鍛える前に整える 自分でもできるアライメントチェック&矯正

鍛える前に
整える
オガサカチームも取り組むトレーニングをクローズアップ!
読者の皆様も、オフシーズンはさまざまなトレーニングに取り組んでいることでしょう。
しかし、そもそも身体のアライメント(配列)
や関節がゆがんだ状態でトレーニングを行なっても、
あまり良い効果を得られないばかりか、ケガのリスクが高まる可能性もあります。
まずは身体のアライメントを「整えて」から「鍛える」ことをめざしてはいかがでしょう。
オガサカチームのトップ選手も取り組んでいるトレーニングを紹介します。
写真=樽川智亜希
協力=オガサカスキークラブ、スキー工房ヒグチ
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【前編】
自分でもできる
アライメントチェック&矯正
骨格や関節のゆがみやズレ。
身体のアライメントを整えて
トレーニングの効果を最大限に引き出す
胸郭や骨盤にゆがみがあるのに無理な
運動を重ね、腰周辺の筋肉が張りを起
可動域が狭いことが原因の場合もあり
人間には持って生まれた骨格があり
ますが、それは日々ゆがんでいくもの
ます。それらの原因で膝にねじれが生
こすのがそのサインです。ひと晩寝れ
いくと、炎症反応や組織の損傷に発展
内側に回旋し、伸ばしていくときは外
じたままブーツを履いてインエッジに
です。日常生活でも徐々にゆがんでい
みが当然大きくなります。その状態で
していきます。そうなると治療が必要
側に回旋する動きを伴います。ひとつ
ば元に戻るレベルのものならば許容範
トレーニングを行なっても、思うよう
になるわけです。
の軸の運動ではなくて、回旋も交えた
荷重をしようとすると、極端な「ニー
囲なのですが、それが積もり積もって
な効果は得られません。むしろケガや
かといって、その痛みや腫れをその
都度解消する治療は対処療法でしかあ
複合的な動きをします。その回旋の可
イン」が生じ、膝や股関節、腰に過剰
をかけているアスリートは、そのゆが
トラブルのリスクが増します。
りません。本来であればそのゆがみや
動域が狭くなってしまうことで無理な
きますし、ましてや身体に大きな負荷
骨格や関節にゆがみやズレがあるの
に負荷がかかると、それに対して身体
ズレ自体を修正して、身体のアライメ
それをどのように修正していくかとい
は生体防御反応として、まず筋肉が不
関節などにさまざまなトラブルが生じ
うことです。
なストレスがかかります。大切なこと
する「リアライン・トレーニング」です。
てくるのです。また、胸郭や骨盤のゆ
ポジションが作られ、関節や筋肉に本
これは広島国際大学の蒲田和芳教授が
がみやズレも、スキー滑走時の身体に
今月号では、まず自分の身体のアラ
イメントをチェックする方法を、足首
ント(配列)を整えるようなトレーニン
提唱する関節疾患の治療理論であるリ
や膝の下肢と、胸郭や骨盤の体幹に分
けて紹介していきます。そのゆがみや
体幹部のゆがみが生じたまま滑走をす
ることによって、滑走時の動きに左右
ズレを確認したら、それらを自分で矯
さまざまなトラブルをもたらします。
差が生じ、結果として腰痛や骨盤周り
正していく方法もご紹介します。そし
レーニング法です。
のトラブルが起こりやすくなります。
て次号では、
〈リアライン・トレーニン
ゆがみやズレの原因を
しっかりと把握しよう
り明確にその効果を確認できるエクサ
サイズに取り組んでいきます。ぜひ試
グ〉用に開発された器具を使って、よ
るのは、足裏のアーチが内側、もしく
してみてください。
内旋の可動域が狭くなってしまってい
り、膝から下の部分が外側にねじれて
は外側に崩れてしまっていることが原
そうしたトラブルの原因も人によっ
てさまざまです。下腿の回旋、とくに
しまっている現象です。膝は本来、曲
因になっていることもあれば、足首の
他のスポーツにも共通しているんで
すが、スキーでとくに問題となるのは
げていくときは太ももに対してスネが
下腿外旋症候群です。これは言葉どお
アライン・コンセプトを基盤としたト
必要な緊張を起こします。たとえば、
実技=児玉有矢
生じているのかをしっかりと見極め、
1995年生まれ、長野県出身。
幼少の頃からアルペン競技に
取り組み、全中などの全国レ
ベルの大 会で上 位 入賞を記
録。長野県の強化指定選手
にも選抜されている。現在は
東洋大学3年、オガサカスキ
ーチーム所属
は、身体のどの部分にゆがみやズレが
実技=清水大
来かかるべきではない負荷がかかって
1990年生まれ、長野県出身。
インターハイやインカレなどで
上位入賞の経験を持ち、現在
は社会人として活動する国内
のトップレーサー。2013/14
シーズンにはファーイーストカ
ップ総合3位を記録している。
オガサカスキークラブ所属
しまいます。その結果、足首や膝、股
解説=栗田興司
系化しているのが、今回の特集で紹介
国体などへの出場経験を持つ
レーサーでありながら、コンデ
ィショニングコーチやスポーツ
トレーナーとして活動。
(一(社)
日本健 康予防医学会関節疾
病予防専門部会理事。フィジ
カル・コンディショニング・プ
ロダクション(PCP)代表
グが必要なのです。そこに着目して体
身体のアライメントを整えるリハビリ器具として生み出された〈リアラ
イン〉
。左の〈リアライン・バランスシューズ〉は足首や膝の関節、右
の〈リアライン・コア〉は胸郭や骨盤など、体幹部のゆがみやズレを
矯正することができる。今月号の内容を踏まえ、次号ではこの〈リア
ライン〉を使ったトレーニングを紹介していく
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節のゆがみやズレに注目して見ていき
す。ここでは、おもに下肢の骨格や関
をチェックする方法を紹介していきま
まずは身体を鍛えるトレーニングを
行なう前に、アライメントやバランス
やズレが生じているのかを、まずはし
んどです。自分の身体のどこにゆがみ
トのどこかに問題があるケースがほと
生じているときは、その3つのポイン
す。アライメントやバランスに崩れが
股関節の動きができるかということで
カーフレイズ
両つま先を正面に向けた状態で
カカトを上げます。バランス良く
両足の母趾球に乗れていれば
OKですが、上の悪い例のよう
に、どちらかの足の母趾球が浮
いてしまうと、足首や膝にゆが
みやズレが生じていたり、スネ
の外側にある腓骨筋という筋肉
が機能していないことが考えら
れます。このような状態だと、エ
ッジングの際に過剰なニーイン
を生み出し、膝や股関節にスト
レスが生じます
Part.1
まずは身体のアライメントを確認しよう。
足部、足首、膝の動きをチェック
ます。ポイントとなるのは、足部のア
母趾球が
浮いてしまう
正しい屈 伸 運 動 と、そ れ を 誘 導 す る
ーチがしっかりと作れているか、足首
母趾球が
浮いてしまう
っかりと確認しましょう。
片脚スクワット
片脚でのスクワットを行ない、左
右それぞれの下肢全体のアライメ
ントをチェックします。ポイントは
つま先の方向と膝の向きが一致
しているかどうか、そして骨盤や上
体もねじれていないかということで
す。下の悪い例では足の内側アー
チが落ち、そのために下腿が大
腿部に対して外にひねられ、股関
節が内旋しています。さらにそれを
補うために上体を外側に向ける動
きも見られます。やはり左下肢に
ゆがみや筋力バランスの問題があ
るようです
足首を最大に曲げたスクワット
姿勢を作り、足の向きを平行に
保ったまま骨盤を左右に回旋さ
せます。その際に母趾球ライン
への荷重が保たれているかどう
かをチェックします。清水選手
の場合、右下肢のアライメント
は整っていますが、左は母趾球
が浮いてしまい、荷重をキープ
できていません。左側の足部の
アーチか足首、膝のどこかにゆ
がみやズレが生じているのがわ
かります
の関節の可動域が充分か、そして膝の
膝から下の
チェック
ントを確認していきましょう。下肢と
下肢のアライメントチェックに続き、
体幹を構成する胸郭や骨盤のアライメ
低下にもつながってきます。自分の体
荷重しづらいなど、パフォーマンスの
き起こしたり、左右どちらかの下肢に
きに左右差が生じていると、腰痛を引
Part.2
胸郭や骨盤、股関節。
体幹のチェック
同じように、スキーヤーには体幹のア
が前傾しすぎていたり、肋骨の形や動
ライメントにゆがみが生じているケー
幹がどのようなアライメントなのかを
しっかりと把握しておきましょう。
前屈の曲がりやすさをチェックします。左は股関節をしっかりと曲げて骨盤を水平にするこ
とができていますが、右の悪い例では股関節に屈曲制限があり、骨盤が充分に倒れていま
せん。そのため、腹筋を緊張させて上体を前に曲げようとしていることがわかります。股関
節を曲げることができないのも、骨盤の左右のアライメントが崩れてしまっていることがひ
とつの原因として考えられます
スが多く見られます。たとえば、骨盤
を構成している左右の腸骨のどちらか
前屈
後屈
後屈では背中や股関節の伸展
の可動域をチェックすることが
できます。骨盤や胸郭にゆがみ
がなければ、左右にずれること
なく胸を大きく開いて身体を反
らすことができます。しかし、骨
盤や胸郭の左右どちらかが前に
出てしまったりしていると、悪い
例のように腰椎に無理な回旋
ストレスが生じてしまい、身体
が傾いてしまいます。そのため、
本来の脊柱の可動性が損なわ
れて、身体を反らすことができな
くなってしまいます
オーバーヘッド・
スクワット
両腕を頭上に上げたオーバーヘッドスクワット
で、体幹の可動性と下肢との連動性を確かめ
てみましょう。悪い例では左の胸郭の可動性
不足から上半身が右に回転してしまい、それに
伴い骨盤のアライメントにも左右差が生じ、左
脚がニーイン状態になっています
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を 自 分 で 矯 正 す る 方 法 に 取 り 組 んで
パート1〜2で自分のアライメント
のゆがみやズレを確認できたら、それ
ければ、次は足首の可動域を矯正する
イメントをチェックしてうまくいかな
のアーチを矯正してからもう一度アラ
つひとつ確認していきましょう。足部
足関節の矯正
イスなどに片足を乗せた状態で、スネを前に
倒す動きを繰り返し、足首の屈曲可動域を
広げます。足首の可動域が狭くてつま先が
外に開いたり膝が内側に入ってしまうような
人は、足首の前面、内くるぶしの少し前あ
たりに引っかかりを感じるはずです。アキレ
ス腱や内くるぶし周辺の皮膚をつまみ上げる
と、関節周りの組織の可動性が高まり、足
首の本来の動きを取り戻すことができます
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Part.3
自分でもできる
アライメント矯正方法
みましょう。関節のゆがみは単独で生
といったように、ひとつひとつのゆが
低めの台などの端に片足の母指球を乗せ、その状態で片脚で
のスクワットを行ないます。母趾球への荷重をキープしながら、
ニーイン状態にならないように、足首をまっすぐ前に曲げられる
かどうかを確認します。つま先と膝の向きをそろえたまま屈曲荷
重を行ない、足首や膝、股関節の動きを覚え込ませましょう
因かを突き止めるために、まずはひと
じるだけではなく、他の関節のゆがみ
みやズレを正していくことが、全体の
母趾球荷重の屈曲動作の修正
みの原因になったりします。どれが原
場合が多く見られます。足のアーチの
アライメントを整えることとゆがみの
の影響を受けて連鎖して起こっている
低下が膝のねじれの原因になっていた
再発予防に役立ちます。
タオルを丸めたものなど筒状の
ものを足裏外側のアーチの下に
挟んだ状態で、スネを前傾させ
ていきます。足の立方骨を良い
位置に押し上げることができる
ので、しっかりとしたアーチが形
成された状態で足首を曲げてい
く可動性が高められます。カカ
トや母趾球を浮かさないで、足
首を曲げる動作を反復します。
注意してほしいのは、膝を内側
に倒したニーインにしないこと。
真っ直ぐにつま先方向、または
やや外側に向けて曲げていくの
がポイントです
り、膝のねじれが股関節や骨盤のゆが
足部の
アーチの矯正
膝関節の矯正
肩幅よりやや広めのスタンスでイスに座り、膝か
ら下のスネの骨を外ひねりから内ひねり方向に
回旋させます。ポイントは足首周りの筋肉を使
ってつま先の方向を変えるのではなく、大腿部
裏側の内側ハムストリングスを使ってスネの骨
を内側にひねることです。また、動作中は膝の
位置を左右に動かしてはいけません。悪い例の
ように、母趾球が浮いてしまうのは、この内側
ハムストリングスが使えずにスネがまわらず、足
首を動かしてしまっていることになります。そうい
う人は、内側ハムストリングスを触って確認しな
がら、意識して使えるように行なってみましょう
ニーアウト・スクワット
正しくスクワットを行なうことで下肢全体のアラ
イメントを整えることができます。肩幅よりやや
広いスタンスで立ち、両つま先を正面に向け、
足部を完全に平行にセットします。そのスタンス
でしゃがんだときに、正面から見て膝の中心が、
足の内側から4番目の足趾の真上にあるように
しましょう。そうすると、大腿部は外側を向き、
大腿部に対してスネが内旋しているという、理
想的な屈曲アライメントを作ることができます。
悪い例のようにニーインしてしまい、大腿部に
対して下腿が外旋してしまわないように注意しま
しょう
大腿部に対する
膝の内旋
膝の中心が足の内側から
4番目の指の直上に位置
する
つま先上げ
スクワット
サイドスプリット・スクワット
スタンスを大きく開いてサイドスクワットを行ないます。スタンスを大きく
広げるために、大腿部は大きく外側を向きますが、つま先は正面に向け
たままキープしましょう。大腿部が外側を向くぶんだけ、膝の内旋角度
が深まります。悪い例は膝が内側に入り、つま先が外側を向いてしまって
います。骨盤や肩のラインが水平になるように注意して行ないましょう
つま先を上げてスクワットを行
ないます。足趾を上げることに
よって足部のアーチが形成さ
れ、母趾球、小趾球、カカト
の3点に強い荷重感が得られ
ます。その荷重感を失わない
ように足首を曲げて、膝を正し
い位置に保ちながらスクワット
を行なうことで、下肢全体のア
ライメントを整えるエクササイ
ズになります
次回は〈リアライン・バランスシューズ〉
〈
、リアライン・コア〉を使った
トレーニングを紹介していきます