資料6

資料6
平成 28 年(2016)11 月 7 日(月)有識者会議ヒアリングの口述レジュメ
象徴天皇「高齢譲位」の必要性と法整備
京都産業大学名誉教授・モラロジー研究所研究主幹 所
功
◎私の認識と提言:今上陛下が平成 22 年 7 月(76)頃から「象徴世襲」天皇制度の役割を末永く継承するため、
高齢化のみを理由に決心された「高齢譲位」の問題提起を真摯に受けとめる。
その御意向に沿った現実的な法整備のため、単行の特別法を迅速に制定して(もし時間的に可能ならば皇室
典範の第 4 条などを改正して)
、その実現に必要な関連事項の検討も早急に進めて頂きたい。
① 日本国憲法における天皇の役割をどう考えるか。
1. 日本国憲法は、形式的にみると、帝国憲法を改正し、昭和天皇が明治節(11 月 3 日)に公布。
その枠組み:第一章「天皇」(第 1 条~第 8 条)…第三章の「国民」と区別
2. 「天皇は国家の元首」「皇位は世襲」がGHQマッカーサーの憲法起草原則。
“The Emperor is at the head of the State. His succession is dynastic.…”
3. 帝国憲法下でも“The Emperor is thus the representative of the nation and the symbol of its
unity.”新渡戸稲造博士の英文著書『日本―その問題と発展の諸局面―』
(1931 年刊)
4. 天皇の地位・使命は「日本国の象徴、日本国民統合の象徴」
:象徴天皇(物ではなく意思のある人)=
格別な身分(皇位)を世襲する自覚があり、国家・国民に尽くす責任感・理想像をもつ人格者
5. 天皇の役割は「国民の総意」に応え、相互の「信頼と敬愛」を深める「務め」に、自ら可能な限り励む。
② 天皇の国事行為や公的行為などの御公務はどうあるべきと考えるか。
※天皇の行為の分類:
(1)国事行為 (2)公的行為 (3)祭祀行為 (4)私的行為
(1)憲法に定められる国事行為……第 6 条の 2 項目、第 7 条の 10 項目 :天皇陛下の単独行為。
(2)象徴にふさわしい公的行為……君主的・伝統的・社会的な行為
:皇后陛下も多く同伴。
(3)皇室に伝えられる祭祀行為……恒例・臨時の大祭・小祭・行事
:天皇が中心(皇族は拝礼)。
(4)個人的に励まれる私的行為……御研究・修養・趣味・旅行など
:天皇個人か、家族と共に。
※ 次代以降の天皇は、上記(1)
(3)を基本的に受け継ぎ、
(2)は新基準を設け可能な限り実行する。
③④⑤ 天皇が御高齢となられた場合、御負担を軽くする方法として何が考えられるか。
イ,今上陛下の御意思は、上記(1)
(2)
(3)を可能な限り自ら公平に全力で実行されること。
ロ,法的には、上記(1)
(2)
(3)を摂政が全面的に、また皇太子殿下などが臨時に代行できる。
※ 摂政就任の有資格者:皇太子…親王・王についで皇后・皇太后…内親王・女王も可
ハ,陛下は全面委任も漸次縮小も無理と仰るが、実行方法の工夫次第で相当に軽減可能かと思われる。
ニ,特に上記(2)は基準を見直す。恒例の行幸など以外は皇太子殿下などの成年皇族で分担を検討する。
※ただ、ハ・ニについても、何より陛下の御意向を尊重する必要がある。
⑥ 天皇が御高齢となられた場合、天皇が退位することについてどう考えるか。
1.日本史上の譲位・退位の実例…第 35 代~第 119 代+北朝 5 代(合計 90 代)で 64 例(70%)
2.明治 22 年(1889)制定の旧皇室典範……第 10 条で終身在位に限定(退位の弊害を強調)
3.昭和 22 年(1947)公布の新皇室典範……第 4 条で終身在位を踏襲(国民の信念と解釈)
4.現在(21C 前半)の超高齢化社会……平均寿命 80 歳以上(2・3 の時点では予想不可能)
20 年後…今上陛下(83→103) 皇太子殿下(56→76) 秋篠宮殿下(51→71)
終身在位(仮定) 40 年後…皇太子=新天皇(76→96) 秋篠宮=皇太弟(71→91) 悠仁親王(50)
60 年後…その次の天皇(秋篠宮ならば 91→111、悠仁親王ならば 50→70)
5.天皇は世襲の身分と象徴の役割を代々継承…上記②(1)(2)(3)を自ら担当可能な皇嗣が必要
6.「生前退位」
(一般的、弊害の心配あり)→「高齢譲位」(個別的、余分な心配なし)
3年後(平成 31 年)正月…上皇(84)、新天皇(58)、皇太弟(53)
、皇甥(12)
高齢譲位(仮定) 33 年後(2049 年)正月……次の上皇(88)、次の天皇(83)、次の皇太子(42)
53 年後(2069 年)正月……次の上皇(103)、次の天皇(62)
、次の皇太子(?)
⑦ 天皇が退位できるようにする場合、今後のどの天皇にも適用できる制度とすべきか。
(1)昭和 21 年(1946)12 月、帝国議会の「皇室典範案」審議中に出された貴族院議員佐々木惣一博士(京都
大学名誉教授)の提案「天皇が…国家的見地から、自分はこの地位を去ることが良いとお考えになる…な
らば、一定の機関(国会)も、それが国家の為になるかどうかと云ふことを判断し、…(双方)合致した
…ならば、退位せらるると云ふ…構想は…公正なる立場で出来る」
「それによって、国家の行くべき道、ま
た国民が自己を律すべき道と云ふやうなものが…教へられることになる」
(同年 12 月 16 日議事録)
(2)昭和 37 年(1962)
、内閣の憲法調査会に提出された宮内庁の高尾亮一氏(昭和 21 年、臨時法制調査会の
幹事)の報告書『皇室典範の制定過程』
(同会資料)
「(新)皇室典範は新憲法においては一箇の法律」であ
るから、
「もし予測すべからざる事由(理由)によって、退位が必要とされる事態を生じたならば、むしろ
個々の場合に応ずる単行特別法を制定して、これに対処すればよい。
一般法のなかに……自由意思による退位条項を規定するならば…濫用も憂慮される。
」
(3)
「皇室典範」第 4 条の本文を修正する案「天皇が崩じたとき、又は皇室会議の議に依り退いたとき、皇嗣が
直ちに即位する」
(第 3 条で皇嗣の変更も「皇室会議の議により」とされている)
同条の付則を追加する案「天皇が、皇室会議の議に依り退いたとき、皇嗣が直ちに即位する。
皇嗣は、皇位継承の順序が一位の皇族とし、皇太子と称する」(旧典範の増補に相当)
※皇室会議の議員:皇族2、衆参両院正副議長、内閣首相と宮内庁長官、最高裁長官と裁判官(合計 10)
〃
機能「皇室会議は、この法律及び他の法律(特別法なども)に基く権限のみを行う。」
⑧ 天皇が退位できるようにする場合、その御身位や御活動をどうあるべきと考えるか。
※譲 位 式 :譲位の「お言葉」→「剣璽等」の直接授受→新天皇から尊号を上る
イ,称号/敬称:尊号「太上天皇」か略称「上皇」
(皇后→「皇太后」
)/「陛下」
(皇太后も「陛下」
)
ロ,身分/序列:内廷皇族(皇位継承も摂政就任も不可)/天皇・皇后の次に上皇・皇太后か
ハ,御 所
:内廷皇族に相応しい上皇御所(近世までは仙洞御所)
ニ,喪 礼
:終身天皇の「大喪の礼」に準じ簡素化(陵も少し簡素化)
ホ,活 動
:上記②(4)のような私的行為が中心、
(2)の歌会始など臨席、
(3)は御所で遥拝
生前退位(譲位)の天皇一覧
№
1
2
3
(譲位の天皇)
35 皇極女帝
41 持統女帝
43 元明女帝
4 44 元正女帝
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
譲位年月日
大化元(645)6.14
持統11(697)8.1
和銅8(715)9.2
(受禅の天皇)
36 孝徳天皇
42 文武天皇
44 元正女帝
養老8(724)2.4
45 聖武天皇
46 孝謙女帝
47 淳仁天皇
48 称徳女帝
50 桓武天皇
52 嵯峨天皇
53 淳和天皇
54 仁明天皇
57 陽成天皇
58 光孝天皇
60 醍醐天皇
61 朱雀天皇
62 村上天皇
64 円融天皇
65 花山天皇
66 一条天皇
67 三条天皇
68 後一条天皇
69 後朱雀天皇
70 後冷泉天皇
72 白河天皇
73 堀河天皇
75 崇徳天皇
76 近衛天皇
78 二条天皇
79 六条天皇
80 高倉天皇
81 安徳天皇※3
83 土御門天皇
45 聖武天皇
天平感宝元(749)7.2
46 孝謙女帝
天平宝字2(758)8.1
47 淳仁天皇※1 天平宝字8(764)10.9
49 光仁天皇 天応元(781)4.3
51 平城天皇
大同4(809)4.1
52 嵯峨天皇
弘仁14(823)4.16
53 淳和天皇
天長10(833)2.28
56 清和天皇
貞観18(876)11.29
57 陽成天皇
元慶8(884)2.4
59 宇多天皇
寛平9(897)7.3
60 醍醐天皇
延長8(930)9.22
61 朱雀天皇
天慶9(946)4.20
63 冷泉天皇
安和2(969)8.13
64 円融天皇
永観2(984)8.27
65 花山天皇
寛和2(986)6.23
66 一条天皇
寛弘8(1011)6.13
67 三条天皇
長和5(1016)正.29
68 後一条天皇※2長元9(1036)4.17
69 後朱雀天皇 寛徳2(1045)正.16
71 後三条天皇 延久4(1072)12.8
72 白河天皇
応徳3(1086)11.26
74 鳥羽天皇
保安4(1123)正.28
75 崇徳天皇
永治元(1141)12.7
77 後白河天皇 保元元(1158)8.11
78 二条天皇
永万元(1165)6.25
79 六条天皇
仁安3(1168)2.19
80 高倉天皇
治承4(1180)2.21
82 後鳥羽天皇 建久9(1198)正.11
№
33
34
35
(譲位の天皇)
83 土御門天皇
84 順徳天皇
85 仲恭天皇※4
譲位年月日
承元4(1210)11.25
承久3(1221)4.20
承久3(1221)7.9
(受禅の天皇)
84 順徳天皇
85 仲恭天皇
86 後堀河天皇
36 86 後堀河天皇
貞永元(1232)10.4
87 四条天皇
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
寛元4(1246)正.29
正元元(1259)11.26
文永11(1274)正.26
弘安10(1287)10.21
永仁6(1298)7.22
正安3(1301)正.21
文保2(1218)2.26
元弘3(1333)5.25
貞和4(1348)10.27
延元4(1339)8.15
観応2(1351)11.7
応安4(1371)3.23
弘和3(1383)11頃
永徳2(1382)4.11
元中9(1392)閏10.5
応永19(1412)8.29
寛正5(1464)7.19
天正14(1586)11.7
慶長16(1611)3.27
寛永6(1629)11.8
寛永20(1643)10.3
寛文3(1663)正.26
貞享4(1467)3.21
宝永6(1709)6.21
享保20(1735)3.21
延享4(1747)5.2
明和7(1770)11.24
文化14(1817)3.22
89 後深草天皇
90 亀山天皇
91 後宇多天皇
92 伏見天皇
93 後伏見天皇
94 後二条天皇
96 後醍醐天皇
北2 光明天皇
北3 崇光天皇
97 後村上天皇
北4 後光厳天皇
北5 後円融天皇
99 後亀山天皇
100 後小松天皇
100 後小松天皇※7
101 称光天皇
103 後土御門天皇
107 後陽成天皇
108 後水尾天皇
109 明正女帝
110 後光明天皇
112 霊元天皇
113 東山天皇
114 中御門天皇
115 桜町天皇
116 桃園天皇
118 後桃園天皇
120 仁孝天皇
88 後嵯峨天皇
89 後深草天皇
90 亀山天皇
91 後宇多天皇
92 伏見天皇
93 後伏見天皇
95 花園天皇
北1 光厳天皇※5
北2 光明天皇
96 後醍醐天皇
北3 崇光天皇※6
北4 後光厳天皇
98 長慶天皇
北5 後円融天皇
99 後亀山天皇
100 後小松天皇
102 後花園天皇
106 正親町天皇
107 後陽成天皇
108 後水尾天皇
109 明正女帝
111 後西天皇
112 霊元天皇
113 東山天皇 114 中御門天皇
115 桜町天皇
117 後桜町女帝
119 光格天皇
歴代数は「皇統譜」をもとにした宮内庁ホームページ「天皇系図」により、北朝5代も北1~北5として示した。
『帝室制度史』では、№22(※2)と№51(※7)を除き、北朝5代を入れていない。
年号(元号)は改元が年の途中でも年初に遡って適用されるものとした。
【補注】
※1 №7 淳仁天皇 廃位=淡路廃帝/※4 №35 仲恭天皇 九条廃帝
※2 №22 後一条天皇 29歳で崩御の当日、遺詔により喪を秘して皇太弟敦良親王(28)に譲位の儀を行う。
※3 №31 安徳天皇 寿永2年(1183)7月25日西遷にて譲位の例に入れない。ただ次の後鳥羽天皇 8月20日践祚
※5 №44 光厳天皇 元弘3(1333)5.25廃立、次の光明天皇 3年後の建武3(1336)8.15践祚
※6 №47 崇光天皇 正平一統(北朝が南朝に帰一)で廃位
※7 №51 南北朝合一(南朝の後亀山天皇から北朝で在位中の後小松天皇へ神器を譲渡)
(c) モラロジー研究所「皇室関係資料文庫」(TEL 04-7173-3231 FAX04-7173-3263)
「高齢譲位」の未来予測(仮定在位:a 当代 満30年/b 次代 満20年か/c 次々代 満20年か)
125代 a 2年後(平成30年)末、85
今上陛下 b 22年後(2028年)末、105 →
(新上皇) c 42年後(2048年)末、125
126代 a 58
皇太子殿下
b 78 ―愛子内親王
(新天皇) c 98 (男系女子)
a 17
b 37 ―
c 57
(127代) a 53
秋篠宮殿下 b 73 ―悠仁親王
(新皇弟) c 93 (男系男子)
a 12
b 32 ―
c 52
※「皇室典範」第4条の改正案「天皇が崩じたとき、又は皇室会議の議により退いたときは、皇嗣が直ちに即位する。」
〃 第8条の改正案「皇嗣は、皇位継承の順序が一位の皇族とし、皇太子と称する。」