Global Market Outlook 警戒モードを一部解除 日本株見通し 2016年10月27日(木) 第一生命経済研究所 経済調査部 藤代 宏一 TEL 03-5221-4523 日経平均の見通しを上方修正する。先行き 12 ヶ月の新たな目標を従来から 1500 円引き上げ 16500 円 とする。主な要因は①日銀のETF購入が順調に効果を発揮ていること、②実質輸出が底堅さを保ち、 海外子会社からの投資収益も安定的に増加するなど、企業業績が為替の影響を受けにくくなっているこ と、③2%強で推移する配当利回りの相対的な魅力が増していること――である。業績面に目を向ける と、高水準の株主還元を背景にアナリストの予想ROEが、PBR1倍割れの分水嶺となる8%程度で 下げ止まるなど、好転の兆候が認められている。14 倍程度の予想PERも妥当な水準といえる(TOPIX の予想 EPS を基準に直近のNT倍率 12.5 を乗じた)。諸点に鑑みて日経平均株価の見通しを引き上げる が、リスク要因として、世界的に長期金利が上昇した際 “Search for Yields”の流れが逆回転するこ とが考えられる。上値追いには慎重な姿勢を貫きたい。 (%) 11 TOPIX 予想ROE TOPIX予想EPS 120 110 10 100 9 90 8 80 70 7 60 6 50 40 5 30 4 04 05 06 07 08 09 10 (備考)Thomson Reutersにより作成 11 12 13 14 15 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 16 12 13 14 15 16 ROE・PBR 2.5 (PBR) 2 直近1ヶ月程度 1.5 1 0.5 (予想ROE、%) 0 2 4 6 8 10 (備考)Thomson Reutersにより作成 12 先ず1点目として日銀のETF購入が明らかに効いている。年間6兆円(厳密には 5.7 兆円)のET F購入を決定した 7 月 29 日以降、日銀は月あたり 5000 億円を目処に、1回(日)当たり 700 億円強の 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 1 買い入れを実施している。これは東証1部の売買代金が2兆円を下回っている現状に鑑みると、単純計 算で東証1部の売買代金の4%に相当する額を日銀が一人で取引していることになるので、鯨そのもの である。海外投資家の売買動向と比較しても、確実に流入してくる6兆円のインパクトが如何に大きい かが直感的にわかる。 日銀 ETF購入実績 (兆円) 万 (億円) 800 700 600 海外投資家 日本株売買動向 2013 2014 15 10 500 5 400 300 0 200 -5 100 -10 0 11 12 13 14 15 2012 16 2015 2016 (備考)Thomson Reutersにより作成 2点目として、日本企業の円高耐久力が注目に値する。円高によって外貨建て資産や金額ベースの輸 出は打撃を受けている一方、実質輸出が底堅く推移し、今やアベノミクス後の最高水準にあることは重 要な事実だろう。筆者が懸念していたほど円高の影響が表面化しなかったのだが、これはアナリストの 業績予想の下方修正が一巡したことの少なくとも一部を説明していると思われる。日本企業はリーマン ショック後の超円高に対応するため、製造業を中心に海外現地生産比率を高めることで、為替変動の影 響を排除しようと努めてきた。ここへきて、そうしたビジネスモデルの転換が真価を発揮した印象だ。 これは 2013-15 年の円安局面で輸出が増えなかった(寧ろ減った)ことの裏返しでもある。 110 実質輸出 105 100 95 90 85 10 11 12 13 (備考)日本銀行資料により作成 14 15 太線:3ヶ月平均 16 そして3点目。2%台前半の配当利回りが相対的な魅力度を増している。2%台前半の配当利回りは ヒストリカルでみた場合、決して高い水準ではない。しかしながら、世界的に国債利回りが低下してい る下では、その相対的な魅力が高まっているだろう。日本や欧州コア国の 10 年金利がマイナス或いは 0%近傍に沈み、米国ですら1%台後半と低水準にあり、今や国債で利回りを確保することは極めて困 難になっている。クレジットリスクをとってイタリア・スペインに投資しても1%程度の利回りしか得 られず、3年前まで6%を超えていたポルトガルですら3%台前半まで低下している。そうした中、邦 銀大手の予想配当利回りが3%後半~4%超という状況に鑑みると、下値ではインカムゲイン狙いの買 いが入ると考えるのが自然だろう。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2 TOPIX予想配当利回り (%) 3.2 2.8 2.4 2 1.6 1.2 0.8 05 06 07 08 09 10 11 (備考)Thomson Reutersにより作成 12 13 14 15 16 最後にリスク要因に触れておきたい。2013 年の Tapring 騒動以降、先進国の長期金利は低下傾向を辿っ てきた。16 年入り後は度重なるリスクオフとFEDの利上げ後ろ倒し、日銀のマイナス金利が世界的低 金利に拍車をかけた。つまることろ、投資家は約2年にわたって大幅な長期金利上昇を経験していない。 そうした中で懸念されるのは“Serach for Yields”の逆回転。15 年 12 月のFEDの初回利上げ時は、 ECBと日銀の追加緩和(観測)が過剰流動性期待を支えたこともあって、先進国の長期金利は低位安 定を続け、ある種の金融相場が維持された。しかしながら、今や日銀とECBに追加緩和観測は生じて おらず、FEDがこの 12 月に追加利上げ第2弾を実施した場合、G3中銀の緩和姿勢は明らかに後退す ることになる。長期金利が思わぬ形で上昇する可能性があり、そうした下でリスク性資産は脆弱だろう。 (%) 5 米欧10年金利 (%) 4 日10年金利 1.5 米10年金利 3 2 0.5 1 ユーロ圏10年金利 0 10 11 12 13 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 15 -0.5 16 10 11 12 13 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 15 16 日経平均株価 24000 22000 20000 18000 16000 14000 12000 筆者予想 10000 8000 10 11 12 13 (備考)Thomson Reutersにより作成 14 15 16 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内 容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3
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