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第 12 回「脂肪族求核置換反応 (2)」
有機化学Ⅰ 講義資料
第 11 回「脂肪族求核置換反応 (2)」
前回に引き続き、脂肪族求核置換反応、すなわち「正に分極した sp3 炭素原子上の置
換反応」について学ぶ。前回は、SN2 反応について学んだ。その中で、三級のハロゲン
化アルキルは SN2 反応を起こさないことを学んだ。
ところが実際には、下の反応は極めて速く進行する。
CH3
H3C C Br
CH3
+ H2O
H3C C OH + HBr
CH3
2-
CH3
-2-
2-
-2t
この反応は、SN2 とは別の反応機構で進行していると考えなくてはならない。今回は、
まずこの反応 (SN1 反応) について学び、さらに SN1 と SN2 を比較して脂肪族求核置換
反応についての理解を深める。
1. 三級ハロゲン化アルキルの求核置換反応:SN1 反応
三級ハロゲン化アルキルの求核置換反応を詳しく調べたところ、以下のような点で一
級ハロゲン化アルキルの反応(SN2 反応)とは異なることがわかった。
(1) 非常に弱い求核剤でも反応が進行する。上の反応では、H2O が求核剤である。H2O
は極めて弱い求核剤であり、SN2 反応は非常に遅い。
(2) 反応速度は、求核剤の種類や濃度に依存しない。
このことから、この反応は「最初に反応性の高い中間体が生成して、それが求核剤と
速やかに反応する」という二段階で進むのではないか、という予想が立てられる。中間
体の反応性が高ければ、上の(1)は説明できる。また、中間体の生成が全体の速度を決
めているのだとしたら(律速段階)、(2) も説明できる。
エネルギー
高反応性の
中間体?
H3C
H3C
C
Br
H3C
反応座標
–1–
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実際、このように反応が進行することが証明された。「反応性の高い中間体」の正体
は、カルボカチオンである。上の反応の場合は、t-ブチルカチオンが生成する。 “rds” は
既に学んだ通り、「律速段階」を示す(第7回復習問題参照)。
H3C
H3C C
H3C
Br
H3C
C CH3
H3C
rds
+ Br–
次に、中間体の t-ブチルカチオンに対して水が求核剤として反応する。生成物は、プ
ロトン化されたアルコールである(アルケンに対する水の付加と同じ。第7回参照)。
H3C
C CH3
H3C
+ H2O
H3C
H
H3C C O
H
H3C
最後に、プロトン化されたアルコールから H+が脱離して、2-メチル-2-プロパノール
が生成する。
H3C
H
H3C C O
H
H3C
H3C
H
H3C C O
H3C
+ H+
以上をまとめて書くと、次のようになる。
H3C
H3C C
H3C
Br
– Br–
rds
H3C
C CH3
H3C
H2O
H3C
H
H3C C O
H
H3C
– H+
H3C
H
H3C C O
H3C
この反応を SN1 反応 (SN1 reaction)と呼ぶ。S は「置換」substitution、N は「求核」
nucleophilic 、「1」は「一分子反応」のことで、律速段階にハロゲン化アルキルのみ
が関わっていることを表している。
SN1 と SN2 の違いを明確に理解しよう。SN2 では、求核剤の接近と脱離基の解離が
同時に起きる。これに対して、SN1 では、脱離基が最初に解離し、その後で求核剤が接
近する。
–2–
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SN2
C
Br
SN1
C
Br
–OH
+ Br–
HO C
H2O
+ Br–
C
C OH
H
反応のエネルギー図は、次のようになる。(先ほどの図と違って、下の右図では最後
の「H+の脱離」が追加されて三段階になっているが、本質は変わらない。)
遷移状態
SN2
!–
Br
HH
C
律速段階の
SN1 遷移状態
!–
OH
H3C
HH
Br
HH
–OH
C
Br–
H
カルボカチオン中間体
CH3
エネルギー
エネルギー
H
CH3
C
C
OH
H3C
H3C
C
H3C
H3C
Br
H3C
C
H
O
H3C
H
H3C
H3C
C
H3C
O
H
H
反応座標
反応座標
SN2 反応では、遷移状態にハロゲン化アルキルと求核剤の両方(二分子)が関与して
いる。一方、SN1 反応では、律速段階の遷移状態にはハロゲン化アルキルのみ(一分子)
が関与している。この「二分子反応」
「一分子反応」の違いが、
「SN2」
「SN1」という名
称の由来である。
­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­
問:次の反応は SN1 で進行する。反応機構を巻き矢印で示しなさい。
Br
CH3OH
­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­
–3–
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2. SN1 と SN2 の違い
さて、脂肪族求核置換反応には SN1, SN2 の二種類の反応機構があることがわかった。
反応機構が異なることによって、これらの反応にはさまざまな違いが見られる。
(1) アルキル基の構造
SN1 反応では、まずカルボカチオンの中間体が生成する。このため、カルボカチオン
の安定性が十分に高くなければ、反応が進行しない。実際、SN1 反応が可能なのは、三
級、アリル型、または隣接するローンペアを持つアルキル基に脱離基が結合した化合物
のみである。
R
Br
Br
O
R
C
R
H
Br
R
C
H
Br
R
SN1
H
C
HH
Br
R
C
Br
H
SN1
注1:かつては、二級アルキル基でも SN1 反応が起きる場合があると考えられていた。しかし、
最近の研究によれば、二級アルキル基は SN2 のみで反応するとされている (T. J. Murphy, J. Chem.
Educ. 2009, 86, 519–524)。
三級アルキル基に脱離基が結合した化合物は、SN1 のみを起こす。立体障害が大きく、
SN2 は進行しないからである。
H3C
H3C
C
H3C
H3C
H3C
C
H3C
Br
Br
– H+
– Br– H3C CH3 CH3OH H3C CH3
C
C
H
C
OCH3
3
CH3
H
CH3O–
H3CO
CH3
CH3
+ Br–
C
CH3
H3C CH3
C
H3C OCH3
SN1
SN2
一方、メチル基・一級アルキル基・二級アルキル基に脱離基が結合した化合物は、
SN2 のみを起こす。カルボカチオンの安定性が不十分で、SN1 は進行しないからである。
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CH3CH2
– Br–
Br
CH3CH2
CH3OH
CH3CH2 OCH3
– H+
CH3CH2 OCH3
SN1
H
CH3CH2
Br
CH3O–
SN2
CH3CH2 OCH3 + Br–
アリル型、または隣接するローンペアを持つアルキル基で一級・二級の場合は、SN1
も SN2 も両方起きる可能性がある。この場合は、反応条件によってどちらの機構で進
行するかが決定される(後でもう少し詳しく議論する)。
CH3OCH2 Br
– Br–
CH3OCH2
CH3OH
CH3OCH2 OCH3
– H+
CH3OCH2 OCH3
SN1
H
CH3OCH2
Br
CH3O–
CH3OCH2 OCH3 + Br–
SN2
(2) 求核剤の種類
SN1 反応において、求核剤が関与するのは中間体カルボカチオンが生成した後である。
反応しやすさ(反応速度)はカルボカチオンが生成するところで決まっているため、
SN1 の反応性は求核剤の種類には依存しない。
H3C
H3C C
H3C
Cl–
Br
+
H2O
SN1
O
H3C
OH
実際には、SN1 反応は、弱い求核剤を使って行うことが多い。理由は二つある。一つ
は、SN1 反応と SN2 反応が両方起きる可能性がある場合、強い求核剤だと SN2 反応が
優先するためである。
CH3OCH2 Br +
CH3OH
CH3OCH2 OCH3 +
HBr
SN1
CH3OCH2 Br +
CH3O–
CH3OCH2 OCH3 +
Br–
SN2
–5–
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もう一つは、強い求核剤を用いた場合、SN1 反応とは異なる別の反応(脱離反応)が
優先することがあるためである。三級ハロゲン化アルキルの場合、立体障害が大きいた
め SN2 反応が競争することはないが、脱離反応との競争はしばしば問題になる。脱離
反応については、あとで改めて学ぶことにする。
H3C
H3C C
H3C
Br
+
H3C
H3C C OH
H3C + H+
H2O
+
H3C
C CH2
H3C
SN1
H3C
H3C C
H3C
Br
+
H3C
H3C C OH
H3C
–OH
+
H3C
C CH2
H3C
SN1
(3) 立体化学
下の反応を考えてみよう。反応物は二級のハロゲン化アルキルだが、二重結合を持つ
ベンゼン環に隣接しているため、SN1 も SN2 も可能なケースである。上で学んだ通り、
求核剤が強い場合は SN2, 弱い場合は SN1 が優先する。
O
CH3 CH
3
Br
H
O–
SN2
O
CH3 CH
3
Br
H
OH
SN1
生成物の立体化学に注目する。前回学んだ通り、SN2 は背面攻撃で立体反転が起きる。
O
CH3 CH
3
Br
H
O–
CH3
H
O
CH3
O
一方、SN1 の場合は中間体としてカルボカチオンが生成するが、これは平面構造であ
る。
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CH3 – Br–
H
CH3
Br
H
次に求核剤が攻撃するとき、平面の「手前から」と「向こう側」の攻撃が同じ確率で
起きる。従って、二種類の立体異性体が1:1で生成することになる。
O
CH3
CH3
OH
CH3
CH3
O
CH3
H
H O
H
– H+
O
CH3
H
H O
CH3
CH3
H
+
+
O
CH3
O
H
O
CH3
O
­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­
問:次の反応は進行するか。進行する場合は、反応機構を巻き矢印で示しなさい。
Br
(1)
(2)
CH3CH2–Br
(3)
+ NaCN
+ CH3COOH
+ CH3OH
O
Cl
­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­
問:次の化合物をハロゲン化アルキルの (1) SN1 反応、(2) SN2 反応によって合成する
方法を提案しなさい。
CH3
CH3 C O CH2CH2CH3
CH3
­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­
3. SN1・SN2 反応の溶媒効果
SN1・SN2 反応は顕著な溶媒効果 solvent effect を受ける。溶媒効果とは、溶媒によっ
て反応の速度などが変化することをいい、有機化学では非常に重要な意味を持つ。この
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機会に、溶媒効果の概要について学んでおこう。
有機化学で溶媒効果を考える際には、溶媒を3つの種類に分けて考えることが多い。
3つの種類とは、「プロトン性極性溶媒」「非プロトン性極性溶媒」「非極性溶媒」であ
る。
「プロトン性極性溶媒」protic polar solvent とは、
「水素結合できる H 原子」、すなわ
ち「強く正に分極した H 原子」を持つ極性溶媒のことである。たとえば、アルコール
やカルボン酸はそれぞれ、OH 基・COOH 基の H 原子が強く正に分極しているため、
プロトン性極性溶媒である。水 H2O もプロトン性極性溶媒に分類される。
CH3OH
CH3CH2OH
CH3COOH
「非プロトン性極性溶媒」aprotic polar solvent とは、水素結合できる H 原子を持た
ない極性溶媒である。見慣れない溶媒が多いが、この4つは重要なので、名前と構造式
を覚えておくこと。
O
CH3CN
CH3
N
CH3
H
O
S
O
N,N(DMF)
(DMSO)
「非極性溶媒」non-polar solvent とは、分極した結合を持たない溶媒である。普通は
炭化水素系の溶媒を指す。
CH3
CH3(CH2)4CH3
これらの3種類の溶媒は、反応に及ぼす影響が異なる。その理由は、主に電荷を持つ
化学種に対する挙動が異なるためである。プロトン性極性溶媒は、アニオン(陰イオ
ン)・カチオン(陽イオン)の両方に対して強く相互作用して、安定化できる。強く分
極した O–H 結合のうち、正に帯電した H が陰イオンと、負に帯電した O が陽イオン
と相互作用する。
–8–
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CH3
CH3
δ–
O
δ+ H
δ+
CH3 H δ–
O CH3
δ+ Oδ–
H
+
δ+ Oδ–
H
–
δ+
H δ–
O CH3
δ+ H
δ– O
CH3
CH3
δ–
O
δ+ H
δ+ H
δ– O
CH3
一方、非プロトン性極性溶媒は、カチオンは安定化できるが、アニオンの安定化は弱
い。負に分極した O, N 原子が分子の外側に突き出しているのに対して、正に分極した
原子は分子の内側にあって、アニオンに近づきにくいためである。
CH3
DMSO
CH3
S
O
CH3
–
H3C S
O
H3C
O
S CH3
H3C
O
S
CH3
H3C
S
O
+
H3C
S O
H3C
H3C
O
S
CH3
CH3
O S
CH3
CH3
また、非極性溶媒は、分極した結合を持たないため、アニオンもカチオンも安定化で
きない。
–
+
この特性が、反応性にどのような影響を与えるのだろうか。例えば、SN2 の求核剤が
アニオン(例えば F–)である場合を考えてみよう。求核剤に対する安定化の効果は、
メタノール>DMSO>ベンゼンの順になる。一方、遷移状態は、電荷が求核剤と脱離基
の二箇所に分散しているため、溶媒による安定化の違いが小さい。エネルギー図を書く
と、下のようになる。
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SN2
δ–
Br
エネルギー
C
δ–
F
遷移状態
HH
H
Br
H
C
非極性溶媒
+ F–
H
H
非プロトン性極性溶媒
プロトン性極性溶媒
H
Br– +
H
H
C
F
反応座標
図からわかる通り、反応物の安定化が最も少ない非極性溶媒のベンゼンが、最も活性
化エネルギーが小さく、次いで DMSO、最後にメタノールの順になる。従って、この
SN2 反応の速度は、ベンゼン>DMSO>メタノールの順となる。一般に、アニオン性の
求核剤による SN2 反応の速度は、
「非極性溶媒>非プロトン性極性溶媒>プロトン性極
性溶媒」の順になる。
一方、SN1 反応の溶媒効果についてはどうだろうか。SN1 反応の律速段階はカルボカ
チオンが生成する段階なので、この段階における溶媒の効果を考えればよい。
H3C
H3C C
H3C
Br
H3C
C CH3
H3C
rds
+ Br–
それぞれの溶媒について、どの化学種をどれだけ安定化するかを考えてみる。出発物
質は中性分子なので、どの溶媒でも安定化効果は大きくは変化しない。一方、右辺はア
ニオンとカチオンが生成している。これらは溶媒によって安定化の効果が大きく異なる。
プロトン性極性溶媒は、アニオンもカチオンも安定化できる。非プロトン性極性溶媒は、
カチオンは安定化できるがアニオンは安定化できない。非極性溶媒はどちらも安定化で
きない。従って、SN1 の中間体の安定化の度合いは、「プロトン性極性溶媒>非プロト
ン性極性溶媒>非極性溶媒」の順序となる。エネルギー図を書くと、下のようになる。
(今は律速段階だけを考えて議論していることに注意。)
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中間体
SN1
CH3
エネルギー
律速段階
H3C
C
+ Br–
CH3
非極性溶媒
非プロトン性極性溶媒
H3C
H3C
C
プロトン性極性溶媒
Br
H3C
反応座標
図からわかる通り、SN1 反応の速度は、「プロトン性極性溶媒>非プロトン性極性溶
媒>非極性溶媒」の順になる。この順序は、アニオン性求核剤による SN2 の場合と正
反対である。正反対になる理由は、SN2 反応の速度の違いが主に「出発物質」
(求核剤)
の安定性の差に因っていたのに対して、SN1 反応の速度の違いは「中間体」の安定性の
差(より正確には、最初の遷移状態の安定性の差)に因っていることである。
­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­
問:下の反応は、メタノール中 と DMF 中でどちらが速く進むか。
(1)
Br
(2)
+ CH3OH
Br
OCH3
CN
+ NaCN
+ HBr
+ NaBr
­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­
7. まとめ
・ 脂肪族求核置換反応のうち、反応点の sp3 炭素から置換基が脱離してカルボカチオ
ン中間体を生成し、その後求核剤が結合する反応を SN1 反応と呼ぶ。
・ SN1 反応はカルボカチオン中間体を経由する二段階の反応である。律速段階はカル
ボカチオンの生成である。
・ SN1 反応は、安定なカルボカチオンが生成するときのみ進行する。特別な安定化が
ない場合は、三級のハロゲン化アルキルのみが SN1 反応を行う。ただし、アリル型や
ローンペアに隣接するハロゲン化アルキルは、一級・二級であっても SN1 反応が可能
である。
– 11 –
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・ SN1 反応の速度は、求核剤の強さには無関係である。強い求核剤を用いると副反応
が起きやすいため、SN1 反応は弱い求核剤を用いる場合が多い。
・ SN1 反応では、平面構造のカルボカチオン中間体を経由するため、反応点の立体化
学は保持されない。
・ 有機化学における溶媒効果は、溶媒を三種類に分類して考える。三種類とは、
「プロ
トン性極性溶媒」「非プロトン性極性溶媒」「非極性溶媒」である。
・ アニオン性の求核剤による SN2 反応の速度は、非極性溶媒>非プロトン性極性溶媒
>プロトン性極性溶媒の順になる。これは、後の溶媒ほど出発物質を強く安定化する
一方、遷移状態の安定化は差が小さいためである。
・ SN1 反応の速度は、プロトン性極性溶媒>非プロトン性極性溶媒>非極性溶媒の順
になる。これは、前の物質ほど中間体のカルボカチオンと脱離基を強く安定化する一
方、出発物質の安定化は差が小さいためである。
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