線形代数学Ⅱ 参考資料 3 2016 年度後期 工学部・未来科学部 1 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ■n 次行列式の計算法Ⅱ: ラプラスの余因子展開 補題 ([新井他] p. 107 補題 4.57 および p. 110 系 4.63 も参照) n 次正方行列 A = (aij )1≤i,j≤n が a21 = a31 = . . . = an1 = 0 を満たすとする。このとき等 式 det A = a11 det(aij )2≤i,j≤n が成り立つ; a11 0 det . .. 0 ∗ ··· A′ ∗ = a11 det A′ (A′ は (n − 1) 次 正方行列) 【証明】 a11 ̸= 0 のとき 列基本変形を用いて下三角行列に変形してゆくと a11 ∗ · · · ∗ a11 0 · · · 0 0 0 det . = det .. ′ ′ .. A . A 0 0 a11 0 · · · · · · 0 • 0 ··· . .. = det .. . ⋆ ∗ . .. . . .. .. . . . 0 ∗ ··· ∗ = a11 · • · ⋆ · · · · · ■ (1 行目の掃き出し) 0 0 ■ 0 .. . (A′ の下三角化) と計算出来る。ここで積 • · ⋆ · · · · · ■ は、(n − 1) 次正方行列 A′ を下三角化したものの対角 成分の積 であるから、行列式の計算法Ⅰ (参考資料 2 のプリントを参照) により det A′ と等 しい。以上より補題の等式が証明された。 a11 = 0 のとき 仮定から、n 次正方行列 A の第 1 列の成分はすべて 0 となるので det A = 0 であ る。一方で a11 det A′ = 0 · det A′ = 0 であるから、この場合も等式 det A = a11 det A′ (= 0) が成り立っていることが確認出来る。 □ 系 (第 1 列に関する余因子展開) n 次正方行列 A の 第 i 列と第 j 列を取り除いて出来る (n − 1) 次正方行列 を Aij と表すことにするとき、次の等式 (⋆) が成り立つ; (⋆) : det A = a11 det A11 − a22 det A21 + . . . + (−1)i−1 ai1 det Ai1 + . . . + (−1)n−1 an1 det An1 注: − 上記の補題は、後程「発展篇」で扱う 多重線形歪対称関数の展開公式 を用いて鮮やかに (?) 証明することも出来る。詳細は演習問題のプリント (レポート問題) で扱うので、興味のある 人は是非意欲的にチャレンジしてみて下さい。 − 系の等式 (⋆) は、(n 個の) (n − 1) 次行列式 det A11 , det A21 , . . . , det An1 の計算の仕方が分 かっているのであれば、n 次正方行列 A が計算出来る ことを示唆している。このことを利用 して、逆に等式 (⋆) を定義式として 小さいサイズの行列から順に(帰納的に) 行列式 det A を定義してしまう という流儀もある*1 。行列式の定義は、どの流儀を採用してもそれなりに ややこしくて一長一短であるので、自分にとって分かり易いものを使って勉強して下さい。 ˇ a11 0 .. 0 . . n .. ∑ . . 【系の証明】 ai1 . に注意して、多重線形性 1◦ . を用いて第 1 列目を分解 = ai1 1 i . i=1 .. .. . 0 an1 すると ˇ 0 . .. n ∑ 0 1◦ det A = ai1 det 1 i i=1 .. . a12 .. . ··· ··· .. .. . . ··· .. . ai−1,2 ai2 .. . ··· ··· ··· ··· .. .. . . ··· ··· .. . ··· ··· 0 an2 ··· ←−−−−−−−−− (i − 1) 回 a1n .. − . ←−−−− · · · ← − ai−1,n −← ← ain ← − .. . ann となる。そこで第 i 行目と第 (i − 1) 行目、第 (i − 1) 行目と第 (i − 2) 行目、. . . 、第 2 行目と第 1 行 目、というように第 i 行目を 1 つ上の行と順々に入れ替えることで第 1 行目まで持ってゆこう。この とき行の交換を (i − 1) 回行っているので (植木算)、行に関する歪対称性 2◦ . によって*2 n ◦ ∑ 2 i−1 det A = ai1 · (−1) det i=1 1 0 .. . .. . .. . 0 ai2 ··· ··· Ai1 ··· ain n 補題 ∑ = (−1)i−1 ai1 det Ai1 i=1 = a11 det A11 − a22 det A21 + . . . + (−1)i−1 ai1 det Ai1 + . . . + (−1)n−1 an1 det An1 となり、題意が示された。 *1 □ 例えば http://www2.math.kyushu-u.ac.jp/~s-yokoyama/files/20150617.pdf (九州大学の横山俊一さんの講 義補助プリント) などを参照して下さい。 *2 ここでは 行ベクトル に対しても基本 3 性質 (特に歪対称性 2◦ .) が成り立つことを (まだきちんとは証明していない が) 用いている。参考資料 2 の最後の注釈も参照のこと。このことについては後日取り扱います。 定義 (余因子, [新井他] p.p. 105–106 定義 4.53) 自然数 i, j を 1 ≤ i, j ≤ n を満たすように取るとき、n 次正方行列 A の 第 (i, j) 余因子 (i, j)-cofactor ãij を ãij = (−1)i+j det Aij と定める。 定理 (ラプラスの余因子展開定理) ([新井他] p.p. 108–109, 定理 4.59, 定理 4.61) n 次正方行列 A に対して以下が成立する; Ⅰ. (第 j 列に関する余因子展開) 任意の 1 ≤ j ≤ n に対して det A = n ∑ ピエール=シモン・ラプラス*3 aij ãij = a1j ã1j + a2j ã2j + . . . + aij ãij + . . . + anj ãnj , i=1 Ⅱ. (第 i 行に関する余因子展開) 任意の 1 ≤ i ≤ n に対して det A = n ∑ aij ãij = ai1 ãi1 + ai2 ãi2 + . . . + aij ãij + . . . + ain ãin . j=1 【証明】 列に関する余因子展開 Ⅰ. のみ示す (行に関する余因子展開も同様に証明出来る)。第 j 列目 と第 (j − 1) 列目、第 (j − 1) 列目と第 (j − 2) 列目、. . . 、第 2 列目と第 1 列目、というように第 j 行目 を 1 つ左の列と順々に入れ替えることで第 1 行目まで持っていって得られる行列を B = (bij )1≤i,j≤n とする。この操作で列の入れ替えを (j − 1) 回行っているので、歪対称性 2◦ により (j − 1) 回 y a11 . . . . .. det A = det .. . . . . an1 y .. . y y y ··· .. . ··· .. . .. . .. . .. . .. . .. . .. y ··· .. . . a1j .. . .. . .. . .. . ··· ··· anj ··· .. . .. . .. . a1n .. . .. . 2◦ = (−1)j−1 det B .. . .. . ann が得られる。一方で B に対して補題の系を用いると det B = n ∑ (−1)i−1 bi1 det Bi1 i=1 = b11 det B11 − b22 det B21 + . . . + (−1)i−1 bi1 det Bi1 + . . . + (−1)n−1 bn1 det Bn1 *3 Pierre-Simon Laplace (1749–1827) となるが、B の定義からすべての 1 ≤ i ≤ n に対して bi1 = aij かつ Bi1 = Aij が成り立つので あった (各自確認しなさい!!)。これらの結果を総合すると、結局 j−1 det A = (−1) n n ∑ ∑ i+j−2 det B = (−1) bi1 Bi1 = (−1)i+j−2 aij det Aij i=1 · · · (⋄) i=1 を得る。最後に (−1)i+j−2 = (−1)i+j−2 · 1 = (−1)i+j−2 · (−1)2 = (−1)i+j−2+2 = (−1)i+j である ことに注意すると、式 (⋄) は det A = n ∑ aij · (−1)i+j det Aij 余因子の定義 = n ∑ i=1 aij ãij i=1 = a1j ã1j + a2j ã2j + . . . + aij ãij + . . . + anj ãnj □ と書き直せる。 ここまでで覚えておくべき行列式の性質 − 行列式の基本 3 性質 1◦ , 2◦ , 3◦ . − 行列式のラプラス展開 New!! − 列基本変形に対する行列式の振る舞い (C1), (C2), (C3) − 対角行列、三角行列の行列式は対角成分の積 ※ 上にあるものほど重要度大 babababababababababababababababababab ラプラスの余因子展開を「使いこなす」ために 1. 最初はとにかく ひたすら特訓あるのみ 慣れないうちは面倒に思えるかもしれませんが、比較的親しみやすい計算ルールだと思います ので、早々に身につけてしまいましょう。 2. なるべく 0 が沢山含まれている行・列 に着目して展開するべし 余因子もまた (行列のサイズが小さくなっているとは言え) 行列式ですから、計算はそこそこ 大変です。というわけで、なるべく余因子を計算せずに済むように、予め 0 が沢山含まれて いる行・列で展開するのが生活の智慧、というものです。 3. あまり 0 が見当たらない場合は、基本変形によって 0 を生み出す のもひとつの手 何も最初の行列の状態でラプラス展開をしなければ即死、というわけでもありませんし、その ままでは展開しずらそうだったら 基本変形を用いて計算し易い行列にしてしまう のも非常に 賢い方法です。あまりひとつの方法に凝り固まらず、これまでに学んだ方法を駆使して賢く計 算しましょう。
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