン
債権信託
受益権, 5.5
350
政策金利残高(-0.1%)
300
250
マクロ加算残高(0%)
200
150
100
基礎残高(+0.1%)
50
0
16/2 16/3 16/4 16/5 16/6 16/7 16/8 16/9 16/10
(注) 単位は兆円。
(資料) 日本銀行より、みずほ総合研究所作成
(年/月)
基礎残高の活用
日銀当預の根雪
部分を活用して金
融緩和を長期化
・適格担保化で金
融機関の担保繰り
を緩和
・SLFの積極的な
活用で民間金融
機関の国債担保
繰りを緩和
証書貸付
債権, 28.5
国債, 31.8
政府保証
付債券, 3.3
手形, 0.5
その他債
券, 3.0
地方債, 4.2
(注) 単位は兆円。額面ベース。2016年10月31日時点。
(資料)日本銀行より、みずほ総合研究所作成
9
国債買入れ縮小は2017年から明示されることなく行われると予想
◯ 9月の政策変更により、国債買入れの減額が可能に。9月会合の議事要旨では、依然、「量」拡大の効果を指摘する意見
もあり、折衷案を模索した模様
◯ 2016年の国債保有増加額は80兆円を下回るペース。2017年度以降減額を進めていくと予想。その際、買入れ増加額を明
示せず減額を進める可能性も
‧ 足元の月次買入れペースを維持しても、日銀保有国債の償還額増加から、年間増加ペースは鈍化の見通し
【 金融政策決定会合議事要旨(9月20・21日会合) 】
・これまで「物価安定の目標」に対するコミットメントとこれ
を裏打ちするバランスシートないしマネタリーベースの
拡大が、予想物価上昇率の引き上げに寄与してきた。
マネタリーベースの拡大に関するコミットメントを導入す
マネタリーベース
ることが有力な手段。
と予想物価上昇 ・マネタリーベースと予想物価上昇率の間には、為替レ
率の関係
ートを介した見かけ上の相関はあったかもしれないが、
両者の長期的な関係は観察できていない。
・為替も株価もマネタリーな現象であり、長期的なマネー
と物価の関係は理論的にも成立。
・長期金利の操作目標を実現するため、国債買入れ額
の増減は生じ得るが、買入れ額の変化自体は政策的
イールドカーブ・コ なインプリケーションを持たないことをしっかり説明して
ントロールと国債 いく必要。
・イールドカーブをコントロールするためには、大量の国債
買入れ
買入れを続けるので、マネタリーベースが大きく拡大し
ていくことは確実
【 月次買入れを維持した場合の日銀国債保有増加見通し 】
(兆円)
90
現状の買入れめど:80兆円
80
70
60
50
40
30
20
10
0
2016
2017
2018
2019
2020
(暦年)
(資料)日本銀行より、みずほ総合研究所作成
(資料)みずほ総合研究所作成
10
買入れ減額に向けたシナリオの時間軸(明示をしない中での目途)
【 国債買入れ額(年間増加額) 】
現状
2017年度
後半
2020年度
以降
80兆円
60兆円
(2020年度まで買入れ可能な水準)
30兆円以下
(長期的に買入れ可能な水準)
・当面は現状の買入れペースを維持
・超長期債から徐々に買入れ減額を実施。
経済、物価、市場動向を睨み減額幅を拡大
・短期ゾーンの国債買入れを増額するツイスト
などにより、国債保有額を減額する可能性も
・長期持続可能な買入れ額まで減額
・経済、物価、市場動向を踏まえ、安倍政権交
代のタイミングで、マイナス金利からの脱却
を模索
11
日銀は当面金融政策据え置きのスタンス。時間を確保できる持久戦状況に転換
◯ 日銀は展望レポートにおいて物価目標達成時期を2017年度中から2018年度頃に後ろ倒し。しかしながら物価目標達成に
向けたモメンタムは維持されているとの見方を示し、金融政策を維持
◯ 量からイールドカーブコントロールにシフトしたことで、日銀は長らく続いた追加的緩和期待の呪縛から離れ、持久戦の体
制を続ける政策的自由度を確保。日銀はインフレ目標を事実上中長期的な目標とし、政府の財政出動や成長戦略の効
果を見守る構え
【 展望レポート(11月1日) 】
【 OISカーブ 】
(%)
0.0
2016/11/1
2016/9/20
2016/7/27
(対前年度比:%)
2016年度
▲ 0.1
7月時点の見通し
2017年度
▲ 0.2
7月時点の見通し
▲ 0.3
2018年度
7月時点の見通し
▲ 0.4
1
2
3
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
4
5 (年)
実質GDP
消費者物価指数
消費税率引き上げの
(除く生鮮食品) 影響を除くケース
+0.8~+1.0
(+1.0)
+0.8~+1.0
(+1.0)
+1.0~+1.5
(+1.3)
+1.0~+1.5
(+1.3)
+0.8~+1.0
(+0.9)
+0.8~+1.0
(+0.9)
-0.3~-0.1
(-0.1)
0.0~+0.3
(+0.1)
+0.6~+1.6
(+1.5)
+0.8~+1.8
(+1.7)
+0.9~+1.9
(+1.7)
+1.0~+2.0
(+1.9)
(注)政策委員の大勢見通し。( )内は政策委員見通しの中央値
(資料)日銀より、みずほ総合研究所作成
12
イールドカーブ・コントロールにより長期金利を管理下に
◯ 日銀は従来中央銀行による操作が困難と考えられてきた長期金利も含めたコントロールに踏み込む
◯ 量の制約を外れ、イールドカーブ・コントロールにシフト。ただし、10年国債利回りは固定せず幅を持った対応になると予想
【 イールドカーブ・コントロールのイメージ 】
(%)
0.8
量的緩和(国債購入)
オーバーシュート型
コミットメント(時間軸)
0.6
長期金利操作目標
「ゼロ%程度」
0.4
政策金利
「▲0.1%」
0.2
0.0
▲ 0.2
ターゲット(指値オペも)
▲ 0.4
マイナス金利
▲ 0.6
0
5
(資料)みずほ総合研究所作成
10
15
20
25
30
(残存年数)
13
オーバーシュート型コミットメントで物価目標達成に向けた緩和姿勢を強調
◯ 日銀は物価目標達成に向けたコミットメントを強化。消費者物価上昇率が2%を超えることを容認し緩和姿勢の強調
‧ これまでは、「2%の物価目標を安定的に持続するために必要な時点までマイナス金利付き量的・質的金融緩和を継続」
‧ 新たなコミットメントは、「消費者物価指数(除く生鮮食品)の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースを拡大」
で緩和姿勢を示す。ただし、長期金利維持のコミットでなないことに留意
【 オーバーシュート型コミットメントのイメージ 】
消費者物価上昇率
高圧経済?
物価が実際に
2%を超える物
価上昇を経験
2.0%
(物価目標)
物価が上から
2%に到達する
過程を経る
毎年2%程度の
インフレ期待
にリアンカリング
機動的な長期の指値オペ
市場との対話で時間軸の長期化
国債買入れオペの減額
▲0.5%
(現状)
2016年度
2019年度以降
(資料) みずほ総合研究所作成
14
日銀は指値オペを実施し、金利上昇をけん制
◯
‧
‧
‧
日銀は11月17日に9月会合で導入した指値オペを実施。海外金利上昇を受けた短中期債利回りの上昇をけん制
オペ通知を受け各年限の利回りが低下し、応札はゼロ。量拡大を行わずに金利上昇抑制に成功
市場参加者のポジション調整がVaRショック的に生じた機会をとらえた格好、水準よりも変動に牽制か
日銀は総括的検証においてイールドカーブの短中期ゾーンの引き下げが経済への影響が大きいとの分析を示しており、
超長期ゾーンの金利上昇への牽制は当面見送りと展望
【 イールドカーブ 】
(%)
1.0
11月16日
(指値オペ前日)
日銀指値オペの水準
・2年債:▲0.09%(9/20対比+18bp)
・5年債:▲0.04%(9/20対比+17bp)
0.5
9月20日
(9月会合直前)
▲ 0.04
0.0
▲ 0.10
▲ 0.21
▲ 0.27
7月8日時点
(イールドカーブの極端な低下時)
11月18日(指値オペ翌日)
▲ 0.5
1年
2年
3年
5年
7年
10年
15年
20年
30年
40年
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
15
急低下した超長期国債利回りは再び上昇の兆しも
◯ 10年国債利回りは、日銀のマイナス金利導入後、初めてマイナス圏に低下。投資家の投資年限長期化の動きから、
超長期債利回りが大きく低下。トランプノミクスの影響で再び上昇の兆し
【 各年限債の金利の推移 】
(%)
2016年1月29日
日本銀行:「マイナス金利付き量的・
質的金融緩和」の導入
1.6
1.4
9月21日
日本銀行:「長短金利操作付き量的・
質的金融緩和」の導入
1.2
7月29日
日本銀行
次の「総括的検証」を決定
1.0
0.8
40年債
6月23日
英国国民投票
0.6
30年債
0.4
20年債
0.2
0.0
10年債
▲ 0.2
5年債
▲ 0.4
2年債
▲ 0.6
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11 (月)
2016年
(資料)Bloombergより、みずほ総合研究所作成
16
トランプ米新大統領への政策期待から、世界的に金利が上昇
◯ トランプ米新大統領への政策期待などから、足元で世界的に金利が上昇。日本の10年国債利回りもプラス圏に浮上
・ただし、日銀のイールドカーブ・コントロールのもと、他の主要国に比べると、日本の金利上昇幅は抑制
【 国債利回りの推移 】
【 主要国の10年国債利回り推移 】
日銀会合(9/21)
(%)
1.6
40年
2.5
20年
2.0
(%)
(%)
米国
世界的に
金利上昇
2.0
1.5
1.1
1.5
1.0
英国
0.6
ドイツ(右目盛)
10年
0.1
1.0
0.5
0.5
0.0
5年
▲ 0.4
9 10 11 12 1 2
2015年
2016年
3
4
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
5
6
7
8
9
10 11
(月)
日本(右目盛)
0.0
▲ 0.5
16/1 16/2 16/3 16/4 16/5 16/6 16/7 16/8 16/9 16/10 16/11
(年/月)
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
17
トランプノミクスでイールドカーブ・コントロールによる円安効果が顕在化
◯ トランプノミクスで利上げ(金融引締め)と財政拡大のポリシーミックスはドル高に
◯ 一方、日銀がイールドカーブを管理することで、日米金利差は拡大、円安要因に
【日米10年金利とドル円の推移 】
【ポリシーミックスの違いを反映した日米金利差の拡大 】
(金利)
金利差拡大⇒円安
(円)
(%)
15
180
利上げ+財政拡大
米国のイールドカーブ
ドル/円
160
13
米国10年(右目盛)
日本10年(右目盛)
金利差拡大 ⇒ 円安効果
日本のイールドカーブ
140
11
120
9
100
7
80
5
60
3
40
1
20
-1
0%
▲0.1%
イールドカーブ
コントロール
財政拡大
-3
0
88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16
(暦年)
(資料) みずほ総合研究所作成
(年限)
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
18
日米金利差はアベノミクス開始以降、最大の水準まで拡大
◯ トランプノミクスへの期待が高まるなか、日本銀行の金融緩和がようやくドル/円にも効き始める局面に
‧ 日本は10年金利はゼロ近傍に位置するが、利上げを控えた米国長期金利は上昇傾向。日米金利差はアベノミクス開始
後の最大幅まで拡大し、 2011年2月以来の水準をつけた
【 ドル/円と日米10年金利差の推移 】
(円)
(%)
130
4.0
120
3.5
110
3.0
100
2.5
90
2.0
80
1.5
70
1.0
60
0.5
13/1 13/4 13/7 13/10 14/1 14/4 14/7 14/10 15/1 15/4 15/7 15/10 16/1 16/4 16/7 16/10
ドル/円
日米10年金利差
(右目盛)
(年/月)
(資料)Bloombergより、みずほ総合研究所作成
19
トランプノミクスではマイナス金利政策が円安誘導策と見なされる不安も
◯ ただし、保護主義的な政策を掲げるトランプ政権下では、マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロールが円安誘導策
であると見なされる可能性
‧ トランプ政権の政策期待や米利上げ観測の高まりから主要5通貨の中でドルが独歩高。打撃を受ける米輸出産業が、新
政権にドル高是正の実行を迫るおそれ
◯ 日銀は金融緩和策の目的は物価目標達成のためとの説明を行うも、外的圧力がマイナス金利策見直しの議論につなが
る可能性もあり注視が必要(マイナス金利深掘りは封印される可能性)
(2014/7/1=100)
【主要5通貨(G5)の名目実効レート 】
130
ドル
125
120
115
円
人民元
110
105
100
ユーロ
95
英ポンド
90
85
(年/月/日)
80
2013/1/1
2014/1/1
2015/1/1
2016/1/1
(注)1. 円は日銀公表値(円インデックス、ただし1営業日前実績)。直近値は、BISウェイトに基づき、 みずほ総合研究所が計算。
2. ドルはFRB公表値。ただし直近の非公表分はFRBウェイトに基づき、みずほ総合研究所が計算。 3. 人民元はBloombergによる推計。 4. ユーロはECB公表値。 5.
ポンドはBOE公表値。ただし直近はBOEウェイトに基づき、みずほ総合研究所作成。
(資料) みずほ総合研究所作成
20
ECBも金融政策の限界に直面。マイナス金利長期化の副作用を指摘する意見も
◯ ECBも金融政策の限界に直面。政策理事会メンバーは、ECBの政策が銀行収益に及ぼす影響は短期的にはプラスとしつ
つも、「ECBの政策は副作用を伴い、副作用は非伝統的措置の長期化により強まる」と発言
◯ 日本と同様、トランプ政権からマイナス金利政策が自国通貨安誘導策とみなされる恐れも、今後のECBの金融緩和スタン
スを変化させる要因に
◯ 量の限界を抱えるECBは、日銀の政策を参考にしつつ、今後も日銀の動向に強い関心を持って対応すると展望
【政策理事会メンバーの発言 】
発言者・日時
銀行収益に関する発言
コンスタンシオ副総裁
(11月4日)
ECBの分析によると、短期的にみれば、ECBの政策が銀行収益に及ぼす影響は全体として正である。
キャピタルゲイン、銀行の資金調達コストの低下、銀行の不良債権対応コストの低下が理由である。しか
し、こうした正の効果は時間と共に弱まっていき、ある時点で剥落するとみられる
プラート理事
(11月9日)
我々は、現時点において、ECBの政策が銀行収益に悪影響を及ぼしているとは考えていない。しかし、
現在の低金利環境が長期化すれば、銀行収益への逆風は強まる。なぜなら、キャピタルゲインのような
正の影響が連続的に起きるわけではない一方、負の影響は残存しやすいからだ
メルシュ理事
(11月17日)
ECBの政策は副作用を伴い、そうした副作用は非伝統的措置の長期化によって強まると理解している。
私は非伝統的措置が一時的であることを強調したい。ECBの分析によると、(短期的にみれば)、ECBの
政策が銀行収益に及ぼす影響は全体として正である。しかし、政策が長期化すれば負の影響が生じ得
る
(資料)ECBより、みずほ総合研究所作成
21
超長期債の今後の見通し① ~ 超長期債への需要は引き続き高い
◯
‧
◯
・
投資家(年金や生命保険)からの超長期債への需要は引き続き高い
MMF規制等により、米債投資へのヘッジコストが増加するなか、海外債券への利回りは悪化
超長期セクターの投資家売買動向では、生命保険に加え、年金資金などの需要も増加しつつある状況
利回りを求め、銀行をはじめとした投資主体からのニーズも今後、顕在化する可能性
【 国債投資収益率比較】
【 投資家別売買動向(超長期債) 】
(%)
(bp)
300
5.0
(兆円)
3.0
生命保険会社
2.5
4.0
200
3.0
100
2.0
都市銀行
地方銀行
信託銀行
農林系金融
第二地銀
信用金庫
生損保
外国人
1.5
1.0
0
2.0
0.5
0.0
-100
1.0
▲ 1.0
日米10年利回り差
米10年債(ヘッジ付)
20年国債
0.0
-200
-300
09
10
11
12
13
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
年金資金等(信託銀行経由)
▲ 1.5
-1.0
08
▲ 0.5
14
15
16
(年)
▲ 2.0
1 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 9
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
(資料)
日本証券業協会より、みずほ総合研究所作成
(資料)日本証券業協会より、みずほ総合研究所作成
22
超長期債の今後の見通し② ~ 需給的には良好も日銀の政策変更には警戒
◯
・
◯
・
日銀の金融政策はイールドカーブ全体を押し下げる効果を発揮
長短金利操作目標はイールドカーブを10年分圧縮、20年債が従来のイールドカーブにおける10年債の役割へと変化
ただし、日銀の政策変更に対する警戒感は残存
国債買入の見直しや、長期金利の変動容認により、超長期ゾーンの上昇圧力が高まる懸念
【 日本国債のスプレッド】
(bp)
QQE導入
120
QQE拡大
【 20年債利回りの推計】
NIRP導入
YCC導入
(%)
2.5
100
変化
10年利回り
1bp
ドル円
1円
無担保コールレート
1bp
月次ネット供給(超長期) 1000億
(bp)
bp
1.19
0.00
1.84
0.01
25
20
2.0
15
80
10
1.5
5
60
0
1.0
40
-5
-10
20
0.5
-15
残差
0
-20
実績値
0.0
-25
2013
-20
13/01
推計値
14/01
10-20 spread
15/01
20-30 spread
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
20-40 spread
16/01
(年/月)
2014
2015
2016
(年)
(注) 10年利回り、無担保コールレート、ドル円レート、月次ネット供給(国債発行-日銀買入
オペ)より、20年債利回りを回帰。
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
23
超長期債の今後の見通し③ ~ 20年債の利回りは 0.6%台程度まで上昇余地が存在
◯ 市場が長期金利の上昇容認や国債買入れ縮小を織り込み始めれば、20年国債金利は0.6%台程度まで上昇する見通し
・ 10年国債利回りの変動幅を10bp認めた場合、20年債は12bp上昇する見込み
・ さらに、国債買入を30兆円に減額した場合、20年債は更に10bp程度の上昇圧力へ
◯ マイナス金利で駆け込み需要が生じた一時払い終身保険の予定利率0.75%(16/3末まで)や、2016年度以降の標準利率
の引き下げ等を踏まえると、0.7%を超える水準では投資家の債券積み増しの動きが金利上昇を抑制する可能性
【 長期金利目標を変更した場合】
(%)
0.9
(%)
【量的緩和(超長期ゾーン)を変更した場合】
1.0
0.8
0.8
0.7
0.6
0.6
0.5
0.4
0.4
0.3
0.2
足元のイールドカーブ(10/31)
0.2
0.1
80兆円→60兆円
足元のイールドカーブ(10/31)
10年金利の目標を▲0.1%に設定
0.0
10年金利の目標を0.1%に設定
-0.1
80兆円→30兆円
0.0
量的拡大の停止
10年金利の目標を0.2%に設定
-0.2
10年債
20年債
30年債
40年債
-0.2
10年債
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成。シミュレーションはみずほ総合研究所
20年債
30年債
40年債
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成。シミュレーションはみずほ総合研究所
24
日銀の長期戦下の政策対応の選択肢
~出口も視野にした管理フロートを含めた選択肢~
25
出口も視野にした選択肢
◯ 9月会合で長期戦に対応した「量」から「金利」への目標シフトを実施するも、物価目標達成への道筋は未だ不透明
◯ 今後の選択肢は、デフレ脱却への持久戦下、①出口も意識した管理フロート化、②「質」へのシフトを視野に置くが限界も、
③インフレ目標の弾力化、④政府との一体性強化・成長戦略へのバトンタッチ
【 アベノミクスにおける金融財政政策のロードマップ 】
【金融政策】
2013年
金融緩和策
量的・質的金融緩和
2016年
マイナス金利
付き量的・質
的金融緩和
2020年
長短金利操作付き
量的・質的金融緩和
物価安定
「量」から「金利」への目標シフトを実施
短期決戦型
大胆な金融緩和
「総括的
な検証」
出口も意識した管理フロート
(日本版ペギング)
「質」へのシフトを視野に置くが限界も
物価目標
2%の「物価安定の目標」
政府と日銀の政策連携(共同声明)
【政治日程】
【財政健全化】
インフレ目標の弾力化
政府との一体性強化
成長戦略へのバトンタッチ
東京オリンピック
プライマリーバ
ランス黒字化目標
(資料) みずほ総合研究所作成
26
選択肢① 出口も意識した管理フロート化(日本版ペギング)
【 出口も意識した管理フロート化 】
・トランプ政権への政策期待から米長期金利が上昇。日米金利差の拡大によるドル高・円安進行は日銀の物価
目標達成にとって追い風
・しかしながら、トランプ政権が保護主義スタンスを強めれば、マイナス金利政策やイールドカーブ・コントロールが
円安誘導策と見なされる可能性
・イールドカーブ・コントロールにおける金利目標水準を、物価の温度感、海外金利などを踏まえ柔軟に変動させる
ことで、海外からの批判の回避を企図
‧ イールドカーブを、海外金利の動向にあわせ柔軟に上下に調整。過度な低金利維持による円安誘導策と
の見方を回避
‧ 経済、物価情勢や金融機関収益の状況を踏まえ、いずれマイナス金利を解除することも選択肢に。金利を
柔軟に変更する姿勢を維持することで、マイナス金利の解除が出口政策と見なされない効果も
27
柔軟なイールドカーブ・コントロールによる効果
◯ 日米金利差が拡大する中、イールドカーブを変動させて円安誘導策との見方を回避
【日米10年金利差とドル円相場 】
米国のイールドカーブ
(金利)
金利差拡大を抑制 ⇒ 過度な円安を抑制
日本のイールドカーブ
0%
▲0.1%
10年
(資料) みずほ総合研究所作成
(年限)
28
選択肢② 「質」へのシフトを視野に置くが限界も
【 「質」へのシフトを視野に。ただし、拡大余地は限定的 】
•
•
•
•
更なる国債買入れ増額は実務的に困難、量のウェイトを低下させて質へのシフトを図る
クレジット緩和によって信用仲介機能強化を企図
ただし、市場のゆがみなど副作用が懸念され、拡大余地は限定的
事業会社や金融機関の海外活動のウェイトが高まりをうけて、外貨建て資産の買入れを強化
◯ 量の拡大から質的緩和重視へのシフト
‧ 地方債、政府保証債、証券化商品、外貨建て貸付債権、日本企業の外貨建て社債の買入れ
‧ ETF・REITの追加購入。将来の個人株式間接保有(年金・投信)を展望したETF市場の育成
‧ 買い入れETFの多様化(商品・海外資産等)
‧ ただし、市場のゆがみ等が懸念され、拡大余地は限定的
‧ 金融機関の資金調達支援のため、日銀の金融機関向け貸付金利を引き下げる選択肢も
‧ 日本政府の外貨建て国債・国庫短期証券発行を原資に、日銀がドル特則枠を拡大
29
社債や地方債などに買入れ対象資産を拡充
◯ 日銀は国債以外に社債、CPを買入れ(残高維持)。社債の買入れ額増額や、買入れ対象を地方債、政府保証債などに
拡充することで、信用仲介機能を強めることを企図
‧ 社債は残存期間が1年以上3年以下、格付BBB格相当以上が対象。マイナス金利導入後、企業が発行する社債年限は
長期化しており、買入れ対象年限を長期化する選択肢も
‧ 為替目的でなく、信用仲介拡大の観点から外貨建て資産(社債、貸付債権)の買い取りも
【 主要資産の残高 】
資産
国債
普通社債
【 主要中央銀行の買入れ資産 】
残高
うち日銀保有額
901兆円
348兆円
57兆円
59兆円
-
政府保証債
35兆円
-
財投機関債
33兆円
-
買入れ
拡大の
余地
588兆円
-
住宅貸付
178兆円
-
(注) 残高は2015年度末(日銀保有額は9月末時点)。
(資料) 日本銀行、日本証券業協会より、みずほ総合研究所作成
エージェンシー債
-
年限
購入残高
185億ドル
全年限
エージェンシー
MBS
-
1兆7,400億ドル
カバードボンド
BBB-以上
1,977億ユーロ
規定なし
ECB
(民間金融機関貸出資産)
企業・政府向貸付
対象
FRB
3兆円
地方債
購入対象
買入れ
拡大の
余地
BOE
ABS
A-以上 212億ユーロ
社債
BBB-以上
残存6か月
~30年364日
381億ユーロ
社債
BBB-以上
残存1年以上
31億ポンド
(注) 残高はFRB(2016/11/17)、BOE(2016/11/16)、ECB(2016/10/31)のデータを使用。
(資料) FRB、ECB、BOEより、みずほ総合研究所作成
30
J-REIT買入れ拡大の選択肢
◯ 日銀はETF買入れペースを年3兆円から6兆円に拡大。J-REIT買入れは2015年12月の補完措置で拡大が可能となって
いるが7月会合では見送り。今後の追加緩和の選択肢に
【 日銀が保有するETFの残高と上限目安 】
【 日銀のJ-REIT保有残高 】
ETFの純資産総額 15.8兆円
東証1部の株式時価総額 492兆円
(兆円)
14.0
ETF保有残高
買入れペース約2倍の6兆円に
12.0
ETF保有残高上限目安
10.0
3,500
設備投資・人材投資
積極企業支援枠
0.3兆円設定
3,000
量的・質的緩和:
年間300億円
ペースで買入
(2013年4月)
2,500
8.0
2,000
買入れペース3倍の3兆円に
6.0
銘柄別の買い入れ限度
額を発行済投資口総数
の5%から10%に変更
(2015年12月)
(億円)
J-REITの純
資産総額
7.8兆円
1,500
量的・質的金融緩和導入
4.0
買い入れペースを
年間900億円に
(2014年10月)
1,000
500
2.0
0
11
12
13
14
0.0
11/1
12/1
13/1
14/1
15/1
16/1
(年/月)
15
16
(年)
(資料) 日本銀行、EDINETよりみずほ総合研究所作成
(注)保有残高は買い入れ時点の金額の累計であり、時価変動は含まない。
(資料)日本銀行より、みずほ総合研究所作成
31
ETF買入れは日本株の下支え効果。ただし、限界も認識に
◯ ETF買入れペースの年6兆円は、2013~2015年の海外投資家の年平均買越し額5.2兆円を上回る規模であり、株価の下
支え効果が期待
◯ ただし、株価急落時には引当金を計上する必要。保有額増加により日銀の財務リスクが高まる懸念
◯ 市場をゆがめる等の認識からも金融政策上の限界も認識に
【 日銀によるETFの買入れ 】
【 日銀が引当金を計上する日経平均株価の水準試算 】
(兆円)
日銀の
ETF買
入れ額
株式ネット買い越し額
(マイナスは売り越し)
(%)
(円)
0.0
16,000
▲ 1.0
個人
事業
法人
金融
機関
海外投
資家
▲ 2.0
15,500
▲ 3.0
2013
~2015
年累計
5.4
-17
4.7
-0.1
15.7
年平均5.2兆円
▲ 4.0
▲ 5.0
15,000
▲ 6.0
▲ 7.0
2015年
3.1
-5.0
3.0
2.0
-0.3
▲ 8.0
14,500
下落率(2016年9月末比)
日経平均株価(右目盛)
▲ 9.0
年間約6兆円に倍増
(資料) 日本銀行より、みずほ総合研究所作成
▲ 10.0
14,000
17/3 17/9 18/3 18/9 19/3 19/9 20/3 20/9 21/3
(年/月)
(注)2016年9月末の株価水準で年間6兆円のペースで買入れた場合。
(資料)日銀、Bloombergより、みずほ総合研究所作成
32
外貨調達支援策の拡充に向け政府との連携
◯ リスクテイクへの構造転換において、政府・日銀による貸出支援やドル資金調達サポートも重要
‧ 日銀は7月会合で米ドル特則の拡大など外貨資金調達サポート策を決定。米ドル特則は日銀が保有する外貨により行わ
れており限界も。今後、政府による外貨準備等の活用による金融機関、企業のドル調達サポート等が必要に
‧ イタリア、カナダ、英国は外貨建てでの国債を発行。日本政府が外貨建て国債・国庫短期証券を発行し、これを原資に日
銀がドル特則枠を拡大して金融機関にドル資金を供給する手法も
【 外貨準備の資産内訳 】
A. 外貨準備
【 各国の通貨別資金調達内訳 】
債務額
(億ドル)
1,265.4
1. 外貨
1,202.7
うち外貨建
(億ドル)
(a)証券
1,077.6
日本
100,053
0
(b)預金
125.1
米国
135,316
0
英国
20,155
4(人民元)
外国中央銀行及びBISへの預金
124.4
本邦金融機関への預金
0.6
外国金融機関への預金
0.0
2. IMFリザーブポジション
12.4
3. SDR
17.3
4. 金
32.5
5. その他外貨準備
B. その他外貨準備資産
うち国際協力銀行向け貸付
(注)2016年6月末。単位は10億ドル。
(資料)財務省より、みずほ総合研究所作成
101(米ドル)
30(円)
22(ポンド)
10(スイスフラン)
3(チェコ)
114(米ドル)
22(ユーロ)
イタリア
21,324
0.5
カナダ
7,314
63.5
ドイツ
16,872
0
フランス
20,531
0
61.9
(注)ドル換算(2016年8月)
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
33
選択肢③ インフレ目標弾力化
【 インフレ目標の弾力化 】
•
•
世論でも金融緩和だけでデフレ克服は困難という意識が高まる状況。物価一辺倒の目標を修正
米国ですら2%の物価目標を達成できないなか、日本でも現実的な目標を提示することで、市場参加者の過度
な金融緩和期待を抑制、金融緩和の長期戦入りを明らかにする
◯ 物価目標の位置づけを見直すことで、緩和の長期戦に対応
‧ 物価目標2%をできるだけ早期に実現するという方針は残しつつ、長期的な(最終)目標に次第に変更
‧ 物価目標の達成に諸外国の例も参考にした例外措置(原油価格変動、税率変更、天災、政府の重大な政
策変更の影響等)の検討
‧ 参照値の位置づけで目標多様化(成長率、需給ギャップをプラス化、賃金上昇率の引き上げ等)を提示。
物価目標未達での市場での追加緩和期待を抑制
34
選択肢④ 政府との一体性強化・成長戦略へのバトンタッチ
【 政府との一体性強化 】
•
•
•
ヘリコプターマネーへの期待が高まるなか、直接的な対応は避けつつも政府との一体性を強化
国債買入れ額を増額するとオペ可能期間は一層短期化。償還リスク抑制の点から超長期国債の購入を増額
超長期国債市場を育成させるためには、国債発行サイドのサポート、国債管理政策との協調が必要
◯ 政府の超長期債発行増額とセットで国債買入れの対象年限を長期化
‧ 政府は超長期国債を増発し、日銀が市場から超長期の国債買入れに
‧ 国債買入れのアベイラビリティを高めるためには、緊急措置として札割れした金額だけ政府が日銀に対し
て直接国債を発行するという選択肢も
【 成長戦略へのバトンタッチの明確化 】
•
•
•
日銀は、総括的検証で構造改革や成長力強化に向けた取り組みによる自然利子率引き上げの重要性を指摘
物価目標達成には金融政策だけでなく、政府の成長戦略が必要とのスタンスを更に強く示す
日銀は、物価目標2%導入の際、2%実現の条件として「日本経済の競争力と成長力の強化に向けた幅広い主
体の取組の進展に伴い、持続可能な物価の安定と整合的な物価上昇率が高まっていく」との認識を示す。物価
目標が達成できない要因として成長戦略が不十分であることを示すことは整合的
◯ 日銀の金融政策への過度な期待の一端を政府と一体で担うとの姿勢を表明。金融政策に対する過度な期
待を回避する効果
◯ デフレ回避には金融政策だけでなく、財政政策や構造対策等の総合的対策が重要とのメッセージの共有
35
FTPL、財政と金融政策との一体化の新たな世界的潮流、金融政策の限界を意識
◯
◯
‧
‧
近年、金融政策のみではインフレの長期的変動をコントロールできないとする理論が注目
物価の財政理論(FTPL)では、物価水準を決めるのは金融政策ではなく財政政策である
政府と中央銀行のバランスシートを連結した一体運営を仮定した理論
FTPLは金融政策の限界を念頭に、デフレ下において、金融政策の効果が低減するなか、金融政策と財政政策を一体運
営することで、物価に働きかけるもの
【 政策に影響を与えた経済学派の変化 】
< 経済環境 >
< 重視される政策 >
(1936年)
世界大恐慌(1929年)
ケインズ:一般理論
財政政策
重視
(1970年代)
スタグフレーション
(高インフレ・高失業率)
フリードマン:第2次マネタリスト革命
(1972年)
金融政策
重視
ルーカス:合理的期待仮説
リーマンショック(2008年)
(2000年代)
3L(低成長・低インフレ・
低金利)の世界
物価水準の財政理論(FTPL)
財政重視
(金融・財政の一体運営)
(資料) みずほ総合研究所作成
36
金融政策と財政政策の一体化させた政策論議がスタート
◯ クリストファー・シムズ氏(プリンストン大教授)は、今年のジャクソンホール会合の基調講演で、「金融政策が効果を発揮
するには財政政策の裏付けが必要」と主張
◯ 浜田宏一氏(エール大名誉教授)は最近、シムズ氏の議論を踏まえて、財政政策の重要性を強調するスタンスに変化
【 Simsの政策提言 】
○金利引き下げが需要を刺激するのは、効果的な財政拡張策
を伴う場合のみ。例えば、マイナス金利によって銀行や貯蓄
者から抽出された資源が、減税や歳出増加ではなく、財政赤
字の削減に全て使われれば、マイナス金利はデフレ圧力を
もたらす
○必要なのは、「財政政策が金融政策と協調してインフレ率の
上昇を目指している」と認識されること。日本では、将来の
消費増税計画を明示的にインフレ目標の達成と維持に結び
つける(=インフレ目標達成までは消費増税を見送る)ことに
よって、それが果たされるだろう
○財政政策も金融政策も、民間の消費・投資等の支出決定に
与える効果を十分見てから行うべき
【 「長期的」な低インフレを説明する各種理論 】
理論
提唱者
長期停滞論
Summers
格差拡大による需要不足(貯蓄過
剰)が長期的な低インフレの一因
(参考)供給側の
長期停滞論
Gordon
生産性低迷の原因は、これまでの産 これだけでは、低イン
業革命(特に、第2次)による生産性 フレを説明できないと
上昇率押し上げ効果の終焉
の指摘あり
Simsなど
物価水準の財政
理論
木村他(日
銀)
備考
財政健全化の計画が低インフレの原
因。処方箋として財政拡張を提案
潜在成長率の低下を組み合わせる
処方箋は、一義的に
ことで、日本の長期的な低インフレを
定まるわけではない
説明
Andrade and 財政拡張は、むしろスタグフレーショ
Berriel
ンになる恐れを指摘
インフレ率の財政
理論
Sargentなど
(参考)貨幣数量説
(資料)Christopher Sims ”Fiscal Policy, Monetary Policy and Central Bank Independence”
(2016年8月27日のジャクソンホール会合における基調講演)等より、みずほ総合
研究所作成
内容
財政政策のスタンスも、インフレ率の
重要な決定要因
マネタリーベースが増えれば、物価
も上昇する
(資料) みずほ総合研究所作成
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財政・金融政策の一体化によりバランスシート調整は最終局面に
◯ 日銀は質的・量的緩和政策により民間金融機関から国債を買入れ。金融政策と財政政策の一体化によりバランスシート
調整は最終局面に
【 バランスシート調整の最終局面概念図 】
(肩代わり)
成長戦略
企業・家計
国
財政・金融政策
の一体化
日銀による
国債金利リスクの
肩代わり
債
先行き期待改善
政府(公的セクター)
負担の順序
財政拡大
海外資金
生産性向上
外需(自国通貨安)
金融機関
量的金融緩和(国債購入)
国債市場管理相場化
日
銀
(資料)みずほ総合研究所作成
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日銀が財政支援の観点から、現状の金利ターゲットは長期間据え置きも
◯ 低金利を維持すれば、公債等残高比率(GDP比)は安定化可能(いわゆる「ドーマー条件」)。日銀が政府の財政をサ
ポートするスタンスを強めれば、現状の金利ターゲットが長期間据え置きとなる可能性
‧ 政策的には、日銀の低金利政策長期化と2019年消費税引き上げ凍結の可能性も
【 (参考)試算の前提となる
【プライマリー・バランスと公債残高の見通し 】
プライマリー・バランス
試算値
(対GDP比、%)
▲ 1.0
(対GDP比、%)
試算値
④
20年度:▲2.1%
(目標:黒字化)
▲ 1.5
名目成長率と名目金利(10年債) 】
公債等残高
225
220
▲ 2.0
(%)
2.5
③
2.0
②
①
1.5
見通し
名目GDP
成長率
④
1.0
▲ 2.5
215
③
0.5
▲ 3.0
210
▲ 3.5
②増税凍結&長期金利固定
2017年4月増税
2019年10月増税(メイン)
▲ 4.0
③増税凍結&緩やかに上昇
205
▲ 4.5
16
18
20
①②
10年債
利回り
▲ 0.5
①②長期金利固定
③緩やかに上昇
④増税凍結&急ピッチで上昇 ▲ 1.0
増税凍結
2014
0.0
①メインシナリオ
22
200
24 (年度)
2014
16
18
20
22
24 (年度)
(注)1. 増税凍結については、消費増税の変化のみを考慮した数値であるため、試算値については幅をもってみる必要がある。
2. 公債等残高は、一般政府の「株式以外の証券(負債)」を使用。
(資料)内閣府「国民経済計算」、財務省資料などより、みずほ総合研究所作成
④急ピッチで上昇
▲ 1.5
2010 12
14
16
18
20
22
24
(年度)
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出口に向けて不可欠な三位一体策(財政・金融政策・金融機関)
◯ 出口に向けて財政政策と金融政策は一体化
◯ 財政政策と金融政策の一体化のなかに組み込まれた金融機関
◯ 金融機関は日銀に金利リスクを肩代わりしてもらう猶予期間にポートフォリオのリバランス
【出口における三位一体策(金融機関・財政・金融政策) 】
[金融機関]
金融システム安定
[財政]
財政の持続性
金利上昇抑制
ポートフォリオの修正
金利上昇抑制
財政再建努力
三位一体出口戦略
金利市場安定へ向けた市場との対話
[金融政策]
物価・資産価格安定
2%目標 → 総合判断へ
(資料) みずほ総合研究所作成
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銀行は「水中生活」に耐えられるか
◯ 銀行は、2020年程度を想定し、「水中生活」に耐えうる収益性確保、ポートフォリオ・リバランスが大きな課題に
◯ 米国のペギング時(1940年代)は、長期金利水準が2.5%と十分な長短金利差が存在
◯ マイナス金利状況下、金融システム上の問題も生じうるだけに出口に向けた環境改善は急務。マイナス金利によるマイン
ドの悪化や、金融機関収益悪化などの副作用が検証されれば、マイナス金利を引き上げるインセンティブとなる可能性も
【 イールドカーブ・コントロールのイメージ 】
(%)
0.8
量的緩和(国債購入)
オーバーシュート型
コミットメント(時間軸)
0.6
長期金利操作目標
「ゼロ%程度」
0.4
政策金利
「▲0.1%」
0.2
保険(年金)の領域
金利圧縮による
逆ざや不安
0.0
銀行の領域
▲ 0.2
事実上、長短金利差喪失
▲ 0.4
ターゲット(指値オペも)
マイナス金利
▲ 0.6
0
5
10
15
20
25
30
(残存年数)
(資料)みずほ総合研究所作成
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〔本資料に関する問い合わせ先〕
みずほ総合研究所 調査本部
市場調査部 野口 雄裕
TEL :03-3591-1249
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