2016・17年度 内外経済見通し

2016・17年度 内外経済見通し
~世界経済は緩やかに持ち直し、トランプは世界を変えるか~
2016.11.15
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見通しのポイント
○ 2017年の世界経済は持ち直すが、低成長・低インフレ・低金利状況継続
○ 欧州政治問題や中国構造調整などの不安要素が残存する中、引き続き下振れリスクに警戒
○ 米大統領選は予想外にトランプ氏勝利。トランプ新大統領の政策が世界の金融財政政策のフ
レームワークのゲームチェンジャーとなる可能性があり、今後の動向に注目
○ 米国の財政拡張と利上げのポリシーミックスはドル高圧力に。ただし、過度なドル高は米国経
済や新興国経済の下振れ要因になり、米国が保護主義姿勢を強めるきっかけにも
○ 世界貿易は構造的要因で当面低迷、世界経済の下押し圧力
○ 日本経済は2017年にかけ持ち直すも、内外需ともに力強さに欠け、公需依存
○ 安倍政権の歴代最長が視野に入る中、アベノミクスも長期戦へ。財政政策への期待高まるも、
経済効果は一時的。今後の方向性は政策総動員により「包摂的成長(Inclusive Growth)」へ
○ グローバルな低金利環境は不変だが、米国新政権期待での金利上昇圧力に留意
1
《構 成》
Ⅰ.全体概要
P 3
Ⅱ.海外経済
P 27
(1)米国経済
P 28
(2)ユーロ圏経済
P 33
(3)アジア経済
P 39
Ⅲ.日本経済
P 44
Ⅳ.金融市場
P 53
2
Ⅰ.全体概要
~世界経済は持ち直し、米新大統領の政策に注目~
3
(1)見通し概要 ~ 2017年の世界経済は持ち直しを見込むも、米国の動向がカギ
◯ 予測対象地域計の成長率は、2017年に向けて持ち直しの見方を維持するが、力強さに欠け、下振れリスクに脆弱
‧ 2016年は7~9月期の成長率が予想対比で全般に上振れたことを受け、先進国やアジアを中心に上方修正
‧ 2017年は米国や資源国の回復から持ち直し。ただし、先進国やアジアの成長率は2015年を下回る水準
【 世界経済見通し総括表 】
(前年比、%)
暦年
2014年
2015年
2016年
2017年
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
(%ポイント)
2016年
2017年
(9月予測)
2016年
2017年
(9月予測からの修正幅)
3.6
3.4
3.3
3.6
3.2
3.6
0.1
-
日米ユーロ圏
1.6
2.1
1.4
1.6
1.3
1.6
0.1
-
米国
2.4
2.6
1.5
2.1
1.4
2.2
0.1
▲ 0.1
ユーロ圏
1.2
2.0
1.6
1.1
1.5
1.1
0.1
-
▲ 0.0
0.6
0.7
1.0
0.5
0.7
0.2
0.3
6.4
6.1
6.1
6.0
6.0
6.0
0.1
-
中国
7.3
6.9
6.7
6.5
6.6
6.5
0.1
-
NIEs
3.4
1.9
1.9
2.1
1.9
2.2
-
▲ 0.1
ASEAN5
4.6
4.8
4.8
4.6
4.8
4.6
-
-
インド
7.0
7.2
7.6
7.5
7.6
7.5
-
-
オーストラリア
2.7
2.4
2.8
2.5
2.8
2.5
-
-
ブラジル
0.1
▲ 3.8
▲ 3.2
1.2
▲ 3.2
1.0
-
0.2
ロシア
0.7
▲ 3.7
▲ 0.7
1.0
▲ 1.2
1.0
0.5
-
日本(年度)
▲ 0.9
0.9
0.9
1.0
0.6
0.9
0.3
0.1
93
49
43
55
42
45
1
10
予測対象地域計
日本
アジア
原油価格(WTI,$/bbl)
(注)予測対象地域計はIMFによる2014年GDPシェア(PPP)により計算。
(資料)IMF、各国統計より、みずほ総合研究所作成
4
日本:2017年度にかけて持ち直すも、公需依存
◯ 2016年度は、海外経済の減速や円高の影響が成長率を下押し。一方、公的需要の増加や個人消費の底入れが下支えと
なるため、成長率は+0.9%と15年度から横ばいを見込む
‧ 9月時点の予測値(+0.6%)からは上方修正。ITサイクルの改善による外需の上振れや在庫調整圧力の緩和などが要因
◯ 17年度の成長率は、経済対策の進捗本格化などから、成長率は+1.0%に上昇(9月予測の+0.9%から小幅上方修正)
【 日本経済見通し総括表 】
2014
2015
2016
2017
年度
実質GDP
内需
2015
7~9
2016
10~12
1~3
4~6
2017
7~9
10~12
1~3
4~6
2018
7~9
10~12
1~3
前期比、%
▲ 0.9
0.9
0.9
1.0
0.4
▲ 0.4
0.5
0.2
0.5
0.1
0.1
0.3
0.3
0.3
0.3
前期比年率、%
--
--
--
--
1.6
▲ 1.6
2.1
0.7
2.2
0.2
0.4
1.3
1.3
1.3
1.2
前期比、%
▲ 1.5
0.8
0.8
1.1
0.4
▲ 0.5
0.4
0.3
0.1
0.4
0.2
0.3
0.3
0.3
0.2
前期比、%
0.6
0.9
0.5
▲ 0.6
0.3
0.4
0.1
0.3
0.1
0.2
0.3
0.3
0.2
▲ 1.9
0.8
個人消費
前期比、%
▲ 2.9
▲ 0.1
0.6
0.9
0.5
▲ 0.8
0.7
0.1
0.1
0.2
0.2
0.3
0.3
0.3
0.3
住宅投資
前期比、%
▲ 11.7
2.4
6.6
▲ 5.2
1.2
▲ 0.4
▲ 0.3
5.0
2.3
0.8
▲ 2.6
▲ 2.4
▲ 2.4
▲ 0.2
0.7
設備投資
前期比、%
0.1
2.1
0.5
1.6
0.8
1.2
▲ 0.7
▲ 0.1
0.0
0.5
0.4
0.5
0.3
0.4
0.3
在庫投資
前期比寄与度、%Pt
0.6
0.3
▲ 0.1
0.0
▲ 0.0
▲ 0.1
▲ 0.1
0.1
▲ 0.1
0.0
▲ 0.0
0.0
0.1
▲ 0.0
▲ 0.1
前期比、%
▲ 0.3
0.7
1.5
1.7
▲ 0.0
▲ 0.1
0.8
0.1
0.2
0.9
0.5
0.4
0.3
0.3
0.3
政府消費
前期比、%
0.1
1.6
1.3
1.3
0.3
0.6
0.9
▲ 0.3
0.4
0.4
0.4
0.3
0.3
0.3
0.3
公共投資
前期比、%
▲ 2.6
▲ 2.7
2.1
3.5
▲ 1.2
▲ 3.4
0.0
2.3
▲ 0.7
3.1
0.8
0.8
0.7
0.5
0.3
前期比寄与度、%Pt
0.6
0.1
0.1
▲ 0.0
▲ 0.0
0.1
0.1
▲ 0.2
0.5
▲ 0.4
▲ 0.1
0.0
0.0
0.0
0.1
輸出
前期比、%
7.9
0.4
0.6
2.6
2.6
▲ 1.0
0.1
▲ 1.5
2.0
0.7
0.5
0.5
0.5
0.6
0.6
輸入
民需
公需
外需
前期比、%
3.4
0.0
0.0
2.8
2.4
▲ 1.2
▲ 0.6
▲ 0.6
▲ 0.6
2.7
1.1
0.2
0.4
0.3
0.3
名目GDP
前期比、%
1.5
2.3
1.0
0.9
0.8
▲ 0.3
0.8
0.1
0.2
0.2
▲ 0.3
0.6
0.3
0.5
0.0
GDPデフレーター
前年比、%
2.5
1.4
0.0
▲ 0.1
1.7
1.5
0.9
0.7
▲ 0.1
0.1
▲ 0.6
▲ 0.4
▲ 0.0
▲ 0.1
0.1
前年比、%
2.1
▲ 0.2
▲ 0.5
0.7
▲ 0.1
▲ 0.2
▲ 0.5
▲ 0.7
▲ 1.0
▲ 0.3
▲ 0.1
0.2
0.7
0.8
1.0
内需デフレーター
(注)網掛けは予測値。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」より、みずほ総合研究所作成
5
日本:原油の持ち直しから、コアインフレ率は1%台まで上昇。物価の基調は0%台前半
【 日本経済見通し総括表(主要経済指標) 】
2014
2015
2016
2017
年度
2015
7~9
2017
2016
10~12
1~3
4~6
7~9
10~12
1~3
4~6
2018
7~9
10~12
1~3
鉱工業生産
前期比、%
▲ 0.5
▲ 1.0
0.5
1.9
▲ 1.0
0.1
▲ 1.0
0.2
1.3
0.4
0.5
0.5
0.4
0.3
0.3
経常利益
前年比、%
5.1
3.5
▲ 5.9
0.8
8.5
▲ 3.1
▲ 9.6
▲ 9.5
▲ 5.8
▲ 3.7
▲ 4.1
▲ 1.5
0.3
2.3
2.1
名目雇用者報酬
前年比、%
1.9
1.7
1.9
2.0
1.7
1.9
2.5
2.0
2.0
1.9
1.9
1.9
2.1
2.1
1.9
%
3.5
3.3
3.1
3.0
3.4
3.3
3.2
3.2
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
新設住宅着工戸数
年率換算、万戸
88.0
92.1
97.4
91.5
91.7
86.8
94.7
100.5
98.2
96.6
93.5
92.1
91.7
91.2
91.2
経常収支
年率換算、兆円
8.7
18.0
20.0
18.0
15.9
19.2
19.9
18.5
19.6
22.3
17.4
18.8
15.3
19.5
16.4
国内企業物価
前年比、%
2.7
▲ 3.2
▲ 2.7
1.4
▲ 3.7
▲ 3.7
▲ 3.5
▲ 4.4
▲ 3.6
▲ 2.1
▲ 0.6
0.6
1.5
1.7
1.9
消費者物価(除く生鮮食品)
前年比、%
2.8
▲ 0.0
▲ 0.2
0.9
▲ 0.2
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.4
▲ 0.5
▲ 0.3
0.1
0.4
0.8
1.1
1.2
消費者物価(同上、除く消費税) 前年比、%
0.7
▲ 0.0
▲ 0.2
0.9
▲ 0.2
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.4
▲ 0.5
▲ 0.3
0.1
0.4
0.8
1.1
1.2
消費者物価(除く食料(酒類除く)
前年比、%
及びエネルギー、除く消費税)
0.5
0.5
0.2
0.2
0.5
0.6
0.6
0.5
0.2
0.0
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
完全失業率
無担保コール翌日物金利
%
0.02 ▲ 0.00 ▲ 0.05 ▲ 0.05
0.01
0.04 ▲ 0.00 ▲ 0.06 ▲ 0.06 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05
新発10年国債利回り
%
0.48
0.39
0.31
日経平均株価
円
対ドル為替相場
WTI原油先物最期近物
0.29 ▲ 0.07 ▲ 0.05
16,273 18,841 16,900 18,400
19,412 19,053
0.06 ▲ 0.12 ▲ 0.13 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05 ▲ 0.05
16,849 16,408 16,497 17,300
17,500 17,900 18,200 18,600
19,000
円/ドル
110
120
105
106
122
121
115
108
102
106
104
105
105
106
107
ドル/バレル
81
45
47
58
47
42
34
46
45
47
50
52
56
59
62
(注)1.網掛けは予測値。実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
2.経常利益は法人企業統計の全規模・全産業ベース(金融・保険、電気業を除く)。
3.完全失業率、新設住宅着工戸数、経常収支の四半期は季節調整値。
4.金融関連の指標について、無担保コール翌日物金利は期末値、新発10年国債利回りは月末値の期中平均値、その他は期中平均値。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」、経済産業省「鉱工業指数」、財務省「法人企業統計季報」、総務省「労働力調査」、「消費者物価指数」、国土交通省「建築着工統計調査報告」、
日本銀行「国際収支」、「企業物価指数」、「金融経済統計月報」、「外国為替相場」、日本相互証券㈱「主要レート推移」、日本経済新聞、Bloombergより、みずほ総合研究所作成
6
(2) 世界経済の全体観 ~ 先進国、新興国ともに持ち直し
◯ 7~9月期の実質GDP成長率は日米欧がそろって改善するなど、世界的に景気は持ち直し
‧ 企業の景況感(製造業)は先進国、新興国とも改善傾向で、先進国は2015年前半の水準を回復
‧ 中国経済の底堅さや原油価格の戻りから年初と比較して新興国経済には安心感が広がりつつある
【 先進国と新興国の製造業PMI 】
(Pt)
56
【 OECD景気先行指数(BRICs) 】
(長期平均=100)
104
世界
先進国
新興国
中国
ブラジル
インド
ロシア
103
54
持ち直し
102
改善を示唆
減速
拡張
101
52
100
← 景気
99
50
→縮小
98
減速
停滞
48
97
2014
15
(資料) Markitより、みずほ総合研究所作成
16
(年)
11
2011
12
13
14
15
16
(年)
(資料) OECDより、みずほ総合研究所作成
7
ただし、3L(低成長・低インフレ・低金利)の状況は長期化
◯ 2017年の世界経済は改善を見込むも、低成長・低インフレ・低金利の状況は変わらず
‧ 世界全体の成長率やインフレ率はリーマン・ショック以前の水準に比べて下振れた状態が続く
‧ 長期金利はマイナス金利政策の日欧はゼロ近傍、利上げ局面の米国も上昇には歯止め
【 世界の成長率とインフレ率 】
(%)
7
実質成長率
【 主要先進国の長期金利 】
(%)
7
インフレ率
米国
ドイツ
6
予想
6
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
▲1
日本
予想
▲1
2003 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(注) インフレ率はCPI。予想はIMF。
(資料) IMFより、みずほ総合研究所作成
1996
98
2000
02
04
06
08
10
12
14
16
(年)
(注) 長期金利は各国10年国債利回り。予想はみずほ総合研究所。
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
8
金融緩和の限界が意識される中、グローバルな財政拡張路線へのレジームシフトも
◯ 金融政策の限界も意識される中、一部で財政・構造改革強化の動きも
【 2017年に向けた各国の金融・財政政策及び構造改革の比較 】
国・地域
金融政策
財政政策
構造改革
米国
年内12月の利上げ後、様子 トランプ氏は大型減税を掲げ 規制緩和(医療、エネルギー)、
見 。 次 の 利 上 げ は 早 く て も ており、歳出面でも国防費や オバマケア廃止、保護主義、
2017年半ば
インフラ投資が拡大
排外主義などが混在
欧州
ECBは量的緩和の期間を延
長の見込み。BOEは包括緩
和を継続
一部国は拡張財政を志向す
るもユーロ圏全体では2017年
に小幅な緊縮財政の見込み
雇用促進(企業の労働コスト
圧縮や就業可能性の向上等)
や不良債権への対応が主
日本
緩和長期化を見据えイールド
カーブ・コントロールを導入。
当面現状政策維持の見込み
事業規模で28兆円の景気対
策を決定。来年度予算は「ア
ベノミクスの成果」活用を検討
2016年度内に「働き方改革実
行計画」を策定予定。規制改
革は目玉を欠く状況
中国
不動産バブル抑制のための
行政措置をとりつつ、緩和的
な金融環境を基本的に維持
積極的かつ機動的な財政政
策を継続する見込み。インフ
ラ関連支出を積み増し
過剰生産能力淘汰、債務削
減、新産業育成など「サプライ
サイドの構造改革」を継続
米国の利上げ観測が続く中、
資金流出を懸念して新興国
は追加緩和に慎重
拡大余地の限られる国が多く、 ブラジル、アルゼンチン、フィ
輸入を刺激して資金流出に繋 リピン等、政権交代を経て改
がる懸念もあり、総じて慎重
革姿勢が一部で強まる
その他
新興国
(資料) みずほ総合研究所作成
9
財政政策の意義を強調する理論が台頭、トランプ減税も後押し
◯ 近年、金融政策のみではインフレの長期的変動をコントロールできないとする理論が注目
◯ クリストファー・シムズ氏(プリンストン大教授)は、今年のジャクソンホール会合の基調講演で、「金融政策が効果を発揮
するには財政政策の裏付けが必要」と主張。トランプン氏の大幅減税を含め、財政活用がグローバルな潮流に
◯ 浜田宏一氏(エール大名誉教授)は最近、シムズ氏の議論を踏まえて、財政政策の重要性を強調するスタンスに変化
‧ 従前の浜田氏は、金利上昇により民間投資が抑制される「クラウディングアウト」懸念から、財政政策には懐疑的な見方
‧ 今は、日銀の長期金利操作によりクラウディングアウトは回避でき、財政の助けで金融緩和がより効果を発揮すると主張
【 「長期的」な低インフレを説明する各種理論 】
理論
提唱者
長期停滞論
Summers
格差拡大による需要不足(貯蓄過
剰)が長期的な低インフレの一因
(参考)供給側の
長期停滞論
Gordon
生産性低迷の原因は、これまでの産 これだけでは、低イン
業革命(特に、第2次)による生産性 フレを説明できないと
上昇率押し上げ効果の終焉
の指摘あり
Simsなど
物価水準の財政
理論
木村他(日
銀)
内容
インフレ率の財政
理論
Sargentなど
(参考)貨幣数量説
(資料) みずほ総合研究所作成
備考
財政健全化の計画が低インフレの原
因。処方箋として財政拡張を提案
潜在成長率の低下を組み合わせる
処方箋は、一義的に
ことで、日本の長期的な低インフレを
定まるわけではない
説明
Andrade and 財政拡張は、むしろスタグフレーショ
Berriel
ンになる恐れを指摘
財政政策のスタンスも、インフレ率の
重要な決定要因
マネタリーベースが増えれば、物価
も上昇する
【 Simsの政策提言 】
○金利引き下げが需要を刺激するのは、効果的な財政拡張策
を伴う場合のみ。例えば、マイナス金利によって銀行や貯蓄
者から抽出された資源が、減税や歳出増加ではなく、財政赤
字の削減に全て使われれば、マイナス金利はデフレ圧力を
もたらす
○必要なのは、「財政政策が金融政策と協調してインフレ率の
上昇を目指している」と認識されること。日本では、将来の
消費増税計画を明示的にインフレ目標の達成と維持に結び
つける(=インフレ目標達成までは消費増税を見送る)ことに
よって、それが果たされるだろう
○財政政策も金融政策も、民間の消費・投資等の支出決定に
与える効果を十分見てから行うべき
(資料)Christopher Sims ”Fiscal Policy, Monetary Policy and Central Bank Independence”
(2016年8月27日のジャクソンホール会合における基調講演)等より、みずほ総合
研究所作成
10
(3) 米国大統領選 ~ トランプ氏勝利、議会選挙は共和党が上下両院で多数党維持
◯ 保護主義的な傾向の強さ等、トランプ氏の主張は議会共和党と距離
‧ 過激な提案を議会がどこまで修正できるかが焦点に
【 大統領選挙結果(得票率) 】
【 上院(議席割合) 】
【 下院(議席割合) 】
(年)
(年)
(年)
1984
1984
1984
88
88
88
92
92
92
96
96
96
2000
民主党
共和党
2000
民主党
共和党
2000
04
04
04
08
08
08
12
12
12
16
16
16
(%)
トランプ氏の勝利
(%)
共和党が多数党
民主党
共和党
(%)
共和党が多数党
(注)空白は二大政党以外の候補、未定議席等。
(資料)Brookings Institute, 報道資料により、みずほ総合研究所作成
11
財政政策が実現なら経済を大幅押し上げ。一方、保護主義・排外主義はリスク
◯ トランプ氏の経済政策により生じる追加的な財政赤字の規模は、10年間で5.3兆ドル程度の見込み
‧ 所得税・法人税率の引き下げ等をはじめ、大型の減税を計画
‧ 減税は景気刺激効果を持つが、貿易障壁の導入と厳格な移民政策、不確実性の高まり等が成長率の押し下げ要因に
【 経済政策にかかる財政コスト(10年間累計) 】
【 トランプ提案の経済政策 】
財政赤字 10年間で5.3兆ドル拡大
大規模減税
税制
財政
【法人】
・法人税率を15%(現在35%)へ引き下げ
・本国に還流していない海外利益に対して1回限定で課税
【個人】
・所得税区分の簡素化、従来の7区分から12%、25%、33%の3区分に変更
・所得控除の利用制限(増税)
インフラ投資の拡大、教育支援、オバマケアの廃止
歳出
移民
【インフラ投資】クリントン氏を上回る規模の投資拡大
【教育支援】授業料や教育ローンの負担を軽減
【医療政策】オバマケアの廃止、個人向け医療貯蓄口座の促進、規制緩和
移民枠の制限、米国の労働者を優先して雇用
保護主義的な姿勢
貿易
最低賃金
GDP成長率
への影響
TPP反対、NAFTA再交渉
為替操作国に対する罰則規定の設定
中国、メキシコの輸入品にそれぞれ45%、35%の関税を課す意向
明確でない
【トランプ氏の政策を全て実行】
2017~2020年の平均成長率の現状見通しとのかい離:▲1.6~▲4.6%ポイント
【議会による制約大】
2017~2020年の平均成長率の現状見通しとのかい離:▲0.8~▲0.9%ポイント
(注)GDPへの影響は、Oxford Economics(2016)、Moody’s(2016)のレポートから引用。
(資料) 各種資料より、みずほ総合研究所作成
(財政赤字への追加的な影響、兆ドル)
7
6
5.3兆ドル
の赤字拡大
減税
5
4
3
2
1
0
▲1
歳出減
▲2
歳入
歳出
利払い
合計
(注)現行法に基づくベースラインとのかい離。10年間の累積。
プラスが連邦政府債務の増加(拡張的政策)、マイナスが減少(緊縮的政策)。
(資料)CRFB資料(2016年9月22日)より、みずほ総合研究所作成
12
最初の100日間の工程表:トランプ政権の大型減税に注目
◯ トランプ氏は、就任初日に実行する7つの措置と、最初の100日間で立法化を目指す10の措置を発表済み
‧ 就任初日の措置には、通商関連を中心に、大統領権限で断行できると思われる内容を選択
――― NAFTA再交渉、TPPからの撤退等が宣言される見込み
‧ 最初の100日間については、大型減税を含む税制改革が目玉
――― 税制変更に限れば、「財政調整法」と呼ばれる措置により、民主党の妨害を受けても、共和党だけで立法化可能
――― 遡及措置がない場合、2018年初頭に減税が実施されることに
【 就任初日に実行する措置 】
【 最初の100日間で立法化を目指す措置 】
① 税制改革(所得税、法人税、法人国際課税)
① NAFTA再交渉、もしくは脱退の意図を発表
② 企業の海外移転を阻止するための税制改革
② TPPからの撤退を発表
③ 中国を為替操作国に認定
実行すれば、
米国を含む
世界に激震
③ エネルギー開発、インフラ投資の促進
④ 教育改革(学校選択の自由度向上等)
⑤ オバマケア廃止
④ 貿易相手国の不正捜査を開始、あらゆる手段で対抗
⑥ 育児・介護支援
⑤ 米国内におけるエネルギー開発関連規制の緩和
インフラ建設を阻害する政策の撤廃、キーストーン・
⑥
パイプラインの建設認可
⑦
国連による温暖化対策への資金拠出撤回、国内の
水道・環境関連インフラ投資の財源に
(資料)トランプ氏HP資料より、みずほ総合研究所作成
⑦ 不法移民対策(防壁建築等)
米国内のエネルギー
投資加速。
しかし、国際的な
対米批判避けられず
⑧ コミュニティの安全確保(凶悪犯罪対策強化等)
⑨ 安全保障改革(国防費強制削減廃止等)
⑩ 政治腐敗対策
(資料)トランプ氏HP資料より、みずほ総合研究所作成
13
注目政策①所得税改革:大型減税を提案、規模等を巡る議会との調整が焦点に
◯ トランプ氏は大型の減税を提案
‧ 全ての所得階層が減税となり、とくに富裕層の減税が大きい内容。中低所得層には子育て減税等を提案
・ 2016年の議会共和党案と方向性は似通っており、両者が合意に至る可能性はあるが、減税の規模等には違いが残る
――― 租税特別措置の整理度合い等に違い。議会共和党案は簡素化の色彩が強く、全体としての減税規模は小さい
――― 歳入を含めた財政赤字の拡大度合いも論点になる可能性
【 所得税率に関する提案 】
【 所得階層別の減税規模 】
(%)
(%)
現行制度
トランプ案
10
15
25
所得税率
28
39.6
トランプ案
12
12
12
10
8
25
25
6
4
2
33
33
0
▲2
0~20
低
(注)税率ブラケット間の対応は、大まかなイメージ。
(資料)TPC資料より、みずほ総合研究所作成
共和党案
14
共和党案
33
35
16
20~40
40~60
60~80
所得階層
80~100
99~100 (%)
高
(注)税引き後所得の変化率。
(資料)TPC資料より、みずほ総合研究所作成
14
注目政策②通商政策:TPPからは撤退、大統領権限での保護主義化が懸念材料
通商政策は大統領権限を発揮できる分野。議会の制御が効き難く、保護主義化のリスクは大
TPPからの撤退は、就任初日に宣言される見込み
通商政策に関する大統領権限は大きく、貿易協定からの脱退や一部輸入品への関税引き上げは議会承認無しでも可能
トランプ氏が主張する中国やメキシコに対する関税の引き上げは、経済に深刻な悪影響を及ぼす可能性
――― ピーターソン国際経済研究所は、トランプ氏の関税引き上げが、景気後退を招くほどの悪影響になると指摘
‧ 米国の保護主義傾斜を起点に、すでに強まっている保護主義的な動きが、世界各地で加速する恐れ
◯
‧
‧
‧
【 関税率引き上げが経済に与える影響 】
ポジティブな影響
【 各国が発動した保護主義的措置 】
(2015年までの累計、件)
600
○輸入の減少と国内生産へのシフト
500
○関税収入の増加
400
「ネガティブな影響」が
「ポジティブな影響」を
上回る見込み
2014~2015年
2010~2013年(金融危機直後)
2009年時点
300
200
100
サウジアラビア
韓国
メキシコ
オーストラリア
南アフリカ
カナダ
(資料)各種資料より、みずほ総合研究所作成
日本
○金融市場の混乱、不確実性の高まり
トルコ
イタリア
フランス
英国
インドネシア
中国
ドイツ
ブラジル
アルゼンチン
米国
○輸入物価上昇による実質購買力の低下
ロシア
○世界的な貿易の停滞
0
インド
ネガティブな影響
(資料)Global Trade Alertより、みずほ総合研究所作成
15
金融政策への影響:拡張的財政政策と保護主義、市場動向が左右。政治的関与も
◯ トランプ氏が掲げてきた各政策の実現可能性が、企業、消費者、市場のセンチメントの変化を通じて、米金融政策に影響
‧ FOMCの投票メンバーはハト派へシフト。労働市場の引き締まりと共に緩やかに利上げするとみられる
‧ トランプ氏の大規模な財政政策は、経済活動を押し上げる点で利上げをサポート
――― 効果が出てくる時期は、歳出が2017年10~12月、減税が2018年入り後とみられるが、期待先行という経路も
‧ 一方、トランプ氏の保護主義的スタンスや、金融市場での米長期金利及びドルの上昇は、利上げの障害に
――― 米長期金利の上昇やドル高は米国にとり金融引き締めを意味すると共に、国際的には新興国不安を惹起
‧ 共和党議会からの金融政策に対する政治的関与が強まるおそれ
【 政策金利見通し 】
【 FOMC投票メンバー 】
(%)
2016
恒
久
イエレンFRB議長
フィッシャーFRB副議長
パウェルFRB理事
タルーロFRB理事
ブレイナードFRB理事
ダドレー(ニューヨーク)
イエレンFRB議長(2018/2任期)
⇒後任指名のおそれも(史上初)
フィッシャーFRB副議長
パウエルFRB理事
タルーロFRB理事
ブレイナードFRB理事
ダドレー(ニューヨーク)
ローテーション
エバンス(シカゴ)
2.0
1.5
1.0
ハト派
ブラード(セントルイス)
カプラン(ダラス)
カシュカリ(ミネアポリス)
0.5
ローゼングレン(ボストン)
メスター(クリーブランド)
ジョージ(カンザスシティ)
ハーカー(フィラデルフィア)
0.0
(注)ハト派、タカ派の判断は2016年11月時点。
(資料)FRBより、みずほ総合研究所作成
見通し
2.5
2017
タカ派
2008
09
10
11
12
13
14
15
16
17
(年)
(注)四半期毎の期末値。2008年10~12月期以降は政策金利レンジの上限。
(資料)FRBより、みずほ総合研究所作成
16
金融市場への影響:新大統領への政策期待から短期的にはリスクオンの動き
【 大統領選の結果を受けたマーケットシナリオ 】
各市場の見通し
為替相場
短期的には財政拡張期待が先行し、米金利上昇とともにドル高が進展。ただし、政策期待
の後退や新大統領の保護主義的姿勢からドルの上値が重くなる可能性。ドル高進展に伴
い新興国資金流出懸念が意識されれば、安全資産としての円へ資金流入が進む可能性も
新興国
市場
短期的には米金利上昇・米ドル高の動きから新興国通貨には下落圧力。長期的には保護
主義姿勢の強まりから米ドル高是正圧力が強まりやすく、特に人民元や韓国ウォンは一段
と通貨高圧力が強まる可能性。メキシコペソは不法移民対策などが懸念されて軟調
米国株式
財政支出の拡大や減税等への政策に対する期待が先行し、短期的には上昇。ただし、政
策期待の後退や保護主義的通商政策強行への懸念から今後下落圧力が高まる可能性も
米国債券
財政出動による米経済押し上げへの期待から長期金利が上昇。今後の長期金利の動向
は、年明け以降徐々に明らかとなる具体的な政策の内容次第。大規模な財政拡大路線と
なれば長期金利の更なる上昇に繋がる可能性
クレジット
(米HY債
スプレッド)
トランプ政権の政策への期待からエネルギーやヘルスケアなどを中心にスプレッドが縮小。
今後は、具体的政策内容や、原油価格動向を見極める動きからスプレッド縮小は限定的と
なる可能性
(資料) みずほ総合研究所作成
17
新興国への影響:通貨安などを通じて新興国リスクを高める可能性に要注意
足元では、トランプ氏の財政拡張期待から米長期金利上昇とともにドル高・新興国通貨安が進展
過度な新興国通貨安は、資金流出懸念や新興国債務不安を高めるリスクも
また、保護主義的姿勢が強まれば、新興国の経済不安を惹起するとともに、更なる通貨安につながる恐れ
もっとも、中国、韓国、台湾の為替監視リスト国のように、経常黒字や対米貿易黒字国の通貨には上昇圧力の可能性
外交面では、内向きの米国第一主義が採られ、中東や東欧、東・南シナ海に「力の空白」が生じ、地政学リスクが高まる
懸念
◯
‧
◯
‧
◯
【 トランプ政権が新興国に影響を与える主な要素の整理 】
評価の
ポイント
トランプ大統領
のスタンス
(選挙前)
(注)
は通貨安圧力、
財政政策
通商政策
外交政策
拡張的な財政政策への期待が
米景気拡大期待を高め、
ドル高圧力に
保護主義的姿勢は、
新興国全般の経済不安につな
がる一方、為替監視リスト国等
の通貨には上昇圧力をもたらす
米国第一主義で「力の空白」が
生じ、リスクオフモードが強まる
新興国
通貨
拡張的
(大幅な財政赤字)
新興国
通貨
保護主義的
新興国
通貨
米国第一主義
為替監
視国
通貨
は通貨高圧力。
(資料)みずほ総合研究所作成
18
(4)世界貿易低迷 ~ 構造的要因から貿易の低迷が続き、世界経済の下押し圧力に
◯
‧
‧
◯
‧
世界貿易の拡大停止
新興国の参入によって急拡大してきた世界貿易だが、2010年代に入って貿易額の拡大に歯止め
資源安、ドル建て輸出額を目減りさせる新興国通貨安などが影響
世界貿易は、資源安などの影響を除いた数量ベースでみても、拡大ペースが大きく鈍化
世界的な投資低迷に加え、輸入浸透度の上昇が止まった影響が大きく、国際分業(グローバル・サプライチェーン)の拡大
が一服したことを示唆
【 世界貿易の変動要因 (数量ベース) 】
【 世界貿易額の推移 】
(兆ドル)
20
18
16
(前年比、%)
15
新興国間
新興国-先進国間 (新興国→先進国)
新興国-先進国間 (先進国→新興国)
先進国間
輸入浸透度=
輸入数量
実質GDP
輸入浸透度の
上昇が止まる
10
14
5
12
10
0
8
▲5
6
4
需要要因
輸入浸透度要因
世界貿易(数量)
▲ 10
2
▲ 15
0
1980
80
85
90
95
(資料)IMFより、みずほ総合研究所作成
00
2000
05
10
15 (年)
1985
85
90
95
00
2000
05
10
15 (年)
(資料)IMFより、みずほ総合研究所作成
19
世界貿易の拡大要因であったグローバル・サプライチェーンの拡大が一服
◯
‧
‧
◯
‧
グローバル・サプライチェーンの拡大停止を背景に、2010年代に入って中間財貿易の増加がストップ
中間財貿易額はグローバル・サプライチェーンの拡大に伴い2000年代に増加したが、資源安等の影響から2015年に急減
数量ベースでも、グローバル・サプライチェーンの拡大が一服したこと受け、新興国から先進国への輸出がペースダウン
世界の工場として高成長を実現した中国の輸出に変調
グローバル・サプライチェーンの拡大において存在感を見せた中国だが、対中輸入への依存度(浸透度)上昇が一服
【 中間財貿易の縮小 】
【 中国の輸出 (数量ベース) 】
(1995=100)
140
(前年比、%)
35
30
130
需要要因
浸透度要因
貿易数量 (中国→世界)
25
20
120
15
110
10
5
100
0
▲5
90
▲ 10
▲ 15
80
1995
95
00
2000
05
10
15 (年)
(注)中間財貿易額の名目世界GDP比。ただし、中間財貿易額は新興国間貿易を除く貿易額。
(資料)国連、IMFより、みずほ総合研究所作成
98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15(年)
(資料)IMFより、みずほ総合研究所作成
20
(5)今後のアベノミクス ~ 歴代最長政権が視野、アベノミクスは長期戦へ
◯ 自民党総裁任期が3期9年に延長される見込み。安倍政権は歴代最長政権となる可能性
‧ これまでの最長政権記録(首相の連続在職日数)は、佐藤栄作元首相の約7年8カ月(1964年11月~72年7月)。
2020年8月末まで安倍政権が続けば、この記録を抜くことに
【 今後の主な政治・経済日程 】
アベノミクス延長へ
2016
2017
2018
2019
2020
12
4
6 7
10
(
7 8 9
日
露
首
脳
会
談
解通
散常
総国
選
挙会
の開
可会
能
性
総自
裁民
任
党
期
延党
長大
の
会
党
則
改
正
都
議
会
選
挙
黒
田
日
銀
総
裁
任
期
安
倍
自
民
党
総
裁
任
期
衆
院
議
員
任
期
統
一
地
方
選
参
院
選
挙
再消
先費
送税
り増
の税
可
能
性
パ東
ラ京
リオ
ンリ
ピン
ッピ
クッ
ク
・
)
実質2%、名目3%成長
11
米
国
大
統
領
選
挙
9
4~10
次
期
自
民
党
総
裁
任
期
誘大
致阪
準万
備博
中開
催
の
可
能
性
)
9
2025
(
4
)
(
6 7
(
(
3
)
1
)
12
2021
名目GDP600兆円
インフレ率2%(できるだけ早期)
基礎的財政収支
の黒字化
公債比率の安定的引下げ
出生率1.8
介護離職ゼロ
(資料) みずほ総合研究所作成
21
①金融政策~長期戦を想定し「新たな枠組み」に修正。当面政策の据え置きを予想
◯ 日銀は9月会合(9/20・21)における総括的検証を踏まえ、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入を決定。
政策目標をマネタリーベースから長短金利水準にシフト。金利ターゲットとすることで国債買入れの柔軟化余地を確保
◯ 展望レポートでは2017年度の物価見通しを引き下げるとともに、物価目標達成見通しを2018年度頃に後ろ倒し。ただし、
物価目標に向けた「モメンタム」は維持されていると判断。来春の春闘が今後の政策判断における注目材料だが、当面
は新たな政策の効果を見極め、政策を据え置くと予想
【 展望レポート(11月1日) 】
【 OISカーブ 】
(%)
0.0
2016/11/1
2016/9/20
2016/7/27
(対前年度比:%)
2016年度
▲ 0.1
7月時点の見通し
2017年度
▲ 0.2
7月時点の見通し
▲ 0.3
2018年度
7月時点の見通し
▲ 0.4
1
2
3
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
4
5 (年)
実質GDP
消費者物価指数
消費税率引き上げの
(除く生鮮食品) 影響を除くケース
+0.8~+1.0
(+1.0)
+0.8~+1.0
(+1.0)
+1.0~+1.5
(+1.3)
+1.0~+1.5
(+1.3)
+0.8~+1.0
(+0.9)
+0.8~+1.0
(+0.9)
-0.3~-0.1
(-0.1)
0.0~+0.3
(+0.1)
+0.6~+1.6
(+1.5)
+0.8~+1.8
(+1.7)
+0.9~+1.9
(+1.7)
+1.0~+2.0
(+1.9)
(注)政策委員の大勢見通し。( )内は政策委員見通しの中央値
(資料)日銀より、みずほ総合研究所作成
22
金融政策だけではインフレ目標達成は困難。賃上げに向け成長期待を高める必要
◯ 金融政策だけでは、インフレ率の押し上げには限界。財政政策や構造政策も総動員する必要
‧ 日本銀行がコントロール可能な①金利、②物価目標(政府との合意も必要)、③マネタリーベースだけでは、早期に安定
的な2%インフレを実現することは困難だった模様
――― 金融緩和が円安をもたらすことで、物価は一時的に上昇。しかし、賃金が追い付けず、節約志向が高まる結果に
‧ 金融政策は、最大限の緩和を続けており、今後は④財政政策や⑤構造政策の動向が注目点に
――― 財政政策や構造政策によって、賃上げを進められる環境づくりが重要
【 家計の体感物価と名目賃金 】
【 金融・財政・構造政策のインフレ率への波及経路整理 】
ラグが影響
長期のラグが影響
実績インフレ率
(前年比、%)
6
家計の体感物価は
賃金を上回る伸び
5
インフレ率の
トレンドからのかい離
+
4
トレンドインフレ率
家計の体感物価
3
「インフレ率のトレンドからのかい離」や
「需給ギャップ」に関する期待を経由
②中央銀行の
物価目標
③マネタリー
ベース
④財政政策スタンス
金利の自然利子率からの
財政再建に要する実質的負担や
かい離
企業の賃上げ姿勢などを経由 ⑤構造政策
①金利
-
自然利子率
潜在成長率
(注)中央銀行は、①金利、②物価目標、③マネタリーベースを操作することで、実績インフレ率に
影響を与える。
(資料) みずほ総合研究所作成
2
名目賃金
1
0
▲1
▲2
2010
11
12
13
14
15
16 (年)
(注)家計の体感物価は、「1年前に比べ現在の物価は何%変化したと思うか」と
の質問に対する回答の中央値。
(資料)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」、厚生労働省「毎月勤労
統計」より、みずほ総合研究所作成
23
②財政政策~ 低金利を活かした財政出動が予想される
◯
‧
‧
‧
先述のように財政政策への期待高まるも、日本の財政状況を踏まえると、財政出動は慎重に進めるべき
低金利を維持すれば、公債等残高比率(GDP比)は安定化可能(いわゆる「ドーマー条件」)
政策的には、日銀の低金利政策長期化と2019年消費税引き上げ凍結の可能性も
ただし、構造政策で成長力を底上げできないと、財政出動余地自体が狭まっていく可能性
【 (参考)試算の前提となる
【プライマリー・バランスと公債残高の見通し 】
プライマリー・バランス
試算値
(対GDP比、%)
▲ 1.0
(対GDP比、%)
試算値
④
20年度:▲2.1%
(目標:黒字化)
▲ 1.5
名目成長率と名目金利(10年債) 】
公債等残高
225
220
▲ 2.0
(%)
2.5
③
2.0
②
①
1.5
見通し
名目GDP
成長率
④
1.0
▲ 2.5
215
③
0.5
▲ 3.0
210
▲ 3.5
②増税凍結&長期金利固定
2017年4月増税
2019年10月増税(メイン)
▲ 4.0
③増税凍結&緩やかに上昇
205
▲ 4.5
16
18
20
①②
10年債
利回り
▲ 0.5
①②長期金利固定
③緩やかに上昇
④増税凍結&急ピッチで上昇 ▲ 1.0
増税凍結
2014
0.0
①メインシナリオ
22
200
24 (年度)
2014
16
18
20
22
24 (年度)
(注)1. 増税凍結については、消費増税の変化のみを考慮した数値であるため、試算値については幅をもってみる必要がある。
2. 公債等残高は、一般政府の「株式以外の証券(負債)」を使用。
(資料)内閣府「国民経済計算」、財務省資料などより、みずほ総合研究所作成
④急ピッチで上昇
▲ 1.5
2010 12
14
16
18
20
22
24
(年度)
24
③構造政策~注目される「包摂的成長(Inclusive Growth)」という方向性
◯ 世界的に注目される「包摂的成長」という方向性。日本においても、女性活躍や非正規社員のキャリア形成、産業の新陳
代謝を促進することで、成長と平等のシナジーを発揮することが重要に
◯ 個人向け・企業向け政策を、地域の実情にも応じて、総合的政策パッケージ(相互に整合性のある政策)を展開する必要
【 「包摂的成長」に向けた政策パッケージの概要(イメージ) 】
政策立案過程:国と地方、および国の省庁間での政策の一貫性確保が重要
地域政策:地域の特性に応じた政策立案+インフラ投資(IT含む)によるアクセス改善
退出
家庭など
労働市場
課題:女性・若者の労働参加
課題:積極的労働市場政策、
情報提供
個人
企業
個人(女性・若者など)
マッチング
製品・サービス市場
課題:公平な競争環境、
技術のスピルオーバー、
低生産性企業の退出支援
企業
教育・訓練機関
課題:質向上・平等なアクセス、
労働需要の高い技能の教育
個人
先端技術
企業
スピルオーバー
社会保障等で支援
参入
個人
金融機関等の支援
企業
(資料)OECD(2016)”The Productivity-Inclusiveness Nexus”などより、みずほ総合研究所作成
25
産業の新陳代謝(ダイナミズム)向上が成長戦略に盛り込まれるも、踏み込み不足
◯ 非正規社員のスキル蓄積、キャリア形成を促すことは、平等と成長のシナジーにつながる重要な課題
◯ 政府は、産業の新陳代謝向上を、成長戦略のKPI(重要政策目標)の1つに設定。もっとも、達成の見込みはたたず
‧ 産業の新陳代謝を高めるには、様々な関連する取り組みを、一体として進める必要。しかし、踏み込めないものが多い
ほか、逆に足を引っ張る政策を行っているという問題も
――― 低生産性企業の保護や再チャレンジに厳しい法制・慣行は見直しが必要。雇用規制の明確化・柔軟化、セーフ
ティネットの拡充、大学の質向上・国際化も同時に取り組むべき課題
【 正社員と非正規の賃金カーブの比較(時給ベース) 】
(%)
14
(円)
2,500
正社員・
フルタイム労働者
(平均1,958円)
2,000
非正規・
フルタイム労働者
(平均1,258円)
1,500
1,000
500
【 日米英の開業率と廃業率 】
非正規の
賃金カーブはフラット
非正規・
短時間労働者
(平均1,044円)
開業率
廃業率
12
10
8
6
4
2
0
~19 20 25 30 35 40 45 50 55 60
~24~29~34~39~44~49~54~59~64 (歳)
(注) 1.賃金は2015年6月分の所定内給与額。
2.フルタイム労働者は常用労働者のうち短時間労働者以外の者。
3.フルタイム労働者の平均賃金は、所定内給与額を所定内実労働時間数で割った値。
(資料) 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2015年)より、みずほ総合研究所作成
0
米国
英国
日本
(注)2014年。
(資料)米国BLS “Business Employment Dynamics”、英国ONS ” Business Demography: 2014”、
中小企業庁「中小企業白書」(原データ:厚生労働省「雇用保険事業年報」)より、みずほ
総合研究所作成
26
Ⅱ.海外経済
~米国は緩やかな回復、ユーロ圏・中国はやや減速~
27
(1)米国経済 ~ ドル高・原油安の影響消えても成長は緩やか。新政権の政策に注目
○ 2016年7~9月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.9%と、1年ぶりの2%超え。しかし、
在庫投資と外需の寄与度が計+1.4%Ptにのぼり、高めの成長率を演出。国内最終需要は
前期比年率+1.4%(前年比+1.7%)と低い伸び
○ 本見通しの論点は「米国の回復期待が再度裏切られることがないのか」。①ドル、原油価格
が緩やかな上昇にとどまる限り、輸出・設備投資の回復続く。②ただ同時に、企業の成長期
待が今後一段と高まることも期待薄、設備投資の持ち直しは緩やかなものに留まる公算大
○ ③内外の不確実性が燻り、「投資先送りの価値」が高い中、柔軟な調整弁としての雇用は
引き続き堅調に拡大。「投資の弱さ⇒生産性の低迷⇒労働需要増⇒個人消費の堅調さ⇒
設備投資の一段の悪化回避」という構図続く。④労働需給はタイト化、賃金の伸びは高まる
が、フィリップス曲線はフラットで、低インフレが持続
○ なお新政権下で予想される拡張的財政政策については、実現すれば①歳出は2017年10~
12月期以降、②減税は2018年入り後の成長率を押し上げる公算大。③期待先行で資産価
格が上昇、早期に経済を刺激する可能性も。④一方、保護主義や排外主義、孤立主義的な
外交・安全保障政策による先行きの不透明感が、経済に悪影響を及ぼすおそれも併存
28
米国:原油安・ドル高の下押し後退で回復するも、2%近傍の緩やかな成長にとどまる
◯ 2016年の成長率を前年比+1.5%(9月予測+1.4%)、2017年を+2.1%(9月予測+2.2%)に修正
‧ 2016年の上方修正は7~9月期の高め成長を反映。10~12月期は7~9月期の反動により+1.5%に減速すると予想
‧ 2017年は失業率が4.6%に低下(9月予想4.9%)するものの、物価への影響は限定的で、コア・インフレ率は2%割れ
【 短期見通し総括表 】
2015 2016 2017
暦年
実質GDP
2015
1~3
4~6
2016
7~9 10~12 1~3
4~6
2017
7~9 10~12 1~3
4~6
7~9 10~12
前期比年率、%
2.6
1.5
2.1
2.0
2.6
2.0
0.9
0.8
1.4
2.9
1.5
2.0
2.4
2.3
2.3
個人消費
前期比年率、%
3.2
2.6
2.3
2.4
2.9
2.7
2.3
1.6
4.3
2.1
2.3
2.3
2.3
2.0
2.0
住宅投資
前期比年率、%
11.7
4.0
0.9
13.3
14.9
12.6
11.5
7.8 ▲ 7.7 ▲ 6.2
0.8
2.1
3.5
5.2
4.6
設備投資
前期比年率、%
2.1 ▲ 0.6
2.0
1.3
1.6
3.9
在庫投資
前期比年率寄与度、%Pt
政府支出
前期比年率、%
純輸出
▲ 3.3 ▲ 3.4
1.0
1.2
0.3
2.1
3.2
3.0
3.1
▲ 0.4 ▲ 0.4 ▲ 1.2
0.6
0.0 ▲ 0.2
0.0
0.0
0.0
1.6 ▲ 1.7
0.5
0.5
0.4
0.4
0.4
0.4
0.2 ▲ 0.2 ▲ 0.0
1.0 ▲ 0.5 ▲ 0.6
1.8
0.8
0.3
2.6
1.9
1.0
前期比年率寄与度、%Pt ▲ 0.7
0.2
0.1 ▲ 1.7 ▲ 0.1 ▲ 0.5
▲ 0.5
0.0
0.2
0.8
▲ 0.2
0.2
0.1
0.2
0.2
▲ 2.7 ▲ 0.7
1.8
10.0
▲ 3.5
2.0
2.2
2.4
2.2
3.2
輸出
前期比年率、%
0.1
0.4
2.0 ▲ 5.8
2.9 ▲ 2.8
輸入
前期比年率、%
4.6
0.5
0.5
5.6
2.9
1.1
0.7 ▲ 0.6
0.2
2.3
▲ 1.3
0.4
1.0
0.9
0.7
%
5.3
4.9
4.6
5.6
5.4
5.2
5.0
4.9
4.9
4.9
4.8
4.8
4.7
4.6
4.5
非農業部門雇用者数 1か月当たり、千人
229
182
214
190
251
192
282
196
146
192
195
188
222
222
224
前年比、%
0.3
1.1
2.0
0.3
0.3
0.3
0.4
0.9
1.0
1.0
1.5
1.9
1.9
2.0
2.1
前年比、%
1.4
1.7
1.7
1.4
1.4
1.3
1.4
1.6
1.6
1.7
1.8
1.7
1.7
1.7
1.8
失業率
個人消費支出デフレーター
食品・エネルギーを除くコア
(注)網掛けは予測値。
(資料)米国商務省、米国労働省より、みずほ総合研究所作成
29
米国:ドル高・原油安の影響が後退し、輸出・設備投資は持ち直しへ
◯ ドルと原油価格の緩やかな上昇に沿って、輸出と設備投資は回復に向かうも、力強さに欠けた展開に
‧ 輸出のドル弾力性は0.2(10%のドル高で輸出は2%減少)と無視しえない大きさ
‧ 今後、ドル高のテンポが緩慢(年率2%程度)であれば、輸出への下押しは無視しうる大きさに
――― カナダ、ブラジル等のストック調整も、原油価格の持ち直しにより、緩やかに回復する公算が大(米輸出にプラス)
‧ 設備投資も回復。なお、中期的には成長期待の大幅な高まりが期待できず、投資の加速は2018年がピーク
【 ドル高による輸出への影響 】
【 設備投資循環(1997年~2020年) 】
(2014Q3=100)
15
101
為替見通しに基づく
今後のドル高の影響
100
98
97
資本財輸出
96
95
輸出全体に対する
為替の影響
94
93
自動車関連輸出
10
設備投資(前年比%)
99
2%
0
▲5
▲10
点線:1997~2004年
破線:2004~2011年
実線:2011~2016年
●線:2016~2020年(今後の投資循環)
▲20
2014
2015
(資料)みずほ総合研究所作成
2016
8
2017
(年)
期待成長率
5
▲15
90
4%
1%
92
91
3%
9
10
11
前年の設備投資/資本ストック比率(%)
12
(注)期待成長率は資本係数の伸びをゼロ、償却率を8.0%として計算。
(資料)米国商務省より、みずほ総合研究所作成
30
米国:柔軟な調整弁として雇用は堅調、米労働市場はタイト化が進む見込み
◯ 就業率は上昇、高齢化の影響を除けば金融危機前近傍の水準だが、労働参加率には上昇余地あり
‧ 就業率、労働参加率共に高齢化を中心とする人口動態の変化を受けて大きく下振れ
―――就業率、労働参加率の人口動態調整値と実績値とのかい離は、共に1.6~1.7Ptの大きさ
‧ 人口動態調整値でみると、就業率はすでに金融危機前の平均値に近い水準まで回復
――― 中期的には、2018~2019年ごろに就業率がピークアウトする公算が大
‧ 一方、人口動態調整値でみた労働参加率は、金融危機前の平均値と比べて1Pt低い水準にあり、スラックが残存
【 就業率 】
(%)
65
64
【 労働参加率 】
(%)
68
見通し
人口動態調整値の平均値
(2003-2007年)
人口動態調整値
63
67
見通し
人口動態調整値の平均値
(2003-2007年)
66
62
61
65
60
64
公表値
59
人口動態調整値
63
58
公表値
62
57
61
56
60
55
2000
05
10
15
(注)人口動態調整値は、性・年齢階層別(5歳または10歳区切り)就業率を、
2009年の人口シェアを用いて加重平均したもの。
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
20 (年)
2000
05
10
15
20 (年)
(注)人口動態調整値は、性・年齢階層別(5歳または10歳区切り)就業率を、
2009年の人口シェアを用いて加重平均したもの。
(資料)米国労働省より、みずほ総合研究所作成
31
米国:2017年の利上げは早くて6月、新政権・議会の動向も金融政策を左右
◯ 経済指標が大幅に下振れなければ12月利上げへ。2017年前半はインフレ率が安定し、FOMCは年央まで様子見
‧ 2017年の利上げは早くて6月。その後も、持続的な賃金上昇が続き、大きなショックが無ければ、12月にも再利上げ
――― 2017年はコア・インフレ率が落ち着く一方、ヘッドライン・インフレ率が年央に2%超えし、利上げを後押し
――― 新政権の財政政策は利上げをサポート。資産価格が急上昇すれば、FOMCはバブルへの警戒感を強める公算大
‧ 一方、金融政策に対する政治的介入、FRB議長再任問題、前政権からの通商・外交政策の大転換は、利上げの障害に
――― FOMCは景気・物価両面で下押し圧力となる急激なドル高の再燃にも警戒するとみられる
【 インフレ率の推移 】
(前年比、%)
コアPCE
3.0
PCE
2.5
見通し
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
2010
11
12
13
14
15
16
17
18
(年)
(資料)米国商務省等より、みずほ総合研究所作成
32
(2)ユーロ圏経済 ~ 2017年も低成長・低インフレが続く
○ 2016年、17年のユーロ圏実質GDP成長率は、各+1.6%、+1.1%と予想。不確実性が残存
する中で景気回復のモメンタムは強まりにくく、2017年の成長率も低成長が続く見込み
○ 2016年の成長率は15年から減速。年初は、油価下落などから景気回復に加速感がみられた
が、英国民投票に起因した不確実性の増大により、景気回復ペースは徐々に鈍化。17年の
成長率は一段と減速。個人消費は回復が続くも、不確実性の残存により年前半の固定投資
は低調。財政面からの景気押し上げは期待できず
○ 2016年、17年のユーロ圏インフレ率は、各+0.2%、+1.3%と予測。油価の持ち直しが主因で
あり、コア・インフレ率は当面横ばい圏での推移が続く。値上げに対する企業の慎重姿勢や
賃金上昇圧力の弱さなどが背景
○ インフレ率の上昇ペースが緩慢な中、ECBは12月理事会において、資産購入期間の延長や
購入対象となる債券の条件変更を決定するとみられる
33
ユーロ圏:2017年も緩慢な景気回復が続く
◯ 2016年のユーロ圏実質GDP成長率は+1.6%、2017年は+1.1%と予想
‧ 2017年も景気回復が続く見込みだが、不確実性の残存に加え、財政面からの押し上げが無い中、成長率は低下
‧ 油価持ち直しを背景にインフレ率は上昇を続ける見通し。ただし、賃金の伸び悩みなどからコア・インフレ率はほぼ横ばい
【 短期見通し総括表 】
2014
2015
2016
2015
2017
暦年
1~3
4~6
2016
7~9 10~12
1~3
4~6
2017
7~9 10~12
1~3
4~6
7~9 10~12
前期比、%
1.2
2.0
1.6
1.1
0.8
0.4
0.3
0.5
0.5
0.3
0.3
0.2
0.2
0.3
0.4
0.4
前期比、%
1.3
1.8
1.8
1.2
0.7
0.1
0.7
0.8
0.4
0.2
0.6
0.2
0.1
0.3
0.3
0.4
前期比、%
0.8
1.8
1.6
1.2
0.4
0.4
0.5
0.3
0.6
0.2
0.3
0.3
0.3
0.3
0.4
0.4
総固定資本形成 前期比、%
1.4
2.9
3.1
1.8
1.6
0.0
0.6
1.4
0.5
1.1
0.5
0.3
0.3
0.4
0.5
0.5
政府消費
0.6
1.4
1.7
0.8
0.5
0.4
0.4
0.6
0.6
0.2
0.3
0.2
0.2
0.2
0.2
0.2
▲ 0.0 ▲ 0.2
0.2
0.2
0.2 ▲ 0.1
▲ 0.1
0.0 ▲ 0.0
0.0
実質GDP
内需
個人消費
前期比、%
0.4 ▲ 0.1 ▲ 0.0 ▲ 0.1
在庫投資 前期比寄与度、%Pt
前期比寄与度、%Pt
▲ 0.1
輸出
前期比、%
輸入
消費者物価指数
▲ 0.2 ▲ 0.2
0.2 ▲ 0.2
0.0
0.2
0.3 ▲ 0.3 ▲ 0.3
0.2
0.1 ▲ 0.2
0.0
0.1 ▲ 0.0
0.0
0.0
4.4
6.2
2.3
3.9
2.6
1.2
0.4
0.7
0.1
1.2
0.3
0.7
1.1
1.2
1.2
1.2
前期比、%
4.9
6.2
3.1
4.3
2.4
0.7
1.3
1.4
▲ 0.2
1.1
0.9
0.7
1.0
1.3
1.3
1.4
前年比、%
0.4
0.0
0.2
1.3
▲ 0.3
0.2
0.1
0.2
0.1 ▲ 0.1
0.3
0.5
1.2
1.2
1.4
1.5
食品・エネルギーを除くコア前年比、%
0.8
0.8
0.9
1.0
0.7
0.8
0.9
1.0
1.0
0.8
0.8
0.9
0.9
1.1
1.2
外需
0.8
(注) 網掛けは予測値。
(資料) Eurostatより、みずほ総合研究所作成
34
ユーロ圏:財政面からの景気押し上げは期待薄
◯ ユーロ圏全体では2016年の財政収支が中期目標に届かず、2017年に小幅な緊縮財政が計画されている
‧ 各国予算案を集計すると2017年のユーロ圏構造的財政収支(GDP比▲0.8%)は16年(同▲0.9%)から赤字がやや縮小
‧ 主要国の動向はまちまち。イタリアは移民・地震対応を理由に拡張財政、スペインは中立財政へ転換しており、両国は
今後、欧州委員会から予算案の修正を要求されるとみられる。ドイツは財政黒字にこだわり続ける
――― 中期目標を達成済みのドイツは財政出動の余力があるが、2020年まで新規国債の発行を計画せず
【 ドイツの財政スタンスと新規国債発行額 】
【 ユーロ圏・主要国の財政スタンス 】
2016年安定レポートでの指摘
(構造的財政収支(GDP比)、%)
1.0
0.8
0.5
0.5
• GDPギャップがほぼゼロのドイツにおいて、一段と拡張
的な財政政策は望ましくない。それによって、景気が過熱
したり、財政の安定性が失われたりして、中長期的にドイ
ツ及びユーロ圏経済に打撃を及ぼし得る
ドイツ
0.0
▲ 0.5
▲ 1.0
▲ 1.5
▲0.9
▲ 1.2
▲0.8
▲ 1.1
▲ 1.6
▲ 1.6
2017年予算案における中期計画
フランス
(単位:10億ユーロ)
イタリア
▲ 2.0
▲ 2.5
• 財政健全化によって、経済成長の国内基盤は強化され、
企業・家計からの信任が高められる
ユーロ圏
中期財政目標(▲0.5%以下)
歳入
うち税収
スペイン
▲ 2.7
▲ 2.7
うち利払費
▲ 3.0
2016
17
歳出
(年)
(注) 構造的財政収支は、景気循環及び一時的要因の影響を除いた財政収支。
収支の縮小(拡大)は緊縮(拡張)財政を表す。ユーロ圏の財政収支は、
各国2017年予算案における財政収支を加重平均したもの。
(資料) 各国財務省より、みずほ総合研究所作成
財政収支
国債発行可能額
2016
2017
2018
2019
2020
316.9
328.7
331.1
343.3
349.3
288.1
301.8
315.5
327.9
339.4
316.9
328.7
331.1
343.3
349.3
23.8
19.3
19.2
19.3
21.9
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
-
11.2
11.0
10.7
10.8
(注) 2016年は見込み値。2017年以降は計画値。
(資料) ドイツ政府、ドイツ財務省より、みずほ総合研究所作成
2020年まで
均衡財政
(国債の新規発行無)
財政ルール上、100億
ユーロ強の国債発行が可能
35
ドイツ:人口動態も低調な固定投資の背景にある模様
◯ ドイツの総投資は伸び悩み。企業規模別にみると中小企業の総投資が相対的に弱い
‧ 債務危機やBrexit、新興国景気の弱さなどが金融危機後から足元にかけての総投資の弱さの背景と思われる
‧ 特に中小企業の総投資が弱い。経営者の高齢化に伴い投資ホライズンが短くなったり、人材不足が進む中で事業継続が
困難となったりする中、減価償却分さえ投資をしない企業が多い模様
――― ただし、中小企業の中には拡張投資に積極的なところもあり、純投資はプラス
【 企業規模別にみたドイツ固定投資 】
純投資
(GDP比、%)
1.0
中小企業
0.8
1.6
大企業
0.6
1.5
0.4
1.4
0.2
▲0.4
中小企業
1.1
1.0
2008
10
12
14 (年)
大企業
▲0.6
▲0.8
従業員の人数別
▲0.2
1.2
投資をした企業の割合
中小企業に占める割合
(%)
70
60
50
40
30
~40
0.0
1.3
経営者の年齢別
総投資
(GDP比、%)
1.7
【 ドイツ中小企業の投資性向 】
(%)
90
(%)
25
20
15
10
5
40~44 45~49 50~54 55~59 60~
(経営者の年齢(歳))
投資をした企業の割合
中小企業に占める割合
(%)
100
70
50
50
30
▲1.0
2008
10
12
14 (年)
(注) 中小企業は、ドイツ復興金融公庫(KfW)調査に基づき年間売上額が5億ユーロ以下。
一部に試算値を含む。純投資=総投資-減価償却。
(資料) ドイツ復興金融公庫(KfW)、ドイツ連邦統計庁より、みずほ総合研究所作成
0
50~
10~49
5~9
~5
(従業員数(人))
(注) 投資をした企業の割合=各年齢群または従業員群における、投資を実施した企業
の数/各年齢群または従業員群に属する企業の全数。中小企業の占める割合=
各年齢群または従業員群に該当する企業の全数/調査対象企業。 2015年の実績値。
(資料) ドイツ復興金融公庫(KfW)より、みずほ総合研究所作成
36
ユーロ圏:ECBは12月政策理事会で緩和期間を半年延長する公算大
◯ ECBは、12月8日の政策理事会で、2017年9月まで半年間の緩和期間延長を発表すると予想
‧ ECBは、購入国債不足問題に対応するため、資産購入期間の延長と同時に、集団行動条項(頭文字を取って「CAC」とも
言う。債券を保有している投資家の多数決によって、事後的に償還期限や金利などの条件を変更できるようにする契約条
項のこと)が付されていない債券の単一銘柄あたりの購入上限(現在33%)の撤廃を発表すると予想
―――しかし、ECBの購入国債の不足感は残り、長期戦が前提となる中でいずれテーパリング開始は不可避な状況。
ECBは資産購入の限界への言及等、今後のテーパリングについて何らかの情報発信を行う可能性も
【 ECBの政策変更に伴う
ドイツの購入可能公債金額の変化の試算 】
【 ECBの取り得る選択肢 】
①集団行動条項(CAC)が無い債券の単一銘柄当たり
発行上限33%の緩和
現状:各銘柄において、ECBの購入上限は銘柄発行残高の33%。
ECBがCAC発動に拒否権を有することを防止する目的
②購入債権の下限金利条件の修正
現状:購入債券の下限金利は預金ファシリティ金利(現状▲0.4%)。
ECBの損失抑制が狙いと思われる
③購入債券額の減少
現状:毎月800億ユーロの債券購入を実施。
④残存期間30年超の銘柄の購入
現状:購入対象は残存期間2年~30年364日。クラウドアウト回避が狙い
⑤ECBへの資本出資比率に基づく購入方針の修正
現状:国債購入総額に占める各国国債の購入は、
各中銀のECBへの出資比率(キャピタルキー)に基づく
(資料) ECBより、みずほ総合研究所作成
CAC条項無し銘柄の購入上限撤廃
ドイツの公債購入実績
(10億ユーロ)
450
購入可能公債合計
ドイツの公債購入見込み
従来のまま
だと2月まで
400
350
300
250
200
CAC条項撤廃
で10月まで
150
100
50
0
16/1
3
5
7
9
11 17/1
3
5
7
9
11
(年/月)
(注)購入可能公債はみずほ総合研究所による推計値。ドイツ国債、機関債、州債の合計で
国際機関債は含まない。11月以降は11月7日時点の金利水準に基づく試算。
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
37
ユーロ圏:欧州内で高まるEU懐疑政党の勢い
◯ 2016年末から2017年にかけて、欧州では国民投票や議会選挙などの政治日程が目白押し
‧ いずれの国でもEU懐疑的な政党の勢いが増しており、欧州政治不安への懸念が燻る
――― もっとも、オランダやフランスでは、選挙制度の関係上、EU懐疑政党が単独で政権与党となるのは難しい
――― 英国のEU離脱を巡る交渉も、2017年3月頃より開始される見込み
◯ 12月4日に憲法改正の是非を問う国民投票が行われるイタリアでは、政権が進める上院の権限削減を可能にする憲法
改正案が否決される可能性が高まっている状況
‧ 国民投票で憲法改正案が否決された場合、レンツィ首相が辞任し、政局が流動化する可能性も
【 欧州の選挙スケジュール 】
内 容
ポイント
イタリア国民投票(4日)
上院の権限削減を可能にする憲法改正の是非を問う国民投票。
否決されれば、レンツィ首相は辞任の可能性あり。
オーストリア大統領
選挙(4日)
EU懐疑政党、オーストリア自由党のホーファー候補と緑の党、
ベレン候補の支持率は現在拮抗。
英国はEUに脱退通告を
実施(3月まで、予定)
EUとの離脱競技が開始される。
オランダ下院選挙
(15日)
EU懐疑政党、オランダ自由党が第一党となる可能性あり。但し、
単独過半数の獲得は困難
4月
フランス大統領選挙:
初回投票(23日)
EU懐疑政党、フランス国民戦線のルペン党首が決選投票に進
む公算大。
5月
フランス大統領選挙:
決選投票(7日)
国民戦線は決選投票では勝てない公算大。
8~10月
ドイツ議会選挙
与党CDU・CSUが議席数を落とす可能性あり。
2018年
5月頃
イタリア総選挙
反政府・EU懐疑政党の五つ星運動が得票を伸ばす可能性あり。
2019年
5月頃
欧州議会選挙
この時までに英国のEU離脱が確定していなければ、議席配分
が難しい。
2020年
5月
英国下院選挙
英政府はこれまでの交渉結果の信を国民に問うことに。
年
月
2016年
12月
2017年
3月
(資料) 各種報道等より、みずほ総合研究所作成
【 イタリアの国民投票に関する世論調査 】
(%)
50
賛成
反対
45
未定
40
35
30
25
9/5 9/12 9/19 9/26 10/3 10/10 10/18 10/25 11/2 11/8
(月/日)
(資料) Acqua Groupより、みずほ総合研究所作成
38
(3)アジア経済 ~横ばい圏での推移が続く
○ 2016年7~9月期の中国実質GDP成長率は前年比+6.7%と3四半期連続で横ばい。製造業
のストック調整圧力が続く中で、インフラ投資などの政策効果によって景気は支えられる展開
○ 今後は、2016年末にかけて政策の下支えが強まることなどから横ばい圏の推移。2017年は、
製造業のストック調整が引き続き押し下げ要因となるものの、緩やかながらも輸出が持ち直
し、インフラ投資などの下支えも続くことから、中国経済は小幅な減速に。自動車減税は延長
の可能性が高いが、仮に予定通り2016年末で終了したとしても、成長率への影響は限定的
○ 2016年7~9月期の中国を除くアジアでは、IT需要の回復等を背景として、輸出が下げ止まり、
一部景気持ち直しの動きが見られた
○ 2017年にかけて、IT需要の回復が続くと共に米国の成長率が上向き、輸出は緩やかながら
も持ち直し。米利上げ再開などによりアジア通貨の減価傾向が続くことも支援材料に。一方で
財政・金融政策による下支え効果は縮小し、総じてみればアジア経済は横ばい圏の成長率
が続く
39
アジア:2017年にかけて+6%程度の成長率にとどまる
◯ アジア経済の成長率は、2017年まで+6%程度の横ばい圏で推移すると予測
‧ 中国は、輸出が緩やかに持ち直す中、過剰生産能力の調整圧力を政策効果で緩和しつつ、小幅な減速傾向で推移
‧ NIEs、ASEAN5とも、輸出回復は緩慢で、横ばい圏の成長が続く見通し。両者を比べると、ASEAN5ではインフラ整備等の
投資が見込まれることから、NIEsよりも高い成長率で推移
‧ インドは、2016年の公務員給与大幅引き上げ、および気象要因による農村経済の押し上げ効果が、2017年には剥落
【 アジア経済見通し総括表 】
2011年
(実績)
ア ジア
2012年
(実績)
2013年
( 実績)
2014年
( 実績)
2015年
( 実績)
(単位:%)
2016年
( 予測)
2017年
( 予測)
(単位:%)
2016年
2017年
( 前回: 9 月予測)
5.9
5.2
6.5
6.4
6.1
6.1
6.0
6.0
6.0
中国
9.5
7.9
7.8
7.3
6.9
6.7
6.5
6.6
6.5
NIEs
4.1
2.3
2.9
3.4
1.9
1.9
2.1
1.9
2.2
韓 国
3.7
2.3
2.9
3.3
2.6
2.6
2.4
2.6
2.6
台 湾
3.8
2.1
2.2
3.9
0.6
1.2
2.1
0.9
1.8
香 港
4.8
1.7
3.1
2.7
2.4
1.5
1.5
1.5
1.5
シンガポール
6.2
3.7
4.7
3.3
2.0
1.1
1.2
1.7
2.3
ASEAN5
4.7
6.2
5.0
4.6
4.8
4.8
4.6
4.8
4.6
インドネシア
6.2
6.0
5.6
5.0
4.8
5.0
4.9
5.0
4.9
タ イ
0.8
7.2
2.7
0.8
2.8
3.1
2.9
3.2
2.8
マレーシア
5.3
5.5
4.7
6.0
5.0
4.1
4.1
3.8
4.3
フィリピン
3.7
6.7
7.1
6.2
5.9
6.4
5.7
6.3
5.6
ベトナム
6.2
5.3
5.4
6.0
6.7
6.1
6.2
5.8
6.0
0.0
0.0
6.3
7.0
7.2
7.6
7.5
7.6
7.5
オーストラリ ア
2.6
3.6
2.0
2.7
2.4
2.8
2.5
2.8
2.5
( 参考) 中国・ インドを除くア ジア
4.5
4.6
4.2
4.1
3.6
3.7
3.7
3.6
3.7
( 参考) 中国を除く アジア
2.5
2.6
5.1
5.4
5.2
5.4
5.4
5.5
5.5
インド
(注)1.実質GDP成長率(前年比)。網掛けは予測値。網掛けなしは実績値。
2.平均値はIMFによる2014年GDPシェア(購買力平価ベース)により計算。
3.インドの伸び率は、2012年以前はIMF、2013年以降はインド統計計画実行省の値。
(資料)各国統計、CEIC Data、IMFよりみずほ総合研究所作成
40
アジア:2017年にかけてIT関連需要の持ち直しが輸出を下支え
◯ 2016年入り後、アジア各国の電気機械輸出は持ち直しが鮮明に
‧ 台湾、韓国、マレーシア、フィリピンの主力輸出品である電気機械輸出は、IT関連需要の持ち直しに伴い回復。半導体等
電子部品が電気機械の7割に達する台湾では、中国(含む香港)向けの拡大により足元で持ち直しが顕著
――― 中国の通信・電子機器の在庫は5月以降、統計開始以来初めて前年割れとなっていることもプラス材料
‧ 半導体の需要動向を示すBBレシオが高水準で推移するなか、世界の半導体出荷も6月以降回復。半導体需要は来年プ
ラスに転じる見通しであり、2017年にかけてアジアの輸出を下支えする見通し
【アジア各国 電気機械輸出 】
(2010年=100)
160
【 半導体受注動向(BBレシオ)と需要見通し 】
台湾
韓国
マレーシア
フィリピン
(倍)
1.5
150
1.4
140
1.3
130
見通し
北米BBレシオ
日本BBレシオ
20 15
20 16
20 17
世界
▲ 0.2 ▲ 2.4
2.0
米国
▲ 0.8 ▲ 7.3
1.9
欧州
▲ 8.5 ▲ 0.1
1.6
日本
▲ 10.7 ▲ 1.7
1.1
3.5 ▲ 1.2
2.2
1.2
120
1.1
110
1.0
100
0.9
90
80
0.8
70
0.7
60
2010
11
12
13
14
15
16 (年)
(注)韓国、台湾、マレーシアはSITC77、フィリピンはフィリピン標準商品分類(PSCC)の
電子製品。みずほ総合研究所の季節調整値。
(資料) 各国統計、CEIC dataより、みずほ総合研究所作成
0.6
2012
アジア
13
14
15
16 (年)
(注)BBレシオ=半導体製造装置受注額/販売額。
(資料)WSTS、日本半導体製造装置協会より、みずほ総合研究所作成
41
中国:消費は政策下支えもあり底堅く推移
◯ 過剰ストック調整により固定資産投資が減速する一方、足元の社会消費品小売総額は底堅く推移
◯ 政策てこ入れを背景とした自動車や住宅関連の好調な販売に支えられた模様
‧ 自動車は2015年10月から導入された小型車(排気量1.6リットル以下)減税策、住宅関連は2015年に実施された利下げや
頭金比率引き下げを受けて、販売好調。自動車・住宅関連販売の商品販売全体に対する寄与度も拡大
【 実質固定資産投資 】
(前年比、%)
18
16
製造業
第1次産業
固定資産投資
【 実質社会消費品小売総額(一定規模以上) 】
不動産
鉱業
インフラ
その他
(前年比、%)
20
自動車・住宅関連以外
住宅関連
自動車類
一定規模以上社会消費品小売総額
18
14
16
12
14
10
12
8
10
6
8
4
6
2
4
0
2
0
▲2
2014
15
16
(年)
(注)インフラ関連は電気・ガス・水道、運輸・倉庫・郵便、水利・環境・ユーティリティ管理の計。
固定資産投資価格指数で実質化。
(資料)中国国家統計局、CEIC Dataより、みずほ総合研究所作成
2014
15
16
(年)
(注)商品小売価格指数で実質化。売上高500万元以上小売業対象。
(資料)中国国家統計局より、みずほ総合研究所作成
42
中国: 小型車減税延長の如何にかかわらず、消費の失速は回避できる見込み
◯
◯
‧
‧
2016年末終了予定の小型車減税は、景気への影響への配慮から延長の可能性が高い
仮に予定通り打ち切られた場合でも、成長率への影響は限定的
減税策導入期(2015年Q4~2016年Q4)の乗用車販売のトレンドからのかい離幅は約160万台となる見込み
2016年末に減税が終了し、2017年に反動が全て出るとすると、トレンドから消費支出を0.19%Pt、実質GDPを▲0.07%Pt
程度下押し
――― トレンドの上昇も加味すると、2017年の実質GDP成長率ヘの影響は▲0.03%Pt程度にとどまる
【 乗用車販売台数の推移とトレンド 】
(万台)
700
600
【 減税が2016年末に終了した場合の影響試算 】
小型車減税策実施
400
トレンド
(2011年Q1~2015年Q3)
上振れ
買い控え
▲49万台 +160万台
(うち16年分は
94万台)
200
政策終了後の下振れ
160-49=111万台
100
0
2011
12
13
2017年
2,329万台
(前年比+11.1%)
2,283万台
(前年比▲2.0%)
② :乗用車販売台数トレンド
2,235万台
2,394万台
③ :減税効果(トレンド比、台数)
+94万台
▲111万台
③’:減税効果(トレンド比、%)
[③÷②]
+4.2%Pt
▲4.6%Pt
④ :消費支出への影響(トレンド比)
[③’×自動車ウエイト]
4.2%Pt×4.1%
=+0.17%Pt
▲4.6%Pt×4.1%
=▲0.19%Pt
⑤ :実質GDPへの影響(トレンド比)
[④×個人消費ウエイト]
0.17%Pt×38.6%
=0.07%Pt
▲0.19%Pt×38.6%
=▲0.07%Pt
―
▲2.0%×4.1%×38.6%
=▲0.03%Pt
① :乗用車販売台数
乗用車販売台数
(季節調整済)
500
300
2016年
14
15
16
(年)
(注)1. トレンドは、前回の小型車減税策(2009年1月~2010年末)終了後の2011年から、
今回の小型車減税策が導入される前の2015年Q3までを計測期間とした。
2. 2016年Q4の乗用車販売台数は推計値。
(資料)中国汽車工業協会より、みずほ総合研究所作成
⑥ :実質GDPへの影響(前年比)
[①前年比×自動車ウエイト
×個人消費ウエイト]
(注)2016年Q4の乗用車販売台数は推計値。④は社会消費品小売総額(一定規模以上)に占め
る自動車類販売の割合(2015年)、⑤は1人当たり消費支出に占める家庭交通工具の割合
(2012年)、⑥は名目GDPに占める個人消費の割合(2015年)により推計。
(資料)中国汽車工業協会、中国国家統計局より、みずほ総合研究所作成
43
Ⅲ.日本経済
~足元輸出が持ち直すも、公需依存は変わらず~
44
日本経済 ~ 民需・外需の回復は緩やかなペースにとどまり、当面の成長は公需依存に
○ 2016年7~9月期(1次速報)は、3四半期連続のプラス成長。輸出が持ち直しており、景気は踊
り場を脱しつつあると評価。ただし、内需の2本柱である個人消費と設備投資が依然低調なこと
から、景気が自律的な回復軌道に復したとまではいえず
○ 10~12月期以降の景気は、経済対策に伴う公共投資の執行などが下支えとなり、緩やかに持
ち直し。2016年度の成長率は+0.9%と、昨年度(+0.9%)から横ばい。2017年度は、経済対策
の執行本格化もあり+1.0%に上昇
○ 世界的な設備投資の弱さなど、従来からの輸出の減速要因は残存。一方、内需については、
経済対策効果が徐々に顕在化することで、公的需要が堅調に推移。設備の更新需要が根強い
ことなどから設備投資は緩やかに持ち直し、個人消費も雇用情勢の改善に伴い徐々に回復
○ トランプ大統領就任による日本経済への影響は、上振れ・下振れ双方のリスクに注意。①金融
市場の変動、②通商政策の行方、③米国経済の動向、④政策の不確実性が注目ポイント
○ 円高や原油価格下落の影響から、コアCPI前年比は2016年末頃までマイナス圏。その後は、エ
ネルギー価格の前年比がプラスに転じ、予測期間後半にはコアインフレ率は1%台に。エネル
ギー価格の影響を除く基調的なインフレ率は、小幅なプラスにとどまる
45
日本:踊り場を脱しつつあるが、自律的回復には至らず。当面は公需依存の成長に
◯ 7~9月期の実質GDPは、前期比年率+2.2%と3四半期連続のプラス成長。景気は踊り場を脱しつつあるが、個人消費と
設備投資が依然低迷しており、自律的回復軌道に復したとまではいえず
◯ 2016年度は海外経済の減速や円高の影響が成長率を下押し。一方、公的需要の増加や個人消費の底入れが下支えと
なり、成長率は+0.9%と15年度から横ばい。2017年度は、経済対策の進捗本格化などから、成長率は+1.0%に上昇
◯ トランプ大統領就任による日本経済への影響は、①金融市場の変動、②通商政策の行方、③米国経済の動向、④政策
の不確実性が注目ポイント(右表参照)
【 実質GDP成長率の見通し(寄与度分解) 】
ポイント
(前年比、%)
2.0
企業
(設備+在庫)
0.9
1
公的需要
実質GDP
0.9
0
▲1
外需
家計
(消費+住宅)
▲0.9
金融市場の
変動
今回の経済見通しでは、トランプ要因による為替の修正は行わ
ず。ただし、今後為替が変動するリスクは円安・円高双方ともに
大きく、日本の成長率に影響する可能性には注意
通商政策の
行方
NAFTA脱退や主要国への関税引き上げが実行されれば、世界貿
易の下押しを通じて日本の輸出に悪影響(本見通しでは織り込ま
ず)
米国経済の
動向
大規模な財政支出が行われれば米国成長率を押し上げる一方、
NAFTA脱退や厳格な移民政策が実行されれば米国成長率を下
押し。日本の成長率にも波及(本見通しでは織り込まず)
政策の
不確実性
現時点では、勝利演説の内容が穏やかで、現実路線転換を期待
させるものだったことから、不確実性は抑制された状況。ただし、
今後の言動次第では不確実性が高まり、設備投資等の先送りに
つながるリスク
1.0
0.9
▲2
▲3
2012
内容
予測
3
2
【 トランプ大統領就任による日本経済への影響(ポイント整理) 】
13
14
15
16
17
(年度)
(資料)内閣府「国民経済計算」より、みずほ総合研究所作成
(資料)みずほ総合研究所作成
46
日本:原油価格上昇がコアCPIを押し上げ。基調的なインフレ率の改善は緩やか
◯ 円高や原油価格下落の影響で、コアインフレ率は2016年末頃までマイナス圏で推移。その後は、エネルギー価格が前年
比プラスに転じることで、コアインフレ率は1%強に
‧ 9月見通しと比べると、コアインフレ率は16年度(▲0.1%⇒▲0.2%)を下方修正。17年度(+0.8%⇒+0.9%)は上方修正
――― 円高や家計の節約志向の高まりによる物価の下押し圧力が想定より大きかった点は、下方修正要因。
一方、原油価格の予測引き上げ(2017年度ドバイ原油価格:43ドル/バレル⇒56ドル/バレル)が上方修正要因
◯ 米国基準コアCPIは緩やかなペースでの上昇を予測
【 消費者物価指数の見通し(消費税除く) 】
【 原油相場とエネルギー価格の見通し 】
(前年比、%)
80
原油価格(ドバイ、円換算後)
見通し
(前年比、%)
20
エネルギー価格(右目盛)
60
(前年比、%)
1.5
見通し
15
1.0
40
10
20
5
0.5
0
0
0.0
▲20
▲5
▲40
▲10
▲60
▲15
▲80
14/3
14/9
15/3
15/9
16/3
16/9
17/3
17/9
(資料)日経NEEDS、総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所作成
▲20
18/3
(年/月)
▲0.5
米国基準コア
エネルギー
食料(生鮮食品・酒類を除く)
生鮮食品を除く総合
▲1.0
▲1.5
2013
14
15
16
17
18
(年)
(注) 米国基準コアCPIは、食料(酒類を除く)・エネルギーを除く総合。
(資料) 総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所作成
47
輸出:ITサイクルの改善が当面の輸出を下支え。ただし、構造的な下押し要因は残存
◯ 足元の輸出は、ITサイクルの改善を受けて持ち直し。先行指標も、当面の輸出回復を示唆
‧ iPhone7の販売は日系企業に追い風も、それだけでは効果は限定的。新興中国メーカーへの部品納入が下支えに
――― OPPO、vivoなど新興中国メーカーの販売増による日本への波及効果は、iPhone7などと比べると小さいと予想。
ただし、日本の部品メーカーも、これらの新興中国メーカーにある程度食い込んでおり、悲観は不要
◯ ただし、世界的な投資停滞とそれに伴う資本財の貿易低迷が、日本の輸出の構造的な下押し要因に
‧ 世界の投資比率の伸び(前年差)は、金融危機後にゼロ近傍に低下。日本の輸出増加率は、それとほぼパラレルに低下
【 輸出先行指標の推移 】
(前年比、%)
20
【 世界の設備投資比率と日本の実質輸出 】
(前年比、%)
実質輸出
台湾・電子部品・出荷在庫バランス(4カ月先行、右目盛)
米国・ISM新規受注(4カ月先行、右目盛)
15
10
50
20
30
0.5
10
0.0
0
10
0
0
▲1.0
▲20
▲1.5
▲15
▲40
▲20
▲50
13
14
15
16
17
(年)
(資料)日本銀行「実質輸出入」、米国ISM、台湾Ministry of Economic Affairsなどより、
みずほ総合研究所作成
▲0.5
▲10
▲30
2012
(前年比、%)
30
1.0
5
▲10
世界の設備投資比率(投資/GDP)
日本の実質輸出(右目盛)
40
20
▲5
(前年差、%Pt)
1.5
▲2.0
▲2.5
▲10
世界の投資比率停滞が
日本の輸出を下押し
(直近の輸出が底堅いのは
ITサイクル要因の可能性)
▲20
▲30
▲40
▲50
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年)
(注)2016年の世界投資比率はIMFによる予測値。2016年の日本の実質輸出(日本銀行ベース)
は2016年9月までの平均と2015年平均との比率。
(資料)IMF、日本銀行「実質輸出入」より、みずほ総合研究所作成
48
国内景気:製造業の不振から踊り場にあったが、足元で脱却の兆し
◯ 日本経済は、新興国の減速等に伴い2015年から踊り場入り。足元では、生産・輸出が持ち直しており、踊り場脱却の兆し
‧ 今回の踊り場の特徴として、製造業は低調だったが、非製造業は堅調に推移。その結果、雇用情勢も改善
――― 雇用関連指標をみると、失業率は、踊り場でも改善傾向を維持。生産・輸出の減速は製造業の雇用を削減するほ
ど深刻ではなく、かつ、非製造業が雇用拡大を続けたため
◯ 今後は、経済対策の進捗に支えられて景気は持ち直していく見込みだが、民需・外需の下振れリスクが依然大
【 今回の踊り場における各種指標の推移 】
【 景気動向指数(一致CI) 】
企業活動関連
(2014年3月=100)
101
第3次産業活動指数は
緩やかな増加傾向を維持
100
(2010年=100)
118
117
116
99
115
98
踊り場
踊り場脱却の
兆し
114
113
景気動向指数の
足踏みは
生産と連動
97
95
111
94
15
16
(年)
(注)1.太線は後方3カ月移動平均値。
2.シャドーは、踊り場の時期(ここでは、景気動向指数に関する内閣府の
基調判断を基に、2015年5月以降と定義)。
(資料)内閣府「景気動向指数」より、みずほ総合研究所作成
(万人)
100
今回の踊り場では
雇用情勢は改善傾向を維持
4.0
3.8
95
90
3.6
85
80
3.2
景気動向指数(一致CI)
鉱工業生産指数
第3次産業活動指数
93
110
(%)
4.2
3.4
96
112
2014
雇用関連
14
2014
15
16
3.0
75
失業率
新規求人数(右目盛)
70
2.8
(年)
2014
14
15
16
(年)
(注)シャドーは、踊り場の時期(ここでは、景気動向指数に関する内閣府の基調判断を基に、2015年5月以降
と定義)。
(資料)内閣府「景気動向指数」、経済産業省「鉱工業指数」、「第3次産業活動指数」、総務省「雇用統計」、
厚生労働省「一般職業紹介状況」により、みずほ総合研究所作成
49
設備投資:非製造業のストック循環は改善へ。 ROE目標が国内投資の抑制要因に
◯
‧
◯
‧
非製造業の資本ストック循環が足元で調整局面。今後については、深刻な調整を回避し、改善に向かう見込み
高水準のキャッシュフローや、インバウンド関連・新型倉庫などの投資案件が下支えに
長期的には、「攻めのコーポレート・ガバナンス」が一因となって株主資本コストが上昇しており、設備投資の抑制要因に
株主資本コストの高まりは、コーポレート・ガバナンスの強化に伴う配当増が寄与している可能性
――― ROE目標設定によって、連結ベースの収益性を高めるために海外投資の重視姿勢が強化されることで、国内
投資にマイナスの影響が及ぶおそれ
【 資本コストの推移 】
【 資本ストック循環図 】
(設備投資、前年比%)
15
<非製造業>
WACC(加重平均資本コスト)
2000~2014
(%)
3.0
負債コストと株主資本コスト
(%)
6
WACC
2015Q1~2016Q2
2.5
5
2.0
4
1.5
3
1.0
2
▲5
0.5
1
▲10
0.0
10
5
負債コスト
株主資本コスト
0
4
4.5
5
5.5
6
(前年の設備投資/
資本ストック比率)
(資料)内閣府「民間企業資本ストック統計」、「国民経済計算」より、
みずほ総合研究所作成
0
2003
06
09
12
15
(年度)
2003 05
07
09
11
13 15
(年度)
(注)1. 2003~2015年度の間にある程度継続性のあるサンプルを対象とした。
2. 値は中央値。
3. 上場企業の連結決算から算出。
(資料)Osiris、財務省および総務省資料より、みずほ総合研究所作成
50
個人消費:耐久財は低水準ながら底入れ。実質賃金上昇の持続性が消費回復の鍵
◯ GDP統計(QE)上の個人消費は低調だったが、家計調査の弱さが下押し。実態に近い消費活動指数は底入れの動き
◯ 消費者マインドは改善傾向にあり、年明けにかけての消費下支えが期待される。一方、天候不順の影響による生鮮食品
の価格高騰は、個人消費の下振れリスクとして注意
◯ 持続的な実質賃金上昇が、消費回復の鍵に
‧ 円安・増税による物価上昇に賃金が追い付けなかったことが、2013~14年にかけて実質賃金の負の恒久的ショックに
‧ 2015年以降は原油安等の効果から恒久的ショックはプラスに転化。家計にとっての所得環境は徐々に好転
【 消費活動指数 】
(2013Q1=100)
120
【 実質賃金に対する恒久的・一時的所得ショックの推移 】
非耐久財
耐久財
サービス
実質消費活動指数(旅行収支調整済)
115
110
恒久的ショック
一時的ショック
4
3
2
1
0
105
▲1
100
▲2
95
▲3
90
13/3
13/9
14/3
14/9
15/3
15/9
(資料)日本銀行「消費活動指数」より、みずほ総合研究所作成
16/3
16/9
(年/月)
▲4
2010
11
12
13
14
15
16
(年)
(注) X=[Δlog(実質賃金), Δlog(名目賃金)]’ の2変数VAR(ラグ4)モデルを推計し、BlanchardQuahの方法により実質賃金に恒久的な影響を与える構造ショックを実質ショック、一時的
な影響しか与えないショックを名目ショックとして識別(推計期間は1995Q1~2016Q2)。
(資料)厚生労働省「毎月勤労統計」より、みずほ総合研究所試算
51
賃金:2017年の春闘は16年並みと予測。中小企業の給与増加は前向きの材料
◯
‧
◯
‧
‧
2017年の主要企業春季賃上げ率は2.10%と16年(2.14%)から小幅な低下を予測
労働需給のひっ迫が押し上げ要因となる一方、円高による企業収益の目減りや物価の低迷が下押し要因に
所定内給与(一般労働者)の動向を事業所規模別にみると、足元で5~29人規模の中小事業所の所定内給与が増加
中小・非製造業で特に人手不足感が強く、賃金上昇圧力となっている模様
最近は、経営体力の面でも、中小企業が賃上げしやすい状況になってきたとみられる
――― 実質賃金の長期均衡値(労働生産性に連動)からのかい離を推計すると、足元では適正水準並みに調整
【 主要企業の春季賃上げ率(予測) 】 【 規模別所定内給与(一般労働者)の推移 】
3.1
1.5
2.9
1.0
2.7
賃金水準:
過大
(%、前年比)
2.0
(%)
3.3
5~29人
30~99人
500人以上
0.5
2.5
【 実質賃金の均衡値からの乖離
(中小企業) 】
(%)
20 以下の均衡関係式を基に、
実績値と均衡値のかい離を計算
15
10
5
0.0
2.3
0
2.1
1.9
予測 ▲ 1.0
1.7
▲ 1.5
94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16
(年)
(注)2017年はみずほ総合研究所による予測値。
(資料)厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結
状況」より、みずほ総合研究所作成
▲5
▲10
ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢ
1.5
賃金水準:
過小
▲ 0.5
2013
14
15
16
(年/四半期)
(資料)厚生労働省「毎月勤労統計調査」より、
みずほ総合研究所作成
▲15
1980 85
90
95 2000 05
10
15
(年)
(注)点線は、±1標準誤差。均衡実質賃金からの乖離は、
対数変換後の推計値と実績値の差。実質賃金の伸びが
労働生産性の伸びを上回る場合に乖離がプラスとなる。
(資料)財務省「法人企業統計」より、みずほ総合研究所作成
52
Ⅳ.金融市場
~低金利環境下、大統領選後のドル高・金利上昇に注目~
53
金融市場 ~低金利環境下、米大統領選後のドル高・金利上昇に注目
○ 米大統領選後の金融市場は、トランプ政権への政策期待から足元リスクオンの動き。トランプ
新大統領の金融財政政策のフレームワークがドル高・金利上昇をもたらすリスクに留意
○ FRBは12月に利上げを行うと予想。日銀は、当面新たな政策の枠組みの効果を見極め、
政策を据え置く公算。ECBは12月の政策理事会で緩和期間の延長を行うと予想
○ 米国株は利上げ前後に株価の停滞が見られるも、2017年以降は企業業績の改善を背景に
底堅く推移する見込み。日本株は緩やかな円安・国内景気の改善傾向を踏まえ、徐々に
上昇基調を強める見込み。ドル円相場は、米経済が許容できるドル高水準を試す動きに
○ 米長期金利は上昇試すも、欧州政治情勢など世界的な不透明要因の残存が金利上昇を抑
制。国内長期金利は日銀のイールドカーブ・コントロールにより0%近傍のマイナス圏での推
移を予想。ECB、日銀の国債買入れ見直しの動きに注目
54
金融市場:米長期金利は上昇を試す。株価は底堅い推移を予想
【 金融市場の予測(2016年11月) 】
2015
2016
2017
年度
年度
年度
2016
4~6
2017
7~9
10~12
1~3
4~6
2018
7~9
10~12
1~3
日本
無担保コールO/N
ユーロ円TIBOR
金利スワップ
新発国債
日経平均株価
(末値、%)
▲ 0.00
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.06
▲ 0.06
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
(3か月、%)
0.16
0.06
0.06
0.07
0.06
0.06
0.06
0.06
0.06
0.06
0.06
(5年、%)
0.17
▲ 0.05
0.00
▲ 0.10
▲ 0.10
▲ 0.02
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
(10年、%)
0.29
▲ 0.07
▲ 0.05
▲ 0.12
▲ 0.13
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
▲ 0.05
(円)
18,841
16,900
18,400
16,408
16,497
17,300
17,500
17,900
18,200
18,600
19,000
0.25~0.50 0.50~0.75 1.00~1.25
0.25~0.50
0.25~0.50
0.50~0.75
0.50~0.75
0.75~1.00
0.75~1.00
1.00~1.25
1.00~1.25
米国
FFレート
(末値、%)
新発国債
(10年、%)
2.12
1.80
1.95
1.75
1.56
1.90
1.90
1.95
1.95
1.95
2.00
(ドル)
17,298
18,200
18,700
17,764
18,368
18,400
18,300
18,400
18,700
18,700
18,900
ECB主要政策金利
(末値、%)
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
ドイツ国債
(10年、%)
0.53
0.10
0.20
0.12
▲ 0.07
0.15
0.15
0.15
0.20
0.20
0.20
(円/ドル)
120
105
106
108
102
106
104
105
105
106
107
(ドル/ユーロ)
1.10
1.11
1.08
1.13
1.12
1.09
1.10
1.08
1.08
1.07
1.07
(ドル/バレル)
45
47
58
46
45
47
50
52
56
59
62
ダウ平均株価
ユーロ圏
為替
ドル・円
ユーロ・ドル
WTI原油先物価格
(注) 網掛けは予測値。予測値は期中平均。但し、無担保コールO/N、FFレート、ECB主要政策金利は期末値。
ユーロ円TIBORは360日ベース。スワップ5年は6カ月LIBORに対する固定金利払。為替相場はニューヨーク終値ベース。
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
55
金融市場:超低金利に変化の兆し。米財政政策、欧日金融政策の動向に注視が必要
◯ 金融市場では、トランプ政権下での減税や財政出動など政策期待が高まる展開。投資家の不安心理を示すVIX指数は
大統領選への警戒からメルクマールの20を上回るも、大統領選後に低下
◯ 欧米長期金利はインフレ期待上昇などを受け上昇。米国の財政拡大や、ECB、日銀の国債買入れ方針の見直しにより
長期金利の上昇圧力が高まる可能性に留意が必要
【 日米独10年国債利回りの推移 】
【 VIX指数(投資家の不安心理を示す指標) 】
(Index)
50
(%)
3.5
欧州問題深刻化(ギリシャ二次支援)
米国債格下げ
米10年国債
45
40
3.0
欧州問題深刻化
(ギリシャ総選挙・スペイン支援)
35
米量的緩和終了
米量的緩和
縮小観測
新興国
米財政の
不安
米財政
崖懸念
問題
30
25
2.5
チャイナ・ショック
ギリシャ
政局不安
英国民投票
1.5
1.0
20
0.5
15
0.0
10
▲0.5
11
2011
12
13
14
独10年国債
2.0
15
16
(年)
(注) VIX指数はS&P500のオプション・インプライド・ボラティリティ指標で、20以上が投資の
不安心理の高まりを示すメルクマール。
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
日本10年国債
13
2013
14
15
16
(年)
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
56
為替相場:ドル円、ユーロドルはドルの上値を試す動きに
◯
‧
‧
‧
ドル円、ユーロドルは当面ドルの上値を試す動きに
米国の財政支出拡大への期待から、米長期金利は足元急上昇しており、日米金利差拡大によるドルの上昇圧力に注目
米新大統領は保護主義的なスタンスであり、急激なドル高への警戒感は現状よりもやや高まると想定
米利上げを巡る思惑や欧州各国の選挙などを控え、2017年のドル相場のボラティリティが高まる可能性も
――― ドルの変動が高まる過程で新興国の資金流出懸念が意識され、急激なドル高が進み、利上げ見送りのリスクも
【 米為替報告書(監視リスト国と評価基準) 】
【 日米長期金利差とドル円相場 】
(円/ドル)
125
ドル円相場
米日10年国債金利差(米-日)(右目盛)
評価軸
大幅な対米
貿易黒字
大幅な経常黒字
持続的・一方的な
為替介入
2.1
主な基準
対米貿易黒字が
200億ドル超
経常黒字が
GDPの3%超
1年間のネット為替
介入額が
GDPの2%超
2.0
単位
(億ドル)
(%)
(%)
中国
3,561
2.4%
▲5.1%
ドイツ
711
9.1%
-
日本
676
3.7%
0
1.7
韓国
302
7.9%
▲1.8%
1.6
台湾
136
14.8%
2.5%
1.5
スイス
(今回追加)
129
10.0%
9.1%
(%)
2.2
120
115
1.9
110
1.8
105
100
95
16/1
16/3
16/5
(資料) Bloombergより、みずほ総合研究所作成
16/7
16/9
16/11
(年/月)
(注)1. 監視リスト対象6カ国の評価基準。数値は2015年7月~2016年6月の値。
2. 中国の為替介入額は基準値を超えているが、世界経済へのネガティブな影響を防ぐも
のであり、 持続的・一方的な為替介入には当たらないとしている。
(資料) 米財務省「為替報告書」より、みずほ総合研究所作成
57
(ご参考)主要国の政治日程
2017年
米国
1月 新議会・新政権誕生
2018年
2月 イエレンFRB議長任期満了
11月 中間選挙
3月 オランダ議会選挙
欧州
5月頃 イタリア総選挙
4月~5月 フランス大統領選挙
6月 フランス議会選挙
8~10月 ドイツ議会選挙
4月 黒田日銀総裁任期満了
日本
9月 自民党総裁選
12月頃 衆議院議員任期満了
3月 香港行政長官選挙
アジア
秋 第19期中国共産党大会
12月頃 韓国大統領選挙
5月 マレーシア議会選挙
秋 中国3中全会
年内 インド上院選挙
12月頃 タイ総選挙
3月 ロシア大統領選挙
その他
7月 メキシコ大統領選挙
10月 ブラジル大統領選挙
(資料) みずほ総合研究所作成
58
【経済予測チーム】
武内浩二
小林公司
・米国/欧州経済
小野 亮
風間春香
吉田健一郎
松本 惇
・アジア経済
大和香織
玉井芳野
・日本経済
徳田秀信
有田賢太郎
大野晴香
市川雄介
宮嶋貴之
上里 啓
高瀬美帆
・金融市場
野口雄裕
井上 淳
大塚理恵子
坂中弥生
(全体総括)
(新興国)
03-3591-1244
03-3591-1379
[email protected]
[email protected]
(総括)
(米国)
(欧州)
(欧州)
03-3591-1219
03-3591-1418
03-3591-1265
03-3591-1199
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
(総括)
(中国)
03-3591-1368
03-3591-1367
[email protected]
[email protected]
(総括)
(外需・物価)
(個人消費)
(計量分析)
(企業)
(雇用・政府)
(住宅)
03-3591-1298
03-3591-1419
03-3591-1243
03-3591-1289
03-3591-1434
03-3591-1284
03-3591-1416
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
(総括)
(新興国・原油)
(内外株式)
(海外金利)
03-3591-1249
03-3591-1197
03-3591-1420
03-3591-1242
[email protected]
[email protected]
[email protected]
[email protected]
本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、取引の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、弊社が
信頼に足り且つ正確であると判断した情報に基づき作成されておりますが、弊社はその正確性・確実性を保証するものではあ
りません。本資料のご利用に際しては、ご自身の判断にてなされますようお願い申し上げます。
59