微分積分学および演習Ⅱ 参考資料

微分積分学および演習Ⅱ 参考資料 3
2016 年度後期
工学部・未来科学部 1 年
担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教)
■偏微分の交換可能性 定義 (n 階連続偏微分可能関数)
2 変数関数 f (x, y) が n 階偏微分可能 (つまり、定義域内の
各点 (x, y) に於いて 2n 個の偏微分係数がすべて収束するということ) であり、その 2n 個の
偏導関数がすべて 連続 であるとき、f (x, y) を n 階連続偏微分可能関数 n-th continuously
partially differentiable function (または C n -級関数 function of C n -class) と呼ぶ。
注: f (x, y) が n 階連続偏微分可能であるならば、f (x, y) およびそのすべての k 階偏導関数
(1 ≤ k ≤ n) はすべて 連続 となる。
【略証】 参考資料 1 で紹介した定理 『f (x, y) が 連続 偏微分可能ならば全微分可能』 および命題
『f (x, y) が全微分可能ならば連続』 を用いて
f (x, y) が n 階連続偏微分可能
定理
=⇒ f (x, y) の (n − 1) 階偏導関数がすべて全微分可能
命題
=⇒ f (x, y) の (n − 1) 階偏導関数はすべて連続 (f (x, y) は (n − 1) 階 連続偏微分可能)
となる。 以下これを繰り返せば良い (n 階偏導関数は “(n − 1) 階偏導関数の偏導関数” であること
□
に注意しよう)。
定理 (偏微分の交換可能性)
2 階 連続 偏微分可能な 2 変数関数 f (x, y) に対して fxy (x, y) = fyx (x, y) が成り立つ。
注: f (x, y) が n 階連続偏微分可能であるならば、x, y による n 階以下の偏微分はすべて順序交換
可能となる。即ち、「x で k 階、y で (n − k) 階偏微分した偏導関数」(0 ≤ k ≤ n) は、x, y
∂nf
等と表す)。した
∂xk ∂y n−k がって、n 階連続偏微分可能関数に対しては実質的に異なる n 階偏導関数は (n + 1) 個 し
か存在しない。
(この事実は上記の定理を繰り返し用いることで示される)
Φ(∆x, ∆y) = f (x + ∆x, y + ∆y) − f (x + ∆x, y) − f (x, y + ∆y) + f (x, y) に対して、
【証明】
Φ(∆x, ∆y)
極限値
lim
を 平均値の定理 theorem of mean values を用いて 2 通り の
∆x∆y
(∆x,∆y)→(0,0)
で偏微分する順番を入れ替えてもすべて同じ関数となる (これを
方法で計算する。
Step 1. 先ず φ1 (x) = f (x, y + ∆y) − f (x, y) を x に関する 1 変数関数である見做すと、Φ(∆x, ∆y)
は Φ(∆x, ∆y) = φ1 (x + ∆x) − φ1 (x) と表せるから、(1 変数関数に対する) 平均値の定理より
Φ(∆x, ∆y) = ∆x φ′1 (x + θ1 ∆x)
(= ∆x {fx (x + θ1 ∆x, y + ∆y) − fx (x + θ1 ∆x, y)})
を満たす実数 0 < θ1 < 1 が存在する。次に ψ1 (y) = fx (x + θ1 ∆x, y) を y の 1 変数関数と見
做すと、上式より Φ(∆x, ∆y) = ∆x {ψ1 (y + ∆y) − ψ1 (y)} と表せるので、平均値の定理より
Φ(∆x, ∆y) = ∆x ∆y ψ1′ (y + θ1′ ∆y)
(= ∆x ∆y fxy (x + θ1 ∆x, y + θ1′ ∆y))
· · · (⋆)1
を満たす実数 0 < θ1′ < 1 が存在する。
Step 2. 先ず φ2 (y) = f (x + ∆x, y)−f (x, y) を y に関する 1 変数関数であると見做すと、Φ(∆x, ∆y)
は Φ(∆x, ∆y) = φ2 (y + ∆y) − φ2 (y) と表せるから、(1 変数関数に対する) 平均値の定理より
Φ(∆x, ∆y) = ∆y φ′2 (y + θ2 ∆y)
(= ∆y {fy (x + ∆x, y + θ2 ∆y) − fy (x, y + θ2 ∆y)})
を満たす実数 0 < θ2 < 1 が存在する。次に ψ2 (x) = fy (x, y + θ2 ∆y) を x の 1 変数関数と見
做すと、上式より Φ(∆x, ∆y) = ∆y {ψ2 (x + ∆x) − ψ2 (x)} と表せるので、平均値の定理より
Φ(∆x, ∆y) = ∆y ∆x ψ2′ (x + θ2′ ∆x)
(= ∆y ∆x fyx (x + θ2′ ∆x, y + θ2 ∆y))
· · · (⋆)2
を満たす実数 0 < θ2′ < 1 が存在する。
以上 Step 1., Step 2. より、(⋆)1 と (⋆)2 を見比べることで等式
fxy (x + θ1 ∆x, y + θ1′ ∆y) =
Φ(∆x, ∆y)
= fyx (x + θ2′ ∆x, y + θ2 ∆y)
∆x∆y
· · · (⋆)3
を得るが、 fxy , fyx の連続性 より (∆x, ∆y) → (0, 0) の極限を考えると式 (⋆)3 の両辺はそれぞれ
fxy (x + θ1 ∆x, y +
θ1′ ∆y)
−→ fxy (x, y),
へと収束するので、結局 fxy (x, y) =
証明のポイント
fyx (x + θ2′ ∆x, y + θ2 ∆y) −→ fyx (x, y)
Φ(∆x, ∆y)
= fyx (x, y) が成り立つ。
∆x∆y
(∆x,∆y)→(0,0)
lim
□
定義に立ち戻って 2 階偏導関数 fxy (x, y), fyx (x, y) を丁寧に計算してみると
fx (x, y) = lim
∆x→0
f (x + ∆x, y) − f (x, y)
,
∆x
fy (x, y) = lim
∆y→0
f (x, y + ∆y) − f (x, y)
∆y
より
fx (x, y + ∆y) − fx (x, y)
fxy (x, y) = lim
∆y→0
∆y
{(
) (
)}
f (x + ∆x, y + ∆y) − f (x, y + ∆y)
f (x + ∆x, y) − f (x, y)
1
= lim
lim
− lim
∆y→0 ∆y
∆x→0
∆x→0
∆x
∆x
{
}
1
= lim
lim
(f (x + ∆x, y + ∆y) − f (x, y + ∆y) − f (x + ∆x, y) + f (x, y))
· · · (∗)1
∆y→0 ∆x→0 ∆y∆x
fy (x + ∆x, y) − fy (x, y)
∆x→0
∆x
{(
) (
)}
f (x + ∆x, y + ∆y) − f (x + ∆x, y)
f (x, y + ∆y) − f (x, y)
1
= lim
lim
− lim
∆x→0 ∆x
∆y→0
∆y→0
∆y
∆y
{
}
1
= lim
lim
(f (x + ∆x, y + ∆y) − f (x + ∆x, y) − f (x, y + ∆y) + f (x, y))
· · · (∗)2
∆x→0 ∆y→0 ∆x∆y
fyx (x, y) = lim
となる。したがって結局 (∗)1 , (∗)2 での 極限を取る順番 だけが問題となっていることが分かる。こ
の “極限を取る順序の交換” の部分をきちんと論じるために使われているのが 平均値の定理、という
からくり*1 。なお、式 (∗)1 , (∗)2 のいずれも中括弧の中身が
*1
Φ(∆x, ∆y)
となっていることに注意。
∆x∆y
参考資料 1 で紹介した『連続偏微分可能関数は全微分可能』の証明と非常に良く似ています。興味のある人は、良く比
較検討してみて下さい。